説明

飲料の製造法

【課題】
本発明は食用用途の使用が十分でなかった大豆からの水性溶液を用いて風味に優れた飲料を得ることを目的とする。
【解決手段】
本発明は、大豆から、(全糖重量%/粗たん白量%)>5 の水性抽出液を得、これを主原料として乳酸醗酵することを特徴とする飲料の製造法である。水性抽出液は濃縮および脱塩し、少量の糖類を添加し、滅菌してから醗酵に供するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大豆糖を含有する乳酸発酵飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
豆腐、大豆たん白、煮豆、豆乳など大豆加工食品の製造には、その過程で、大豆ホエーや煮汁などの水性溶液が副生される。環境保全の観点から、それらの有効利用は重要な課題であり従来からいくつかの提案がなされている。
このうち、食品用途には例えば、大豆たん白を抽出・分離した残部である大豆ホエーを主原料に、乳酸菌や酵母を生育させた大豆ホエー食品が特許文献1に報告されているが、風味上の限界から現実には利用されていない。
【0003】
一方、特許文献2には、大豆の煮汁から可溶性小糖類を除去する過程を経て、大豆、又は大豆とピーナツの混合体から得られる豆類飲料が報告されている。さらに、特許文献3では、大豆オリゴ糖は乳酸発酵の妨げになるばかりか風味の面でも好ましくなく、これを取り除いた豆乳を用いて発酵飲料にすることが提唱されている。このように、大豆の抽出液は、その中に含まれる可溶性糖はむしろ飲用に際して除くべき対象と考えられ、それを含んだままの抽出水を活用して良好な飲料にすることは未だなされていない。
【0004】
【特許文献1】特公平5−83218号公報
【特許文献2】特開昭53−101562号公報
【特許文献3】特開平8−66161号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は大豆からの水性溶液を用いて風味に優れた飲料を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、所謂大豆ホエー(豆乳から酸沈殿させた上澄み液)ではなく、大豆を水に浸漬して得られる水性溶液は、低たん白となるように得ると、これ(以下、水性抽出液)を用いて乳酸発酵することにより極めて美味しい飲料が得られる知見を得て本発明を完成するに到った。
即ち、本発明は、大豆から、(全糖重量%/粗たん白量%)>5 の水性抽出液を得、これを主原料として乳酸醗酵することを特徴とする飲料の製造法である。
この水性抽出液は濃縮および脱塩することが好ましい。またこの水性抽出液は糖類を添加すること、或いは滅菌して乳酸醗酵に供するのが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、従来食用用途の使用が十分でなかった大豆からの水性溶液を用いて、フルーツにも似た良い風味を呈する飲料を得ることが出来るようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、大豆から、(全糖重量%/粗たん白量%)>5の水性抽出液を得、これを主原料にして乳酸発酵することに特徴がある。
この(全糖重量%/粗たん白量%)の指数を5以上と高くした液を得ることによって、これを乳酸発酵したものはフルーツにも似た新規で良好な風味を有し、風味の優れた飲料とすることができる。しかしいわゆる大豆ホエーは、等電点で主要な大豆たん白を除いたものとはいえ、トリプシンインヒビターなどの大豆アルブミン成分が混在しており、相対的に(全糖重量%/粗たん白量%)の比率が低く、これを主原料として本発明のような乳酸醗酵のみで風味の優れた飲料を得ることが困難である。また、大豆から水性の抽出液を得るのに、磨砕などすると大豆細胞が破壊されてたん白質も溶出しやすくなり、やはり本発明の目的とする良好な飲料を得がたくなる。
【0009】
この(全糖重量%/粗たん白量%)>5 の水性抽出液を得る際には、たん白質の抽出を可及的抑制するのがよく、この点で、圧扁ないし脱脂大豆のような大豆を用いるのは好ましくない。また丸大豆も脱皮していないと、糖類の溶出がおこりにくいので、脱皮大豆、所望によりさらに脱胚軸した大豆を用いるのがよく、二つ割れ(半割れ)、四つ割れといった割れ豆を好適に用いることができる。
【0010】
抽出は、大豆原料を水または熱湯に浸漬したり、たん白質の抽出が抑制されるならいわゆる煮汁を得る方法でもよい。
【0011】
本発明に用いる水性抽出媒体のpHは4〜10、好ましくは6〜9が適当である。pHが高すぎると大豆からたん白質が溶出する不都合があり、pHが低すぎてもオリゴ糖の分解がおこったり、たん白質の溶出がおこったりして不適である。水性抽出媒体として塩の水溶液を用いることができ、この塩として好ましくは弱酸の塩、とりわけ酸性塩を用いることができる。すなわち炭酸塩、炭酸水素塩であって、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニア塩などを好適に用いることができる。水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物の強塩基の塩を用いると、丸大豆からのたん白の流出が著しくなり好ましくない。
抽出媒体中の塩の量は通常、0.05〜10重量%が適当である。
【0012】
上記水性媒体は大豆1重量部に対して3〜15重量部、好ましくは5〜10重量部の割合が適当である。これより少ない場合、液部回収が困難である。一方、水性溶媒の量が多いと、後工程の濃縮倍率を高める必要があり、好ましくない。
【0013】
本発明に用いる溶媒の温度は50℃以上がよく、通常50〜100℃において、大豆中のオリゴ糖が溶出しやすく、かつリポキシゲナーゼなどの酵素の活性を抑制でき、大豆臭の発生を抑制することが出来る。
【0014】
本発明で粗たん白量とは一般に用いられるケルダール窒素測定法による測定の結果、得られた全窒素に窒素係数6.25を乗じて算出される。また、全糖はフェノール硫酸法あるいは、試料を加水分解後にソモジネルソン法などの糖測定法により測定される還元糖量から算出される。
【0015】
得られた水性抽出液は、濃縮及び脱塩することが乳酸醗酵の効率上好ましい。
すなわち濃縮は水性抽出媒体の量によっては必ずしも必要ではないが、大豆に対して前記の5重量倍程度以上の場合は、乳酸菌の生育上、糖濃度3〜20重量%、好ましくは3〜15重量%となるように濃縮することが適当である。この濃度が低すぎると別途乳酸醗酵のために資化性糖の添加を多量に必要とし、濃度が高すぎても乳酸醗酵が低下し風味の改善が不十分となる。この糖濃度は、簡易的に糖濃度計で管理することができるが、抽出媒体中に塩を加える場合と加えない場合で異なり、例えば塩を加える場合にはそれも考慮してBrix3〜30、好ましくはBrix3〜20の範囲で管理することができる。
【0016】
濃縮は公知の逆浸透法、減圧濃縮法などを採用することができる。例えば、減圧濃縮機を用いる場合、濃縮温度は加温が60〜80℃、蒸発温度は30℃〜50℃が好ましい。温度が高くなると、褐色になり、カラメル臭が発生するので、留意する必要がある。
濃縮によって発生した色素、澱などを除去するため、さらに最終的に飲料としたときに清澄度を増すために、活性炭、珪藻土などの公知の濾過手段或いは遠心分離により懸濁物を除去することができる。
【0017】
脱塩も必須ではないが、濃縮の前または後に行うことができ、公知の方法(例えば、イオン交換樹脂や電気透析機など)を利用することが出来る。これは、浸漬液中には大豆由来または、一部抽出の際に使用する塩に由来する過剰のミネラルが存在し、それが前記濃縮により濃縮され、或いは必要に応じて行うpHへの生育に影響や飲料としたときにも塩味が感じられることがあり、塩を除くのが好ましい。脱塩しなくてもよい程度或いは脱塩する好ましい程度としての目安は、電気伝導度で5(mS/cm)以下が好ましい。
【0018】
本発明において、乳酸発酵するに際して、水性抽出液に糖類を添加することが出来る。糖類として、例えば、グルコース、乳糖、ガラクトースなどである。乳酸菌が炭素源として資化できる糖類が適当である。
水性抽出液中の糖はオリゴ糖が主である。乳酸菌はいくつかのオリゴ糖を資化できない。そこで、補糖は生育に最低限の糖を加える。通常0.1〜5重量%の添加が乳酸菌の生育にとって良好である。糖濃度が高いと、浸透圧が高くなり、乳酸菌の増殖が抑制されることがある。
【0019】
醗酵に主成分として供する水性抽出液のpHは5〜8、好ましくは6〜6.5に調整することが適当であり、乳酸菌の種類にもよるが一般にこの範囲で生育が良い。
【0020】
また乳酸菌を接種する前に水性抽出液は殺菌することが好ましい。
殺菌処理は公知の手段を用いることが出来る。例えば、除菌フィルター、間接加熱方式や直接加熱方式を採用でき、例えば高温瞬間加熱(UHT殺菌)のうち蒸気で直接加熱する殺菌方式装置を用いる場合、110〜150℃で2秒〜5分、好ましくは130〜150℃で4秒〜10秒が適当である。熱履歴が大きいと加熱による着色する。
【0021】
本発明に用いる乳酸菌はラクトバシルス・アシドフィラス、ラクトバシルス・ブルガリカス、ラクトバシルス・カゼイ、ラクトバシルス・プランタラム、ラクトバシルス・ヘルバチカス、ラクトバシルス・サケイ、テトラジェノコッカス・ハロフィラス、ロイコノストック・ラクティス、ロイコノストック・シトレウムが例示され、これらのうちの2種以上を併用することもできる。
かかる乳酸菌は、水性抽出液中に存在する機能性成分であるいくつかのオリゴ糖を資化、分解することが少なく、さらに、水性抽出液中に存在するえぐ味、青臭みなどの不快臭を除去する作用効果がある。
【0022】
また、乳酸菌は酵母を併用することも出来る。酵母は実用株であるサッカロマイセス・セルビシエ、サッカロマイセス・バヤヌス、シゾサッカロマイセス・ポンベ、チゴサッカロマイセス・ルキシーから選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
ただし、酵母の併用によりオリゴ糖が分解するので飲料の目的によっては酵母の乳酸菌との併用はしないほうが適当な場合がある。
【0023】
本発明において乳酸菌及び/または酵母を10〜45℃で培養することができる。
望ましい培養条件は初発pHが5〜8、温度15〜42℃、6時間〜7日間、より望ましくは初発pH6〜7、温度20〜30℃、24〜48時間培養することがよい。
培養の態様は静置培養が望ましいが、通気培養でも培養することができる。
培養を終了した後、えぐ味、青臭みなどの不快臭が除去されており、さらにフルーツにも似た良い風味となっている。
【0024】
得られた醗酵物は、そのまま各種食品用途に用いることもできるが、飲料添加成分例えば、砂糖、蜂蜜、乳糖、水あめ、各種糖類、糖アルコールなどの甘味料、果汁、又はそのエキス、酸味料、香料等、必要に応じ、カルシウムなどのミネラル類、各種ビタミン、アミノ酸、多糖類を加えることもできる。
また、必要に応じて、濾過滅菌、加熱滅菌などによって滅菌することもできる。炭酸を充填して炭酸飲料にすることもできる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明の実施態様を説明する。
(実施例1)
脱皮した半割れ大豆1重量部に10重量部の0.1%炭酸水素カリウム水溶液を加え、60℃で30分間攪拌、抽出した。濾布を用いて豆と浸漬液とに分離し、8重量部の抽出液を得た。得られた抽出液は「エバポール」(大川原製作所製CEP−L)で、加温温度80℃、蒸発温度40℃の条件にて16倍に減圧濃縮した。この抽出液は塩酸で、pHを6.0に調整した。さらに電気透析装置「Micro Acilyzer S3」(旭化成)で1mS/cm2以下まで脱塩し、濃縮・脱塩した水性抽出液を得た。この水性抽出液に対して、0.1重量%の乳糖を添加し、直接加熱式滅菌装置 (VTIS)にて140℃、7秒間殺菌した。
予め乳酸菌培地で培養したラクトバシルス・ブルガリカスを上記で調製した水性抽出液に全体の1%となるように接種し、20℃で48時間静置培養した。発酵物はVTISで140℃、7秒滅菌後、遠心分離し、清澄液を水性抽出液乳酸発酵物とした。
【0026】
(比較例1)大豆ホエーの製造法
1重量部の脱脂大豆に10重量部の水を添加し、20重量%の水酸化ナトリウムでpH7.0に調整しながら、たん白を抽出した。これを遠心分離し、豆乳を得た。この豆乳を塩酸で、pHを4.5に調整し、遠心分離機でたん白画分とホエー画分に分けた。このホエー画分を加熱温度80℃、蒸発温度40℃(大川原製作所 CEP−L)で10倍に減圧濃縮した。この濃縮液を水酸化ナトリウムにてpH6.0に調整した後、実施例1と同様にMicro Acilyzer S3(旭化成)にて1mS/cm2以下まで脱塩を行った。5000rpm、20分遠心分離により不溶物を除去した清澄液を大豆ホエーとした。この大豆ホエーに、実施例1と同様に、0.1重量%の乳糖を添加し、直接加熱式滅菌装置(「VTIS」)にて140℃、7秒間殺菌した。さらに、予め乳酸菌培地で培養したラクトバシルス・ブルガリカスを大豆ホエーに全体の1%となるように接種し、20℃で48時間静置培養した。発酵物はVTISで140℃、7秒滅菌後、遠心分離し、清澄液を大豆ホエー乳酸発酵物とした。
【0027】
(水性抽出液と大豆ホエーの比較)
水性抽出液は溶液中に可溶しているたん白成分が少なく、濃縮後の粘度の上昇も少なく、作業性がよいものであった。また、オリゴ糖などを含む糖類も、大豆ホエーと比べ多かった。また、オリゴ糖類の分析の結果、水性抽出液中のスタキオースやラフィノース含量が大豆ホエーに比べ多く、水性抽出液は保健機能性成分の含量が高い原料であった。
官能評価では、大豆ホエー乳酸発酵物は、えぐ味や豆臭いが強く、不味いものであった。一方、水性抽出液乳酸発酵物は、心地良いヨーグルト様香とリンゴのようなフルーツ果実香があり、非常に美味しいものであった。以上の結果より、大豆ホエーを主原料とするより、水性抽出液を主原料にする方が、風味がよく、オリゴ糖の機能成分が多く含有するものであった。
【0028】
(表1)水性抽出液と大豆ホエーの組成(溶液中の重量%)及び組成比(重量比)
─────────────────────────────────────
固形分 灰分 粗たん白 全糖 (全糖/粗たん白比)
─────────────────────────────────────
水性抽出液 18.6 1.0 2.3 14.7 6.4
大豆ホエー 20.1 0.5 5.4 14.0 2.6
─────────────────────────────────────
【0029】
(表2)水性抽出液と大豆ホエーの糖組成(溶液中重量%)
────────────────────────────────────
スタキオース ラフィノース シュークロース その他
────────────────────────────────────
水性抽出液 7.8 0.9 4.0 1.5
大豆ホエー 6.8 trace 6.2 1.0
────────────────────────────────────
【0030】
(表3)水性抽出液乳酸発酵物と大豆ホエー乳酸発酵物の官能評価プロファイル
───────────────────────────────
水性抽出液乳酸発酵物:風味良い、ヨーグルト様香、リンゴ様香
大豆ホエー乳酸発酵物:風味悪い、豆臭強い、不快臭、チーズ臭
───────────────────────────────
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明により、従来利用、特に食用用途の使用が十分でなかった大豆からの水性溶液を用いて、フルーツにも似た良い風味を呈する飲料を得ることが出来るようになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆から、(全糖重量%/粗たん白量%)>5 の水性抽出液を得、これを主原料として乳酸醗酵することを特徴とする大豆オリゴ糖を含有する飲料の製造法。
【請求項2】
水性抽出液を濃縮および脱塩する請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
発酵前の水性抽出液に糖類を添加する請求項1〜2のいずれかの製造法。
【請求項4】
水性抽出液を滅菌する請求項1〜3のいずれかの製造法。

【公開番号】特開2006−94816(P2006−94816A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286786(P2004−286786)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】