説明

飛行時間型質量分析装置

【課題】従来の遅延引出し法ではイオンを加速する際にm/zの相違が考慮されないため、適切なエネルギ収束が達成されるm/z範囲が狭く、分解能が改善されるm/z範囲も狭い。
【解決手段】試料2にレーザ光を照射してイオンを発生させる時点で、試料プレート1から引出し電極3に向けて緩やかに下がる電位勾配をもつ電場を形成しておく(b)。試料2表面付近で発生したイオンはm/zに依存しない初速を持つが、そのほか電場の作用によりm/zに応じた速度を持つ。そのため、m/zが大きなイオンほど試料2近傍に残ることになり、遅延時間t経過後に試料プレート1への印加電圧がステップ状に上げられたとき(c)、m/zの大きなイオンはm/zが小さなイオンに比べて相対的に大きな加速エネルギを受ける。これにより、m/z毎に適切なポテンシャルエネルギ変化をイオンに与えることができ、幅広いm/zに亘ってエネルギ収束を適切に行い分解能を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飛行時間型質量分析装置に関し、さらに詳しくは、飛行時間型質量分析装置における、マトリクス支援レーザ脱離イオン化法などのイオン化法を用いたイオン源に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置(以下「TOFMS」と称す)は一般に、電場により加速したイオンを電場及び磁場を有さない飛行空間内に導入して自由飛行させ、検出器に到達するまでの飛行時間に応じて各種イオンを質量電荷比(m/z)毎に分離するものである。TOFMSにおいて質量分解能を高めるには飛行距離を長くする必要があることから、単純にイオンを直線的に飛行させるリニア型の構成のほかに、電場や磁場を利用してイオンを折返し飛行させるリフレクトロン型の構成や、略同一の閉じた軌道を複数回周回させる周回型の構成も知られている。
【0003】
TOFMSのイオン源としては、マトリクス支援レーザ脱離イオン化(MALDI=Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)法によるMALDIイオン源が広く利用されている。MALDI法では、例えば測定対象物質の溶液をマトリクス溶液と混合し、さらに必要であれば別のイオン化助剤を混合した上で試料プレート上に塗布し、溶媒を除去することにより試料を調製する。こうして調製された試料は測定対象物質が多量のマトリクスとほぼ均一に混合された状態にある。この試料にレーザ光を照射すると、マトリクスがレーザ光のエネルギを吸収して熱エネルギに変換する。このときにマトリクスの一部が急速に加熱され、測定対象物質とともに気化し、その過程で測定対象物質がイオン化される。
【0004】
MALDIイオン源を用いたTOFMSでは、上記のようにレーザ光照射によって試料から発生した各種イオンが電場の作用により試料近傍から引き出され、加速されて飛行空間に送り込まれる。高い質量分解能を得るためには、イオンが飛行空間に導入される際に同一種の(同一の質量電荷比を有する)イオンの初期速度が揃っている必要がある。しかしながら、MALDIイオン源では一般に、イオン発生時点でイオンが持つ初期エネルギのばらつきが大きく、そのために初期速度のばらつきが大きくなって時間収束性が悪化する。そこで、この問題を回避するために、遅延引出し法と呼ばれる手法が従来一般に利用されている(特許文献1、特許文献2など参照)。
【0005】
図9は遅延引出し法によるイオン引出し動作を説明するための図である。図9(a)に示すように、マトリクスが混合された試料2は導電性の試料プレート1上に保持されており、該試料2にイオン化のためのレーザ光が照射される。試料プレート1に対向して配置された引出し電極3及びベース電極4cに印加された電圧により形成される電場の作用によって、試料2近傍からイオンが引き出されるとともに加速されて、図示しない飛行空間に送られる。
【0006】
詳しく述べると、試料2にレーザ光を照射する時点では、試料プレート1と引出し電極3とには同一電圧VEが印加され、ベース電極4cには所定のベース電圧VBが印加される。一般的にはVB=0(つまり接地電位)であるので、ここではVB=0であるとする。これにより、イオン光軸C上の電位分布は図9(b)に示すようになる。即ち、試料プレート1と引出し電極3との間の引出し領域には電位勾配がない(実質的に電場がない)ため、レーザ光照射により試料2から発生したイオンは加速されない。このため、イオン発生時に大きな初期エネルギを持つイオンほど試料2から遠ざかるから、イオン発生から所定の時間が経過した時点では、質量電荷比に依らず初期エネルギが大きなイオンほど引出し電極3に近い位置に存在する。
【0007】
レーザ光照射から一定の遅延時間(通常数十〜数百nsec程度)だけ経過したあとに、試料プレート1への印加電圧はVEからVSにステップ状に増加される。これにより、図9(c)に示すように、試料プレート1から引出し電極3に向かって大きな下向き傾斜の電位勾配を有する電場が形成される。この電場によって、引出し領域に存在する各種イオンは一斉に加速される。このとき、試料プレート1に近い位置にあるイオンほど、つまり初期エネルギが小さなイオンほど加速電圧は高くなるから、与えられる運動エネルギは大きくなる。したがって、同種のイオンであっても、イオン発生時の初期エネルギが小さなものほど大きな速度をもって飛行空間に送り込まれるので、飛行中に先行している初期エネルギが相対的に大きな同種のイオンに徐々に追いつき、最終的にほぼ同時に検出器に到達する。このようにして同種イオンにおける初期エネルギのばらつきの影響が排除され、高い時間収束性を達成することができる。
【0008】
しかしながら、こうした従来の遅延引出し法では次のような問題がある。上記のような初期エネルギのばらつきの補正は、各イオンが持つポテンシャルエネルギの変化を通した運動エネルギの補正により達成される。レーザ光照射により試料2から発生したイオンの初速(又は初期エネルギ)の平均値は、質量電荷比に依存することなくほぼ一定である。そのため、補正に必要なエネルギは質量電荷比に比例することになり、補正に必要な電圧値(図9(c)におけるVEとの電位差ΔV)も質量電荷比に依存する。一方、イオンは試料2の表面付近の非常に小さな空間内で発生し、遅延引出し実行時において電圧が増加されるまでの自由飛行期間中には該空間に電場が作用しないため、一定遅延時間経過後に加速電圧を印加する際のイオンの空間分布は質量電荷比とは無関係である。
【0009】
即ち、質量分解能を高めるべく同種イオンの時間収束性をできるだけ高めるには、つまり、初期エネルギのばらつき補正を適切に行うには、質量電荷比毎にイオンに適切な加速電圧(上記電位差ΔV)を印加する必要がある。しかしながら、上述したように加速電圧印加時におけるイオンの空間分布は質量電荷比に依らないため、加速電圧を或る値に設定したときに或る質量電荷比を持つイオン種に対しては適切な補正が行えるのものの、別の質量電荷比を持つイオン種に対しては十分な補正が行えないことがある。このため、従来の遅延引出し法によって質量分解能が改善される質量電荷比範囲はかなり限られたものとなり、測定対象とする広い質量電荷比範囲に亘る質量分解能を改善することが難しいという問題がある。
【0010】
なお、ここではイオン源としてMALDIイオン源を例に挙げているが、TOFMSのイオン源として利用される別のイオン化法によるイオン源、例えば、マトリクスを利用しないレーザ脱離イオン化(LDI)法、二次イオン質量分析(SIMS=Secondary Ion Mass Spectrometry)法、脱離エレクトロスプレイイオン化(DESI=Desorption Electrospray Ionization)法、プラズマ脱離イオン化法(PDI=Plasma Desorption Ionization)法などでも同様の問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−185697号公報([0005]−[0008]及び図7)
【特許文献2】特開2009−52994号公報([0003]−[0004]及び図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、遅延引出し法を利用して試料から発生したイオンを引き出して加速するイオン源を備える飛行時間型質量分析装置において、広い質量電荷比範囲に亘ってイオンの初期エネルギのばらつきを適切に補正することにより質量分解能を向上させることが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するためになされた第1発明は、試料から発生したイオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間内で質量電荷比に応じてイオンを分離して検出する飛行時間型質量分析装置において、
a)試料を保持する試料保持部から所定距離離間して配設され、該試料保持部との間の空間にイオンを試料表面から引き出して加速する電場を形成するための引出し電極と、
b)イオン発生開始時点から所定の遅延時間が経過するまでの期間中に、試料表面から前記引出し電極に向けてイオンが質量電荷比に応じて移動する電場が形成されるように、前記試料保持部の電位を前記引出し電極の電位よりも第1の電位差だけ高く保ち、前記遅延時間が経過した時点及びそれ以降には、前記試料保持部と前記引出し電極との間の空間にあるイオンが一斉に加速されて該引出し電極を通り過ぎる電場が形成されるように、前記試料保持部の電位を前記引出し電極の電位よりも、第1の電位差より大きな第2の電位差だけ高く保つように、前記試料保持部及び前記引出し電極の電位を設定する電位設定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0014】
ここで、試料からイオンを発生させるためのイオン化法としては、MALDI、LDIなどのレーザ光を利用した方法、SIMSなどのイオン線を利用した方法、DESIなどの帯電噴霧流を利用した方法、PDIなどのプラズマを利用した方法、などが考えられる。これは後述する第2発明でも同様である。
【0015】
従来の一般的な遅延引出し法では、イオン発生開始時点より所定の遅延時間が経過するまでの期間中に、試料保持部と引出し電極とはほぼ同電位に維持され、試料保持部と引出し電極との間の空間には実質的な電場は形成されない。このため、試料から発生したイオンは初期エネルギに応じて自由に拡散する。これに対し、第1発明に係る飛行時間型質量分析装置では、イオン発生開始時点において試料保持部と引出し電極との間の空間に、イオンを試料表面から引出し電極の方向に引き出す電場が形成されている。ただし、このときの試料保持部と引出し電極との間の電位差(第1の電位差)は生成された全てのイオンを一斉に且つ大きな加速度でもって加速するほどは大きくなく、その電位差により形成される電場の作用により、各種イオンは緩慢に試料表面から引出し電極に向かって移動する。
【0016】
一定の電場の下ではイオンの速度はサイズに逆比例するから、小さな(一般的には質量電荷比が小さな)イオンほど引出し電極に近づき、逆に大きなイオンは試料に近い位置に存在する。もちろん、各イオンの初期エネルギは質量電荷比には依存せずばらついており、移動速度はこの初期エネルギの影響も受ける。そのため、所定の遅延時間経過時点で、各イオンは質量電荷比に応じた整然とした分布となるわけではないものの、電場が全くない場合に比べれば、質量電荷比に依存した空間分布となる。つまり、同一の質量電荷比を有するイオンの空間的な拡がりは小さくなる。所定の遅延時間が経過しイオンを一斉に加速させるべく試料保持部と引出し電極との電位差を拡大する際に、同一イオン種は空間的に比較的近い位置に存在するため、ほぼ同程度の加速電圧が与えられる。したがって、各種イオンに対し質量電荷比に応じたより適切な加速電圧を与えることが可能となり、広い質量電荷比範囲に亘って質量分解能を改善することができる。
【0017】
また、同一質量電荷比を持つイオンの中では、初期エネルギが小さなものほど試料保持部に近い位置にあるため、相対的に大きな加速電圧が加えられることになる。したがって、遅延引出し法による初期エネルギのばらつきの補正効果も十分に得ることができる。
【0018】
また上記課題を解決するためになされた第2発明は、試料から発生したイオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間内で質量電荷比に応じてイオンを分離して検出する飛行時間型質量分析装置において、
a)試料を保持する試料保持部から所定距離離間して配設され、該試料保持部との間の空間にイオンを試料表面から引き出して加速する電場を形成するための引出し電極と、
b)イオン発生開始時点以降に、前記試料保持部と前記引出し電極との間の空間においてイオンを該試料保持部から該引出し電極に向かう方向に引き出す電位勾配の傾斜が、所定の同一又は異なる時間が経過する毎に段階的に大きくなる電場が形成されるように、前記引出し電極の電位に対する前記試料保持部の相対的な電位を段階的に増加させる電位設定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0019】
第2発明に係る飛行時間型質量分析装置では、イオン発生開始時点における試料保持部の電位と引出し電極の電位とは略同一であってもよいし、或いは、上記第1発明のように試料保持部の電位が引出し電極の電位よりも高く設定されていてもよい。
【0020】
第2発明に係る飛行時間型質量分析装置では、イオン発生開始時点から或る遅延時間が経過した時点で試料保持部の相対的な電位が上がり、電位勾配を持つ電場が試料保持部と引出し電極との間の空間に形成されると、その空間に存在していたイオンは加速されて引出し電極に向かって移動し始める(1回目の加速操作)。このとき、質量電荷比の小さなイオンほど移動し易いから、その直前のイオンの空間分布が質量電荷比に依存しない状態であっても、質量電荷比が小さなイオンのほうが質量電荷比が大きなイオンに比べて早く引出し電極を通過する傾向にある。このため、1回目の加速操作を行った時点から或る遅延時間が経過した時点では、試料保持部と引出し電極との間の空間に残るイオンは質量電荷比が相対的に大きなものの割合が多くなる。
【0021】
そこで、試料保持部の相対的な電位がさらに上げられ電位勾配の傾斜が急になると、残っていた質量電荷比が比較的大きなイオンに追加的に運動エネルギが付与され、これによってそのイオンは加速されて引出し電極に向かって移動する(2回目の加速操作)。この加速操作は2回以上の任意の回数行うことができる。また、加速操作のためには、引出し電極の電位を固定にしたまま試料保持部の電位を上げる、試料保持部の電位を固定したまま引出し電極の電位を下げる、或いは、試料保持部の電位を上げると同時に引出し電極の電位を下げる、のいずれを行ってもよい。
【0022】
このように段階的に加速電圧を上げていくことにより、第1発明と同様に、各種イオンに対し質量電荷比に応じたより適切な加速電圧を与えることが可能となる。もちろん、この場合にも、同一質量電荷比であっても、イオンが持つ初期エネルギの相違によって加速操作時の位置が異なるから、完全に質量電荷比毎に分離されて加速がなされるわけではないが、従来のように質量電荷比を考慮しない加速を行っている場合に比べれば、明確な質量分解能改善効果が得られる。
【発明の効果】
【0023】
第1及び第2発明に係る飛行時間型質量分析装置によれば、MALDIイオン源等のイオン源において試料から発生したイオンを遅延引出し法により引き出し加速する際に、単に初期エネルギや初速のばらつきの補正を行うのみならず、質量電荷比に応じた運動エネルギの変化による補正を行うため、従来の一般的な遅延引出し法と比較し、幅広い質量電荷比範囲に亘って質量分解能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例であるMALDI−TOFMSの概略構成図。
【図2】第1実施例によるMALDI−TOFMSの効果を検証するためのシミュレーション結果を示す図。
【図3】第1実施例によるMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作を説明するための図。
【図4】第1実施例によるMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作を説明するための図。
【図5】第2実施例によるMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作を説明するための図。
【図6】第2実施例によるMALDI−TOFMSにおける遅延引出し時の電圧変化を示すタイミング図。
【図7】第2実施例によるMALDI−TOFMSの効果を検証するためのシミュレーション結果を示す図。
【図8】第2実施例の変形例によるMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作を説明するための図。
【図9】従来の一般的な遅延引出し動作を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施例]
本発明の一実施例であるMALDI−TOFMSについて図1〜図4を参照して説明する。図1はこの実施例のMALDI−TOFMSの概略構成図、図3及び図4はこの実施例のMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作を説明するための図である。
【0026】
本実施例のMALDI−TOFMSでは、試料2を保持する試料プレート1に略直交するイオン光軸Cに沿って、引出し電極3、イオン光学系4、飛行空間7、検出器8が配置されている。制御部11の指示の下に、レーザ照射部5から出射したレーザ光はミラー6で反射され、試料2表面の微小径の領域に照射される。試料プレート1は金属製又は導電ガラス製であり、実際には図示しないステージにより保持され、該ステージを介して電圧が印加されるようになっているが、図1では便宜上、試料プレート1に直接、電圧が印加されるように記載してある。
【0027】
引出し電圧発生部12は制御部11の指示に従って、試料プレート1及び引出し電極3にそれぞれ所定の直流電圧を印加する。イオン光学系4は所定の電位(VB)が与えられるベース電極4cを含む複数の電極からなり、図示しない電源部からこれら電極に印加される電圧により、イオンの拡がりを抑えイオン光軸C付近にイオンを収束させる。図9と同様に、この例でもベース電極4cの電位(VB)は0であるものとする。検出器8は例えば光電子増倍管であり、飛行空間7を通過する過程で質量電荷比に応じて時間的に分離されて順次到達するイオンを検出し、イオン量に応じた検出信号を信号処理部10に送る。信号処理部10は検出信号に基づいて飛行時間とイオン強度との関係を示す飛行時間スペクトルを作成し、予め求めた校正情報に基づいて飛行時間を質量電荷比に換算することにより質量スペクトルを作成する。
【0028】
次に、本実施例のMALDI−TOFMSに特徴的な遅延引出し動作を含む分析動作を説明する。
【0029】
制御部11からレーザ照射部5に開始信号が送られると、それに対応してレーザ照射部5は所定パルス幅のレーザ光を出射する。このレーザ光はミラー6で反射されて試料プレート1上の試料2に照射される。一方、レーザ光が出射されるとそのごく一部のレーザ光をモニタして得られた信号がレーザ照射部5から制御部11にフィードバックされ、それによって制御部11はレーザ出射を認識する。そして、制御部11はその時点がイオン発生開始時点であるとみなして内部タイマの計時を開始する。
【0030】
また制御部11は、レーザ光が照射される以前の適宜に時点で、引出し電極3への印加電圧VeをVE、試料プレート1への印加電圧VsをVEよりも高いVSとするように引出し電圧発生部12を制御する。従来の一般的な遅延引出し法であればVS=VEであるのに対し、本実施例ではVS>VEである。ただし、このときの電位差VS-VEは後述するイオン加速時の電位差V0−VEに比べると遙かに小さい。その理由は後述する。ベース電極4cの電位VBは0であるから、イオン光軸C上の電位分布は図3(b)に示す状態である。即ち、試料プレート1と引出し電極3との間の空間(引出し領域)には、試料プレート1から引出し電極3に向かって緩やかに下傾する電位勾配を有する電場が形成され、引出し電極3とベース電極4cとの間の空間(加速領域)には引出し電極3からベース電極4cに向かって急峻に下傾する電位勾配を有する電場が形成されている。
【0031】
試料2にレーザ光が照射されると、試料2中のマトリクスと目的試料とが共に気化し、目的試料がイオン化される。試料2表面近傍の狭い空間で発生した各種イオンには上述した電場が作用するから、イオンは引出し電極3に向かう方向(図3(a)で右方向)に誘引される。このとき電場により与えられるポテンシャルエネルギに由来するイオンの速度は質量電荷比が小さいほど大きい。そのため、質量電荷比の小さなイオンほど引出し電極3に近づくことになる。
【0032】
もちろん、各イオンは発生時点で質量電荷比に依存しない初期エネルギを有しており、それによる速度成分もあるため、単純に質量電荷比の順に並ぶわけではない。しかしながら、例えばイオン発生時に同一の初期エネルギが付与された異なる質量電荷比を有するイオンをみると、質量電荷比が小さいイオンがより早く引出し電極3に近づくから、全体的には図4(a)に示すように、質量電荷比の小さな(図4では小さなサイズで描かれた)イオンが先行し、質量電荷比の大きな(図4では大きなサイズで描かれた)イオンは試料2表面近くに残る。そして、ほぼ同一の質量電荷比を有するイオンの集まりを子細にみると、大きな初期エネルギを持つイオンほど先行して引出し電極3に近い位置に存在する。図4(b)は従来の遅延引出し法においてイオン発生時点から所定時間経過後のイオンの分布を模式的に示した図である。この場合には、試料2付近に電場が存在しないため、各イオンは初期エネルギに応じた速度で移動する。初期エネルギは質量電荷比に関係なくばらつくので、イオンの空間分布は質量電荷比に依存しない。
【0033】
図3(b)から明らかなように、イオン発生時点において引出し領域中の電位勾配の傾斜が急すぎると、各イオンは発生直後に加速されて短時間で引出し電極3を通り過ぎてしまう。即ち、これは実質的な遅延引出しにはならない。そこで、試料2表面付近から引き出されたイオンが後述する遅延時間内に引出し電極3を通りすぎてしまわない程度の運動エネルギをイオンに付与するように、電位勾配の傾斜を緩くしておく必要がある。つまりは、図3(b)における電位差VS−VEを小さくしておくことが必要である。一方で、電位差VS−VEが小さすぎ電位勾配の傾斜が緩すぎると、その電場によりイオンが受ける運動エネルギよりもイオンが持つ初期エネルギの影響のほうが大きく、イオンが質量電荷比に応じて分離されない。こうしたことから、試料プレート1と引出し電極3との間の距離、遅延時間などの条件に基づいて、引出し領域中で遅延時間内に各種イオンが適度に質量電荷比に応じて分離されるように、電位差VS−VEを適切に定めておくことが望ましい。この適切な電位差は例えば後述するシミュレーション計算や実装置による実験で決めることができる。
【0034】
制御部11は内部タイマの計時開始から所定の遅延時間tが経過したときに、試料プレート1への印加電圧VsをそれまでのVSからをV0にステップ状に上昇させるように引出し電圧発生部12を制御する。一方、引出し電極3への印加電圧VEはそれ以前と同一電圧値に維持される。これにより、イオン光軸C上の電位分布は図3(c)に示す状態に変化する。即ち、引出し領域には、試料プレート1から引出し電極3に向かって急峻に下傾する電位勾配を有する電場が形成される。
【0035】
その結果、その直前に引出し領域中に存在しているイオンに対し最大V0−VEなる加速電圧が一斉に与えられ、イオンは引出し電極3に向かって引き出される。さらに、イオンが加速領域に突入した後には、引出し電極3の電位とベース電極4cの電位VB(=0)との電位差VE−VB(=VE)により一層加速されて飛行空間7に送り出される。飛行空間7に導入されたイオンは飛行中に質量電荷比に応じて分離され、検出器8に到達する。引出し領域において試料プレート1に近い位置に存在するイオンほど大きな加速エネルギが与えられるため、大きな速度でもって飛行空間7に導入される。つまり、質量電荷比が大きなイオンほど大きな速度を有し、同じ質量電荷比であれば初期エネルギが小さなイオンほど大きな速度を有する。
【0036】
引出し領域中で試料プレート1に近い位置に存在した或る質量電荷比のイオンは、同じ質量電荷比であって引出し電極3により近い位置に存在したイオンよりも時間的に後から飛行空間7に導入される。しかしながら、飛行速度はより大きいので、先行しているイオンに飛行中に徐々に追いつき、ほぼ同一時刻に検出器8に到達することができる。即ち、同一質量電荷比のイオンのエネルギ収束が行える。
【0037】
一方、質量電荷比が大きなイオンには質量電荷比が小さなイオンに比べて相対的に高い加速エネルギが与えられる。したがって、それぞれの質量電荷比のイオンに対して適切なポテンシャルエネルギの変化を与えることができるので、質量電荷比による初速のばらつきの補正効果の差異が軽減できる。これにより、特定の質量電荷比に片寄らず、幅広い質量電荷比範囲に亘って初速のばらつきを軽減し、高い質量分解能を達成することができる。
【0038】
次に、本実施例のMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作の効果を検証するためのシミュレーションについて説明する。このシミュレーションでは、図1に示したようなイオン光軸Cを中心とする軸対称のイオン輸送系を想定し、試料プレート1と引出し電極3との間の距離を約3.5[mm]、飛行空間7における自由飛行軌道の距離を約1000[mm]とした。イオン光学系4ではイオンの加速と軌道の収束とを行い、イオンが飛行空間7に導入されるまでに約18[keV]の加速エネルギを与えるものとした。遅延引き出しのための電圧制御は、引出し電極3への印加電圧を一定とし、試料プレート1に印加する電圧をレーザ光照射時から所定の遅延時間tが経過した時点でステップ状に増加させるようにした。
【0039】
上述した本実施例における遅延引出し法(本発明法)の実行条件は、VS=18000[V]、VE=17730[V]、V0−VS=830[V]、VB=0、t=900[ns]、である。これに対し従来の遅延引出し法(従来法)の実行条件は、VS=18000[V]、VE=18160[V]、V0−VS=950[V]、VB=0、t=900[ns]、である。これら実行条件は後述するようにシミュレーションの結果が良好になるように選ばれたものである。なお、従来法において試料プレート1の印加電圧VSよりも引出し電極3への印加電圧VEのほうが若干(160[V])高くなっているが、これはイオン光学系4による電場の影響を打ち消すためであり、これによって試料プレート1近傍でのイオン光軸Cに沿った電位勾配はほぼ0になり、引出し領域に電場が存在しない状態とみなすことができる。
【0040】
上記実行条件でもって500〜5000[Da]の質量電荷比範囲で250[Da]ずつ質量電荷比を変化させ、検出器8へのイオンの到達時間について数値計算を行い、その分解能を調べた。この計算上でのイオンの初速の中心値は600[m/s]、初速のばらつきの半値幅は300[m/s]、その速度方向は、対称軸(イオン光軸C)に対し30°の角度を持つものと仮定した。また、イオンの初期位置はイオン光軸Cから0.1[mmの範囲内の空間にランダムであるものとした。
【0041】
図2はシミュレーション結果である。従来法ではm/z2000[Da]で分解能が最大になるように上記実行条件が調整されている。一方、本発明法では、m/z2000[Da]を含み、分解能が5000を越える質量電荷比範囲ができるだけ広くなるように上記実行条件が調整されている。この図2から明らかなように、従来法では分解能が5000を越える質量電荷比範囲は2000[Da]を中心に1000[Da]程度の範囲にすぎないのに対し、本発明法では1500〜5000[Da]の広い範囲で分解能が5000を越えている。したがって、本発明法によれば、高い分解能が得られる質量電荷比範囲を従来法に比べて3.5倍に拡大できていることが分かる。
【0042】
[第2実施例]
本発明の別の実施例(第2実施例)であるMALDI−TOFMSについて図5〜図7を参照して説明する。この第2実施例の構成自体は第1実施例と同様であるので説明を略す。相違するのは制御部11の制御シーケンスであり、そのほか、必要に応じて引出し電圧発生部12の回路構成も変更を要する。
【0043】
図5及び図6に従って、この第2実施例のMALDI−TOFMSに特徴的な遅延引出し動作を含む分析動作について、第1実施例と相違する点を中心に説明する。
【0044】
制御部11は、レーザ光が照射される以前の適宜に時点で、引出し電極3への印加電圧Ve及び試料プレート1への印加電圧Vsを共にVE1とするように引出し電圧発生部12を制御する。イオン光軸C上の電位分布は図5(b)に示す状態であり、これは従来の遅延引出し法と同様である。即ち、引出し領域にはイオンを誘引するような実質的な電場は存在しない。試料2にレーザ光が照射され、試料2表面近傍で発生した各種イオンはそれぞれの初期エネルギに基づく初速で移動する。したがって、イオン発生開始時点から所定時間経過後のイオンの空間分布は図4(b)に示すようになり、質量電荷比とは無関係にイオンは分散している。
【0045】
制御部11は内部タイマの計時開始から所定の遅延時間t1が経過したときに、引出し電極3への印加電圧VeをそれまでのVE1からVE2にステップ状に下降させるように引出し電圧発生部12を制御する。このとき、試料プレートへの印加電圧VSはそれ以前と同一電圧値VE1に維持される。これにより、イオン光軸C上の電位分布は図5(c)に示す状態に変化する。即ち、引出し領域には、試料プレート1から引出し電極3に向かって緩やかに下傾する電位勾配を有する電場が形成される。なお、ここでは、試料プレート1の電位を固定して引き出し電極3の電位を下げているが、引き出し電極3の電位を固定して試料プレート1の電位を上げてもよい。
【0046】
引出し領域中に電位勾配が形成されることにより、イオンは最大VE1−VE2なる加速電圧によるエネルギを受ける。ただし、このときの加速電圧は比較的低くエネルギは小さいため、イオンの速度は比較的小さい。また、このときのイオンの速度は質量電荷比が大きいほど小さくなるから、同じ位置にある、つまり同じ加速エネルギを受けた異なる質量電荷比のイオンを比べると、質量電荷比が小さなイオンほど大きな速度を持つ。そのため、全体として質量電荷比の小さなイオンほど早く引出し電極3を通過して加速領域に入り、逆に質量電荷比の大きなイオンは引出し領域に留まり易い。このように、引出し領域において質量分離に近い操作が行われる。
【0047】
制御部11は内部タイマの計時開始から所定の遅延時間t2(t2>t1)が経過したときに、今度は引出し電極3への印加電圧VeをVE2に維持したまま、試料プレート1への印加電圧VsをVE1からV0にステップ状に上昇させるように引出し電圧発生部12を制御する。これにより、イオン光軸C上の電位分布は図5(d)に示す状態に変化する。即ち、試料プレート1から引出し電極3に向かう電位勾配の傾斜が急峻になる。なお、ここでは、引き出し電極3の電位を固定して試料プレート1の電位を上げているが、試料プレート1の電位を固定して引き出し電極3の電位を下げてもよい。
【0048】
引出し領域中の電場が上記のように変化すると、その時点で引出し領域中に残っていた主として質量電荷比の大きなイオンに対し最大V0−VEなる加速電圧が一斉に与えられ、イオンは引出し電極3に向かって引き出される。加速領域に突入したイオンは、引出し電極3の電位とベース電極4cの電位VB(=0)との電位差VE2−VB(=VE2)により一層加速されて飛行空間7に送り出される。飛行空間7に導入されたイオンは飛行中に質量電荷比に応じて分離され、検出器8に到達する。
【0049】
上述したようにこの第2実施例のMALDI−TOFMSでは、イオン発生開始時点から遅延時間t1が経過するまでの期間中には、試料2の表面付近で発生したイオンが初期速度で自由に拡がり、質量電荷比に依らず主として初期速度(初期エネルギ)の大きなイオンほど引出し電極3に近づくように分散する。遅延時間t1の経過時点から遅延時間t2が経過するまでの期間中には、引出し領域中に存在している主として質量電荷比の小さなイオンが比較的小さな加速エネルギでもって引出し電極3の方向に引き出され加速領域に導入される。このとき同じ質量電荷比を持つイオンの中でも試料2の近くに存在するイオンほど大きな加速エネルギが与えられるから、同一質量電荷比のイオンに対するエネルギ収束が達成され、ひいては時間収束が達成される。
【0050】
続いて遅延時間t2が経過すると、引出し領域中に存在している主として質量電荷比の大きなイオンが大きな加速エネルギでもって引出し電極3の方向に引き出され加速領域に導入される。このときにも、同じ質量電荷比を持つイオンの中で試料2の近くに存在するイオンほど大きな加速エネルギが与えられるから、同一質量電荷比のイオンに対するエネルギ収束が達成され、ひいては時間収束が達成される。
【0051】
また、試料2から発生した各種イオンは質量電荷比に応じておおまかに分離され、質量電荷比の大きなイオンには質量電荷比の小さなイオンよりも大きな加速エネルギが与えられる。したがって、第1実施例と同様に、質量電荷比に応じた適切なポテンシャルエネルギの変化をイオンに与えることができるので、質量電荷比による初速のばらつきの補正効果の差異が軽減できる。これにより、特定の質量電荷比に片寄らず、幅広い質量電荷比範囲に亘って初速のばらつきを軽減し、高い質量分解能を達成することができる。
【0052】
第2実施例のMALDI−TOFMSにおける遅延引出し動作の効果を検証するためのシミュレーションについて説明する。遅延引出しの実行条件以外の基本的なシミュレーション条件は第1実施例と同様である。
【0053】
第2実施例における遅延引出し法(本発明法)の実行条件は、図6に示したように、試料プレート1への初期的な印加電圧=18000[V]、引出し電極3への初期的な印加電圧=18160[V]、t1経過時の引出し電極3への印加電圧の減少幅(図5(c)におけるVE1−VE2)=850[V]、t2経過時の試料プレート1への印加電圧の増加幅(図5(d)におけるV0−VE1)=220[V]、VB=0、t1=700[ns]、t2=1500[ns]、である。従来の遅延引出し法(従来法)の実行条件は第1実施例と同じである。これら実行条件は後述するようにシミュレーションの結果が良好になるように選ばれたものである。なお、本発明法において試料プレート1の初期的な印加電圧よりも引出し電極3への初期的な印加電圧VEのほうが若干高くなっている理由は上述した通りである。
【0054】
図7はシミュレーション結果である。従来法ではm/z2000[Da]で分解能が最大になるように上記実行条件が調整されている。一方、本発明法では、m/z2000[Da]を含み、分解能が5000を越える質量電荷比範囲ができるだけ広くなるように上記実行条件が調整されている。この図7から明らかなように、従来法では分解能が5000を越える質量電荷比範囲は2000[Da]を中心に1000[Da]程度の範囲にすぎないのに対し、本発明法では750〜4500[Da]の広い範囲で分解能が5000を越えている。したがって、本発明法によっても、高い分解能が得られる質量電荷比範囲を従来法に比べて3.5倍に拡大できていることが分かる。
【0055】
なお、上記第2実施例の説明では、イオン発生時点では試料2近傍に実質的な電場を形成せず、その後、2段階に分けて加速電圧を増加させるようにしていたが、さらに3段階以上に細かく分けて加速電圧を増加させるようにしてもよい。また第2実施例の説明では、遅延時間t1経過後に引出し電極3への印加電圧をステップ状に下げ、次に遅延時間t2経過後に試料プレート1への印加電圧をステップ状に上げることで、試料プレート1から引出し電極3への電位勾配の傾斜を変化させているが、試料プレート1への印加電圧又は引出し電極への印加電圧の一方を固定し、他方を段階的に変化させることで同様の制御を行うことができる。図8は、引出し電極3への印加電圧を固定し、試料プレート1への印加電圧をステップ状に複数回に分けて増加させる場合の電位分布の変化を示す図である。試料プレート1への印加電圧を固定する場合には、引出し電極3への印加電圧をステップ状に減少させればよい。
【0056】
また、第1実施例における遅延引出し法の特徴点と第2実施例における遅延引出し法の特徴点とは併用することが可能である。即ち、イオン発生時点で引出し領域にイオンを質量分離させるような緩やかな電位勾配を持つ電場を形成しておき、その後に、所定の一定又は非一定の遅延時間が経過する毎に電位勾配を段階的に大きくしていくような制御を行えばよい。
【0057】
また、図3、図5に示した、試料プレート1への印加電圧Vs(VS,V0,VE1)、引出し電極Ve(VE,VE1,VE2)、及びベース電極4cの電位VBの関係は相対的なものであるから、例えば、ベース電極4cの電位VBを10[kV]下げ(VB=−10[kV])、それと同様にVs、Veを引き下げても、上記説明と同様のイオンの挙動制御が可能であることは明らかである。
【0058】
なお、上記実施例はいずれも本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0059】
1…試料プレート
2…試料
3…引出し電極
4…イオン光学系
4c…ベース電極
5…レーザ照射部
6…ミラー
7…飛行空間
8…検出器
10…信号処理部
11…制御部
12…引出し電圧発生部
C…イオン光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から発生したイオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間内で質量電荷比に応じてイオンを分離して検出する飛行時間型質量分析装置において、
a)試料を保持する試料保持部から所定距離離間して配設され、該試料保持部との間の空間にイオンを試料表面から引き出して加速する電場を形成するための引出し電極と、
b)イオン発生開始時点から所定の遅延時間が経過するまでの期間中に、試料表面から前記引出し電極に向けてイオンが質量電荷比に応じて移動する電場が形成されるように、前記試料保持部の電位を前記引出し電極の電位よりも第1の電位差だけ高く保ち、前記遅延時間が経過した時点及びそれ以降には、前記試料保持部と前記引出し電極との間の空間にあるイオンが一斉に加速されて該引出し電極を通り過ぎる電場が形成されるように、前記試料保持部の電位を前記引出し電極の電位よりも、第1の電位差より大きな第2の電位差だけ高く保つように、前記試料保持部及び前記引出し電極の電位を設定する電位設定手段と、
を備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
試料から発生したイオンを加速して飛行空間に導入し、該飛行空間内で質量電荷比に応じてイオンを分離して検出する飛行時間型質量分析装置において、
a)試料を保持する試料保持部から所定距離離間して配設され、該試料保持部との間の空間にイオンを試料表面から引き出して加速する電場を形成するための引出し電極と、
b)イオン発生開始時点以降に、前記試料保持部と前記引出し電極との間の空間においてイオンを該試料保持部から該引出し電極に向かう方向に引き出す電位勾配の傾斜が、所定の同一又は異なる時間が経過する毎に段階的に大きくなる電場が形成されるように、前記引出し電極の電位に対する前記試料保持部の相対的な電位を段階的に増加させる電位設定手段と、
を備えることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の飛行時間型質量分析装置であって、試料に対するイオン化は、MALDI法、LDI法、DESI法、PDI法、SIMS法のいずれかのイオン化法により行われるものであることを特徴とする飛行時間型質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−175898(P2011−175898A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39883(P2010−39883)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】