説明

食品添加剤

【構成】 本発明は、乳酸緩衝液、キトサン及びアジピン酸を有効成分とする3種混合液又は乳酸緩衝液、キトサン、アジピン酸及びノイペクチンを有効成分とする4種混合液からなる食品添加剤に関する。
【効果】 本発明の乳酸緩衝液、キトサン及びアジピン酸の3種混合液又は乳酸緩衝液、キトサン、アジピン酸及びノイペクチンの4種混合液からなる食品添加剤は、無添加又は各成分の単独使用よりも細菌及びかびに対して、優れた防腐効果を示した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は食品添加剤に関する。
【0002】
【従来技術】浅漬は塩分含有量の少ない食品であり、菌や微生物の発生により漬物液が白濁して、見栄えが悪くなると共に食品として不適当になり商品価値がなくなる。そこで、塩分含有量の少ない食品の微生物の増殖を防止するためには、従来、有機酸などの酸を高濃度に添加したり、加熱殺菌する方法が行なわれていた。
【0003】しかし、上記方法を用いると、食品の歯切れ(テクスチュアー)や風味等が損なわれることがあり、あまり好ましいものではない。従って、塩分含有量の少ない食品は、専ら低温下で製造、流通、保存されているが、流通コストが高くなる等の問題がある。また、現行の食品衛生法においては、しょうゆ漬、みそ漬、かす漬等には保存料としてソルビン酸及びソルビン酸カリウムが認可されているが、浅漬等の塩分含有量の少ない食品には、食品添加物として使用できない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】かかる事情に鑑み、塩分含有量の少ない食品の微生物の増殖を防止するための食品添加剤を見い出し、提供するものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の食品添加剤に含まれるキトサンは、食品の防腐に利用出来ることが従来より知られている。
【0006】しかし、キトサンが食品の防腐に使用される場合は、キトサンを酢酸等の酸溶液中に溶解して使用してきたものであり、キトサン・酢酸溶液の食品における防腐効果は、酢酸の効果が無視できないとされている(フードケミカル 4月号第53〜99頁 1989年)。また、該キトサン・酢酸溶液を食品の防腐剤として利用した場合、食品に酢酸臭がついて変敗と間違われるおそれがあったり、該キトサン・酢酸溶液は、日時が経つとともに褐変することがあり好ましくない。
【0007】そこで、本発明者らは鋭意研究の結果、キトサン、乳酸緩衝液及びアジピン酸を有効成分とする3種混合液又はキトサン、乳酸緩衝液、アジピン酸及びノイペクチンを有効成分とする4種混合液からなる食品添加剤が優れた効果を奏することを見い出し本発明を完成した。
【0008】従って、本発明はキトサン、乳酸緩衝液及びアジピン酸からなる食品添加剤であり、またキトサン、乳酸緩衝液、アジピン酸及びノイペクチンからなる食品添加剤である。
【0009】本発明の食品添加剤は、乳酸緩衝液にアジピン酸を加えて溶解し、該アジピン酸・乳酸緩衝液にキトサンを溶解することにより製することができる。更に、4種混合液は、該3種混合液にノイペクチンを加え混合することにより製することができる。
【0010】具体的には、予め所望濃度に調製した乳酸緩衝液に、所定濃度になるようにアジピン酸を加え、十分攪拌して溶解させる。次に、あらかじめ秤量したキトサンに、上記アジピン酸・乳酸緩衝液を少量ずつ添加し、スプーン又はへら等でなじませながら溶解させ、最後に容量を調整することにより、本発明の3種混合食品添加剤を製することができる。又、本発明の4種混合食品添加剤を製するには、該3種混合食品添加剤に所定量のノイペクチンを加え混合するか、もしくは、キトサンに、アジピン酸・乳酸緩衝液を加え、更に所定量のノイペクチンを混合して、最後に容量を調整することにより、本発明の4種混合食品添加剤を製することができる。
【0011】本発明に用いられる乳酸緩衝液は、公知の製法により製することができるが、具体的には、乳酸と乳酸の塩のそれぞれ所定量を量りとり、水に溶解すれば製することができる。乳酸の塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム等を挙げることができ、乳酸緩衝液の濃度としては、5〜6モル濃度、特に好ましくは、5.44モル濃度である。
【0012】上記製法に従って製した本発明の食品添加剤中の各成分の割合は、キトサンは3〜10%(w/v)、好ましくは3〜5%(w/v)、該乳酸緩衝液は3〜10%(v/v)、好ましくは3〜5%(v/v)、アジピン酸は1〜5%(w/v)、好ましくは1〜2%(w/v)、ノイペクチンは1〜5%(v/v)、好ましくは1〜3%(v/v)からなる。
【0013】本発明のキトサン、乳酸緩衝液及びアジピン酸を有効成分とする3種混合液又はキトサン、乳酸緩衝液、アジピン酸及びノイペクチンを有効成分とする4種混合液からなる食品添加剤の添加対象食品としては、いわゆる一夜漬と呼ばれている塩分含有量が少ない浅漬、各種めん類、ゼリーの他に、ぎょうざの皮、シュウマイの皮、春巻の皮等、調味料、佃煮、惣菜、スープ、たれ類、ポテトサラダ等のサラダ類、サンドイッチの原料及び竹輪、蒲鉾等の水産練製品等を挙げることができる。
【0014】本発明の食品添加剤の添加方法としては、予め調製した一定比の食品添加剤の混合液を出来上がった食品又は食品の製造工程において適当量添加すればよい。例えば、浅漬に添加する場合には、本発明の食品添加剤の各成分を所定量含有するように調味食塩水を製して浅漬けに添加するか、もしくは浅漬の調味食塩水に本発明の食品添加剤を所定量添加すればよく、めん類に添加する場合は、めん類の原料となる小麦粉又は穀物の粉等に本発明の食品添加剤を適当量加えて製麺するか、あるいは、製麺する際に添加する食塩水に、予め本発明の食品添加剤を溶解させておき、この食塩水を小麦粉又は穀物の粉等に添加して製麺することができる。
【0015】
【発明の効果】本発明のキトサン、乳酸緩衝液及びアジピン酸を有効成分とする3種混合液又はキトサン、乳酸緩衝液、アジピン酸及びノイペクチンを有効成分とする4種混合液からなる食品添加剤は、無添加又は各成分の単独使用よりも細菌及びかびに対して優れた防腐効果を示した。
【0016】また、本発明の食品添加剤は溶液として提供することができるので、食品に添加する際に非常に簡便であり、更には、従来から使用されているキトサン・酢酸製剤と比較して味、臭いもなく、又、変色をきたすこともなかった。従って、本発明の食品添加剤は以上のごとき防腐効果、使用性、味、臭い、色において優れた食品添加剤であることが判明した。
【0017】以下に参考例及び実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
【参考例】
[参考例1]各成分の胡瓜浅漬における保存効果(1)各成分含有調味食塩水の調整先ず、食塩2%(w/v)、核酸系調味料(協和醗酵工業(株)製)1%(w/v)、グルタミン酸ナトリウム2%(w/v)、酢0.2%(v/v)からなる調味食塩水を調製した。乳酸緩衝液は、カンショウ乳酸(成分:乳酸45%、乳酸ナトリウム5%、(株)武蔵野化学研究所製)を調味食塩水で所定濃度(0.05%(v/v))に希釈したものを用いた。アジピン酸溶液は、アジピン酸を調味食塩水で所定濃度(0.02%(w/v))に希釈したものを用いた。ノイペクチン溶液は、ノイペクチンを調味食塩水で所定濃度(0.05%(v/v))に希釈したものを用いた。
(2)保存効果胡瓜5kg(54本)を水洗後、水切りしたのちに、4%食塩水5リットルを加えてプラスチック容器に入れ、落とし蓋をして一夜放置した。放置後、水切りして長さ2cmに切り、胡瓜を更に2分割した。この細断胡瓜100gをポリエチレン袋に入れ、これに、あらかじめ所定量の乳酸緩衝液、アジピン酸又はノイペクチン各成分を単独に添加した調味食塩水100mlを加え、ポリエチレン袋の口を密封し、18℃で保存して胡瓜浅漬を製した。保存した該胡瓜浅漬の調味食塩水のpH及び660nmにおける濁度(透過率 T(%))を測定し、防腐効果の指標として表1に示した。
【0019】
【表1】


【0020】
【実施例】
[実施例1]胡瓜浅漬における保存効果(1)食品添加剤含有調味食塩水の調製表2に示す組成1、組成2及び組成3の食品添加剤含有調味食塩水の調製を行なった。組成1は、キトサン50gにカンショウ乳酸(成分:乳酸45%、乳酸ナトリウム5%、(株)武蔵野化学研究所製)50mlを加えて溶解し、参考例1と同組成の調味食塩水で希釈し、最後に1000mlに調製した。組成2は、カンショウ乳酸50mlにアジピン酸20gを加えて溶解し、この溶液にキトサン50gを加えて溶解し、参考例1と同組成の調味食塩水で希釈し、最後に1000mlに調製した。組成3は、カンショウ乳酸50mlにアジピン酸20gを加えて溶解し、この溶液にキトサン50gを混合し、更にノイペクチン50mlを加え、参考例1と同組成の調味食塩水で希釈し、最後に1000mlに調製した。
(2)保存効果参考例1と同様に、胡瓜5kg(54本)を水洗後、水切りしたのちに、4%食塩水5リットルを加えてプラスチック容器に入れ、落とし蓋をして一夜放置した。放置後、水切りして長さ2cmに切り、胡瓜を更に2分割した。この細断胡瓜100gをポリエチレン袋に入れ、これに、あらかじめ所定量の表2に示す組成1、組成2又は組成3からなる食品添加剤含有調味食塩水100mlを加え、ポリエチレン袋の口を密封し、18℃で保存して胡瓜浅漬を製した。保存した該胡瓜浅漬の調味食塩水のpH及び660nmにおける濁度(透過率 T(%))を測定した。食品添加剤の組成を表2に、結果を表3に示した。
【0021】
【表2】


【0022】
【表3】


【0023】保存した胡瓜浅漬の調味食塩水の660nmにおける濁度(透過率 T(%))が70(%)以下の場合には、白濁すると商品価値がなくなるので、濁度(透過率 T(%))が70(%)を判定基準とした。表3から明らかなように、18℃における保存可能期間は、無添加のものでは製造後1日間、組成1は製造後2日間、組成2は製造後3日間、組成3は製造4日後でも基準以上であった。したがって、本発明の食品添加剤(組成2及び3)は優れた防腐効果を示した。
【0024】[実施例2]生うどんにおける保存効果(1)食品添加剤の調製表4に示す組成1、組成2、組成3及び組成4の食品添加剤の調製を行なった。組成1は、キトサン5gにカンショウ乳酸(成分:乳酸45%、乳酸ナトリウム5%、(株)武蔵野化学研究所製)10mlを加えて溶解し、水で希釈して最後に100mlに調製した。組成2は、カンショウ乳酸10mlにアジピン酸4gを加えて溶解し、この溶液にキトサン5gを混合し、水で希釈して最後に100mlに調製した。組成3は、キトサン5gにカンショウ乳酸10mlを加えて溶解し、次いでノイペクチン8mlを加えて、水で希釈して最後に100mlに調製した。組成4は、乳酸緩衝液10mlにアジピン酸4gを加えて溶解し、この溶液にキトサン5gを混合し、更にノイペクチン8mlを加えて、水で希釈して最後に100mlに調製した。
(2)保存効果小麦粉(日清製粉(株)製)140gに、あらかじめ調製しておいた食品添加剤含有の混合液(調製液)[水道水49ml、食品添加剤4.2ml、食塩1.4g]を加えて、製麺機(パロディ&パロディ社製)を用いて、生うどんを調製した。15℃の恒温器内で保管した生うどんの一部10gと滅菌水90mlを滅菌ポリ袋に入れて、粉砕器で1分間ホモジナイズして試料液とした。菌の増殖に応じて試料液を連続10倍希釈し、普通寒天培地を用いた寒天平板塗抹法により、ふ卵器で35℃±1℃、48±3時間培養後、発生集落数を算定した。各種食品添加剤を練り込んだ生うどんを15℃に保存した場合の生菌数の測定結果を表5に示した。
【0025】
【表4】


【0026】
【表5】


【0027】表5から明らかなように、本発明の食品添加剤(組成2及び4)は優れた防腐効果を示した。
【0028】[実施例3]ゼリーにおける保存効果(1)食品添加剤の調製表6に示す組成1及び組成2の食品添加剤の調製を行なった。組成1は、キトサン5gにカンショウ乳酸(成分:乳酸45%、乳酸ナトリウム5%、(株)武蔵野化学研究所製)5mlを加えて溶解し、水で希釈して最後に100mlに調製した。組成2は、カンショウ乳酸5mlにアジピン酸3.5gを加えて溶解し、この溶液にキトサン5gを混合し、水で希釈して最後に100mlに調製した。
(2)保存効果カードラン懸濁液200g(最終濃度3.2%)に、うめ(梅の果実)を砂糖で漬けた際に得られたうめシロップ400ml、澱粉30g(最終濃度5%(W/V))を加え、更に食品添加剤を12ml(最終濃度2%(V/V))を加えて、45℃にて充分に分散するまで撹拌した。撹拌した後、充分に脱気を行い、アルコール洗浄済の型容器に分注し、蓋をして密封した。15分間蒸した後、蓋をとり内容物を成形して、再び蓋をして密封した後、室温(25℃程度)にて静置した。生菌数は普通寒天培地を用いた寒天平板塗沫法により35℃、48時間培養した後、発生集落数を測定した(表7)。細菌数の測定に用いた同じ寒天平板について、同時にかびの発生についても、肉眼により発生状況を観察した(表8)。
【0029】
【表6】


【0030】
【表7】


【0031】
【表8】


【0032】表7及び表8から明らかなように、本発明の食品添加剤(組成2)は、無添加のもの及び組成1に比べ優れた防腐効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 キトサン、乳酸緩衝液及びアジピン酸からなる食品添加剤
【請求項2】 キトサン、乳酸緩衝液、アジピン酸及びノイペクチンからなる食品添加剤
【請求項3】 食品添加剤において乳酸緩衝液が3〜10%(v/v)、キトサンが3〜10%(w/v)及びアジピン酸が1〜5%(w/v)である請求項1記載の食品添加剤
【請求項4】 食品添加剤において乳酸緩衝液が3〜10%(v/v)、キトサンが3〜10%(w/v)、アジピン酸が1〜5%(w/v)及びノイペクチンが1〜3%(v/v)である請求項2記載の食品添加剤
【請求項5】 乳酸緩衝液の濃度が5〜6モル濃度である請求項3又は4記載の食品添加剤
【請求項6】 請求項1、2、3、4又は5記載の食品添加剤を添加した食品
【請求項7】 請求項1、2、3、4又は5記載の食品添加剤を添加した浅漬又はめん類
【請求項8】 請求項1、3又は5記載の食品添加剤を添加したゼリー