説明

養魚用飼料およびその製造方法

【課題】発酵残渣の栄養成分を損失なく摂取させることができ、養殖魚の死亡率の低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質を改善することが可能な養魚用飼料及び製造方法を提供すること。
【解決手段】ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を付着若しくは付着・浸透してなることを特徴とする養魚用飼料、及び、ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を混合又は塗布若しくは散布して、撹拌し、付着若しくは付着・浸透することを特徴とする養魚用飼料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は養魚用飼料及びその製造方法に関し、詳しくは、発酵残渣濃縮液を添加した養魚用飼料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、我国の蒸留酒の代表例である焼酎は、製品である焼酎とほぼ同量の発酵残渣液がいわゆる醸造粕(焼酎粕)として発生する。焼酎粕は、海洋投棄や堆肥化(農地への散布)などによって処分されていたが、腐敗性が強く、汚染や悪臭の発生を防止する点から規制され、新たな処分法が必要となっている。
【0003】
焼酎粕は、クエン酸などのオキシカルボン酸類、グルタミン酸などのアミノ酸類、ポリフェノール類などを含有するほか、粗タンパク成分も含まれているので飼料の原料としての価値が認められつつある。
【0004】
しかし、発酵残渣である焼酎粕の固形分濃度は、5〜10重量%しかなく、大部分が水分であるため、配合の自由度が非常に狭められ、流通でも飼料配合の上でも大きな制約がある。
【0005】
特許文献1には、濾過法によって濃縮し、ペースト状化させた焼酎粕に炒り糠、魚粉、蛹粉などを混練して造粒した養魚用飼料が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1では焼酎粕の濃縮は、濾過法すなわち固液分離によってのみ行われているので、固液分離によって分離された固体側を利用しているものと考えられる。液体側を飼料として利用しているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−194067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは液体側を利用したいと考え、市販のペレット飼料(魚餌)に焼酎粕をまぶして給餌することを考えたが、焼酎粕の固形分濃度が低いと、水分量により添加量が制限され、加えられる栄養量が少なくなってしまうことがわかった。
【0009】
また、魚餌は、水中に給餌するので、添加した栄養分が水中に分散する前に、魚に食べられることが、給餌の上でも、汚染防止の点でも必要であることがわかった。
【0010】
さらなる研究の結果、本発明者らは、焼酎粕を固液分離し、固液分離によって得られた液体側を濃縮して焼酎粕濃縮液とし、焼酎粕濃縮液をペレット飼料に添加し、かつ添加した栄養成分が水中に分散して損失することがない養魚用飼料の製造方法を見出し、焼酎粕の成分を効率的に摂取させて養殖魚の死亡率の低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質を改善することが可能な養魚用飼料の提供を可能とした。
【0011】
そこで、本発明の課題は、発酵残渣の栄養成分を損失なく摂取させることができ、養殖魚の死亡率の低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質を改善することが可能な養魚用飼料及び製造方法を提供することにある。
【0012】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0014】
(請求項1)
ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を付着若しくは付着・浸透してなることを特徴とする養魚用飼料。
【0015】
(請求項2)
前記発酵残渣濃縮液を1〜5重量%付着若しくは付着・浸透してなることを特徴とする請求項1記載の養魚用飼料。
【0016】
(請求項3)
前記発酵残渣濃縮液が、芋焼酎、麦焼酎、米焼酎、黒糖焼酎、泡盛のいずれかの発酵残渣濃縮液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の養魚用飼料。
【0017】
(請求項4)
ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を混合又は塗布若しくは散布して、撹拌し、付着若しくは付着・浸透することを特徴とする養魚用飼料の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、発酵残渣の成分を有効に摂取させることができ、かつ、養殖魚の死亡率の低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質を改善することが可能な養魚用飼料及び製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】試験区1とその対照区1について、残魚数を示すグラフ
【図2】試験区2とその対照区2、3について、残魚数を示すグラフ
【図3】試験区1とその対照区1について、1尾あたり餌量を示すグラフ
【図4】試験区2とその対照区2、3について、1尾あたり餌量を示すグラフ
【図5】試験区1とその対照区1で飼育した魚について体重の変化を示すグラフ
【図6】試験区1とその対照区1で飼育した魚について体長の変化を示すグラフ
【図7】脂質(%)の測定結果を示すグラフ
【図8】水分(%)の測定結果を示すグラフ
【図9】筋肉中のチオバルビツール酸反応性物質の測定結果を示すグラフ
【図10】α−トコフェロールの測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
本発明において、発酵残渣は、蒸留酒の製造過程で、アルコール分を蒸留した後に残存する固形分を多く含んだ液状物を指し、例えば芋焼酎粕、麦焼酎粕、米焼酎粕、黒糖焼酎粕またはそれらの混合物などの焼酎粕や、ウィスキーの醗酵過程で生成する蒸留粕などが含まれる。
【0022】
表1に、固形分濃度を30〜40重量%程度に濃縮した芋焼酎粕濃縮液の組成を示す。
【0023】
表1に示されるように、焼酎粕濃縮液は、有機酸(主にクエン酸)、粗タンパクを豊富に含んでおり、飼料価値が高い。これらの成分を損失無く、魚に摂取させることで、養殖魚の死亡率の低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質を改善することが可能となる。
【0024】
【表1】

【0025】
このような発酵残渣濃縮液は、発酵残渣を、スクリュープレス、デカンタ又はスクリーン等により固液分離して得られた液体分を、多重効用缶やスプレー式蒸発缶等で濃縮した液であり、本発明に用いる発酵残渣濃縮液の固形分濃度は、30〜60重量%、好ましくは35〜50重量%、さらに好ましくは37〜45重量%である。固形分濃度がこれより少ないと、添加量が制限され、加えられる栄養量が少なくなってしまうので好ましくない。
【0026】
本発明において、ペレット飼料としては、一般に養魚用飼料として用いられる魚粉を主体とし、小麦粉やトウモロコシ、デンプン、大豆油粕等を添加してペレット状に成型(造粒)して製造されたドライペレット飼料、とくにエクストルーダーペレット飼料(EP)、或いは、サバやイワシなどの生餌と魚粉などの粉末の配合飼料を混合して成型(造粒)して製造されたモイストペレット飼料を好ましく用いることができる。
【0027】
ペレット飼料の形状としては、球形、楕円形、方形状、棒状などが挙げられるが、これに限定されない。
【0028】
発酵残渣濃縮液は、ペレット飼料に対して、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%を混合、塗布、散布により添加して、ミキサー等で撹拌し(まぶし)、ペレット飼料に付着若しくは付着・浸透させて使用する。本発明は、発酵残渣濃縮液を市販のペレット飼料に給餌の前に添加するものなので、餌やりの現場において必要に応じて添加量を増減して調整することができる。
【0029】
付着若しくは付着・浸透させる上で撹拌時間は、好ましくは30秒以上、より好ましくは5〜20分継続することが好ましい。
【0030】
30秒以上撹拌すると、ペレット飼料を触っても、発酵残渣濃縮液が手に付着しない程度、目視で判断して、ペレット飼料の表面の「ぬれ感」がなくなる程度まで、発酵残渣濃縮液がペレット飼料に付着若しくは付着・浸透する。これにより、水中に投与された後に焼酎粕濃縮液中の栄養成分が溶出しづらくなる。さらに発酵残渣濃縮液には展着効果があり、栄養剤及び薬剤の効果的投与が可能になる。
【0031】
本発明において、付着とは、発酵残渣濃縮液がペレット飼料の表面に付着している状態を意味し、また、付着・浸透とは、発酵残渣濃縮液がペレット飼料に付着した後に、内部に浸透することを意味する。本発明では、付着している状態よりも更に進んで、浸透している状態が好ましい。上述のような栄養成分の溶出をより効果的に防止できるからである。
【0032】
また、本発明において、溶出というのは、水溶性成分が水中に溶解したり、付着した不溶性の固形分等がペレット飼料から分離し、水中に拡散したりする場合がある。
【0033】
なお、発酵残渣濃縮液はクエン酸や酢酸などの腐敗防止成分を多く含有しているので、ペレット飼料に付着若しくは付着・浸透させ、本発明の養魚用試料を製造した後に、保存することも可能である。
【0034】
本発明の養魚用試料は、水中、例えば海中でも発酵残渣の成分が溶出しにくいので、栄養成分を無駄なく摂取させることができ、その栄養成分によって、通常の餌を用いた場合に比べ養殖魚の死亡率低減やそれに伴う薬剤の低減、体長・体重の増加、肉質の改善などを実現することができ、養殖の効率と養殖魚の価値を高めることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0036】
実施例1:養魚試験
<試験方法>
対象魚:養殖ハマチ、ブリ、カンパチ
魚数:2000匹
【0037】
試験区:ペレット飼料(日本農産工業製「EP群群」)に、全固形分を40重量%に濃縮した芋焼酎粕濃縮液を、約4重量%混合(ペレット飼料80kg(4袋)に対し、焼酎粕濃縮液を3L)し、混合器にて10分程度撹拌して、付着・浸透させて飼料を製造し給餌した。
【0038】
対照区:芋焼酎粕濃縮液を混合せず、上記ペレット飼料(EP)のみ給餌した。
【0039】
<評価方法>
以下の評価を行った。
【0040】
残魚数:試験区1とその対照区1、試験区2とその対照区2、3について、放魚数(2000尾)から、死魚数を引いて残魚数とした(図1、2)。
【0041】
1尾あたり餌量:試験区1とその対照区1、試験区2とその対照区2、3について、1月あたりの飼料数(袋)をその月の残魚数で除してグラフにした(図3、4)。
【0042】
成長の比較:試験区1とその対照区1で飼育した魚について、体重と体長を測定し、プロットし、近似直線(グラフ中では線形と表示)を示した(体重:図5、体長:図6)。
【0043】
成分の比較:試験区1とその対照区1で飼育した魚について、飼育開始から2ヶ月後、5ヵ月後、6ヵ月後に、脂質(%)、水分(%)、筋肉中のチオバルビツール酸反応性物質(TBARS;nmol MDA/g)、α−トコフェロール(α−Toko;mg/100mL)を測定した(図7〜10)。
【0044】
なお脂質の測定方法は、ジエチルエーテル抽出法によって行った。
水分の測定方法は、105℃乾燥秤量法によって行った。
筋肉TBARSの測定方法は、TBA比色法によって行った。
α−トコフェロールの測定方法は、液体クロマトグラフ法によって行った。
【0045】
<評価>
図1、2から、対照区に対して、試験区では死魚数が少なく、養殖における死亡率が低減できたことがわかる。
【0046】
図3、4から、試験区は、対照区に対して1尾あたりの餌量が少ないことがわかる。しかし、図5、6で見られるように、体重および体長の増加は、試験区のほうが多いので、試験区の餌の栄養価が高く、体重および体長を増加させる効果が高いことが予想される。
【0047】
図7、図10より、試験区は、対照区に対して脂質含量、α−トコフェロール含量が高いことがわかった。
【0048】
実施例2:溶出試験
実施例1で用いたペレット飼料500gに対し、芋焼酎粕濃縮液20g(固形分濃度40%)を散布し、撹拌して、前記ペレット飼料に前記濃縮液を付着・浸透させて本発明の養魚用飼料を調製した。
【0049】
容器に入れ、撹拌している海水10Lに本発明の養魚用飼料を投入し、経時的(10秒、30秒、1分、10分後)に海水をサンプリングし、海水中の成分を分析した。また、比較として、海水(飼料未投入;ブランク)、芋焼酎粕濃縮液の成分濃度も同様に分析した。
【0050】
なお、成分分析は高速液体クロマトグラフ法(使用機器:島図LC6A カラム;shim pack SCR−101H)で行なった。
【0051】
その結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
<評価>
時間と共に、溶出量は少しずつ増加する傾向があるが、数十mg/L(ppm)程度である。通常、養殖においては、餌は海中投入(給餌)するとすぐ(1分未満で)食べられてしまうので、30秒以下の溶出量でみると、溶出による栄養成分の損失はわずかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を付着若しくは付着・浸透してなることを特徴とする養魚用飼料。
【請求項2】
前記発酵残渣濃縮液を1〜5重量%付着若しくは付着・浸透してなることを特徴とする請求項1記載の養魚用飼料。
【請求項3】
前記発酵残渣濃縮液が、芋焼酎、麦焼酎、米焼酎、黒糖焼酎、泡盛のいずれかの発酵残渣濃縮液であることを特徴とする請求項1又は2に記載の養魚用飼料。
【請求項4】
ペレット飼料に、固形分濃度が30〜60重量%の発酵残渣濃縮液を混合又は塗布若しくは散布して、撹拌し、付着若しくは付着・浸透することを特徴とする養魚用飼料の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−16328(P2012−16328A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156778(P2010−156778)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(504258527)国立大学法人 鹿児島大学 (284)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(510190886)有限会社浜田成水産 (1)
【Fターム(参考)】