説明

食品の硬さ、食感、及びテクスチャーのパターン認識による相対的評価方法

【課題】咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの違いを正確に把握する。
【解決手段】食品の試料(A)をプランジャ−で押圧し、荷重及び歪率を連続的に測定し、前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxA)を求め、食品の試料(B)について同次の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxB)を求め、次いで、極大値(MaxA)と極大値(MaxB)の荷重値が同一の値となるように、前記多次近似曲線上の荷重値を統一的に補正した補正多次近似曲線を、前記多次近似曲線のそれぞれについて作成し、作成した2つの補正多次近似曲線の差を積分し、積分値から、食品の試料(A)と食品の試料(B)の硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーのパターン認識による相対的評価方法に関する。詳しくは、寒天、ゼラチン、豆腐、クッキー、ビスケット、パイなどの各種商品について、少ない測定回数で、食品咀嚼時に知覚される硬さ、食感、及びテクスチャーの違いを数値的に定量化し、パターン認識によって相対的に評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間にとって食物の摂取は、単に生命の維持のためのエネルギーの獲得だけを目的とする行為ではなく、味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚の五感の全てを働かせて、より積極的に「おいしさ」を追求し、「満足感」、「幸福感」を享受しようとする行為である。一般的に、食物の「おいしさ」の要素として、「味」、「香り」、「外観」とともに「テクスチャー」が挙げられる。
【0003】
テクスチャーとは、国際標準化機構(International 0rganization for Standardization)の定義では、「力学的、触覚的及び適切であれば視覚的、聴覚的な方法で感知できる食物のレオロジー的、構造的属性の総体」であるとされる。すなわち、テクスチャーは、食品を食べる人間が感知して表現する食感と、食品自体の物性の両方を合わせた意味の用語として一般に理解されている。そして、テクスチャーの測定あるいは評価については、従来、ヒトの感覚器官により評価をする官能評価と、食品の物性を客観的に評価する物理学的測定が行われてきた。
しかしながら、現在に至るまで、食品の総合的なテクスチャーの測定あるいは評価に関しては、確立され、広く認められた方法はなかった。
【0004】
一般に各種食品の物性の測定装置として、例えば、レオメータ、クリープメータなどと称される力学的性状を測定する装置が普及している。該装置は圧縮破断強度、引っ張り強度、切断強度、弾性、粘弾性、脆さ、粘着性、応力緩和、クリープ等の測定が可能である。
【0005】
これまで食品の物性の測定方法あるいは食感の評価方法に関して、いくつかの提案がなされている。例えば、乳幼児または嚥下困難者用食品(ムース)について、上顎模型の形状計測に基づき、口蓋及び舌の形状をそれぞれモジュール化した口蓋容器及び舌プランジャーを備えた食品の物性測定器具を用い、最大応力を測定する提案(特許文献1)がある。
【0006】
また、レオメータを用い、クッキーやスナック菓子などの供試食品の破断曲線を取得し、数学的解析により所定の周波数領域での破断エネルギーを求め、官能検査のクリスプネスとの間の統計的解析を行うことにより、クリスプネスの指標とする提案(特許文献2)がある。
【0007】
また、物性がゾルからゲルに変化する豆腐、蒲鉾、チーズなどのゲル形成食品に、内部に浸透性のある特定波長(400nmから50,000nmの範囲)の光を照射し、得られた吸光度曲線の特に800nm〜840nm付近の吸光度と破断力に高い負の相関があることを利用したゲル形成食品の品質判定方法の提案(特許文献3)がある。
【0008】
また、キウイやセロリなどの食品にレオメータのプローブを挿入し、発生する振動を取得し、ノイズを取り除いた振動データを単位時間当たりの振幅密度を得て、この振幅密度が高いほど「シャキシャキ感」が高い(ダイコンよりネギの方が、振幅密度が高くシャキシャキしている)と評価する提案(特許文献4)がある。
【0009】
また、クロワッサン、デニッシュペストリーなどの層状食品をレオメータで抑圧してプランジャーにかかる荷重の合計を破断エネルギー値Eとして算出し、「破断エネルギー値E/破断点の数N」を求め、該数値を層状食品の食感の指標として評価する提案(特許文献5)がある。
【0010】
また、食品、例えば、寒天、ゼラチン、ナタデココ、コンニャクゲルなどのゲル状食品、リンゴ、ナシ、バナナなどの果実、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子類の複数試料について、荷重及び歪率のデータを連続的に測定できる装置(レオメータ等)を用いた測定を行い、得られた荷重及び歪率の測定値を基に近似四次方程式近似曲線、あるいは五次方程式近似曲線の歪率−荷重曲線を最小自乗法により作成し、当該曲線における破断点である極大値に到達する以前の曲線部分の変曲点における接線の傾きを食感の硬さとして評価する提案(特許文献6、特許文献7)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−283975号公報
【特許文献2】特開2001−133374号公報
【特許文献3】特開2003−106995号公報
【特許文献4】特開2007−57476号公報
【特許文献5】特開2007−225460号公報
【特許文献6】特願2009−70951号
【特許文献7】特願2010−85178号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の提案は、ヒトの口蓋、舌の形状をモジュール化することによる、最大応力の測定方法の改善にすぎない。また、特許文献2の提案は、異なる食感を有しながら類似の音響パターンを有するクッキーやスナック菓子の差を判断する上では適用が難しい。また、特許文献3の提案は、ゾルからゲルに変化する食品の物性を確認するにすぎず、得られた焼き菓子類の食感を評価するものではない。また、特許文献4の提案は、ネギやダイコンなどの野菜組織の「シャキシャキ感」の評価はできるが、異なる食感を有しながら類似の音響パターンを有するクッキーやスナック菓子の食感の差を判断する上では適用が難しい。また、特許文献5の提案は、クロワッサン、デニッシュペストリーなどの層状食品の食感を評価する提案であり、焼き菓子類においてパイのような層状食品には有効であるが、クッキー、スナック菓子などへの適用した場合を考慮すると、全ての焼き菓子類に対して有効ではなかった。また、特許文献6の提案は、破断挙動の比較的単純なゲル状食品には有効であるが、焼き菓子類の場合は破断が急激に起こり、歪率−荷重曲線の挙動が複雑であるため、荷重及び歪率の測定値が近似四次方程式から乖離する場合があり、四次方程式近似が適切ではなく、有効ではなかった。
【0013】
また、特許文献1〜5に記載された技術に共通する問題点として、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの違いをパターン化して相対的に評価する方法が確立されていない点が挙げられる。さらに、特許文献6に記載された技術に関しては、得られた近似四次方程式からパターン認識して食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの違いを数値化して相対的に評価しようとしても、荷重及び歪率の測定値が近似四次方程式から乖離する場合があるため、評価は困難であった。
【0014】
そこで、特許文献7に記載された技術においては、特許文献6に記載された近似四次方程式を五次以上の方程式にすることにより改良が施された。その結果、特許文献7の技術によれば、実際に測定した荷重及び歪率の測定値から乖離の程度が少ない五次以上の多次方程式近似曲線を作成することにより、ゲル状食品、焼き菓子類など多岐の食品に渡って、実際に受ける硬さ、食感、及びテクスチャーを反映した指標を得ることができる。
しかしながら、五次以上の多次方程式近似曲線同士を比較して、複数の食品間における硬さ、食感、及びテクスチャーの違いを数値化して相対的に評価することは測定者の判断に委ねられ、その評価の正確性、信頼性が欠如していた。
【0015】
こうした状況から、複数の食品間における硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを客観的に比較することができる新しい評価方法の開発が望まれていた。
そこで、本発明は、焼き菓子類、ゲル状食品などの各種食品に関して、ヒトが食品咀嚼時に実際に感知する食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを的確に反映した指標によって、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−の異なる度合いを数値的に定量化し、得られた定量値を用いて、それらの違いを相対的に評価する、食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−のパターン認識による相対的評価方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従来技術によれば、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子類、ゼラチン、寒天、豆腐類などのゲル状食品、その他多くの食品においては、歪率一荷重曲線の極大値、極小値、変曲点における傾きなどが食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−の指標となり、ヒトが実際に食品を咀嚼したときに感知する硬さ、食感、及びテクスチャ−の質に対応すると考えられる。すなわち、歪率一荷重曲線の形状が、硬さ、食感、及びテクスチャ−の質を表現していると考えられる。
【0017】
そこで、本発明者は、焼き菓子類、ゲル状食品、あるいは、その他の食品を咀嚼したときの硬さ、食感、及びテクスチャ−の質の指標を得る基礎となる歪率一荷重測定の結果を、現在最も有効な近似の1つである五次以上の多次方程式で近似して、歪率一荷重曲線の多次方程式近似曲線を作成した。また、硬さ、食感、及びテクスチャ−の質を比較するため、複数サンプルについて、歪率一荷重破断の測定を行い、歪率一荷重曲線の多次方程式近似曲線を作成した。そして、この多次方程式近似曲線から、複数サンプル間の硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを自動計算し、得られた計算値を、硬さ、食感、及びテクスチャ−の質の差として自動的にパターン認識することにより、硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを判別することができる解析法について鋭意検討を行った。
【0018】
その結果、複数の上記多次方程式近似曲線について、該近似曲線上の荷重値を統一的に補正した補正多次近似曲線をそれぞれ作成し、得られた補正多次近似曲線の差を積分計算して、多次方程式近似曲線間の乖離度合いを数値化する方法の採用により、上記課題が解決されることを、本発明者は見出した。
【0019】
また、上記方法は、例えば、焼き菓子類について、開封直後からどれだけ食感が劣化したかを数値で表すことができるため、同一食品において、硬さ、食感、及びテクスチャ−の経時変化の度合いを数値的に把握して、食品の品質管理に適用できることを、本発明者は見出した。
【0020】
かくして、本発明は、食品の試料(A)をプランジャ−で押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定し、前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxA)を計算して求め、
他方、食品の試料(B)について、上記と同様にして、同次の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxB)を計算して求め、
次いで、極大値(MaxA)と極大値(MaxB)の荷重値が同一の値となるように、前記多次近似曲線上の荷重値を統一的に補正した補正多次近似曲線を、前記多次近似曲線のそれぞれについて作成し、
次いで、作成した2つの補正多次近似曲線の差を積分し、得られた積分値を用いて、食品の試料(A)と食品の試料(B)の硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを評価することを特徴とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−のパターン認識による相対的評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、クッキー、ビスケット、パイなどの焼き菓子類、ゼラチン、寒天、豆腐類などのゲル状食品、あるいは、その他の食品に関して、食品咀嚼時における食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの質の違いを正確に把握して、簡単かつ高精度で統計的に判別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】食品試料の荷重及び歪率のデータを基に作成した多次近似曲線の歪率―荷重曲線の一例を示す図である。
【図2】多次近似曲線の差の領域例を示す図である。
【図3】クッキーAの五次近似曲線(A)、補正五次近似曲線(B)を示す図である。
【図4】クッキーAの五次近似曲線(A)、補正五次近似曲線(B)を示す図である。
【図5】ビスケットBの五次近似曲線(A)、補正五次近似曲線(B)を示す図である。
【図6】ビスケットCの五次近似曲線(A)、補正五次近似曲線(B)を示す図である。
【図7】クッキーAの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図8】クッキーAの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図9】ビスケットBの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図10】ビスケットCの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図11】クッキーSの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図12】クッキーS’の六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図13】クッキーSの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図14】クッキーSの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図15】クッキーSの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図16】ゼラチンDの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図17】ゼラチンEの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図18】寒天Fの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図19】木綿豆腐Gの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図20】絹ごし豆腐Hの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【図21】玉子豆腐Iの六次近似曲線(A)、補正六次近似曲線(B)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明は、食品試料の歪率―荷重曲線の多次近似曲線を統一的に補正して、得られた2つの補正多次近似曲線(パターン)の差を積分値として求め、得られた積分値が、どの程度の硬さ、食感、あるいは、テクスチャ−の違いに該当するかを、あらかじめ収集しておいたデータに基づいて判断する方法であり、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーを、試料の間で相対的に評価する方法である。
本発明の評価方法を実施するにあたっては、まず、食品の試料(A)及び食品の試料(B)をプランジャ−で押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定する。
ここで、食品の試料(A)及び食品の試料(B)は、食品の硬さ、食感、及びテクスチャーの質の違いを相対的に評価する対象物であり、異なる種類の食品の試料であってもよいし、同一種類の食品の試料であってもよい。また、ある時間が経過した同一試料であってもよい。
【0024】
本発明で評価が可能な食品は、例えば、クッキー、ビスケット、パイ、スナック菓子、米菓子、などの焼き菓子類;寒天、ゼラチン、ナタデココ、豆腐類、コンニャクゲル、アロエなどのゲル状食品;リンゴ、ナシ、黄桃、白桃、ブドウ、ブルーベリー、イチゴ、バナナ、メロン、スイカ、パイナップル、マンゴ、パパイヤなどの果実;ダイコン、カブ、ニンジン、カボチャ、ナス、ミニトマトなどの野菜を挙げることができるが、これらの食品に限定されるわけではない。これらの食品のうち、クッキー、ビスケット、パイ、スナック菓子、米菓子、などの焼き菓子類、寒天、ゼラチン、豆腐類などのゲル状食品の評価が特に好ましい。このように、本発明は、多岐に渡る食品を評価の対象とすることができる。
【0025】
試料(A)及び試料(B)のサイズは、押圧する際に使用するプランジャーに基づいて、荷重及び歪率の測定に適した範囲のサイズにすればよい。また、測定に適した形状は問わず、通常ホールの形状、円柱体、直方体、立方体、球体及びこれに類似する形状が採用される。例えば、直径20mm×高さ2mmないし直径50mm×高さ8mmの円柱体、底辺30mm×底辺20mm×高さ2mmないし底辺20mm×底辺20mm×高さ20mmの直方体ないし立方体、直径5mmないし20mmの球体などが例示される。なお、本発明の評価方法において、評価に供する試料の個数は特に限定されない。
【0026】
食品試料を押圧するために使用しうる装置としては、一般にプランジャーと呼ばれる、圧縮破断試験を行うことができる装置、すなわち、通常円柱状の部品を有し、その先端部分で食品試料を一定速度(通常、0.01〜50mm/秒)で押し潰し、同時に押圧中に負荷される荷重とその荷重に対する歪率を連続的に測定することができる装置であるならば、特に制限はない。食品試料を押圧するプランジャー部分の形状は、測定する食品の実際の咀嚼態様を考慮して選択することが好ましく、例えば、主として前歯で噛む食品の場合はくさび形、奥歯で噛む食品の場合は円柱形のプランジャーを選択することが好ましい。市販品としては、クリープメータRE2−33005B、クリープメータRE2−3305B(以上、株式会社山電製、商品名)、レオメータCR−500DX−S(株式会社レオテック製、商品名)などを挙げることができるが、これらに限定されるわけではない。なお、これらの装置には、測定結果を外部に出力するためのソフトが予め組み込まれている。
【0027】
食品の試料(A)及び食品の試料(B)について、荷重及び歪率を連続的に測定した後、試料(A)及び試料(B)のそれぞれについて、上記の測定装置の出力データである荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする多次近似曲線、例えば、五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成する。上記の測定によって得られた出力データである荷重及び歪率は、前述の多次方程式で近似すると、出力データ分布のほぼ中央を通過する多次近似曲線として描くことができる。多次近似曲線は、五次以上の多次近似曲線であればよく、通常は、計算の便宜を考慮すると、五次ないし六次である。
この多次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成するには、まず、荷重及び歪率のデータを、例えば、表計算ソフトなどのデータとしてコンピュータに取り込む。ここで、歪率(%)とは、荷重を加えない場合に比べて、試料がどれだけ変形したかを表す数値であり、{(荷重をかける前の試料の高さ−ある所定の荷重をかけたときの試料の高さ)/(荷重をかける前の試料の高さ)}×100(%)で求めることができる。例えば、実際の測定で、試料の高さが20%減少したときは、歪率は20%となる。1個の食品試料に対して、荷重及び歪率を測定する回数は食品の種類によって異なるが、破断点の前後を合わせて合計で5〜100回、好ましくは10〜80回、より好ましくは10〜50回を挙げることができる。
【0028】
コンピュータに取り込んだ荷重及び歪率のデータは、最小自乗法を用いて、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の多次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成するために使用される。具体的には、荷重及び歪率のデータから、最小自乗法を用いて多次方程式の方程式を求め、それをグラフ化することにより歪率−荷重曲線が作成される。これらは市販ソフトを利用することによって自動的に行うことができる。
【0029】
この多次近似曲線について、例えば、五次近似した歪率−荷重曲線について詳しく説明すると、通常は破断点に相当する極大値、続いて荷重が最も減衰した点である極小値がそれぞれ少なくとも1つ存在する(図1参照)。また、各極大値と極小値間には通常変曲点が存在する。食品を咀嚼した場合、ある時点で組織が壊れる、すなわち破断が起こるが、この破断点は歪率−荷重曲線の五次近似曲線における最初のピーク値である極大値に相当する。この図1から分かるように、五次近似曲線である歪率−荷重曲線を用いて食品を咀嚼したときの荷重−歪率の関係は、荷重(gf)=0から荷重が増加するに伴って歪率も増加し、破断点で極大値を迎え、その後、極小値に到達するまで歪率は増加するが荷重は減少し、極小値を過ぎると再び、歪率の増加に伴って荷重も増大すると説明できる。
【0030】
次いで、試料(A)及び試料(B)について作成された、X軸を歪率、Y軸を荷重とする多次近似曲線から、それぞれ極大値(MaxA)、極大値(MaxB)を計算して求める。多くの食品は1つ以上の極大値を有するが、極大値を1つだけ有する場合は、その値を極大値(MaxA)、極大値(MaxB)とし、極大値を複数有する場合は、それらの極大値の中で最大の荷重値を示す極大値を、極大値(MaxA)、極大値(MaxB)として採用する。前述したように、極大値(MaxA)、極大値(MaxB)は、破断点に相当すると考えられる。
【0031】
極大値(MaxA)と極大値(MaxB)を決定した後、極大値(MaxA)と極大値(MaxB)の荷重値が同一の値となるように、前記多次近似曲線上の荷重値を統一的に補正した補正多次近似曲線を、試料(A)及び試料(B)のそれぞれについて作成する。これにより、前記多次近似曲線を直接対比できるようになる。荷重値を統一的に補正するには、例えば、(式1):(一定の値)/(多次近似曲線において、最大荷重値をもつ極大値の荷重値)=補正係数C、に基づいて、補正係数Cを算出し、元の多次近似曲線上の全ての荷重値に補正係数Cを乗じることによって行う。一定の値は、極大値の荷重値を考慮して適宜決定すればよく、例えば、1,000が例示される。そして、この手段によって得られた補正後の荷重を歪率毎に連結して、得られた曲線を補正近似曲線とする。補正近似曲線を作成するには、例えば、歪率を0.01%〜2%毎に区切って補正後の荷重をプロットするが、これに限定されるものではない。
【0032】
補正多次近似曲線を作成した後、補正多次近似曲線の差を積分する。作成した2つの補正多次近似曲線の概形が似ていれば、補正多次近似曲線の差の積分は小さくなり、概形が似ていなければ、積分が大きくなる。すなわち、2つの補正多次近似曲線の乖離の度合いが、補正多次近似曲線の差の積分に反映され、結局、食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−の質の違いを表す。補正多次近似曲線の差の積分計算は、例えば、歪率0.01%〜2%毎に区切って計算を行うが、これに限定されるものではない。また、積分計算は、通常は、測定区間の開始点から終点まで、すなわち、測定区間全体を通して計算を行うが、適宜、積分区間を選択することは任意である。ここで、図2は、補正多次近似曲線の差の領域を例示した図である。図2に示した例では、歪率0〜85(%)の積分区間において、2つの補正多次近似曲線の差の積分値が、補正多次近似曲線間の斜線部分の面積として計算される。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
市販されているクッキーA(直径55mm×厚さ8.5mm円柱体)を、試料台の上に、室温で載置し、クリープメータRE2−33005B(山電社製、商品名)を用いて、該クッキーの上面方向から、接触面積50mmの円柱状のプランジャーを、1.0mm/秒の速度で押圧することにより、荷重(gf)及び歪率(%)を測定した。荷重(gf)及び歪率(%)の測定は、同一試料に対して30回測定した。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000383757x−0.008799127x+0.7339137120x−26.2147611253x+334.0712521236x+418.9238208917で表された。上記式で与えられる五次近似曲線の歪率−荷重曲線を図3(A)に示す。該五次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1788.2gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記五次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.55922である。)。すなわち、該補正係数Cを元の五次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正五次近似曲線を図3(B)に示す。
【0035】
次いで、クッキーA(クッキーAと同一製品、製造ロット違い品。直径55mm×厚さ8.5mm円柱体)について、上記クッキーAと同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000414359x−0.0093631409x+0.7721593387x−27.4403963291x+353.6380397024x+344.9865083471で表された。上記式で与えられる五次近似曲線の歪率−荷重曲線を図4(A)に示す。該五次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1820.0gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記五次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.54945である。)。すなわち、該補正係数Cを元の五次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正五次近似曲線を図4(B)に示す。
【0036】
クッキーAの補正五次近似曲線を標準とし、クッキーAの補正五次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、13,128の値が得られた。
【0037】
(実施例2)
市販されているビスケットB(底辺60mm×底辺48mm×厚さ9mm直方体)について、実施例1と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000478682x−0.0108325413x+0.8968073150x−32.0799328004x+421.7423101608x+35.1647268115で表された。上記式で与えられる五次近似曲線の歪率−荷重曲線を図5(A)に示す。該五次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1839.4gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記五次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.54365である。)。すなわち、該補正係数Cを元の五次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正五次近似曲線を図5(B)に示す。
【0038】
実施例1に示したクッキーAの補正五次近似曲線を標準とし、クッキーBの補正五次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、21,542の値が得られた。
【0039】
(実施例3)
市販されているビスケットC(直径60mm×厚さ6mm円柱体)について実施例1と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、五次関数式:y=0.0000309152x−0.0067157687x+0.5748110521x−23.4186267445x+412.4118587289x−549.4356481123で表された。上記式で与えられる五次近似曲線の歪率−荷重曲線を図6(A)に示す。該五次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は2001.8gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記五次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.49955である。)。すなわち、該補正係数Cを元の五次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正五次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正五次近似曲線を図6(B)に示す。
【0040】
実施例1に示したクッキーAの補正五次近似曲線を標準とし、クッキーCの補正五次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、255,680の値が得られた。
【0041】
(実施例1〜3の評価)
官能評価において、クッキーAとクッキーAは、全く同質の食感を有し、ビスケットBはクッキーAと類似の食感を有し、ビスケットCはクッキーAと全く異質の食感を有すると評価されている。
それに対し、クッキーAとクッキーAに関する実施例1で得られた差の積分値は、13,128であり、実施例1〜3の中では、値が最小であった。クッキーAとビスケットBに関する実施例2で得られた差の積分値は、21,542であり、値は小さかった。クッキーAとビスケットCに関する実施例3で得られた差の積分値は、255,680であり、値は大きかった。
この結果から分かるように、実施例1〜3で得られた積分値は、実際の官能評価の結果を正確に反映していた。
【0042】
(実施例4)
実施例1に示したクッキーAの測定結果についての破断曲線の近似を五次方程式近似から六次方程式近似に変更し、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000584790x+0.000196067443x−0.024898494982x+1.504695292018x−43.484080118127x+488.194709349773x+96.927401822060で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図7(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1913.7gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、0.52254である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図7(B)に示す。
【0043】
続いて、実施例1に示したクッキーAの測定結果についての破断曲線の近似を五次方程式近似から六次方程式近似に変更し、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000260260x+0.000111622367x−0.016529353287x+1.115279757758x−35.128535536380x+422.255776902195x+201.634992864681で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図8(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1873.2gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、0.53385である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図8(B)に示す。
【0044】
クッキーAの補正六次近似曲線を標準とし、クッキーAの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、22,000の値が得られた。
【0045】
(実施例5)
実施例2に示したビスケットBの測定結果についての破断曲線の近似を五次方程式近似から六次方程式近似に変更し、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000269589x+0.000120635174x−0.018268161597x+1.253053850107x−40.064671302505x+492.970779391471x−113.057557536754で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図9(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1892.3gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.52844である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図9(B)に示す。
【0046】
実施例4に示したクッキーAの補正六次近似曲線を標準とし、ビスケットBの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、60,197の値が得られた。
【0047】
(実施例6)
実施例3に示したビスケットCの測定結果についての破断曲線の近似を五次方程式近似から六次方程式近似に変更し、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000476258x−0.000097663788x+0.006422710726x−0.054388249102x−9.334177145618x+287.202060697600x−292.115734149701で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図10(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は2042.2gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.48967である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図10(B)に示す。
【0048】
実施例4に示したクッキーAの補正六次近似曲線を標準とし、ビスケットCの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、269,068の値が得られた。
【0049】
(実施例4〜6の評価)
クッキーAとクッキーAに関する実施例4で得られた差の積分値は、22,000であり、実施例4〜6の中では、値が最小であった。クッキーAとビスケットBに関する実施例5で得られた差の積分値は、60,197であり、値は小さかった。クッキーAとビスケットCに関する実施例6で得られた差の積分値は、269,068であり、値は大きかった。
この結果から分かるように、実施例4〜6で得られた積分値は、実際の官能評価の結果を正確に反映していた。
このように、五次方程式近似に限らず、六次方程式近似においても同様に差の積分値にて食感の質を評価することが可能であった。
【0050】
(実施例7)
開封直後の実施例1に示したクッキーA(以下、「クッキーS」という。)について、実施例1と同様の処理を行い、その測定結果についての歪率−荷重曲線を六次方程式近似して、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000584790x+0.000196067443x−0.024898494982x+1.504695292018x−43.484080118127x+488.194709349773x+96.927401822060で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図11(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1913.7gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.52254である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図11(B)に示す。
【0051】
開封直後の実施例1に示したクッキーAと同製品ロット違い品(以下、「クッキーS’」という。)について、実施例1と同様の処理を行い、その測定結果についての歪率−荷重曲線を六次方程式近似、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000260260x+0.000111622367x−0.016529353287x+1.115279757758x−35.128535536380x+422.255776902195x+201.634992864681で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図12(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は1873.2gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.53385である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図12(B)に示す。
【0052】
クッキーSの補正六次近似曲線を標準とし、クッキーS’の補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、22,000の値が得られた。
【0053】
(実施例8)
クッキーSについて、気温20 ℃、湿度60%の恒温恒湿槽にて1日間湿気虐待を施した、開封1日後のクッキーSをクッキーSとし、測定結果についての破断曲線を六次方程式近似して、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000395313x+0.000154665504x−0.021838118211x+1.428950883531x−43.999744926667x+526.890794571256x−86.780080367811で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図13(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は2008.1gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.494797である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図13(B)に示す。
【0054】
実施例7に示したクッキーSの補正六次近似曲線を標準とし、クッキーSの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、37,303の値が得られた。
【0055】
(実施例9)
クッキーSについて、気温20 ℃、湿度60%の恒温恒湿槽にて2日間湿気虐待を施した、開封2日後のクッキーSをクッキーSとし、測定結果についての破断曲線を六次方程式近似して、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000161969x+0.000103176285x−0.018184664872x+1.376031928162x−48.017703747610x+671.531265459721x−590.920064011588で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図14(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は2578.8gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.38777である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図14(B)に示す。
【0056】
実施例7に示したクッキーSの補正六次近似曲線を標準とし、クッキーSの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、133,528の値が得られた。
【0057】
(実施例10)
クッキーSについて、気温20 ℃、湿度60%の恒温恒湿槽にて3日間湿気虐待を施した、開封3日後のクッキーSをクッキーSとし、測定結果についての破断曲線を六次方程式近似して、解析した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000760962x−0.000176227065x+0.014608909896x−0.467809894535x+0.548007850302x+227.745507641695x−330.827401001006で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図15(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は2573.3gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、前述した補正係数Cは、0.38861である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図15(B)に示す。
【0058】
実施例7に示したクッキーSの補正六次近似曲線を標準とし、クッキーSの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、388,330の値が得られた。
【0059】
(実施例7〜10の評価)
実施例7〜10においては、食品の品質管理への本発明の応用を想定し、モデルとしてクッキーの湿気に対する食感の変化を追跡するため、本発明の方法を供した。
官能評価によれば、標準であるクッキーSと同製品、製造ロット違い品であるクッキーS’は、全く同質の食感を有し、クッキーSはクッキーSとの比較においては僅かに湿気を感じる程度の食感変化があり、クッキーSはクッキーSとの比較において、サクサク感が明らかに失われた程度の食感変化があり、クッキーSはクッキーSとの比較において完全にサクサク感が失われ、重たい食感に変化したと評価されている。
一方、クッキーSとクッキーS’に関する実施例7で得られた差の積分値は、22,000であり、実施例7〜11の中では、値が最小であった。クッキーSとクッキーSに関する実施例8で得られた差の積分値は、37,303であり、開封1日目では値は小さかった。クッキーSとクッキーSに関する実施例9で得られた差の積分値は、133,528で、開封2日目では値の拡大が見られた。クッキーSとクッキーSに関する実施例10で得られた差の積分値は、差の積分値は388,330であり、開封3日目では値は非常に大きくなった。
この結果から分かるように、実施例7〜10で得られた積分値は、実際の官能評価の結果を正確に反映していた。
このように、焼き菓子類について、湿気による食感変化を評価する目的に、本発明を応用できることが分かった。
【0060】
(実施例11)
市販されているゼラチンD(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)を、試料台の上に、品温4
℃で載置し、クリープメータRE2−33005B(山電社製、商品名)を用いて、該ゼラチンの上面方向から、接触面積50mm2の円柱状のプランジャーを、1.0mm/秒の速度で押圧することにより、荷重(gf)及び歪率(%)を測定した。荷重(gf)及び歪率(%)の測定は、同一試料に対して30回測定した。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000016752x−0.000002911588x+0.000122187228x+0.001896019425x−0.144374709116x+2.028373387700x−2.577150862664で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図16(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は110.1gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、9.08554である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図16(B)に示す。
【0061】
市販されているゼラチンE(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)について、上記ゼラチンDと同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000053977x−0.000013689109x+0.001284817030x−0.055535504777x+1.142779167087x−8.946977781481x+17.650545045704で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図17(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は136.3gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、7.33786である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図17(B)に示す。
【0062】
ゼラチンDの補正六次近似曲線を標準とし、ゼラチンEの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、67,858の値が得られた。
【0063】
(実施例12)
市販されている寒天F(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)について、実施例11と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000068333x−0.000021035464x+0.002476495285x−0.137178869942x+3.455996737710x−28.190001217736x+54.041370813822で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図18(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は160.3gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、6.24017である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図18(B)に示す。
【0064】
実施例11に示したゼラチンDの補正六次近似曲線を標準とし、寒天Fの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、260,391の値が得られた。
【0065】
(実施例13)
市販されている木綿豆腐G(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)について、実施例11と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=−0.000000002563x+0.000001170355x−0.000152598958x+0.007497843979x−0.130113219928x+1.651196821156x+0.279851148574で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図19(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は67.1gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、14.8943である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図19(B)に示す。
【0066】
実施例11に示したゼラチンDの補正六次近似曲線を標準とし、木綿豆腐Gの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、137,858の値が得られた。
【0067】
(実施例14)
市販されている絹ごし豆腐H(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)について、実施例11と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000017437x−0.000004846631x+0.000514129432x−0.025520889205x+0.567539614379x−3.212350461217x+7.253306625033で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図20(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は44.9gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、22.2832である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図20(B)に示す。
【0068】
実施例11に示したゼラチンDの補正六次近似曲線を標準とし、絹ごし豆腐Hの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、283,227の値が得られた。
【0069】
(実施例15)
市販されている玉子豆腐I(底辺10mm×底辺10mm×厚さ10mm立方体)について、実施例11と同様の処理を行った。
上記測定によって得られた荷重(gf)及び歪率(%)の測定値から、コンピュータを用いて最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。その歪率−荷重曲線は、六次関数式:y=0.000000002270x−0.000000639133x+0.000071964588x−0.004021489511x+0.100948442288x−0.164074870849x+1.571008583218で表された。上記式で与えられる六次近似曲線の歪率−荷重曲線を図21(A)に示す。該六次近似曲線において、荷重値が最大である極大値を算出したところ、その荷重値は28.6gfであった。
次いで、該荷重値が1,000gfとなるように、上記六次近似曲線の荷重値に対して統一補正を行った(この場合、補正係数Cは、34.9578である。)。すなわち、該補正係数Cを元の六次近似曲線全域の荷重値に乗じて、補正六次近似曲線の歪率−荷重曲線を作成した。該補正六次近似曲線を図21(B)に示す。
【0070】
実施例11に示したゼラチンDの補正六次近似曲線を標準とし、玉子豆腐Iの補正六次近似曲線との差の積分計算を、歪率0%から70%までの範囲で、また、歪率0.1%間隔の解析条件で実施して、積分値を算出したところ、201,231の値が得られた。
【0071】
(実施例11〜15の評価)
実施例11〜15においては、ゲル状食品に対して、本発明の方法を供した。
官能評価によれば、標準であるゼラチンDとゼラチンEは異なる製品であるが、食感の質は、同質の食感であり、ここで準備したサンプルの中で最も近しいものであり、寒天F、絹ごし豆腐G、玉子豆腐Iは、標準であるゼラチンDとは異質の食感を有し、木綿豆腐Gは張りのある食感の質がゼラチンDとやや類似していると評価されている。
一方、ゼラチンDとゼラチンEに関する実施例11で得られた差の積分値は、67,858となり、実施例11〜15の中では、値が最小であった。ゼラチンDと寒天F、絹ごし豆腐G、玉子豆腐Iに関する実施例12、14、15で得られた差の積分値は、それぞれ260,391、283,227、201,231となり、値はやや大きかった。木綿豆腐Gに関する実施例13で得られた差の積分値は、137,858であり、中程度の値であった。
この結果から分かるように、実施例11〜15で得られた積分値は、実際の官能評価の結果を正確に反映していた。
このように、焼き菓子類のみならずゲル状食品においても、本発明を適用することにより、食感の質を評価することが可能であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品の試料(A)をプランジャ−で押圧し、同時に押圧中の荷重及び歪率を連続的に測定し、前記の荷重及び歪率の値を基に、最小自乗法により計算を行って、X軸を歪率、Y軸を荷重とする五次以上の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxA)を計算して求め、
他方、食品の試料(B)について、上記と同様にして、同次の多次近似曲線の歪率一荷重曲線を作成し、該多次近似曲線における極大値(MaxB)を計算して求め、
次いで、極大値(MaxA)と極大値(MaxB)の荷重値が同一の値となるように、前記多次近似曲線上の荷重値を統一的に補正した補正多次近似曲線を、前記多次近似曲線のそれぞれについて作成し、
次いで、作成した2つの補正多次近似曲線の差を積分し、得られた積分値を用いて、食品の試料(A)と食品の試料(B)の硬さ、食感、及びテクスチャ−の違いを評価することを特徴とする、食品の硬さ、食感、及びテクスチャ−のパターン認識による相対的評価方法。
【請求項2】
多次近似曲線が、五次近似曲線又は六次近似曲線である請求項1に記載の相対的評価方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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