説明

顕微鏡装置

【課題】顕微鏡装置を用いて短時間で3次元的に分解能に優れた画像を取得することを目的とする。
【解決手段】本発明の顕微鏡装置1は、試料Sに照射されるレーザ光Lを発振する光源2と、レーザ光Lのうち試料Sの焦点の範囲内のレーザ光Lを通過させるピンホール22Pと、ピンホール22Pを通過したレーザ光Lに対して試料Sの平面方向に干渉縞を形成する空間変調を行う空間変調部10と、空間変調部19により空間変調されたレーザ光Lを試料Sに焦点を結ばせる顕微鏡光学系11と、試料Sからの戻り光を観察するカメラ13と、を備えている。レーザ光Lの光路にピンホール22Pと空間変調部10とを配置していることで、光軸方向および平面方向の3次元に高い分解能で試料Sの画像を生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察対象にレーザ光を照射して、観察対象からの戻り光を検出して観察を行う顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光色素や蛍光タンパク等を導入した試料に対してレーザ光を照射して蛍光を発生させ、発生した蛍光に基づいて試料の観察を行う顕微鏡装置が従来から用いられている。この種の顕微鏡装置の1つに、構造化照明顕微鏡(Structured Illumination Microscopy)がある。構造化照明顕微鏡は、回折格子を用いて形成した干渉縞を干渉させることにより、レイリーの限界空間周波数を超えた超解像画像を生成する。
【0003】
構造化照明顕微鏡としては非特許文献1に開示されている技術がある。この技術について図6を用いて説明する。図6は構造化顕微鏡(以下、顕微鏡装置100)を示している。顕微鏡装置100はファイバ101とコリメートレンズ102と偏光子103と回折格子104と第1結像レンズ105とダイクロイックミラー106と対物レンズ107と第2結像レンズ108とCCD109とを備えて構成している。
【0004】
ファイバ101は図示しないレーザ光源と接続され、導光されたレーザ光Lを出射する。ファイバ101から出射したレーザ光Lはコリメートレンズ102に入射する。コリメートレンズ102はファイバ101の出射端の焦点位置に設けられており、発散光としてのレーザ光Lを平行光に変換する。
【0005】
このレーザ光Lは偏光子103に入射する。偏光子103はレーザ光Lを一定の偏光方向(直線偏光)の光に変換する。偏光変換されたレーザ光Lは回折格子104に入射する。回折格子104はレーザ光Lを0次光(非回折光)と±1次光(回折光)とに回折する。回折角度は回折格子104の係数によって定まる。
【0006】
回折されたレーザ光Lは結像レンズ105に入射し、結像レンズ105を出射したレーザ光Lはダイクロイックミラー106に入射する。ダイクロイックミラー106はレーザ光Lの波長を透過し、観察対象である試料Sが蛍光した波長を反射する光学素子である。従って、レーザ光Lはダイクロイックミラー106を透過する。
【0007】
対物レンズ107に入射したレーザ光Lは試料Sで焦点を結ぶ。レーザ光Lは回折光であり、試料Sの面上で合波および干渉して周期的な強度変調を有する構造照明となる。レーザ光Lが照射されることで、試料Sに導入した蛍光色素や蛍光タンパク等が蛍光して、戻り光Rとなる。
【0008】
戻り光Rは対物レンズ107を経て、ダイクロイックミラー106に入射する。戻り光Rはダイクロイックミラー106で反射して、第2結像レンズ108に入射する。第2結像レンズ108によりCCD109に戻り光Rが集光する。
【0009】
試料Sには回折された構造照明が照射される。そして、試料Sの構造と照明構造との相互作用により、CCD109に結像される戻り光Rの像はモアレ画像となる。回折格子104には図示しない移動および回転させる機構(移動回転機構)が取り付けられており、レーザ光Lが回折された方向に1/5周期ずつ5回の平行移動を行う。そして、1回の平行移動ごとに回折格子104を120度ずつ合計3回の回転を行う。つまり、合計15回の移動および回転が行われる。
【0010】
この移動および回転が行われるごとにモアレ画像を取得する。よって、合計9枚のモアレ画像が取得される。取得した9枚のモアレ画像に対してフーリエ変換等を用いて画像処理を行うことで、「レイリーの限界空間周波数」を超える空間周波数成分を再生する。そして、この空間周波数成分を付加して画像を再構成する。再構成された画像は「レイリーの限界空間周波数」を超えた空間周波数を持つ超解像画像として生成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】"Three-Dimensional Resolution Doubling in Wide-Field Fluorescence Microscopy by Structured Illumination" Mats G.I. Gustafsson, et.al, Biophysical Journal vol 94 pp.4957-4970(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般的な構造化照明顕微鏡は「Wide-Field照明方式」と呼ばれる方式であり、試料Sの面全体を同時に照明する方式の1つである。つまり、試料S2の所定の断層の超解像化を図るものであり、所定の面内の画像を超解像にする技術である。従って、光軸方向に分解能をもたない。
【0013】
非特許文献1にも開示されているように、光軸方向に分解能を得るためには、試料Sの着目した断面について、15枚のモアレ画像を用いて複雑なアルゴリズムを適用した画像処理を行う必要がある。
【0014】
そこで、本発明は、顕微鏡装置を用いて複雑なアルゴリズムを適用した画像処理を行うことなく3次元的に分解能に優れた画像を取得することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
以上の課題を解決するため、本発明の顕微鏡装置は、観察対象に照射されるレーザ光を発振する光源と、前記レーザ光のうち前記観察対象の焦点の範囲内のレーザ光を通過させるピンホールと、このピンホールを通過したレーザ光に対して前記観察対象の前記平面方向に干渉縞を形成する空間変調を行う空間変調部と、この空間変調部により空間変調されたレーザ光を前記観察対象に焦点を結ばせる顕微鏡光学系と、前記観察対象からの戻り光を観察する観察部と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この顕微鏡装置によれば、レーザ光がピンホールを通過することにより、光軸方向の分解能が得られる。また、このレーザ光を空間変調部で空間変調しているため、平面方向の分解能を高くすることができる。これにより、レーザ光の光路に光軸方向および平面方向に分解能を高くする手段を配置しているため、3次元的に高い解像度の画像を少ない画像取得回数、つまり短時間で得ることができる。
【0017】
また、前記走査手段は、前記ピンホールを複数配列したピンホールディスクと、前記ピンホールと同じパターンで配列され、前記ピンホールに前記レーザ光を集光させる複数のレンズを配列したレンズディスクと、前記ピンホールディスクと前記レンズディスクとを一体的に回転させる回転部と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
ピンホールディスクとレンズディスクとを一体的に回転させることで、高速にレーザ光を走査させることができ、画像を短時間で取得することができるようになる。ピンホールディスクにピンホールを配列することで、光軸方向に分解能が高い共焦点画像を高速に生成することができるようになる。
【0019】
また、前記光源から発振した前記レーザ光の1方向の偏光方向に変換する偏光調整素子と、前記レーザ光の偏光方向を透過し、この偏光方向に直交する偏光方向の光を反射する偏光ビームスプリッタと、前記レーザ光を反射する前記観察対象と前記偏光ビームスプリッタとの間に設けられるλ/4波長板と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
観察対象が試料のように蛍光を放出する素材ではなく、ICチップや光ディスク等の反射体の場合には、偏光調整素子と偏光ビームスプリッタとλ/4波長板とを設けることで、3次元的に高い分解能で観察を行うことができるようになる。
【0021】
また、前記顕微鏡光学系を収納する筐体と、前記空間変調部を移動および回転する移動回転機構と、前記筐体と前記移動回転機構との間に設けられ、前記レーザ光をリレーするリレー光学系と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
移動回転機構と顕微鏡光学系を収納する筐体との間隔が近接していると、移動回転機構の移動動作および回転動作により筐体と干渉することがある。このため、リレー光学系を設けることで、移動回転機構と筐体との間隔を離間させて、干渉をなくすことができる。
【0023】
また、前記顕微鏡光学系に設けた対物レンズの開口数に同期した周期の干渉縞となるように前記観察対象の画像の倍率を変更するズームレンズを備えたことを特徴とする。
【0024】
顕微鏡の対物レンズの開口数と空間変調部により形成される干渉縞の周期とを同期させるために、ズームレンズにより倍率を変化させている。これにより、開口数と干渉縞とを同期させることができ、正確な超解像画像を得ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、光源から発振したレーザ光が観察対象に至るまでの光路にピンホールと空間変調部とを設けており、光軸方向および平面方向に高い分解能の画像を得ることができる。ピンホールを通過した光に空間変調を行っているため、少ない回数で短時間に3次元的に高分解能の画像を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態の顕微鏡装置の構成図である。
【図2】第1変形例の顕微鏡装置の構成図である。
【図3】第2変形例の顕微鏡装置の概念図である。
【図4】第3変形例の顕微鏡装置の構成図である。
【図5】第4変形例の顕微鏡装置の構成図である。
【図6】従来の顕微鏡装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本実施形態の顕微鏡装置1を示している。この顕微鏡装置1の観察対象は蛍光タンパクや蛍光色素等を導入した試料Sになり、試料Sを照明することにより蛍光を生じる。後述するように、観察対象は試料Sには限定されず、例えば反射体のようなものであってもよい。
【0028】
顕微鏡装置1は構造化照明顕微鏡(Structured Illumination Microscopy)である。この顕微鏡装置1は、光源2と集光レンズ3とファイバ入射端4とファイバ5とファイバ出射端6とコリメートレンズ7と走査部8とテレセントリック光学系9と空間変調部10と顕微鏡光学系11と撮像レンズ12とカメラ13とを備えて構成している。
【0029】
光源2はレーザ光Lを発振するレーザ光源である。レーザ光Lは試料Sに照射される光であり、試料Sに導入した蛍光タンパクや蛍光色素等が反応する波長を有している。なお、レーザ光Lではなくランプ光を用いてもよく、この場合には光源2はランプを適用する。光源2から発振されたレーザ光Lは集光レンズ3によりファイバ入射端4に集光する。
【0030】
ファイバ入射端4はファイバ5の入射端になっている。ファイバ5はレーザ光Lを導光する。ファイバ5の出射端にはファイバ出射端6が設けられており、導光されたレーザ光Lが発散光として射出する。発散光となったレーザ光Lはコリメートレンズ7に入射する。コリメートレンズ7により発散光となっているレーザ光Lは平行光に変換される。このために、コリメートレンズ7の焦点位置にファイバ出射端6を配置している。コリメートレンズ7により平行光になったレーザ光Lは走査部8に入射する。
【0031】
走査部8はレーザ光Lを平面方向に走査する走査手段であり、レンズディスク21とピンホールディスク22と連結ドラム23とダイクロイックミラー24とを有して構成している。レンズディスク21は複数のレンズ(マイクロレンズ)21Rを配列した円盤状のディスクである。レンズディスク21には複数のレンズ21Rが螺旋状に多条に配列されている。各レンズ21Rはレーザ光Lを集光させる機能を有している。
【0032】
ピンホールディスク22は複数のピンホール22Pを配列した円盤状のディスクである。ピンホールディスク22にはレンズディスク21に形成されている各レンズRと同じパターンでピンホール22Pを配列している。つまり、多条の螺旋状のパターンで配列している。且つ、ピンホール22Pはレンズ21Rの集光位置に形成されている。ピンホール22Pはレーザ光Lおよび後述する戻り光Rが通過する微小開口部であり、試料Sの焦点の範囲内の光のみが通過するようになっている。これにより、光軸方向に分解能の高い共焦点顕微鏡として顕微鏡装置1を用いることができる。
【0033】
レンズディスク21とピンホールディスク22とは連結ドラム23に一体的に取り付けられている。連結ドラム23は図示しないモータに接続されており、モータの回転力が連結ドラム23に付与される。これにより、レンズディスク21とピンホールディスク22とは一体的に回転を行う。
【0034】
レンズディスク21とピンホールディスク22との間、つまりレンズ21Rとピンホール22Pとの間にダイクロイックミラー24を配置している。ダイクロイックミラー24は所定の波長域の光を透過し、所定の波長域の光を反射する。ここでは、レーザ光Lの波長の光を透過させ、後述する戻り光Rの波長の光を反射する特性を有しているものとする。よって、レンズRを通過したレーザ光Lはダイクロイックミラー24を透過して、ピンホール22Pに入射する。
【0035】
走査部8を通過したレーザ光Lは試料Sの焦点の範囲内のみの光となって、テレセントリック光学系9に入射する。テレセントリック光学系9は第1リレーレンズ25と第2リレーレンズ26とを有している。第1リレーレンズ25はレンズRの焦点位置に設けられており、レンズRにより発散光となったレーザ光Lが第1リレーレンズ25に入射する。
【0036】
第1リレーレンズ25は発散光となっているレーザ光Lを平行光に変換して、第2リレーレンズ26に出射する。第2リレーレンズ26は平行光となっているレーザ光Lを集光させる。第1リレーレンズ25と第2リレーレンズ26との間の間隔は、両者のレンズの焦点距離の合計になる。
【0037】
第2リレーレンズ26により集光されるレーザ光Lの位置に空間変調部10を配置している。空間変調部10はレーザ光Lに対して空間変調(強度変調または位相変調)を行う。この空間変調を行うことで、レーザ光Lに明暗の干渉縞を発生させる。空間変調部10としては例えば回折格子を適用することができる。この空間変調部10には回転移動機構27が取り付けられており、回転移動機構27により空間変調部10を回転および移動させることができる。
【0038】
空間変調部10としては、例えば透過率を周期的に高低に変化させるパターンを形成し、或いはガラス素材の厚みを周期的に変化させるパターンを形成してもよい。いずれにしても、空間変調部10は所定の平面形状を有しており、明暗の干渉縞を発生させるパターンを形成している。この空間変調部10には走査部8により走査されたレーザ光Lが入射する。このとき、空間変調部10の所定範囲をレーザ光Lが走査されるが、レーザ光Lの走査範囲の全範囲をカバーするような平面を空間変調部10に持たせるようにする。
【0039】
空間変調部10により空間変調がされたレーザ光Lは顕微鏡光学系11に入射する。顕微鏡光学系11は結像レンズ28と対物レンズ29とを有している。結像レンズ28は発散光となっているレーザ光Lを所定傾きの平行光に変換する。結像レンズ28により平行光となったレーザ光Lは対物レンズ29により試料Sに焦点を結ぶ。従って、対物レンズ29の焦点位置に試料Sを配置している。
【0040】
試料Sは図示しないディッシュ等に搭載されており、レーザ光Lが試料Sで焦点を結ぶことにより、蛍光する。この蛍光が戻り光Rとなって、レーザ光Lと同じ光路を戻っていく。試料Sに照射されるレーザ光Lは空間変調部10により空間変調がされており、試料Sにおいて周期的な強度変調を有する構造照明として照射される。
【0041】
試料Sはレーザ光Lを吸収することにより、蛍光を戻り光Rとして放出する。この戻り光Rは対物レンズ29により捕捉されて、結像レンズ28を介して、空間変調部10に入射して空間変調の作用を受ける。そして、テレセントリック光学系9を通過して、ピンホールディスク22のピンホール22Pからダイクロイックミラー24に入射する。つまり、戻り光Rはレーザ光Lと同じ光路を辿ってダイクロイックミラー24まで導かれる。
【0042】
ダイクロイックミラー24は戻り光Rを反射する光学特性を有しているため、戻り光Rを側方に反射する。そして、撮像レンズ12により観察部としてのカメラ13の撮像面に集光する。なお、ピンホールディスク22の表面とカメラ13の撮像面とは共役面となる関係になっている。
【0043】
以上が構成である。次に、動作について説明する。光源2からレーザ光Lを発振する。このレーザ光Lはファイバ入射端4からファイバ5を導光され、ファイバ出射端6から出射する。そして、コリメートレンズ7により平行光に変換されて、走査部8に入射する。
【0044】
走査部8は連結ドラム23に回転力を付与することで、レンズディスク21とピンホールディスク22とが一体的に回転する。レンズ21Rとピンホール22Pとは多条の螺旋状のパターンで配列されており、且つ両者は対応した位置関係になっている。よって、レンズディスク21とピンホールディスク22とが一体的に回転することにより、試料Sに照射されるレーザ光Lの位置が高速に変化する。これにより、試料Sの平面方向(光軸に直交する方向)にレーザ光Lを走査することができる。
【0045】
ピンホール22Pを通過したレーザ光Lは試料Sの焦点の範囲内の光のみが通過している。つまり、カメラ13に集光した戻り光Rの像に基づく画像は共焦点画像になる。従って、レーザ光Lの光軸方向に高い分解能の画像を得ることができるようになる。ピンホールディスク22が回転して、レーザ光Lは走査されることになるが、いずれにしてもピンホール22Pを通過するため、カメラ13が受光される像に基づく画像は必ず光軸方向に高い分解能の共焦点画像になる。
【0046】
このピンホール22Pを通過したレーザ光Lは、テレセントリック光学系9を介して空間変調部10に入射する。つまり、光軸方向に高い分解能を持つ共焦点画像を生成するレーザ光Lが空間変調部10に入射する。空間変調部10は明暗の干渉縞を発生し、顕微鏡光学系11の対物レンズ29により試料Sに焦点を結ぶ。これにより、明暗の干渉縞を持つレーザ光Lが試料Sの焦点において合波および干渉されて、周期的な強度変調を有する構造照明となる。
【0047】
試料Sはレーザ光Lにより蛍光して戻り光Rを発生するが、この戻り光Rの像の周波数と構造照明の像の周波数とが重畳することにより、カメラ13で取得される画像はモアレ画像となる。このとき、このモアレ画像はピンホール22Pを通過した共焦点画像を生成するためのレーザ光Lを用いた画像になっており、つまり光軸方向に高い分解能を有している。
【0048】
従って、カメラ13ではモアレ画像が取得される。このモアレ画像は、空間変調部10が1つの状態のときに得られる画像である。空間変調部10には回転移動機構27が取り付けられている。従って、空間変調部10は回転および移動が可能になっている。空間変調部10を回転または移動を行うことにより、レーザ光Lに発生する干渉縞の位置および方向が変化する。
【0049】
1枚のモアレ画像が取得された後に、回転移動機構27は120度だけ空間変調部10を回転する。これにより、干渉縞の方向を120度回転させることができる。この状態で、レーザ光Lを用いてモアレ画像を取得する。そして、干渉縞の方向をさらに120度回転させて、モアレ画像を取得する。これにより、3枚のモアレ画像(それぞれ120度ずつ干渉縞を回転させたときの画像)が得られる。
【0050】
その後、回転移動機構27は空間変調部10を120度回転させて、最初の角度に戻す。そして、干渉縞の縞方向に1/5周期だけ空間変調部10を移動させる。これにより、干渉縞の位置(位相)を1/5周期ずらすことができる。この状態で、モアレ画像を取得する。
【0051】
この後に、回転移動機構27が空間変調部10を120度ずつ回転させて、それぞれのモアレ画像を取得する。さらに、回転移動機構27は空間変調部10を1/5周期だけずらして、120度ずつ回転させて、それぞれのモアレ画像を取得する。以上の動作を5回繰り返すことで、合計15枚のモアレ画像が取得される。なお、1回の移動ごとに3回の回転を行うのではなく、1回の回転ごとに5回の移動を行うようにしてもよい。
【0052】
カメラ13には図示しない画像処理手段が接続されており、取得した15枚のモアレ画像が出力される。そして、当該画像処理手段は15枚のモアレ画像に対してフーリエ変換を行って、画像処理を行う。これにより、試料Sの平面方向の分解能を高くすることができる。つまり、15枚のモアレ画像に対して画像処理を行うことで、「レイリーの限界空間周波数」を超えた平面方向に極めて高い分解能を有する超解像画像を生成することができる。
【0053】
15枚のモアレ画像は、ピンホール22Pを通過したレーザ光Lを用いており、つまり15枚のモアレ画像は共焦点画像になっている。従って、光軸方向に高い分解能を有する画像になっている。そして、15枚のモアレ画像を重畳する画像処理を行うことで、平面方向においても高い分解能を有する画像になっている。つまり、3次元的に高い分解能の画像を得ることができる。
【0054】
ピンホール22Pを通過したレーザ光Lを空間変調部10に入射させている。つまり、レーザ光Lの光路に対して光軸方向に高い分解能を得るためのピンホール22Pおよび平面方向に高い分解能を得るための空間変調部10を配置している。従って、各モアレ画像は光軸方向に高い分解能の共焦点画像となっており、9枚のモアレ画像を処理するだけで平面方向だけでなく光軸方向にも高い分解能の画像を得ることができる。
【0055】
本実施形態では、ピンホール22Pを通過したレーザ光Lを空間変調部10に入射させていることで、着目した平面の上下の平面の画像を得ることなく、光軸方向に高い分解能の画像を得ることができる。これにより、複雑なアルゴリズムを適用した画像処理を行うことなく3次元的に分解能の高い画像を取得することができる。
【0056】
本実施形態では、レーザ光Lを試料Sの平面方向に走査させる手段として走査部8を用いているが、試料Sの平面方向に走査させることができれば任意の手段を用いてもよい。例えば、ガルバノミラーを用いて平面方向にレーザ光Lを走査させるようにしてもよい。ただし、空間変調部10はガルバノミラーにより走査された後のレーザ光Lが入射する位置に配置する。
【0057】
次に、第1変形例について説明する。図2は第1変形例の顕微鏡装置1を示している。図1で示した顕微鏡装置1とは異なり、コリメートレンズ7と走査部8との間に偏光調整素子31を設けている。また、ダイクロイックミラー24に代えて偏光ビームスプリッタ32を設けており、テレセントリック光学系9の第1リレーレンズ25と第2リレーレンズ26との間にλ/4波長板33を追加している。その他の構成は図1の顕微鏡装置1と同じである。
【0058】
また、この第1変形例では、観察対象は蛍光色素や蛍光タンパク等を導入した試料Sではなく、反射体S1であるものとする。この反射体S1としては、例えばICチップの表面や光ディスク等を適用することができ、レーザ光Lを高い反射率で反射する素材であれば、任意の素材を観察対象とすることができる。
【0059】
偏光調整素子31はレーザ光Lの偏光方向を1つの偏光方向(直線偏光)となるように調整する。例えば、λ/2波長板や偏光板等のように1つの偏光面を振動する光に変換する。このときのレーザ光Lの偏光方向は偏光ビームスプリッタ32の透過率が最大となる偏光方向と一致させる。
【0060】
偏光ビームスプリッタ32は所定の偏光方向の光を透過し、この偏光方向に直交する偏光方向の光を反射する光学素子である。偏光ビームスプリッタ32は偏光調整素子31により調整された偏光方向のレーザ光Lを透過し、直交する方向の偏光方向(戻り光R)を反射する。
【0061】
λ/4波長板33は直線偏光を円偏光に変換する光学素子である。λ/4波長板33は第1リレーレンズ25の焦点位置に配置される。λ/4波長板33はレーザ光Lの偏光面を45度回転させる機能を有している。これにより、λ/4波長板33を透過したレーザ光Lは直線偏光から円偏光になる。
【0062】
この円偏光となったレーザ光Lは顕微鏡光学系11により反射体S1に入射する。反射体S1はレーザ光Lを反射する。これにより、戻り光Rが発生する。この戻り光Rは顕微鏡光学系11を通って、再びλ/4波長板33に入射する。これにより、戻り光Rは円偏光から直線偏光に変換される。このとき、戻り光Rの偏光面は再び45度回転する。これにより、λ/4波長板33を透過した戻り光Rは円偏光から直線偏光になる。且つ、もともとのレーザ光Lから見ると、偏光面が90度回転した状態になる。
【0063】
この戻り光Rは偏光ビームスプリッタ32に入射する。戻り光Rはレーザ光Lのときから偏光面が90度回転しており、つまり偏光方向が直交している。このため、偏光ビームスプリッタ32で戻り光Rが反射する。そして、カメラ13に戻り光Rが集光することで、画像が得られる。このとき、レーザ光Lはピンホール22Pを通過しており、空間変調部10の作用を受けていることから、生成される画像は3次元的に高い分解能を持つ画像になっている。
【0064】
従って、この第1変形例では、試料Sのように蛍光する素材を観察対象とするのではなく、反射体S1を観察対象としている。偏光調整素子31、偏光ビームスプリッタ32、λ/4波長板33を設けるだけで、ICチップや光ディスク等の反射体S1を観察対象とすることができる。
【0065】
次に、第2変形例について説明する。第2変形例では、図3に示すように多段レンズ系41と筐体42とを備えている。多段レンズ系41はテレセントリック光学系9と空間変調部10とリレー光学系43とを備えている。筐体42は内部に顕微鏡光学系11を収納しているケースである。
【0066】
多段レンズ系41のリレー光学系43はテレセントリック光学系9と同じ構成となっている。つまり、第1リレーレンズ44と第2リレーレンズ45とを備えている。空間変調部10により空間変調の作用を受けたレーザ光Lは第1リレーレンズ44により平行光にされて、第2リレーレンズ45により集光する光に変換される。
【0067】
従って、レーザ光Lに対して格別の作用を及ぼすことはないが、空間変調部10と筐体42との間に所定の間隔を設けるようにしている。つまり、空間変調部10と筐体42との間にリレー光学系43を設けることで、空間変調部10と筐体42との間は離間する。
【0068】
空間変調部10には回転移動機構27が取り付けられており、空間変調部10を移動および回転させる。このときに、空間変調部10と筐体42との間が近接していると、回転移動機構27が空間変調部10を移動または回転させるときに筐体42と物理的に干渉する。そこで、単に2枚のレンズを配置したリレー光学系43を介在させることで、回転移動機構27と筐体42との間で干渉を生じることがなくなる。
【0069】
この点から、リレー光学系43は1つだけを設けてもよいが、複数のリレー光学系43を設けるようにしてもよい。ただし、リレー光学系43の個数を増やすと、その分だけレーザ光Lおよび戻り光Rの光路長が長くなり、光量損失等の問題を生じる。そこで、リレー光学系43は1つだけを設けることが望ましい。
【0070】
次に、第3変形例について説明する。この第3変形例では、図4に示すように、リレー光学系43にズームレンズ46を追加している。このズームレンズ46は光軸方向に移動可能になっており、カメラ13に撮像される画像の倍率を調整する。その他の点は、前述した第2変形例と同じである。
【0071】
顕微鏡光学系11の対物レンズ29は所定の開口数(NA)を有している。一方、空間変調部10はレーザ光Lに明暗の干渉縞を発生させる。この干渉縞は周期的な明暗のパターンになっている。この明暗の干渉縞の周期によって試料Sで相互に干渉を生じるが、対物レンズ29の開口数により干渉の効果が変化する。
【0072】
干渉縞の周期が対物レンズ29の開口数と同期していれば、干渉縞を相互に高く干渉させることができ、モアレ画像の周期を短くすることができる。一方、干渉縞の周期が対物レンズ29の開口数と同期していなければ、干渉縞を相互に高く干渉させることができず、所望のモアレ画像を取得できない。
【0073】
そこで、対物レンズ29の開口数に同期した干渉縞の周期とするために、ズームレンズ46を設けている。ズームレンズ46は空間変調部10の後段側に設けられており、空間変調がされたレーザ光Lに作用して、拡大率を変化させる。これにより、試料Sに照射される構造照明の周波数を任意に調整することができる。
【0074】
ズームレンズ46は光軸方向に移動可能になっており、対物レンズ29の開口数に同期した干渉縞の周期となるように倍率を変更する(ズームレンズ46の位置を変化させる)。これにより、対物レンズ29の開口数と干渉縞の周期とが同期することで、試料Sにおいて大きく干渉させることができ、短い周期のモアレ画像を得ることができる。つまり、超解像画像を得ることができる。
【0075】
次に、第4変形例について説明する。図5は第4変形例を示している。図5の光路分離光学系50はピンホールディスク22と顕微鏡光学系11との間に設けられている。つまり、図3の第2変形例で説明した多段レンズ系41と同じ位置に設けられている。
【0076】
光路分離光学系50は第1リレーレンズ51と第1ダイクロイックミラー52と第2リレーレンズ53と第3リレーレンズ54と第1反射ミラー55と第2ダイクロイックミラー56と第4リレーレンズ57と第5リレーレンズ58と光路長調整素子59と第6リレーレンズ60と第2反射ミラー61とを備えて構成している。
【0077】
第1リレーレンズ51はピンホールディスク22のピンホール22Pを通過したレーザ光Lを平行光に変換する。第1リレーレンズ51により平行光となったレーザ光Lは第1ダイクロイックミラー52に入射する。第1ダイクロイックミラー52はレーザ光Lの波長の光を透過させ、戻り光Rの波長の光を反射させる特性を有している。よって、レーザ光Lは第1ダイクロイックミラー52を透過する。
【0078】
透過したレーザ光Lは第2リレーレンズ53により空間変調部10に集光し、空間変調部10の空間変調の作用を受けて、第3リレーレンズ54に入射する。第3リレーレンズ54によりレーザ光Lは平行光になって、第1反射ミラー55で反射する。反射したレーザ光Lは第2ダイクロイックミラー56に入射する。
【0079】
第2ダイクロイックミラー56はレーザ光Lを反射させ、戻り光Rを透過させる特性を有している。よって、レーザ光Lは反射して、第4リレーレンズ57に入射する。第4リレーレンズ57を透過したレーザ光Lは発散光となって顕微鏡光学系11に入射する。試料Sからは戻り光Rが発生し、顕微鏡光学系11から第4リレーレンズ57に入射する。
【0080】
第4リレーレンズ57により戻り光Rは平行光になって、第2ダイクロイックミラー56に入射する。第2ダイクロイックミラー56では戻り光Rは透過する。そして、第5リレーレンズ58により戻り光Rは光路長調整素子59に集光する。光路長調整素子59は光路長を調整する光学ウィンドウであり、空間変調部10と同じ光路長を戻り光Rに与える。
【0081】
第6リレーレンズ60は光路長調整素子59により光路長が調整された戻り光Rを平行光にして、平行光となった戻り光Rが第2反射ミラー61で反射する。反射した戻り光Rは第1ダイクロイックミラー52に入射する。第1ダイクロイックミラー52では戻り光Rは反射するため、反射した戻り光Rがピンホールディスク22のピンホール22Pに向かう。
【0082】
前述してきた例では、レーザ光Lと戻り光Rとの両者が空間変調部10の空間変調作用を受けている。従って、戻り光Rが空間変調を受けたときに試料Sの超解像画像を生成できるように画像処理を行う必要がある。この画像処理を行うシステムをカメラ13に接続される画像処理部に持たせる。
【0083】
一方、レーザ光Lのみに空間変調部10を作用させることを前提としたシステムにおいては、戻り光Rが空間変調を受けた場合に、正確な画像処理を行うことができなくなる。そこで、第1ダイクロイックミラー52および第2ダイクロイックミラー56でレーザ光Lと戻り光Rとを分離、合成することで、レーザ光Lと戻り光Rとの光路を部分的に分離することができる。そして、レーザ光Lのみの光路に空間変調部10を配置することで、レーザ光Lに対してのみ空間変調を作用させることができるようになる。
【符号の説明】
【0084】
1 顕微鏡装置
2 光源
8 走査部
9 テレセントリック光学系
10 空間変調部
11 顕微鏡光学系
12 撮像レンズ
13 カメラ
21 レンズディスク
21R レンズ
22 ピンホールディスク
22P ピンホール
24 ダイクロイックミラー
27 回転移動機構
31 偏光調整素子
32 偏光ビームスプリッタ
33 λ/4波長板
41 多段レンズ系
42 筐体
43 リレー光学系
46 ズームレンズ
50 光路分離光学系
52 第1ダイクロイックミラー
56 第2ダイクロイックミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象に照射されるレーザ光を発振する光源と、
前記レーザ光のうち前記観察対象の焦点の範囲内のレーザ光を通過させるピンホールと、
このピンホールを通過したレーザ光に対して前記観察対象の前記平面方向に干渉縞を形成する空間変調を行う空間変調部と、
この空間変調部により空間変調されたレーザ光を前記観察対象に焦点を結ばせる顕微鏡光学系と、
前記観察対象からの戻り光を観察する観察部と、
を備えたことを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記ピンホールを複数配列したピンホールディスクと、
前記ピンホールと同じパターンで配列され、前記ピンホールに前記レーザ光を集光させる複数のレンズを配列したレンズディスクと、
前記ピンホールディスクと前記レンズディスクとを一体的に回転させる回転部と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記光源から発振した前記レーザ光の1方向の偏光方向に変換する偏光調整素子と、
前記レーザ光の偏光方向を透過し、この偏光方向に直交する偏光方向の光を反射する偏光ビームスプリッタと、
前記レーザ光を反射する前記観察対象と前記偏光ビームスプリッタとの間に設けられるλ/4波長板と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記顕微鏡光学系を収納する筐体と、
前記空間変調部を移動および回転する移動回転機構と、
前記筐体と前記移動回転機構との間に設けられ、前記レーザ光をリレーするリレー光学系と、
を備えたことを特徴とする請求項2記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記顕微鏡光学系に設けた対物レンズの開口数に同期した周期の干渉縞となるように前記観察対象の画像の倍率を変更するズームレンズを備えたこと
を特徴とする請求項4記載の顕微鏡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11728(P2013−11728A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144187(P2011−144187)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】