説明

食塩組成物及びそれを含有する食品

【課題】油脂やセルロース粉末を添加することなく、食塩の吸湿を防止できる食塩組成物及びこれを含有する食品を提供する。
【解決手段】HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングしたことを特徴とする食塩組成物とした。また、この食塩組成物を含有することを特徴とする握り飯等の食品とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、食品に振り掛けたままの状態で長時間保管した場合にも、吸湿による食塩の溶解によって食味が低下することを防止する食塩組成物及びこれを含有する食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食塩としては、専売制の時代から一般的に用いられてきた精製塩の外に、近年では、赤穂の塩等の再生加工塩、自然海塩、岩塩や焼塩等の種々のものが販売されている。これらの近年販売されるようになった再生加工塩等の食塩は、それぞれが異なった味であって、食塩自体の味覚を楽しめる上に、食材の味を引き立たせることができる。このため、主に、食材を食する直前に食材の表面に振り掛ける等により、各家庭において嗜好に合わせて使用されている。
【0003】
一方で、食生活の多様化により、各家庭において調理されていた食品がコンビニエンスストアやスーパー等の小売店で販売されており、これらの食品に、上述のあらゆる種類の食塩が振り掛けられている。
このため、上述の食塩は、食品に振り掛けられ、店頭に陳列された後に、消費者が購入して、食するまでの一定時間の間に、吸湿による溶解によって食品に染み込んでしまうため、食感が悪くなり、味が落ちてしまうことがある。
【0004】
これに対して、食塩の吸湿を防止するものとして、例えば、特許文献1に示すように、食塩に少なくとも油脂及びモノグリセライドの何れか一方をコーティングしたものを、セルロース粉末に混合した食塩組成物が提案されている。
ところが、モノグリセライドは、耐水性が低いことが知られており、食塩の吸湿を防止するためには、油脂の添加が必須となる。
【0005】
他方、油脂は、食塩の吸湿を防止することができるものの、食塩にコーティングすると、食塩粉末の流動性の低下を招く上に、食塩の味を落としてしまうという問題がある。
また、セルロース粉末は、食塩粉末の流動性の向上のために添加されているものの、多量に配合すると食塩の味を薄めてしまう。このため、セルロース粉末が添加された食塩組成物は、食塩の味が感じられるよう食品に多量に振り掛けてしまうことがあり、塩分を過剰に摂取して、長期的には飲食者の健康を害しかねないという欠点がある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−185261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、油脂やセルロース粉末を添加することなく、食塩の吸湿を防止できる食塩組成物及びこれを含有する食品を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングすることによって、食塩の吸湿を防止でき、かつ流動性の良好な食塩組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至ったものであります。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明に係る耐吸湿性を有する食塩組成物は、HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングしたことを特徴とするものである。
ここで、HLB値とは、疎水性と親水性とのバランスを示す指標であって、0に近いほど親油性が高く、20に近いほど親水性が高いことを意味するものであり、HLB値の計測方法として、一般に、アトラス法、グリフィン法、ディビス法又は川上法が知られている。そして、本発明のHLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルとは、アトラス法に基づくHLB値が3以下のものを意味するものであり、以下に示すHLB値は、全てアトラス法によるものである。
【0010】
請求項2に記載の発明に係る食品は、請求項1に記載の食塩組成物を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食塩組成物によれば、HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングすることによって、食塩の吸湿を防止することができる。このため、食塩に油脂をコーティングする必要がなく、食塩延いては食品の味の低下を防ぐとともに、セルロース粉末によって流動性を付与する必要がないため、食塩本来の味を生かすことができ、塩分の取りすぎを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る食塩組成物は、HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングしたものであり、このHLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルとしては、1分子のショ糖に1分子の脂肪酸が結合したモノエステルを20%以下、かつ1分子のショ糖に2分子以上の脂肪酸が結合したジエステル又はポリエステルを80%以上含有するものを好適に用いることができる。さらに好ましくは、HLB値が1〜2のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングする。
この食塩の種類としては、精製塩、再生加工塩、自然海塩、岩塩及び焼塩等の何れであってもよいものである。
【0013】
このコーティング方法としては、HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルをアルコールに溶解して噴霧する方式、同ショ糖脂肪酸エステルを食塩に混合した後、高温の空気を吹き付ける流動層乾燥方式、又は同ショ糖脂肪酸エステルと食塩を混合、攪拌しながら融点以上に昇温させた後、冷却する混合加熱方式等の種々の方式を採用することができる。また、ショ糖脂肪酸エステルに、味覚や流動性に影響を与えない範囲において少量の油脂、レスチンやポリグリセリン脂肪酸エステルを添加して、上述の方式によって食塩にコーティングしてもよい。
【0014】
本発明に係る食塩組成物は、食塩の吸湿による溶解を防ぐことにより、食塩の食品内への浸透を抑えることができ、食塩本来の食感を保持しつつ食品の味を引き立たせることができる。特に、握り飯表面の米に振り掛けても、また、米を握る前に握り飯の内部に振り掛けても、食塩の米粒内への浸透を抑えることができる。また、握り飯は、握る際に米粒が握り飯を握る手や機械等に付着し易いため、一般に手を水に濡らす等によって米粒の付着を防止した上で握られるものであるが、この食塩組成物を手や機械の米粒との接触表面に塗して握ることによって、別途、米粒の付着を防止せずとも握ることができる。
【0015】
次ぎに、実施例について説明する。
まず、20gのHLB値2のショ糖脂肪酸エステル(商品名 リョウトウエステルS−270,製造会社名 三菱化学フーズ株式会社)をエタノールに溶解させたエステル溶解液を、1kgの精製塩に少量ずつ噴霧しながら乾燥させて、ショ糖脂肪酸エステルを精製塩にコーティングしたNo.1の食塩組成物を調製した。
また、98kgの赤穂の天塩とHLB値2のショ糖脂肪酸エステル(商品名 リョウトウエステルS−270)とを混合し、この混合物を70℃まで加熱した後に、放置冷却により室温まで冷却させ、その後、赤色色素で染色して、No.2の食塩組成物を調製した。
【0016】
さらに、No.3の食塩組成物として、コーティングしない精製塩そのものを使用するとともに、精製塩にHLB値5のショ糖脂肪酸エステル(商品名 リョウトウエステルS−570,製造会社名 三菱化学フーズ株式会社)を、No.1の食塩組成物と同様にコーティングしたNo.4の食塩組成物を調製した。また、赤穂の天塩にHLB値5のショ糖脂肪酸エステル(商品名 リョウトウエステルS−570)を、No.2の食塩組成物と同様にコーティングし、赤色色素で染色したNo.5の食塩組成物を調製した。
【0017】
[実施例1]
90mlの水を入れた100mlのビーカーを3組用意し、それぞれにNo.1の食塩組成物、No.3の食塩組成物又はNo.4の食塩組成物を10gずつ投入し、投入直後にデジタル写真画像を撮影した。そして、このデジタル写真画像を図1に示すとともに、その際の食塩組成物の状況を表1に示した。
【0018】
[実施例2]
縁のある皿状のプラスティック製容器の中央部に濾紙を敷いて、濾紙の上からサラダ油を垂らし、濾紙全体に行き渡らせた。
次いで、この濾紙の異なる場所に、No.1の食塩組成物、No.3の食塩組成物及びNo.4の食塩組成物をそれぞれ10gずつ載置して3分経過後にデジタル写真画像を撮影し、このデジタル写真画像を図2に示すとともに、その際の食塩組成物の状況を表1に示した。
【0019】
[実施例3]
同形のペットボトルのキャップを2つ用意し、開口を下に向けてテーブルに載置した。これらのキャップの上に、同形の漏斗を使用して、それぞれNo.2の食塩組成物又はNo.5の食塩組成物を4gずつ投下した後に、デジタル写真画像を撮影して、図3に示した。No.2の食塩組成物は、キャップ上からテーブル上に流れ落ちそうな状態で載置され、流動性が認められた。他方、No.5の食塩組成物は、キャップ上に山形状に盛り上がって載置され、流動性が認められなかった。
【0020】
[実施例4]
No.1の食塩組成物、No.3の食塩組成物及びNo.4の食塩組成物をそれぞれ10gずつ深皿に入れ、相対湿度を約80%に保った同一のデシケータ内に5時間放置した後に、デシケータから取り出した。次いで、深皿を反転させて、テーブル上に敷いた紙上にNo.1、No.3及びNo.4の食塩組成物を載置し、深皿を紙上に載置した直後のデジタル写真画像を図4に示すとともに、その際の食塩組成物の状況を表1に示した。
【0021】
[実施例5]
握り飯用の型抜き容器の乾燥表面に均等に2gのNo.1の食塩組成物を塗し、炊いた米を入れ、米粒を押圧して象った後に、容器から取り出し、次いで、容器に付着している米粒を計数し、表1に示した。同様に、握り飯用の型抜き容器の表面に均等に2gのNo.3の食塩組成物を塗し、炊いた米を入れてNo.1と略同一の力で象って、容器から取り出した後に、容器に付着している米粒を計数し、表1に示した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1及び図1から判るように、HLB2のショ糖脂肪酸エステルで食塩をコーティングしたNo.1の食塩組成物は、界面に浮いたままの状態であり、耐水性を有していた。これに対して、ショ糖脂肪酸エステルでコーティングしていないNo.3の食塩組成物は、水に殆ど溶解し、耐水性に欠けていた。HLB5のショ糖脂肪酸エステルで食塩をコーティングしたNo.4の食塩組成物は、一部水に溶解し、耐水性が充分でなかった。
【0024】
また、表1及び図2から判るように、No.1の食塩組成物は、親油性の高いHLB値2であるにも拘わらず、殆ど油を吸っておらず、耐油性を具備していた。これに対して、No.3の食塩組成物は、殆ど油を吸っており、耐油性が不十分であった。また、No.4の食塩組成物は、No.1よりも親水性の高いHLB値5であるにも拘わらず、全面的に油を吸っており、耐油性に欠けていた。このことから、No.1の食塩組成物は、予想に反して耐油性に優れており、魚や肉等の上に塗しても油を吸って溶解しないため、食味の低下を防止できることが判った。
さらには、図3から判るように、HLB値2のショ糖脂肪酸エステルで赤穂の塩をコーティングしたNo.2の食塩組成物は、流動性が認められたのに対して、HLB値5のショ糖脂肪酸エステルで赤穂の塩をコーティングしたNo.5の食塩組成物は、流動性が認められなかった。
【0025】
さらにまた、表1及び図4から判るように、No.1の食塩組成物は、食塩組成物が深皿内に残存しておらず、紙上に載置されており、流動性が認められた。これに対して、No.3の食塩組成物は、吸湿して深皿内に多量に残存しており、No.4の食塩組成物は、吸湿による粒径の拡大が認められた。このように、No.1の食塩組成物は、高湿度下に保存した後にも流動性が認められことから、長期保存後にも流動性を有することが推測され、耐吸湿性延いては長期保存性に優れていることが判った。
【0026】
加えて、表1から判るように、No.1の食塩組成物を塗した型抜き容器には、米粒が2粒しか付着していないのに対して、No.3の食塩組成物を塗した型抜き容器には、米粒が12粒付着していた。斯くして、No.1の食塩組成物を用いることによって、効率的に握り飯を握ることができることが判った。
【0027】
上述のように、HLB値2のショ糖脂肪酸エステルでコーティングした食塩組成物は、HLB値5のショ糖脂肪酸エステルでコーティングした食塩組成物と比較して、著しく耐水性、耐油性、流動性及び耐吸湿性延いては長期保存性に優れており、あらゆる食品の上に振り掛けたり含有させて、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ビーカーの水の中に食塩組成物を投入した際のデジタル写真画像である。
【図2】油を吸った濾紙上に食塩組成物を載置した際のデジタル写真画像である。
【図3】ペットボトルのキャップ上に食塩組成物を投下した際のデジタル写真画像である。
【図4】相対湿度が約80%のデシケータから深皿に入っている食塩組成物を取り出した際のデジタル写真画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HLB値が3以下のショ糖脂肪酸エステルを食塩にコーティングしたことを特徴とする耐吸湿性を有する食塩組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の食塩組成物を含有することを特徴とする握り飯等の食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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