説明

飲料水を供給可能な浴場設備

【課題】多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽と一人の入浴者が利用する個別浴槽とが設置された浴場設備であって、個別浴槽に一層きれいな湯を供給でき且つ水資源を飲料用として一層有効に活用できる浴場設備を提供する。
【解決手段】浴場設備は、原水槽1から汲み上げた水を所定温度に加熱して湯として共同浴槽3へ供給する給湯ラインAと、共同浴槽3から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して共同浴槽3へ還流する循環ラインBと、原水槽1から汲み上げた水を純水製造装置6によって純水に精製し且つ当該純水を所定温度に加熱して湯として個別浴槽7へ供給する第2の給湯ラインCとを備えている。第2の給湯ラインCには、精製された純水を貯蔵する純水貯槽64が備えられ、当該純水貯槽には、系外に純水を供給する純水供給手段9が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴場設備に関するものであり、詳しくは、多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽と一人の入浴者が利用する個別浴槽とが設置された浴場設備であって、浴用の水資源を飲料水として供給できるようにした浴場設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公衆浴場では、水および熱を有効利用するため、多数の入浴者が同時に使用する共同浴槽において湯を循環利用している。一般的な浴場設備は、浴槽から湯を抜き出し、これに消毒剤を添加し且つ濾過処理を施した後、浴槽へ戻している(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−82918
【特許文献2】特開2006−192373
【特許文献3】特開平9−117382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、公衆浴場においては、共同浴槽の湯を消毒、濾過しながら循環利用するにせよ、一人で浴槽を利用し且つよりきれいな湯を使用したいという要望があり、共同浴槽とは別に、個人用浴槽を設置する傾向にある。一方、緊急時における水資源の確保の観点からすると、浴場に利用される水の飲料水への転用が要望される。
【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽と一人の入浴者が利用する個別浴槽とが設置された浴場設備であって、個別浴槽に一層きれいな湯を供給でき且つ水資源を飲料用として一層有効に活用できる浴場設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明では、給湯ラインにより、原水槽の水を加熱して湯として共同浴槽へ供給し、循環ラインにより、共同浴槽から回収した湯に消毒、濾過処理を施してこれを再び共同浴槽へ還流すると共に、一層きれいな湯を個別浴槽に供給するため、第2の給湯ラインにより、原水槽の水から純水を製造し、これを加熱して湯として個別浴槽へ供給するようにした。そして、緊急時における飲料水確保のため、第2の給湯ラインにおいて、製造された純水を一旦貯蔵し、これを飲料用として系外に供給できるようにした。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽と、一人の入浴者が利用する個別浴槽とが設置された浴場設備であって、原水槽から汲み上げた水を所定温度に加熱して湯として前記共同浴槽へ供給する給湯ラインと、前記共同浴槽から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して前記共同浴槽へ還流する循環ラインと、前記原水槽から汲み上げた水を純水製造装置によって純水に精製し且つ当該純水を所定温度に加熱して湯として前記個別浴槽へ供給する第2の給湯ラインとを備えており、かつ、前記第2の給湯ラインには、前記純水製造装置によって精製された純水を貯蔵する純水貯槽が備えられ、当該純水貯槽には、系外に純水を供給する純水供給手段が設けられていることを特徴とする浴場設備に存する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浴場設備によれば、第2の給湯ラインにより、純水を加熱して得られた一層きれいな湯を個別浴槽に供給でき、また、第2の給湯ラインにおいて、純水貯槽に貯蔵された純水を純水供給手段によって系外に供給できるため、緊急時にはこれを直ちに飲料水として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る浴場設備の主要な構成を示すフロー図である。
【図2】循環ライン及び再利用ラインに使用される濾過装置を示す外観斜視図である。
【図3】図2の濾過装置の内部構造を示す縦断面図である。
【図4】第2の給湯ラインに使用される純水製造装置の概要を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る浴場設備の一実施形態を図面に基づいて説明する。本発明の浴場設備は、図1に示すように、多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽3と、一人の入浴者が利用する個別浴槽7とが設置された設備であり、給湯ラインA、循環ラインB、第2の給湯ラインC及び再利用ラインDから主として構成される。
【0011】
給湯ラインAは、原水槽1から汲み上げた水を所定温度に加熱して共同浴槽3へ湯として供給するラインであり、原水槽1から水を汲み上げる汲上げ管20及びポンプ21と、当該ポンプから配管22を通じて供給された水を濾過する無撚糸フィルター23と、当該無撚糸フィルターで濾過され且つ配管24を通じて供給された水を加熱するボイラー2aと、当該ボイラーで製造された湯が配管25を通じて供給される熱交換器4と、当該熱交換器に通過させた湯を共同浴槽3へ供給する給湯管26とから構成される。
【0012】
原水槽1は、例えば貯水量100〜500トン程度の水槽であり、ポンプ(図示省略)で例えば井戸水を汲み上げると共に、フロートセンサーで当該原水槽の液面を検出して前記ポンプを制御することにより、常時、所定量の原水を貯蔵するようになされている。ポンプ21は、原水槽1内に設置される水中ポンプでもよい。無撚糸フィルター23は、平均直径1〜50μmの無撚糸の集合体をフィルターエレメントとして容器に充填したものであり、原水中のSS成分や砂などの異物を除去するために配置される。無撚糸フィルター23は複数設置されてもよく、その容器の全内容積は10〜200リットル程度に設計され、無撚糸の全充填量は0.5〜50kg程度とされる。
【0013】
ボイラー2aとしては、例えば、熱媒体としての水がポンプで循環する循環路中に複数の伝熱パイプを配置し、バーナーで燃料ガスを燃焼させてその燃焼ガス及び排ガスを前記の伝熱パイプに通過させることにより、循環路中の熱媒体である水を加熱すると共に、前記の循環路に付設された熱交換器を介して、当該熱交換器に通水された水を二次加熱する構造の無圧ボイラーが使用される。給湯ラインAにおいては、上記のようなボイラー2aにより、無撚糸フィルター23で濾過された常温の水を原料として、35〜80℃の湯を0.01〜1m/分製造するように設計される。
【0014】
熱交換器4は、ボイラー2aで加熱された湯を使用し、後述する循環ラインBの湯を昇温するために配置される。熱交換器4としては、例えば、肉厚0.1〜0.4mm、外径5.0〜5.5mmのステンレス又はチタン製の細管を内径60〜200mm、長さ900〜1800mm程度の外套管の内部に多数挿通し、一方の流体を外套管の一端から他端に流し、他方の流体を細管の一端から他端に流すことにより、外套管側の流体と細管側の流体とで熱交換を行ういわゆる多管式熱交換器が使用される。給湯ラインAにおいては、上記のような熱交換器4を使用し、ボイラー2aで製造された湯の温度の温度を30〜50℃に調整するようになされている。なお、給湯管26は、通常、熱交換器4で温度調節された湯を共同浴槽3の上部に注ぐように配置される。
【0015】
共同浴槽3は、貯水量10〜100トン程度の浴槽本体30と、当該浴槽本体の上縁部に切り欠いた構造に設けられたオーバフロー口32と、浴槽本体30に隣接して配置され且つオーバフロー口32から溢れた湯を貯留する回収槽31とを備えており、共同浴槽3に貯留された湯の水面部分が回収槽31に溢れ出るように構成される。そして、回収槽31に底部には、循環ラインBの上流端としての抜出し管40が接続される。なお、洗い場側には、共同浴槽3から床に溢れて排水ピットに流れ込んだ湯を系外に排出する排水管33が設けられる。
【0016】
循環ラインBは、共同浴槽3から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して再び共同浴槽へ還流するラインであり、上記の回収槽31の底部から湯を抜き出す抜出し管40及びポンプ42と、当該ポンプから配管43を通じて供給された湯を濾過する濾過装置5aと、配管43を流れる湯に消毒剤を添加する消毒剤添加装置41と、濾過装置5aで濾過された湯が配管44を通じて供給される前述の熱交換器4と、当該熱交換器に通過させた湯を共同浴槽3へ供給する給湯管45とから構成される。
【0017】
消毒剤添加装置41は、塩素系消毒剤を湯に添加する装置であり、例えば、消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムの1〜12%水溶液を収容する貯蔵容器と、当該貯蔵容器に付設された注入ポンプと、当該注入ポンプから配管43に繋ぎ込まれた消毒剤注入管と、当該消毒剤注入管よりも上流側の配管43の湯を試料として抽出し且つ当該試料中の塩素濃度を検出する塩素濃度計とから構成され、注入ポンプは、塩素濃度計で検出された試料中の塩素濃度が設定値に満たない場合に作動するように構成される。循環ラインBにおいては、消毒剤添加装置41により、配管43に流れる湯中の塩素濃度を略一定に保つことができる。
【0018】
濾過装置5aとしては、砂礫、珪藻土あるいは多孔質構造のセラミックが濾材として充填された従来公知の各種の濾過装置を使用することもできるが、保守管理の観点からは、濾材としてスポンジシートを使用した組立方式の装置が好ましい。図2及び図3に示すように、濾過装置5aは、上部に被処理水の導入口(配管43の接続口)が設けられ且つ下部に濾過水の排出口(配管44の接続口)が設けられた容器本体51と、当該容器本体に装入されて容器本体内部を上下に仕切る濾材収容篭53とを備えている。濾材収容篭53は、容器本体51の内壁上部に張出片として設けられた掛止部51cに対し、当該濾材収容篭の上端周縁に鍔として設けられた張出片53cを引掛けることにより、容器本体51内において吊持されるようになされている。
【0019】
濾材収容篭53は、底部を含む下半部が多孔状の材料で構成され且つ上端面が開放された上半部が非透水性の材料で構成される。濾材収容篭53の上半部には、格子構造の底部を各備えた2つの受皿54が重箱状に積み重ねられた状態で収容される。上段側の第1の受皿54aには、第1のスポンジシート551が濾材として敷かれ、下段側の第2の受皿54bには、第1のスポンジシート551よりも低発泡の第2のスポンジシート552が濾材として敷かれる。そして、第1の受皿54a及び第2の受皿54bの各側面の同等の部位には、濾材点検用窓がそれぞれ設けられ、かつ、容器本体51の側面部および濾材収容篭53の上半部には、前記の各濾材点検用窓に重畳する位置に覗き窓512(濾材収容篭53の覗き窓は図示省略)が設けられる。
【0020】
また、上記の覗き窓512の設けられていない容器本体1の他の側面部には、濾材収容篭53の内部に光を照射する白色LEDライト等の照明具57が付設される。符号52は、容器本体51の上蓋を示し、符号56は、第1の受皿54aに落し込まれる多孔構造の蓋を示し、符号531は、濾材収容篭53を容器本体51に出し入れする際に当該濾材収容篭を持ち上げるための把手を示す。
【0021】
スポンジシート551,552としては、ポリウレタン、塩化ビニル、ポリエチレン等の各種合成樹脂からなる伸張性および通水性に優れたスポンジシートが使用される。第1のスポンジシート551の嵩密度は30〜60kg/m程度、第2のスポンジシート552の嵩密度は50〜80kg/m程度であり、各スポンジシート551,552の厚さ(吸水していない常態厚さ)は3〜10mm程度である。蓋56は、大きな異物、具体的には包装容器、包装容器の蓋、包装袋、紙片などを除去する濾材であり、第1のスポンジシート551は、湯中の比較的大きな異物、具体的には毛髪、タオル等の糸くず、皮膚片などを除去するための濾材であり、そして、第2のスポンジシート552は、湯中の更に小さな異物、具体的には垢、滑り、濁り等を除去するための濾材である。
【0022】
上記の濾過装置5aにおいては、容器本体51の側面部の覗き窓512、濾材収容篭53の覗き窓ならびに第1の受皿54a及び第2の受皿54bの各濾材点検用窓を通じて、第1のスポンジシート551及び第2のスポンジシート552の各表面を観察でき、それらの劣化状態を簡単に確認できる。そして、濾材が劣化した場合には、容器本体51の上蓋52を外し、容器本体51から濾材収容篭53を引き上げるようにして取り出し、蓋56、第1の受皿54a、第2の受皿54bを濾材収容篭53から取り出すことにより、第1のスポンジシート551及び第2のスポンジシート552を簡単に交換でき、また、濾材収容篭53、第1の受皿54a、第2の受皿54b、蓋56をそれぞれに洗浄できる。
【0023】
循環ラインBにおいては、濾過装置5aで濾過された湯が熱交換器4に供給されるようになされている。すなわち、本発明の浴場設備では、給湯ラインAにおいて、原水槽1のから汲み上げてボイラー2aで予め35〜80℃まで加熱された湯を熱交換器4に通水し、循環ラインBにおいて、共同浴槽3から回収された例えば20〜45℃湯を熱交換器4に通水することにより、熱交換器4において熱交換を行い、給湯ラインAの給湯管26及び循環ラインBの給湯管45からそれぞれ30〜50℃の湯を共同浴槽3に供給するようになされている。これにより、1基のボイラー2aで循環ラインBの湯も加熱することができる。なお、循環ラインBの給湯管45は、通常、熱交換器4で温度調節された湯を共同浴槽3の底部側に供給するように接続される。
【0024】
第2の給湯ラインCは、原水槽1から汲み上げた水を純水製造装置6によって純水に精製し且つ当該純水を所定温度に加熱して個別浴槽7へ湯として供給するラインであり、原水槽1から水を汲み上げる汲上げ管60及びポンプ61と、当該ポンプから配管62を通じて供給された水を濾過して純水を製造する純水製造装置6と、当該純水製造装置で得られ且つ配管63を通じて供給された純水を貯留する純水貯槽64と、当該純水貯槽の純水を取り出す配管65及びポンプ66と、当該ポンプから配管67を通じて供給された純水を加熱するボイラー2bと、当該ボイラーで製造された湯を個別浴槽7へ供給する給湯管68とから構成される。
【0025】
純水製造装置6としては、逆浸透膜を利用した濾過装置が使用される。逆浸透膜を利用した純水製造装置の基本的な構造は周知であり、純水製造装置6は、例えば、図4に示すように、殺菌用の塩素添加装置601と、無撚糸フィルター602、活性炭フィルター603及びガードフィルター604を順次配置してなる前処理装置と、逆浸透膜モジュール606とから主として構成される。
【0026】
塩素添加装置601は、例えば粒状の塩を収容する容器、当該容器に付設された定量ポンプ(図示省略)、および、前記の容器から配管62に繋ぎ込まれた注入管などから構成され、定量ポンプによって微量の水を容器に供給することにより、容器内の塩を溶解し、注入管を通じて、配管62中の原水に塩素成分を添加するようになされている。無撚糸フィルター602は、平均直径0.5〜10μmの無撚糸の集合体をフィルターエレメントとして容器に充填したものであり、原水中のSS成分や砂などの異物を除去するために配置される。無撚糸フィルター602は複数設置されてもよく、その容器の全内容積は10〜200リットル程度、無撚糸の全充填量は0.5〜50kg程度である。
【0027】
活性炭フィルター603は、平均粒径4〜60mmの活性炭を容器に収容して構成され、原水中の残留塩素を除去するために配置される。活性炭フィルター603の容器の内容積は0.01〜2m程度、活性炭の充填量は5〜1000kg程度である。また、ガードフィルター604は、平均粒径4〜60mmの活性炭を容器に充填して構成され、原水中の更に微細な微粒子を除去し、逆浸透膜モジュール606を保護するために配置される。ガードフィルター604の容器の内容積は10〜200リットル程度、活性炭の充填量は0.5〜50kg程度である。なお、活性炭フィルター603、ガードフィルター604に代えて、カーボンフィルターを使用することもできる。
【0028】
逆浸透膜モジュール606は、原水中に含まれる食塩などの電解質およびシリカ成分や硬度成分などの難溶解性物質の浸透を逆浸透膜(RO)で阻止し且つ水分のみを透過させることにより、脱塩処理された透過水と濃縮水とに原水を分離するものであり、逆浸透膜と当該逆浸透膜により区分された2つの領域、すなわち、処理すべき水が供給される領域と分離された透過水を集約する領域とから構成される。逆浸透膜の素材としては、酢酸セルロース系、ポリアミド系、架橋ポリアミン系、架橋ポリエーテル系、スルホン化ポリスルホン等の素材が挙げられる。また、膜エレメントの構造としては、スパイラル型、中空糸型、チューブラー型などが挙げられる。
【0029】
上記の純水製造装置6においては、前述のポンプ61により配管62を通じて供給された原水に塩素添加装置601で塩素成分を添加した後、斯かる原水が無撚糸フィルター602に供給される。無撚糸フィルター602で濾過された濾過水は、管路611を通じてカーボンフィルター603に供給され、無撚糸フィルター602で分離された濃縮水は、管路619,626を通じて系外に排出される。カーボンフィルター603で濾過された濾過水は、管路612を通じて更にカーボンフィルター604に供給され、カーボンフィルター603で分離された濃縮水は、管路619,626を通じて系外に排出される。更に、カーボンフィルター604で濾過された濾過水は、管路613、617及び昇圧用のポンプ605並びに管路618を通じて逆浸透膜モジュール606に供給される。カーボンフィルター604で分離された濃縮水は、上記と同様に、管路619,626を通じて系外に排出される。
【0030】
逆浸透膜モジュール606においては、逆浸透膜を透過させて塩類やその他の不純物、細菌類が完全に除去された純水を精製する。逆浸透膜モジュール606で得られた純水は、管路620から取り出され、配管63を通じて純水貯槽64へ供給される。また、逆浸透膜モジュール606で分離された濃縮水は、管路623及び上記の管路626を通じて系外に排出される。第2の給湯ラインCにおいては、上記の純水製造装置6を使用し、電気伝導率0.15〜15S/mの純水または不純物濃度0.1〜10ppmの純水、好ましくは電気伝導率0.15〜0.80S/mの純水または不純物濃度0.1〜0.5ppmの純水を製造するようになされている。図4中、符号614,624は電磁弁、符号621,625は逆止弁を示し、符号616,622は、水の電気伝導度を測定する水質計を示す。
【0031】
図1に示すように、純水貯槽64は、純水製造装置6で製造された純水を貯留する貯水量1〜5トン程度の水槽であり、フロートセンサーで液面を検出して前述の純水製造装置6の稼働を制御することにより、常時、所定量の純水を貯蔵するようになされている。ボイラー2bは、前述の給湯ラインAのボイラー2aと同様の無圧ボイラーであり、純水貯槽64から供給される常温の純水を原料として、35〜80℃の湯を0.01〜1m/分製造するように設計される。なお、給湯管68は、通常、個別浴槽7の上部または当該個別浴槽に付設された蛇口に接続され、また、個別浴槽7に取り付けられたシャワーに接続される。
【0032】
個別浴槽7は、例えば1〜10基設置される。個別浴槽7としては、浸透力の強い上記の純水を使用するため、漏水を防止する観点から、通常はFRP成形された槽が使用される。個別浴槽7の形状は、適宜の形状に設計できるが、1回の入浴ごとに湯を交換するため、効率的な水利用と省エネルギー化を図る観点から、個別浴槽7の大きさは、通常、幅65〜75cm程度、長さ90〜120cm程度、深さ50〜60cm程度に設計される。なお、洗い場側には、個別浴槽7から床に溢れて排水ピットに流れ込んだ湯を系外に排出する排水管71が設けられる。
【0033】
本発明の浴場設備においては、浴用の水資源を飲料用に使用できるように、上記の第2の給湯ラインCには、純水製造装置6によって精製された純水を貯蔵する純水貯槽64が備えられ、当該純水貯槽には、系外に純水を供給する純水供給手段9が設けられる。すなわち、純水貯槽64は、貯蔵した純水を純水供給手段9によって直接外部へ抜出し可能に構成される。
【0034】
純水供給手段9としては、ポンプ66を利用して純水貯槽64の純水を系外に供給する手段、または、純水貯槽64に貯蔵された純水の水圧(ヘッド差)を利用して系外に供給する手段が挙げられる。例えば、ポンプ66を利用した純水供給手段9は、図1に例示するように、切替弁90を介して配管67から分岐して設けられた配管91、除菌フィルター92及び抜出し管93とから構成される。また、図示しないが、水圧を利用した純水供給手段9は、切替弁を介して配管65から分岐して設けられた配管、あるいは、純水貯槽64の底部に直接取り付けられ且つ開閉弁が介装された抜出し用の配管で構成される。
【0035】
更に、本発明においては、純水貯槽64の純水を飲料水として使用するため、純水貯槽64の内部には、紫外線ランプ64vが付設されてもよい。紫外線ランプ64vとしては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、キセノン−水銀ランプ等のランプが使用される。紫外線ランプ64vの出力は、高圧水銀ランプの場合で0.1〜10kW程度である。紫外線ランプ64vは、紫外線の照射効率を高め且つ保守管理を容易にする観点から、純水貯槽64の高さ方向に沿わせて配置され、また、純水との直接の接触を避けるため、石英、硬質ガラス等からなる外套管に挿入される。なお、除菌フィルター92は、貯蔵中の純水に大気から雑菌が混入した場合に更にこれを除去するための中空糸膜フィルターである。
【0036】
再利用ラインDは、上記の個別浴槽7から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して共同浴槽3へ供給するラインであり、個別浴槽7の底部から湯を抜き出す抜出し管80及びポンプ82と、当該ポンプから配管83を通じて供給された湯を濾過する濾過装置5bと、配管83を流れる湯に消毒剤を添加する消毒剤添加装置81と、濾過装置5bで濾過され且つ配管84を通じて供給された湯を貯留する中継貯槽85と、当該中継貯槽の湯を汲み上げる汲上げ管86及びポンプ88と、当該ポンプにより送液される湯を前述の循環ラインBに供給する配管89とから構成される。
【0037】
消毒剤添加装置81は、前述の循環ラインBの消毒剤添加装置41と同様の装置であり、次亜塩素酸ナトリウム水溶液の貯蔵容器、塩素注入配管、注入ポンプ、塩素濃度計とから構成される。また、濾過装置5bとしては、前述の循環ラインBの濾過装置5aと同様の図2及び図3に示す装置が使用される。
【0038】
すなわち、濾過装置(5b)は、上部に被処理水の導入口が設けられ且つ下部に濾過水の排出口が設けられた容器本体(51)と、当該容器本体に装入されて容器本体内部を上下に仕切る濾材収容篭(53)とを備え、当該濾材収容篭の上半部には、格子構造の底部を各備えた2つの受皿(54)が重箱状に積み重ねられた状態で収容され、上段側の第1の受皿(54a)には、第1のスポンジシート(551)が濾材として敷かれ、下段側の第2の受皿(54b)には、第1のスポンジシート(551)よりも低発泡の第2のスポンジシート(552)が濾材として敷かれている。上記の濾過装置5bにおいては、濾材の劣化状態や湯の濁度を確実に視認でき、濾材が汚れた場合には、簡単に濾材を交換でき且つ部品を洗浄できる。
【0039】
中継貯槽85は、個別浴槽7から回収され且つ上記の濾過装置5bで濾過された湯を一時的に貯留する貯水量0.5〜3トン程度の断熱水槽である。また、中継貯槽85から湯を汲み出すポンプ88は、当該中継貯槽の湯の液面をフロートセンサーで検出し、湯の貯蔵量が予め設定された下限量以上の場合に稼働するようになされている。なお、中継貯槽85においては、湯の貯蔵量が上限量を超える場合は、上部に設けられたホーバーフロー管(図示省略)から系外に排出されるように構成される。また、汲上げ管86には、大気から湯中に混入した雑菌などを除去するため、中空糸をフィルターエレメントとして容器に充填してなる中空糸膜フィルター87が介装されてもよい。
【0040】
本発明においては、中継貯槽85に蓄えられた利用済みの湯を共同浴槽3で使用するため、中継貯槽85から湯を汲み上げるポンプ88の吐出側の配管89は、前述の循環ラインBの濾過装置5aの下流側の配管44に接続される。すなわち、再利用ラインDは、熱交換器4よりも上流側で循環ラインBに繋ぎ込まれる。これにより、個別浴槽7から排出される湯と熱を共同浴槽3において有効に再利用できる。
【0041】
次に、本発明の浴場設備の運転方法について説明する。本発明の浴場設備においては、給湯ラインAで湯を製造して共同浴槽3に供給し、循環ラインBにより共同浴槽3の湯を循環させると共に、第2の給湯ラインCで純水を製造し且つ当該純水から湯を製造して個別浴槽7に供給し、そして、再利用ラインDにより個別浴槽7の湯を個別浴槽7で再利用する。
【0042】
具体的には、給湯ラインAにおいては、汲上げ管20、ポンプ21及び配管22を通じて原水槽1から原水を汲み上げ、無撚糸フィルター23で濾過する。次いで、濾過した水を配管24からボイラー2aに供給し、これを加熱して例えば80℃の湯を製造する。得られた湯は、配管25を通じて熱交換器4に通水し、循環ラインBの湯に熱の一部を放出することにより、湯の温度を例えば50℃に調節する。そして、斯かる湯を給湯管26から共同浴槽3に供給する。共同浴槽3に最初に湯を満たした後は、共同浴槽3への湯の供給量を利用者数に応じてある程度絞り、一定流量の湯を共同浴槽3に供給する。
【0043】
また、循環ラインBにおいては、抜出し管40、ポンプ42及び配管43を通じて共同浴槽3から利用済みの湯を抜き出すと共に、消毒剤添加装置41により消毒剤を所定流量で配管43の湯に添加する。次いで、斯かる湯を濾過装置5aに供給して濾過処理を行う。濾過された湯は、配管44を通じて熱交換器4に通水し、上記の給湯ラインAの湯との熱交換により、湯の温度を例えば50℃に調節する。そして、斯かる湯を給湯管45から共同浴槽3に供給する。
【0044】
一方、第2の給湯ライン(C)においては、汲上げ管60、ポンプ61及び配管62を通じて原水槽1から原水を汲み上げ、これを純水製造装置6に供給する。純水製造装置6においては、配管62から供給される原水に塩素添加装置601によって塩素を添加して滅菌処理を施した後、無撚糸フィルター602、カーボンフィルター603及び604によって順次に濾過することにより、原水中の異物を除去する。濾過された水は、ポンプ605で昇圧して逆浸透膜モジュール606に供給し、電解質、シリカ成分および硬度成分を除去して純水に精製する。次いで、得られた純水は、配管63を通じて純水貯槽64に一旦貯蔵する。純水貯槽64の純水は、必要に応じて、配管65及びポンプ66を通じて汲み上げ、配管67を通じてボイラー2bに供給し、当該ボイラーで加熱して例えば50℃の湯を製造する。そして、斯かる湯を給湯管68から個別浴槽7に供給する。
【0045】
また、再利用ラインDにおいては、使用後の個別浴槽7から抜出し管80、ポンプ82及び配管83を通じて利用済みの湯を抜き出すと共に、消毒剤添加装置81により配管83の湯に消毒剤を添加する。次いで、斯かる湯を濾過装置5bに供給して濾過処理を行う。濾過された湯は、配管84を通じて中継貯槽85に一旦貯蔵する。中継貯槽85の湯は、汲上げ管86及びポンプ88を通じて汲み上げると共に、中空糸膜フィルター87で異物を除去した後、配管89を通じて循環ラインBの配管44へ送液することにより、循環ラインBの湯に混合して共同浴槽3において再利用する。
【0046】
更に、上記の第2の給湯ラインCの純水貯槽64には、個別浴槽7で使用する浴用の純水が貯蔵されているため、飲料水が不足する緊急時には、純水貯槽64の純水を純水供給手段9により系外に抜き出して、飲料水として使用することができる。すなわち、純水貯槽64の純水を飲料水として使用する場合は、切替弁90を操作し、ポンプ66から下流側の流路を配管91、除菌フィルター92、抜出し管93に切り替えることにより、抜出し管93を通じて系外の容器やタンクローリーに純水を供給する。
【0047】
上記のように、本発明の浴場設備では、給湯ラインAにより、原水槽1の水を加熱して湯として共同浴槽3へ供給し、循環ラインBにより、共同浴槽3から回収した湯に消毒、濾過処理を施してこれを再び共同浴槽3へ還流する一方、第2の給湯ラインCにより、原水槽1の水から純水を製造し、これを加熱して一層きれいな湯として個別浴槽7へ供給することができる。そして、第2の給湯ラインCには、純水製造装置6によって精製された純水を貯蔵する純水貯槽64が備えられ、斯かる純水貯槽64には、系外に純水を供給する純水供給手段9が設けられているため、緊急時には、純水貯槽64内の純水を直ちに飲料水として供給することができる。換言すれば、本発明によれば、浴用の水を飲料用として有効に活用できる。
【0048】
また、本発明の浴場設備では、再利用ラインDにより、個別浴槽7から排出される利用済みではあるが十分にきれいな湯を回収し、斯かる湯に消毒、濾過処理を施して循環ラインBから共同浴槽3へ供給するため、水資源と熱を有効に再利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 :原水槽
2a :ボイラー
2b :ボイラー
3 :共同浴槽
30 :浴槽本体
31 :回収槽
4 :熱交換器
41 :消毒剤添加装置
5a :濾過装置
5b :濾過装置
6 :純水製造装置
606:逆浸透膜モジュール
64 :純水貯槽
64v:紫外線ランプ
7 :個別浴槽
81 :消毒剤添加装置
85 :中継貯槽
9 :純水供給手段
A :給湯ライン
B :循環ライン
C :第2の給湯ライン
D :再利用ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の入浴者が同時に利用する共同浴槽(3)と、一人の入浴者が利用する個別浴槽(7)とが設置された浴場設備であって、原水槽(1)から汲み上げた水を所定温度に加熱して湯として共同浴槽(3)へ供給する給湯ライン(A)と、共同浴槽(3)から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して共同浴槽(3)へ還流する循環ライン(B)と、原水槽(1)から汲み上げた水を純水製造装置(6)によって純水に精製し且つ当該純水を所定温度に加熱して湯として個別浴槽(7)へ供給する第2の給湯ライン(C)とを備えており、かつ、第2の給湯ライン(C)には、純水製造装置(6)によって精製された純水を貯蔵する純水貯槽(64)が備えられ、当該純水貯槽には、系外に純水を供給する純水供給手段(9)が設けられていることを特徴とする浴場設備。
【請求項2】
第2の給湯ライン(C)の純水製造装置(6)が、逆浸透膜を利用した濾過装置である請求項1に記載の浴場設備。
【請求項3】
給湯ライン(A)で得られた湯と循環ライン(B)で濾過された湯との間で熱交換する熱交換器(4)を備えている請求項1又は2に記載の浴場設備。
【請求項4】
個別浴槽(7)から抜き出した利用済みの湯に消毒剤を添加し且つ当該湯を濾過して共同浴槽(3)へ供給する再利用ライン(D)を備えている請求項1〜3の何れかに記載の浴場設備。
【請求項5】
再利用ライン(D)は、熱交換器(4)よりも上流側で循環ライン(B)に繋ぎ込まれている請求項4に記載の浴場設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−232238(P2012−232238A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100965(P2011−100965)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(396020305)株式会社イフェクト (6)
【Fターム(参考)】