説明

食品食器用洗剤

【目的】人体等に安全であると共に肌荒れ等の皮膚刺激性を抑制した食品食器用洗剤を提供することである。
【構成】20mass%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる界面活性剤を主要組成とする。界面活性剤以外の補助組成物として、pHを6.0〜8.0の中性領域に調整するpH調整剤が含有され、その他の補助組成物を含む全成分が食品添加物及び/又は飲用品から構成されている。更に、洗剤組成がドレイズ(Draize)法による皮膚刺激インデックス(P.I.I.)が1.0以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台所用洗剤等の家庭用あるいは業務用の食品食器用洗剤に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、台所用洗剤は、昭和30年代半ば頃に登場したが、当時は食器洗いと共に野菜や果物も洗えることが重要なポイントであった。当時の厚生省からは、野菜や果物を洗剤で洗い、回虫の卵や農薬を洗い流すよう通達が各都道府県に出されていた。最近に至っては、食に対する安全性が重要視されており、特に、輸入野菜の残留農薬が不安視される一方、野菜等を洗うにしても、洗剤残りを心配する使用者も増えている。従って、現在、台所用洗剤等の食品食器用洗剤には、野菜等を安心して洗える無害性が重要であると共に、荒れ性や湿疹の原因となる刺激性が少ないことも極めて重要となっている。
【0003】
一般に、家庭用洗剤は、界面活性剤と、その補助的成分からなる。補助的成分には洗剤の用途に応じて、キレート剤、pH調整剤等がある。界面活性剤としては、特開昭50−39707号公報(特許文献1)及び特開平8−56631号公報(特許文献2)等に示されているように、ショ糖脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等が安全性と除菌性に優れているが知られている。特に、特開2007−297382号公報(特許文献3)に示されているように、洗剤に添加される界面活性剤には皮膚に対する刺激性があるものが多いことが知られている。しかしながら、その洗浄力は、食器洗いに供するには著しく弱く、使用者に不満が生じているのが現状である。
【特許文献1】特開昭50−39707号公報
【特許文献2】特開平8−56631号公報
【特許文献3】特開2007−297382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗剤の主成分である界面活性剤は、種類によっては長時間使用すると、皮膚に対する刺激性が強く、肌荒れなどを引き起こす。これは界面活性作用が強いほど起こりやすい。従って、界面活性剤を使用するハンドソープ、食器用洗剤やシャンプーにおいて、使用中に使用者の皮膚に触れて誘起される刺激反応が問題となっていた。
【0005】
従って、本発明の目的は、人体等に安全であると共に肌荒れ等の皮膚刺激性を抑制し、且つ洗浄力を有した食品食器用洗剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み、各種洗剤成分の組成を鋭意検討した結果、安全性を有し、かつ皮膚刺激性を抑制し、食品食器の洗浄力も不満のない食品食器用洗剤を得ることに成功した。
本発明の第1の形態は、20mass%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる界面活性剤と、pHを6.0〜8.0の中性領域に調整するpH調整剤を少なくとも含有し、全成分が食品添加物及び/又は飲用品から構成され、ドレイズ法による皮膚刺激インデックス(P.I.I.)が1.0以下である食品食器用洗剤である。ここで、皮膚刺激インデックス(P.I.I.:Primary irritation index)は化学品の皮膚障害の度合いを表す指数であり、P.I.I.値が1.0以下であることは低刺激性を表す。
【0007】
本発明の第2の形態は、前記第1の形態において、蛋白質変性試験による蛋白変性率が2以下である食品食器用洗剤である。
【0008】
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB(Hydrophile−Lipophile Balance:親水親油平衡)値が10〜16の値である食品食器用洗剤である。ここで、HLBは親水基と親油基の平衡を示す指標値である。
【0009】
本発明の第4の形態は、前記第1、第2又は第3の形態において、前記飲用品は、精製飲用水及び/又は醸造アルコールである食品食器用洗剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の形態において、20mass%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる界面活性剤を主要組成とする。ポリグリセリン脂肪酸エステルは、食品添加物としてのグレードが高く許可されている、安全性の高い界面活性剤であり、特に、酸化に対して安定しており、かつpHによる経時変化が極めて少ない。また、他の界面活性剤、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステル等と比べて耐熱性が優れている利点を有する。また、界面活性剤以外の補助組成物として、pHを6.0〜8.0の中性領域に調整するpH調整剤が含有されているので、食品衛生法上、野菜等の食品の洗浄に供することができる。更に、その他の補助組成物を含む全成分が食品添加物及び/又は飲用品から構成されているので、極めて高い安全性を有し、しかも生分解性も有して環境に優しい性質を具備する。殊に、前記pH調整剤により中性化されているうえに、本形態に係る食品食器用洗剤は、ドレイズ(Draize)法による皮膚刺激インデックス(P.I.I.)が1.0以下であるので、皮膚刺激性が少なく、肌にマイルドな組成特性を有する。
【0011】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下の構造式(1)を有する。


R−C−O−〔CH−CH−CH−O〕−H ・・・(1)

OH
本発明においては、脂肪酸のアルキル基Rが炭素数6〜22、望ましくは8〜14で、ポリグリセリンの重合度nが2〜14、望ましくは8〜12のポリグリセリン脂肪酸エステルを使用することができる。
【0012】
本発明における前記pH調整剤には、酸性剤として、クエン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、dl−リンゴ酸、フマル酸等を、また、アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウム(クエン酸三ナトリウム)、アスコルビン酸ナトリウム等を使用することができる。
【0013】
前記pH調整剤以外の前記補助組成物には、食品添加物である、安定化剤、キレート剤、増粘剤、保存剤(防腐剤)等があり、洗剤用途等に応じて混合使用することができる。食品添加物として適用可能なものとして、例えば、安定化剤には手肌の保護に好適なグリセリン、プロピレングリコール等、キレート剤にはクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸など、増粘剤にはキサンタンガム、アルギン酸ナトリウム等、保存剤にはエチルアルコール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸などを使用することができる。
【0014】
本発明の第2の形態に係る食品食器用洗剤の組成は、蛋白質変性試験による蛋白変性率が2以下であるので、蛋白変性が抑制され、肌荒れ等の皮膚疾患を生じない、肌に優しい性質を具備する。
【0015】
界面活性剤は、一般に知られているように、親水基と親油基で構成されており、2つの極性の基を持つことにより、油も水も吸着することができる性質を有する。界面活性剤が親水基を外側に、油汚れがついた親油基を内側にしてミセル(集合体)を作る。このミセルは中心部が疎水性で油になじむ性質を備え、水に溶けにくい油性物質をミセル内部に取り込むことができ、界面活性剤の洗剤作用を働かす。界面活性剤の親水基と親油基のバランスを示すのが前記HLB値(0〜20)であり、その値は以下の式で計算される。
HLB=7+Σ(親水基の個数)−Σ(親油基の個数)
このHLB値によれば、水性のものは20、最も親油のものは1となる。
前記第3の形態に係る洗剤組成によれば、前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が10〜16の値(好ましくは、12〜14)であるので、親油性を抑えて油汚れの洗浄力に優れた界面活性剤からなる洗剤を実現することができる。
【0016】
本発明では、洗剤用溶剤として水又はアルコールを使用する場合、手肌に優しく、安全性が極めて高い水やアルコールを使用することが要請される。そこで、本発明の第4の形態によれば、精製飲用水及び/又は醸造アルコールを前記飲用品に使用するので、安全な食品食器用洗剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態に係る食品食器用洗剤を図面を参照して以下に説明する。
【0018】
本実施形態の食品食器用洗剤の一実施例として、以下の組成に係る洗剤を示す。
(実施例)
ポリグリセリン脂肪酸エステル(界面活性剤) 30mass%
エチルアルコール(保存・防腐剤) 5mass%
グリセリン(安定化剤) 5mass%
クエン酸三ナトリウム(pH調整剤) 0.5mass%
精製水 59.5mass%
【0019】
洗浄成分として含有するポリグリセリン脂肪酸エステルは、前記構造式のうち、炭素数が12、ポリグリセリン重合度nが10の場合である。従って、この含有エステルのHLB値は12.5である。グリセリン脂肪酸エステル(重合度nが1)はHLB値が約2になるが、親油性が大きすぎて洗浄力は低いが、本実施例ではHLB値が12.5のポリグリセリン脂肪酸エステルを界面活性剤として30mass%含有するので、食器等の油汚れを難なく落とすことのできる洗浄力を備える。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、食品添加物としてのグレードが高く許可されている、安全性の高い界面活性剤であり、特に、酸化に対して安定しており、かつpHによる経時変化が極めて少なく、更に、他の界面活性剤、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやソルビタン脂肪酸エステル等と比べて耐熱性が優れている利点を有する。この洗剤は、界面活性剤以外の補助組成物であるグリセリン、クエン酸三ナトリウムも食品添加物であり、更に醸造エチルアルコールまた精製水から構成されているので、極めて高い安全性を有し、しかも生分解性も有して環境に優しい性質を具備する。pH調整剤のクエン酸三ナトリウムにより、pHを6.0〜8.0の中性領域に調整しており、肌に優しい性質を備える。
【0020】
上記実施例の洗剤の洗浄力及び皮膚刺激性を調べるために、以下の比較例を用いた。
(比較例1)
ショ糖エステル (界面活性剤) 30mass%
エチルアルコール(保存・防腐剤) 5mass%
グリセリン(安定化剤) 5mass%
クエン酸三ナトリウム(pH調整剤) 0.5mass%
精製水 59.5mass%
比較例1は、界面活性剤としてショ糖エステルを使用した場合であり、各組成の配合比率は上記実施例と同じである。
【0021】
(比較例2)
アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム (界面活性剤) 30mass%
エチルアルコール(保存・防腐剤) 5mass%
グリセリン(安定化剤) 5mass%
クエン酸三ナトリウム(pH調整剤) 0.5mass%
精製水 59.5mass%
比較例2は、界面活性剤としてアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムを使用した場合であり、各組成の配合比率は上記実施例と同じである。
【0022】
(比較例3)
ポリオキシアルエーテル(界面活性剤) 20mass%
アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム (界面活性剤) 18mass%
アルキルアミンオキシド(界面活性剤) 5mass%
アルコール(保存・防腐剤) 1mass%
安息香酸ナトリウム(pH調整剤) 0.5mass%
精製水 56.5mass%
比較例3は、界面活性剤としてポリオキシアルエーテルとアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムとアルキルアミンオキシドの混合物を合計43mass%含有させた場合であり、各補助組成物の種別ないし配合比率は上記実施例と異なる。比較例2及び3は、市販の洗剤の組成と同等あるいは近似したものである。
【0023】
図1は本実施例と上記3種類の比較例1〜3に対して行った性能試験の比較結果を示す。
性能試験は、皮膚刺激インデックス(P.I.I.)及び洗浄力について行い、前者のP.I.I.はDraize法(ドレイズ法と云う)に基づき求め、後者の洗浄力については、皿洗い試験とリーナツ法による洗浄力試験を行った。
【0024】
皿洗い試験は、直径20cmの皿に食用油1gを均一に塗布したものを被洗浄物として洗浄して行う。水に浸したスポンジに各洗剤液を1cc垂らして5回揉んで泡立てた後、被洗浄物の洗浄を行い、被洗浄物が洗えなくなるまでの枚数を測定し、その枚数値で洗浄力を比較する。
図1の皿洗い試験結果によれば、比較例1は他の洗剤と比較して半分程度の枚数を洗浄するにとどまっており、洗浄力が劣ることがわかる。本実施例の洗剤は、皿洗い試験に関し、他の市販品(比較例2,3)と同程度の洗浄枚数(16枚)を示している。
【0025】
リーナツ法による洗浄力試験は、JIS規格(K3362 9.2)に準拠した洗浄力評価試験に基づいて行った。JIS規格では5段階評価(洗浄力判定用指標洗剤との比較)であるが、より詳しく差異を知るために洗浄効率(汚垢の除去率)を求めた。
図1のリーナツ法による試験結果によれば、本実施例の洗剤は、他の市販品(比較例2,3)と同程度の洗浄効率(80%)を示している。
上記の皿洗い試験及びリーナツ法による洗浄力試験から、本実施例の洗剤は、市販品と同程度あるいはそれ以上の洗浄力を有することがわかる。
【0026】
Draize法に基づく皮膚刺激インデックス(P.I.I.)試験は以下の方法によって行った。Draize法の詳細は、文献(Draize J.H.,Woodard,G.and Calvery,H.O.(1944):Methods for the study of irritation and Toxicity of substances applied topically to the skin and mucous membrances. J.Pharmacol Exp.Ther.,82:377−390)に示されている。
本実施形態におけるP.I.I.試験は、台所用洗剤の安全性評価の一環として、OECDガイドライン(短期毒性404)に準拠して、ウサギによる皮膚一次刺激性試験により行われた。
【0027】
被験物質の貼付は、3匹のウサギの背部に行い、貼付面積はDraize法に従い6.25cm(2.5×2.5cm)とし、貼付時間はOECDガイドラインに従い4時間単回半閉塞貼付とする。
皮膚の観察は、被験物質を取り除いた1、24、48及び72時間後における貼付部位の反応を下記の基準に従って観察し、評点を求める。除去72時間においても反応が認められている場合には、反応が消失するまで観察し、最長除去14日後まで毎日観察する。その間に全例において皮膚反応の消失が認められればその日をもって実験終了とする。
【0028】
(皮膚反応の判定基準:Draize法)
A.虹斑と痂皮形成 評点
虹斑なし ・・・・・・・・・・ 0
ごく軽度の虹斑(やっと認められる程度)・・・・・・・・・・ 1
明らかな虹斑 ・・・・・・・・・・ 2
中等度から強度の虹斑 ・・・・・・・・・・ 3
深虹色の強い虹斑から軽い痂皮形成(障害は深部に)・・・・・ 4
B.浮腫形成 評点
浮腫なし ・・・・・・・・・・ 0
ごく軽度の浮腫(やっと認められる程度)・・・・・・・・・・ 1
軽度の浮腫(周囲と明らかに区別可能) ・・・・・・・・・・ 2
中等度の浮腫(1mm程盛り上がっている)・・・・・・・・・ 3
強い浮腫(1mm以上盛り上がり、周囲に広がる)・・・・・・ 4
【0029】
一次刺激性インデックスP.I.I.の算出は下記の評点(a,b,c,d)に基づき、PII=(a+b+c+d)/2から求める。
虹斑と痂皮形成 浮腫形成
健常皮膚 健常皮膚
判定時間(hr) 1 48 1 48
評点 a b c d
被験物質の皮膚刺激性は個体平均値(平均P.I.I.)を算出して、下記の安全性区分により評価する。
安全性区分 平均P.I.I.値
無刺激物 0
弱い刺激物 0<P.I.I.<2
中等度の刺激物 2≦P.I.I.<5
強い刺激物 ≧5
【0030】
上記の皮膚刺激インデックス(P.I.I.)試験によるP.I.I.の測定結果は図1に示すように、本実施例の洗剤が0.5で、比較例1〜3はすべて1.2以上であった。このP.I.I.の比較から、本実施例の洗剤は皮膚刺激性が比較例と比べて極めて弱いことがわかる。
【0031】
以上の性能試験の結果を総合判定すると、本実施例は、食器洗いに十分な洗浄力を備え、かつ全ての組成が食品添加物からなり、野菜や果物を安心して洗える台所用洗剤に好適である。しかも、中性のpHに調整され、かつP.I.I.が0.5で手肌に対する刺激性が殆どないマイルドな組成となっており、人体等に安全であると共に肌荒れ等の皮膚刺激性を抑制した食品食器用洗剤を得ることができる。
【0032】
図2は界面活性剤の添加量と洗剤全体のP.I.I.の変化を測定した結果を示す。上記実施例の組成割合に対して、ポリグリセリン脂肪酸エステルを10〜35mass%の間で5mass%ずつ変化させた実験によれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルを20mass%以上配合すれば、P.I.I.値が1.0以下になることがわかった。従って、安全かつ皮膚刺激性の弱い洗剤組成としては、上記組成物の組み合わせにおいて、20mass%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを配合するのが好ましい。
【0033】
本実施例に係る洗剤につき、蛋白変性による肌荒れ等の影響を蛋白質変性試験を行って検証した。蛋白質変性試験は、宮澤らの方法(日本化粧品技術者会誌:18(2),96−105(1984))に準拠して行った。この蛋白質変性試験においては、試験物質溶液として、1/15MのKHPO・NaHPO緩衝液(pH7)を適宜希釈して用いた。この緩衝液により、卵白アルブミン(OVA:Albumin Chickin egg GradeIII(Sigma Chem.Co.製))の濃度が0.025%(M/V)となるように蛋白質溶液を調製した。この蛋白質溶液と各濃度の試験物質溶液を9:1の割合で混合した後、37℃の水浴中(恒温槽)で、混合直後を0時間として、24時間インキュベーションした。
【0034】
蛋白変性率の測定はHPLC(High Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィー)分析によって行った。HPLC分析には、日立製D−7000形HPLC分析装置と、カラム(TOSHO/TSK G3000SWXL)を使用し、測定条件は、0.15MのNaSO・KHPO・NaHPO緩衝液(pH7)を移動相とし、1.0ml/minの流速で、検出波長を220nm、インジェクション量を25μlとし、カラム温度は室温である。
【0035】
データ解析は、以下の式により蛋白変性率を算出して行った。
蛋白変性率(%)=((H0−Ht)/H0)×100
H0:緩衝液添加の蛋白質のピーク高さ
Ht:試験物質添加の蛋白質のピーク高さ
【0036】
図3は上記実施例及び比較例に対して蛋白質変性試験によって得られた蛋白変性率を示す。比較例1〜3の蛋白変性率が2.9、50.6、15.5であり、本実施例の場合は、蛋白変性率が1.0であり、肌荒れ等の皮膚疾患を生じない値が得られた。
【0037】
図4は、蛋白変性率の高いLAS(ドデセン1−LAS)を、実施例のポリグリセリン脂肪酸エステルの替わりに5mass%配合した処方に、随時、ポリグリセリン脂肪酸エステル(PGEとも表記する)を5mass%ずつ増加(5〜35mass%)させた場合の実験結果である。このように、ポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することで刺激性のある活性剤効果を低減する作用もある。
【0038】
各種界面活性剤についても上記蛋白質変性試験により蛋白変性率を調べた。図5は各種界面活性剤の比較測定結果を示す。この蛋白質変性試験においては、測定対象の各種界面活性剤の使用濃度(0.5%)の蒸留水希釈溶液1に対して上記蛋白質溶液を9の割合で混合したものを試験溶液とした。図5の横軸において、No.1〜10は、それぞれ、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム・1水和物、SDS(n−ドデシル硫酸ナトリウム)、LAS、AES、ラウリン酸ナトリウム、N−アシルアミノ酸塩、アルカノールアミド、高級アルコール系EO付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステルに対応する。図5に示すように、各種界面活性剤の中でもポリグリセリン脂肪酸エステルは蛋白変性率が1.0以下であることがわかる。
【0039】
次に、蛋白変性率については、市販品の洗剤との比較測定を各種行った。
図6は、市販品の台所用洗剤との比較測定結果を示す。この蛋白変性試験においては、測定対象の各種台所用洗剤の使用濃度溶液1に対して上記蛋白質溶液を9の割合で混合したものを試験溶液とした。図6の横軸において、No.1〜6は市販品の各種台所用洗剤に対応し、No.7〜8は本実施例に対応する。No.1〜5はコンパクト型(濃縮)洗剤であり、洗剤濃度は、0.75ml/L、No.6は石鹸系洗剤であり、その洗剤濃度は5ml/Lである。No.7〜8の洗剤濃度は、それぞれ、0.75ml/L、1.5ml/Lである。本実施例に対応するNo.7〜8の蛋白変性率はいずれも1.0以下であり、市販品よりも、蛋白変性による肌荒れ等の影響がより少ないことが分かった。
【0040】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、使用者の手肌等の皮膚を荒らさず、かつ安全性の高い食品食器用洗剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明を適用した一実施例と比較例1〜3との性能実験の比較結果を示す表である。
【図2】界面活性剤の添加量と洗剤全体のPIIの変化を測定した結果を示すグラフである。
【図3】前記実施例と比較例1〜3の各蛋白変性率を示す表である。
【図4】本発明に係るポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量と蛋白変性率の変化を測定した結果を示す図である。
【図5】各種界面活性剤の各蛋白変性率を示す図である。
【図6】本実施例及び市販品の台所用洗剤の蛋白変性率測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20mass%以上のポリグリセリン脂肪酸エステルからなる界面活性剤と、pHを6.0〜8.0の中性領域に調整するpH調整剤を少なくとも含有し、全成分が食品添加物及び/又は飲用品から構成され、ドレイズ法による皮膚刺激インデックス(P.I.I.)が1.0以下であることを特徴とする食品食器用洗剤。
【請求項2】
蛋白質変性試験による蛋白変性率が2以下である請求項1に記載の食品食器用洗剤。
【請求項3】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値が10〜16の値である請求項1又は2に記載の食品食器用洗剤。
【請求項4】
前記飲用品は、精製飲用水及び/又は醸造アルコールである請求項1、2又は3に記載の食品食器用洗剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−6973(P2010−6973A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168759(P2008−168759)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000133445)株式会社ダスキン (119)
【Fターム(参考)】