説明

顕微鏡対物レンズ

【課題】顕微鏡対物レンズを提供する。
【解決手段】レンズ系を含む対物レンズ筐体(12)であって、レンズ系が、レンズ系の光軸(O)に沿って移動可能であり、カバーガラスの厚さを補償するレンズユニット(60)を含む、レンズ筐体(12)を有し、レンズユニット(60)を調節するための調節装置をさらに有し、前記調節装置が、駆動ユニット(14、102、202)と、駆動ユニット(14、20、202)によって駆動可能であり、レンズユニット(60)に連結された動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)を含む顕微鏡対物レンズ(10、100、200)が開示される。本発明によれば、駆動ユニット(14、102、202)はモータ(34)を有し、対物レンズ筐体(12)に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ系を含む対物レンズ筐体であって、レンズ系が、そのレンズ系の光軸に沿って移動可能であり、カバーガラスの厚さを補償するレンズユニットを含む、レンズ筐体を有し、レンズユニットを調節する調節装置をさらに有し、前記調節装置が駆動ユニットと、駆動ユニットによって駆動可能で、レンズユニットに連結された動力伝達装置を含む、顕微鏡対物レンズに関する。レンズユニットは、単独で取り付けられるレンズでも、レンズ素子、すなわち組み合わされたレンズの集合でもよい。
【背景技術】
【0002】
光学顕微鏡検査法においては、スライド上にセットされる標本はしばしば、透明材料の薄い平坦な小片(以下、単に「カバーガラス」と呼ぶ)で覆われてから、顕微鏡対物レンズによって画像化される。画像化のために、好ましくは、カバーガラスに浸漬剤が塗布され、前側レンズが浸漬剤に浸漬される、液浸対物レンズと呼ばれる対物レンズが使用される、これによって、開口数が大きくなり、それゆえ、解像度が高くなる。顕微鏡対物レンズによる標本の画像化は、画像形成光路の中に置かれたカバーガラスにより、その厚さに応じた影響を受ける。したがって、高品質の、いわゆる「カバーガラス補正型」顕微鏡対物レンズは、調節装置を有していることが多く、それによって、この目的のために対物レンズ系の中に設置されているレンズユニットを、使用するカバーガラスの厚さに応じて光軸に沿って調節し、これを、カバーガラスの厚さが光学的画像形成工程の中で正確に考慮され、標本の正確な画像が得られるような方法で行うことが可能となる。このレンズユニットの調節は通常、数μmの範囲である。
【0003】
このような従来の調節装置は一般に、手動式の補正環を含み、これは対物レンズ筐体に、外から触れることができるように取り付けられ、動力伝達装置に連結されており、動力伝達装置は、補正環に手で与えられた回転運動を、カバーガラス厚さ補正用としてのレンズユニットの相応の直線運動に変換し、この直線運動は光軸に沿っている。異なる厚さのカバーガラスで標本を覆う場合、カバーガラスの厚さが異なるたびにこの手動での補正を繰り返さなければならない。これには時間がかかり、顕微鏡の使用が複雑となる。カバーガラス厚さ補正のための手動式調節装置の例は、特許文献1に記載されている。
【0004】
カバーガラス厚さ補正のための電動式調節装置は、特許文献2から知られている。この調節装置は、対物レンズターレットに取り付けられた駆動モータを有し、そのドライブシャフトは希望に応じて、対物レンズターレット上に担持される複数の顕微鏡対物レンズのいずれにも連結できる。この目的のために、これらの顕微鏡対物レンズの各々が冒頭に記載した種類の補正環を有し、それをモータシャフトと係合させることができる。この公知の調節装置は、各種の顕微鏡対物レンズと連結できるように意図されているため、この連結を、所望の高精度のカバーガラス厚さ補正を可能にするほど精密に行うことは比較的困難である。また、対物レンズターレットに取り付けられたモータの噛合いと解放のための構造は比較的複雑である。これに加えて、補正環を正確に調節するには、使用者のかなりの練習と技能が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】DE 10 2007 002 863 B3
【特許文献2】US 7,593,173,B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カバーガラス厚さ補正のための、構成が単純で、精密に動作する調節装置を有する顕微鏡対物レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
冒頭に記載したタイプの顕微鏡対物レンズにおいて、この目的は、本発明によれば、駆動ユニットがモータを有し、対物レンズ筐体に取り付けられることにより達成される。
【0008】
一般に手動式の補正環を利用する先行技術による方式とは異なり、本発明は、カバーガラス厚さ補正のためのレンズユニットがモータ手段によって光軸に沿って調節されるようにする。これによって顕微鏡が格段に使いやすくなり、さらには、たとえばレンズユニットの位置を適応的に調節するように適切に制御されたモータによって、カバーガラス厚さ補正を全自動で行うことも可能にする。これにより、顕微鏡対物レンズは、カバーガラスを使用していても、常に所望の高い画像品質を提供する。
【0009】
モータに含められた駆動ユニットは対物レンズ筐体に直接取り付けられるため、カバーガラス厚さ補正用のレンズユニットを正確に駆動することができる。特に、モータは、レンズユニットに連結されてモータの駆動力をレンズユニットに伝達する動力伝達装置に正確に連結することができる。駆動ユニットと対物レンズ筐体は、いわば単独のユニットを形成するため、対物レンズは、たとえば複数の顕微鏡対物レンズを担持する対物レンズターレットを用いて、容易に交換することができる。
【0010】
好ましくは、駆動ユニットは、対物レンズ筐体の外側に取り付けられる。この場合、対物レンズ筐体の外側で発生された駆動力は、モータに連結された動力伝達装置を介して対物レンズ筐体の中へと伝達され、そこでカバーガラス厚さ補正用のレンズユニットに伝達される。
【0011】
好ましい実施形態において、動力伝達装置は、対物レンズ筐体に取り付けられ、モータによって光軸の周囲で回転可能な補正環と、対物レンズ筐体内に配置され、補正環に連結され、補正環の回転運動をレンズユニットの光軸に沿った、調節のための運動に変換する力伝達機構と、を含む。この実施形態の場合、冒頭に記載したタイプの、カバーガラス厚さ補正のための(これまでは手動であった)補正環を有する従来の顕微鏡対物レンズに、容易に本発明の駆動ユニットを組み込み、所望の電動式カバーガラス厚さ補正を行いやすくすることができる。この目的のために、モータは、たとえばピニオンを担持するドライブシャフトを有し、ピニオンは補正環と噛み合い、それゆえモータの回転を補正環の回転運動に変換する。
【0012】
好ましくは、力伝達機構は、補正環に回転不能に連結されて、少なくとも部分的に光軸の周囲に延びるカム面を有する対物レンズスリーブを含み、さらに、レンズユニットに取り付けられて、対物レンズスリーブが光軸の周囲で回転されると、カム面上で転動して、光軸に沿ってレンズユニットを移動させる転がり接触軸受を含む。この工程におけるカム面の機能は、補正環とそれに回転不能に連結された対物レンズスリーブの回転運動を、レンズユニットの所望の直線運動に変換することである。この目的のために、カム面は、光軸に垂直な方向から見た時に若干傾斜している。この傾斜は、補正環と、ひいては対物レンズスリーブが光軸の周囲で特定の量だけ回転すると、レンズユニットが光軸に沿って、それに対応する調節距離だけ移動するように選択される。カム面の傾斜は、たとえば、光軸に沿った調節距離が数μmの範囲内になるように選択してもよい。
【0013】
力伝達機構は好ましくは、転がり接触軸受をカム面に押し付けるように付勢する付勢力要素を含む。これによって、転がり接触軸受は常に、遊びのない状態でカム面と係合し、その結果、レンズユニットは光軸に沿って正確に移動される。
【0014】
他の有利な実施形態において、駆動ユニットは駆動部収容体を有し、これは対物レンズ筐体の外側に取り付けられ、モータを収容し、好ましくは防水の状態でこれを浸漬剤から保護する。この場合、好ましくは、駆動部収容体が対物レンズ筐体の外側において光軸の周囲で回転できるように、回転位置決め装置が設置される。駆動部収容体が相対回転可能であることにより、駆動ユニットを対物レンズ筐体上で柔軟に位置決めすることが可能となる。これは、たとえば、顕微鏡対物レンズが他の対物レンズを担持する対物レンズターレット上に保持されている場合に有利であり、その理由は、この場合、対物レンズを特に省スペースとなるように取り付けられなければならないからである。
【0015】
好ましくは、回転位置決め装置は、駆動部収容体が取り付けられるホルダを含み、これは対物レンズ筐体の外側に、回転軸に沿っては移動せず、その周囲では回転可能に取り付けられる。それゆえ、既存の顕微鏡対物レンズには、たとえばモータを収容する駆動部収容体を支持し、対物レンズ筐体の外側に光軸の周囲で回転可能に取り付けられる支持環を設置することにより、本発明の駆動ユニットを容易に組み込むことができる。
【0016】
他の有利な実施形態において、回転位置決め装置は、モータを動力伝達装置から解放するための解放機構を有する。解放機構は、たとえば、モータを駆動部収容体の中で光軸に平行な方向に案内するリニアガイドと、モータに取り付けられる解放レバーを含み、解放レバーにより、モータを、モータが動力伝達装置と噛み合う噛合い位置と、モータが動力伝達装置から解放される解放位置との間で移動させることができる。たとえば、モータのシャフトに取り付けられたピニオンが継ぎ輪と係合する噛合い位置において、所望のカバーガラス厚さ補正を行うことができる。しかしながら、駆動ユニットを対物レンズ筐体上で光軸の周囲で回転させて別の位置に移動させる場合、モータは、解放レバーを動作させて所望の位置決めを行うことによって、動力伝達装置から解放することができる。モータを解放するために、これは駆動部収容体の中で光軸に平行な方向に移動され、その際、駆動部収容体はこの方向に移動されない。
【0017】
好ましくは、解放機構は、モータを駆動部収容体の中の噛合い位置へと付勢する付勢要素を有する。したがって、この実施形態において、モータは、付勢要素により発せられる付勢力に対抗してこれを光軸に沿って平行に移動させることによって解放され、次に駆動部収容体とともに所望の位置へと移動され、その後は自力で噛合い位置に戻る。
【0018】
好ましくは、締付装置が設置され、それによってホルダを対物レンズ筐体の外側の、光軸の周囲のいずれの回転位置にもロックすることができる。このような締付装置により、駆動部収容体を担持するホルダを、特に簡単な方法で、対物レンズ筐体の外側から解放し、そこに再ロックされるようにすることができる。
【0019】
他の実施形態において、駆動ユニットは対物レンズ筐体の中に取り付けられる。駆動ユニットを対物レンズ筐体の中に取り付けることによって、顕微鏡対物レンズを特に小型化することができる。この場合、モータの駆動力をレンズユニットの直線運動に変換する動力伝達装置は、好ましくは、特に空間効率の良いウォームギアドライブの形態である。駆動ユニットを対物レンズ筐体の中と外のいずれに取り付けるかを問わず、モータとして、圧電サーボモータ、超音波サーボモータ、またはその他のタイプの、特に小型のモータを使用することが可能である。
【0020】
好ましくは、対物レンズ筐体には、駆動ユニットを電源供給ユニットおよび/または制御ユニットに接続するための電気コンタクトを設ける。これによって、本来であれば駆動ユニットへの電源供給とその制御に必要となるような、厄介なケーブルが不要となる。
【0021】
あるいは、顕微鏡対物レンズはまた、電源供給ユニットと、駆動ユニットの無線制御のための無線受信ユニットを有していてもよい。駆動ユニットを無線で制御することによって、顕微鏡対物レンズはさらに使いやすいものとなる。
【0022】
好ましい実施形態において、対物レンズ筐体の、標本に面する端を取り囲み、浸漬剤を受けるようになされたキャップが設置される。このようなキャップは、たとえば米国特許出願公開第2010/0027109 A1号に詳細に記載されている。
【0023】
本発明はさらに、前述のタイプの少なくとも1つの顕微鏡対物レンズを有する顕微鏡を提供する。
【0024】
好ましくは、顕微鏡は、本発明による複数の顕微鏡対物レンズを担持する顕微鏡ターレットを有する。
【0025】
ここで、添付の図面を参照しながら、本発明をより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第一の例示的実施形態である顕微鏡対物レンズの部分断面側面図である。
【図2】顕微鏡対物レンズの斜視図であり、特に駆動ユニットを示す。
【図3】顕微鏡対物レンズの斜視図であり、駆動部収容体を取り付けていない駆動ユニットを示す。
【図4】顕微鏡対物レンズの斜視図であり、駆動ユニットがない状態で対物レンズ筐体に取り付けられたホルダが示されている。
【図5】駆動ユニット内に設置されたモータの斜視図である。
【図6】顕微鏡対物レンズの断面斜視図であり、特に、駆動ユニットの回転位置決め装置の部品を示す。
【図7】顕微鏡対物レンズの断面図であり、特に、駆動ユニットを取り外すための機構の部品を示す。
【図8】顕微鏡対物レンズの断面図であり、特に、駆動ユニットの継ぎ輪との連結を示す。
【図9】特に、カバーガラス厚さ補正用のレンズユニットを移動させる力伝達機構を示す部分断面斜視図である。
【図10】対物レンズターレット上に取り付けられた顕微鏡対物レンズを示す斜視図である。
【図11】第二の例示的実施形態である顕微鏡対物レンズの部分断面側面図である。
【図12】第二の実施形態の変形を示す部分断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図1から図10を参照しながら、顕微鏡対物レンズ10を第一の例示的実施形態として説明する。本明細書では、図1から図10に示される顕微鏡対物レンズのうち、本発明の理解に必要な構成要素のみについて述べる。
【0028】
顕微鏡対物レンズ10は対物レンズ筐体12を有し、その外側に駆動ユニット14が取り付けられている。特に図1と図2においてわかるように、駆動ユニット14は駆動部収容体16を有し、その中に駆動ニット14の駆動構成要素が収容されており、これについては本明細書において後で詳しく説明する。
【0029】
駆動部収容体16は、図4に示されるホルダ18によって対物レンズ筐体12に取り付けられる。ホルダ18は、環状部材20と、前記環状部材20に隣接する保持アーム22を含む。ホルダ18は対物レンズ筐体12に、顕微鏡対物レンズ10の光軸O(図1に示される)の周囲では回転可能であるが、光軸Oに沿っては不動であるように取り付けられる。この目的のために、環状部材20にねじ穴21と23が設けられており、その中に位置決めネジ(図4には示されない)をねじ込み、ホルダ18が依然として光軸Oの周囲で回転できるように、ホルダ18を対物レンズ筐体12に固定することができる。
【0030】
駆動ユニット14の収容体16は、ホルダ18に固定して連結される。図1に示されているように、駆動ユニット14には、ケーブル24を介して電源と制御信号が供給される。このために、ケーブル24は顕微鏡の制御/電源供給ユニット(図1には示されない)に接続される。
【0031】
図1、図7、図8において最もよくわかるように、顕微鏡対物レンズ10はレンズキャップ26を有し、対物レンズ筐体12の、画像化対象の標本と面する端に弾性的に取り付けられる。このように弾性的に取り付けることによって、レンズキャップ26は標本(図には示されない)と接触すると凹み、それによって標本をある程度保護する。キャップ26は、シールリング28を介して対物レンズ筐体12に保持される。レンズキャップ26は中央開口部30を有し、これは、レンズ32の、標本に面し、対物レンズ筐体12に収容されたレンズ系の一部を形成する領域の中に配置される。
【0032】
キャップ26は、外部から別に供給される浸漬剤を受けるようになされている。キャップ26の機能と設計は、米国特許出願公開第2010/0027109 A1号明細書に詳細に記されている。
【0033】
たとえば図6に示されているように、駆動ユニット14の駆動部収容体16にはモータ34が収容される。モータ34はまた、たとえば図8に示され、図5では単体で示され、また図3では底面部材35を除いて収容体16が省略された状態で示されている。
【0034】
モータ34は駆動シャフト36を有し、そこにピニオン38が固定して取り付けられている。ピニオン38は歯40を有し、これが補正環44の歯42と噛み合う。歯40と42は、図には詳しく示されていない。補正環44は、対物レンズ筐体12に、光軸Oの周囲で回転可能となるように取り付けられ、これはたとえば図3、図4、図9からもわかる。モータシャフト36の回転によって、補正環44もまた、噛み合っている歯40と42を介して回転される。
【0035】
図9に示されているように、補正環44は、内側対物レンズスリーブ46に回復不能に連結される。補正環44がモータシャフト36の回転によって光軸Oの周囲で回転されると、補正環が対物レンズスリーブ46をそれとともに回転させる。
【0036】
対物レンズスリーブ46は、部分的に光軸Oの周囲に延び、光軸Oに垂直な方向から見ると若干傾斜するカム面52を有する。ねじ56によってレンズマウント58に取り付けられた環状の転動要素54がカム面52と係合する。レンズマウント58にはレンズ60が保持され、これは、顕微鏡対物レンズ10のレンズ系の中で、本発明によりカバーガラス厚さ補正の目的のために光軸Oに沿って移動されるレンズユニットである。レンズマウント58はまた、ばね62の作用も受け、これが転動要素54をカム面52に圧迫する。
【0037】
上記の構成要素46、52、54、56、58、62は、補正環44の光軸Oの周囲での回転運動を、カバーガラス厚さ補正を実行する光軸Oに沿ったレンズ60の運動へと変換する役割を果たす力伝達機構を構成する。補正環44が特定の量だけ回転された時に光軸Oに沿ってレンズ60が移動する距離は、カム面52の傾斜によって決定される。図9に示されているように、カム面52の上記の傾斜は非常に小さく、補正環44を比較的大きな量だけ回転させると、レンズ60は光軸Oに沿って短い調節距離だけ移動する。この調節距離は一般に、数μmの範囲である。
【0038】
図5に示されているように、モータ34はさらに、図1に示されているケーブル24と接続される端子45を含む。
【0039】
この例示的実施形態において、駆動ユニット14と、駆動ユニット14の駆動部収容体16が取り付けられるホルダ18は、一体で光軸Oの周囲で回転させ、いずれの回転位置にもロックできる。図2と図6に示されているように、手動の締付ねじ64がこの目的のために設けられる。図6にのみ示されているように、締付ねじ64は、締付ねじ64を回転させることによって締付ブロック68と接触する位置に移動されるシャンク66を有する。締付ねじ64を回転させることによって、ねじシャンク66が締付ブロック68に圧迫されると、締付ブロック68が今度は、対物レンズ筐体12に回転不能に、すなわち固定して接続されたねじ込みリング69に圧迫される。それゆえ、この状態で、駆動ユニット14はホルダ18とともに対物レンズ筐体12上の位置にロックされる。締付ねじ64を緩めることによって、ホルダ18が解放され、駆動ユニット14とホルダ18が一体で、光軸Oの周囲で回転できる。
【0040】
駆動ユニット14を上記の方法により、対物レンズ筐体の外側において光軸Oの周囲で回転できるようにするために、まず、モータ34を補正環44から解放する必要がある。この目的のために、モータ34のピニオン38を補正環44から解放しなければならない。この目的のために、モータ34には解放レバー70が設置され、これは特に図5に示されており、図中、駆動部収容体16は省略されている。
【0041】
モータ34を継ぎ輪44から解放するために、解放レバー70を光軸Oに平行な方向に押し下げる。これによってモータ34とピニオン38が光軸Oに平行に下方に移動し、その結果、ピニオン38が継ぎ輪44から下方に解放される。駆動部収容体16は固定されてホルダ18に取り付けられ、それゆえ光軸Oに平行な方向に移動しないため、解放レバー70を押すことにより、モータ34は駆動部収容体16の中で光軸Oに平行に下方に移動する。
【0042】
図7の図からわかるように、駆動ユニット16は、2つの平行なガイドピン72と74の形態のリニアガイドを含み、これらは光軸Oに平行に延び、解放のための移動中にモータ34を光軸Oに平行に案内する。ガイドピン72はピン受容部76の中に保持され、ガイドピン74はピン受容部78の中に保持され、前記ピン受容部は、図4に示されるように、ホルダ18の保持アーム22に形成されている。
【0043】
図7はさらに、ばね80を示しており、これはモータ34を図3に示されている係合位置へと付勢し、この位置で、ピニオン38は継ぎ輪44と噛み合う。解放レバー70は、ばね80により発生される付勢力に対抗して押される。図4に示されているように、ばね80はホルダ18の保持アーム22に形成されたばね受容部82の中に受けられる。ガイドピン72と74と同様に、ばね80もまた、図6からもわかるように、光軸Oに平行な方向に向けられる。ばね80は、駆動部収容体16の中の、2つの構成要素間に留め付けられ、その要素の一方は光軸Oに沿った方向に移動できず、もう一方は駆動モータ34とともに光軸Oに沿った方向に移動可能である。
【0044】
それゆえ、対物レンズ筐体の外側で駆動ユニット14を回転させるためには、まず、締付ねじ64を緩め、次に、解放レバー70を光軸Oに平行に押し下げて、モータ34を収容体16の中で、ばね80によって発せられる付勢力に対抗して下方向に移動させると、ピニオン38が継ぎ輪44から解放される。解放レバー70を押した状態で、駆動部収容体16を光軸Oの周囲で所望の角度だけ回転させる。駆動部収容体16が目標位置に到達すると、解放レバー70が解放され、その時、ばね80によって発せられる付勢力により、モータ34は駆動部収容体16の中で光軸Oに平行に上方に移動し、それによってピニオン38は再び継ぎ輪44と噛み合う。最後に、締付ねじ64を締める。
【0045】
図10は、顕微鏡対物レンズ10を対物レンズターレット90に取り付ける方法を示す。対物レンズターレット90は複数のねじ山付開口部92を有し、その中に顕微鏡対物レンズ10を螺合させてもよい。図10に示される例において、対物レンズターレット90には1つの対物レンズだけが装着されている。しかし、当然のことながら、対物レンズターレット90には、上記のタイプの複数の対物レンズを取り付けることができる。
【0046】
前述の、また図1から図10に示された顕微鏡対物レンズ10は、単に本発明の1つの例示的実施形態にすぎず、これを様々な方法で改変できる。あくまでも例として、ここで、モータ駆動ユニットが対物レンズ筐体の外側ではなく、内側に配置されている実施形態に論及する。このような実施形態は、図11と図12に示されている。
【0047】
図11は、図1から図10に示される実施形態から、対物レンズ筐体12の外側に設置された駆動ユニット14が、対物レンズ筐体12の中に配置された環状超音波モータ102に置き換えられている点で改変されている。超音波モータ102は、上から対物レンズスリーブ46に作用して、これを、カバーガラス厚さ補正の目的で、光軸Oの周囲で回転させる。この実施形態においても、対物レンズスリーブ46のカム面52は、レンズ60を光軸Oに沿って移動させるために、レンズマウント58に力を伝達するために使用される。この力の伝達に関して、図11の例示的実施形態は、図9に示される例示的実施形態と同じ構成要素を有しており、これらの構成要素としては、特に、転動要素54、ねじ56およびばね62がある。これらの構成要素は、図9に示される断面図と異なる図11には示されていない。
【0048】
図12は、別の例示的実施形態としての顕微鏡対物レンズ200を示す。顕微鏡対物レンズ200は、図11に示される例示的実施形態から、超音波モータ102とそれによって駆動される構成要素、すなわちそのカム面52を有する対物レンズスリーブ46、転動要素54、ねじ56、ばね62が、たとえば圧電サーボモータ等、レンズマウント58を直接駆動するマイクロモータ202に置き換えられている点で改変されている。さらに、バッテリと、駆動ユニット202の無線制御のための無線受信機を備える供給ユニットが、対物レンズ筐体12内に配置されている。この供給ユニットは図12において、概して204で示されている。
【0049】
当然のことながら、供給ユニット204に対応するユニットもまた、上記の例示的実施形態に使用してよい。
【符号の説明】
【0050】
10 顕微鏡対物レンズ
12 対物レンズ筐体
14 駆動ユニット
16 駆動部収容体
18 ホルダ
20 環状部材
21 ねじ穴
22 保持アーム
23 ねじ穴
24 ケーブル
26 キャップ
28 シールリング
32 レンズ
34 モータ
35 底面部材
36 駆動シャフト
38 ピニオン
40 歯
42 歯
44 補正環
46 対物レンズスリーブ
52 カム面
54 環状転動要素
56 ねじ
58 レンズマウント
60 レンズ
62 ばね
64 締付ねじ
66 シャンク
68 締付ブロック
70 解放レバー
72 ガイドピン
74 ガイドピン
80 ばね
82 ばね受領部
90 顕微鏡ターレット
92 ねじ山付開口部
100 顕微鏡対物レンズ
102 超音波モータ
200 顕微鏡対物レンズ
202 駆動ユニット
204 供給ユニット
O 光軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ系を含む対物レンズ筐体(12)を有する顕微鏡対物レンズ(10、100、200)であって、前記レンズ系が、カバーガラスの厚さを補償するために前記レンズ系の光軸(O)に沿って移動可能であるレンズユニット(60)を含み、
前記レンズユニット(60)を調節するために設置された調節装置にして、かつ駆動ユニット(14、102、202)と、前記駆動ユニット(14、20、202)によって駆動可能で、前記レンズユニット(60)に連結された動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)とを含む調節装置をさらに有する、顕微鏡対物レンズ(10、100、200)において、
前記駆動ユニット(14、102、202)がモータ(34)を有し、前記対物レンズ筐体(12)に取り付けられている、顕微鏡対物レンズ(10、100、200)。
【請求項2】
前記駆動ユニット(14)が前記対物レンズ筐体(12)の外側に取り付けられている、請求項1に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項3】
前記動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)が、前記対物レンズ筐体(12)に取り付けられ、前記モータ(34)によって前記光軸(O)回りに回転可能な補正環(44)と、前記対物レンズ筐体(12)の中に配置され、前記補正環(44)に連結され、前記補正環(44)の回転運動を前記レンズユニット(60)の前記光軸(O)に沿った調節のための運動に変換する力伝達機構(46、52、54、56、58、62)とを含む、請求項2に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項4】
前記力伝達機構(46、52、54、56、58、62)が、前記補正環(44)に回転不能に連結され、かつ少なくとも部分的に前記光軸(O)の周囲に延びるカム面(52)を有する対物レンズスリーブ(46)を含み、さらに前記レンズユニット(60)に取り付けられ、前記対物レンズスリーブ(46)が前記光軸(O)の周囲で回転されると、前記カム面(52)の上で転動し、かつ前記レンズユニット(60)を前記光軸(O)に沿って移動させる転がり接触軸受(54、56)を含む、請求項3に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項5】
前記力伝達機構(46、52、54、56、58、62)が、前記転がり接触軸受(54、56)を前記カム面(52)に押し付けるように付勢する付勢要素(62)を含む、請求項4に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項6】
前記駆動ユニット(14)が、前記対物レンズ筐体(12)の外側に取り付けられ、かつ前記モータ(34)を、好ましくは防水の状態で収容する駆動部収容体(16)を有する、請求項2〜5のいずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項7】
前記駆動部収容体(16)が前記対物レンズ筐体(12)の外側において前記光軸(O)の回りに回転できるようにする、回転位置決め装置(18、70、72、74、80)を特徴とする、請求項6に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項8】
前記回転位置決め装置(18、70、72、74、80)がホルダ(18)を含み、前記ホルダ(18)は、前記駆動部収容体(16)が取り付けられ、前記対物レンズ筐体(12)の外側に前記光軸(O)に沿って固定され、その回りに回転可能となるように取り付けられている、請求項7に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項9】
前記回転位置決め装置が、前記モータ(34)を前記動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)から解放するための解放機構(70、72、74、80)を有する、請求項7または8に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項10】
前記解放機構(70,72、74、80)が、前記モータ(34)を前記駆動部収容体(16)の中で前記光軸(O)に平行な方向に案内するリニアガイド(72、74)と、前記モータ(34)に取り付けられて、それによって前記モータ(34)を、前記モータ(34)が前記動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)と噛み合う噛合い位置と、前記モータ(34)が前記動力伝達装置(42、44、46、52、54、56、62)から解放される解放位置との間で移動させることができる解放レバー(70)と、を含む、請求項9に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項11】
前記解放機構(70、72、74,80)が、前記モータ(34)を前記駆動部収容体(16)の中で前記係合位置へと付勢する付勢要素(80)を有する、請求項9または10に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項12】
前記ホルダを前記対物レンズ筐体(12)の外側に、前記光軸(O)回りいずれの回転位置においてもロックできるようにする締付装置(64、66、68)を特徴とする、請求項8〜11のいずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項13】
前記駆動ユニット(102、202)が前記対物レンズ筐体(12)の中に取り付けられている、請求項1に記載の顕微鏡対物レンズ(100、200)。
【請求項14】
前記対物レンズ筐体(12)に、前記駆動ユニット(14)を電源ユニットおよび/または制御ユニットに接続するための電気コンタクトが設けられている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ(10)。
【請求項15】
エネルギー貯蔵装置と、前記駆動ユニット(202)を制御するための無線受信機とを含む供給ユニット(204)を特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ(200)。
【請求項16】
前記対物レンズ筐体(12)の、標本に面する端を取り囲み、かつ浸漬剤を受けるようになされたキャップ(26)を特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の顕微鏡対物レンズ(10、100、200)。
【請求項17】
請求項1〜16のいずか一項に記載の少なくとも1つの顕微鏡対物レンズ(10、100、200)を有する顕微鏡。
【請求項18】
複数の顕微鏡対物レンズ(10、100、200)を担持する顕微鏡ターレット(90)を特徴とする、請求項17に記載の顕微鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−20254(P2013−20254A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−152353(P2012−152353)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【出願人】(500178876)ライカ マイクロシステムス ツェーエムエス ゲーエムベーハー (80)
【Fターム(参考)】