説明

食品粉体の篩分け方法

【課題】 小麦粉の仕上げ工程の仕上げ篩や再篩において、小麦粉等の粉体を効率良く篩分けすることができる篩分け方法を提供する。
【解決手段】 小麦粉または澱粉の少なくとも1種からなる食品粉体を、以下の篩い分け条件(1)及び(2)を満たす方法により篩い分けすることを特徴とする食品粉体の篩分け方法。
(1)篩い分け処理量が、使用する篩網101の単位面積(m)あたり200〜2000kg/h・mであること。
(2)篩網101が、その表面または全体が樹脂からなる基材により構成され、該基材の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウムと、テトラメトキシシランからなるバインダー成分を含有する微細凹凸層が固定化され、その固定化方法が、前記不飽和結合部と基材表面とがグラフト重合による化学結合により固定化されているものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉等の食品粉体を効率良く篩分けするための篩分け方法に関し、特に、製粉の挽砕工程後の仕上げ以降の工程において好適に用いられる食品粉体の篩分け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料小麦から小麦粉及び各種副産物を得る小麦製粉の基本的な工程は、次の3工程に大別される。すなわち、
1.原料小麦の精選、調質及び配合
2.挽砕
3.小麦粉の仕上げ
の3工程である。この3工程のうち、小麦粉の仕上げ工程においては、小麦挽砕工程で各篩機(シフター)より出る「上り粉用ストック」を配合して十分撹拌混合し均一化して、所望の粉の銘柄に合った品質を有する製品を得て、仕上げ篩機へ送り込まれた後、製品タンクへ送られる。一般に仕上げ篩は製粉工程のスクエアシフターの一部が用いられる場合が多く、篩番手(篩の目開き)は125〜180μのものが用いられている。仕上げ篩にかかり小麦粉タンクへ送られた製品は、異物混入等は原則的にはあり得ないが、一時貯蔵されることもあり包装やバルクでの出荷に際しては万全を期して再篩される。再篩機は一般的にスクエアスフターが用いられ、篩番手(篩の目開き)は125〜180μのものが用いられている(非特許文献1参照)。
【0003】
小麦挽砕工程や小麦粉の仕上げ工程で用いられる篩装置として、プランシフターやスクエアシフター等の形式で知られる篩装置が古くから用いられており、現在では、これらの変形型や中間型(ジュニアシフター等)など種々の形式のものも実際に使用されている。そしてこれらの篩装置は、多数積み重ねた篩枠を水平面内で円運動させながら、篩上に供給した粉粒体のうちの粒度の小さいものを篩下に通過させることで粒度選別を行うという基本的な構造を有している。
【0004】
篩装置が上記のように篩枠を多段に積層して構成されているのは、小麦粉を篩面の上で移動させて篩い選別を確実に行うにはできるだけ広い篩面積が望ましいことから、篩枠を多段に積層した装置の中を蛇行させながら上から下に小麦粉を移動させる篩面を作ることで、据付面積当たりの篩面積を大きくし、場所の節約を図るためである。
【0005】
このような篩装置は、通常、正方形状の篩枠を積み上げて上下から締め付けた篩枠群や、10段から20段以上積み上げた篩枠群をボックスと呼ばれる篩枠箱に入れることにより水平方向の固定をし、上方から締め付けることで固定して構成される。そしてこのボックスをバランスウエイトをもった偏心軸と駆動軸からなる駆動装置を用いて水平面内で高速の円運動を行うように構成されている。
【0006】
このような装置を構成する篩枠は、所定の期間毎に篩網の交換、点検が求められていることから、数百枚から数千枚の篩網のストックを常に準備しておくことが工業的設備では必要とされている。そこで、交換の必要部分を篩網だけに局限した構造が従来から採用されている。すなわち、50cm〜1m角程度の枠体(外枠と称される)と、篩網を張った枠体(中枠と称される)とを対で用いて、中枠を外枠に嵌合させるように構成したものが一般的である。このようにすれば、数千枚もの準備保管が必要とされる篩枠であっても、外枠は繰り返して使用でき、実際に準備しておくのは中枠だけになるので、保管容積の縮小、重量の軽減に伴う交換作業の容易化、省力化を図れるため、工業設備面から望ましいからである。
【0007】
これらの篩装置の改良技術として、多層篩装置の一層を構成する篩ユニットであって、原料粉体の流路と精製粉体の流路とを格別に気密に構成することができ、精製粉体への微小昆虫などの混入を防止することができる改良された篩ユニットに関する技術(特許文献1)や、中枠と外枠(上枠と下枠)とを組合せた篩枠の複数を多段に積層した際に、上記篩枠の下面と該篩枠の積層下段に位置する篩枠の上面との間に、積層上段に位置する篩枠から積層下段に位置する篩枠の上面への粉粒体の流下量を規制する規制部材(せき)等を設ける技術(特許文献2)等が提案されている。
【0008】
一方、前述の篩装置において、小麦挽砕工程で用いられる篩装置と小麦粉の仕上げ工程で用いられる篩装置とでは、その篩い分け対象物及び処理量に大きな違いがある。小麦粉挽砕工程で用いられる篩装置は、篩い分け対象物が、原料小麦粉砕物、セモリナ、小麦粉、フスマ等種々雑多のものであって、その処理量も幅広く平均的に約100〜175kg/h・m程度である。これに対し、小麦粉仕上げ工程で用いられる篩装置は、篩い分け対象物としては小麦粉を主としたものであって、これに必要により澱粉やグルテン粉末を混合したものであり、処理量も小麦挽砕工程の処理量よりも約1.5〜10倍程度多いものである。
【0009】
このため、従来の小麦粉の仕上げ工程では、仕上げ篩や再篩において、篩い分け対象物の小麦粉等の量を多くすると、篩に目詰まりが生じやすく、篩いきれない小麦粉等がオーバーしてしまい無駄が生じてしまうことがあり、かかる目詰まりを回避すべく篩い分け対象物の小麦粉等の処理量を減少せざるを得ず、結果として生産効率が下がるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3195490号公報
【特許文献2】特許第4176226号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「小麦粉−その原料と加工品」改訂第4版、平成19年2月28日発行、日本麦類研究会 第300頁、及び第441〜442頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、小麦粉等の食品粉体の仕上げ工程の仕上げ篩や再篩において、篩い分け対象物の小麦粉等の食品粉体の量を多くしても、篩に目詰まりを生じさせず、篩いきれない小麦粉等の食品粉体のオーバー量を最小限に抑えるための、小麦粉等の食品粉体の篩分け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究の結果、篩い分け処理量と篩網の材質とを特定することにより、厳しい条件が課される小麦粉の仕上げ工程での仕上げ篩や再篩の篩分けにおいて、篩に目詰まりを生じさせず、篩いきれない小麦粉等のオーバー量を最小限に抑えることができることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明に係る食品粉体の篩分け方法の主たる構成は、
小麦粉または澱粉の少なくとも1種からなる食品粉体を、以下の篩い分け条件(1)及び(2)を満たす方法により篩い分けすることを特徴とする。ここで、篩い分け条件(1)、(2)は、
条件(1):篩い分け処理量が、使用する篩網の単位面積(m)あたり200〜2000kg/h・mであること。
条件(2):前記篩網が、その表面または全体が樹脂からなる基材により構成され、該基材の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウムと、テトラメトキシシランからなるバインダー成分とを含有する微細凹凸層が固定化され、その固定化方法が、前記不飽和結合部と基材表面とがグラフト重合による化学結合により固定化されているものであること。
である。
【0015】
また、本発明に係る食品粉体の篩分け方法の第2の構成は、上記第1の構成において、前記条件(2)を満たす篩が、仕上げ篩または再篩であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、篩い分け処理量と篩網の材質を特定条件とすることにより、小麦粉等の食品粉体の仕上げ工程における仕上げ篩または再篩において、篩に目詰まりを生じさせず、篩いきれない小麦粉等のオーバー量を最小限に抑えることができ、歩留まりの向上を図ることが可能となる。また、篩い分け対象物の小麦粉等の処理量が多くても、篩網は耐久性に優れており、コスト的にも優位なものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態を説明する図であり、食品粉体の篩分け方法で用いられる篩装置の中枠の構成を示す斜視図である。
【図2】上記篩装置の外枠の構成を示す斜視図である。
【図3】上記篩装置の中枠と外枠を嵌合させる状態を説明するための斜視図である。
【図4】上記篩装置の篩枠の組み立て状態を示す斜視図である。
【図5】篩枠群内を、粗粉が蛇行しながら上から下へ移動する状態を示す図である。
【図6】上記篩装置の中枠に設けられた篩網の詳細な構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の食品粉体の篩分け方法について、一例として、特許文献2に記載の篩装置に適用させた場合について詳述する。なお、後述する実施例では、食品粉体として小麦粉や澱粉を混合した小麦粉を使用した場合について説明するが、本願発明はこれに限定されず、例えば澱粉やグルテン粉末などの他の食品粉体にも適用可能であり、さらには、小麦粉と前記澱粉やグルテン粉末などの他の食品粉体を混合した粉体についても適用することができる。
【0019】
まず、本実施形態の食品粉体の篩分け方法を実施するために、特許文献2に記載の篩装置(シフター)内に設けられる篩枠及び篩分けについて説明する。本実施形態では、外枠と中枠の組み合わせ構造とした篩枠が用いられる。以下、この篩枠の構造の概要を図1乃至図5に基づいて具体的に説明する。
【0020】
図1乃至図4に示される篩枠は、小麦粉等の食品粉体を篩上(粗粉や夾雑物等のオーバー部分)及び篩下(小麦粉製品等のスルー部分)の粉に篩い選別する篩網101を上面に張った矩形の中枠100(図1参照)を、この中枠の周囲三方に隣接して上下方向の縦通路を有する外枠200(図2参照)の中枠嵌合部に嵌合させる、組み合わせ形式の構造(図3参照)を有している。
【0021】
図1に示す中枠100は、矩形四辺状の枠体を構成する例えば木製角柱状の枠部材102〜105と、上記矩形四辺の内側に架設した補強用木製棒体106、107の上に所定の大きさの目開きの篩網101を張設した構成となっている。なお、図示されていないが、上記篩網101の下側には、篩網101と平行に粗い目のクリンプ網を張設し、これらの上下の網の間に、遊動するクリーナー、例えば半球突起を有する小さな三角平板状のクリーナーを介挿させて、篩装置の稼動時にこのクリーナーが網をたたいて篩網101の目詰まり防止を図るようになっている。
【0022】
図2に示す外枠200は、上記中枠100が矩形四辺の一辺の外側側壁210に偏って嵌合するように設けられた中枠嵌合部と、残りの三辺の内側に設けられた上下方向の縦通路201,202,202とを有するものであり、具体的には、上記中枠嵌合部を形成するために設けられた平行一対の内側側壁207,207と、この内側側壁207,207の下面に固着された3本の中枠嵌合台枠204,205,206と、上記内側側壁207,207の各外側にスルー部分落下用開口202,202を形成するように離隔して設けられた一対の外側側壁208,208と、上記中枠嵌合台枠206の外側に接して設けられた外側側壁210と、上記中枠嵌合台枠204の外側にオーバー部分落下用開口201を形成するように離隔して設けられた外側側壁209と、嵌合された中枠の篩網101を通過したスルー部分を上記左右のスルー部分落下用開口202,202に導くための底面として設けられた受板203とからなっている。
【0023】
なお、上述の内側側壁207,207は、適宜の位置で中間ブラケット213,213を介して外側側壁208,208に固着され、また、上記中枠嵌合台枠204は、同様に中間ブラケット215を介して外側側壁209に固着されている。また、214は、外枠内の空間不要部分を塞ぐと共に、構造強度を高めるためにその四隅に設けられた補強ブロックである。
【0024】
上述の受板203は、ステンレス製などの板で構成され、上記中枠嵌合台枠204,205,206の各下面にビス止めして固着されている。これにより、受板203の左右両端は内側側壁207,207下面との間で隙間を有することになり、この隙間が、受板203上に落下した微粉を左右のスルー部分落下開口202,202に落とし込むスリット状のスルー部分落し口217を形成する。なお、受板203は、底上げ状態で篩枠の上下方向の略中間位置に配置されており、これにより、篩枠が積層された際に、下側篩枠の篩網101上を粉体が移動するための空間を提供するようになっている。
【0025】
以上のように構成される中枠100と外枠200とを、前述の中枠嵌合台枠を介して一体的に組み立てることにより、一つの篩枠が得られる。そして、上述のように構成される篩枠の多数を、オーバー部分落下開口201の位置が1段ごとに順次反対側の位置(互い違い)になるように積層して(図4,図5参照)、篩装置の篩枠群が構成される。そして、ある段の篩網101上を移動した(流れた)粉体は、中枠の枠辺102の斜面102aからオーバー部分落下開口201に落下して、1段下の篩枠の篩網上に移る。また、篩網101を通過したスルー部分は受板203の上に落下し、左右のスリット状のスルー部分落し口217からスルー部分落下開口202,202内に落下していく。
【0026】
すなわち、前述のオーバー部分落下開口201は、積層された複数の篩枠によって他の空間からは区画された上下方向の開口を1段ごとに互い違いの位置に形成し、かつ篩網101と積層上段篩枠の受板203の下方に形成される空間は、内側側壁207,207下部によりスルー部分落下開口202,202から区画され、これらにより、全体として上から下に向かって水平方向に蛇行しながら連続するオーバー部分領域が形成されることになる。
【0027】
以上のように構成された多段積層の篩枠群を、水平面内で円運動を行わせながら最上段の篩枠の篩網の上に篩い分け対象物である小麦粉等の食品粉体を供給すると、オーバー部分は篩網101の上を移動しながらオーバー部分落下用開口201から次段の篩網101の上に落ち込み、次段では同様に篩網101の上を移動して反対側に位置するオーバー部分落下用開口201に至ってさらに次段の篩網の上に落ち込み、順次これを繰り返して蛇行しながら最下段の篩枠を経て系外に排出される(図5参照)。他方、各段の篩網101を通ったスルー部分は受板203上に落ち、左右のスリット状のスルー部分落下用開口217,217に落しこまれ、スルー部分回収系路に導かれる。
【0028】
次に、本発明を適用した食品粉体の篩分け方法における篩い分け条件について詳述する。本実施形態の食品粉体の篩分け方法は、篩い分け条件(1)として、「篩い分け処理量が、使用する篩網の単位面積(m)あたり200〜2000kg/h・mであること。」を要する。かかる値は、挽砕工程後の仕上げの工程における仕上げ篩及び再篩の適正な処理量の範囲を定めたものである。
【0029】
具体的には、小麦粉等の食品粉体の処理量が、使用する篩網の単位面積(m)あたり200kg/h・mに満たないと、従来の篩装置に比べて有意差が見られず、しかもコスト的な問題が過大となる。一方、小麦粉等の食品粉体の処理量が、使用する篩網の単位面積(m)あたり2000kg/h・mを超えると、小麦粉等の食品粉体を処理(篩分け)しきれずに、本来製品となる部分がOV(オーバー)となり廃棄されてしまうことになる。
【0030】
また、本実施形態の食品粉体の篩分け方法は、篩い分け条件(2)として、使用される篩網が、「その表面または全体が樹脂からなる基材により構成され、該基材の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウムと、テトラメトキシシランからなるバインダー成分を含有する微細凹凸層が固定化され、その固定化方法が、前記不飽和結合部と基材表面とがグラフト重合による化学結合により固定化されているものであること」を要する。
【0031】
以下、篩い分け条件(2)を満たす篩網について詳細に説明する。
【0032】
本実施形態の篩網101の本体部を構成する基材1の形態としては、織物、編物、金網、パンチングシート、樹脂成形メッシュなど、食品粉体が通過できる細孔が形成されているものなら特に限定されないが、本実施形態による微細な凹凸に加え、糸の屈曲により基材自身にも凹凸が形成されるので、篩効率のさらなる向上が見込まれる織物が好適に用いられる。このときの糸の線径、ならびにオープニングエリア(篩網を平面視したときの、篩網を構成する経糸、緯糸各1ピッチ内における開口部の面積の総和の面積が篩網全体の面積中で占める割合のこと)、織り組織については食品粉体の性質や粒径、使用環境により適宜決められる。
【0033】
本実施形態の基材1としては、基材1の表面と、酸化ジルコニウム微粒子2を被覆しているシランモノマー3とが、化学結合5を形成可能なものであればよい。このような基材1としては、少なくとも基材1の表面が、例えば、各種樹脂や、合成繊維や、綿、麻、絹等の天然繊維や、天然繊維から得られた和紙などにより構成されたものが挙げられる。
【0034】
具体的には、基材1の表面または全体を樹脂により構成する場合は、合成樹脂や天然樹脂が用いられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFEなどの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などの天然樹脂などが挙げられる。
【0035】
また、基材1がアルミニウムやステンレス、鉄などの金属材料、ガラスおよびセラミックスなどの無機材料である場合でも、樹脂基材の場合と同様、例えば後述するグラフト重合によりシランモノマー3の不飽和結合部や反応性官能基と、金属表面の水酸基等とを反応させて化学結合5を形成することにより、金属の基材1上に酸化ジルコニウム微粒子2を固定できるが、基材1表面に化学結合5が可能な官能基を、シランモノマーやチタンモノマー等で導入することで、さらに酸化ジルコニウム微粒子2を強固に固定することができる。
【0036】
基材1の表面に導入されるシランモノマー由来の官能基の具体例としては、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリロ基、アクリロキシ基、イソシアネート基およびチオール基などが挙げられる。
【0037】
本実施形態の酸化ジルコニウム微粒子2の最表面には、不飽和結合部を有するシランモノマー3が、不飽和結合部を酸化ジルコニウム微粒子2の外側に向けて配向して結合して被膜を形成している。シランモノマー3の片末端であるシラノール基は親水性であるため、親水性である酸化ジルコニウム微粒子2の表面に引きつけられる。一方、逆末端の不飽和結合部は疎水性であるため、酸化ジルコニウム微粒子2の表面からは離れようとする。このため、シラノール基は酸化ジルコニウム微粒子2の表面に脱水縮合により結合し、不飽和結合部を外側に向けて配向する。その方法としては、シランモノマー3を、酸化ジルコニウム微粒子2が有機溶剤に分散した溶液に加えて、粉砕・分散処理により微粒子化し、上記分散溶液を固液分離した後、加熱してシランモノマー3を酸化ジルコニウム微粒子2の表面に結合させる方法や、固液分離させずに分散液を還流下で加熱処理することにより、シランモノマー3を酸化ジルコニウム微粒子2の表面に結合させる方法などがある。
【0038】
なお、酸化ジルコニウム微粒子2の径、及びその他上記各種材料の微粒子径については本実施形態の方法によって作成すれば特に限定されないが、後述するグラフト重合を好適に行うには、平均粒子径が300nm以下とすることが好ましく、さらに平均の粒子径が100nm以下であれば、基材1へのより強固な結合が達成されるため、耐久性の点より一層好適である。
【0039】
本実施形態の篩網101に用いられる酸化ジルコニウム微粒子2としては、非金属酸化物、金属酸化物、金属複合酸化物など種々の物質が考えられたが、本発明者らが鋭意研究を行った結果、小麦粉の仕上げ工程で用いる篩装置用としては、金属酸化物の内の酸化ジルコニウムが、耐久性の面で最も良好な結果を示すことを見出した。従って、後述の実施例では、酸化ジルコニウム微粒子を用いて作った篩を使用した例について説明する。
【0040】
本実施形態の篩網101は、酸化ジルコニウム微粒子2を含む微細凹凸層10を、不飽和結合部を有するシランモノマー3により、上述した基材1上に化学結合5(図中の黒丸部)により固定するものである。
【0041】
具体的なシランモノマー3が有する不飽和結合部としては、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基などが挙げられる。
【0042】
本実施形態の篩網101は、反応性に優れたシランモノマー3を用いることで、酸化ジルコニウム微粒子2を、シランモノマー3が有するシラノール基の脱水縮合反応による酸化ジルコニウム微粒子2の化学結合と上記官能基の基材1の樹脂表面への、後述するグラフト重合による化学結合5により、基材1の表面に結合せしめた篩網である。
【0043】
本実施形態の篩網101で用いられるシランモノマー3の一例としては、ビニルトリメトキシシランや、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
これらのシランモノマー3は、一種もしくは二種以上混合して用いられる。その使用形態としては、必要量のシランモノマー3をメタノールやエタノールや、アセトンや、トルエンや、キシレンなどの有機溶剤に溶解して用いられる。また、分散性を改善するために塩酸や、硝酸などの鉱酸などが加えられる。
【0045】
さらに、酸化ジルコニウム微粒子2からなる微細凹凸層10が厚くなると、微細凹凸層10の応力や使用環境によっては凝集破壊により微細凹凸層10が劣化することもあるので、シランモノマー3で酸化ジルコニウム微粒子2を被覆した後、バインダー成分4を添加する。バインダー成分4としては、不飽和結合部を有するシランモノマーや、Si(OR1)4(式中、R1は炭素数1〜4のアルキル基を示す)で示されるアルコキシラン化合物、一例として、テトラメトキシシランや、テトラエトキシシランなどや、R2nSi(OR3)4−n(式中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基、R3は炭素数1〜4のアルキル基、nは1〜3の整数を示す)で示されるアルコキシシラン化合物、一例として、メチルトリルメトキシシランや、メチルトリエトキシシランや、ジメチルジエトキシシランや、フェニルトリエトキシシランや、ヘキサメチルジシラザンや、ヘキシルトリメトキシシランなど、他にアルコキシオリゴマーなどが用いられる。バインダー成分4は一種類で用いてもよく、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0046】
ここでバインダー成分4は、シランモノマー3で被覆した酸化ジルコニウム微粒子2同士および酸化ジルコニウム微粒子2と基材1とを相互に結合し、微細凹凸層10が凝集破壊等により劣化し、剥離することを抑制するために添加するものである。バインダー成分4は、酸化ジルコニウム微粒子2を被覆しているシランモノマー3の反応性基と化学的に結合しうる反応サイトとして、ビニル基や、エポキシ基や、スチリル基や、メタクリロ基や、アクリロキシ基や、イソシアネート基等の不飽和基やアルコキシ基を分子の構成要素として保有することが望ましい。
【0047】
バインダー成分4は、酸化ジルコニウム微粒子2に対して1質量%以上添加すればよく、その添加量が多いほど、微細凹凸層10は強固な層を形成可能で、耐久性の向上も期待できる。しかしながら、バインダー成分4が多くなると、酸化ジルコニウム微粒子2の表面を被覆する割合が大きくなることにより表面が帯電しやすくなり、粉体が付着しやすくなるため、篩抜け性が低下する。特に、基材1上に形成されたシランモノマー3で被覆された酸化ジルコニウム微粒子2からなる微細凹凸形状10に含まれるバインダー成分4が、酸化ジルコニウム微粒子2に対して40質量%より多くなると、粉体の付着による篩抜け性の低下は顕著になる。したがって、篩抜け性を保持しつつ耐久性の向上が達成できる範囲としては、1質量%以上40質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上20質量%以下である。
【0048】
篩網101表面の凹凸状態によって篩抜け性は影響され、微細な凹凸であるほど篩抜け性は良好となる。バインダー成分4は、シランモノマー3で被覆した酸化ジルコニウム微粒子2同士及び酸化ジルコニウム微粒子2と基材1とを強力に結合するとともに、バインダー成分4の種類や被膜の形成方法によっては、篩網101の表面の凹凸状態を微細化する効果を持たせることも出来る。
【0049】
特に小麦粉等の食品粉体の場合、篩網101の表面の凹凸が微細であれば、篩網101の表面と粉体とが接触する面積が少なくなり、また接触した場合でも脱離することが容易となることにより粉の付着抑制が良好となる。篩網101の表面状態は、微細凹凸層10が含む粉体の粒径により適宜、調整されるが、算術平均粗さRaが5nm以上100nm以下、好ましくは5nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上20nm以下であればよい。
【0050】
本実施形態においては、基材1と、表面にシランモノマー3が結合した酸化ジルコニウム微粒子2とバインダー成分4の混合した溶液とを化学結合5させる方法として、グラフト重合による結合方法が用いられている。かかるグラフト重合としては、例えば、放射線(γ線、電子線、紫外線など)によるグラフト重合(放射線グラフト重合)などが挙げられる。
【0051】
さらに、本実施の形態における好適な篩の種類としては、小麦粉等の食品粉体の仕上げ工程の仕上げ篩あるいは再篩が適用される。
【0052】
さらに、本実施の形態において、再篩には、上述した小麦粉等の食品粉体の仕上げ工程の仕上げ篩あるいは再篩の他にも、所謂「袋ものの切り込み再篩」と称されるものも含まれる。ここで、袋ものの切り込み再篩とは、一旦大袋(例えば25kg入り)に充填した小麦粉等の食品粉体を他の同種又は異種の食品粉体と混合する場合に、かかる大袋を切り裂いて食品粉体を粉タンクに戻して混合するが、かかる粉タンクに戻す前に、混入物を除去するために篩分けするための篩のことをいう。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
本発明方法による下記実施例1〜7では、本発明による上述した実施形態の篩網を使用して小麦粉の篩分けを行い、比較例1では、通常の篩網を使用して小麦粉の篩分けを行った。また、比較例2では、酸化ジルコニウム微粒子の代わりに二酸化チタン微粒子を用いた以外は本発明の実施形態の篩網と同様にして得られた篩網を使用した。
なお、以下の各実施例及び比較例では、面積が0.483*0.431=0.222663(m)で目開きが180μの篩を複数の区及び段数に設定される篩装置(シフター)を用いて、小麦粉を、仕上げ篩、再篩、または袋ものの切り込み再篩(適宜、「再篩(開袋)」とも称する。)のいずれかの区域で篩分けした例について説明する。
【0055】
〔実施例1及び2〕
仕上げ篩の区域において、篩分け対象として小麦粉(中力2等粉)を用い、本発明による篩網を26枚(2区×13段)用いて、実施例1が310.9kg/(h・m)、実施例2が371.0kg/(h・m)の流量でそれぞれ篩分けを行った。結果は、いずれも小麦粉(中力2等粉)の残分や篩の目詰まりが発生すること無く、極めて良好な結果が得られた。
【0056】
〔実施例3〕
再篩の区域において、篩分け対象として小麦粉(中力1等粉)を用い、本発明による篩網を80枚(8区×10段)用いて324.9kg/(h・m)の流量で篩分けを行った。結果は、小麦粉(中力1等粉)の約2.8%が残分(オーバー率)となったが、残分としては十分許容範囲内であり、良好な結果が得られた。
【0057】
〔実施例4〕
再篩の区域において、篩分け対象として小麦粉(薄力1等粉)を用い、本発明による篩網を80枚(8区×10段)用いて1543.8kg/(h・m)の流量で篩分けを行った。結果は、小麦粉(薄力1等粉)の残分や篩の目詰まりが発生すること無く、極めて良好な結果が得られた。
【0058】
〔実施例5〕
袋ものの切り込み再篩(「再篩(開袋)」)の区域において、篩分け対象として小麦粉(中力2等粉)を用い、本発明による篩網を48枚(4区×12段)用いて701.7kg/(h・m)の流量で篩分けを行った。結果は、小麦粉(中力2等粉)の残分や篩の目詰まりが発生すること無く、極めて良好な結果が得られた。
【0059】
〔実施例6〕
袋ものの切り込み再篩(「再篩(開袋)」)の区域において、篩分け対象として小麦粉(澱粉混合品)を用い、本発明による篩網を48枚(4区×12段)用いて842.1kg/(h・m)の流量で篩分けを行った。結果は、小麦粉(澱粉混合品)の残分や篩の目詰まりが発生すること無く、極めて良好な結果が得られた。
【0060】
〔実施例7〕
再篩の区域において、篩分け対象として小麦粉(中力1等粉)を用い、本発明による篩網を80枚(8区×10段)用いて314.4kg/(h・m)の流量で篩分けを行った。結果は、小麦粉(中力1等粉)の約2.8%が残分(すなわちオーバー率が約2.8%)となったが、残分としては十分許容範囲内であり、良好な結果が得られた。
【0061】
〔比較例1〕
実施例7と比較するために、実施例7と同一の再篩の区域において、篩分け対象も同一の小麦粉(中力1等粉)とし、篩網枚数も同一の80枚(8区×10段)で篩分けを行った。但し、篩網を通常用いているもの(酸化ジルコニウム等が固定化されていないもの)とし、篩分け時の流量を実施例7よりもやや緩やかな条件である269.5kg/(h・m)とした。結果は、流量をやや緩やかにしたにもかかわらず、比較例1では小麦粉(中力1等粉)の約9.9%が残存量となり、処理(篩分け)しきれないで廃棄対象となるOV(オーバー)率が多くなり、篩の目詰まりも多く発生し、不良の結果となった。
【0062】
〔比較例2〕
実施例1と比較するために、実施例1と同一の仕上げ篩の区域において、篩分け対象も同一の小麦粉(中力2等粉)とし、篩網枚数も同一の26枚(2区×13段)で篩分けを行った。その結果、実施例1の篩装置は3ヶ月間使用しても篩の目詰まりを起こさず、良好な篩い分け結果を継続できたのに対し、比較例2の篩装置は約1ヶ月間程で篩の目詰まりを起こしはじめ、OV(オーバー)率が増えてきた。
【0063】
以上説明した実施例1〜7及び比較例1の篩分け条件及び結果を表1に示す。なお、表中の「OV率」とは、オーバー率を示し、篩分け対象となった食品粉体の篩分けされずに篩上に残った残分を表す。また、評価としては、OV率が0%が極めて良好(◎)、0%超〜3%の範囲が良好(○)、3%超〜5%の範囲がやや不良(△)、5%超が不良(×)とした。
【0064】
【表1】




【0065】
以上の結果から分かるように、本発明を適用した各実施例によれば、小麦粉の仕上げ工程における仕上げ篩、再篩または再篩(開袋)において、篩に目詰まりを生じさせず、篩いきれない小麦粉等の食品粉体のオーバー量を最小限に抑えることができ、歩留まりの向上を図ることが可能となることがわかる。また、篩い分け対象物の小麦粉等の食品粉体の処理量が多くても、篩網は耐久性に優れており、コスト的にも優位なものであることがわかる。
【符号の説明】
【0066】
101 篩網
1 基材
2 酸化ジルコニウム微粒子
3 シランモノマー
4 バインダー成分
5 化学結合
10 微細凹凸層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉または澱粉の少なくとも1種からなる食品粉体を、以下の篩い分け条件(1)及び(2)を満たす方法により篩い分けすることを特徴とする食品粉体の篩分け方法。
(1)篩い分け処理量が、使用する篩網の単位面積(m)あたり200〜2000kg/h・mであること。
(2)前記篩網が、その表面または全体が樹脂からなる基材により構成され、該基材の表面に、不飽和結合部を有するシランモノマーで被覆された酸化ジルコニウムと、テトラメトキシシランからなるバインダー成分とを含有する微細凹凸層が固定化され、その固定化方法が、前記不飽和結合部と基材表面とがグラフト重合による化学結合により固定化されているものであること。
【請求項2】
前記条件(2)を満たす篩が、仕上げ篩または再篩であることを特徴とする請求項1の食品粉体の篩分け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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