説明

飛散状態評価用模擬粉体及びこれを用いた粉体の飛散状態評価方法

【課題】粉体の飛散状態を高精度且つリアルタイムで効率よく評価することを可能にする飛散状態評価用模擬粉体及びこれを用いた粉体の飛散状態評価方法を提供する。
【解決手段】少なくとも蛍光発光物質を含み、粒径を0.5〜15μmにして飛散状態評価用模擬粉体を形成する。また、飛散状態評価用模擬粉体は核粒子の表面に蛍光発光物質を設けて形成してもよい。そして、粉体の代わりに飛散状態評価用模擬粉体を用いて粉体の取扱い作業を行い、検出装置1によって評価対象空間Hの空気中の飛散状態評価用模擬粉体を蛍光発光させて蛍光発光量を計測し、予め作成した検量線と、計測した蛍光発光量を対比して飛散状態評価用模擬粉体の気中濃度を求めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、高薬理活性医薬品などの人体に影響を及ぼす粉体の製造設備や研究開発設備からの飛散状態を評価するために用いる飛散状態評価用模擬粉体及びこれを用いた粉体の飛散状態評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗がん剤等の少量で人体に強い薬効作用を与える高薬理活性医薬品の製造・取扱い施設では、原料、製品、装置、設備などの品質管理を徹底するとともに、装置や設備に対し、高度な医薬品粉体の封じ込め(飛散防止)対策を施して、コンタミネーション、作業者の健康被害、環境汚染を防止することが必要とされる。
【0003】
そして、一般に、物理的に囲繞された装置の内部空間(アイソレータ)で種々の作業を行うようにしているが、コストダウンやフレキシブルな生産体制の必要性などから、クリーンブースのようなセミオープンな設備で、コンタミネーション、作業者の健康被害、環境汚染を確実に防止しつつ作業を行えるようにすることが強く望まれている。
【0004】
一方、製造、研究開発の現場では、医薬品粉体の飛散性を把握し、現地環境での封じ込め状態を測定・解析する技術が不可欠とされる。そして、医薬品粉体の飛散性評価や封じ込め評価(粉体の飛散状態評価)を行う際に、薬理活性の高い医薬品そのものを使用すると、皮膚への付着や吸引などによって作業者に悪影響が生じるおそれがある。このため、通常、安全性の高い代替粉末を模擬粉体とし、この模擬粉体を使用することによって評価を行うようにしている。
【0005】
例えば、非特許文献1には、人間に無害で、水に溶けやすく、安定性が良好であるため、模擬粉体としてラクトース(乳糖)の粉体を用いることが推奨されている。そして、通常、ラクトースを用いて作業を行うとともに測定対象施設内でサンプリングを行い、これを分析施設に搬送して高速液体クロマトグラフなどの装置で分析して評価を行うようにしている。しかしながら、このように、非特許文献1に示されたラクトースを模擬粉体とした場合には、定量分析に高価で大がかりな装置が必要になり、また、煩雑な作業が必要になるため、対象施設内で、短時間で評価が行えないという不都合があった。
【0006】
これに対し、特許文献1に、粉体の飛散状態評価を行うにあたり、特定粒径のアデノシン5’−三リン酸(ATP)粉体を模擬粉体として利用する発明が開示されている。この特許文献1では、受容用シートを対象範囲内に設置し、ATP粉体を使用して現地で日常的に実施されている秤量や回収などの作業を行う。そして、作業終了後に受容用シートを回収し、飛散してシート表面に付着したATP量を専用の検出装置で簡易に測定して評価を行う。このため、ラクトースを模擬粉体に用いる場合と比較し、大がかりな装置や煩雑な作業を必要とせず、対象施設内で、短時間で評価を行うことが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ISPE(The International Society for Pharmaceutical Engineering Inc.)Good Practice Guide 制約機器の粒子封じ込め(コンテイメント)性能評価ガイドライン、SMEPAC委員会編、ISBN 1−931879−51−6
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−276468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、製造、研究開発の現場で高薬理活性医薬品などの粉体の飛散状態(飛散性、封じ込め性)の評価を行う場合、作業の実施とともにリアルタイムで粉体の飛散状態を目視などで把握し、飛散性や封じ込め性を直ちに解析できることが理想である。しかしながら、ATP粉体を模擬粉体として用いる場合においても、サンプリングと分析結果の判明までに時間差があるため、やはり作業の実施とともにリアルタイムで飛散状態を把握することは困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、粉体の飛散状態を高精度且つリアルタイムで効率よく評価することを可能にする飛散状態評価用模擬粉体及びこれを用いた粉体の飛散状態評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0012】
本発明の飛散状態評価用模擬粉体は、粉体の飛散状態を評価するために前記粉体の代わりに用いる飛散状態評価用模擬粉体であって、少なくとも蛍光発光物質を含み、粒径を0.5〜15μmにして形成されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の飛散状態評価用模擬粉体においては、核粒子の表面に蛍光発光物質を設けて形成されてもよい。
【0014】
本発明の粉体の飛散状態評価方法は、粉体の代わりに上記のいずれかの飛散状態評価用模擬粉体を用いて前記粉体の飛散状態を評価する粉体の飛散状態評価方法であって、前記粉体の代わりに前記飛散状態評価用模擬粉体を用いて前記粉体の取扱い作業を行い、検出装置によって評価対象空間の空気中の前記飛散状態評価用模擬粉体を蛍光発光させて蛍光発光量を計測し、予め作成した検量線と、計測した蛍光発光量を対比して前記飛散状態評価用模擬粉体の気中濃度を求めるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法においては、検出装置によって評価対象空間の空気中の飛散状態評価用模擬粉体の蛍光発光物質を蛍光発光させ、蛍光発光量を計測することによって、飛散状態評価用模擬粉体の気中濃度を求めることが可能になる。これにより、従来の模擬粉体としてラクトースを使用し、高速液体クロマトグラフで分析する方法と比べ、簡易に現地でリアルタイムに粉体の飛散性評価、装置・設備の封じ込め性評価を行うことが可能になる。
【0016】
また、粒径を0.5〜15μmにして形成することで、高薬理活性医薬品などの実薬に近い粒度分布や密度を有する飛散状態評価用模擬粉体とすることができ、このような飛散状態評価用模擬粉体を使用することで、より正確な評価が可能になる。
【0017】
よって、本発明の飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法によれば、粉体の飛散状態を高精度且つリアルタイムで効率よく評価することが可能になる。これにより、製造・研究開発現場の生産性向上を図ることが可能になる。また、飛散状態評価作業に要するコストを低減することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る粉体の飛散状態評価方法を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る粉体の飛散状態評価方法において、蛍光発光物質を含む粉体(粒子)のモニタリング結果の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る飛散状態評価用模擬粉体の形成方法の一例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る飛散状態評価用模擬粉体の形成方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1から図4を参照し、本発明の一実施形態に係る飛散状態評価用模擬粉体及びこれを用いた粉体の飛散状態評価方法について説明する。ここで、本実施形態は、抗がん剤等の少量で人体に強い薬効作用を与える高薬理活性医薬品の製造施設や研究開発施設(取扱い施設)などにおいて、この高薬理活性医薬品の飛散性、封じ込め性(粉体の飛散状態)を評価するための飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法に関するものである。なお、本発明は、高薬理活性医薬品の粉体に限らず、あらゆる粉体の飛散状態を評価するために適用可能である。
【0020】
はじめに、本実施形態の粉体の飛散状態評価方法では、高薬理活性医薬品粉体の代わりに、飛散状態評価用模擬粉体(以下、模擬粉体という)として蛍光発光物質であるリボフラビン(ビタミンB2)を使用する。リボフラビンは、水溶性のビタミンであり人体には無害であることから、製造施設や研究開発施設などで模擬粉体として使用しても問題はない。
【0021】
また、本実施形態の粉体の飛散状態評価方法では、このリボフラビンの蛍光発光量をオンサイトで検出できる装置を利用することによって、その飛散状態をリアルタイムで測定する。リボフラビンの蛍光発光量をオンサイトで検出できる検出装置としては、例えば、Bio Vigilant System社製のリアルタイム細菌ディテクタ(Instantaneous Microbial DetectionTM)、TSI社製のウルトラバイトレット空気動力学的パーティクルサイザー(Model 3314)などが挙げられる。
【0022】
このような検出装置は、パーティクルカウンターとして、粒径が0.5〜15μm程度の粒子(粉体)の空気中の濃度を測定できる。また、これと同時に、蛍光発光物質を含む粒子に短波長レーザを照射することによって自家発光させ、短波長レーザの照射による蛍光発光量を計測する。そして、予め作成して記憶された検量線と、計測した蛍光発光量を対比して、粒子の気中濃度(粒子量、蛍光発光物質量)を測定することができる。
【0023】
より具体的に、本実施形態の粉体の飛散状態評価方法で、高薬理活性医薬品粉体の飛散状態の評価を行う際には、上記の検出装置1を、例えば図1に示すように、作業ブース(秤量ブース)2の内部2a、ブース外部2bなどの評価対象空間Hに設置したり、検出装置1に接続したサンプリング用チューブ3を内部2a、外部2bなどの評価対象空間Hの各ポイントまで配管する。
【0024】
次に、飛散状態評価用模擬粉体としてリボフラビンを使用し、作業者は、例えば秤量や詰め替え、回収などの日常実施している作業(粉体の取扱い作業)を行う。また、このように作業者が作業を行うとともに、リアルタイムで検出装置1によって評価対象空間Hの内部2a、外部2bの各ポイントで蛍光発光量を検出する。そして、パソコン4などによって、予め作成された検量線とこの蛍光発光量を対比し、リボフラビン(飛散状態評価用粉体)の気中濃度を求める。そして、本実施形態では、予め設定された高薬理活性医薬品(粉体)の許容曝露管理量と、リボフラビン(飛散状態評価用模擬粉体)の気中濃度を対比して評価を行う。さらに、計測した気中濃度や許容曝露管理量をリアルタイムで表示装置4に表示させる。
【0025】
図2は、上記の検出装置1を用いて出力されるデータの一例を示しており、空気中に浮遊する粒子の中で特に蛍光発光物質を含む粒子(飛散状態評価用粉体)がモニタリングされ、この図では、粒子径が1〜2μmで百数十個/cmが検出されている。
【0026】
そして、粒子形状が球形で密度を1g/cmと仮定した場合、直径1μmの粒子が1個/cm検出されたときの気中濃度(検出下限)は0.52μg/mと試算される。このため、薬理活性の特に高い医薬品の許容曝露管理量(OEL:Occupational Exposure Limits)は通例1μg/m以下とされているので、本実施形態の模擬粉体、粉体の飛散状態評価方法は、高薬理活性医薬品を対象とした装置・設備の飛散状態の評価に適用できるといえる。
【0027】
また、サンプリングの間隔は、粒子濃度にもよるが、通常30〜60秒間隔である。この間隔でほぼリアルタイムに気中の蛍光発光量、物質量がモニタリングできる。よって、蛍光発光量の違いから、図1に示す秤量ブース2の内部2a、外部2bなど、評価対象空間Hの封じ込め性(飛散状態)が評価できる。
【0028】
ここで、本実施形態では、蛍光発光物質としてリボフラビンを用いるものとしたが、検出装置1により蛍光発光する物質であれば適用可能であり、特にリボフラビンに限定する必要はない。例えば、他の蛍光発光物質として、NADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(nicotinamide adenine dinucleotide)が挙げられる。また、蛍光ポリスチレンマイクロスフェア等も製造や研究開発に支障のない範囲で活用できる。
【0029】
さらに、模擬粉体の粒径は検出装置1の検出領域であればよいが、本実施形態では、粒径を0.5〜15μmとして模擬粉体を形成する。これにより、高薬理活性医薬品などの実薬に近い粒度分布や密度を有する模擬粉体となり、このような模擬粉体を使用することで、より正確な評価が行える。
【0030】
さらに、模擬粉体に要求される特徴として、製品の生産や研究開発に使用される実薬に近い粉体物性、特に類似した粒径分布やそれに起因した飛散性を持つことが必要である。そして、リボフラビンやNADHについても、図3に示すように、分級操作(ふるい分け)や混合によって、実薬と同様の粒度分布に調整することが望ましい。すなわち、粒度分布の幅の広い粉体を分級によって粒度分布の幅を狭くしても良いし、逆に、粒度分布の幅の狭い粉体を混合し、分布の広い粉体を調整しても良い。
【0031】
さらに、模擬粉体粒子の密度の調節は飛散性に大きく影響することから、その制御が重要になる。実薬に近い密度に調整する方法として、図4に示すように、粒子密度の小さい(軽い)粒子、例えば、中空や多孔質の粒子、逆に粒子密度の大きな(重い)粒子、例えば、金属酸化物微粒子などを使用することが挙げられる。すなわち、これらの粒子を核粒子5として、その表面に蛍光発光物質の微粒子6を複合化させて、模擬粉体7を形成してもよい。これにより、実薬に近い密度を持ち、且つ蛍光発光による検出が可能な模擬粉体7が得られる。具体的には、乾式粒子複合化技術など(例えば、奈良機械製作所製のハイブリタイザー、ホソカワミクロン社製のメカノフュージョンシステムなど)を利用して、核粒子5と蛍光発光物質6を複合化した模擬粉体7を形成することができる。
【0032】
なお、このとき、複合化装置内を冷却することや、窒素やヘリウムといった不活性ガスで置換しながら処理することが蛍光発光物質6の変質を抑制し発光強度を維持する方法として効果的である。
【0033】
また、蛍光発光物質6は、一般に、例えば1gあたり1000円〜5000円と高価である。このため、上記のように核粒子5と蛍光発光物質6を複合化して模擬粉体7を形成することで、蛍光発光物質6の使用量を削減することができ、評価作業(検出作業)のコストを低減することが可能になる。
【0034】
したがって、本実施形態の飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法においては、検出装置1によって評価対象空間Hの空気中の飛散状態評価用模擬粉体の蛍光発光物質を蛍光発光させ、蛍光発光量を計測することによって、飛散状態評価用模擬粉体の気中濃度を求めることが可能になる。これにより、従来の模擬粉体としてラクトースを使用し、高速液体クロマトグラフで分析する方法と比べ、簡易に現地でリアルタイムに粉体の飛散性評価、装置・設備の封じ込め性評価を行うことが可能になる。
【0035】
また、粒径を0.5〜15μmにして形成することで、高薬理活性医薬品などの実薬に近い粒度分布や密度を有する飛散状態評価用模擬粉体とすることができ、このような飛散状態評価用模擬粉体を使用することで、より正確な評価が可能になる。
【0036】
よって、本実施形態の飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法によれば、粉体の飛散状態を高精度且つリアルタイムで効率よく評価することが可能になる。これにより、製造・研究開発現場の生産性向上を図ることが可能になる。また、飛散状態評価作業に要するコストを低減することも可能になる。
【0037】
以上、本発明に係る飛散状態評価用模擬粉体及び粉体の飛散状態評価方法の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 検出装置
2 作業ブース
2a ブース内部
2b ブース外部
3 配管
4 表示装置(パソコン)
5 核粒子
6 蛍光発光物質
7 飛散状態評価用模擬粉体(模擬粉体、粒子)
H 評価対象空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体の飛散状態を評価するために前記粉体の代わりに用いる飛散状態評価用模擬粉体であって、
少なくとも蛍光発光物質を含み、粒径を0.5〜15μmにして形成されていることを特徴とする飛散状態評価用模擬粉体。
【請求項2】
請求項1記載の飛散状態評価用模擬粉体において、
核粒子の表面に蛍光発光物質を設けて形成されていることを特徴とする飛散状態評価用模擬粉体。
【請求項3】
粉体の代わりに請求項1または請求項2に記載の飛散状態評価用模擬粉体を用いて前記粉体の飛散状態を評価する粉体の飛散状態評価方法であって、
前記粉体の代わりに前記飛散状態評価用模擬粉体を用いて前記粉体の取扱い作業を行い、
検出装置によって評価対象空間の空気中の前記飛散状態評価用模擬粉体を蛍光発光させて蛍光発光量を計測し、
予め作成した検量線と、計測した蛍光発光量を対比して前記飛散状態評価用模擬粉体の気中濃度を求めるようにしたことを特徴とする粉体の飛散状態評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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