説明

飲料の悪臭除去装置および悪臭除去方法、蒸留酒の製造方法

【課題】蒸留直後の蒸留原酒(蒸留液)に含まれる悪臭(ガス臭)を、貯蔵タンクで貯蔵させることなく、迅速に除去する。
【解決手段】悪臭除去装置は、複数の銅粒によって形成された銅粒層21を有する銅カラム2を備える。さらに、悪臭除去装置は、キレート樹脂層41を有するキレート樹脂カラム4を備える。そして、加圧ポンプ7を駆動することで、蒸留酒槽1の蒸留液10を銅カラム2、キレート樹脂カラム4の順に通過させる。蒸留液10が銅カラム2を通過する際に、銅粒層21が悪臭の原因物質である硫黄化合物を捕捉し、蒸留液10から悪臭を除去する。続いて、蒸留液10がキレート樹脂カラム4を通過したときに、キレート樹脂層41が蒸留液10中に溶出した銅イオンを捕捉し、得られる処理液50の銅濃度を飲料水の基準値以下にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に、とりわけ蒸留酒に含まれる悪臭を除去する悪臭除去装置および悪臭除去方法に関し、そして蒸留酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸留酒は、穀類、果実などの原料を酵母によりアルコール発酵させることで発酵液を得て、この発酵液を蒸留工程で蒸留することにより製造される酒類である。蒸留酒には、例えば、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどがある。
【0003】
このように製造される蒸留酒において、蒸留工程によって得られる蒸留直後の蒸留液(蒸留原酒)は、いわゆる「ガス臭」と呼ばれる悪臭を含んでいる。この悪臭の原因物質は硫化水素などの硫黄化合物でないかと推測されており、悪臭を含む蒸留液は非常に刺激が強いものである。そのため、悪臭を含む蒸留液を製品として市場に提供することは好ましくない。
【0004】
そこで、この悪臭を含む蒸留液を貯蔵タンクに移し、貯蔵し熟成させ、時折、貯蔵タンク内の蒸留液を攪拌したり、貯蔵タンクを移し変えたりすることで悪臭成分を自然揮発させて、蒸留液から悪臭を除去している。そして、悪臭が除去された後の蒸留液を、蒸留酒製品として市場に提供している。
【0005】
しかしながら、このような蒸留酒の製造において、蒸留液を貯蔵タンクに貯蔵して悪臭除去するまでには、3ヶ月程度の非常に長い期間が必要である。さらに、製造者は、貯蔵タンク内の蒸留液を攪拌し、または貯蔵タンクを移し替えるといった品質管理を長期に渡って強いられ、非常に大きな負担を負っていた。さらに、蒸留液を長期間に渡り貯蔵タンクに貯蔵しておくことで、悪臭成分と同様に、蒸留酒にとって好ましいとされる香気成分も、自然揮発したり、他の化合物と結合して消滅したりして、蒸留液から除去されるという問題があった。
【0006】
このような悪臭対策として、例えば、蒸留工程において減圧蒸留法を採用することで、蒸留液に含まれる悪臭を低減できることが知られている。しかしながら、この方法は、悪臭を低減することはできても、悪臭を完全に除去できるものではない。さらに、悪臭が低減されると同時に、香気成分も低減する。
【0007】
また、例えば、特許文献1では、焼酎を製造するにあたり、モロミを仕込む工程を改善することによって、焼酎に含まれる特有の悪臭を押さえ、キレやコクのある焼酎を製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法も、焼酎に含まれる悪臭を押さえることはできても、悪臭を完全に除去できるものではない。
【0008】
以上のように、従来の蒸留酒の製造では、蒸留液に含まれる悪臭を低減できるものはあっても、悪臭を短期間で完全に除去できるものはなかった。さらに、悪臭除去に長い期間を必要とすることで、製造者は、貯蔵タンクを移し替えるなどの品質管理の負担を負っていた。さらに、蒸留酒にとって好ましい香気成分を残しながら、悪臭だけを選択的に除去することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特開2007−325556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本願発明は、飲料に含まれる悪臭を、迅速に除去することができる悪臭除去装置および悪臭除去方法を提供する。さらに、本願発明は、蒸留原酒に含まれる悪臭を迅速に除去できる蒸留酒の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願発明に係る悪臭除去装置は、飲料に含まれる悪臭を除去するための悪臭除去装置であって、
硫黄化合物を捕捉するための金属粒層と、金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層とを備え、最初に飲料を金属粒層に通過させることで、飲料に含まれる硫黄化合物を除去し、続いて飲料をキレート樹脂層に通過させることで、飲料に含まれる金属イオンを除去することを特徴とする。
【0012】
さらに、本願発明に係る悪臭除去方法は、飲料に含まれる悪臭を除去するための悪臭除去方法であって、
最初に硫黄化合物を捕捉するための金属粒層に飲料を通過させることで、飲料に含まれる硫黄化合物を除去するステップと、続いて金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層に飲料を通過させることで、飲料に含まれる金属イオンを除去するステップとを備えたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本願発明に係る蒸留酒の製造方法は、蒸留原酒に含まれる悪臭を除去して蒸留酒を製造する蒸留酒の製造方法であって、
最初に硫黄化合物を捕捉するための金属粒層に蒸留原酒を通過させることで、蒸留原酒に含まれる硫黄化合物を除去し、続いて金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層に蒸留原酒を通過させることで、蒸留原酒に含まれる金属イオンを除去することを特徴とする。
【0014】
好ましくは、飲料は、蒸留酒である。
【0015】
好ましくは、蒸留酒は、焼酎である。
【0016】
好ましくは、金属粒層は、複数の銅粒から構成される。
【0017】
好ましくは、飲料に含まれる不純物を捕捉するためのフィルターを備え、フィルターは、金属粒層とキレート樹脂層との間に設けられる。
【0018】
好ましくは、飲料を金属粒層およびキレート樹脂層へ送り込むためのポンプを備え、金属粒層はキレート樹脂層の下側に設けられ、ポンプを駆動させることで、飲料を金属粒層およびキレート樹脂層に順次通過させる。
【発明の効果】
【0019】
本願発明に係る悪臭除去装置および悪臭除去方法は、飲料を金属粒層に通過させることで、悪臭の原因物質である硫黄化合物が金属粒層に捕捉される。これによって、悪臭は飲料から除去される。しかしながら、飲料が金属粒層を通過した際に、金属粒層の金属が金属イオンとして飲料中に溶けだして、飲料に含まれる金属濃度が飲料水の基準値を超える可能性がある。飲料中の金属濃度がこの基準値を超えると、飲料を市場に提供することができないという問題がある。
【0020】
そこで、金属粒層を通過後の飲料を、続いてキレート樹脂層に通過させる。キレート樹脂は、金属イオンを捕捉する機能を有する樹脂である。そのため、飲料がキレート樹脂層を通過すると、飲料中の金属イオンはキレート樹脂に捕捉されて、飲料中から除去される。したがって、キレート樹脂層を通過した後の飲料は、悪臭が除去され、かつ、金属イオン濃度が飲料としての基準値以下となっており、製品として市場に提供できるものとなっている。
【0021】
そこで、この悪臭除去装置および悪臭除去方法を、蒸留直後の悪臭を含む蒸留原酒に適用して、蒸留酒を製造すれば、従来のように貯蔵タンクに貯蔵して悪臭が自然揮発するのを待つことなく、簡単かつ迅速に悪臭を除去できる。すなわち、本願発明によって、蒸留酒を製造するにあたり、悪臭を除去するために必要とされていた3ヶ月程度の期間を短縮して、蒸留酒を製品として市場に提供できる。そして、この製造期間の短縮によって、製造者の品質管理の負担も大幅に低減できる。
【0022】
さらに、本願の悪臭除去装置を用いれば、悪臭の原因物質である硫黄化合物のみを選択的に除去し、従来悪臭成分とともに揮発していた香気成分を残しておくことができる。したがって、従来にない好ましい香気を有する蒸留酒を製造することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本願発明の係る悪臭除去装置の一実施形態を示す図である。
【図2】銅カラムと、フィルターと、キレート樹脂カラムとの組立てを示す図であり、図2Aは組立て前の状態を示し、図2Bは組立て後の状態を示す。
【図3】悪臭除去前の焼酎原酒および悪臭除去後の焼酎原酒に含まれる香気成分の分析データを示す図である。
【図4】本願発明に係る悪臭除去装置の他の実施形態を示す図である。
【図5】蒸留酒の製造装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本願発明に係る悪臭除去装置、悪臭除去方法および蒸留酒の製造方法について説明する。
本願発明に係る悪臭除去装置および悪臭除去方法は、悪臭の原因物質である硫黄化合物を捕捉する金属粒層を用いて、飲料に含まれる悪臭を除去するためのものである。以下の各実施例では、金属粒層が銅粒層である場合について説明する。しかしながら、金属粒層が、各実施例の銅粒層に限定されるものではない。すなわち、硫黄化合物を捕捉可能な金属粒層であれば、他の金属であって当然によい。さらに各実施例では、飲料が、蒸留酒である場合について説明する。当然に、飲料が蒸留酒に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1]
図1に示すように、悪臭除去装置は、醪を蒸留することで得られる蒸留液10(蒸留原酒)を入れておくための蒸留液槽1を備える。この蒸留液槽1には、蒸留直後の蒸留液であって、いわゆるガス臭と呼ばれる悪臭を含む蒸留液10が入れられる。
【0026】
悪臭除去装置は、蒸留液に含まれる悪臭を除去するための銅カラム2(金属カラム)を備える。銅カラム2はカラム容器20を備え、このカラム容器20内に多数の銅粒(金属粒)が充填され、銅粒層21(金属粒層)が形成される。この銅粒層21が、蒸留液10に含まれる悪臭の原因物質である硫黄化合物を除去する。さらに、悪臭除去装置は、蒸留液10を送るための液送管60を備える。そして、液送管60の一端は銅カラム2の下面に接続され、他端は蒸留液槽1の側面の下端に接続される。こうして、蒸留液槽1と銅カラム2とは液送管60を介して連通し、蒸留液槽1の蒸留液10を銅カラム2へ送ることができる。
【0027】
悪臭除去装置は、蒸留液10に含まれる固体不純物を捕捉するためのフィルター3を備える。このフィルター3は、フィルター容器30内に石英ウール31が充填されることで構成される。この石英ウール31によって蒸留液10の濾過を行い、固体不純物を捕捉する。フィルター3は銅カラム2の上側に配置され、銅カラム2を通過した蒸留液10がフィルター3を通過できるように構成される。
【0028】
悪臭除去装置は、金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂カラム4を備える。キレート樹脂カラム4はカラム容器40を備え、このカラム容器40内にキレート樹脂が充填されることでキレート樹脂層41が形成される。このキレート樹脂層41が、蒸留液10中の金属イオンを捕捉して、蒸留液10から除去する。本実施例では、キレート樹脂層41は、銅イオンを捕捉する。キレート樹脂カラム4はフィルター3の上側に配置され、フィルター3を通過した蒸留液10がキレート樹脂カラム4を通過できるように構成される。
【0029】
悪臭除去装置は、銅カラム2、フィルター3およびキレート樹脂カラム4により一連の悪臭除去処理を受けた蒸留液10(以下、処理液50という)を入れるための処理液槽5を備える。さらに、悪臭除去装置は液送管61を備える。そして、液送管61の一端はキレート樹脂カラム4の上面に接続され、他端は処理液槽5の上面に接続される。こうして、キレート樹脂カラム4と処理液槽5とは液送管61を介して連通し、キレート樹脂カラム4を通過することで得られる処理液50が処理液槽5へ送られる。
【0030】
さらに、悪臭除去装置は、蒸留液10を加圧するための加圧ポンプ7を備える。この加圧ポンプ7を駆動することで、流速を調整しながら蒸留液槽1の蒸留液10を処理液槽5にまで送ることが可能となる。
【0031】
図2に、銅カラム2と、フィルター3と、キレート樹脂カラム4との組立構造を示す。図2Aに示すように、銅カラム2のカラム容器20は、その両端に連結部20a、20bが形成される。フィルター容器30の両端にも連結部30a、30bが形成される。さらに、キレート樹脂カラム4のカラム容器40も、その両端に連結部40a、40bが形成される。
【0032】
そして、銅カラム2のカラム容器20では、一方の連結部20aは液送管60の連結部60aに連結され、他方の連結部20bはフィルター3の連結部30aに連結される。そして、キレート樹脂カラム4のカラム容器40では、一方の連結部40aはフィルター3の連結部30bに連結され、他方の連結部40bは液送管61の連結部(図示せず)に連結される。
【0033】
こうして、各連結部が連結することによって、図2Bに示すように、銅カラム2、フィルター3およびキレート樹脂カラム4が組み立てられ、蒸留液10が通過するための流路が形成される。これによって、液送管60から送られる蒸留液10を、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4に順次通過させることが可能となる。
【0034】
上記の組立構造において、各連結部は着脱自在に連結される。すなわち、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4は個々に分離可能であり、これのうち交換を必要とするものだけを自由に交換できる。また、例えば、フィルター3が不要な場合にはフィルター3を取り外して、銅カラム2の連結部20bと、キレート樹脂カラム4の連結部40aとを連結して組み立てることも可能である。
【0035】
上記構成からなる悪臭除去装置により、蒸留液10に含まれる悪臭を除去する方法について説明する。蒸留工程によって得られた蒸留直後の蒸留液10を蒸留液槽1に入れる。そして、加圧ポンプ7を駆動することで、蒸留液槽1の蒸留液10を、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4の順に上向流で通過させて、処理液槽5へ送る。
【0036】
まず、蒸留液10は、液送管60を通って蒸留液槽1から銅カラム2へ送られる。蒸留液10は、カラム容器20を下側から満たしながら、銅粒層21を通過する。そして、蒸留液10が銅粒層21通過すると、銅粒層21を構成する銅粒が悪臭の原因物質である硫黄化合物を吸着して捕捉し、蒸留液10から悪臭が除去される。一方、蒸留液10が銅粒層21を通過する際に、銅粒層21の銅が銅イオンとして蒸留液10に溶出し、蒸留液10中の銅濃度は増加する。さらにこのとき、硫化銅(CuS)が生成され、硫化銅の微粒子が蒸留液10中に析出する。
【0037】
銅カラム2を通過した蒸留液10は、次にフィルター3を通過する。フィルター3を通過することにより、蒸留液10中の固体不純物が石英ウール31によって捕捉され、蒸留液10は濾過される。このとき、とりわけ、銅粒層21を通過した際に蒸留液10中に析出した硫化銅の微粒子が、石英ウール31によって捕捉される。
【0038】
続いて、フィルター3を通過した蒸留液10はキレート樹脂カラム4へ送られ、キレート樹脂層41を通過する。キレート樹脂は、水溶液中の金属イオンを迅速に吸着して捕捉する機能を有している。そのため、蒸留液10がキレート樹脂層41を通過することで、銅粒層21を通過した際に蒸留液10中に溶出した銅イオンは、蒸留液10から除去される。
【0039】
そして、キレート樹脂カラム4を通過し、一連の悪臭除去処理を受けた蒸留液10は、処理液50として、液送管61を通って処理液槽5へ送られる。
【0040】
以上のように、本願発明に係る悪臭除去装置では、蒸留液10を銅カラム2に通過させることで、蒸留液10に含まれる悪臭の原因物質である硫黄化合物を除去する。続いて、蒸留液10をキレート樹脂カラム4に通過させることで、銅カラム2を通過した際に溶出した銅イオンを除去して、処理液50を得る。このように得られた処理液50は、悪臭はせず、さらに銅の濃度は飲料水としての基準値を下回っており、蒸留酒製品として市場へ提供するのに適したものとなる。
【0041】
[悪臭除去実験]
本願発明に係る悪臭除去装置を用いて、蒸留液10に含まれる悪臭を除去する実験を行った。
【0042】
図1に示される構成の悪臭除去装置において、フィルター3を取り外し、銅カラム2とキレート樹脂カラム4とを互いに連結したものを使用した。銅カラム2は、カラム容器20の直径が14mmであり、このカラム容器20に粒径が約2mmの銅粒を充填し、銅粒層21の厚さを40mmにした。キレート樹脂カラム4は、カラム容器40の直径が14mmであり、充填されるキレート樹脂はジカルボン酸型樹脂で、キレート樹脂層41の厚さを20mmにした。蒸留酒として焼酎を用いた。そして、加圧ポンプ7を駆動させ、蒸留によって得られた焼酎原酒10を、流速20mL/minで、処理速度13mL/cm・minで、銅粒層21、キレート樹脂層41の順に通過させて処理液50を得た。
【0043】
そして、焼酎原酒10および処理液50に含まれる悪臭(ガス臭)の原因物質と推定される硫黄化合物を、GC/MS法により分析した。検出された硫黄化合物の種類と、焼酎原酒10中および処理液50中の検出された硫黄化合物の濃度を表1に示す。また、焼酎原酒10中および処理液50中の銅の濃度も表1に示す。なお、表中の濃度の単位は、mg/Lである。表中の閾値は、人間が臭気として感知できる最小濃度値である。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示されるように、焼酎原酒10中含まれる硫黄化合物として、硫化水素(HS)、メチルメルカプタン(CHSH)、硫化ジメチル(CHSCH)、二硫化ジメチル(CHSSCH)が検出された。これらの硫黄化合物のうち、硫化ジメチル、二硫化ジメチルは、焼酎原酒10中の濃度が、硫化ジメチルで0.03mg/L、二硫化ジメチルで0.02mg/Lと、どちらも閾値以下であった。また、この硫化ジメチル、二硫化ジメチルはともに磯の香りの成分であり、低濃度の場合、香気として感じられる成分である。そのため、これら二つの物質は、焼酎原酒10に含まれる悪臭の原因物質ではないと考えられる。
【0046】
したがって、検出された硫黄化合物のうち、閾値よりも高い濃度で検出された残り2つ、すなわち、硫化水素、メチルメルカプタンが、悪臭の原因物質であると推測される。特に、メチルメルカプタンは、閾値0.001mg/Lに対して、焼酎原酒10中では0.07mg/L検出されており、悪臭の主成分と推測される。
【0047】
そして、この焼酎原酒10を銅カラム2およびキレート樹脂カラム4に通過させて得られた処理液50では、表1に示されるように、硫化水素およびメチルメルカプタンは閾値未満しか検出されなかった。また、銅カラム2の容量(カラムの断面積×銅粒層の厚さ≒6.15mL)の約160倍以上となる1000mLの焼酎原酒10を通過させた時点においても、硫化水素およびメチルメルカプタンは、閾値未満しか検出されなかった。すなわち、銅カラム2の銅粒層21によって硫化水素およびメチルメルカプタンを極めて効率的に除去できることが分かった。そして、このとき、銅カラム2およびキレート樹脂カラム4を通過した処理液50では、悪臭が全く感じられず完全に除去されていた。
【0048】
したがって、焼酎原酒10に含まれる悪臭の原因物質は、硫化水素およびメチルメルカプタンであり、とりわけ、メチルメルカプタンがこの悪臭に大きく寄与していることが明らかとなった。
【0049】
さらに、処理液50中の銅の濃度は、焼酎原酒10を1000mL通過させた時点でも、0.03mg/Lしか検出されなかった。飲料水の銅濃度の基準値は、1.0mg/Lであり、得られた処理液50の銅の濃度はこの基準値より十分に低い。すなわち、銅粒層21を通過することで焼酎原酒10に溶出する銅イオンは、キレート樹脂層41を通過する際に捕捉され、焼酎原酒10からほぼ完全に除去されている。
【0050】
この悪臭除去実験から、本願発明に係る悪臭除去装置では、銅粒層21が焼酎原酒10に含まれる硫化水素およびメチルカルプタンを効率的に捕捉し、焼酎原酒10に含まれる悪臭を除去できることが明らかとなった。さらに、キレート樹脂層41が、銅粒層21を通過した際に溶出する銅イオンを捕捉し、焼酎原酒10に含まれる銅の濃度を飲料水の基準値以下にできることが明らかとなった。
【0051】
したがって、本願発明に係る悪臭除去装置を用いることで、従来のように蒸留原酒10を約3ヶ月間貯蔵タンクに貯蔵することなく、迅速かつ完全に悪臭を除去することができ、得られた処理液50を製品として市場に提供できることが示された。すなわち、本願発明に係る悪臭除去装置よって、蒸留酒の製造に必要な期間を大幅に短縮できることが示された。
【0052】
[香気成分の分析比較]
さらに、蒸留によって得られた悪臭除去前の焼酎原酒10と、この焼酎原酒10を貯蔵タンクに約3ヶ月程度貯蔵して悪臭除去したもの(以下、従来焼酎という)と、この焼酎原酒10を本願の悪臭除去装置により悪臭除去したもの(以下、本願焼酎50という)と、に含まれる香気成分を分析して、比較を行った。香気成分の分析はGC/MS法により行った。香気成分の比較データを図3に示す。なお、図3のグラフにおいて、横軸は時間(min)で、縦軸は相対濃度である。
【0053】
図3(A)は、従来焼酎の香気成分の分析結果を示し、図3(B)は、焼酎原酒10の香気成分の分析結果を示し、図3(C)は、本願焼酎50の香気成分の分析結果を示している。
【0054】
図3中、(B)に示される焼酎原酒10の分析データにおいて、19.17minに香気成分が検出されている。この香気成分は、コハク酸ジエチルであり、焼酎にとって非常に好ましい香気成分である。しかしながら、(A)に示されるように、従来焼酎では、このコハク酸ジエチルのピーク(19.12)は、ほとんど検出されていない。一方、(C)に示されるように本願焼酎50では、このコハク酸ジエチルのピーク(19.17)は、焼酎原酒10と同程度検出されている。
【0055】
すなわち、焼酎原酒10中の香気成分であるコハク酸ジエチルは、悪臭除去のため焼酎原酒10を長期間貯蔵タンク中で貯蔵する間に揮発し、または分解され、焼酎原酒10中から消滅したものと考えられる。一方、本願発明の悪臭除去装置を用いて焼酎原酒10を迅速に悪臭除去した場合、コハク酸ジエチルを消滅させることなく残しておけることが分かった。
【0056】
したがって、本願発明の悪臭除去装置は、悪臭成分である硫化水素などの硫黄化合物だけを迅速的にかつ選択的に除去できることにより、従来は悪臭成分とともに揮発していた香気成分を残すことができる。すなわち、本願の悪臭除去装置により、従来以上に香り高い蒸留酒や、従来にない香気を有する蒸留酒の製造が可能である。
【0057】
[実施例2]
本願発明に係る悪臭除去装置の他の実施例を図4に示す。なお、上述の実施例1と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明については可能な限り省略する。
【0058】
この実施例の悪臭除去装置では、銅カラム2が蒸留液槽1の下方に配置される。そして、上下にのびる液送管60の一端が蒸留酒槽1に、他端が銅カラム2に接続される。さらに、上から銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4の順に配置されるように、カラム容器20、40、フィルター容器30が連結され、組み立てられる。処理液槽5はキレート樹脂カラム4の下方に配置され、上下にのびる液送管61の一端がキレート樹脂カラム4に接続され、他端が処理液槽5に接続される。
【0059】
上記構成からなる悪臭除去装置では、蒸留液槽1の蒸留液10が、重力によって、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4を順次通過することで、一連の悪臭除去処理を受け、処理液50が処理液槽5に送り込まれる構成となっている。つまり、実施例2の悪臭除去装置では、実施例1のように蒸留液10を送り込むための加圧ポンプ7を必要としない構成となっている。
【0060】
しかしながら、この悪臭除去装置では、液送管60の径がカラム容器20の径より小さいために、液送管60から銅カラム2へ供給される蒸留液10は、カラム容器20全体に広がることなく、銅粒層21に流れ落ちる。このように、カラム容器20全体に広がることなく蒸留液10が流れ落ちると、銅粒層21全体を使って悪臭除去を行うことができないため、悪臭を効率的に除去することはできない。
【0061】
そこで、銅カラム2において、カラム容器20全体に銅粒層21を設けず、カラム容器20内の上方にスペース22を確保する。そして、蒸留液10をカラム容器20全体に拡散するための拡散手段8を、スペース22のカラム容器20の入口側に配置する。これにより、液送管60から銅カラム2へ供給される蒸留液10は、拡散手段8によってカラム容器20内全体に拡散され、銅粒層21全体を通過する。結果、蒸留液10中の悪臭除去を効率的に行うことができる。
【0062】
なお、実施例1の悪臭除去装置(図1)では、蒸留液10を加圧ポンプ7で加圧することによって、上向流で銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4に通過させている。そのため、蒸留液10は、カラム容器20、40、フィルター容器30全体を満たしながら上昇する。すなわち、実施例1の悪臭除去装置では、実施例2のような拡散手段8を用いなくても、銅粒層21全体を使って悪臭除去を効率よく行える。
【0063】
[実施例3]
さらに、本願発明の悪臭除去装置を用いた蒸留酒の製造装置を図5に示す。なお、上述の実施例1と同一の構成については、同一の符号を付し、その説明については可能な限り省略する。
【0064】
この蒸留酒の製造装置は、実施例1に示す悪臭除去装置を備え、さらに醪を蒸留して蒸留液10を得るための蒸留装置9を備える。さらに、蒸留酒の製造装置は、液送管62を備える。そして、この液送管62の一端は蒸留装置9に接続され、他端は蒸留酒槽1に接続される。
【0065】
上記構成からなる蒸留酒の製造装置では、まず、蒸留装置9によって醪を蒸留して蒸留液10を得る。続いて、蒸留装置9によって得られた蒸留液10を、液送管62を通して蒸留装置9から蒸留液槽1へ送る。そして、実施例1と同様に、蒸留液槽1の蒸留液10を、加圧ポンプ7により、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4に順次通過させて悪臭除去処理し、処理液50を処理液槽に送る。
【0066】
すなわち、この蒸留酒の製造装置は、醪の蒸留から、蒸留液10の悪臭除去までの工程を一連に行うことができる。そして、処理液槽5の処理液50を瓶詰めすることにより、蒸留酒を製品として市場に提供する。したがって、この蒸留酒の製造装置は、効率よく、そして短期間で蒸留酒を製造し、市場に提供できる構成となっている。なお、蒸留装置9が行う蒸留方法は、いかなる方法であってもよい。
【0067】
実施例1から実施例3の各実施例では、悪臭除去装置を使用し続けると、銅粒層21を構成する銅粒表面に硫化銅が付着することで、銅粒層21は次第に黒みがかる。銅粒の表面に硫化銅が付着すると、蒸留液10が銅粒層21を通過する間に銅粒表面と接触できる面積が減少し、結果、硫黄化合物の捕捉効率が低下する。すなわち、悪臭除去効率が低下する。
【0068】
さらに、フィルター3は、蒸留液10中に析出した硫化銅の微粒子を捕捉し続けることによって、石英ウール31は次第に黒みがかり、固体不純物の捕捉効率は低下する。
【0069】
さらに、キレート樹脂カラム4のキレート樹脂層41も、悪臭除去装置を使用し続けることで、捕捉した銅イオンの影響から次第に青みがかる。このようにキレート樹脂の青みが増すにつれて、蒸留酒に含まれる銅イオンの捕捉効率は低下する。
【0070】
このように、銅カラム2、フィルター3およびキレート樹脂カラム4のいずれにおいても、その性能の劣化が視覚的に現れる。そこで、カラム容器20、40、フィルター容器30をそれぞれ、例えば、透明なアクルリ樹脂、ガラスなどで構成し、外部から視覚的変化を確認できるようにする。こうして、視覚的変化を性能劣化の指標として、それぞれの交換時期を容易に把握できることが好ましい。
【0071】
そして、図2に示したように、銅カラム2、フィルター3、キレート樹脂カラム4は個々に分離可能であるため、これらのうち性能が劣化して交換が必要なものだけを取り外して、交換することができる。なお、銅カラム2およびキレート樹脂カラム4は、再生処理をした後に再使用することができる。
【0072】
また、各実施例において、銅カラム2のカラム容器20およびキレート樹脂カラム4のカラム容器40のそれぞれの出口側に、採取用のコック(図示せず)が取り付けられ、これらのカラム2、4を通過する蒸留液10を採取可能であることが好ましい。これによって、採取した蒸留液10の香気試験、化学分析が可能となる。
【0073】
また、各実施例では、悪臭の原因物質である硫黄化合物を除去するための金属粒として、銅粒層21を用いた。しかしながら、金属粒層は銅粒層21に限定されるものではなく、例えば、銀粒層を用いてもよい。すなわち、カラム容器20に複数の銀粒を充填して銀粒層を形成し、この銀粒層により悪臭の原因物質となる硫黄化合物の除去を行ってもよい。この他に、悪臭の原因物質である硫黄化合物を捕捉可能な金属粒層であれば、銅粒層21、銀粒層に限定されるものではない。
【0074】
また、各実施例において、フィルター3は、銅カラム2とキレート樹脂カラム4との間に設けられているが、これに加えて銅カラム2の入口側に設けたり、キレート樹脂カラム4の出口側に設けたりしてもよい。
【0075】
悪臭を除去する際の銅粒層21、キレート樹脂層41の厚さ、幅などの寸法、または、蒸留液10の処理速度は、処理する蒸留液10の量、製造する蒸留酒の量に応じて決定されるものであり、悪臭除去実験において示した値に限定されるものではない。
【0076】
実施例1および実施例2では、飲料として、蒸留酒を例に悪臭を除去する装置および方法を記載した。しかしながら、本願発明に係る悪臭除去装置を、蒸留酒に限らず、硫黄化合物を主とする悪臭を含む他の飲料の悪臭除去に用いても当然によい。また、蒸留酒でも、焼酎に限らず、ウイスキー、ウォッカ、ブランデーなどの蒸留酒に本装置および本方法を適用しても当然によい。
【符号の説明】
【0077】
蒸留液槽 1
蒸留液10
銅カラム(金属カラム) 2
銅粒層(金属粒層) 21
フィルター 3
石英ウール 31
キレート樹脂カラム 4
キレート樹脂層 41
処理液槽 5
処理液 50
加圧ポンプ 7
拡散手段 8
蒸留装置 9

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲料に含まれる悪臭を除去するための悪臭除去装置であって、
硫黄化合物を捕捉するための金属粒層と、金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層とを備え、最初に前記飲料を前記金属粒層に通過させることで、前記飲料に含まれる硫黄化合物を除去し、続いて前記飲料を前記キレート樹脂層に通過させることで、前記飲料に含まれる金属イオンを除去することを特徴とする悪臭除去装置。
【請求項2】
前記飲料は、蒸留酒であることを特徴とする請求項1記載の悪臭除去装置。
【請求項3】
前記蒸留酒は、焼酎であることを特徴とする請求項2記載の悪臭除去装置。
【請求項4】
前記金属粒層は、複数の銅粒から構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の悪臭除去装置。
【請求項5】
前記飲料に含まれる不純物を捕捉するためのフィルターを備え、前記フィルターは、前記金属粒層と前記キレート樹脂層との間に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の悪臭除去装置。
【請求項6】
前記飲料を前記金属粒層および前記キレート樹脂層へ送り込むためのポンプを備え、前記金属粒層は前記キレート樹脂層の下側に設けられ、前記ポンプを駆動させることで、前記飲料を前記金属粒層および前記キレート樹脂層に順次通過させること特徴とする請求項1から請求項5記載のいずれか1項に記載の悪臭除去装置。
【請求項7】
飲料に含まれる悪臭を除去するための悪臭除去方法であって、
最初に硫黄化合物を捕捉するための金属粒層に前記飲料を通過させることで、前記飲料に含まれる硫黄化合物を除去するステップと、続いて金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層に前記飲料を通過させることで、前記飲料に含まれる金属イオンを除去するステップとを備えたこと特徴とする悪臭除去方法。
【請求項8】
前記飲料は、焼酎であることを特徴とする請求項7記載の悪臭除去方法。
【請求項9】
前記金属粒層は、複数の銅粒から構成されることを特徴とする請求項7または請求項8記載の悪臭除去方法。
【請求項10】
蒸留原酒に含まれる悪臭を除去して蒸留酒を製造する蒸留酒の製造方法であって、
最初に硫黄化合物を捕捉するための金属粒層に前記蒸留原酒を通過させることで、前記蒸留原酒に含まれる硫黄化合物を除去し、続いて金属イオンを捕捉するためのキレート樹脂層に前記蒸留原酒を通過させることで、前記蒸留原酒に含まれる金属イオンを除去することを特徴とする蒸留酒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−16321(P2012−16321A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156366(P2010−156366)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(510190565)株式会社ジェイ・サイエンス西日本 (1)
【出願人】(508116975)株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ (7)
【Fターム(参考)】