説明

食品延命装置

【課題】食品延命装置としての適用場面を拡げるために、食品延命装置に用いる電極板について検討した。
【解決手段】食品を高電界雰囲気中に保存させ、食品の保存期間を延ばす食品延命装置1であって、食品保存装置に収納された食品に対向する面に設置又は除去自在な電極板11と、前記電極板11に高電圧を印加する電源装置12とからなり、電極板11は、樹脂シートからなるカバー114に密封した導電性ゴムシート111から構成した食品延命装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を高電界雰囲気中に保存させ、食品の保存期間を延ばす食品延命装置に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜や魚介類等の生鮮食品はじめ、広く食品を保存する場合、例えば冷蔵庫や冷蔵機能を有するショーケース等の食品保存装置を用い、食品を冷蔵又は冷凍する。これに加え、近年では、食品を高電界雰囲気中に保存できるようにする食品延命装置が提案されている。食品延命装置は、通常、食品保存装置と併用され、食品保存装置による食品の保存期間を延長する(=延命する)働きを発揮する。特許文献1記載の発明は、生鮮食品を高電界雰囲気中に保存させる冷蔵庫の野菜室の例である。
【0003】
特許文献1記載の発明は、野菜室の天井面及び底面に絶縁状態で配置した一対の電極板に外部から高電圧を印加し、野菜室に高電界雰囲気を形成する冷蔵庫である(特許文献1[0006])。特許文献1は、高電界が野菜の呼吸抑制をもたらすとしている(特許文献1[0021])。電極板は、金属製の平板又はメッシュ板から構成されるほか、金属膜を蒸着した樹脂板を絶縁体で被覆して構成される(特許文献1[0009]〜[0011])。また、電極板に印加する高電圧は、直流及び交流を問わないが、野菜の呼吸抑制の効果を得るため、最大値を10kVとし、0.05kV/cm以上の高電界を形成するとしている(同[0021])。具体的な印加電圧は、3kV〜12kVらしい(同[0013])。
【0004】
【特許文献1】特開2007-212046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示する電極板は、金属製の平板又はメッシュ板から構成されるほか、金属膜を蒸着した樹脂板を絶縁体で被覆して構成される。いずれの構成も主たる要素が導体の金属(体積固有抵抗率10-6Ωcmオーダー)で、電極板の全面にわたって均一に高電圧を印加し、均等な高電界雰囲気を形成するには、3kV以上を印加する必要があった。このため、特許文献1が開示する電極板は、野菜室の天井面及び底面に内蔵させ、取り外さないことを前提に絶縁状態を確保し、対応している。しかし、これでは食品保存装置毎に電極板を構成しなければならず、また既存の食品保存装置に食品延命装置が利用できなくなり、食品延命装置の提供場面が少なくなっていた。そこで、食品延命装置としての適用場面を拡げるため、電極板について検討した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
検討の結果開発したものが、食品を高電界雰囲気中に保存させ、食品の保存期間を延ばす食品延命装置であって、食品保存装置に収納された食品に対向する面に設置又は除去自在な電極板と、前記電極板に高電圧を印加する電源装置とからなり、電極板は、外部から絶縁された導電性ゴムシートから構成した食品延命装置である。電極板と電源装置とは、通常、給電線で結ばれる。また、電源装置が電極板に印加する高電圧は、直流又は交流を問わないが、商用交流電源を利用することや、高電界の経時的変化による効果を考慮した場合、交流高電圧が好ましい。
【0007】
「食品保存装置に収納された食品に対向する面」とは、食品保存装置(例えばショーケース)が内部に有する食品保存空間を構成する壁面、天井面又は底面や、食品を収納した食品保存装置(例えば容器)を置いた底面や周囲の壁面又は天井面を意味する。電極板は、壁面(垂直面)又は天井面(上方の水平面)に対しては両面テープ等で着脱し、底面に対してはそのまま置けばよい。電源装置は、電極板と共に、食品保存装置の食品保存空間に置いてもよいが、結露防止や取り扱いの便の観点から、食品保存装置の外に配置することが望ましい。
【0008】
本発明の食品延命装置は、金属板(体積固有抵抗率10-6Ωcmオーダー以下)と絶縁体(体積固有抵抗率106Ωcmオーダー以上)との中間的な体積固有抵抗率(30Ωcm〜500Ωcm)を有する導電性ゴムシートにより電極板を構成することで、電極板全面にわたって均等に比較的低い高電圧(2kV以下)を印加しながら、広範囲に高電界雰囲気を形成できる。また、導電性ゴムシートは、素材を特定したり、厚みを増すことにより板材のように用いることもできるが、一般に入手される製品は薄く、可撓性があるため、設置場所に対する設置又は除去の作業が容易であり、仮に余剰部分があっても設置場所に合わせて端部を曲げたり、折り返したりできる。
【0009】
電極板は、導電性ゴムシートを、樹脂シートからなるカバーに密封して構成し、導電性ゴムシートを外部に対して絶縁する。カバーは、食品保存空間から導電性ゴムシートを隔離し、導電性ゴムシートの結露も防止する。電極板は、設置又は除去する面と導電性ゴムシートとの間に絶縁シートを介装して構成すると、設置又は除去する面を通じた漏れ電流に起因する印加電圧の低下を防止できる。絶縁シートは、導電性ゴムシート同様の可撓性を有する樹脂シートがよく、より好ましくは弾性を備えた発泡樹脂シートがよい。これから、電極板は、設置又は除去する面と導電性ゴムシートとの間に絶縁シートを介装し、前記導電性ゴムシート及び絶縁シートを一体にし、樹脂シートからなるカバーに密封して構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、比較的低い高電圧を用いながら、電極板全体にわたって均一な高電界雰囲気を形成できる食品延命装置が提供できるようになる。印加する高電圧が低いことは、電力消費を低減し、また漏電や感電による被害を小さくできる等の効果をもたらす。また、電極板全体にわたって均一な高電界雰囲気を形成できることは、例えば電極板一杯に載せた食品全てに保存期間を延長させる効果を均等に与えることができるようになる意味を有する。しかも、本発明の食品延命装置は、電極板に可撓性のある導電性ゴムシートを用い、設置対象に対して設置又は除去が可能である上、取り扱いも容易であることから、既存の食品保存装置にも利用し、適用範囲を拡げることのできる効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明を適用した食品延命装置1の一例を表す全体斜視図、図2は本例の食品延命装置1における電極板11の断面構造を表す断面図であり、図3は本例の食品延命装置1をショーケース(食品保存装置)2に適用した状態を表す斜視図である。本発明の食品延命装置1は、従来公知の各種食品保存装置との併用が可能であるが、以下では代表的な利用場面として、ショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に電極板11を載せる場合を説明する。
【0012】
本発明の食品延命装置1は、図1に見られるように、後述するショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に相似な外形の電極板11と、前記電極板11に高電圧を印加する電源装置12とから構成され、電極板11と電源装置12とは給電線13で結ばれている。これから、電極板11のみをショーケース2内(食品保存空間21)に設置し、電源装置12はショーケース2外に配置する。電源装置12は、従来公知の各種構成を利用でき、通常、商用電源(図示略)に接続され、電極板11に印加するために必要な高電圧に昇圧される。このとき、商用交流電圧を直流電圧に変換することも考えられるが、高電界雰囲気の変化が食品保存に効果的であり、また単に昇圧するだけの電源装置12が簡単であることから、電源装置12は商用交流電圧をそのまま昇圧し、交流高電圧を給電線13により電極板11に印加するとよい。
【0013】
本発明を特徴づける電極板11は、図2に見られるように、導電性ゴムシート111の裏面に貼着された平板状の電極端子112を挟んで発泡樹脂からなる絶縁シート113を積層し、更に導電性ゴムシート111及び絶縁シート113を一体に、樹脂シートからなるカバー114に密封して構成されている。本例の電極板11は、導電性ゴムシート111の側を表側、絶縁シート113の側を裏側として、裏側をショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に接するように載置する。ここで、導電性ゴムシート111及び絶縁シート113は一体にカバー114に密封されるが、本例の絶縁シート113は発泡樹脂シートを用いているから、触感で電極板11の表裏が分かる。また、カバー114に表側及び裏側で異なる着色をしたり、表側及び裏側で異なるマークを施したりしておくと、電極板11の表裏が分かりやすい。
【0014】
導電性ゴムシート111は、例えば天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)又はニトリルゴム(NBR)に炭素粉末を混合した体積固有抵抗率が30Ωcm〜500Ωcm(好ましくは50Ωcm〜300Ωcm)の半導電性材料で、電極板11としての可撓性を確保する観点から、厚さは0.5mm〜10mm(好ましくは1mm〜5mm)の範囲で用いる。給電線13は、導電性ゴムシート111に高電圧を印加できればよいが、本例は、金属板又は金属メッシュ(例えば真鍮製又は銅製)からなる平板状の電極端子112に給電線13を接続し、前記電極端子112を導電性ゴムシート111の裏面に貼着している。金属板又は金属メッシュの厚みは、導電性ゴムシート111の可撓性を損なわないように、0.05mm〜0.5mmとしている。
【0015】
絶縁シート113は、ショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に対して導電性ゴムシート111を物理的に離隔する可撓性素材であればよく、従来公知の各種絶縁素材を用いることができる。ここで、ショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に対して導電性ゴムシート111を物理的に離隔する理由は、前記底面211に対する可撓性ゴムの絶縁性を確保するためで、絶縁シート113は厚いほど好ましい。しかし、絶縁シート113があまり厚過ぎると、導電性ゴムシート111の可撓性を損ねる。そこで、本例は十分な厚みを確保しながら導電性ゴムシート111の可撓性を損ねない素材として、発泡樹脂シート(例えば発泡ポリエチレン製等)を絶縁シート113として用いている。発泡樹脂シートからなる絶縁シート113は、電極板11を、食品を載せるクッションとしても働かせる。
【0016】
カバー114は、導電性ゴムシート111及び絶縁シート113を一体に密封できるものであればよいが、少なくとも導電性ゴムシート111の結露を防止するため、内外に対する透湿性のない素材を用いることが好ましい。これから、本例のカバー114は、繊維強化されたポリ塩化ビニール製の樹脂シートを用いている。既述したように、導電性ゴムシート111及び絶縁シート113を積層した電極板11は、表側及び裏側の別があり、それぞれが容易に視認できるように、表側及び裏側の着色を変えることが好ましい。このとき、カバー114の表面側をショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211と同色にしておくと、電極板11を載せた際の違和感がなくなる利点がある。
【0017】
本例の食品延命装置1は、例えば図3に見られるように、ショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211に電極板11を載せ、ショーケース2の背面扉23の隙間から給電線13を取り出して、ショーケース2外に配置した電源装置12から電極板11に高電圧を印加する。食品保存空間21は、金属板からなる底面211、側面212及び天井面213と、食品を出し入れする背面扉23、そして食品を閲覧させる前面ガラス24とに囲まれて構成される。本例は、電極板11を、食品保存空間21を構成する底面211に載せているが、食品の展示の邪魔にならなければ、食品保存空間21を構成する側面212又は天井面213の内側に電極板11を貼り付けてもよい。
【0018】
本例のショーケース2は、食品保存空間21に、前記底面211のほか、2段の棚22,22が設けられ、それぞれに食品(例えばケーキ)を載せることができるが、電極板11が形成する高電界雰囲気はショーケース2の食品保存空間21全体に及ぶため、底面211にのみ電極板11を載せている。このとき、電極板11のカバー114の表側をショーケース2の食品保存空間21を構成する底面211と同色にしておくと、電極板11を底面211に置くことによるショーケース2全体の配色バランスが崩れなくなるため、好ましい。
【実施例】
【0019】
本発明が食品の保存期間をどの程度延命するかを確認すべく、恒温槽に保存した食品に繁殖する菌数を測定する比較試験を実施した。測定対象となる菌は、一般性菌である。供試体は、市販品であるプリンを一度容器から取り出した後、撹拌及び混練して空気に十分接触させた後、5gずつ合計22個の保管袋に分けたものである。恒温槽は、一辺200mm角の樹脂製の密封された箱体であり、内部雰囲気を10℃及び75%に維持した。図4は、比較試験における試験装置のブロック図である。
【0020】
実施例は、上記図2相当の積層構造を有する本願発明の電極板から構成される食品延命装置である。導電性ゴムシートは、体積固有抵抗率が100ΩcmのNR製であり、1mm厚、400mm角の大きさである。電極端子は、前記導電性ゴムシートの裏面に貼り付けた真鍮製メッシュである。絶縁シートは、7mm厚の発泡ポリエチレン製シートを用い、導電性ゴムシートと同じ大きさである。電極板は、前記導電性ゴムシート、電極端子及び絶縁シートを一体に、繊維強化されたポリ塩化ビニール製カバーに密封して構成した。実施例の電極板は、テーブル上に置き、この上に上記恒温槽を載せた(図4参照)。電源装置は、950Vの交流高電圧(周波数60Hz=商用周波数)を導電性ゴムシートに印加した。
【0021】
比較例1は、図5に見られるように、食品の保存期間を延命するために何ら手段を講じないもので、食品保存装置にそのまま保存する場合に相当する(図4中、電極板がない構成)。比較例2は、実施例の導電性ゴムシートを同じ厚み及び大きさの銅板に交換した電極板から構成した食品延命装置である。実施例同様、電極板をテーブル上に置き、この上に上記恒温槽を載せた(図4参照)。また、電源装置により、950Vの交流高電圧(周波数60Hz=商用周波数)を銅板に印加した。
【0022】
試験手順は、実施例、比較例1及び比較例2の各恒温槽に、それぞれ7袋の供試体を入れ、1日経過毎にそれぞれの恒温槽から1袋ずつ取り出して、菌数を計測する。恒温槽に入れない1袋の菌数を初日に計数したところ、300cfu/g以下であり、この初日の菌数を「0(ゼロ)」とみなして、日数の経過に伴う菌数の増加を測定した。菌数の増加が少ないほど、食品の保存期間が延命されていると評価できる。
【0023】
図5は実施例、比較例1及び比較例2における経過日数と菌数との関係を表す試験結果のグラフである。比較例1は3日経過後に菌数が1000cfu/gを超え、6日経過後には計数可能な範囲を超える菌数の増加が見られた。また、比較例2は4日経過後に菌数が1000cfu/gを超えたものの、7日経過後でも菌数波10000cfu/gに抑えることができている。これから、高電界雰囲気中に食品を保存することにより、食品の保存期間を延命する効果のあることが理解される。
【0024】
これに対し、実施例は、前記比較例2を上回り、5日経過後までほとんど菌数の増加が見られず、6日経過後に至って初めて菌数が500cfu/gに達し、7日経過後でも菌数は1000cfu/gに抑えている。すなわち、本発明の食品延命装置は、高電界雰囲気中に食品を保存して、食品の保存期間を延命する効果を有することはもちろん、銅板で電極板を構成した食品延命装置に比較して、食品の保存期間を延命する効果がより高いと評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、従来見られる金属製板から構成される同種食品延命装置に比べ、食品の保存期間をより長く延命される食品延命装置を提供する。しかも、本発明の食品延命装置は、既存の食品保存装置に利用することができ、その利用態様は限定されない。すなわち、食品を保存する装置又は設備だけでなく、例えば運搬用に一時的に食品を収納する容器等に対して、本発明の食品延命装置は利用できる。これは、上記比較試験において、食品保存装置に相当する恒温槽の外に電極板を設置しても、食品の保存期間を延長する効果のあることからも理解される。こうして、本発明は様々な場面での食品の保存期間を延命できる利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を適用した食品延命装置の一例を表す全体斜視図である。
【図2】本例の食品延命装置における電極板の断面構造を表す断面図である。
【図3】本例の食品延命装置をショーケース(食品保存装置)に適用した状態を表す斜視図である。
【図4】比較試験における試験装置のブロック図である。
【図5】実施例、比較例1及び比較例2における経過日数と菌数との関係を表す試験結果のグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 食品延命装置
11 電極板
111 導電性ゴムシート
112 電極端子
113 絶縁シート
114 カバー
12 電源装置
13 給電線
2 ショーケース(食品保存装置)
21 食品保存空間
211 底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を高電界雰囲気中に保存させ、食品の保存期間を延ばす食品延命装置であって、食品保存装置に収納された食品に対向する面に設置又は除去自在な電極板と、前記電極板に高電圧を印加する電源装置とからなり、電極板は、外部から絶縁された導電性ゴムシートから構成した食品延命装置。
【請求項2】
電極板は、導電性ゴムシートを、樹脂シートからなるカバーに密封して構成した請求項1記載の食品延命装置。
【請求項3】
電極板は、設置又は除去する面と導電性ゴムシートとの間に絶縁シートを介装して構成した請求項1記載の食品延命装置。
【請求項4】
電極板は、設置又は除去する面と導電性ゴムシートとの間に絶縁シートを介装し、前記導電性ゴムシート及び絶縁シートを一体にし、樹脂シートからなるカバーに密封して構成した請求項1記載の食品延命装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−124780(P2010−124780A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304403(P2008−304403)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(508353846)
【出願人】(508353950)
【出願人】(508353972)
【出願人】(508353765)
【Fターム(参考)】