説明

食酢製造方法および接種用補助具

【課題】既に生成された脆弱で浮遊性の低い菌膜を扱うことなく菌膜の生成,増殖を迅速化して、材料液からのアルコール成分の蒸発を阻止して味の低下を防止することができ、材料液の酢酸発酵に時間が掛からないようにすることのできる接種技術を含む食酢製造方法と、この食酢製造方法の接種技術に利用される接種用補助具とを提供する。
【解決手段】静置法による食酢製造の際に酢酸発酵のための種菌として酢酸菌を被酢酸発酵材料液に接種する食酢製造方法において、通気性または通液性を有するシート材に酢酸菌を培養した種菌シートを前記材料液の液面に浮かせた状態で載置し、該液面と前記シート材との間で酢酸菌を好気的な状態にして酢酸発酵することを特徴とする食酢製造方法およびそれに用いる接種用補助具である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静置法による食酢製造における酢酸発酵のための種菌の接種に係る食酢製造方法および接種用補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵食品である食酢(醸造酢)は、酢酸菌による酢酸発酵を主要工程として製造される。ところが、寒冷地では、酢酸菌が自然分布されていないため、酢酸発酵のための酢酸菌を種菌として積極的に接種することが行われている。なお、寒冷地でなくても、酢酸発酵の期間の短縮や味の均質化等のために接種が行われている。
【0003】
汎用されている接種手段としては、既に酢酸発酵が完了した材料液(酢醪)の液面に生成された薄い膜状の菌膜を静かに掬い取って、接種しようとする材料液の液面に静かに載置する(浮遊させる)技術がある。
【0004】
この接種技術では、菌膜が極めて脆弱で浮遊性が低いことから、菌膜が掬い取りや載置の際に崩壊してしまったり、菌膜が載置された材料液の液面から液中に沈降してしまったりすることがあるため、酢酸発酵が有効に進行しないことがあるという不具合がある。特に、酢酸菌が自然分布されていない寒冷地では、菌膜が正常に載置されないとこの不具合が顕著になる。このため、食酢製造において酢酸発酵を有効に進行させるための接種技術の開発が要望されている。
【0005】
従来、食酢製造において酢酸発酵を有効に進行させるための接種技術としては、例えば、酢酸菌を凍結乾燥させたものを種菌として、種菌を接種しようとする材料液の液面に散布する接種技術が知られている(特許文献1)。この接種技術は、既に生成された脆弱で浮遊性の低い菌膜を扱わないで、接種しようとする材料液の液面に新たに菌膜を生成させて酢酸発酵を進行させようとするものである。
【0006】
【特許文献1】特公平5−2305号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る接種技術では、接種によって菌膜が生成され増殖して材料液の液面の全面を覆うのに数日間を要するため、材料液からのアルコール成分の蒸発が著しく味の低下が避けられず、材料液の酢酸発酵に時間が掛かるという問題点がある。
【0008】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、既に生成された脆弱で浮遊性の低い菌膜を扱うことなく菌膜の生成,増殖を迅速化して、材料液からのアルコール成分の蒸発を阻止して味の低下を防止することができ、材料液の酢酸発酵に時間が掛からないようにすることのできる接種技術を含む食酢製造方法と、この食酢製造方法の接種技術に利用される接種用補助具とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するため、本発明に係る食酢製造方法は、静置法による食酢製造の際に酢酸発酵のための種菌として酢酸菌を被酢酸発酵材料液に接種する食酢製造方法において、通気性または通液性を有するシート材に酢酸菌を培養した種菌シートを前記材料液の液面に浮かせた状態で載置し、該液面と前記シート材との間で酢酸菌を好気的な状態にして酢酸発酵することを特徴とする。
【0010】
この手段では、酢酸菌を培養した種菌シートを、種菌シート自体が材料液に浮くように、または補助的な手段を用いて液面に浮かせた状態で載置する。シート材の性質によって菌膜よりも強靭で通気性または通液性を持ち、菌膜と同様の膜の性質をもったものを接種に利用することで、破損、崩壊なく膜状で酢酸菌を取り扱いができるようにし、空気と被酢酸発酵材料液に触れる形で安定して維持できるようにして、酢酸菌の増殖性を維持する。
【0011】
また、本発明に係る食酢製造方法では、被酢酸発酵材料液よりも比重が小さい材料で形成され、かつ上下に貫通する複数の開口部を有する接種用補助具を用い、前記材料液の液面に浮遊された接種用補助具の上に種菌シートを載置することが好ましい。
【0012】
このようにすると、接種用補助具は被酢酸発酵材料液に浮遊し、該接種用補助具によって該材料液の液面に載置された種菌シートを下支えすることで、種菌シートに浮力を与えることができる。接種用補助具の開口部によって、種菌シートの酢酸菌は液面に接触し、酢酸発酵が行われる。
【0013】
また、本発明に係る食酢製造方法では、前記接種用補助具が単数または複数の浮体を備えてなることが好ましい。
【0014】
このようにすると、浮体が単独または半独立の複数個からなることで、材料液の液面に載置された種菌シートをある程度自由変形可能な面で下支えすることができる。
【0015】
また、本発明に係る食酢製造方法では、前記浮体は環径が異なり同心配列状にかつ前記開口部となる隙間を開けて配置される複数の環状体であることが好ましい。
【0016】
このようにすると、浮体同士に隙間が設けられることで、隙間が開口部として作用し、また接種用補助具にある程度の構造的な柔軟性が得られる。
【0017】
また、本発明に係る食酢製造方法では、前記浮体は前記開口部として上下に貫通する複数の孔を有する扁平体であることが好ましい。
【0018】
このようにすると、浮体が扁平体で開口部を多数備えているので、これらの開口部が被酢酸発酵材料液の種菌シートへの連絡路となる。
【0019】
また、本発明に係る食酢製造方法では、前記種菌シートは、前記シート材を種菌用培地に貼付して酢酸菌を培養した後に種菌用培地から剥離したものを使用することが好ましい。
【0020】
このようにすると、種菌シートとして種菌用培地と一体化されて酢酸菌が培養されてから剥離されたものを使用することで、種菌シートにおける培養された酢酸菌の分布を均等化することができる。
【0021】
また、本発明に係る接種用補助具は、被酢酸発酵材料液よりも比重が小さい材料で形成され、かつ上下に貫通する複数の開口部を有する単数または複数の浮体を備えてなることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る接種用補助具は、前記浮体は環径が異なり同心配列状にかつ前記開口部となる隙間を開けて配置される複数の環状体であることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る接種用補助具は、前記浮体は前記開口部として上下に貫通する複数の孔を有する扁平体であることが好ましい。
【0024】
上記した接種用補助具を用いることで、上記食酢製造方法において述べた作用を持つ接種用補助具が得られる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る食酢製造方法は、酢酸菌が培養されて菌膜よりも強靱で浮遊性がありながら菌膜と同様の膜の性質をもった種菌シートを接種に利用することで、菌膜の扱い面での不具合を解消するとともに菌膜の増殖性を維持することができるため、既に生成された脆弱で浮遊性の低い菌膜を扱うことなく菌膜の生成,増殖を迅速化して、材料液からのアルコール成分の蒸発を阻止して味の低下を防止することができ、材料液の酢酸発酵に時間が掛からないようにすることのできる接種技術を含むことができる効果がある。
【0026】
また、本発明に係る食酢製造方法は、被酢酸発酵材料液の液面に載置された種菌シートを接種用補助具で下支えすることで、開口部によって被酢酸発酵材料液の液面と菌とを接触させつつ、種菌シートに浮力を与えることができるため、種菌シートの材料液の液面から液中への沈降を確実に防止することができる効果がある。
【0027】
また、本発明に係る食酢製造方法は、種菌シートとして種菌用培地と一体化されて酢酸菌が培養されてから剥離されたものを使用することで、種菌シートにおける培養された酢酸菌の分布を均等化することができるため、菌膜の生成,増殖をより迅速化することができる効果がある。
【0028】
また、本発明に係る食酢製造方法は、接種用補助具の浮体が一または複数からなることで、材料液の液面に載置された種菌シートをある程度自由変形可能な面で下支えすることができるため、種菌シートに無用の変形をもたらすことなく、種菌シートの材料液の液面から液中への沈降を確実に防止することができる効果がある効果がある。
【0029】
また、本発明に係る食酢製造方法は、浮体の大きさや形状、複数の浮体の設計によって、開口部を自由に設計でき、効果的に液体が連絡する開口部が得られる。また接種用補助具の柔軟性や浮力も容易に調整できる。
【0030】
また、本発明に係る食酢製造方法は、接種用補助具の浮体に開口が設けられた扁平状のシートを用いることで、種菌シートの形状を簡素にすることができ、製造や取り扱いが簡易である。また、シートに強度を持たせやすいために液中への垂れ下がりを防止することができる。さらに、液体の連絡を良好として、培養を容易にすることができる効果がある。
【0031】
また、本発明に係る接種用補助具は、食酢製造方法に用いることで上記の効果を得ることができる接種用補助具が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明に係る食酢製造方法および接種用補助具の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
[第1の実施形態]
図1はこの実施形態に係る食酢製造方法に用いる種菌シートおよび接種用補助具の概略斜視図、図2はこの実施形態の接種作業を示す概略断面図、図3は図2に示す接種作業に使用される種菌シートの製造例を示す概略断面図、図4は図2の要部の平面図、図5はこの実施形態に係る食酢製造装置の縦断面図、図6はこの実施形態に係る食酢製造装置の要部の接続ブロック図、図7はこの実施形態に係る食酢製造装置の他の使用例を示す図、図8はこの実施形態に係る食酢製造装置を使用した食酢製造の作業全体のフローチャートである。
【0034】
この実施形態に係る食酢製造方法および接種用補助具について、図8の作業全体のフローチャートを参照しながら説明する。この実施形態では、図1、図2に示すように、静置法による食酢製造の際の酢酸菌の接種において、材料液Fの液面に、接種用補助具T、種菌シートSの順に設置して使用する。図2に示すように、種菌シートS,接種用補助具Tを用いて酢酸発酵のための酢酸菌を、発酵前の被酢酸発酵材料液である材料液Fに接種する。
【0035】
種菌シートSは、図3に示すように、種菌用培地Hを利用して製造される。
【0036】
まず、図3(A)に示すように、種菌用培地Hを調整する(図8、C1)。種菌用培地Hは、例えば、グルコース1.0%,ペプトン1.0%,酵母エキス0.5%,グリセロール1.0%,寒天1.5%,エタノール2.0%に蒸留水(精製水)を加えて、オートクレーブ滅菌した後に冷却して板形に固化させた寒天栄養培地からなる。ペプトン,酵母エキスについては、通常の微生物培養実験に用いられるもので由来は問われない。エタノールについては、オートクレーブ滅菌した後の冷却の際に固化の前に添加する。
【0037】
次ぎに、図3(B)に示すように、種菌用培地Hの上にシート材Saを無菌的に貼付する(C2)。シート材Saは、酢酸菌が培養可能な薄性のシート状のものからなる。材料液Fに設置した場合に空気が通って酢酸菌が活動しやすいよう、通気性を持っているものが望ましい。例えば、滅菌された濾紙や不織布を用いることができる。
【0038】
次ぎに、図3(C)に示すように、種菌用培地Hに貼付されたシート材Saに菌液Pを滴下する。菌液Pは、例えば、種菌用培地Hと同様に斜面寒天栄養培地を調整して効率的に増殖させた酢酸菌を無菌水に懸濁して得たものである。
【0039】
この後、25〜35℃の温度域でシート材Sa、種菌用培地Hにおける酢酸菌の培養を行い(C3)、シート材Saに充分な酢酸菌を増殖させ、種菌シートSとする。
【0040】
次ぎに、図3(D)に示すように、種菌用培地Hから種菌シートSを剥離する(C4)。このとき、種菌シートSがシート状で前述の菌膜に比してはるかに強靱であるため、破損,崩壊等が生ずることはない。剥離された種菌シートSは、種菌用培地Hと接触されていたことによって酢酸菌が全面にむらなく均等に培養されている。
【0041】
製造された種菌シートSは、接種用補助具Tを介して、材料液Fの液面に載置される。このときも、種菌シートSの破損,崩壊等が生ずることはない。種菌シートSは、酢酸菌が培養された面が下になるよう、すなわち材料液Fの液面に酢酸菌が触れるように載置される。なお、種菌シートSに通液性がある場合、酢酸菌の培養された面が上になるように載置することもでき、この場合材料液Fおよび酢酸菌がシートの表裏を通過して材料液Fの酢酸発酵が行われる。
【0042】
接種用補助具Tは、材料液Fの液面浮遊可能な浮力を有する化学的に不活性なシリコン,ポリスルフォン等の合成樹脂材やバルサ材,経木等の木材等からなるもので、無菌的に製造されて材料液Fに投入設置される。この接種用補助具Tは、図1、図2、図4に示すように、断面楕円形の円環状に形成され円環径を異ならせた3個の浮体Taが内側から外側へ同心的に配置され、隣接する浮体Taが、化学的に不活性な合成樹脂等の素材からなる糸状の連結材Tbで連結されている。連結材Tbは、緊張されず浮体Taを半独立状態で連結している。浮体Taの円環内側の隙間および連結された浮体Ta相互の隙間が開口部Toとなっている。
【0043】
図示例では、浮体Taは、外側ほど断面形状が大きくなっている。そのため、外側の浮体Taほど浮力が大きくなり、種菌シートSを載置したときに中央がくぼみ、種菌シートの周縁部ほど確実に下支えして、種菌シートSの周縁部の材料液Fの液面から液中へ垂れ下がりを防止することができる効果がある。このため、周縁部から液面に対して酢酸菌が流出し、酢酸菌が液中に沈んで死滅するといったことが無い。
【0044】
材料液Fの液面に載置された種菌シートSは、材料液Fの液面に浮遊している接種用補助具Tに下支えされる。従って、種菌シートS自体の浮遊性と接種用補助具Tの浮力との相乗によって、種菌シートSが材料液Fの液面に浮遊して液中に沈降するようなことはない。また開口部Toによって種菌シートSは材料液Fの液面と接触する。なお、接種用補助具Tの浮体Taが連結材Tbで半独立に連結されて、接種用補助具Tが種菌シートSをある程度自由変形可能な面で下支えしているため、種菌シートSに無用の変形をもたらすことなく、種菌シートSの材料液Fの液面から液中への沈降が確実に防止される。また、接種用補助具Tの浮体Taは外側ほど断面形状が大きく、浮力が高くなっているため、種菌シートSの周縁部ほど確実に下支えして、種菌シートSの周縁部の材料液Fの液面から液中へ垂れ下がりを防止することができる。このため、種菌シートSの周縁部から液面に対して酢酸菌が流出し、酢酸菌が液中に沈んで死滅し材料液Fの酢酸発酵が好適に行われない、といったことが生じない。
【0045】
材料液Fの液面に載置された種菌シートSについては、前述の菌膜を代替したような格好を呈することになる。従って、種菌シートSの全面から酢酸菌が材料液Fに拡散して、材料液Fの液面に菌膜が迅速に生成されて酢酸発酵が進行する。なお、接種用補助具Tの、円環状が同心配置され開口部Toを有する構造は、種菌シートSと材料液Fとの接触面積の確保に有効であるとともに、種菌シートS上の酢酸菌と空気と接触面積の確保に有効である。この結果、既に生成された脆弱で浮遊性の低い菌膜を扱うことなく菌膜の生成,増殖を迅速化して、材料液Fからのアルコール成分の蒸発を阻止して味の低下を防止することができ、材料液Fの酢酸発酵に時間が掛からないようにすることができる。
【0046】
ついで、この食酢製造方法および接種用補助具を好適に使用するための食酢製造装置について、図面に基づいて説明する。
【0047】
この実施形態では、可搬タイプからなる食酢製造装置を示してある。この食酢製造装置は、図5,図6に示すように、内容器1,外容器2,冷却機構3,加温機構4,温度センサ5,制御部6を主要部として構成されている。
【0048】
内容器1は、食酢に製造される発酵用組成物を仕込んだ材料液Fが収容されるもので、耐腐食性があって衛生管理の容易なステンレス材(例えば、SUS304)で上部開放の寸胴形に形成されている。
【0049】
外容器2は、内容器1の外側に配置され内容器1との間に介在される熱交換用水Wが収容されるもので、内容器1と同様の材質で内容器1よりも大きな上部開放の寸胴形に形成されている。外容器2の外側面は、断熱材7で覆われている。外容器2の上端縁は、内容器1の上端縁よりも低くなるように配置されている。
【0050】
冷却機構3は、外容器2に収容されている熱交換用水Wを入れ替えるもので、外容器2の上部に接続され市水(水道水)を熱交換用水Wとして外容器2に供給する給水管3aと、外容器2の下部(底部)に接続され熱交換用水Wを外容器2から排水溝等に排出する排出管3bと、給水管3aに取付けられ外容器2に収容されている熱交換用水Wの水位に対応して給水を断続するボールタップ構造等からなる自動給水栓3cと、排出管3bに取付けられ熱交換用水Wの排水を開閉する開閉弁である排水開閉弁3dとからなる。
【0051】
この冷却機構3は、外容器2に収容されている温度の上昇した熱交換用水Wを、排水開閉弁3dの開放で排出管3bから排出し、外容器2に温度の上昇していない市水を給水管3a,自動給水栓3cから給水することで、材料液Fを冷却することができる。
【0052】
加温機構4は、外容器2に収容されている熱交換用水Wを加温して循環させるもので、外容器1の上部と下部(底部)とにL字形に接続された循環管4aと、循環管4aに取付けられ熱交換用水Wを循環駆動する循環ポンプ4bと、循環管4aに取付けられ内部を通過する熱交換用水Wを設定された温度に加温するインラインタイプの筒形のヒータ4cとからなる。
【0053】
この加温機構4は、外容器2に収容されている温度の低下した熱交換用水Wを循環ポンプ4bでヒータ4cに通過させることで、材料液Fを加温することができる。
【0054】
温度センサ5は、内容器1に収容されている材料液Fの温度を検出するもので、内容器1の内壁に取付けられている。
【0055】
制御部6は、温度センサ5が検出した検出信号に基づいて冷却機構3,加温機構4の駆動を制御するもので、タイマ機能を有するマイクロプロセッサを主要部として構成され、各種設定の入力を行う操作部8と駆動電源調整の電気回路等の電気制御ユニット9とが接続されている。制御部6は、温度センサ5に接続されるとともに、ドライバを介して冷却機構3の排水開閉弁3dと加温機構4の循環ポンプ4b,ヒータ4cとに接続され、温度センサ6の検出信号と操作部8から入力された設定温度(設定温度域)とを比較して、検出信号が設定温度よりも高い場合に冷却機構3に駆動を指示し、検出信号が設定温度よりも低い場合に加温機構4に駆動を指示することで温度管理を実行する。この温度管理の実行時間については、操作部5からの入力設定が可能である。
【0056】
これ等の内容器1,外容器2,冷却機構3,加温機構4,温度センサ5,制御部6の各部は、キャスタ10付きのケーシング11の内部にコンパクトに組込まれている。内容器1,外容器2は、ケーシング11に載置される蓋12で閉鎖されるようになっている。蓋12は、断熱材13で覆われるとともに、開閉,開口調整が可能な窓14が開口されている。冷却機構3の給水管3a,排出管3bは、ケーシング11から外部に引出されている。制御部6は、操作部8,電気制御ユニット9とともに箱形の制御盤15の内部に収容されている。
【0057】
この形態を使用するには、内容器1に材料液Fを収容して発酵用組成物の仕込みを行い(C5)、外容器2に熱交換水Wを収容して内容器1,外容器2に蓋12を閉鎖してから、操作部8から制御部6に必要な温度とその温度を維持する時間とを入力設定する。
【0058】
まず、加温機構4が駆動されて材料液Fが設定された温度,時間で加熱殺菌される(C6)。この形態が清浄管理された大規模工場等に設置されるわけではないため、材料液Fに雑菌が繁殖するのを防止するためである。なお、材料液Fは、熱交換用水W,内容器1を介して間接的に加熱される。従って、材料液Fの一部が集中的に加熱されて変質,変性するようなことはない。
【0059】
加熱殺菌の後には、冷却機構3が駆動されて材料液Fが酢酸発酵に好適な温度まで急速に冷却される(C7)。急速な冷却は、材料液Fの変質,変性の防止に有効である。
【0060】
冷却の後には、材料液Fに酢酸菌を接種し(C8)、酢酸発酵を行う。酢酸菌の接種には、前記した種菌シートS,接種用補助具Tが用いられる。
【0061】
酢酸菌の接種の後には、冷却機構3または加温機構4が駆動されて材料液Fが設定された温度,時間で発酵(酢酸発酵)される(C9)。
【0062】
酢酸発酵の後には、加温機構4が駆動されて材料液Fが設定された温度,時間で加熱殺菌される(C10)。酢酸発酵の途中で材料液Fに増殖した雑菌を滅菌するためである。
【0063】
加熱殺菌の後には、蓋12を開放して材料液F(酢醪)を内容器1に収容されたまま外容器2から取出して濾過する(C11)。濾過された材料液F(酢)は、図7に示すように、別の内容器16に収容される。なお、前述の内容器1を利用することも可能である。
【0064】
濾過の後には、別の内容器16に収容された材料液Fが蓋12を開放して外容器2に戻され、冷却機構3または加温機構4が駆動されて材料液Fが設定された温度,時間で熟成される(C12)。熟成では、蓋12の窓14を閉鎖することになる。
【0065】
この形態によると、氷点下になるような寒冷地の冬期における食酢製造から、40度近くになる非寒冷地の夏期における食酢製造まで、必要な温度,時間で材料液Fを加熱殺菌,冷却,酢酸発酵,熟成することができる。なお、全体がキャスタ10で移動可能であるため、環境条件の良好な場所に適宜移動することも可能である。
【0066】
この食酢製造装置を用いることで、材料液Fが収容される温度センサ5付きの内容器1、16と内容器1、16の外側に配置されて熱交換用水Wが収容される外容器2を設けて、材料液Fを熱交換用水Wを介して制御部6で自動的に冷却,加温することとし、短時間に急速な冷却が必要となる冷却機構3を熱交換用水Wの入替え式とし、長期にわたる緩慢な加温が必要となる加温機構4を熱交換用水Wの加温循環式としているため、熟練技術者の関与を必要とせずに使用することができ装置構成が簡素,小型で比較的小規模な食酢製造に適したものとなる。
【0067】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態について説明する。図9はこの実施形態に係る浮体の概略斜視図である。なお、重複部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0068】
この実施形態では、図9(A)に示すように浮体Tdが、矩形に形成された扁平体であり、開口部Toとして外縁に沿って上下に貫通する孔Oを有している。
【0069】
浮体Tdの素材は水に浮く安価なものならば任意で、第1の実施形態と同様の素材などが使用できる。図示例では、発泡シリコンゴムシートである。孔Oの数、形状、構造は任意である。この孔Oが、種菌シートSと材料液Fとの接触面積の確保、種菌シートS(酢酸菌)と空気と接触面積の確保の役割を果たす。
【0070】
なお、図示例では浮体Tcは一辺が5〜10cmの矩形だが、製造規模にあわせた寸法で、使用する機器にあわせて円形その他の形状でもよい。
【0071】
この実施形態では、浮体Tdが、図9(B)に示すように、連結材Tbによって2つ連結され、接種用補助具Tcとなっている。なお、連結する浮体Tdの数も接種用補助具Tcの規模にあわせて調節でき、より大規模である場合は3つ以上、より小規模な場合は単独で用いてもよい。
【0072】
この実施形態では、浮体Tdおよび接種用補助具Tcが単純な形状、構造からなっており、シートに強度を持たせることができるので、液中の垂れ下がりが防止される。また、孔Oを有する構造により、液絡が良好であり、培養が容易に行われる。さらに、簡易に製造し、取り扱うことができる。また食酢の製造にあわせた形状や規模の設計、調整も容易である。
【0073】
[その他の実施の形態、変形例]
以上、図示した形態の外に、接種用補助具Tを使用せずに、種菌シートSを直接に材料液Fの液面に載置することも可能である。即ち、種菌シートSがシート状で材料液Fの液面の表面張力を効率的に受ける浮力を有しているとともに、種菌シートSが材質的に存在する微細な空隙等を増殖した酢酸菌が糸状,膜状に覆っていて毛細管現象による材料液Fの浸透を防止して浮力が高められているためである。
【0074】
さらに、接種用補助具Tを他の形状,連結構造とすることも可能である。
【0075】
さらに、大規模な食酢製造では、前述の接種を大きな容器に貯溜された材料液Fの複数箇所で同時的に実施することも可能である。
【0076】
さらに、1枚の種菌シートSに対して複数個の接種用補助具Tを使用することも可能である。また、逆に、1個の接種用補助具Tに対して複数枚の種菌シートSを使用することも可能である。
【0077】
以上、本発明に係る実施形態について図面を参照し説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限度で種々の設計変更や工程変更が可能であり、そのような変更を技術的範囲に含むものである。
【実施例】
【0078】
[製造例1]
(1)材料液Fとして、カボチャの摩砕物6.0Kg,水12.8Kg,食用酵母エキス0.2Kgを撹拌溶解して重量が20Kgのものを用意した。
(2)最初の加熱殺菌は、70℃で1時間行った。
(3)冷却は、30℃まで低下させた。
(4)発酵は、27℃で3週間行った。なお、接種の際に、発酵アルコール1.0Kgを加えた。
(5)次の加熱殺菌は、70℃で30分間行った。なお、発酵の終了の際の公定法による酸度測定では、酸度4.5%に達していた。
(6)熟成は、27℃で2ヶ月間行った。
【0079】
[製造例2]
(1)材料液Fとして、カボチャの摩砕物8.0Kg,水11.0Kgを撹拌溶解して重量が20Kgのものを用意した。
(2)最初の加熱殺菌は、65℃で30分間行った。
(3)冷却は、30℃まで低下させた。
(4)発酵は、28〜30℃で2週間行った。なお、接種の際に、発酵アルコール1.0Kgを加えた。
(5)次の加熱殺菌は、70℃で30分間行った。なお、発酵の終了の際の公定法による酸度測定では、酸度4.6%に達していた。
(6)熟成は、25〜26℃で2ヶ月間行った。
【0080】
製造例1,2では、ともに独特の味覚,芳香等の良質な食酢を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第1の実施形態に係る食酢製造方法に用いる種菌シートおよび接種用補助具の概略斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係る食酢製造方法および接種用補助具の接種作業を示す概略断面図である。
【図3】図2に示す接種作業に使用される種菌シートの製造例を示す概略断面図である。
【図4】図2の要部の縮小した平面図である。
【図5】第1の実施形態に係る食酢製造装置の縦断面図である。
【図6】第1の実施形態に係る食酢製造装置の要部の接続ブロック図である。
【図7】第1の実施形態に係る食酢製造装置の他の使用例を示す図である。
【図8】第1の実施形態に係る食酢製造装置を使用した食酢製造の作業のフローチャートである。
【図9】第2の実施形態に係る食酢製造装置の接種用補助具を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0082】
1、16 内容器
2 外容器
3 冷却機構
3a 給水管
3b 排出管
3c 自動給水栓
3d 排水開閉弁
4 加温機構
4a 循環管
4b 循環ポンプ
4c ヒータ
5 温度センサ
6 制御部
7、13 断熱材
8 操作部
10 キャスタ
11 ケーシング
12 蓋
14 窓
15 制御版
C1〜C12 チャート項目
S 種菌シート
Sa シート材
T、Tc 接種用補助具
Ta、Td 浮体
Tb 連結材
To 開口部
F 材料液
H 種菌用培地
O 孔
P 菌液
W 熱交換用水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静置法による食酢製造の際に酢酸発酵のための種菌として酢酸菌を被酢酸発酵材料液に接種する食酢製造方法において、通気性または通液性を有するシート材に酢酸菌を培養した種菌シートを前記材料液の液面に浮かせた状態で載置し、該液面と前記シート材との間で酢酸菌を好気的な状態にして酢酸発酵することを特徴とする食酢製造方法。
【請求項2】
請求項1の食酢製造方法において、被酢酸発酵材料液よりも比重が小さい材料で形成され、かつ上下に貫通する複数の開口部を有する接種用補助具を用い、前記材料液の液面に浮遊された接種用補助具の上に種菌シートを載置することを特徴とする食酢製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の食酢製造方法において、前記接種用補助具が単数または複数の浮体を備えてなることを特徴とする食酢製造方法。
【請求項4】
請求項3の食酢製造方法において、前記浮体は環径が異なり同心配列状にかつ前記開口部となる隙間を開けて配置される複数の環状体であることを特徴とする食酢製造方法。
【請求項5】
請求項3の食酢製造方法において、前記浮体は前記開口部として上下に貫通する複数の孔を有する扁平体であることを特徴とする食酢製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1に記載の食酢製造方法において、前記種菌シートは、前記シート材を種菌用培地に貼付して酢酸菌を培養した後に種菌用培地から剥離したものを使用することを特徴とする食酢製造方法。
【請求項7】
被酢酸発酵材料液よりも比重が小さい材料で形成され、かつ上下に貫通する複数の開口部を有する単数または複数の浮体を備えてなることを特徴とする接種用補助具。
【請求項8】
請求項7の接種用補助具において、前記浮体は環径が異なり同心配列状にかつ前記開口部となる隙間を開けて配置される複数の環状体であることを特徴とする接種用補助具。
【請求項9】
請求項7の接種用補助具において、前記浮体は前記開口部として上下に貫通する複数の孔を有する扁平体であることを特徴とする接種用補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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