説明

顕微鏡装置

【課題】極低倍から高倍まで対物レンズを切り替える際の作業性は損なわずに、良好な観察が可能な顕微鏡装置を提供する。
【解決手段】複数の対物レンズを備えた顕微鏡装置M1において、光源1からの光を選択的に透過するポラライザPと、ポラライザPを透過した光を対物レンズ9,10へ偏向し且つ標本12で反射した光を通過させるハーフミラー7と、ハーフミラー7からの光を選択的に透過するアナライザAと、第1のλ/4板Q1とを備え、ポラライザPとアナライザAとがクロスニコルの状態で配置され、第1のλ/4板Q1の速い軸がポラライザP及びアナライザAの偏光方向に対して45度をなすように配置された照明装置L1と、複数の対物レンズの一つとして、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された、光源側の端部に第2のλ/4板Q2と、標本側の端部に第3のλ/4板Q3とを備えた極低倍用対物レンズ10とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低倍用対物レンズを含む、複数の対物レンズを光路に対して切り換え可能な顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、落射照明を行う反射型の照明装置では、鏡筒内に設けたハーフミラーによって照明光を対物レンズの光軸に沿う方向に偏向し、標本からの反射光を観察する構成となっている。しかしながら、照明光のうちで標本に照射されない一部の光が、ハーフミラーを透過して鏡筒の内壁等で反射し、戻り光となってハーフミラーで上方に反射され、結像レンズに入射することにより、バックグラウンドレベルを上げ、像のコントラストを低下させるという問題があった。この現象は、瞳径が大きい、結像倍率の低い(焦点距離の長い)対物レンズほど影響が大きい。
【0003】
そこで、反射型の照明装置を備えた顕微鏡装置では、極低倍の対物レンズを使用する場合、反射型照明装置内と結像光学系内に一対のクロスニコル状態の偏光子を配置し、対物レンズと標本との間に1/4波長板を配置することで、ハーフミラーを透過した不要な戻り光や対物レンズ面からの反射ノイズ光を除去し、標本からの信号光を良好に検出することが可能な構成をとっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−271622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、従来の顕微鏡装置では、焦点距離の短い、言い換えれば結像倍率の高い対物レンズを使用する場合、対物レンズを構成する各レンズの曲率半径を小さくするなどして、該レンズ面での反射光が像面に集光しないように設計することが可能であるため、必ずしも上記のように偏光子と1/4波長板を使用する必要がなかった。
【0006】
よって、レボルバに倍率の異なる複数の対物レンズが装着されている状態で、極低倍の対物レンズを使用する場合には、顕微鏡装置に挿脱可能に構成された一対の偏光子をクロスニコル状態で光路内に挿入し、さらに対物レンズの先端に予め装着された1/4波長板を回転させ、標本からの信号強度が最も高くなる位置に設定して観察するが、続けて中倍から高倍の対物レンズに切り替える場合には、極低倍での観察時に使用した一対の偏光子を光路外に出す必要があった。
【0007】
このように対物レンズを切り替える際には、レボルバの回転作業のみならず、偏光子の挿脱や1/4波長板の調整といった操作が必要となり、煩わしいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、極低倍から高倍まで対物レンズを切り替える際の作業性は損なわずに、ハーフミラーを透過した不要な光に起因するバックグラウンドノイズの発生を抑えて、良好な観察が可能な顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するため、本発明は、複数の対物レンズを光路に対して切り換え可能な顕微鏡装置において、光路中に固定された、光源からの光を選択的に透過する偏光子と、前記偏光子を透過した光を前記対物レンズへ偏向し且つ標本で反射した光を通過させる光路分割手段と、前記光路分割手段からの光を選択的に透過する検光子と、前記光路分割手段と前記対物レンズとの間に設けられた第1の1/4波長板とを備え、前記偏光子と前記検光子とがクロスニコルの状態で配置され、前記第1の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された照明装置と、前記複数の対物レンズの一つとして、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部に第3の1/4波長板とを備えた極低倍用対物レンズとを有する。
【0010】
なお、本発明は、前記検光子、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板及び前記第3の波長板の透過面のうち少なくとも一つは、光軸に対して2度以上傾いて配置されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、複数の対物レンズを光路に対して切り換え可能な顕微鏡装置において、光路中に固定された、光源からの光を選択的に透過する偏光子と、前記偏光子を透過した光を前記対物レンズへ偏向し且つ前記標本で反射した光を通過させる光路分割手段と、前記光路分割手段からの光を選択的に透過する検光子と、前記偏光子からの光が前記光路分割手段を透過する方向に設けられた第1の1/4波長板とを備え、前記偏光子と前記検光子とがオープンニコルの状態で配置され、前記第1の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された照明装置を有する。
【0012】
なお、本発明では、前記複数の対物レンズの一つとして、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部にデポラライザとを備え、前記第2の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された極低倍用対物レンズを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記検光子、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板及び前記デポラライザの透過面のうち少なくとも一つは、光軸に対して2度以上傾いて配置されていることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、前記偏光子及び前記検光子に代わって、互いの偏光方向が同じになるように配置された一対の円偏光板を用いるとともに、前記複数の対物レンズの一つとして、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部に第3の1/4波長板とを備えた極低倍用対物レンズとを有して、前記顕微鏡を構成することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、極低倍から高倍まで対物レンズを切り替える際の作業性は損なわずに、ハーフミラーを透過した不要な光に起因するバックグラウンドノイズの発生を抑えて良好な観察が可能な顕微鏡装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施例に係る顕微鏡装置の概略断面図である。
【図2】第1実施例に係る、通常の対物レンズの断面構成図及び該レンズが選択されている顕微鏡装置内を通過する光束の偏光状態を模式的に表した図である。
【図3】第1実施例に係る、極低倍の対物レンズの断面構成図及び該レンズが選択されている顕微鏡装置内を通過する光束の偏光状態を模式的に表した図である。
【図4】第2実施例に係る顕微鏡装置の概略断面図である。
【図5】第2実施例に係る、通常の対物レンズの断面構成図及び該レンズが選択されている顕微鏡装置内を通過する光束の偏光状態を模式的に表した図である。
【図6】第2実施例に係る、極低倍の対物レンズの断面構成図及び該レンズが選択されている顕微鏡装置内を通過する光束の偏光状態を模式的に表した図である。
【図7】広帯域対応の1/4波長板の波長特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
はじめに、第1実施例に係る顕微鏡装置M1について、図1〜図3を用いて説明する。図1は、第1実施例に係る顕微鏡装置M1の構成断面図である。第1実施例に係る顕微鏡装置M1は、図1に示すように、光路中に固定された、光源1と、光源1からの光を平行光に変換するコレクタレンズ2と、コレクタレンズ2によって変換された平行光を集光して開口絞り4の位置に光源像を形成するリレーレンズ群3と、コレクタレンズ2の後側(すなわちリレーレンズ群3側)の焦点位置と共役な位置に配置されている視野絞り5と、視野絞り5の中心を通る光束を光軸と平行な光束に変換するフィールドレンズ6と、フィールドレンズ6により変換された平行光束を図面下向きに偏向するハーフミラー7とを有する照明装置L1と、ハーフミラー7の下側(標本側)に設けられ複数の対物レンズを装着することが可能なレボルバ8と、レボルバ8に装着されている対物レンズ9,10とを有する。なお、図1では、極低倍(2.5倍以下)の対物レンズ10が選択されている。さらに、顕微鏡装置M1は、結像光学系、具体的には標本12の一次像を形成する第2対物レンズ18と、俯角を適当に決定する第1プリズム19と、双眼観察に適した光路に分割する第2プリズム20と、第2対物レンズ18により形成された標本12の一次像21を拡大観察するための接眼レンズ22とを有する。
【0019】
上記構成の顕微鏡装置M1によれば、光源1から射出された光(照明光)は、コレクタレンズ2、リレーレンズ群3、開口絞り4、視野絞り5及びフィールドレンズ6を経て、ハーフミラー7で偏向され、選択された対物レンズ10を介して、ステージ13上の標本12を照明する。これにより、反射型の明視野照明が達成される。
【0020】
また、標本12で反射された照明光は、標本12を観察するために必要な光(信号光)として、前記選択された対物レンズ10を経て、ハーフミラー7を透過し、第2対物レンズ18、第1プリズム19及び第2プリズム20を順に通り、接眼レンズ22へと導かれる。顕微鏡装置M1の使用者は、この接眼レンズ22により、標本12の一次像21を拡大観察することができる。
【0021】
そして、本実施例では、照明装置L1が、視野絞り5とフィールドレンズ6との間に設けたポラライザ(偏光子)Pと、ハーフミラー7の直下(標本側)に設けた第1の1/4波長板Q1(以下、第1のλ/4板Q1と称する)と、ハーフミラー7と第2対物レンズ18との間に設けたアナライザ(検光子)Aとを有し、ポラライザPとアナライザAとがクロスニコルの状態で配置され、第1のλ/4板Q1の速い軸(位相が1/4波長進む振動方向)がポラライザP及びアナライザAの偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された構成となっている。
【0022】
なお、ポラライザP,アナライザAは、それぞれ所定の方向に振動する偏光成分を選択的に透過させる機能を持つ光学素子である。また、第1のλ/4板Q1は、その速い軸の方向に振動する光と、直交する方向に振動する光との間に、1/4波長の位相差を生じさせる機能を持つ光学素子である(後述の第2,第3のλ/4板Q2,Q3も同様の機能を有する)。
【0023】
さらに、本実施例では、極低倍の対物レンズ10が、光源側から順に並んだ、第2の1/4波長板Q2(以下、第2のλ/4板Q2と称する)と、複数のレンズ群11と、第3の1/4波長板Q3(以下、第3のλ/4板Q3と称する)とを有し、第2のλ/4板Q2と第3のλ/4板Q3とがそれぞれの速い軸が互いに平行又は直交状態で配置されるように構成されている(本実施例では直交状態で配置されている(図3参照))。
【0024】
また、対物レンズ9(以下、通常の対物レンズ9と称することもある)は、極低倍の対物レンズ10と比べて焦点距離の短い、言い換えれば結像倍率の高い対物レンズであり、内部に複数のレンズ群11´を有している。この複数のレンズ群11´は、構成するレンズの曲率半径を小さくする等、レンズ面での反射光が像面に集光しないように予め設計されている。
【0025】
ここで、上記構成の顕微鏡装置M1における各光束の振る舞いを、図2及び図3を用いて説明する。図2及び図3は、通常の対物レンズ9が選択された場合及び極低倍の対物レンズ10が選択された場合の顕微鏡装置M1内を通過する光束の偏光状態を模式的に示したものであり、実線の円は各光学素子における軸方向を示し、破線の円P1〜P11はいずれも光を受け取る側から見た偏光状態を示し、太い矢印はノイズ光の振る舞いを示す。但し、説明を分かりやすくするため、ハーフミラー7で発生するノイズ光の振る舞いについては、図2にのみ記載し、図3では省略している。また、各光束の進行を示す矢印は、屈折の法則を無視して振る舞いを大局的に表現している。
【0026】
図2に示すように、非偏光光である光源1からの照明光(偏光状態P0)は、ポラライザPを通過して直線偏光となり(偏光状態P1)、ハーフミラー7を介して該ミラーの直下に設けられた第1のλ/4板Q1を通過して左回りの円偏光に(光を受け取る側から見て左回りに偏光面が回転するように)変換され(偏光状態P2)、選択されている対物レンズ9に入射し、標本12に照射される。
【0027】
なお、照明光のうちで標本12に照射されない一部の光は、図2に太い矢印で示すように、ハーフミラー7を透過し、照明装置L1の内壁等で反射して不要な戻り光となり、ハーフミラー7によって上方に反射されるが、この時の偏光状態P3はアナライザAの偏光方向と直交する関係にあるため、アナライザAによりブロックされる。このように、本実施例では、ハーフミラー7を透過する不要光が、上記結像光学系(図1参照)に入射することがないように構成されている。
【0028】
次に、選択されている対物レンズが、通常の対物レンズ9であった場合について説明する。図2に示すように、通常の対物レンズ9に入射した照明光は、光の偏光方向は特に変換されることなく、偏光状態P2の円偏光のまま、内部に備えた複数のレンズ群11´を経て、標本12に照射される。したがって、標本12には、常に円偏光である照明光が照射されるため、標本12の偏光特性に依存しない観察が可能である。
【0029】
標本12で反射した光すなわち信号光は、複数のレンズ群11´を経て、再び照明装置L1を構成する第1のλ/4板Q1を通過することで、その偏光方向がアナライザAと同じ(平行)方向の直線偏光となるため(偏光状態P4)、ハーフミラー7を経て、アナライザAを透過することができる。そして、アナライザAを透過した信号光は、上記結像光学系(図1参照)を介して観察することができる。
【0030】
なお、第1実施例の通常の対物レンズ9では、上記したように、構成レンズ面の曲率半径を小さくする等の設計が行われており、該レンズ面での反射光が像面に到達する心配がない。
【0031】
続いて、選択されている対物レンズが、極低倍の対物レンズ10であった場合について、図3を用いて説明する。極低倍の対物レンズ10に入射した照明光は(偏光状態P2)、まず第2のλ/4板Q2を透過して直線偏光となり(偏光状態P5)、この偏光状態で複数のレンズ群11に入射する。そして、複数のレンズ群11により結像作用を受けた後、第3のλ/4板Q3を透過して円偏光に変換され(偏光状態P6)、標本12に照射される。したがって、標本12には常に円偏光である照明光が照射されるため、標本12の偏光特性に依存しない観察が可能である。
【0032】
標本12で反射した光(信号光)は、第3のλ/4板Q3を透過して直線偏光となり(偏光状態P7)、複数のレンズ群11を経て、第2のλ/4板Q2を透過して円偏光に変換され(偏光状態P8)、再び照明装置L1を構成する第1のλ/4板Q1を通過することで、その偏光方向がアナライザAと同じ(平行)方向の直線偏光となるため(偏光状態P9)、ハーフミラー7を経て、アナライザAを透過することができる。そして、アナライザAを透過した信号光は、上記結像光学系(図1参照)を介して観察することができる。
【0033】
極低倍の対物レンズ10において、複数のレンズ群11のいずれかのレンズ面で反射した光が像面に到達すると、ノイズ光となって標本像のコントラストを下げてしまうため、好ましくない。本実施例の極低倍の対物レンズ10では、図3に太い矢印で示すように、複数のレンズ群11のいずれかのレンズ面で反射したノイズ光が、偏光状態P5の直線偏光から、第2のλ/4板Q2を透過することで右回りの円偏光に(光を受け取る側から見て右回りに偏光面が回転するように)変換され(偏光状態P10)、照明装置L1を構成する第1のλ/4板Q1により直線偏光に変換される(偏光状態P11)。この時の偏光状態P11は、アナライザAの偏光方向と直交する関係にある。よって、照明装置L1に入射したノイズ光は、ハーフミラー7を経て、アナライザAでブロックされる。このように、顕微鏡装置M2では、対物レンズ10を構成するレンズ面で発生するノイズ光が、像面に到達しないように構成されている。
【0034】
以上のような顕微鏡装置M1によれば、対物レンズ9,10を切り替える際はレボルバ8の回転作業だけで済むため、作業性を損なわずに、ハーフミラー7を透過する不要な光に起因するバックグラウンドノイズの発生を抑えて良好な観察が可能である。
【0035】
続いて、第2実施例に係る顕微鏡装置M2について、図4〜図6を用いて説明する。本実施例において、上記の第1実施例と同じ構成、機能を有するものについては、同じ符号を用いて説明を省略する。第2実施例に係る顕微鏡装置M2は、照明装置L2における第1の1/4波長板Q1´の設置位置、及び、極低倍の対物レンズ10´において最も標本側に設置された光学素子が(第3のλ/4板Q3ではなく)デポラライザDである点が、第1実施例に係る顕微鏡装置M1の構成とは異なる。
【0036】
図4に、第2実施例に係る顕微鏡装置M2の構成断面図を示す。第2実施例の顕微鏡装置M2では、照明装置L2が、視野絞り5とフィールドレンズ6との間に設けたポラライザ(偏光子)Pと、ハーフミラー7と第2対物レンズ18との間に設けたアナライザ(検光子)Aと、ポラライザPからの光がハーフミラー7を透過する方向に設けられた第1の1/4波長板Q1´(以下、第1のλ/4板Q1´と称する)とを有し、ポラライザPとアナライザAとがオープンニコルの状態で配置され、第1のλ/4板Q1´の速い軸(位相が1/4波長進む振動方向)がポラライザP及びアナライザAの偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された構成となっている。
【0037】
また、極低倍の対物レンズ10´が、光源側から順に並んだ、第2の1/4波長板Q2(以下、第2のλ/4板Q2と称する)と、複数のレンズ群11と、入射光の偏光状態を解消(非偏光状態)にする機能を持つデポラライザDとを有し、第2の1/4波長板Q2の速い軸がポラライザP及びアナライザAの偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された構成となっている。
【0038】
ここで、上記構成の顕微鏡装置M2における各光束の振る舞いを、図5及び図6を用いて説明する。図5及び図6は、通常の対物レンズ9が選択された場合及び極低倍の対物レンズ10が選択された場合の顕微鏡装置M1内を通過する光束の偏光状態を模式的に示したものであり、実線の円は各光学素子における軸方向を示し、破線の円P1〜P5はいずれも光を受け取る側から見た偏光状態を示し、太い矢印はノイズ光の振る舞いを示す。但し、説明を分かりやすくするため、ハーフミラー7で発生するノイズ光の振る舞いについては、図5にのみ記載し、図6では省略している。
【0039】
図5に示すように、非偏光光である光源1からの照明光(偏光状態P0)は、ポラライザPを通過して直線偏光となり(偏光状態P1)、ハーフミラー7を介して、選択されている対物レンズ9に入射し、標本12に照射される。
【0040】
なお、照明光のうちで標本12に照射されない一部の光は、図5に太い矢印で示すように、ハーフミラー7を透過し、第1のλ/4板Q1´を透過して左回りの円偏光に(光を受け取る側から見て左回りに偏光面が回転するように)変換され(偏光状態P2)、照明装置L2の内壁等で反射し、不要な戻り光となって、再び第1のλ/4板Q1´を透過して直線偏光に変換され(偏光状態P3)、ハーフミラー7で上方に反射される。この時の偏光状態P3はアナライザAの偏光方向と直交する関係にあるため、戻り光はアナライザAによりブロックされる。このように、本実施例では、ハーフミラー7を透過する不要光が、上記結像光学系(図4参照)に入射することがないように構成されている。
【0041】
次に、選択されている対物レンズが、通常の対物レンズ9であった場合について説明する。通常の対物レンズ9に入射した照明光は、光の偏光方向は変換されることなく直線偏光のまま(偏光状態P1)、内部に備えた複数のレンズ群11´を経て、標本12に照射される。
【0042】
標本12で反射した光(信号光)は、光の偏光方向は特に変換されることなく直線偏光のまま(偏光状態P1)、複数のレンズ群11´を経て、照明装置L2に入射する。この時の偏光状態P1は、アナライザAと同じ(平行)方向の直線偏光である。よって、照明装置L2に入射した信号光は、ハーフミラー7を経て、アナライザAを透過することができる。そして、アナライザAを透過した信号光は、上記結像光学系(図4参照)を介して観察することができる。
【0043】
なお、第2実施例の通常の対物レンズ9では、上記したように、構成レンズ面の曲率半径を小さくする等の設計が行われており、該レンズ面での反射光が像面に到達する心配がない。
【0044】
続いて、選択されている対物レンズが、極低倍の対物レンズ10´であった場合について、図6を用いて説明する。極低倍の対物レンズ10´に入射した照明光は(偏光状態P1)、まず第2のλ/4板Q2を透過して左回りの円偏光に変換され(偏光状態P2)、この偏光状態で複数のレンズ群11に入射する。そして、複数のレンズ群11により結像作用を受けた後、デポラライザDを透過して非偏光に変換され(偏光状態P3)、標本12に照射される。したがって、標本12には常に非偏光である照明光が照射されるため、標本12の偏光特性に依存しない観察が可能である。
【0045】
標本12で反射した光(信号光)は、光の偏光方向は変換されることなく非偏光のままでデポラライザD及び複数のレンズ群11を透過し(偏光状態P3)、第2のλ/4板Q2を透過して直線偏光に変換され(偏光状態P4)、照明装置L2に入射する。この時の偏光状態P4は、アナライザAと同じ(平行)方向の直線偏光である。よって、照明装置L2に入射した信号光は、ハーフミラー7を経て、アナライザAを透過することができる。そして、アナライザAを透過した信号光は、上記結像光学系(図4参照)を介して観察することができる。
【0046】
極低倍の対物レンズ10´において、複数のレンズ群11のいずれかのレンズ面で反射した光が像面に到達すると、ノイズ光となって標本像のコントラストを下げてしまうため、好ましくない。本実施例では、複数のレンズ群11のいずれかのレンズ面で反射したノイズ光は、図6に太い矢印で示すように、上記偏光状態P2と同じ向きの左回りの円偏光から、第2のλ/4板Q2を透過することで直線偏光に変換された後に(偏光状態P5)、照明装置L2に入射する。この時の偏光状態P5は、アナライザAの偏光方向と直交する関係にある。よって、照明装置L2に入射したノイズ光は、ハーフミラー7を経て、アナライザAでブロックされる。このように、顕微鏡装置M2では、対物レンズ10を構成するレンズ面で発生するノイズ光が、像面に到達しないように構成されている。
【0047】
以上のような顕微鏡装置M2によれば、対物レンズ9,10´を切り替える際はレボルバ8の回転作業だけで済むため、作業性を損なわずに、ハーフミラー7を透過する不要な光に起因するバックグラウンドノイズの発生を抑えて良好な観察が可能である。
【0048】
第3実施例の顕微鏡装置として、上記の第2実施例の照明装置L2を構成するポラライザP及びアナライザAに代わって、互いの偏光方向が同じになるように配置された一対の円偏光板を用いて構成してもよい(図示略)。この構成によれば、標本12を円偏光で照明することができるため、通常の対物レンズ9を使用した場合でも、像の見え方が標本12の偏光特性に依存しない観察が可能である。なお、この場合の極低倍の対物レンズは、第1実施例と同様の構成のもの、すなわち光源側の端部に設けた第2の1/4波長板Q2と、標本側の端部に設けた第3の1/4波長板Q3とを有し、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された構成のものを用いるのが好ましい。
【0049】
以上のように第1〜第3実施例を用いて本発明を説明してきたが、標本に偏光依存性があり、さらに極低倍観察時に光量の低下が問題となる場合は、第1実施例又は第3実施例を採用することが好ましい。また、顕微鏡装置を構成する光学素子の使用枚数を最小にして、コストダウンを図る場合には、第1実施例を採用することが好ましい。また、照明装置の厚さを薄くして、顕微鏡装置のコンパクト化を図りたい場合は、第2実施例を採用することが好ましい。
【0050】
なお、本発明を分かりやすくするために実施形態の構成要件を付して説明したが、本発明がこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【0051】
例えば、本発明では、使用する全ての光学素子が、可視光帯域において波長依存性を持たないことが好ましい。
【0052】
特に、1/4波長板は、広帯域対応のものが好ましい。具体的には、波長400〜600nmにおいて、リタデーション(位相差)が80度〜100度程度のものを用いると、標本の色味が変化することもなく、良好な観察が可能である。
【0053】
図7は、広帯域対応の1/4波長板の波長特性の一例を示すものであり、横軸が波長で、縦軸が発生するリタデーション(位相差)を角度で示したグラフである。一般に、1/4波長板等の位相板は、ある方向の偏光に対してそれと垂直な方向の偏光の位相を遅らせる素子であるが、通常は複屈折を利用しているため、光の波長によってその位相差が変わってしまうという特徴がある。したがって、上記の第1実施例で用いた第1の1/4波長板Q1のように、ノイズ光を2度通すことでクロスニコルによる減衰の目的で使用する場合には、波長によっては2度通過しても直線偏光に戻らないため、色づいたノイズ光が観察される場合があった。ここで、複屈折性と屈折率分布の異なる二つの物質を貼り合わせて1/4波長板を作製すると、特定の2波長において、所望の位相差を持った波長板を作ることができる。これを広帯域波長板や色消し波長板などと呼んでいる。このような特性を持つ波長板を利用すれば、白色光で反射照明観察した場合でも、殆ど全ての波長でノイズを除去することができる。
【0054】
また、本発明では、顕微鏡装置内に配置されているハーフミラー7、第1プリズム19及び第2プリズム20等の偏光特性を回避するために、照明装置を構成するアナライザAの直後(すなわち結像光学系側)にデポラライザ又は1/4波長板を配置して、結像光学系に入る信号光を非偏光又は円偏光にしておくことが好ましい。
【0055】
また、本発明では、第2のλ/4板Q2,第3のλ/4板Q3、デポラライザDなど、対物レンズ10(10´)内に挿入される各光学素子は、対物レンズ10(10´)の光軸に対して2度以上の傾きを有して配置されていることが好ましい。
【0056】
これまで説明してきた方法を用いれば、複数のレンズ群11を構成するレンズ面での反射により生じたノイズ光は除去することができる。しかしながら、上記のような(レンズ群11以外の)各光学素子は一般に平行平板形状であり、それら表面からの反射光は除去することが難しい。そこで、各光学素子を対物レンズ10(10´)の光軸に対して傾けて配置して、各光学素子の入射面や射出面で反射する光がノイズ光となって観察視野内に入るのを避けることが好ましい。
【0057】
まず、極低倍の対物レンズ10(10´)を構成する複数のレンズ群11と標本12との間に配置される素子について考察する。顕微鏡装置の対物レンズは一般に、標本側テレセントリックになっている。そのため、素子に入射する光束は主光線が光軸に平行で、対物レンズの開口数相当の頂角を持った円錐状の光束である。したがって、素子の表面で反射した光束が、光軸に対して頂角以上になるように傾けることができれば、その光束は対物レンズの瞳径を通過することができないため、像面まで到達しない。
【0058】
また、極低倍対物レンズ10(10´)の開口数は0.03程度であり、その頂角は約1.7度であるから、光軸に対して−1.7度から+1.7度までの円錐状の光束が像面まで導かれる。すなわち、素子の表面での反射光がこの円錐の外側に出るように、素子の光軸に対する傾きを決めれば良い。素子を+1.7度以上傾ければ、光軸に対して−1.7度で入射する光線の反射光でも光軸に対して+1.7度以上になるので、例えば2度以上にするとよい。
【0059】
次に、複数のレンズ群11よりレボルバ8側に配置される素子について考察する。例えば、接眼レンズ22の視野数を25とし、結像光学系を構成する第2対物レンズ18の焦点距離を200mmとした場合、対物レンズ10(10´)と第2対物レンズ18の間の光束の最大の画角は約3.6度である。すなわち、素子の表面で反射した光束が3.6度以上になるように傾ければ、その光束を観察視野外に出すことができる。したがって、素子の光軸に対する傾斜角は3.6度以上であると、広視野での観察が可能となるため、より好ましい。
【0060】
また、傾斜角の上限について考察すると、例えば、挿入する素子が偏光板や樹脂製の広帯域の波長板である場合、角度特性は比較的良くできているので、傾きを大きくしても性能への影響が少ない。しかしながら、同焦点距離が限られた対物レンズで、しかも焦点距離の長い(すなわち低倍である)場合、レンズの全長はできるだけ長い方が収差補正上都合が良い。したがって、ノイズ除去のために挿入する素子の総厚は、可能な限り薄くすることが好ましい。
【0061】
例えば、対物レンズ10(10´)の光軸に垂直に配置したときの素子群の総厚をtとし、直径をDとし、傾斜角をθとしたとき、傾けたときの素子群の総厚t’は、次式(1)で表される。
【0062】
t’=D×sinθ+t×cosθ …(1)
【0063】
ここで、対物レンズ10(10´)の同焦点距離を60mmと想定すると、レンズ設計の自由度を維持するためにも、素子群の総厚t’が対物レンズ10の同焦点距離の2割程度に抑えられるように、傾斜角θを設定することが好ましい。
【0064】
具体的には、対物レンズ10において、レボルバ8側に3種類の素子を挿入し、それぞれが基板ガラスを含め2mmの厚みで、1mmの空気間隔をとって配置した場合、光軸に垂直に配置した場合の総厚は8mmである。このような素子群を傾斜角6度で配置すると、総厚t’は次式(2)で表される。
【0065】
t’=25×sin6°+8×cos6°= 10.6[mm] …(2)
【0066】
上記のように対物レンズの同焦点距離を60mmと想定すると、上記の式(2)から分かるように、素子群の総厚t’は対物レンズ10の同焦点距離の2割近くを占めることになり、レンズ設計の自由度を確保するためにも、この場合は傾きの上限は6度程度にしておくのが好ましいと言える。
【0067】
このように、本発明では、対物レンズ10に挿入される光学素子は、ノイズ光を除去するため、対物レンズ10の光軸に対して2度以上の傾きを有して配置されることが望ましい。また、対物レンズ10に挿入する素子の総厚は、可能な限り薄くすることが好ましい。
【0068】
さらに、本発明では、照明装置を構成する第1のλ/4板Q1(Q1´)やアナライザAなど、顕微鏡装置を構成する他の光学素子(特に平行平板形状である光学素子)についても、素子の入射面や射出面で反射する光がノイズ光となって観察視野内に入るのを避けるため、光軸に対して傾き(例えば2度以上)を有して配置することが好ましい。
【0069】
また、本発明では、照明装置を構成するポラライザP、ハーフミラー7及びアナライザAに換えて、偏光ビームスプリッタを用いてもよい。なお、偏光ビームスプリッタは、装置の小型化に貢献できるプレート状でも、性能向上を図ることができるブロック状でも、どちらを用いても構わない。
【符号の説明】
【0070】
M1,M2 顕微鏡装置
L1,L2 照明装置
1 光源
9 通常の対物レンズ
10、10´ 極低倍の対物レンズ
11,11´ 複数のレンズ群
12 標本
P ポラライザ(偏光子)
A アナライザ(検光子)
Q1 第1の1/4波長板
Q2 第2の1/4波長板
Q3 第3の1/4波長板
D デポラライザ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の対物レンズを光路に対して切り換え可能な顕微鏡装置において、
光路中に固定された、光源からの光を選択的に透過する偏光子と、前記偏光子を透過した光を前記対物レンズへ偏向し且つ標本で反射した光を通過させる光路分割手段と、前記光路分割手段からの光を選択的に透過する検光子と、前記光路分割手段と前記対物レンズとの間に設けられた第1の1/4波長板とを備え、
前記偏光子と前記検光子とがクロスニコルの状態で配置され、前記第1の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された照明装置と、
前記複数の対物レンズの一つとして、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部に第3の1/4波長板とを備えた極低倍用対物レンズとを有することを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記検光子、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板及び前記第3の波長板の透過面のうち少なくとも一つは、光軸に対して2度以上傾いて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
複数の対物レンズを光路に対して切り換え可能な顕微鏡装置において、
光路中に固定された、光源からの光を選択的に透過する偏光子と、前記偏光子を透過した光を前記対物レンズへ偏向し且つ前記標本で反射した光を通過させる光路分割手段と、前記光路分割手段からの光を選択的に透過する検光子と、前記偏光子からの光が前記光路分割手段を透過する方向に設けられた第1の1/4波長板とを備え、
前記偏光子と前記検光子とがオープンニコルの状態で配置され、前記第1の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された照明装置を有することを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項4】
前記複数の対物レンズの一つとして、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部にデポラライザとを備え、前記第2の1/4波長板の速い軸が前記偏光子及び前記検光子の偏光方向のそれぞれに対して45度をなすように配置された極低倍用対物レンズを有することを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記検光子、前記第1の1/4波長板、前記第2の1/4波長板及び前記デポラライザの透過面のうち少なくとも一つは、光軸に対して2度以上傾いて配置されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記偏光子及び前記検光子に代わって、互いの偏光方向が同じになるように配置された一対の円偏光板を用いるとともに、
前記複数の対物レンズの一つとして、それぞれの速い軸が互いに平行又は直交するように配置された、前記光源側の端部に第2の1/4波長板と、前記標本側の端部に第3の1/4波長板とを備えた極低倍用対物レンズとを有することを特徴とする請求項3に記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−170042(P2011−170042A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32747(P2010−32747)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】