説明

食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法

【課題】クエン酸などの食用酸を含有するキャンディーやチューインガムなどの製品中に配合される、メントールの苦味を低減する方法を提供する。
【解決手段】メントールを含有する乳化香料組成物を添加することで、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法に関する。詳細には、メントールを含有する乳化香料組成物を添加することを特徴とする、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸及び酒石酸から選ばれる1種以上の食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メントールの香料は、チューインガムやハードキャンディー、錠菓などに広く用いられており、独特の強い清涼感が眠気覚ましや口臭予防などを目的として、大きな市場を形成している。
しかし、メントールは多量に使用すると苦味があり、その苦味を抑制する方法として、バターオイルなどの食用油脂を有効成分として含有することを特徴とするミント系香料の苦味抑制剤(特許文献1)、スクラロースなどの高甘味度甘味料などを配合する方法(特許文献2)、ガムベース、甘味料、メントールおよびN−置換−p−メンタンカルボキシアミドからなるチューインガム組成物(特許文献3)、ミント系香料にポリゴジアールを添加する香味の改善方法(特許文献4)などが提案されている。
【0003】
近年花粉症人口の増加などで、鼻や喉が通りやすいことを謳ったメントール系のキャンディーが各社から発売されているが、これらの味のバリエーション化に柑橘系のフレーバーと併せる試みがなされている。柑橘系のキャンディーは、酸味を強めに付与することで独特の爽やかな風味が一層高まることが知られており、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸などの食用酸が酸味の付与に用いられている。しかし、メントールはクエン酸などの食用酸と併用すると、一層苦味が増強されることも知られている。そのため、これまではなるべくこれらの食用酸を加えずに酸味感を上げる工夫がなされてきた。
【0004】
一方、メントールを含有する乳化香料を含有した顆粒や錠菓が知られている(特許文献5)が、これはメントールの再結晶化を防止することを目的とするものであり、メントールを含有する乳化香料組成物を添加することで、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味を低減できることは、開示も示唆もされていない。また、メントールなどのミントノートを有するフレーバーと、酢酸などのシトラスノートやフルーツノートを有するフレーバーとを有効成分とする口腔用香料組成物も知られている(特許文献6)が、これにもメントールを含有する乳化香料組成物を添加することで、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味を低減できることは、開示も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−18829号公報
【特許文献2】特開平2−177870号公報
【特許文献3】特開平3−53849号公報
【特許文献4】特開平7−145398号公報
【特許文献5】特開平9−233999号公報
【特許文献6】特開2004−18431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の従来から提案されているメントールの苦味低減方法では、クエン酸などの食用酸と併用した際のメントールに由来する苦味を低減する効果が不十分であり、さらに添加剤の香味が付与されるなどの好ましくない影響もあり、十分満足できるものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、メントールを含有する乳化香料組成物を添加することにより、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味を低減できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は下記に掲げる食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法に関するものである。
項1.メントールを含有する乳化香料組成物を添加することを特徴とする、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸及び酒石酸から選ばれる1種以上の食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法。
項2.食用酸を含有する製品がキャンディー又はチューインガムである、項1記載の製品中のメントールの苦味低減方法。
【発明の効果】
【0009】
従来、クエン酸などの食用酸を含有する製品中にメントールを配合すると、その苦味が顕著に現れるという問題点があったが、メントールを含有する乳化香料組成物を添加することにより、この点を有意に改善し、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、メントールを含有する乳化香料組成物を添加することを特徴とする、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法に関するものである。
【0011】
本発明に使用されるメントールは、dl−メントール、l−メントール、その他の異性体の何れでもよく、また、これらを任意の割合で複数組み合わせても良い。
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物中のメントールの含有量は、5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0012】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物に用いられる乳化剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、キラヤ抽出物、サポニン、ポリソルベート、アラビアガム、ガティガムなどが挙げられるが、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル及びレシチンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。これらの乳化剤の添加量は、メントール含有乳化香料組成物の1〜10重量%、好ましくは2〜8重量%である。
【0013】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、糖アルコール(例えば、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、ラクチトールなど)、中鎖脂肪酸トリグリセライド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ソルビトール、天然精油(例えば、薄荷白油、ペパーミントオイル、スペアミントオイル、アニスオイルなど)、香料成分(例えば、メントン、メンチルアセテート、カンファー、ボルネオールなど)、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)などの比重調整剤、抗酸化剤、キレート剤、色素、ビタミン類、増粘多糖類などを含有していても良い。
【0014】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物は、前述の糖アルコールに、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなど)を溶解し、水やエタノールなどを加えて水相溶液とし、一方でメントール、中鎖脂肪酸トリグリセライド、乳化剤(レシチンなど)などを溶解して油相溶液とし、両者を撹拌混合して、高圧ホモジナイザーなどを用いて、従来より公知の方法で乳化して製造することができる。さらに、得られた乳化物を、噴霧乾燥などの技術を用いて粉末化して使用しても良い。
【0015】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物中の乳化粒子の平均粒子径は、0.5μm以下であり、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.2μm以下である。高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化して、乳化粒子の平均粒子径を上記の大きさにすることにより、メントールの香味発現を促進し、メントールの香味を高めることができる。
【0016】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物が、苦味マスクの効果を奏する食用酸としては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸及び酒石酸が挙げられるが、特にクエン酸を含有する食品に適用した場合に効果を奏する。
【0017】
本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物が適用される製品としては、上記のクエン酸、リンゴ酸、フマル酸、及び酒石酸から選ばれる1種以上の食用酸を含有する錠菓、チューインガム(粒ガム、板ガムなど)、チョコレート、キャンディー、グミキャンディー、ゼリーなどの菓子類、清涼飲料水などの飲料類、歯磨剤や洗口液(マウスウオッシュ)などの口腔内組成物、経口用の錠剤や顆粒剤などの医薬品などが挙げられるが、特に食用酸を含有する菓子類のチューインガムやキャンディーに適用することが好ましい。これらの食用酸の上記製品への添加量は、その種類などによって異なるが、例えばチューインガムやキャンディーなどでは、通常0.5〜5重量%であり、本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物の添加量は、0.05〜3重量%、好ましくは0.1〜2重量%である。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の内容を以下の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0019】
メントール含有乳化香料組成物の製造
表1の処方(数値は質量部を示す)に基づき、マルチトールシロップに、グリセリン脂肪酸エステルとショ糖脂肪酸エステルを溶解し、水とエタノールを加えて均一に混合して50℃に加熱した。これに撹拌下、l−メントール、薄荷香料、抽出トコフェロール、レシチン及び中鎖脂肪酸トリグリセライドを60℃に加熱溶解したものを添加して、撹拌混合した。次いで、APV Gaulin社製の高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、圧力450kg/cm2で4回処理を行い、平均粒子径0.2μmのメントール含有乳化香料組成物を得た。
【0020】
【表1】

【0021】
ハードキャンディーの製造
表2の処方(数値は質量部を示す)に基づき、還元パラチノース、マルチトールシロップ及び水を混合し、190℃で煮詰める。これを150℃まで冷却し、クエン酸(無水)、スクラロース、レモンフレーバー、及びl−メントール(比較例)、上記で製造したメントール含有乳化香料組成物(実施例)を加えて混合し、ハードキャンディーを成型した。
【0022】
【表2】

【0023】
製造したハードキャンディーを10名の専門パネラーにより、次の表3に記載した5段階の評価方法で、メントールの苦さ及び冷涼感を評価した。結果を表4に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表4の結果から明らかなように、本発明に使用されるメントール含有乳化香料組成物を添加したハードキャンディー(実施例1)は、メントールを直接添加したハードキャンディー(比較例1)に比べて、メントールの苦味が低減されていることがわかる。また、苦味が低減されることに伴い、冷涼感においても、実施例1の方が比較例1よりも強く感じられる結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、クエン酸などの食用酸を含有する製品中のメントールの苦味が低減できるので、メントールを高含量で配合できる食品を提供できるなど、メントールのさらなる使用が促進し、食品工業において特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メントールを含有する乳化香料組成物を添加することを特徴とする、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸及び酒石酸から選ばれる1種以上の食用酸を含有する製品中のメントールの苦味低減方法。
【請求項2】
食用酸を含有する製品がキャンディー又はチューインガムである、請求項1記載の製品中のメントールの苦味低減方法。

【公開番号】特開2010−239872(P2010−239872A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89377(P2009−89377)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】