説明

食品添加用被覆製剤及びその製造方法

【課題】食品添加用被覆製剤及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】1)油脂不溶性かつ固体である食品添加剤の粉体と固体であり前記食品添加剤より融点の低い固形被覆剤の粉体とを、前記固形被覆剤の融点未満の温度で混合する粉体混合工程と、2)前記粉体混合工程で得られた混合物を攪拌しながら前記固形被覆剤の融点以上かつ前記食品添加剤の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、3)前記加熱された混合物を前記固形被覆剤の融点未満の温度に冷却する冷却工程とを有する食品添加用被覆製剤の製造方法である。また、それにより製造された食品添加用被覆製剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品添加用被覆製剤及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、食品添加剤粉体の粒子を芯とし、該芯の表面を固形被覆剤で被覆した食品添加用被覆製剤及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加工食品の食品添加剤の種類、品目、その生産量、あるいは流通経路が飛躍的に拡大し、そのため、食品添加剤の保存安定性の向上が重要な課題となっている。また、食品用添加剤の種類及び用途によって、種々の供給形態が求められている。
【0003】
酢酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸、ソルビン酸、L−アスコルビン酸等の有機酸類は、酸味料として、pH調整剤として、保存目的に広く利用されている。その中で、酢酸は古来より食されてきた天然の食材であり、酸味料として、あるいはpH調整剤として利用され、さらには防腐効果を有することから、食品の添加剤として広く応用されている。L−アスコルビン酸は、品質改良剤としての利用、酸味料としての利用、ビタミンCとしての栄養強化剤としての利用、医薬としての利用等各種の食品、健康食品、飼料、医薬品分野等に広く使用されている。アミノ酸類として、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、メチオニン、グルタミン酸ナトリウム等は、栄養強化剤としての利用、食品調味料としての利用等各種の食品、健康食品、飼料、医薬品分野等に広く使用されている。
【0004】
ところが、有機酸は、添加された食材のpHを急激に低下させるため、食材を分離・凝固させたり、酸味が強すぎて味が変質したり、等の低pHによる悪影響がみられることが多い。また、食品等の加工、保存中ではその効果が安定に保持されていることが望ましいが、直接に有機酸を食品に添加して用いる場合はその持続性が短いことが問題であった。また、食品製造で酵母を含み、発酵過程を利用するような食品において、前記のような有機酸が発酵阻害を生じやすいという問題があった。
アミノ酸類についても、保存中の品質劣化、あるいは他の混合成分との相互作用による変質などの問題があった。
【0005】
これらを食品添加剤の課題を解決する手段の1つとして、従来、有機酸の表面を油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル等の被覆物質により被覆することが提案されている。例えば、加熱溶融した脂肪酸グリセリドの中に酢酸ナトリウムとみょうばん粉体を懸濁させ、噴霧冷却法、あるいは冷却固化後粉砕機で粉砕する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、酢酸ナトリウム粉体に溶融した油脂とグリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステルを吸着させた粉体状食品変質防止剤も開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、有機酸又はその塩の粉体に、被覆剤粉体を接触、衝突させ、該有機酸又はその塩の粉体の全周囲表面に該被覆剤を付着、被覆する製造方法が開示されている。接触、衝突させる手段としては、公知のボールミル、電気乳鉢、高能率粉体混合装置、高速気流の対流により粉体を接触させる装置等が開示されている(例えば、特許文献3)。
【0006】
更にまた、親水性の芯物質の周囲を複数の層の疎水性熱溶融物質で被覆した製剤の製造方法として、芯物質を被覆物質の固化温度以下の温度で混合しながら、加熱溶融した被膜物質を連続的または分割して添加しつつ、固化させ、芯物質の周囲に複数の皮膜物質層を形成させる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭51−34894号公報
【特許文献2】特開2005−124569号公報
【特許文献3】特公平8−2248号公報
【特許文献4】特開平10−203965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように芯物質を油脂等で被覆した被覆製剤として使用する形態が提案されているが、このような被覆製剤では、油脂等による被覆である程度の芯物質の溶出抑制が期待できるものの、実用上は例えば熱の付与や長期保存などが影響して芯物質の溶出が抑えられていないのが現状であり、それにより持続性や保存中の品質劣化、あるいは芯物質起因の臭気などの支障を来たしていた。
【0009】
本発明は、従来の被覆製剤に比べて芯物質の被覆が良好(好ましくは均一)で、芯物質として内包された食品用添加剤の溶出がより防止された食品用添加剤製剤及びその製造方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は、下記の手段により達成された。
<1> 油脂不溶性かつ固体である食品添加剤の粉体と固体であり前記食品添加剤より融点の低い固形被覆剤の粉体とを、前記固形被覆剤の融点未満の温度で混合する粉体混合工程と、2)前記粉体混合工程で得られた混合物を攪拌しながら前記固形被覆剤の融点以上かつ前記食品添加剤の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、3)前記加熱された混合物を前記固形被覆剤の融点未満の温度に冷却する冷却工程とを有する食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<2> 前記冷却工程において、更に流動化剤を混合する前記<1>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<3> 前記流動化剤の少なくとも一種が、二酸化ケイ素粒子である前記<2>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<4> 前記固形被覆剤の融点が40℃以上100℃以下である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<5> 前記食品添加剤と前記固形被覆剤との混合比(食品添加剤質量:固形被覆剤質量)が、99:1〜40:60である前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
【0011】
<6> 前記流動化剤を食品添加用被覆製剤の全質量に対して0.01質量%〜10質量%混合する前記<2>〜前記<5>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<7> 前記固形被覆剤が、植物性および動物性油脂、脂肪酸、並びに脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<8> 前記固形被覆剤が、菜種硬化油及びソルビタン脂肪酸エステルの少なくとも一方である前記<7>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<9> 前記食品添加剤が、親水性有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種である前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<10> 前記食品添加剤が、酢酸ナトリウム又は、酢酸ナトリウム及び該酢酸ナトリウム以外の親水性有機酸の混合物である前記<9>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<11> 前記親水性有機酸が、酢酸である前記<10>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<12> 前記冷却工程は、冷却速度の異なる少なくとも2つの冷却工程を有する前記<1>〜前記<11>のいずれか1つに記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
【0012】
<13> 前記冷却工程は、第1段階の冷却工程と前記第1段階より冷却速度の遅い第2段階の冷却工程とを含み、前記第1段階の冷却速度に対する前記第2段階の冷却速度の比率(第2段階の冷却速度/第1段階の冷却速度)が0.1〜0.9である前記<12>に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法である。
<14> 前記<1>〜前記<12>のいずれか1つに記載の製造方法により製造された食品添加用被覆製剤である。
<15> 酢酸ナトリウム及び酢酸を含有する固体状の食品添加剤と、前記食品添加剤を被覆する固形被覆剤と、を含む食品添加用被覆製剤である。
<16> 前記食品添加剤は、前記酢酸ナトリウムを50〜95質量%と前記酢酸を50〜5質量%とを含有する前記<15>に記載の食品添加用被覆製剤である。
<17> 前記食品添加剤に対する前記固形被覆剤の比率(固形被覆剤量/食品添加剤量;質量比)が1/99〜60/40である前記<15>又は前記<16>に記載の食品添加用被覆製剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の被覆製剤に比べて芯物質の被覆が良好(好ましくは均一)で、芯物質として内包された食品用添加剤の溶出がより防止された食品用添加剤製剤及びその製造方法を提供することができる。本発明では、食品添加剤の粉体粒子を芯物質とし、該芯の表面を固形被覆剤で被覆した食品添加用被覆製剤を簡便に生産性よく製造することができる。
【0014】
本発明者らは、上記課題の解決手段を探索するに当たって、従来の製造方法における不完全な被覆を与えている原因を解析した結果、加熱溶融した被覆剤を食品添加剤の粉体に混合する方法では、第1に、これらの混合時に食品添加剤の粉体の凝集が発生し、この凝集部分は最後まで被覆剤により表面が被覆されないまま残ること、第2に被覆剤が接着剤となって被覆された製剤粒子が互いに融着し、冷却後固化すると大きな融着体を形成する。その後、粉砕工程でこれらを粉砕すると、融着面が分離されるだけでなく、芯物質と被膜層との界面での破断が起こるため、得られる製剤粒子表面の被膜層の厚みが不均一となり、部分的に殆ど被覆剤で被覆されていない領域を生じていると推測された。そのため、得られる製剤に、部分的に被膜形成されていない部分が存在するため、芯物質である食品添加剤が加熱や経時で溶出しやすく、結果的に製剤性能を劣化させていることが判明した。従って、芯物質をなす食品添加剤の露出や染み出しが起きないように良好(好ましくは均一に高い被覆度で)に被覆できる食品添加用被覆製剤の製造法が求められた。
【0015】
本発明の製造方法においては、第1段階として、混合装置に中に、芯となる食品用添加剤の粉体と固形被覆剤粉体が、いずれもが溶解しない温度で粉体混合される。第二段階として、混合装置を加熱すると、得られた粉体混合物が温度上昇に伴って、固形被覆剤の融解が始まり、融解した固形被覆剤によって芯表面が濡れる。該方法によれば、融解した固形被覆剤により芯となる食品用添加剤の粉体粒子を均等に濡らすことができる。従って、従来のように、溶融した被覆剤を食品用添加剤の粉体に添加する場合に発生する凝集体の発生が防止される。さらに固形被覆剤の融解と共に、融解した固形被覆剤が粒子間に入り込んで芯のほぼ全体が被覆される。第三段階として、得られた混合物を固形被覆剤の融点未満の温度に冷却すると、固形被覆剤は固化し、芯の表面に固形被覆層が形成される。この方法によれば、芯の表面全体を(好ましくは均一な厚みに)被覆しやすく、芯の露出や加熱や経時に伴なう溶出量(被覆された芯の所期量に対する溶出量の比率)の増加が起きにくい被覆層が形成され、これを混合装置から取り出すことにより、固形被覆剤で芯粒子のほぼ全体が良好(好ましくは均一)に被覆された製剤が得られる。
このように、本発明の食品添加用被覆製剤の製造方法は、食品添加剤の全体が(好ましくは均一に)安定的に固形被覆剤により被覆された被膜製剤を製造する極めて生産性に優れた製造方法である。更に、本発明の製造方法によれば、粉砕することなく、混合装置より取り出すことができるので、被膜に損傷を与える危険がないので、より均一性にすぐれた被覆製剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の食品添加用被覆製剤の製造方法について詳細に説明し、該説明を通じて食品添加用被覆製剤の詳細をも述べることとする。
【0017】
本発明の食品添加用被覆製剤の製造方法は、1)油脂不溶性かつであり常温で固体である食品添加剤の粉体と常温で固体であり前記食品添加剤より融点の低い固形被覆剤の粉体とを、前記固形被覆剤の融点未満の温度で混合する粉体混合工程と、2)前記粉体混合工程で得られた混合物を攪拌しながら前記固形被覆剤の融点以上かつ前記食品添加剤の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、3)前記加熱された混合物を前記固形被覆剤の融点未満の温度に冷却する冷却工程と、を設けて構成されたものである。
【0018】
本発明においては、特に、食品添加剤の粉体とこれより融点の低い固形被覆剤の粉体とを、固形被覆剤が溶融しないように該固形被覆剤の融点未満の温度で一旦混合した後、さらに攪拌しながら固形被覆剤の融点以上であるが食品添加剤は溶融しない温度(食品添加剤の融点)未満の範囲で加熱し、再び固形被覆剤を固形化するためその融点未満に冷却することで、芯材をなす食品添加剤の表面全体に固形被覆剤が拡がって、芯材表面が露出したり芯材同士が接触して複数粒のクッツキが生じる等の現象が抑制されるので、芯材表面が良好に(好ましくは均一に)被覆され、被覆後には、芯材臭気が漏れたり、加熱等が原因で食品用添加剤が溶出したり、保存時に被覆面がベタ付く等の現象が効果的に防止される。
【0019】
<粉体混合工程>
本発明における粉体混合工程は、油脂不溶性かつであり常温で固体である食品添加剤の粉体と常温で固体であり前記食品添加剤より融点の低い固形被覆剤の粉体とを、前記固形被覆剤の融点未満の温度で混合する。
【0020】
(食品添加剤)
本発明の芯物質に用いられる食品添加剤(以下、「芯物質」又は「芯剤」ともいう。)は、油脂不溶性であり、常温で固体状であれば、特に限定するものではなく、例えば、無機塩、親水性有機酸(例えばアミノ酸やそれ以外の有機酸など)又はその塩、あるいはそれらの混合物等が挙げられる。また、常温で液体状の物質は、包接、含浸、凍結乾燥、スプレー乾燥などによって固体化することにより、本発明の芯物質として利用することができる。
【0021】
本発明において、「油脂不溶性」とは、食品添加剤の油脂1.0gに対する溶解度が0.01g以下であることをいう。
【0022】
−無機塩−
無機塩の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、食塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどを挙げることができる。
【0023】
−親水性有機酸−
親水性有機酸の具体例としては、酢酸、クエン酸、フマル酸、酒石酸、ソルビン酸、L−アスコルビン酸等の酸、並びにグリシン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、メチオニン、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸などを挙げることができる。また、これらの塩として、アルカリ金属塩(例:カリウム塩、ナトリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(例:カルシウム塩、マグネシウム塩等)などを挙げることができる。
また、親水性有機酸として上市されている市販品を使用してもよく、該市販品の例としては、大東化学(株)製のサンミエース32、42(いずれも酢酸ナトリウム及び酢酸の混合物)などが挙げられる。
なお、「親水性」とは、有機酸類1gが水(25℃)100gに溶解する性質をいう。
【0024】
上記の中でも、食品添加剤としては、好ましくは、酢酸、酢酸ナトリウム、グリシン、又は酢酸ナトリウムと該酢酸ナトリウム以外の親水性有機酸との混合物であり、更に好ましくは、酢酸ナトリウム、又は酢酸ナトリウム及び酢酸の混合物である。
前記酢酸ナトリウムは、3水塩であっても無水塩であってもよいが、得られる製剤の保存安定性の点から、無水塩が好ましい。
【0025】
食品添加剤が酢酸ナトリウム及び酢酸の混合物である場合、これらの混合比(酢酸:酢酸ナトリウム;質量比)は、50:50〜95:5の範囲が好ましく、60:40=80:20の範囲がより好ましい。前記範囲内であると、芯材としたときに固形被覆剤による被覆をより良好に行なえる。
【0026】
〜粒子形状、粒子サイズ〜
本発明の芯物質に用いられる食品添加剤粉体の形状は、特に制限がなく、粉体状、造粒品、顆粒状あるいは結晶状のいずれを用いることができる。また、平均粒子サイズについても特に制限がなく、通常、平均粒子サイズが2mm以下、好ましくは40μm〜1000μmの範囲で用いられる。
芯物質の平均粒子サイズは小さいほど、単位質量当たりの表面積が大きいほど、食品に添加されたときの作用が早期に発現され、平均粒子サイズが大きいほど、単位質量当たりの表面積が小さいほど、遅効性であり、長期間有効に作用できる。従って、製剤が用いられる用途によって好ましい粒子形状、及び平均粒子サイズを選択するのが好ましい。
【0027】
〜食品添加剤の融点〜
食品添加剤の融点は、下記の固形被覆剤の融点より高ければ特に限定されるものではないが、固形被覆剤の融点に近いよりは、離れているほど好ましい。例えば、酢酸ナトリウムは、3水塩の場合、融点が59℃、無水塩が320℃であり、無水塩を用いる方が安定に酢酸ナトリウム製剤を作製できるので好ましい。
【0028】
(固形被覆剤)
本発明に用いられる固形被覆剤は、常温(25℃)で固体であり、前述の食品添加剤より融点が低い。この固形被覆剤としては、好ましくは、油溶性熱溶融性の物質が使用され、かかる物質としては、融点が40℃〜100℃、好ましくは50℃〜90℃で食用に供し得るものであればよく、例えば、植物性および動物性油脂、それらの水素添加、分別、エステル交換油脂、脂肪酸、脂肪酸エステル、植物性、動物性および鉱物性の天然ワックス等が挙げられる。
【0029】
・植物性および動物性油脂、それらの水素添加、分別、エステル交換油脂の具体例としては、大豆硬化油、牛脂硬化油、菜種硬化油、魚油硬化油、鯨油硬化油、ヒマシ油硬化油、サフラワー油硬化油、紅花油硬化油等が挙げられる。
・脂肪酸の具体例としては、炭素数14〜28で、融点が約40℃〜100℃の脂肪酸(例、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等)が挙げられる。
・脂肪酸エステルの具体例としては、界面活性剤としての作用を有する上記脂肪酸のグリセリンエステル、蔗糖エステル、ソルビタンエステル、プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
・ワックスの具体例としては、キャンデリラワックス、ライスワックス、カルナウバワックス、ミツロウ、パラフィンワックスなどの可食性天然ワックスが挙げられる。
【0030】
前記固形被覆剤としては、菜種硬化油等の油脂、脂肪酸のグリセリンエステル及びソルビタンエステル、天然ワックスが好ましく、更には、菜種硬化油等の油脂とソルビタン脂肪酸エステルとの混合、菜種硬化油等の油脂とグリセリン脂肪酸エステルとの混合である。
【0031】
本発明に用いられる固形被覆剤粉体の形状は、特に制限がなく、粉体状、塊状あるいはフレーク状のいずれを用いることができる。また、平均粒子サイズは、混合装置に仕込むことができる大きさであれば特に制限がないが、一般に微粒子ほど溶解速度が速いので、所望の被覆速度となるように、適宜好ましい粒子サイズで用いるのが好ましい。
本発明においては、これらの固形被覆剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、同じ固形被覆剤の層を複数形成させてもよく、固形被覆剤の組み合わせによっては、異なる固形被覆剤の層を組み合わせて形成させることもできる。
【0032】
本発明における食品添加剤(芯物質)と固形被覆剤の比率(食品添加剤質量:固形被覆剤の質量)は、好ましくは、99:1〜40:60、より好ましくは、95:5〜60:40、更に好ましくは90:10〜70:30で使用するのがよい。固形被覆剤の量が1質量%以上で、良好な被覆が得られ、また、固形被覆剤の量が60質量%以下で、食品添加剤の有効分量が高く好ましい。
【0033】
(流動化剤)
本発明においては、被覆製剤の製造に際して、流動化剤として、芯物質および固形被覆剤にいずれにも溶解しない粒子を用いることが好ましい。流動化剤は、固形被覆剤とともに用いられ、混合装置内での被覆製剤の流動性改善および付着防止する効果を有する。流動化剤を用いることにより、製造装置より被覆製剤を容易に取り出すことができる。
【0034】
流動化剤の具体例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、二酸化ケイ素、タルク、微結晶セルロース、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム等が挙げられる。好ましい流動化剤は、製造装置内からの取り出し易さの点で、二酸化ケイ素である。
【0035】
本発明に用いられる流動化剤は、粒子状のものが好ましく、粒子の形状は、特に制限がなく、粉体状、造粒品、顆粒状あるいは結晶状のいずれを用いることができる。流動化剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、平均粒子サイズについても特に制限されるものでないが、微粒子であることが好ましいため、好ましくは平均粒子サイズで0.1μm〜1000μm、より好ましくは0.5μm〜500μm、更に好ましくは1.0μm〜100μmの範囲で用いられる。
【0036】
流動化剤の混合は、冷却工程で混合することが好ましい。好ましくは、流動化剤は、冷却工程で温度が固形被覆剤の融点未満に低下した後に混合され、更に好ましくは、被覆製剤の取り出し温度(室温付近の温度(例えば25℃))まで低下した後に混合される。
【0037】
流動化剤は、好ましくは、食品添加用被覆製剤の全質量に対し0.01質量%〜10質量%の範囲で用いられ、より好ましくは0.05質量%〜5質量%、さらに好ましくは0.1質量%〜3質量%の範囲で用いられる。流動化剤の量が前記範囲内であると、製造装置から被覆製剤をより容易に取り出すことができる。
【0038】
〜混合装置〜
本発明の製造方法は、温度調整が可能な撹拌混合装置を用いて実施することができる。かかる装置としては、芯物質とこれを被覆する被覆物質を撹拌、混合できる装置であればよく、特に限定するものでないが、温度調整が可能なスクリュー型、リボン型、パドル型、高速流動型、回転円板型などの撹拌混合機を使用することが、操作の容易性、効率性から好ましい。例えば、マイクロスピードミキサー(宝工機(株)製)、ハイスピードミキサー(深江工業(株)製)、ナウターミキサー等の撹拌混合装置を使用できる。
攪拌は、被覆が破壊されるのを防止するために比較的低攪拌速度で行うのがよく、好ましくは300r.p.m.以下、より好ましくは100r.p.m.以下である。
【0039】
〜粉体の混合〜
本発明の製造方法を実施するには、第1に、上記混合装置を使用して芯物質の粉体とこれを被覆する固形被覆剤の粉体とを、これらの粉体のいずれもが溶解しない温度で混合する。芯物質の粉体と固形被覆剤の粉体の混合装置への添加順は、特に制限されるものではなく、好ましくは、芯物質の粉体を予め混合装置に仕込み、固形被覆剤の粉体をその後に投入するのが、均一に粉体混合する上で好ましい。
【0040】
<加熱工程>
本発明における加熱工程は、前記粉体混合工程で得られた混合物を、攪拌しながら固形被覆剤の融点以上かつ食品添加剤の融点未満の温度に加熱する。
得られた粉体混合物を攪拌しながら混合装置の温度を上げていくと、粉体混合物の温度上昇と共に、固形被覆剤の融点を超えると固形被覆剤の融解が始まり、融解した固形被覆剤で芯物質粒子表面が濡らされる。該工程では、芯物質粉体と固形被覆剤粉体が予め混合されているので、芯物質粒子の表面を融解した固形被覆剤により均一に被覆することができる。
【0041】
加熱方法として、特に限定されるものではなく、種々の加熱方法で加熱することができる。通常用いられる混合装置の容器外部に設けられた加熱手段、例えば、加熱媒体を通じたジャケットあるいは電熱線などにより容器を加熱する手段が用いられる。本発明に於いては温度上昇の速度も食品添加剤または固形被覆剤の種類によって適宜調整される。例えば、加熱温度を固形被覆剤の融点付近に保つことにより、固形被覆剤を徐々に融解することができる。また、加熱温度を固形被覆剤の融点より高くするほど固形被覆剤の溶解速度を速くすることができる。また、混合装置の攪拌速度が高いほど、固形被覆剤の平均粒子サイズが小さいほど、固形被覆剤の溶解速度が速くなる。従って、加熱温度および攪拌速度を調整することにより、固形被覆剤の溶解速度を調整することができる。
好ましくは、固形被覆剤の融点+40℃以下の加熱温度、より好ましくは、固形被覆剤の融点+30℃以下の加熱温度で加熱される。
【0042】
<冷却工程>
本発明における冷却工程は、前記加熱工程で加熱された混合物を、固形被覆剤の融点未満の温度に冷却する。
被覆された状態は、温度を固形被覆剤の融点未満に冷却することにより固形被覆剤が固化し、固形被覆剤を食品添加剤の表面に固定化することができる。
【0043】
冷却工程は、連続的冷却しても断続的冷却のいずれであってもよい。好ましくは、前記冷却工程は、冷却速度の異なる少なくとも2つの冷却工程を有する。より好ましくは、冷却工程は、相対的に速い冷却速度の冷却工程とそれに続く冷却速度の遅い冷却工程を含む複数の冷却工程を有する。更に好ましくは、冷却工程は、固形被覆剤の融点以上に加熱された温度から該固形被覆剤の融点付近の温度まで冷却する第1段階の冷却過程と、該固形被覆剤の融点付近の温度から取り出し温度(室温付近の温度(例えば25℃))まで冷却する第2段階の冷却工程とを有するように制御される。
【0044】
前記第1段階の冷却工程は、固形被覆剤の融解を停止する工程であり、融解を所定の量にコントロールする観点から、迅速に冷却するのが好ましい。より好ましくは、第1段階での冷却速度は5℃〜10℃/時間である。
前記第2段階の冷却工程は、融解された被覆剤により芯物質(食品添加剤)の表面全体に安定的に被覆層を形成する過程であり、融解された被覆剤が芯物質の表面全体を(好ましくは均一に)被覆する観点から、前記第1段階の冷却工程に比較して遅い速度で冷却するのが好ましい。より好ましくは、第2段階での冷却速度は1℃〜4℃/時間である。
本発明における冷却速度とは、時間当たりの温度降下を意味する。
好ましくは、芯物質の表面全体が良好に被覆され、芯物質の溶出がより防止される点で、前記第1段階の冷却速度に対する前記第2段階の冷却速度の比率(第2段階の冷却速度/第1段階の冷却速度)は、1.0未満が好ましく、より好ましくは0.1〜0.9であり、更に好ましくは0.2〜0.8であり、特には0.3〜0.5である。
【0045】
冷却速度を遅くするには、温度降下を遅くすること、あるいは攪拌速度を遅くすることにより調整することができる。後段の冷却工程は、連続的に攪拌しても、攪拌と静止とを間歇的に繰り返してもよい。
このように、冷却工程は、少なくとも2段階の冷却パターンで行うのが好ましい。必要によっては3段階以上の多段工程であってもよい。
【0046】
すなわち、本発明の製造方法によれば、温度制御と攪拌装置を具備した混合装置であればよく、また、全ての工程が乾式であり、溶媒の供給や除去、回収等が不要であり、また濾別分離工程も不要である。また、得られる被覆製剤は、製剤粒子間の付着凝集が極めて僅かであり、装置の攪拌のみでほぐれるので、再分散や粉砕等を行うことなく、混合装置より取り出すことができる。従って、本発明の製造方法は、簡便で生産性に優れている。
【0047】
得られた食品添加用被膜製剤は、芯物質である食品添加剤が固形被覆剤により露出や染み出し等が起きないように良好に(好ましくは均一に)被覆されているので、例えば有機酸の被覆製剤の場合、食品に添加されてもpHを急激に低下させることがなく、食品の凝集・分離などの弊害、或いは酸味が強くなるなどの味に対する影響も少ない。
【0048】
本発明の食品添加用被膜製剤の食品添加剤の溶出は、極力少ないことが望ましく、具体的には、溶出率が、20質量%以下であるのが好ましく、15質量%以下であるのがより好ましく、特に好ましくは10質量%以下、更には5質量%以下である。食品添加剤の溶出率が前記範囲内であると、従来と比較して、被覆製剤の持続性や保存中の品質劣化、あるいは芯物質起因の臭気などをより低減される。
【0049】
前記溶出率は、下記の方法により測定されるものである。
25℃で食品添加用被膜製剤10gと水50mLとを容器に入れ、振とう器で300r.p.m.の振とうを5分間行った後、濾過により食品添加用被膜製剤を除き、水中に溶出した食品添加剤の量を下記(1)又は(2)により定量する。得られた定量値をもとに、食品添加用被膜製剤中の全食品添加剤の量に対し、溶出した食品添加剤の割合[質量比]を算出する。
(1)酸又はその塩の場合、水中に溶出した食品添加剤の量を電位差滴定法により定量
(2)アミノ酸の場合、水中に溶出した食品添加剤の量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量(HPLCの条件を以下に示す)
〜HPLC条件〜
・カラム:CAPCELLPAK C18 AQ 3μm 4.6×150(資生堂(株)製)
・移動相:純水1Lに1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム2.0g及びリン酸4.9g (ともに関東化学(株)製)を加える。
・流量:0.8mL/min
・検出器:UV検出器(210nm)
・恒温槽:40℃
・試料導入量:10μL
【0050】
〜用途〜
本発明の食品添加用被膜製剤の製造法は、食品、健康食品、飼料、医薬品分野等の広い被膜製剤の製造に用いることが出来る。本発明により製造された食品添加用被膜製剤は、それぞれの分野で保存安定剤、酸味料、栄養強化剤およびpH調整剤等として用いることが出来る。
【実施例】
【0051】
以下、実施例、比較例および使用例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明においてはこれに限られるものではない。
【0052】
(実施例1)
1.被覆物の製造
無水酢酸ナトリウム(融点320℃〜321℃、大東化学(株)製;親水性有機酸)15kg、菜種極度硬化油(融点68℃、横関油脂工業(株)製)4kg、及びソルビタン脂肪酸エステル(融点53℃、商品名:エマゾールS−10V、花王(株)製)1kgを、粉体混合機(ナウタミキサ:ホソカワミクロン(株)製)に常温(25℃)で投入した後、100r.p.m.で攪拌混合し、攪拌混合しながら3時間かけて75℃まで昇温し、75℃に達してから、温度を維持したまま4時間攪拌混合した。
【0053】
その後、以下の2段階のステップで冷却を行った。
・第1冷却段階:60℃になるまで、3時間かけて連続的に攪拌をしながら冷却を行った。冷却速度は、5.0℃/時間である。
・第2冷却段階:50℃になるまで、5時間かけて攪拌と静止を間歇的に繰り返しながら冷却を行った。冷却速度は、2.0℃/時間である。続いて、35℃になるまで、7時間かけて攪拌と静止を間歇的に繰り返しながら冷却を行った。冷却速度は、2.1℃/時間である。
第1冷却段階の冷却速度に対する第2冷却段階の冷却速度の比率は、0.4である。
35℃以下となってから粉体混合機から被覆物を取り出した。
【0054】
2.被覆物の性能評価
得られた被覆物の被覆度を水中での酢酸ナトリウムの溶出率を測定することにより評価した。溶出率は下記により測定した。
<溶出率の測定方法>
25℃で、被覆物10gと水50mLを容器に入れ、振とう器で300r.p.m.の振とうを5分間行った。濾過により被覆物を除いた後、水中に溶出した酢酸ナトリウムの量を電位差滴定法により定量した。被覆物中の全酢酸ナトリウム量に対して、溶出した酢酸ナトリウム量の割合[質量比]を求め、溶出率とした。
【0055】
上記の測定方法により溶出率を求めた結果、得られた被覆物における溶出率は、3.6%であった。
【0056】
(実施例2)
実施例1で、無水酢酸ナトリウムを14kg、菜種極度硬化油を3kg、ソルビタン脂肪酸エステルを3kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は1.3%であった。
【0057】
(実施例3)
実施例1で、無水酢酸ナトリウムを12kg、菜種極度硬化油を8kgとし、ソルビタン脂肪酸エステルを用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は6.5%であった。
【0058】
(実施例4)
実施例1で、無水酢酸ナトリウムを16kg、菜種極度硬化油を3kg、ソルビタン脂肪酸エステルを1kgとして、粉体混合機に常温(25℃)で投入した後、100r.p.m.で攪拌混合しながら70℃〜80℃へ昇温し、1時間加熱混合した後に加熱を停止した。
その後攪拌を続け、第1冷却段階及び第2冷却段階を経て内部温度が35℃以下に低下してから、二酸化ケイ素微粒子(商品名:サイロページ720、富士シリシア(株)製)を0.05kg添加混合し、攪拌した。製造装置より被覆粒子を重力落下のみにより容易に取り出すことができた。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は4.5%であった。
【0059】
(実施例5)
実施例1で、無水酢酸ナトリウムを酢酸ナトリウム製剤(酢酸と酢酸ナトリウムの混合物(酢酸:酢酸ナトリウム=42:58[質量比])、商品名:サンミエース42、大東化学(株)製)に代え、該酢酸ナトリウム製剤を14kg、菜種極度硬化油を4.5kg、ソルビタン脂肪酸エステルを1.5kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって被覆粒子を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は1.9%であった。
【0060】
(実施例6)
実施例1で、第1冷却段階及び第2冷却段階による冷却工程を1段階に変更し、35℃まで連続的に8時間かけて冷却した以外は、実施例1と同様の方法によって被覆粒子を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は10.8%であった。
【0061】
(比較例1)
無水酢酸ナトリウム300gを投入した高速流動型混合機(回転速度600r.p.m)に、別に準備した加熱溶融した菜種極度硬化油100gを添加し、温度を75℃〜80℃の範囲に維持したまま4時間攪拌混合した。加熱を止めて室温まで冷却後、被覆製剤を取り出した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は75.8%であり、被覆は不十分であった。
【0062】
上記のように、比較例1の製造方法で製造された酢酸ナトリウム製剤に比べて、実施例1〜6(本発明)製造方法で製造された酢酸ナトリウム製剤は、極めて低い溶出率を示した。特に、実施例1と実施例6の比較から明らかであるように、冷却工程を多段階で行うことにより、溶出率のより低い製剤が得られた。更に、実施例4に示されるように、流動化剤を用いることにより、製造装置から容易に製剤を取り出すことができ、生産性が向上した。また、実施例5で示されるように、無水酢酸ナトリウム粉末を用いるよりも、酢酸ナトリウム製剤を用いることにより、より低い溶出率の製剤が得られた。
【0063】
(実施例7)
1.被覆物の製造
実施例1で、無水酢酸ナトリウムの代わりにグリシン(扶桑化学工業(株)製;親水性有機酸)を用い、グリシン15kg、菜種極度硬化油を4g、ソルビタン脂肪酸エステルを1kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作製した。
【0064】
2.被覆物の性能評価
得られた被覆物の被覆度を水中でのグリシンの溶出率を測定し、その測定値を指標として評価した。溶出率は下記により測定した。
【0065】
<溶出率の測定方法>
25℃で、被覆物10gと水50mLを容器に入れ、振とう器で300r.p.m.の振とうを5分間行った。濾過により被覆物を除いた後、水中に溶出したグリシンの量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。被覆物中の全グリシン量に対して、溶出したグリシン量の割合[質量比]を求め、溶出率とした。
〜HPLC条件〜
・カラム:CAPCELLPAK C18 AQ 3μm 4.6×150(資生堂(株)製)
・移動相:純水1Lに1−ヘプタンスルホン酸ナトリウム2.0g及びリン酸4.9g(共に関東化学(株)製)を加える。
・流量:0.8mL/min
・検出器:UV検出器(210nm)
・恒温槽:40℃
・試料導入量:10μL
【0066】
上記の測定方法により溶出率を求めた結果、得られた被覆物における溶出率は、8.7%であった。
【0067】
(実施例8)
実施例1において、無水酢酸ナトリウム15kg、菜種極度硬化油4kg、及びソルビタン脂肪酸エステル1kgに代えて、グリシン(扶桑化学工業(株)製;親水性有機酸)15kg、菜種極度硬化油(融点68℃、横関油脂工業(株)製)4kg、及びグリセリン脂肪酸エステル(融点67℃、商品名:エキセルT−95、花王(株)製)1kgを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作成した。
得られた被覆物について、実施例7と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は9.0%であった。
【0068】
(実施例9)
実施例1において、無水酢酸ナトリウム15kg、菜種極度硬化油4kg、及びソルビタン脂肪酸エステル1kgに代えて、無水酢酸ナトリウム15kg、ライスワックス(融点78℃、横関油脂工業(株)製、商品名:精製ライスワックスS−100)4kg、及びグリセリン脂肪酸エステル(融点67℃、商品名:エキセルT−95、花王(株)製)1kgを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作成した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は9.9%であった。
【0069】
(実施例10)
実施例1で、無水酢酸ナトリウム15kg、牛脂極度硬化油(融点59℃、横関油脂工業(株)製、商品名:牛脂極度硬化油)4.5kg、及びソルビタン脂肪酸エステル1.5kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって、混合と加熱を行った。その後、以下の3段階のステップで冷却を行った。
・第1冷却段階:65℃になるまで、1時間かけて連続的に攪拌をしながら冷却を行った。冷却速度は、10℃/時間とした。
・第2冷却段階:50℃になるまで、5時間かけて連続的に攪拌をしながら冷却を行った。冷却速度は、3.0℃/時間とした。
・第3冷却段階:35℃になるまで、10時間かけて攪拌と静止を間歇的に繰り返しながら冷却を行った。冷却速度は、1.5℃/時間とした。
このとき、第1冷却段階の冷却速度に対する第2冷却段階の冷却速度の比率は、0.4であり、第2冷却段階の冷却速度に対する第3冷却段階の冷却速度の比率は、0.5である。
35℃以下となった後、これに二酸化ケイ素微粒子(商品名:サイロページ720、富士シリシア株式会社製;流動化剤)を0.1kg添加混合し、攪拌した。製造装置より被覆粒子を重力落下のみにより容易に取り出すことができた。
得られた被覆物について、実施例1と同様の溶出率を測定した結果、溶出率は7.9%であった。
【0070】
(実施例11)
実施例1で、酢酸ナトリウム製剤(酢酸と酢酸ナトリウムの混合物(酢酸:酢酸ナトリウム=42:58[質量比])、商品名:サンミエース42;親水性有機酸)、大東化学(株)製)15kg、菜種極度硬化油4kg、及びグリセリン脂肪酸エステル(融点67℃、商品名:エキセルT−95、花王(株)製)1kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって被覆物を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は4.8%であった。
【0071】
(実施例12)
実施例1で、酢酸ナトリウム製剤(酢酸と酢酸ナトリウムの混合物(酢酸:酢酸ナトリウム=32:68[質量比])、商品名:サンミエース32;親水性有機酸)、大東化学(株)製)14kg、菜種極度硬化油4.5kg、及びソルビタン脂肪酸エステル1.5kgとした以外は、実施例1と同様の方法によって、混合と加熱を行った。その後、以下の2段階のステップで冷却を行った。
・第1冷却段階:55℃になるまで、4時間かけて連続的に攪拌をしながら冷却を行った。冷却速度は、5.0℃/時間とした。
・第2冷却段階:35℃になるまで、12時間かけて攪拌と静止を間歇的に繰り返しながら冷却を行った。冷却速度は、1.7℃/時間とした。
このとき、第1冷却段階の冷却速度に対する第2冷却段階の冷却速度の比率は、0.3である。
35℃以下となった後、二酸化ケイ素微粒子(商品名:サイロページ720、富士シリシア株式会社製)を0.2kg添加混合し、攪拌した。製造装置より被覆粒子を重力落下のみにより容易に取り出すことができた。
得られた被覆物について、実施例1と同様の溶出率を測定した結果、溶出率は6.4%であった。
【0072】
(実施例13)
実施例4において、二酸化ケイ素微粒子0.05kgを、ステアリン酸カルシウム(商品名:オーラブライト CA−65、日油(株)製;流動化剤)0.1kgに代えた以外は、実施例4と同様の方法によって被覆物を作製した。
得られた被覆物について、実施例1と同様に溶出率を測定した結果、溶出率は5.3%であった。
【0073】
上記の実施例では、食品添加剤として酢酸、酢酸ナトリウム、グリシンを用いた例を中心に説明したが、食品添加剤は製剤の芯材であり、酢酸や酢酸ナトリウム、グリシン以外の前記例示の他の化合物を用いた場合も同様の効果が得られる。また、固形被覆剤として実施例で用いた以外の前記例示の他の化合物を用いた場合も、本発明における粉体混合工程、加熱工程、及び冷却工程を経ることにより、上記実施例における場合と同様に芯材の表面が良好に被覆され、溶出率の向上が図れる。
さらに、二酸化ケイ素以外の流動化剤を用いた場合も、装置から取り出す際の取り出し易さは良化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)油脂不溶性かつ固体である食品添加剤の粉体と固体であり前記食品添加剤より融点の低い固形被覆剤の粉体とを、前記固形被覆剤の融点未満の温度で混合する粉体混合工程と、
2)前記粉体混合工程で得られた混合物を攪拌しながら前記固形被覆剤の融点以上かつ前記食品添加剤の融点未満の温度に加熱する加熱工程と、
3)加熱された前記混合物を前記固形被覆剤の融点未満の温度に冷却する冷却工程と、
を有する食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、更に流動化剤を混合する請求項1に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項3】
前記流動化剤の少なくとも一種が、二酸化ケイ素粒子である請求項2に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項4】
前記固形被覆剤の融点が40℃以上100℃以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項5】
前記食品添加剤と前記固形被覆剤との混合比(食品添加剤質量:固形被覆剤質量)が、99:1〜40:60である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項6】
前記流動化剤を食品添加用被覆製剤の全質量に対して0.01質量%〜10質量%混合する請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項7】
前記固形被覆剤が、植物性および動物性油脂、脂肪酸、並びに脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項8】
前記固形被覆剤が、菜種硬化油及びソルビタン脂肪酸エステルの少なくとも一方である請求項7に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項9】
前記食品添加剤が、親水性有機酸およびその塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項10】
前記食品添加剤が、酢酸ナトリウム又は、酢酸ナトリウム及び該酢酸ナトリウム以外の親水性有機酸の混合物である請求項9に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項11】
前記親水性有機酸が、酢酸である請求項10に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項12】
前記冷却工程は、冷却速度の異なる少なくとも2つの冷却工程を有する請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項13】
前記冷却工程は、第1段階の冷却工程と前記第1段階より冷却速度の遅い第2段階の冷却工程とを含み、前記第1段階の冷却速度に対する前記第2段階の冷却速度の比率(第2段階の冷却速度/第1段階の冷却速度)が0.1〜0.9である請求項12に記載の食品添加用被覆製剤の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の製造方法により製造された食品添加用被覆製剤。
【請求項15】
酢酸ナトリウム及び酢酸を含有する固体状の食品添加剤と、前記食品添加剤を被覆する固形被覆剤と、を含む食品添加用被覆製剤。
【請求項16】
前記食品添加剤は、前記酢酸ナトリウムを50〜95質量%と前記酢酸を50〜5質量%とを含有する請求項15に記載の食品添加用被覆製剤。
【請求項17】
前記食品添加剤に対する前記固形被覆剤の比率(固形被覆剤量/食品添加剤量;質量比)が1/99〜60/40である請求項15又は請求項16に記載の食品添加用被覆製剤。