説明

食欲抑制組成物

【課題】 本発明は、確実な食欲抑制効果が得られ、かつ、安全性が高く、環境にも優しい食欲抑制組成物を提供することを目的とするものである。
【解決手段】 本発明は、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物、好ましくはエンドペプチダーゼ処理物、より好ましくセリンプロテアーゼ処理物、さらに好ましくバチルス(Bacillus)属及び/又はアスペルギルス(Aspergillus)属の微生物によって生産されたセリンプロテアーゼ処理物を有効成分として含有する食欲抑制組成物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食欲抑制組成物に関し、さらに詳しくは、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物を有効成分として含有する食欲抑制組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、それ自体が美容上の観点などから問題視されているが、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、脳卒中、狭心症、高脂血症などの成人病の原因にもなりえることから、健康上も大きな社会問題となっている。特に現代社会においては、食生活の変化やストレス過多などにより、消費エネルギー以上の過剰なエネルギーを摂取しているために肥満が起こる場合が多い。
そこで、肥満の解消方法が種々提案されており、運動をするなどの外に、体脂肪を燃焼させる機能性食品などを摂取したりして過剰エネルギーを消費する方法が行われており、例えば、アルギニン、グルタミン、バリン、イソロイシン、ロイシンなどの体脂肪減少効果を有するアミノ酸を特定割合で含有するダイエット剤(例えば、特許文献1参照)などが提唱されているが、一般に一旦蓄積された過剰な脂肪などを燃焼させるのは難しく、あまり効果的ではなかった。
【0003】
一方、体内に過剰なエネルギーを摂取しなければ肥満になることはないことから、摂取エネルギーを適切に保つ方法として食欲抑制作用を有する医薬品などが開発されてはいるものの、副作用が強いなどのため、過度の病的肥満者のみに使用が限られている。
【0004】
これらの安全性の問題を解消すべく、日常摂取している食品素材などを原料とする安全な食欲抑制剤も開発されつつあり、コレシストキニン(以降、「CCK」と称する場合がある。)の分泌を促進する作用を持つ特定アミノ酸配列を有するペプチドが提唱されており(例えば、特許文献2参照)、該特定アミノ酸配列のペプチドは大豆のβコングリシニンペプチドのペプシン分解物中に存在することが開示されている。
CCKは、摂食した食品の胃排出を抑制し、あるいは膵酵素分泌促進能を有し、さらに、満腹感を与えて摂食行動を抑制する作用などを有する、十二指腸粘膜細胞から分泌される消化管ホルモンである。
しかしながら、当該特定アミノ酸配列を有するペプチドの食欲抑制作用はさほど強いものではなく、効果が十分であるとは言えず、より確実な効果が得られる食欲抑制組成物を開発することが求められていた。
【0005】
なお、玄米等の澱粉質原料を麹菌発酵、酵母菌発酵、そして酢酸菌発酵した後、酢酸除去処理して得られる、抗肥満に有効な数種のアミノ酸を多く含有する、ダイエット健康補助食品などが開示されているが(例えば、特許文献3参照)、一般にアミノ酸の抗肥満機構は脂肪の燃焼作用であることが知られており、本発明の食欲抑制作用とは異なるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2005−27524号公報
【特許文献2】特開2004−10569号公報
【特許文献3】特開2003−125732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、食欲抑制に対して効果がより確実で、しかも安全性が高い食欲抑制組成物の開発に成功した例は、未だ報告されていない。
本発明は、確実な食欲抑制効果が得られ、かつ、安全性が高く、環境にも優しい食欲抑制組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物が強い食欲抑制作用を有することを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、請求項1に係る本発明は、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物を有効成分として含有する食欲抑制組成物に関するものである。
請求項2に係る本発明は、プロテアーゼがエンドペプチダーゼである、請求項1に記載の食欲抑制組成物に関するものである。
請求項3に係る本発明は、エンドペプチダーゼがセリンプロテアーゼである、請求項2に記載の食欲抑制組成物に関するものである。
請求項4に係る本発明は、セリンプロテアーゼがバチルス属及び/又はアスペルギルス属の微生物によって生産されたものである、請求項3に記載の食欲抑制組成物に関するものである。
請求項5に係る本発明は、1回の摂取量あたり、請求項1〜4のいずれかに記載のプロテアーゼ処理物を、0.08μg〜40g含有する食欲抑制組成物に関するものである。
請求項6に係る本発明は、食欲抑制組成物を製造するにあたり、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕をプロテアーゼで処理することを特徴とする食欲抑制組成物の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の食欲抑制組成物は、従来のものに比べて食欲抑制効果がより確実で、安全性が高く、環境にも優しいものであり、さらにはストレスなく肥満の解消および予防ができるものである。
即ち、本発明の食欲抑制組成物によれば、過剰なエネルギーを摂取することなく、摂取カロリーを適切に保つことが可能となる。
しかも本発明の食欲抑制組成物は、従来から食品として摂取されてきた米の処理物を有効成分として含有するものであることから、安全性が高いものである。
従って、本発明によれば、安全性が非常に高く、しかも確実に食欲抑制効果が得られる食欲抑制組成物の提供が可能となる。
なお、米糖化粕や酒精発酵粕は、通常、産業廃棄物として廃棄されており、環境への悪影響が少なからず想定される。本発明では産業廃棄物利用の観点から、本来捨てられるはずの産業廃棄物から、優れた食欲抑制組成物を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明は、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物を有効成分として含有する食欲抑制組成物である。
【0012】
本発明に用いられる米糖化粕は、米粉や玄米粉等をデンプン分解処理することにより生成されものであり、例えば、食酢製造工程で副生する。
また、本発明に用いられる酒精発酵粕は、米粉や玄米粉をデンプン分解処理した後に酒精発酵することにより生成されるものであり、例えば、清酒醸造工程で得られる、いわゆる酒粕が挙げられる。
【0013】
これらの米糖化粕や酒精発酵粕は、食酢製造工程や清酒製造工程等で副生産物として発生し、通常廃棄されるものであるので、これらから本発明の食欲抑制組成物を得ることは産業廃棄物利用の点からも好ましい。
また、本発明においては、米糖化粕や酒精発酵粕はそれぞれ単独で用いることもできるが、両者を任意の割合で混合して用いることもできる。
さらに、米糖化粕や酒精発酵粕は、米あるいは米粉から生成するものであるから、米および米粉等のプロテアーゼ処理物においても同様の食欲抑制効果が得られることになるので、それらも利用可能である。
【0014】
本発明においては、これらの原料をプロテアーゼで処理することによって目的とする食欲抑制組成物を調製することができる。本発明において用いるプロテアーゼとしては特に限定はなく、全てのものが利用可能である。
しかしながら、食欲抑制組成物の収率の点からは、用いるプロテアーゼとしては、タンパク質を内部から切断する能力を有するエンドペプチダーゼを用いるのが好ましく、さらには、活性中心のアミノ酸がセリンであるセリンプロテアーゼを用いることがより好ましい。
特にセリンプロテアーゼの中でも、バチルス(Bacillus)属やアスペルギルス(Aspergillus)属由来のセリンプロテアーゼを用いることが最も望ましい。
【0015】
ここでバチルス(Bacillus)属に属する微生物が生産するセリンプロテアーゼとしては、例えばオリエンターゼ22BF(HBI社製)、ビオプラーゼSP−4FG(ナガセケムテック社製)などを挙げることができる。
また、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物が生産するセリンプロテアーゼとしては、例えばスミチームLP50D(新日本科学工業社製)、スミチームMP(新日本科学工業社製)などを挙げることができる。
【0016】
なお、上記のセリンプロテアーゼとしては、製剤の形状のものを用いる代わりに、これらセリンプロテアーゼを産生するバチルス属やアスペルギルス属に属する微生物を用いた培養物を用いても、同様に食欲抑制効果を有する組成物が得られる。
また、上記の酵素剤、或いはバチルス属やアスペルギルス属に属する微生物を用いた培養物は、単独であっても、2種以上のものを混合して用いてもかまわない。
【0017】
次に、本発明の食欲抑制組成物の製造方法について詳述する。
本発明の食欲抑制組成物の製造方法は、食欲抑制組成物を製造するにあたり、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕をプロテアーゼで処理することを特徴とするものである。
本発明の食欲抑制組成物の製造方法において、まず、米糖化粕や酒精発酵粕は、溶媒である水100質量部に対して、0.1〜30質量部、好ましくは5質量部前後を用い、これを水に懸濁する。懸濁に用いる水としては、如何なる水でも用いることが可能であるが、酵素反応を阻害しにくい水、即ち、脱イオン水,蒸留水,超純水,滅菌水などを用いることが望ましい。
【0018】
原料である米糖化粕や酒精発酵粕は、前記したように、食酢製造工程や清酒製造工程等での副生産物を用いることが望ましい。原料である米糖化粕や酒精発酵粕を、水に懸濁する際には、原料をそのまま懸濁することもできるが、以下の工程での酵素反応を効率よく行うために、粉状に細かく粉砕したものを用いることが望ましい。
【0019】
なお、さらに収率向上の観点から、「プロテアーゼ処理」を行う前に、もしくはこれと同時に、米糖化粕や酒精発酵粕をアミラーゼで糖化しておくことがより好ましい。
アミラーゼでの糖化処理の条件は特に制限されないが、一例を挙げると、上記のようにして得られた米糖化粕及び/又は酒精発酵粕の懸濁液を、アミラーゼの至適温度、例えば、20〜95℃、好ましくは90℃前後の温度下において、10〜240分間、好ましくは120分間前後反応させる。
【0020】
当該糖化処理に用いるアミラーゼによる糖化反応溶液としては、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕の懸濁液にそのままアミラーゼを添加してもよいが、好ましくは、pH値を4.0〜9.0、好ましくは、6.4前後に調整することが望ましい。なお、pH値の調整は酵素反応を阻害しない限りにおいて、如何なるpH調整物質を用いることもできるが、具体的には、例えば水酸化カルシウム、塩酸を用いることができる。
【0021】
当該糖化処理に用いることができるアミラーゼとしては、例えばαアミラーゼ、βアミラーゼ、イソアミラーゼ、プルラナーゼなどを挙げることができる。具体的には、クライスターゼ(大和化成社製)、液化酵素T(HBI社製)、液化酵素6T(HBI社製)、コクゲンT(大和化成社製)、スピターゼXT404(ナガセケムテック社製)などを用いることができる。
当該糖化処理に用いる各々のアミラーゼの添加量は、反応液に用いた溶媒100質量部に対して、0.001〜10質量部、好ましくは0.1質量部程度が望ましい。なお、当該糖化処理に用いるアミラーゼ添加量は、反応に用いるアミラーゼの合計量ではなく、各々のアミラーゼ毎の添加量、即ち、例えば5種類のアミラーゼを用いる場合は5種類各々が添加できる量である。
【0022】
当該糖化反応処理を行った後、95〜100℃で10〜120分間、好ましくは100℃で30分間前後の加熱処理にてアミラーゼを失活させる。
さらに、この酵素反応液を0〜10℃に冷却した後、100〜20000gで1〜60分間遠心し、上清を取り除くことで、沈殿物をプロテアーゼ処理に供することができる。
【0023】
本発明における食欲抑制組成物は、上記の米糖化粕及び/又は酒精発酵粕について「プロテアーゼ処理」を行うことで得られる。
即ち、本発明の食欲抑制組成物は、食欲抑制組成物を製造するにあたり、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕をプロテアーゼで処理することにより製造することができる。
【0024】
本発明におけるプロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼとしては、前記したように、全てのものが利用可能であるが、エンドペプチダーゼが好ましく、セリンプロテアーゼがより好ましく、さらには、セリンプロテアーゼの中でも、バチルス属やアスペルギルス属由来のセリンプロテアーゼを用いることが最も望ましい。
前記したように、バチルス(Bacillus)属に属する微生物が生産するセリンプロテアーゼとしては、例えばオリエンターゼ22BF(HBI社製)、ビオプラーゼSP−4FG(ナガセケムテック社製)などを挙げることができる。
また、アスペルギルス(Aspergillus)属に属する微生物が生産するセリンプロテアーゼとしては、例えばスミチームLP50D(新日本科学工業社製)、スミチームMP(新日本科学工業社製)などを挙げることができる。
【0025】
なお、上記のセリンプロテアーゼとしては、製剤の形状のものを用いる代わりに、これらセリンプロテアーゼを産生するバチルス属やアスペルギルス属に属する微生物を用いた培養物を用いても、同様に食欲抑制効果を有する組成物が得られる。
また、上記の酵素剤、或いはバチルス属やアスペルギルス属に属する微生物を用いた培養物は、単独であっても、2種以上のものを混合して用いてもかまわない。
【0026】
本発明におけるプロテアーゼ処理に用いる溶液としては、プロテアーゼ反応を阻害しない溶液であれば如何なる溶液でも用いることができるが、用いるプロテアーゼの至適pH及び至適塩濃度の緩衝液を用いることが望ましい。
例えば、上記のセリンプロテアーゼを用いる場合、水酸化ナトリウムでpH7.2前後に調製した水を用いることもできるが、好ましくは、1〜0.1mMのトリス及び0.1〜10mMの塩化カルシウムを含むpH4.0〜9.0の緩衝液、さらに好ましくは、10mMのトリス及び2mMの塩化カルシウムを含むpH7.2の緩衝液を用いることが望ましい。
なお、当該溶液として緩衝液を用いなかった場合、酵素反応終了後にpHを再度6.5〜7.0に調製することが望ましい。
【0027】
本発明におけるプロテアーゼ処理において、上記工程で得られた「糖化処理済の沈殿」は、プロテアーゼ処理に用いる溶液に対して、0.1〜10%(w/v)、好ましくは1%(w/v)前後含有されるように、上記プロテアーゼ処理に用いる溶液に再懸濁する。
また、上記の糖化処理を行わなかった場合は、原料である米糖化粕や酒精発酵粕が、プロテアーゼ処理に用いる溶液に対して、0.1〜10%(w/v)、好ましくは1%(w/v)前後が含有されるように調製する。
【0028】
本発明におけるプロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼの添加量は、上記工程で得られた「糖化処理済の沈殿」に対して、或いは、糖化処理を行わなかった場合は原料である米糖化粕や酒精発酵粕に対して、それぞれ0.01〜10%(w/w)、好ましくは0.1〜2%(w/w)、さらに好ましくは0.5%(w/w)前後であることが望ましい。
なお、用いるプロテアーゼの力価が劣る場合や、バチルス属やアスペルギルス属の微生物を用いた培養物を用いる場合は、上記の範囲を超える量を添加することで、製造効率を上げることも可能である。
【0029】
本発明におけるプロテアーゼ処理の反応条件は、用いるプロテアーゼの至適温度、例えば上記のセリンプロテアーゼを用いる場合は、20〜95℃、好ましくは30〜80℃、さらに好ましくは55度前後の温度下において、10〜240分間、好ましくは20〜120分間、さらに好ましくは60分間前後反応させることが望ましい。
【0030】
当該プロテアーゼ処理を行った後、95〜100℃で10〜120分間、好ましくは100℃で10分間前後の加熱処理にてプロテアーゼを失活させる。
さらに、この酵素反応液を0〜10℃に冷却した後、100〜20000gで1〜60分間遠心し、その上清を回収することで、本発明である「食欲抑制組成物」を含有する溶液が得られる。
なお、この「食欲抑制組成物」を含有する溶液は、透析をすることによって、さらに精製度を上げることができる。また、凍結乾燥などで濃縮することによって粉末化することも可能である。
【0031】
本発明の食欲抑制組成物を提供する形態としては、前記の食欲抑制組成物を含有しているものであれば、特にどのような形態でもよい。例えば、従来から用いられてきた医薬品補助剤等を配合して製剤化したものでもよく、また、食品に配合したものでもよい。また、液体状、固形状などの形状を限定しない。
【0032】
製剤としては、錠剤,液剤,カプセル剤など、形態を問わず、また、製剤化に際して、賦形剤,安定剤など、常用の添加剤を配合することができる。
また、機能性食品、健康食品、スナック食品等の飲食品に配合することもできる。飲食品としては、例えば、クッキー状,フレーク状,ウェハー状,錠剤,顆粒剤,液体などの形態が挙げられ、調味料、飲料などとして用いることができる。
なお、飲食品に配合する場合には、食欲抑制効果を有する旨、肥満防止効果を有する旨、ダイエット効果を有する旨などの機能を表示して用いるのが望ましい。
【0033】
本発明の食欲抑制組成物の効果を十分に発揮するためには、本発明の米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物をヒト一人当たり0.08μg〜40g/1回を摂取できる形態であることが好ましいが、より好ましくは0.01〜3g/日を摂取できる形態であることが望ましい。
【0034】
本発明における食欲抑制組成物は、摂取時刻や摂取回数に特に限定はないが、例えば、食事の10分前〜12時間前、好ましくは30分前〜6時間前に摂取することが望ましい。
また、1回分の摂取量を一度に摂取してもよいし、複数回に分けて摂取してもよいが、摂取のし易さを鑑みると、食事の30分〜6時間前に1度に摂取することが好ましい。
【0035】
なお、本発明における食欲抑制組成物は、後述するように、ラットの「小腸上皮粘膜成分にあるコレシストキニン(CCK)分泌促進レセプターとの結合親和性試験」及び「摂餌量測定試験」の詳細な解析により、顕著な食欲抑制効果を有することが示されている。
【0036】
この小腸上皮粘膜成分には、内因性の食欲抑制ホルモンであるCCKの分泌を促進させる、ある種のペプチドに対するレセプターが存在し、食欲抑制に作用していることが分かっている(例えば、大豆たん白質研究、6巻、p.94〜99、2003年参照)。また、小腸上皮粘膜成分に存在するCCK分泌促進レセプターとペプチドの結合親和性は、ペプチド配列の種類によって大きく異なる。
【0037】
本発明における米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物は、ラットの小腸上皮から調製した粘膜成分と強い結合親和性を示すことから、本発明のプロテアーゼ処理物には、小腸上皮粘膜成分CCK分泌促進レセプターとの強い結合親和性を示す特定のペプチド配列が多量に含有されていることが示唆される。
【0038】
また、これらの知見は、本発明における食欲抑制組成物が、点滴等の注射ではなく、経口摂取により食欲抑制効果を得られることを示しており、摂取の簡便さにおいて、摂取する人にとっては非常に有益である。
食欲抑制薬であるマジンドールにおいては、ヒトにおいても、ラットにおいても、食欲抑制効果があることが知られている。
このことからも、ヒト及びラットの間での食欲抑制機構は似ており、ラットを用いた実験結果をヒトにも応用できるものと考えられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0040】
実施例1(ラット小腸粘膜成分との結合試験)
(1)サンプル調製
米糖化粕、及び、酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物は、次のようにして調製した。
清酒醸造工程で得られた酒精発酵粕(原料として米粉を使用)(本発明実施品1〜4)、及び、食酢製造工程で得られた米糖化粕(原料として米粉を使用)(本発明実施品5〜8)を、それぞれ5gずつ水100mlに懸濁し、水酸化カルシウムによりpH6.4により調整した後、クライスターゼ(大和化成社製)100μlと、液化酵素T(HBI社製)、液化酵素6T(HBI社製)、コクゲンT(大和化成社製)、スピターゼXT404(ナガセケムテック社製)の各アミラーゼ100μgずつを、全て添加した。
その後、90℃に昇温して120分間保持することによって糖化処理反応を行い、100℃にて30分間保持してアミラーゼを失活させた後、4℃に冷却し、さらに遠心分離(12000×g、10分)により上清を除いて、得られた沈殿をプロテアーゼ処理用のバッファー(10mM トリス、2mM 塩化カルシウム、pH7.2)に1%(w/v)になるよう再懸濁した。
【0041】
次いで、この懸濁液を以下の各種プロテアーゼ製剤で処理した。
即ち、プロテアーゼ製剤としては、バチルス属(Bacillus)の細菌が生産するセリンプロテアーゼ製剤であるオリエンターゼ22BF(HBI社製)(本発明実施品1,5)、或いはビオプラーゼSP−4FG(ナガセケムテック社製)(本発明実施品2,6)を、また、アスペルギルス属(Aspergillus)のカビが生産するセリンプロテアーゼ製剤であるスミチームLP50D(新日本科学工業社製)(本発明実施品3,7)、或いはスミチームMP(新日本科学工業社製)(本発明実施品4,8)を用い、各々を前記「糖化処理済みの沈殿」当り0.5%(w/w)相当量を添加して、55℃にて60分保持してプロテアーゼ処理反応を行わせた。
プロテアーゼ処理反応終了後、100℃にて10分間保持することでプロテアーゼを失活させ、遠心分離(12000×g、10分)により回収して得た「上清」を凍結乾燥処理を行い、本発明実施品1〜8とした。なお、各処理品には、処理に用いたプロテアーゼの製品名を付した。
【0042】
また、比較製造品1である大豆β-コングリシニンペプチドのペプシン分解物は、以下のようにして調製した。
即ち、脱脂大豆粉末を30mM トリス-塩酸バッファー(pH8.0)で溶解し、超遠心した(19000×g、20分)。超遠心後の上清をpH6.0に調整し、再度超遠心した(12000×g、20分、4℃)。この上清をpH4.8に調整して沈殿物を得た。この沈殿物を、35mM リン酸カルシウムバッファー(pH7.6、0.4mM NaCl、10mM 2-メルカプトエタノール)に再溶解した。そして、この溶液を硫酸アンモニウム水溶液に入れ、大豆β-コングリシニンペプチドを得た。
この大豆β-コングリシニンペプチドをリン酸溶液に溶解し、pH1.85に調整後、ペプシン水溶液(20mg/ml)を添加し、37℃で10分間インキュベートした。反応終了後、該リン酸溶液を煮沸してペプシンを失活させた。その後、冷却した後、遠心分離(12000×g、20分、4℃)して上清を回収した。
この上清を、水酸化カルシウムを用いて中和した後、遠心分離(12000×g、20分、4℃)して塩を除去し、凍結乾燥させることにより、大豆β-コングリシニンペプチドのペプシン分解物(比較製造品1)を得た。
【0043】
(2)ラット小腸刷子縁膜の調製
200〜300gのSD系雄ラット(日本エスエルシー社製)の空腸部位の粘膜をスライドグラスで掻き取ってホモゲナイズし、塩化カルシウム、チオシアン酸カリウム処理と超遠心法により刷子縁膜小胞を得た。得られた刷子縁膜小胞を、0.1%(w/v)のトライトンX−100(TRITON X−100 REDUCED、SIGMA社製)を含むバッファー(10mM HEPES、 0.15M NaCl、3mM EDTA、 pH7.4)に懸濁後、4℃で一晩振とう後、超遠心分離(100000g、 90分、4℃)して得られた上清を膜可溶化成分とした。
刷子縁膜可溶化成分から、Extracti−Gel D affinity Pak column(Pierce社製)を用いて界面活性剤(トライトンX−100)を除去後、10mM酢酸緩衝液(pH4)に希釈し、アミンカップリング法(Amine Coupling Kit、BIACORE社製)によりセンサーチップCM5(BIACORE社製)に固定化した。
【0044】
(3)センサーチップに固定化した膜可溶成分との結合試験
上記本発明実施品1〜8及び比較製造品1における、小腸上皮から調製した膜可溶化成分との結合能を調べるため、Biacore(BIACORE社製)を用い、センサーチップに固定化した膜可溶成分との結合試験を行った。
結合試験に用いるアナライトは、粉末サンプルをHBS−Eバッファー (10mM Hepes、150mM NaCl、3mM EDTA、pH7.4)に溶解し、かつ、本発明実施品1〜8及び比較製造品1を500μg/ml含有するように調製した。
ランニングバッファーとしてHBS−Eバッファー(10mM HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、pH7.4)を用い、流速20μl/分で温度25℃にてアナライトを流した。
アナライトは、60秒間で入れた。なお、解離は2.5分行い、再生には10mM HCIを用いて60秒間処理した。対照区であるブランクセルには、エタノールアミンが固定されているセルを用いた。
各アナライトの膜可溶化成分への特異的な結合値は、膜可溶化成分を結合させたセンサーチップの結合値(RU)から、インジェクト開始10秒前の値を差し引いた値として求めた。結果を図1に示す。
【0045】
この結果、図1に示すように、単位重量あたりの刷子縁膜成分への結合能が、対照とした大豆のβ-コングリシニンペプチドのペプシン分解物(比較製造品1)よりも、米糖化粕又は酒精発酵粕の各プロテアーゼ処理物(本発明実施品1〜8)の方が高いことが分かった。
このことより、米糖化粕又は酒精発酵粕の各プロテアーゼ処理物は、小腸上皮との結合能が高く、さらに大豆のβ-コングリシニンペプチドのペプシン分解物よりも高いことが分かった。
【0046】
実施例2(コレシストキニン(CCK)産生細胞を用いたCCK分泌能測定試験)
(1)サンプル調製
米糖化粕100gを水2Lに懸濁し、水酸化カルシウムによりpHを6.4に調整後、クライスターゼ(大和化成社製)2mlと、液化酵素T(HBI社製)、液化酵素6T(HBI社製)、コクゲンT(大和化成社製)、スピターゼXT404(ナガセケムテック社製)の各アミラーゼ2gずつを、全て添加した。
90℃に昇温して120分間保持することで糖化処理反応を行った後、100℃にて30分間保持することでアミラーゼを失活させた。4℃に冷却した後に遠心分離により上清を除き、沈殿を脱塩水に再懸濁にして遠心分離により洗浄、回収した。
その後、このアミラーゼ処理済み糖化粕全量を2Lの脱塩水に懸濁し、水酸化ナトリウムにてpHを7.2に調整した。
次いで、これにプロテアーゼ製剤としてオリエンターゼ22BF(HBI社製)を500mg添加し、55℃にて60分間反応させ、100℃、20分の加熱処理により酵素反応を停止した。
次いで、4℃に冷却後、pHを再度6.5〜7.0に調整し、遠心分離により得られた上清を凍結乾燥して粉末サンプルを得た。
この粉末サンプルのタンパク質含量を、牛血清アルブミンを基準としてLowry法により測定したところ、85.4%であった。
上記のようにして得られた粉末サンプルを本発明実施品9として、以下のCCK分泌能測定試験に用いた。
なお、対照とした大豆のβ-コングリシニンペプチドのペプシン分解物は、実施例1で調製したもの(比較製造品1)を用いた。
【0047】
(2)CCK産生細胞STC−1を用いたCCK分泌能測定試験
上記(1)で調製した本発明実施品9及び比較製造品1のCCK放出能を測定した。なお、CCKを測定するためのELISAキット(テラメックス製)はグルカゴンとも反応してしまうため、動物の血液中のCCKだけを測定することは難しい。一方、小腸上皮より調製されたSTC−1細胞からはグルカゴンは産生されないため、CCKのみが産生されることが分かっている。
そこで、STC−1細胞を用い、以下のようにして、本発明実施品9及び比較製造品1のCCK産生能を測定した。
即ち、本発明実施品9の粉末サンプル、或いは比較製造品1の粉末サンプルを、1mg/ml又は5mg/ml含有するバッファー(20mM Hepes、140mM NaCl、4.5mM KCl、1.2mM CaCl2、1.2mM MgCl2、10mM Glucose、pH7.4)中にて、STC−1細胞を37℃、1時間、インキュベートし、STC−1細胞から培地中に放出されるCCKの濃度を市販のELISAキットで測定した。
結果を図2に示す。
【0048】
図2に示すように、1mg/ml又は5mg/mlのどちらの濃度を培地に含有させた場合においても、米糖化粕のプロテアーゼ処理物(本発明実施品9)には、対照とした大豆β-コングリシニンペプチド由来のサンプル(比較製造品1)よりも、有意に高いCCK分泌能があることが示された。
特に、米糖化粕のプロテアーゼ処理物(本発明実施品9)5mg/mlを培地に含有させた場合では、STC−1細胞が誘導するCCKの分泌量は、大豆β-コングリシニンペプチド由来のサンプル(比較製造品1)5mg/mlを培地に含有させた場合に比べて、約2倍という高い値を示すことが分かった。
【0049】
実施例3(野生型ラットを用いた摂餌量測定試験)
(1)サンプル調製
実施例2と同様にして、米糖化粕のプロテアーゼ処理物の粉末サンプルを調製し、本発明実施品10とした。なお、得られた粉末サンプルのタンパク質含量を、牛血清アルブミンを基準としてLowry法により測定したころ、88%であった。
【0050】
(2)野生型ラットを用いた摂餌量測定試験
SD系雄ラット12週齢を使用し、10日間の馴化期間中に、胃ゾンデ操作で注射用水を投与した後の一定時間のみに、餌が出てくる環境に慣れさせた。馴化期間中、胃ゾンデ操作では、注射用水を個体あたり2ml投与した。
このように馴化させたラットを用いて、摂餌量測定試験を行った。
作業手順としては、照明点灯2時間後に、胃ゾンデ操作により「米糖化粕のプロテアーゼ処理物の粉末サンプル(本発明実施品10)をそれぞれ50mg,200mg又は550mg溶解させた水」を2ml、又は、対照である「水」のみを2ml投与し、その30分後に餌を与え、給餌後6時間まで自由に摂餌できる環境とした。なお、水は自由飲水とした。その後は、絶食下とした。
各処理区で測定した摂餌量は、1時間あたりの摂餌量に換算した。また、各投与群の検体数としては、12匹のラットを用い、平均及び標準偏差を算出し、統計的有意差を求めた。結果を図3に示す。
【0051】
その結果、図3に示すように、水のみを投与した群(比較対照)に比べ、米糖化粕のプロテアーゼ処理物(本発明実施品10)投与群では、50〜550mg/ラットのいずれの投与群においても、1時間あたりの摂餌量が5%の有意差をもって減少しており、米糖化粕由来のサンプルの食欲抑制効果が確認された。
【0052】
この結果から、ヒトでの有効投与量を計算すると、本発明のプロテアーゼ処理物の摂取量としては、ヒト一人当たり40g程度までであればよいことが推定され、好ましくは、ヒト一人当り0.08μg〜40gであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の食欲抑制組成物によって、安全性が非常に高く、さらに確実に食欲抑制効果をもたらすことが可能となり、機能性食品の材料、医薬製剤として利用することが期待される。
また、本発明の食欲抑制組成物は、本来捨てられるはずの産業廃棄物である米糖化粕や酒精発酵粕の有効利用にも繋がる。
従って、本発明は食品産業等において有効に利用することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1における、プロテアーゼ処理物とラット小腸粘膜成分との結合試験の結果を示したグラフである。
【図2】実施例2における、CCK産生細胞STC−1を用いたCCK分泌能測定試験の結果を示したグラフである。
【図3】実施例3における、野生型ラットを用いた摂餌量測定試験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糖化粕及び/又は酒精発酵粕のプロテアーゼ処理物を有効成分として含有する食欲抑制組成物。
【請求項2】
プロテアーゼがエンドペプチダーゼである、請求項1に記載の食欲抑制組成物。
【請求項3】
エンドペプチダーゼがセリンプロテアーゼである、請求項2に記載の食欲抑制組成物。
【請求項4】
セリンプロテアーゼがバチルス(Bacillus)属及び/又はアスペルギルス(Aspergillus)属の微生物によって生産されたものである、請求項3に記載の食欲抑制組成物。
【請求項5】
1回の摂取量あたり、請求項1〜4のいずれかに記載のプロテアーゼ処理物を、0.08μg〜40g含有する食欲抑制組成物。
【請求項6】
食欲抑制組成物を製造するにあたり、米糖化粕及び/又は酒精発酵粕をプロテアーゼで処理することを特徴とする食欲抑制組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−201683(P2008−201683A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36326(P2007−36326)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】