説明

養殖支援方法及び養殖方法

【課題】魚の養殖において今まで的確に把握することが困難であった、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を、魚を殺すことなく簡便に評価して、前記養殖を効率的に支援できる方法、該方法を用いた魚の養殖方法、並びに養殖フグの健康状態を簡便に診断する方法を提供すること。
【解決手段】養殖魚から採血し、その血液中における、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を評価し、正常範囲から外れた含有量を示す血液成分の種類に応じて、養殖場における養殖魚の密度、餌の種類、餌の鮮度、餌の栄養強化、給餌率、給餌回数、病原体の感染の確認及び治療並びに水質の確認及び改善からなる群より選ばれる1種以上の養殖条件を調整することを提示する養殖支援方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚養殖の支援方法及びこの支援方法を用いた魚の養殖方法に関する。また、本発明は、養殖フグの健康診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における魚の養殖方法は、海面の網生簀、陸上タンク掛け流し養殖、陸上循環濾過養殖の3種に大別されるが、いずれも高密度で魚を養殖する方法であり、自然環境とは大きく異なる状況下で魚が飼育されている。このため、各養殖場内の魚(以下、養殖魚という)は、養殖が完了するまで、その健康を維持するために様々な処置が施されている。
【0003】
例えば、近年、養殖が盛んに行われているフグは、するどい歯を持っており、ストレスが高まると互いに噛み合いをすることが知られている。したがって、フグの養殖では魚体を守るために歯切りが必須とされている。
また、フグは、マダイやブリと異なり、鱗がないことや高速で遊泳できないことなどにより、寄生虫や感染症にかかりやすいといわれている。したがって、寄生虫やウイルスを駆除するために、フグの養殖では他の魚と比べても多種類の駆虫剤や抗生物質が使用されている。
しかしながら、過度の歯切り、過度の駆虫剤や抗生物質の使用は、しばしば養殖フグの抵抗力を低下させてしまうことがある。
【0004】
また、従来の養殖場において、噛み合いや、寄生虫、感染症などの異常が発生した場合、傷ついたり罹患した養殖フグは廃棄しなければならないだけでなく、生き残った養殖フグにも様々な悪影響が生じるなど、後処理が煩雑になるという問題がある。
【0005】
そこで、養殖業者は、養殖フグの魚体の色の変化、餌食いの状況、成長などのフグの様子を常に観察しながら、養殖業者自身の経験と勘に基づいて養殖フグの状態を判断して養殖環境を調整することで、養殖フグの健康状態を管理して前記のような異常の発生を抑制するようにしている。しかしながら、これらの調整には、非常な労力と経験を必要としている。
【0006】
一方、魚類における異常の検出方法としては、特許文献1に記載されるような方法が知られている。しかしながら、この方法では、検査用に選択された魚は開腹されてしまうため生き残れず、また、検査のたびに魚を失うために、同じ養殖場内の魚の状況をより客観的に把握しようとしてサンプリングする魚の数を増やしたり、さらには検査回数を増やすのは難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−037368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
養殖業者にとって、前記のような養殖場内の異常の発生するリスクを最小限に抑えて、品質の高い養殖魚を飼育するためには、養殖期間中の養殖魚の健康状態、特にストレス状態及び肝機能状態の的確な把握が必須である。ストレス状態及び肝機能状態が正常といえる状態にある養殖魚であれば、様々な養殖環境の変化に対しても異常を引き起こすことなく成長していくことが期待できる。しかしながら、養殖の現場では養殖業者の経験と勘以外には養殖魚の健康状態を把握できるような方法は知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、魚の養殖において今まで的確に把握することが困難であった、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を、魚を殺すことなく簡便に評価して、前記養殖を効率的に支援できる方法、並びに前記養殖支援方法を用いる魚の養殖方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、フグ養殖において今まで的確に把握することが困難であった、養殖フグのストレス状態又は肝機能状態を簡便に診断する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、魚の養殖における異常の発生を抑制するための手法を種々検討したところ、トラフグ養殖における異常の発生が養殖トラフグのストレス状態や肝機能状態と関連性があること、そしてこのストレス状態や肝機能状態を表す特定の血液成分が存在し、これらの血液成分の含有量を測定することで養殖トラフグの状態を簡便に評価でき、この結果に基づいて養殖を支援できることを見出して、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕養殖魚から採血し、
その血液中における、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を評価し、
正常範囲から外れた含有量を示す血液成分の種類に応じて、養殖場における養殖魚の密度、餌の種類、餌の鮮度、餌の栄養強化、給餌率と給餌回数、病原体の感染の確認と治療、水質の確認と改善からなる群より選ばれる1種以上の養殖条件を調整することを提示する、養殖支援方法、
〔2〕さらに養殖魚の栄養状態を評価する前記〔1〕記載の養殖支援方法、
〔3〕前記ストレス状態の指標が、血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量からなる群より選ばれる1種以上であり、前記肝機能状態の指標がALP、ALT及びASTからなる群より選ばれる1種以上である、前記〔1〕又は〔2〕記載の養殖支援方法、
〔4〕前記血液成分の正常範囲が、同じ飼育状況の下で飼育されている養殖魚群の中から外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液を測定し、その血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の平均値から所定の範囲である前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の養殖支援方法、
〔5〕前記平均値から所定の範囲が、前記外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の最大値を最小値で割って得られる値(x)が1.0以上2.0未満の場合に平均値±5%、
前記値(x)が2.0以上3.0未満の場合に平均値±10%、
前記値(x)が3.0以上4.0未満の場合に平均値±15%、
前記値(x)が4.0以上5.0未満の場合に平均値±20%、
前記値(x)が5.0以上の場合に平均値±25%とする、前記〔4〕記載の養殖支援方法、
〔6〕前記平均値から所定の範囲(y)が前記xとの近似曲線から算出される前記〔5〕載の養殖支援方法、
〔7〕前記養殖魚が海水魚又は淡水魚である前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の養殖支援方法、
〔8〕前記養殖魚がフグである前記〔7〕記載の養殖支援方法、
〔9〕定期的に同じ養殖場にいる養殖魚から採血した血液を、前記〔1〕〜〔8〕いずれか記載の養殖支援方法に供して提示された養殖条件に従って魚の養殖を行う、養殖方法、
〔10〕養殖フグから採血し、
その血液中における、養殖フグのストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖フグのストレス状態又は肝機能状態を評価することを特徴とする養殖フグの健康診断方法
に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の養殖支援方法により、今まで的確に把握することが困難であった、養殖魚のストレス状態及び栄養状態又は肝機能状態を、養殖魚を殺すことなく簡便に評価することが可能になり、魚の養殖を適切に支援することが可能になる。したがって、前記養殖支援方法に従うことで、所定の養殖場における養殖魚の健康管理が容易になり、噛み合いや感染症発生などのリスクの低減を図りながら、健康で商品価値の高い魚の養殖を安全且つ簡便に行うことが可能になる。
また、本発明の養殖フグの健康診断方法により、今まで的確に把握することが困難であった、養殖フグのストレス状態及び栄養状態又は肝機能状態を、フグを殺すことなく簡便に評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における養殖フグの血液成分における「幅倍率(Max/Min)」と「正常範囲幅係数」との間の相関性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の養殖支援方法は、
養殖魚から採血し、
その血液中における、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を評価し、
正常範囲から外れた含有量を示す血液成分の種類に応じて、養殖場における養殖魚の密度、餌の種類、餌の鮮度、餌の栄養強化、給餌率と給餌回数、病原体の感染の確認と治療、水質の確認と改善からなる群より選ばれる1種以上の養殖条件を調整することを提示する
ことを特徴とする。
【0015】
養殖対象の魚としては、養殖可能な海水魚、淡水魚であればよい。例えば、海水魚としては、トラフグ、ブリ(ハマチ)、マダイ、カンパチ、ヒラメ、クロマグロ、シマアジ、マアジ、ヒラマサ、イシダイ、カワハギ、メバル、カサゴ、クロダイ、スズキ、チダイ、マサバ、メジナ、マハタなどが挙げられる。淡水魚としては、コイ、アユ、ニジマス、イワナ、ドジョウ、ナマズなどが揚げられる。
【0016】
養殖形態としては、養殖魚の種類に応じて適当なものであれば特に限定はなく、例えば、日本で行われている海面の網生簀、陸上養殖池、陸上タンク掛け流し養殖、陸上循環濾過養殖などが挙げられる。
【0017】
採血する養殖魚の数としては、統計学的な観点から、同じ飼育状況の下で飼育されている養殖魚、具体的には、同じ養殖場にいる養殖魚を少なくとも3匹以上用いることが好ましく、さらに養殖魚の選択数が多いほど、その養殖場の状態をより正確に反映することになり、より的確に評価することができる。ただし、同じ条件で養殖していても個体差が大きいといわれる養殖魚(例えば、フグなど)については、6匹以上から採血することが好ましい。このように複数の養殖魚から採血することで、それらの一群の養殖魚の健康状態の傾向を判断することが可能になる。
【0018】
採血する養殖魚は、外観から健康と思われる魚のみを選択してもよいし、養殖場内で健康と思われる魚及び弱っていると思われる魚を混ぜるように選択してもよいし、弱っている魚のみを選択してもよい。
健康と思われる魚を選択した場合には、養殖場における様子から健康そうに思われる魚が、ストレス状態又は肝機能状態の点で健康であるかを確認することができる。
また、弱っていると思われる魚を選択した場合には、ストレス状態又は肝機能状態の点でも異常であるか、さらにはその弱っている原因を推測することができる。
また、採血される養殖魚は、採血の便宜さと魚への負担を考慮すれば、体重50g以上が望ましい。
【0019】
養殖魚からの採血は、注射器を用い、魚の静脈又は動脈に注射針を刺して採血すればよい。注射針を刺す静脈又は動脈の位置については、特に限定はないが、尻鰭又は尾鰭付近の比較的魚体への影響が少ない部分で行えばよい。また、前記注射針や注射器の種類としては、魚類で使用可能なものであればよく、針の大きさ、針及び注射器の材質については特に限定はない。
なお、採取する血液の量としては、後述の血液検査に必要な量を満たす必要があり、1ml程度であればよい。
採取された血液は、注射器内の血液を収容するチューブ内に導入された後、該チューブを注射器から取り外して専用の収容箱に入れ、保冷ボックス内で5℃付近に保管して、血液が変質しないようにしておく。
【0020】
次いで、前記血液中の養殖魚のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、その血液成分の含有量と、予め規定しておいた血液成分の正常範囲とを照合して、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を評価する。
【0021】
本発明において、養殖魚のストレス状態の指標となる血液成分としては、血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量が挙げられる。本発明者らは、塩分濃度、水温などの水質的ストレス、寄生虫、病原菌などの生物的ストレス、餌料の脂質酸化などの化学的ストレス、過密飼育による噛み合い、歯切りのなど管理的ストレスなど、各種の慢性的又は急性的ストレスを受けていると思われる多数の養殖フグから採血し、ストレスと相関関係がある血液成分について検討した結果、前記3種類の血液成分の血液中の含有量が、養殖フグのストレス状態を把握するのに適していることを確認している。したがって、3種類のうち、少なくとも1種類以上の血液成分の含有量により、フグに代表される養殖魚のストレス状態を把握することができる。
【0022】
血糖値は、血液内のグルコース(ブドウ糖)の濃度をいい、mg/dlの単位で示される。血糖値は、養殖魚のストレスの中でも急性ストレスに対する指標として有効である。したがって、血糖値が高いと、養殖魚が受けているストレスの状態としては、突然の水質変化、噛み合い、歯切りなどの急性ストレスが考えられる。また、前記血糖値は、養殖魚の栄養状態を判定することもでき、血糖値が低いと、養殖魚の栄養状態として、摂餌量の低下や餌料の消化不良が考えられる。
【0023】
アミラーゼは、血中のアミラーゼ量をいい、U/lの単位で示される。アミラーゼは、養殖魚のストレスの中でも慢性的ストレスに対する指標として有効である。したがって、アミラーゼが高いと、養殖魚が受けているストレス状態としては、病原体の感染や長期的な水質不良などが考えられる。また、前記アミラーゼは、養殖魚の栄養状態を判定することもでき、アミラーゼ量が低いと養殖魚の栄養状態として、慢性的消化吸収不良や餌料自体の栄養不足などが考えられる。
【0024】
総蛋白量は、血清の中の蛋白の総称で、主な成分はアルブミンとグロブリンをいい、g/dlの単位で示される。総蛋白量は、養殖魚のストレスの中でも慢性的ストレスに対する指標として有効である。したがって、総蛋白量が高いと、養殖魚が受けているストレス状態としては、病原体の感染や餌料の劣化などが考えられる。また、前記総蛋白量は、養殖魚の栄養状態を判定することもでき、総蛋白量が低いと養殖魚の栄養状態としては、慢性的消化吸収不良や餌料自体の栄養不足などが考えられる。
【0025】
また、本発明において、養殖魚の肝機能状態の指標となる血液成分としては、ALP、ALT及びASTが挙げられる。本発明者らは、感染症に罹患するなど肝機能状態が悪いと思われる多数の養殖フグから採血し、肝機能状態と相関関係がある血液成分について検討した結果、前記3種類の血液成分の血液中の含有量が、養殖フグの肝機能状態を把握するのに適していることを確認している。したがって、3種類のうち、少なくとも1種類以上の血液成分により、フグに代表される養殖魚の肝機能状態を把握することができる。
【0026】
ALPとは、アルカリホスファターゼをいい、U/lの単位で示される。ALPが高いと、養殖魚の肝機能状態としては、病原体の感染、餌料の脂質酸化、栄養バランス不良などが考られる。また、前記ALPは養殖魚の栄養状態を判定することもでき、ALPが低いと、養殖魚の栄養状態としては、消化吸収不良や餌料の栄養バランス不良などが考えられる。
【0027】
ALTとは、アラニンアミノトランスフェラーゼをいい、GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ)とも呼ばれ、U/lの単位で示される。ALTが高いと、養殖魚の肝機能状態としては、病原体の感染、餌料の脂質酸化、栄養バランス不良などが考えられる。また、前記ALTは養殖魚の栄養状態を判定することもでき、ALTが低いと、養殖魚の栄養状態としては、消化吸収不良や餌料の栄養バランス不良などが考えられる。
【0028】
ASTとは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをいい、GOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)とも呼ばれ、U/lの単位で示される。ASTが高いと、養殖魚の肝機能状態としては、病原体の感染、餌料の脂質酸化、栄養バランス不良などが考えられる。また、前記ASTは養殖魚の栄養状態を判定することもでき、ASTが低いと、養殖魚の栄養状態としては、消化吸収不良や餌料の栄養バランス不良などが考えられる。
【0029】
本発明では、前記の特定の血液成分を測定することで、養殖魚の外部には現れにくいストレス状態、肝機能状態、さらには栄養状態を把握することが可能になる。
【0030】
本発明では、前記血液成分の含有量の測定には、市販の動物用の血液分析装置を用いる。例えば、ベトスキャン(VetScan)やその他の市販の生化学自動分析システムなどの全自動型の血液分析装置が挙げられる。また、ELISA原理などを利用した市販の血液検査キットを用いて測定することもできる。なお、測定装置を決定した場合には、測定誤差のリスクを低減する観点から、以降の血液成分の測定は同じ装置を用い、同じ測定条件で行うようにする。
【0031】
本発明において、前記のように測定した血液成分の含有量を、該血液成分の正常範囲と照合するが、この正常範囲とは、ストレス状態、肝機能状態、さらには栄養状態の点で健康な養殖魚がもつ血液成分の範囲を示す。
【0032】
本発明者らは、養殖フグを用いることで、ストレス状態、肝機能状態及び栄養状態の点で健康(正常)といえる血液成分の正常範囲を算出することに初めて成功した。
即ち、養殖フグについては、魚齢に応じて、健康状態を示す平均的な体重、体長、肥満度、比肝重、及び体形、体色がほぼ確定している。したがって、これらの基準を満たす養殖フグ、噛み合いをしてストレスを過度に受けた養殖フグ、罹患して肝機能が低下した養殖フグなどから採血し、それらの血液成分の含有量を測定し、養殖フグの状態と血液成分の含有量とを対比することにより、外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液を測定し、その血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の平均値から所定の範囲を、ストレス状態及び肝機能状態、さらには栄養状態の点で「健康」といえる正常範囲とすることができる。
【0033】
前記血液成分の平均値は、測定した血液成分の含有量を合計し、サンプリングした養殖魚の匹数で割ることにより算出することができる。
【0034】
なお、平均値を測定するために測定した血液成分の数値が極端に相違している場合には、再検査することが可能であれば再検査し、再検査が不可能な場合は、この異常検体の測定結果をいれずに平均値を求めるというように処理している。
【0035】
前記平均値からの所定の範囲については、この範囲が広くなるほど、健康状態が正常と判定する基準が広がってしまうため、養殖している魚の性質に合せてその幅を調整することが必要である。
本発明者らは、養殖場内の健康な養殖フグと元気のない養殖フグ、更には感染症などに罹患した養殖フグ、噛み合いをした養殖フグから採血を行い、その血液成分の分析を行って比較検討したところ、前記のように算出した平均値±25〜5%の範囲が、養殖フグのストレス状態及び栄養状態又は肝機能状態が正常な状態である可能性が高く、養殖フグの健康状態を的確に把握できる基準として適当であると考えた。
そして、各血液成分によって最大値と最小値の範囲にばらつきがあることから、前記平均値から所定の範囲については、前記外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の最大値を最小値で割って得られる値(x)が1.0以上2.0未満の場合に平均値±5%、
前記値(x)が2.0以上3.0未満の場合に平均値±10%、
前記値(x)が3.0以上4.0未満の場合に平均値±15%、
前記値(x)が4.0以上5.0未満の場合に平均値±20%、
前記値(x)が5.0以上の場合に平均値±25%と設定することで、より正確な判定ができることを見出した。
【0036】
また、前記平均値から所定の範囲(y)は、前記xとの近似曲線を求めてから算出してもよい。算出には、表計算ソフト(例えば、マイクロソフト・オフィス・エクセル)を用いて、yを縦軸、前記xを横軸にとるようにデータを入力した後、ソフトの機能を利用して算出することができる。
例えば、養殖フグについては、後述の実施例に記載のように、前記平均値から所定の範囲(y)と前記xとの相関性について、近似曲線の計算式が得られており、この近似曲線の相関係数Rの2乗値が0.9727であることから、前記近似曲線を用いて得られる範囲は、養殖フグの各血液成分の状態が健康と判断する信頼性がより高い数値範囲であるいえる。
【0037】
したがって、本発明は、
養殖フグから採血し、
その血液中における、養殖フグのストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖フグのストレス状態及び肝機能状態を評価することを特徴とする養殖フグの健康診断方法に関する。
【0038】
ここで、養殖対象のフグとしては、食用のフグであり、経済性の観点から、トラフグが好ましいが、特に限定はない。
【0039】
なお、前記正常範囲は、予め健康と考えられる養殖魚を選別して、その血液成分を測定しておいてもよいが、養殖魚の血液状態は、魚齢、養殖場所、養殖方法、季節などにより影響を受けることも考えられることから、養殖場ごとに正常範囲を設定しておいてもよい。
【0040】
本発明では、養殖魚から得られた血液成分の含有量と、前記正常範囲とを照合して、正常範囲内であれば養殖魚のストレス状態又は肝機能状態、さらには栄養状態が「正常」であると評価する。
また、ストレス状態及び栄養状態の指標である血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量のうち、正常範囲より外れた血液成分が2つ以上であれば、ストレス状態又は栄養状態が「異常」であると評価する。例えば、血糖値が正常範囲内であっても、アミラーゼと総蛋白量が「異常」であれば、ストレス状態、さらには栄養状態は「異常」であると評価する。
なお、ストレス状態及び栄養状態の指標である血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量のうち、正常範囲より外れた血液成分が1つある場合には、前記のようにストレス状態及び栄養状態は正常であるものの、潜在的にストレスが異常となる又は栄養状態が異常となる要因が存在していると判断することができる。ここで潜在的とは、現在は表面的には明らかではないが、同じ養殖条件を維持した場合に、経時的に異常が顕在化してくる可能性があることをいう。
肝機能状態の指標であるALP、ALT及びASTの場合もストレス状態の場合と同様に評価する。
【0041】
前記のように判定した養殖魚のストレス状態及び肝機能状態さらには栄養状態に基づいて、その養殖場にいる一群の養殖魚の健康状態を把握できるため、養殖魚の健康状態を維持、改善する観点から、正常範囲から外れた含有量を示す血液成分の種類に応じて、養殖場における養殖条件を調整することを養殖業者に提示することができる。前記養殖条件としては、養殖場における養殖魚の密度、餌の種類、餌の鮮度、餌の栄養強化、給餌率と給餌回数、病原体の感染の確認と治療、水質の確認と改善からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0042】
具体的には、本発明の養殖支援方法において、前記ストレス状態及び栄養状態の指標である血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量のいずれか2つ以上が正常範囲よりも高いと、養殖場内の養殖魚が慢性的又は急性的ストレスを受けている可能性があることが考えられる。したがって、その改善手段として、飼育密度を減らす、水質を確認して変化を避ける、餌料の鮮度を改善する、病原体の感染を進展させないように治療を行う、などの養殖条件を養殖業者に提示する。
逆に血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量のいずれか2つ以上が正常範囲よりも低いと、養殖場内の養殖魚の摂餌が低下し、消化・吸収不良や栄養バランス(C/P)不良の可能性があることが考えられる。したがって、その改善手段として、餌料の種類を調整して摂食量を増大させる、給餌率・給餌量を調整する、餌に必要な栄養成分又は機能性成分を強化する、などの養殖条件を養殖業者に提示する。
【0043】
また、肝機能状態の指標であるALP、ALT及びASTのいずれか2つ以上が正常範囲よりも高いと、養殖場内の養殖魚が病原体の感染、餌料の脂質酸化、栄養バランス不良など何らかの原因で肝臓にダメージがあったり、肝臓に負担がかかったりして肝機能が低下していることが考えられる。したがって、その改善手段として、病原体感染の確認と対処、餌料脂質酸化の程度の確認と対処、餌料栄養バランス(C/P)の確認と調整、肝機能を改善できる栄養成分(例えば、ビタミン剤、ミネラル剤、アミノ酸、脂肪酸など)又は機能性成分(例えば、タウリン、グルタチオン、アスタキサンチン、ペプチド、発酵餌料、ウコン抽出物、にんにく抽出物、甘草抽出物、米糠抽出物など)の強化などからなる群より選ばれる1種以上の養殖条件を養殖業者に提示する。
逆にALP、ALT及びASTの2つ以上が正常範囲よりも低いと、養殖場内の養殖魚の摂餌が低下し、消化・吸収不良や栄養バランス(C/P)不良の可能性があることが考えられる。したがって、その改善手段として、餌料の種類を調整して摂食量を増大させる、給餌率・給餌量を調整する、餌に必要な栄養成分(例えば、ビタミン剤、ミネラル剤、アミノ酸、脂肪酸など)又は機能性成分(例えば、消化酵素、タンパク加水分解物、発酵餌料など)を強化する、などの養殖条件を養殖業者に提示する。
【0044】
なお、採血した養殖魚については、養殖業者からは、血液以外にも採血時の体重、体長、肥満度、体形、体色、餌食い状態、行動パターン、寄生虫感染などの目視で確認できる諸指標の情報を予め取得することで、より具体的な養殖条件の改善手段を提示することも可能である。
【0045】
一方、養殖業者は、前記のように提示された養殖条件のうち適当な条件を採用した後、再度同じ養殖魚について採血して血液成分を測定することで、ストレス状態及び肝機能状態さらには栄養状態を正常に維持して、高品質な魚の養殖が可能になる。
【0046】
また、定期的に本発明の養殖支援方法により、養殖魚のストレス状態及び肝機能状態さらには栄養状態を調べることにより、所定の養殖場における養殖魚の健康管理が容易になり、異常の発生というリスクの低減を図りながら、健康で商品価値の高い魚の養殖を安全且つ簡便に行うことが可能になる。ここで定期的とは、養殖開始から完了までの間の複数の期間で行うことをいい、特に限定はない。例えば、養殖フグの場合では、養殖条件を変えてから3〜5週間位で行えばよい。
【実施例】
【0047】
(実験例)
1.採血
長崎県対馬市でトラフグ(魚齢2才)を養殖している海面網生簀(サイズ:10m×10m×10m)から、体重、体長、肥満度、及び体形、体色、及び餌食い状態、行動パターン、寄生虫感染の有無などで健康と判断されたトラフグ6匹、噛み合いをしたトラフグ6匹、感染症などの病気にかかったトラフグ6匹から採血した。具体的には、養殖業者がトラフグを網で取り上げ、タオルで魚体を巻いて台に固定し、トラフグの尻鰭と尾鰭の間で脊椎に照準して注射針を入れ、注射器を減圧しながら、背動脈を探り、1ml程度採血した。注射器は、事前に抗凝固剤のヘパリンで処理した。
採血が終了したら、注射針を抜いて血液が導入された採血チューブ(なお、採血チューブは後述の遠心チューブも兼ねる)を専用の収容箱に入れて、保冷ボックスにて5℃にて保管した。
養殖フグ毎に上記の操作を繰り返して血液を採取した。
なお、採血チューブには魚の番号、魚の状態、体重、体長、体形、体色、感染状態、取り上げられた直前の行動特徴などを記載したラベルを貼付した。
【0048】
2.血液分析
前記採血チューブを5℃で1時間以上放置した後、前記採血チューブを遠心分離装置のローターに入れて遠心処理した(10000rpm、15分、4℃)。
次いで、ローターを遠心分離装置から取り出し、5℃下で保管した。
次いで、血液分析装置(Abaxis社製、全血自動分析装置「VetScan」(分析試薬マルチロータII VCDPを使用))を用意して、この血液分析装置のマニュアルに基づいて、採血チューブからピペットマンで100μlの血漿(遠心分離後の上清)を前記マルチロータにアプライして血液成分の測定を行った。測定終了後に結果を専用用紙に印字させた。
【0049】
3.平均値からの所定の範囲の決定
血液分析の結果、ストレス状態及び免疫状態を示す血液成分について、
血糖値12〜24mg/dl、
アミラーゼ24〜94U/l、
総蛋白量3.7〜4.6g/dl
ALP49〜69U/l、
ALT19〜62U/l及び
AST5〜84U/lの範囲内にある場合、トラフグの異常が発生しない可能性が有意に高いことを確認した。
【0050】
次に、各血液成分の正常範囲について、平均値付近であれば正常といえることは明らかであるが、前記のように上限値と下限値の幅についてばらつきがあった。そこで、上限値を下限値で割った値(x)を測定したところ、下記のようになった。
血糖値:2.0(=24/12)、
アミラーゼ:3.9(=94/24)、
総蛋白量:1.2(=4.6/3.7)
ALP:1.4(=69/49)、
ALT:3.3(=62/19)、
AST:16.8(84/5)
この値(x)が小さいほど、個体差が小さいためトラフグにおいて正常範囲の幅が小さく、逆に値(x)が大きいほどトラフグにおいて正常範囲の幅が大きいことを示す。
そこで、平均値からの正常範囲の幅(正常範囲幅係数)を、25%を最大として、各血液成分の含有量の値(x)の範囲毎に5段階に分けて下記表1のように設定した。
【0051】
【表1】

【0052】
したがって、各血液成分の含有量の正常範囲は、下記表2のようになった。
【0053】
【表2】

【0054】
さらに、表2のデータである「幅倍率(Max/Min)」と「正常範囲幅係数」との間の相関性を検証するため、前者を横軸に、後者を縦軸にとってプロットを作成した。その結果、図1に示したように、「幅倍率(Max/Min)」と「正常範囲幅係数」との間には非常に良い相関性が見られ(R2=0.9727)、さらに「幅倍率(Max/Min)」(x)により「正常範囲幅係数」(y)の計算式を得た。
正常範囲幅係数(y)=0.0783Ln(x)+0.0385
(尚、正常範囲幅係数(y)を%で表示する場合には、yを100倍する。)
【0055】
(実施例1)
1.採血
長崎県対馬市でトラフグ(魚齢2才)を養殖している海面網生簀(サイズ:10m×10m×10m)から、体重、体長、肥満度、及び体形、体色、及び餌食い状態、行動パターン、寄生虫感染の有無など健康と判断されたトラフグ22匹から採血した。具体的には、養殖業者がトラフグを網で取り上げ、タオルで魚体を巻いて台に固定し、トラフグの尻鰭と尾鰭の間で脊椎に照準して注射針を入れ、注射器を減圧しながら、背動脈を探り、1ml程度採血した。注射器は、事前に抗凝固剤のヘパリンで処理した。
採血が終了したら、注射針を抜いて血液が導入された採血チューブ(なお、採血チューブは後述の遠心チューブも兼ねる)を専用の収容箱に入れて、保冷ボックスにて5℃にて保管した。
養殖フグ毎に上記の操作を繰り返し、合計で22匹分の血液を採取した。
なお、採血チューブには魚の番号、魚の状態、体長、体色、体重を記載したラベルを貼付した。
【0056】
2.血液分析
血液を採血してから5℃で1時間以上放置した後、前記採血チューブを遠心分離装置のローターに入れて遠心処理した(10000rpm、15分、4℃)。
次いで、ローターを遠心分離装置から取り出し、5℃下で保存した。
次いで、血液分析装置Abaxis社製全血自動分析装置「VetScan」(分析試薬マルチロータII VCDPを使用)を用意して、この血液分析装置のマニュアルに基づいて、採血チューブからピペットマンで100μlの血漿(上清)を前記マルチロータにアプライして血液成分の測定を行った。測定終了後に結果を専用用紙に印字させた。
【0057】
3.正常範囲の測定
前記の血液分析の結果、
血糖値の平均値 : 19.4mg/dl
アミラーゼの平均値: 54.7U/l
総蛋白量の平均値 : 4.0g/dl
ALPの平均値 : 58.9U/l
ALTの平均値 : 34.0U/l
ASTの平均値 : 26.3U/l
となった。
したがって、上記の血液成分の正常範囲は、前記設定に基づいて、下記のようになった。
【0058】
【表3】

【0059】
4.養殖フグのストレス状態及び免疫状態の評価
次いで、別の6箇所の海面網生簀内で養殖されている、体長、体色及び体重から元気がないと判断されたトラフグ3群(サンプル1〜3群,検体数=6)と、元気がある判断されたトラフグ3群(サンプル4〜6群,検体数=6〜10)とを選択し、各群のトラフグから採血した採血チューブを、養殖業者に冷蔵状態で郵送してもらい、前記と同様にして血液成分を測定して、サンプル1〜6群の平均値を算出し、表2に示す正常範囲との関係を調べた。その結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表3、4の結果より、サンプル1〜3群の養殖トラフグは、サンプル3群の総蛋白量以外は、全ての血液成分が正常範囲外であったことから、ストレス状態、肝機能状態及び栄養状態がいずれも異常であり健康でないと判断した。
具体的には、サンプル1〜3群の養殖トラフグはストレス状態の指標である血糖値、アミラーゼがいずれも正常範囲よりも顕著に低い数値であったことから、養殖トラフグの状態としては、摂餌が低下しており、消化・吸収不良や栄養バランス不良の可能性が高いことが考えられた。
また、サンプル1〜3群の養殖トラフグは肝機能状態の指標であるALPが正常範囲よりも低く、ALT及びASTが正常範囲よりも高いことから、魚は病原体の感染、餌料の脂質の酸化による劣化、栄養バランス不良など、何らかの原因で肝臓にダメージがあったり、肝臓に負担がかかったりして肝機能が低下している状態であることが考えられた。
【0062】
一方、サンプル4〜6群の養殖トラフグについては、サンプル4群のアミラーゼを除いてストレス指標である血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量がいずれも正常範囲内であったことから、ストレス及び栄養状態は正常であると判断した。ただし、サンプル4群については、前記のようにアミラーゼの値が高かったため、潜在的な可能性として、病原体の感染や長期的な水質不良などが考えられた。
また、サンプル4〜6群の養殖トラフグは、サンプル5群のALTを除く肝機能状態の指標であるALP、ALT、ASTが全て正常範囲内であったことから、肝機能状態及び栄養状態は正常であると判断した。ただし、サンプル5群については、前記のようにALTの値が高かったため、潜在的な可能性として、病原体の感染、餌料の脂質酸化、栄養バランス不良などが考えられた。
【0063】
5.養殖条件の提示
養殖業者に対しては、サンプル1〜3群及び同様の外観を呈している養殖トラフグについては、病原体感染の確認と対処、餌料脂質酸化の確認と対処、餌料栄養バランスの確認と調整、肝機能を改善できる栄養成分(例えば、ビタミン剤、ミネラル剤、アミノ酸、脂肪酸など)又は機能性成分(例えば、タウリン、グルタチオン、アスタキサンチン、ペプチド、発酵餌料、ウコン抽出物、にんにく抽出物、甘草抽出物、米糠抽出物など)の強化など、餌料の種類の調整、給餌率・給餌量の調整などという養殖条件の改善手法を提示した。
また、サンプル4〜6群の養殖トラフグに関しては、養殖業者に対しては、そのまま同じ生簀で同じ養殖条件にて養殖を行うことが可能と提示した。なお、サンプル4群と5群に関しては、前記の潜在的な可能性についても連絡した。
【0064】
6.その後
次に、養殖業者には、サンプル1〜3群の養殖トラフグについて提示した養殖条件のうちから、適当なものを選択して、養殖を継続してもらったところ、摂餌が改善され、消化吸収も良くなって、魚の健康状態が徐々に回復し、4週間後に、前回と同様に採血した血液を用いて血液分析を行った結果、ストレス状態及び栄養状態又は肝機能状態がおおむね正常範囲に改善された。
また、サンプル4〜6群の養殖トラフグについては、もともと正常範囲であったため、そのまま同じ養殖条件で養殖しても、噛み合い、感染症や疾患の発生は見られなかった。
したがって、6箇所の養殖場全てで、異常を発生することなく、品質のよいトラフグの養殖が可能になった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖魚から採血し、
その血液中における、養殖魚のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖魚のストレス状態又は肝機能状態を評価し、
正常範囲から外れた含有量を示す血液成分の種類に応じて、養殖場における養殖魚の密度、餌の種類、餌の鮮度、餌の栄養強化、給餌率、給餌回数、病原体の感染の確認及び治療並びに水質の確認及び改善からなる群より選ばれる1種以上の養殖条件を調整することを提示する、養殖支援方法。
【請求項2】
さらに養殖魚の栄養状態を評価する請求項1記載の養殖支援方法。
【請求項3】
前記ストレス状態の指標が、血糖値、アミラーゼ及び総蛋白量からなる群より選ばれる1種以上であり、前記肝機能状態の指標がALP、ALT及びASTからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1又は2記載の養殖支援方法。
【請求項4】
前記血液成分の正常範囲が、同じ飼育状況の下で飼育されている養殖魚群の中から外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液を測定し、その血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の平均値から所定の範囲である請求項1〜3いずれか記載の養殖支援方法。
【請求項5】
前記平均値から所定の範囲が、前記外見上健康と判断された複数の養殖魚から採血された血液中のストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量の最大値を最小値で割って得られる値(x)が1.0以上2.0未満の場合に平均値±5%、
前記値(x)が2.0以上3.0未満の場合に平均値±10%、
前記値(x)が3.0以上4.0未満の場合に平均値±15%、
前記値(x)が4.0以上5.0未満の場合に平均値±20%、
前記値(x)が5.0以上の場合に平均値±25%とする、請求項4記載の養殖支援方法。
【請求項6】
前記平均値から所定の範囲(y)が前記xとの近似曲線から算出される請求項5記載の養殖支援方法。
【請求項7】
前記養殖魚が海水魚又は淡水魚である請求項1〜6いずれか記載の養殖支援方法。
【請求項8】
前記養殖魚がフグである請求項7記載の養殖支援方法。
【請求項9】
定期的に同じ養殖場にいる養殖魚から採血した血液を、請求項1〜8いずれか記載の養殖支援方法に供して提示された養殖条件に従って魚の養殖を行う、養殖方法。
【請求項10】
養殖フグから採血し、
その血液中における、養殖フグのストレス状態又は肝機能状態の指標となる血液成分の含有量を測定し、
得られた血液成分の含有量を、予め規定しておいた該血液成分の正常範囲と照合して、前記養殖フグのストレス状態及び肝機能状態を評価することを特徴とする養殖フグの健康診断方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−95558(P2012−95558A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244201(P2010−244201)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(501110134)株式会社関門海 (14)
【Fターム(参考)】