説明

食品保存剤

【課題】解決しようとする課題点は、食品の腐敗の原因となる細菌、真菌に対し十分な抗菌防腐力を有し、人体に対し安全であり、かつ組成物としての安定性が高く安価で製造することが可能な食品保存剤を新規に提供することである。
【解決手段】(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなる組成物が優れた抗菌防腐力を有することを見いだし、本発明である食品保存剤を創成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品保存剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
商業的に流通している食品には、消費者に到達する以前に腐敗しないよう、通常、冷凍保管や加熱滅菌といった手法以外に、食品保存剤に使用による防腐が汎用されている。特に近年では食品産業分野における流通形態の変化に伴い、外食産業と共にコンビニエンスストアに代表される中食産業が発展するに従い、加工食料品の流通量が増大している。加工食品は、特に製造から流通販売までの過程において鮮度が低下しやすく、腐敗しやすいため、低温下での流通は必須ではあるが、更に食品保存剤の使用もまた必須とされている。
【0003】
一般に、日本の食品衛生法で食品への使用が認められている保存剤としては、安息香酸及びそのナトリウム塩、ソルビン酸及びそのカリウム塩、パラオキシ安息香酸エステル類、プロピオン酸及びそのナトリウム塩又はカルシウム塩、デヒドロ酢酸ナトリウム及び亜硫酸塩類等が代表例として挙げられる。しかしながら、これらの保存剤は、使用対象とする食品の種類、使用量及び残留量に関しての厳密な使用基準が存在する。更には、近年の安全性重視及び健康に関する意識向上から、消費者において食品保存剤を使用した食品を敬遠する傾向にあり、保存剤の利用が低下してきている。
【0004】
そこで、従来の食品保存剤とは異なる、人体に対してより安全であって、かつ防腐力も高く、更には食品の味や香り、色彩等の外観や食感等にも影響しない新たな食品保存剤の開発が望まれており、現在までに様々な食品保存剤が提案されてきている。これまで食品保存剤として開示されてきた先行技術としては、有機酸及び界面活性剤を主成分とする除菌洗浄剤(特許文献1)、食用油脂と油脂不溶性の抗菌性物質から成る食品用保存剤(特許文献2)、重合度が21以上であるε−ポリリジンを含有する食品保存剤(特許文献3)、エチレンジアミン四酢酸並びにアルファ型チオニン及びベータ型チオニンの中から選ばれた少なくとも1種を含有する殺菌性組成物(特許文献4)、牛又は牛以外の哺乳動物より得られる抗体を含有する食品用抗菌組成物(特許文献5)、クエン酸と食酢と炭酸水素ナトリウムとを混合して得られたpH2.25以下の殺菌剤(特許文献6)等が例示できる。しかしながら、それらの抗菌防腐力や、人体に対する安全性に関しては、未だ満足のいくものではない。また、食品の抗菌防腐は常に行われる作業であることから、食品保存剤を使用する環境下において、その成分の乖離や沈殿、層分離等の発生が起きない十分安定なものであって、かつ安価に入手可能なものである必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、解決しようとする課題点は、食品の腐敗の原因となる細菌、真菌に対し十分な抗菌防腐力を有し、人体に対し安全であり、かつ組成物としての安定性が高く安価で製造することが可能な食品保存剤を新規に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、(E)水が0〜55重量%、を少なくとも含む溶液1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなる組成物が優れた抗菌防腐力を有することを見いだし、本発明である食品保存剤を創成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食品保存剤は、食品の腐敗の原因となる大腸菌、シュードモナス属、スタフィロコッカス属及びバシルス属であるグラム陰性菌群、アスペルギルス属及びカンジダ属である不完全菌類及び半子嚢菌類に対して優れた抗菌防腐力を有する。また、本発明の食品保存剤は、全て医薬品や医薬部外品及び食品等で従来から汎用されてきた成分で構成されるものであって、これらの成分の安定性並びに人体への安全性に関しては殊更優れるものである。更に、これらの成分は、非常に安価でかつ大量に入手が可能な化合物ばかりであり、日常的に使用するにあたって消費者の経済的負担が軽減されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−335696号公報
【特許文献2】特開2002−119266号公報
【特許文献3】特開2003−171462号公報
【特許文献4】特開2003−63982号公報
【特許文献5】特開2007−312740号公報
【特許文献6】特開2009−278959号公報
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の食品保存剤は、第一に、少なくとも(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩を15〜45重量%、(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20〜50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10〜30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0〜10重量%、及び(E)水が0〜55重量%を含む溶液を必須とする。
【0010】
(A)の炭素数8〜22の脂肪酸は、置換基を有していてもよい炭素数8〜22の直鎖状又は分岐状の飽和あるいは不飽和脂肪酸であれば特に限定されないが、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、エルカ酸、ベヘニン酸から選択される。脂肪酸の塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩から選択される。特に、融点が低い脂肪酸が性状の安定性や製造の簡便性から好ましく、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸とそれらの塩から選択される。当該溶液中における脂肪酸の含有量は、15〜45重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0011】
(B)の炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルは、特に限定されないが、具体的にはモノカプリル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノカプリン酸グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、ジラウリン酸グリセリル、モノミリスチン酸グリセリル、トリミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ジパルミチン酸グリセリル、トリパルミチン酸グリセリル、モノイソパルミチン酸グリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル、トリステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、モノオキシステアリン酸グリセリル、トリオキシステアリン酸グリセリル、モノヒドロキシステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸グリセリル、トリオレイン酸グリセリル、モノリノール酸グリセリル、トリリノール酸グリセリル、トリリノレン酸グリセリルから選択される。特に、水に対する溶解性並びに固有の限界ミセル濃度の点から、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選択される。当該溶液中におけるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルの含有量は、20〜50重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0012】
(C)のスルホコハク酸エステルは、特に限定されないが、具体的にはスルホコハク酸ジエチルヘキシル、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ウンデシレノイルアミドエチルスルホコハク酸二ナトリウム、オレイン酸アミドエトキシエタノールスルホコハク酸エステル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸β−シトステリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレングリコールジメチコンスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸イソプロパノールアミドスルホコハク酸二ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミド二ナトリウム、スルホコハク酸ヤシ油アルキルグルコシド、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウムから選択される。特に、水に対する溶解性並びに製造におけるコストの面から、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選択される。当該溶液中におけるスルホコハク酸エステルの含有量は、10〜30重量%の範囲であれば任意に設定することができる。
【0013】
本発明の食品保存剤で用いられる少なくとも(A)〜(E)を含む溶液には、脂肪酸の酸化を防止するために、更に酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤は医薬品、医薬部外品及び食品に通常添加されている成分であれば特に限定されないが、具体的には、アスコルビン酸類、トコフェロール類、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、フラボノイド類、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。溶液への配合量としては、0.001〜5重量%の範囲であれば十分である。
【0014】
本発明の食品保存剤で用いられる(A)〜(E)を含む溶液の製造方法としては、公知な処方製剤の製造方法より得られる。例えば、(A)〜(C)を必要ならば(A)の融点以上に加温しながら溶解及び混合した後、これにあらかじめ混合した(D)及び(E)の混合物を、例えば攪拌機を備えた乳化装置やホモミキサー、ディスパーミキサー、高剪断力の高圧ホモジナイザーや高圧及び/又は真空ホモミキサー、超音波乳化機、SPG膜乳化機、スタティック型ラインミキサー、コロイドミル等といった混合装置を用いて徐々に添加しながら撹拌混合することで当該溶液が製造される。
【0015】
本発明の食品保存剤は、第二に前記(A)〜(E)を含む溶液を水性基剤に混合して分散させてなることを必須とする。混合する比率は、溶液1重量部に対し、水性基剤が1〜500重量部の範囲で設定される。混合するにあたって、特に混合装置等は必須ではないが、本発明の食品保存剤を大量に製造する場合には撹拌装置を備えた設備であることが好ましい。本発明で用いられる水性基剤は、水又はエタノールを0〜10重量%含む水溶液である。
【0016】
本発明の食品保存剤は、食品の除菌、殺菌、防腐等の目的で、公知の食品保存剤と同様の取り扱いで使用することができる。食品防腐剤を使用する食品の具体例としては、野菜類、穀類、肉類、鮮魚貝類、卵、果物類や、蒲鉾、竹輪等の水産練り製品、ソーセージ、ハム等の畜肉製品、魚のひらき等の干し製品、洋菓子類、和菓子類、生麺、茹で麺、中華麺、日本蕎麦等の麺類、パン類、漬け物、佃煮、米飯類、茹で野菜類、惣菜類、冷凍食品等の加工食品が挙げられる。本発明の食品保存剤の使用方法としては、食品をこの食品保存剤中に短時間浸漬するか、あるいは食品に直接噴霧して殺菌する方法が簡便で好ましい。しかしながら、本発明はこれらの使用対象及び方法のみに限定されるものではない。
【0017】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0018】
表1〜2に本発明の食品保存剤の製造に用いる溶液の製造例を示した。表中の各成分の数値は重量%を示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実施例1)製造例1〜8の抗菌防腐力試験
製造例1〜8を用いて製造した食品保存剤に対し、抗菌性試験を実施した。製造例1〜8を水に1:1の比率で混合したものを供試した。対象とする微生物は、Staphylococcus aureus ATCC6538(黄色ブドウ球菌)、Pseudomonas aeruginosa ATCC9027(緑膿菌)、Escherichia coli ATCC8739(大腸菌)、Bacillus subtilis NBRC3134(枯草菌)、Candida albicans ATCC102313(カンジダ菌)、Aspergillus niger NBRC6341(黒カビ)の6種を設定した。試験方法は日本薬局方の保存効力試験に準拠した。結果を表3〜5に示した。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
(実施例1の結果)
製造例1〜8の抗菌防腐力を試験した結果、表3〜5で示されたとおり、供試した6種の微生物全てに対して、優れた抗菌防腐力を示した。特に製造例1〜4の組成物は、培養7日間でほぼ全ての微生物が死滅していることが確認され、本発明の中でも特に優れた食品保存剤であることが判明した。
【0026】
(実施例2)食品保存剤の製造における(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比の検討
本発明の食品保存剤を製造するにあたり、(A)〜(E)を含む溶液と水性基剤の混合比率について、以下に記載の混合比率で製造した組成物の抗菌活性を調べた。供試する溶液には、実施例1において最も抗菌防腐力に優れる製造例1を選択した。試験方法は実施例1の方法に準拠し、培養14日目おける各微生物の生菌数を測定した。結果を表6に示した。
製造例9:製造例1の溶液1重量部に対し、水100重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
製造例10:製造例1の溶液1重量部に対し、水200重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
製造例11:製造例1の溶液1重量部に対し、水500重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
製造例12:製造例1の溶液1重量部に対し、水1000重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
製造例13:製造例1の溶液1重量部に対し、5%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
製造例14:製造例1の溶液1重量部に対し、10%エタノール水溶液200重量部の比率で混合して得られた食品保存剤。
【0027】
【表6】

【0028】
(実施例2の結果)
製造例9〜14の食品保存剤について抗菌防腐力を測定した結果、溶液1重量部に対し、水性基剤500重量部の混合比率までが実施例1で得られた抗菌防腐力が維持されるものであり、水性基剤が1000重量部となると抗菌防腐力が低下した。また製造例9〜11及び13〜14の結果から、水性基剤として水のみでもエタノールを含む水溶液でも同等の抗菌防腐力を示すことが判明した。更には、製造例9〜14は全ての組成物において、本発明の食品保存剤中に含まれる成分の乖離や沈殿、層分離等の発生もなく、安定な組成物であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記の(A)〜(E)を含む溶液の1重量部に対し、水性基剤を1〜500重量部の比率で混合してなることを特徴とする食品保存剤。
(A)炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が15〜45重量%、
(B)炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが20〜50重量%、
(C)スルホコハク酸エステルが10〜30重量%、
(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールが0〜10重量%、
(E)水が0〜55重量%
【請求項2】
炭素数8〜22の脂肪酸又はその塩が、カプリル酸、カプリン酸、パルミトレイン酸及びオレイン酸又はそれらの塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の食品保存剤。
【請求項3】
炭素数8〜18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルが、モノカプリル酸グリセリル、ジカプリル酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノラウリン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル及びモノオレイン酸グリセリルから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜2記載の食品保存剤。
【請求項4】
スルホコハク酸エステルが、スルホコハク酸ジオクチルナトリウム、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム及びスルホコハク酸ジエチルヘキシル又はその塩から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3記載の食品保存剤。