食品密封容器
【課題】紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、環境温度が低下しても胴部に凹みが生じないという容器特性を、容器の密封性に影響を与えることなく実現する。
【解決手段】食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有する。カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。底部材2bにはダイヤフラム構造5が形成されている。ダイヤフラム構造5は、底部材2bの中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部5a〜5eや、底部材2bの中心を囲む環状階段部5fなどにより構成される。
【解決手段】食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有する。カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。底部材2bにはダイヤフラム構造5が形成されている。ダイヤフラム構造5は、底部材2bの中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部5a〜5eや、底部材2bの中心を囲む環状階段部5fなどにより構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品密封容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品容器として、食品を入れた紙製カップの上面開口を蓋材で密封する構造のものがしばしば用いられる。このような食品密封容器の例を特許文献1、2に見ることができる。
【0003】
特許文献1には、容器の外面からの液体の浸透を防止するため、外面に素材端面が露出しないようにした耐液浸透性容器が記載されている。
【0004】
特許文献2には、アルミニウム箔を層構成中に用いた密封性に優れた紙容器が記載されている。
【特許文献1】実開昭57−183217号公報
【特許文献2】特許第3816033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されたような食品密封容器の基本的構造を図11に示す。食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有する。カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。
【0006】
胴部材2a、底部材2b、及び蓋材3は、紙層の秤量や熱接着性樹脂層の樹脂種は異なるものの、いずれも紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層したものである。例えば胴部材2aには、秤量250〜290g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。底部材2bには、秤量160〜220g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。蓋材3には、秤量79.1g/m2の片アート紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ20μmの低密度ポリエチレン層と、20g/m2のホットメルト接着剤を積層したものを用いることができる。
【0007】
上記のような食品密封容器は、密封性が高いことにより、内容物を長期間保存することができる。しかしながらこのような食品容器を食品充填時よりも低温の環境に置いたとき、内部の空気が収縮して減圧状態となり、表面積の大きい容器胴部に凹み(図11の凹み4)が生じてしまうことがある。スナック菓子等の容器で、内部の食品量に対する空気量の比率が比較的高い場合にこのような事態が生じやすい。販売前に容器胴部が凹んでしまった商品は多くの場合食品メーカーに返品されるので、食品メーカーにとってはそれを避けることが重要課題となる。
【0008】
上記問題に対処するため、特許文献2に記載された紙容器では、内面となる熱接着性樹脂層から紙層の一部に達する微細な通気孔を設け、環境温度の変化で紙容器内部が減圧状態となり、紙容器の胴部に凹みが生じる現象を防止するようにしている。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、環境温度が低下しても胴部に凹みが生じないという容器特性を、容器の密封性に影響を与えることなく実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明では、紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、前記カップの底部材にダイヤフラム構造を形成したことを特徴としている。
【0011】
この構成によると、環境温度が低下して容器内部が減圧するときは、底部材のダイヤフラム構造が容器内部方向へ変形して容器の容積が縮小する。これにより、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。容器の密封性はそのままであるから、従来通りの食品保存期限を設定することができる。
【0012】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記カップの胴部材及び底部材と、前記蓋材とは、いずれも、紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層した積層シートにより構成されることを特徴としている。
【0013】
この構成によると、アルミニウム箔のガスバリア性により、密封性の高い食品密封容器を得ることができる。
【0014】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記胴部材は、積層シートの一方の端部を外方に折り返して接着した折り返し接着部に他方の端部を外側から重ねて接着したものであることを特徴としている。
【0015】
この構成によると、胴部材を構成する積層シートの端面がカップ内に露出しないので、内容物に対するカップの耐液浸透性が向上する。
【0016】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記底部材の中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴としている。
【0017】
この構成によると、底部材を成形する際、ダイヤフラム構造も併せて簡単に成形することができる。
【0018】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記底部材の中心を囲む環状階段部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴としている。
【0019】
この構成によると、底部材を成形する際、ダイヤフラム構造も併せて簡単に成形することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、低温になっても胴部が凹まず、食品保存期限は従来を下回らない食品密封容器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る断熱容器の一実施形態を図1から図5に基づき説明する。図1は食品密封容器の垂直断面図、図2はカップの胴部材貼り合わせ部の部分拡大水平断面図、図3はカップの底部材貼り合わせ部の部分拡大垂直断面図、図4はカップの底部材の上面図、図5は内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図である。
【0022】
食品密封容器1の基本的構造は図6に示した従来構造と同じである。すなわち食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有し、カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。胴部材2a、底部材2b、及び蓋材3は、紙層の秤量や熱接着性樹脂層の樹脂種は異なるものの、いずれも紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層したものである。例えば胴部材2aには、秤量250〜290g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。底部材2bには、秤量160〜220g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。蓋材3には、秤量79.1g/m2の片アート紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ20μmの低密度ポリエチレン層と、20g/m2のホットメルト接着剤を積層したものを用いることができる。
【0023】
胴部材2aは上の方ほど直径が大きくなる形状であり、特許文献1、2に記載された容器と同様、扇形の積層シートを貼り合わせて形成する。貼り合わせ部の構造を図2に示す。胴部材2aを構成する積層シートS1の中で、胴部材2aの内面側となる端部は外方に折り返した上、最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着し、折り返し接着部S1aとする。積層シートS1の中で、胴部材2aの外面側となる端部を折り返し接着部S1aに外側から重ね、最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着する。これにより、胴部材2aを構成する積層シートS1の端面がカップ2内に露出しなくなり、内容物に対するカップ2の耐液浸透性が向上する。
【0024】
底部材2bは周縁が下向きに直角に折り曲げられ、胴部材2aの下端は底部材2bの周縁を包むようにカーリングされている。図3に示すように、カーリング部Cは胴部材2aまたは底部材2bの最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着されており、この箇所の密封性も高い。
【0025】
食品密封容器1は、カップ2の底部材2bの構造に特徴を有する。すなわち底部材2bにはダイヤフラム構造5が形成されている。ダイヤフラム構造5は、底部材2bの中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により構成される。実施形態では、上方から見て谷をなす環状エンボス部を2個、上方から見て山をなす環状エンボス部を2個、同心円状に配置してダイヤフラム構造5を構成している。すなわち円形の台地状部5aを中心にしてその外側に、谷をなす環状エンボス部5b、山をなす環状エンボス部5c、谷をなす環状エンボス部5d、山をなす環状エンボス部5eがこの順序で並ぶ。言うまでもないが、ダイヤフラム構造5のこの構成は一例であり、発明の内容に制限を加えるものではない。
【0026】
食品を入れ、蓋材3で密封した食品密封容器1を、食品充填時よりも低温の環境に置くと、内部の空気が収縮して食品密封容器1の内部は減圧状態となる。このような状態では、図5に示すように、底部材2bのダイヤフラム構造5が容器内部方向へ変形し、食品密封容器1の容積が縮小する。これにより、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。一方で食品密封容器1の密封性はそのままであるから、従来通りの食品保存期限を設定することができる。
【0027】
続いて本発明に係る断熱容器の第2実施形態を図6から図8に基づき説明する。図6は食品密封容器の垂直断面図、図7はカップの底部材の上面図、図8は内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図である。
【0028】
第2実施形態の食品密封容器1は、カップ2の胴部材2aと底部材2bの積層シートの構成とその貼り合わせ方、蓋材3の積層シートの構成などは第1実施形態と同じである。但しカップ2の底部材2bのダイヤフラム構造5が第1実施形態と異なる。すなわち底部材2bにはその中心を囲む環状階段部5fが形成され、この環状階段部5fによりダイヤフラム構造5が構成される。環状階段部5fは中心部を最下段とし、そこから周縁の最上段まで、3段階に高さが上昇する。図7に示す通り、各段部は上から見ると同心円形状をなしている。
【0029】
食品を入れ、蓋材3で密封した食品密封容器1を、食品充填時よりも低温の環境に置くと、内部の空気が収縮して食品密封容器1の内部は減圧状態となる。この時底部材2bのダイヤフラム構造5は、望遠鏡が縮むように容器内部方向へ変形する。変形の度合いが進むと、図8に示すように、環状階段部5fが上下反転した形状になる。このような底部材2bの形状変化により食品密封容器1の容積が縮小し、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。
【0030】
ダイヤフラム構造の例として第1実施形態と第2実施形態の2例を掲げたが、ダイヤフラム構造はこれに限定されるものではない。他の構造、例えば、1個の底部材に、第1実施形態のダイヤフラム構造または第2実施形態のダイヤフラム構造を小型にしたものを複数設けるなどといった構造であってもよい。
【0031】
本発明の効果を検証するため、図9の表に示す6種類の試験体を用いて胴部の凹み評価及び透湿度と内容物の食味・食感の関係を調べた。試験体はいずれも紙製のカップとその上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器であり、カップの下端直径は64.2mm、上
端直径は85mm、高さは100mm、蓋材の直径は90mmである。
【0032】
試験体1には胴部材に通気孔がなく底部材にダイヤフラム構造がない。試験体2は胴部材にφ0.05mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試験体3は
胴部材にφ0.10mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試験体
4は胴部材にφ0.30mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試
験体5は胴部材にφ0.40mmの通気孔1個を有し、底部材にダイヤフラム構造がない。
試験体6は胴部材に通気孔がなく底部材にダイヤフラム構造が形成されている。通気孔は特許文献2に記載された通気孔と同様のものである。試験体6のダイヤフラム構造は、実施形態2の環状階段部において、最下段の円の直径を20mm、下から2段目の円の直径を
40mm、下から3段目の円の直径を50mmとし、各段の段差を0.2mmとしたものである
。カップの底部材から下の高さ、いわゆる糸底部分の高さは10mmである。
【0033】
上記6種類の試験体を用いて行った試験の結果を図10の表に示す。各試験の詳細は以下の通りである。
【0034】
[胴部の凹み評価試験]
25℃の環境で各試験体を蓋材で密封し、−20℃の環境で1時間放置し、胴部の凹みの有無を調べた。10個中何個に凹みが生じたかにより評価した。通気孔もダイヤフラム構造もない試験体1には10個中9個に凹みが生じ、ダイヤフラム構造はないが胴部にφ0.05mmの通気孔1個を有する試験体2には10個中1個に凹みが生じた。残る4種の試験体には凹みは生じなかった。
【0035】
[透湿度評価試験]
各試験体にシリカゲル20gずつを入れて蓋材で密封し、40℃・90%RHの環境で10日間放置した後、シリカゲルを取り出して重量を測定した。試験前と試験後の重量変化から1日当たりの重量変化を求めて試験体の透湿度を測定した。測定値は、各試験体とも10個の最小値、最大値と平均値で示した。単位はmg/day・紙容器である。このようにして求めた透湿度x(mg/day・紙容器)を以下の換算式を用いてg/m2・day(=g/m2・24hr)である透湿度yに換算した。なお各試験体の表面積(蓋材を含む)は0.03169m2である。
【0036】
換算式:y=x÷0.3169(試験体の表面積)÷1000
【0037】
透湿度x、透湿度y共に、試験体1と6が他に比べて低い値を示した。
【0038】
[水漏れ評価試験]
各試験体に水420ミリリットルずつを入れて蓋材で密封し、常温で6時間放置し、通気孔からの水漏れの有無を調べた。10個中何個に水漏れが生じたかにより評価した。試験体5のみ10個中2個に水漏れが生じた。残る5種の試験体には水漏れは生じなかった。
【0039】
[食味・食感評価試験]
各試験体にスナック食品45gずつを入れて蓋材で密封し、40℃・90%RHの環境で3ヶ月放置した後開封し、食味・食感を官能で評価した。食味・食感が落ちていれば×印、良好であれば○印、特に良好であれば◎印を付与するものとした。6種類の試験体全てを「特に良好」と評価することができた。
【0040】
[総合評価]
「胴部の凹み評価試験」「透湿度評価試験」「水漏れ評価試験」「食味・食感評価試験」を総合して、試験体6、すなわち本発明の実施形態に相当する構造の試験体が、食品密封容器として最も良い性能を示すと評価することができた。
【0041】
以上本発明の実施形態につき説明したが、この他、発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の改変を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、食品を入れた紙製カップの上面開口を蓋材で密封する方式の食品密封容器に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】食品密封容器の垂直断面図
【図2】カップの胴部材貼り合わせ部の部分拡大水平断面図
【図3】カップの底部材貼り合わせ部の部分拡大垂直断面図
【図4】カップの底部材の上面図
【図5】内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図
【図6】第2実施形態に係る食品密封容器の垂直断面図
【図7】第2実施形態の食品密封容器の底部材の上面図
【図8】第2実施形態に係る食品密封容器において、内部の空気が収縮する際の状況を示す垂直断面図
【図9】凹み評価試験等を行った試験体の仕様を示す表
【図10】各種評価試験の結果一覧表
【図11】従来の食品密封容器の垂直断面図
【符号の説明】
【0044】
1 食品密封容器
2 カップ
2a 胴部材
2b 底部材
3 蓋材
4 凹み
5 ダイヤフラム構造
5b〜5e 環状エンボス部
5f 環状階段部
【技術分野】
【0001】
本発明は食品密封容器に関する。
【背景技術】
【0002】
食品容器として、食品を入れた紙製カップの上面開口を蓋材で密封する構造のものがしばしば用いられる。このような食品密封容器の例を特許文献1、2に見ることができる。
【0003】
特許文献1には、容器の外面からの液体の浸透を防止するため、外面に素材端面が露出しないようにした耐液浸透性容器が記載されている。
【0004】
特許文献2には、アルミニウム箔を層構成中に用いた密封性に優れた紙容器が記載されている。
【特許文献1】実開昭57−183217号公報
【特許文献2】特許第3816033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されたような食品密封容器の基本的構造を図11に示す。食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有する。カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。
【0006】
胴部材2a、底部材2b、及び蓋材3は、紙層の秤量や熱接着性樹脂層の樹脂種は異なるものの、いずれも紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層したものである。例えば胴部材2aには、秤量250〜290g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。底部材2bには、秤量160〜220g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。蓋材3には、秤量79.1g/m2の片アート紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ20μmの低密度ポリエチレン層と、20g/m2のホットメルト接着剤を積層したものを用いることができる。
【0007】
上記のような食品密封容器は、密封性が高いことにより、内容物を長期間保存することができる。しかしながらこのような食品容器を食品充填時よりも低温の環境に置いたとき、内部の空気が収縮して減圧状態となり、表面積の大きい容器胴部に凹み(図11の凹み4)が生じてしまうことがある。スナック菓子等の容器で、内部の食品量に対する空気量の比率が比較的高い場合にこのような事態が生じやすい。販売前に容器胴部が凹んでしまった商品は多くの場合食品メーカーに返品されるので、食品メーカーにとってはそれを避けることが重要課題となる。
【0008】
上記問題に対処するため、特許文献2に記載された紙容器では、内面となる熱接着性樹脂層から紙層の一部に達する微細な通気孔を設け、環境温度の変化で紙容器内部が減圧状態となり、紙容器の胴部に凹みが生じる現象を防止するようにしている。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、環境温度が低下しても胴部に凹みが生じないという容器特性を、容器の密封性に影響を与えることなく実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明では、紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、前記カップの底部材にダイヤフラム構造を形成したことを特徴としている。
【0011】
この構成によると、環境温度が低下して容器内部が減圧するときは、底部材のダイヤフラム構造が容器内部方向へ変形して容器の容積が縮小する。これにより、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。容器の密封性はそのままであるから、従来通りの食品保存期限を設定することができる。
【0012】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記カップの胴部材及び底部材と、前記蓋材とは、いずれも、紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層した積層シートにより構成されることを特徴としている。
【0013】
この構成によると、アルミニウム箔のガスバリア性により、密封性の高い食品密封容器を得ることができる。
【0014】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記胴部材は、積層シートの一方の端部を外方に折り返して接着した折り返し接着部に他方の端部を外側から重ねて接着したものであることを特徴としている。
【0015】
この構成によると、胴部材を構成する積層シートの端面がカップ内に露出しないので、内容物に対するカップの耐液浸透性が向上する。
【0016】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記底部材の中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴としている。
【0017】
この構成によると、底部材を成形する際、ダイヤフラム構造も併せて簡単に成形することができる。
【0018】
本発明は、上記構成の食品密封容器において、前記底部材の中心を囲む環状階段部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴としている。
【0019】
この構成によると、底部材を成形する際、ダイヤフラム構造も併せて簡単に成形することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、低温になっても胴部が凹まず、食品保存期限は従来を下回らない食品密封容器を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る断熱容器の一実施形態を図1から図5に基づき説明する。図1は食品密封容器の垂直断面図、図2はカップの胴部材貼り合わせ部の部分拡大水平断面図、図3はカップの底部材貼り合わせ部の部分拡大垂直断面図、図4はカップの底部材の上面図、図5は内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図である。
【0022】
食品密封容器1の基本的構造は図6に示した従来構造と同じである。すなわち食品密封容器1は紙製のカップ2とその上面開口を閉ざす蓋材3を有し、カップ2は胴部材2aと底部材2bからなる。胴部材2a、底部材2b、及び蓋材3は、紙層の秤量や熱接着性樹脂層の樹脂種は異なるものの、いずれも紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層したものである。例えば胴部材2aには、秤量250〜290g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。底部材2bには、秤量160〜220g/m2のカップ原紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ40μmの低密度ポリエチレン層を積層したものを用いることができる。蓋材3には、秤量79.1g/m2の片アート紙に、厚さ15μmの低密度ポリエチレン層と、厚さ7μmのアルミニウム箔と、厚さ20μmの低密度ポリエチレン層と、20g/m2のホットメルト接着剤を積層したものを用いることができる。
【0023】
胴部材2aは上の方ほど直径が大きくなる形状であり、特許文献1、2に記載された容器と同様、扇形の積層シートを貼り合わせて形成する。貼り合わせ部の構造を図2に示す。胴部材2aを構成する積層シートS1の中で、胴部材2aの内面側となる端部は外方に折り返した上、最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着し、折り返し接着部S1aとする。積層シートS1の中で、胴部材2aの外面側となる端部を折り返し接着部S1aに外側から重ね、最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着する。これにより、胴部材2aを構成する積層シートS1の端面がカップ2内に露出しなくなり、内容物に対するカップ2の耐液浸透性が向上する。
【0024】
底部材2bは周縁が下向きに直角に折り曲げられ、胴部材2aの下端は底部材2bの周縁を包むようにカーリングされている。図3に示すように、カーリング部Cは胴部材2aまたは底部材2bの最内層である低密度ポリエチレンを加熱により溶融して熱接着されており、この箇所の密封性も高い。
【0025】
食品密封容器1は、カップ2の底部材2bの構造に特徴を有する。すなわち底部材2bにはダイヤフラム構造5が形成されている。ダイヤフラム構造5は、底部材2bの中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により構成される。実施形態では、上方から見て谷をなす環状エンボス部を2個、上方から見て山をなす環状エンボス部を2個、同心円状に配置してダイヤフラム構造5を構成している。すなわち円形の台地状部5aを中心にしてその外側に、谷をなす環状エンボス部5b、山をなす環状エンボス部5c、谷をなす環状エンボス部5d、山をなす環状エンボス部5eがこの順序で並ぶ。言うまでもないが、ダイヤフラム構造5のこの構成は一例であり、発明の内容に制限を加えるものではない。
【0026】
食品を入れ、蓋材3で密封した食品密封容器1を、食品充填時よりも低温の環境に置くと、内部の空気が収縮して食品密封容器1の内部は減圧状態となる。このような状態では、図5に示すように、底部材2bのダイヤフラム構造5が容器内部方向へ変形し、食品密封容器1の容積が縮小する。これにより、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。一方で食品密封容器1の密封性はそのままであるから、従来通りの食品保存期限を設定することができる。
【0027】
続いて本発明に係る断熱容器の第2実施形態を図6から図8に基づき説明する。図6は食品密封容器の垂直断面図、図7はカップの底部材の上面図、図8は内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図である。
【0028】
第2実施形態の食品密封容器1は、カップ2の胴部材2aと底部材2bの積層シートの構成とその貼り合わせ方、蓋材3の積層シートの構成などは第1実施形態と同じである。但しカップ2の底部材2bのダイヤフラム構造5が第1実施形態と異なる。すなわち底部材2bにはその中心を囲む環状階段部5fが形成され、この環状階段部5fによりダイヤフラム構造5が構成される。環状階段部5fは中心部を最下段とし、そこから周縁の最上段まで、3段階に高さが上昇する。図7に示す通り、各段部は上から見ると同心円形状をなしている。
【0029】
食品を入れ、蓋材3で密封した食品密封容器1を、食品充填時よりも低温の環境に置くと、内部の空気が収縮して食品密封容器1の内部は減圧状態となる。この時底部材2bのダイヤフラム構造5は、望遠鏡が縮むように容器内部方向へ変形する。変形の度合いが進むと、図8に示すように、環状階段部5fが上下反転した形状になる。このような底部材2bの形状変化により食品密封容器1の容積が縮小し、容器胴部に凹みが生じるほどの内部減圧を回避することができる。
【0030】
ダイヤフラム構造の例として第1実施形態と第2実施形態の2例を掲げたが、ダイヤフラム構造はこれに限定されるものではない。他の構造、例えば、1個の底部材に、第1実施形態のダイヤフラム構造または第2実施形態のダイヤフラム構造を小型にしたものを複数設けるなどといった構造であってもよい。
【0031】
本発明の効果を検証するため、図9の表に示す6種類の試験体を用いて胴部の凹み評価及び透湿度と内容物の食味・食感の関係を調べた。試験体はいずれも紙製のカップとその上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器であり、カップの下端直径は64.2mm、上
端直径は85mm、高さは100mm、蓋材の直径は90mmである。
【0032】
試験体1には胴部材に通気孔がなく底部材にダイヤフラム構造がない。試験体2は胴部材にφ0.05mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試験体3は
胴部材にφ0.10mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試験体
4は胴部材にφ0.30mmの通気孔1個を有し、底部材にはダイヤフラム構造がない。試
験体5は胴部材にφ0.40mmの通気孔1個を有し、底部材にダイヤフラム構造がない。
試験体6は胴部材に通気孔がなく底部材にダイヤフラム構造が形成されている。通気孔は特許文献2に記載された通気孔と同様のものである。試験体6のダイヤフラム構造は、実施形態2の環状階段部において、最下段の円の直径を20mm、下から2段目の円の直径を
40mm、下から3段目の円の直径を50mmとし、各段の段差を0.2mmとしたものである
。カップの底部材から下の高さ、いわゆる糸底部分の高さは10mmである。
【0033】
上記6種類の試験体を用いて行った試験の結果を図10の表に示す。各試験の詳細は以下の通りである。
【0034】
[胴部の凹み評価試験]
25℃の環境で各試験体を蓋材で密封し、−20℃の環境で1時間放置し、胴部の凹みの有無を調べた。10個中何個に凹みが生じたかにより評価した。通気孔もダイヤフラム構造もない試験体1には10個中9個に凹みが生じ、ダイヤフラム構造はないが胴部にφ0.05mmの通気孔1個を有する試験体2には10個中1個に凹みが生じた。残る4種の試験体には凹みは生じなかった。
【0035】
[透湿度評価試験]
各試験体にシリカゲル20gずつを入れて蓋材で密封し、40℃・90%RHの環境で10日間放置した後、シリカゲルを取り出して重量を測定した。試験前と試験後の重量変化から1日当たりの重量変化を求めて試験体の透湿度を測定した。測定値は、各試験体とも10個の最小値、最大値と平均値で示した。単位はmg/day・紙容器である。このようにして求めた透湿度x(mg/day・紙容器)を以下の換算式を用いてg/m2・day(=g/m2・24hr)である透湿度yに換算した。なお各試験体の表面積(蓋材を含む)は0.03169m2である。
【0036】
換算式:y=x÷0.3169(試験体の表面積)÷1000
【0037】
透湿度x、透湿度y共に、試験体1と6が他に比べて低い値を示した。
【0038】
[水漏れ評価試験]
各試験体に水420ミリリットルずつを入れて蓋材で密封し、常温で6時間放置し、通気孔からの水漏れの有無を調べた。10個中何個に水漏れが生じたかにより評価した。試験体5のみ10個中2個に水漏れが生じた。残る5種の試験体には水漏れは生じなかった。
【0039】
[食味・食感評価試験]
各試験体にスナック食品45gずつを入れて蓋材で密封し、40℃・90%RHの環境で3ヶ月放置した後開封し、食味・食感を官能で評価した。食味・食感が落ちていれば×印、良好であれば○印、特に良好であれば◎印を付与するものとした。6種類の試験体全てを「特に良好」と評価することができた。
【0040】
[総合評価]
「胴部の凹み評価試験」「透湿度評価試験」「水漏れ評価試験」「食味・食感評価試験」を総合して、試験体6、すなわち本発明の実施形態に相当する構造の試験体が、食品密封容器として最も良い性能を示すと評価することができた。
【0041】
以上本発明の実施形態につき説明したが、この他、発明の主旨から逸脱しない範囲で種々の改変を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、食品を入れた紙製カップの上面開口を蓋材で密封する方式の食品密封容器に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】食品密封容器の垂直断面図
【図2】カップの胴部材貼り合わせ部の部分拡大水平断面図
【図3】カップの底部材貼り合わせ部の部分拡大垂直断面図
【図4】カップの底部材の上面図
【図5】内部の空気が収縮する際の状況を示す食品密封容器の垂直断面図
【図6】第2実施形態に係る食品密封容器の垂直断面図
【図7】第2実施形態の食品密封容器の底部材の上面図
【図8】第2実施形態に係る食品密封容器において、内部の空気が収縮する際の状況を示す垂直断面図
【図9】凹み評価試験等を行った試験体の仕様を示す表
【図10】各種評価試験の結果一覧表
【図11】従来の食品密封容器の垂直断面図
【符号の説明】
【0044】
1 食品密封容器
2 カップ
2a 胴部材
2b 底部材
3 蓋材
4 凹み
5 ダイヤフラム構造
5b〜5e 環状エンボス部
5f 環状階段部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、
前記カップの底部材にダイヤフラム構造を形成したことを特徴とする食品密封容器。
【請求項2】
前記カップの胴部材及び底部材と、前記蓋材とは、いずれも、紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層した積層シートにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の食品密封容器。
【請求項3】
前記胴部材は、積層シートの一方の端部を外方に折り返して接着した折り返し接着部に他方の端部を外側から重ねて接着したものであることを特徴とする請求項2に記載の食品密封容器。
【請求項4】
前記底部材の中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の食品密封容器。
【請求項5】
前記底部材の中心を囲む環状階段部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の食品密封容器。
【請求項1】
紙製カップと、このカップの上面開口を閉ざす蓋材からなる食品密封容器において、
前記カップの底部材にダイヤフラム構造を形成したことを特徴とする食品密封容器。
【請求項2】
前記カップの胴部材及び底部材と、前記蓋材とは、いずれも、紙層、アルミニウム箔、熱接着性樹脂層を積層した積層シートにより構成されることを特徴とする請求項1に記載の食品密封容器。
【請求項3】
前記胴部材は、積層シートの一方の端部を外方に折り返して接着した折り返し接着部に他方の端部を外側から重ねて接着したものであることを特徴とする請求項2に記載の食品密封容器。
【請求項4】
前記底部材の中心を囲む少なくとも1個の環状エンボス部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の食品密封容器。
【請求項5】
前記底部材の中心を囲む環状階段部により前記ダイヤフラム構造が形成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の食品密封容器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−120264(P2009−120264A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240579(P2008−240579)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
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