説明

養魚用飼料

【課題】飼料供給の安定性、飼料の保存性に優れ、摂餌性と飼料効率に優れた養魚用飼料を提供する。
【解決手段】 蛋白質及び/又は澱粉の加熱ゲルによって構築された外層と魚粉と油脂を必須成分とする栄養成分を含む組成物からなる内層からなることを特徴とする養魚用飼料であって、内層の油脂が魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂であることを特徴とする養魚用飼料である。蛋白質としては、魚肉すり身、魚肉落し身、オキアミ、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、卵白、大豆蛋白質が好ましい。澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖魚を飼育するための養魚用飼料、特にマグロ類の蓄養殖に適した養魚用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
魚類の養殖において、最初考えられるのは自然界における餌である生餌(アジ、サバ、イワシ類、イカナゴ、イカ類などの鮮魚もしくは凍結したもの)である。生餌はもともと天然の魚類の餌であるから、魚の嗜好性や栄養面では優れているが、天然資源に由来することから、安定供給、安定した品質といった点において問題点がある。生餌にビタミンやミネラルや天然の澱粉質等を混合したモイストペレットは、栄養面や安定供給という点では改善されたものであるが、摂餌されずに海域に流出してしまうことによる環境汚染の問題が指摘されている。またこれらの飼料は、冷凍・冷蔵保管を要するため、保管設備に費用を要するという欠点がある。
【0003】
配合飼料原料のみを使用しスチームペレッターもしくはエクストルーダで成型した固形養魚飼料はそのような欠点を解決したものであり、飼料供給の安定性や飼料の保存性において利点がある。このような事情から、養殖業界では養殖魚へ与える餌について、生餌から配合飼料への転換が進んでいる。しかしながら、永続的な養殖のためには配合飼料への転換が必須であるものの、魚食性の高い魚種では生餌に対する嗜好性が極めて高く、配合飼料への転換は容易ではない。例えば、クロマグロにおいては生餌への嗜好性が高く、逆に配合飼料の嗜好性が極端に低いため、生餌から配合飼料への転換が遅れている。また、ブリやカンパチにおいては生餌から配合飼料への転換が進められているものの、配合飼料単独での養殖は決して容易ではないのが現状である。
【0004】
このマグロ類のような魚に嗜好性のある飼料開発にむけ、種々の工夫がされてきた。特許文献1は飼料のサイズに注目した発明であり、マグロ類が好むサイズの試料を効率よく製造する方法に関する。また、特許文献2には飼料原料を可食性フィルムに封入した一定の柔らかさの飼料が開示されている。さらに、特許文献3には、包餡機を用いて粘着物質からなるシェルと栄養成分を含むコアからなる飼料が開示されている。特許文献4には、液体状の脂質をペレットに保持させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−97064号公報
【特許文献2】特開2005−27613号公報
【特許文献3】WO2006/090866
【特許文献4】特許3351531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、飼料供給の安定性、飼料の保存性に優れ、且つ、摂餌性が高く、飼料効率に優れた養魚用飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マグロ類の嗜好性が高く、かつ、成長性の良い飼料の開発をすべく、種々の観点から検討を行った。その結果、マグロ類は大きさ、形状だけでなく、物性に非常に敏感であり、単純な硬さだけでなく、弾力性、柔軟性を併せ持った物性を好むことがわかってきた。さまざまな物性の飼料をマグロ類に投餌してみて、マグロ類が好む物性を見出した。さらに、この物性を客観的な数値で表現することを試みた結果、「破断応力」、「凝集性」、「破断歪率」と呼ばれる数値を組み合わせることで好ましい物性を表現できることを見出した。また、物性を評価する簡便な方法として、厚さ3mm程度の短冊状の薄片を製造し、折り曲げて、亀裂が生じる角度を求める方法を見出した。そのような指標を用い、好ましい物性を満たすことができ、かつ、栄養的にもマグロ類の飼料として必要条件を満たす飼料を目指して鋭意検討を重ね、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下(1)〜(11)の養魚用飼料を要旨とする。
(1)蛋白質及び/又は澱粉の加熱ゲルによって構築された外層と魚粉と油脂を必須成分とする栄養成分を含む組成物からなる内層からなることを特徴とする養魚用飼料であって、内層の油脂が魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂であることを特徴とする養魚用飼料。
(2)蛋白質が魚肉すり身、魚肉落し身、オキアミ、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、卵白、大豆蛋白質から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである(1)の養魚用飼料。
(3)澱粉がタピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉である(1)又は(2)の養魚用飼料。
(4)外層がさらに魚粉及び/又は油脂を含有するものである(1)ないし(3)いずれかの養魚用飼料。
(5)外層と内層の組成物の重量比率が2:8〜7:3である(1)ないし(4)いずれかの養魚用飼料。
(6)外層の水分含量が20〜50重量%である(1)ないし(5)いずれかの養魚用飼料。
(7)外層が、厚さ3mmの短冊状の薄片を製造し、温度105℃で30分間乾燥後、二つに折り曲げたときに少なくとも90度折り曲げても亀裂を生じない物性を有する組成物であることを特徴とする(1)ないし(6)いずれかの養魚用飼料。
(8)内層の組成物が魚粉30〜70重量%及び油脂30〜70重量%含有するものである(1)ないし(7)いずれかの養魚用飼料。
(9)内層の組成物にさらに多糖類及び/又は乳化剤を含むことを特徴とする(1)ないし(8)いずれかの養魚用飼料。
(10)養魚用飼料が、マグロ類用飼料である(1)ないし(9)いずれかの養魚用飼料。
(11)(1)ないし(10)いずれかの飼料の外層の水分含量を10〜20重量%に調整したことを特徴とする養魚用飼料。
【0009】
本発明は、以下(12)〜(19)の養魚用飼料の製造方法を要旨とする。
(12)加熱によりゲルを形成する蛋白質原料及び/又は澱粉原料に副原料を添加し撹拌混合した外層組成物と、魚粉、魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂及びその他栄養成分を撹拌混合した内層組成物を調製し、外層組成物で内層組成物の少なくとも主表面を包むように成形し、加熱処理により外層組成物をゲル化することを特徴とする養魚用飼料の製造方法。
(13)加熱によりゲルを形成する蛋白質原料及び/又は澱粉原料に副原料を添加し撹拌混合した外層組成物、魚粉、魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂及びその他栄養成分を撹拌混合した内層組成物を調製し、二重ノズルを備えたエクストルーダを用いて、外層組成物に加熱処理を加えゲル化しながら、同時に内層組成物の少なくとも主表面を包むように押出成形することを特徴とする(12)の養魚用飼料の製造方法。
(14)蛋白質原料が魚肉すり身、魚肉落し身、オキアミ、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、卵白、大豆蛋白質から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである(12)又は(13)の養魚用飼料の製造方法。
(15)澱粉原料がタピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである(12)ないし(14)いずれかの養魚用飼料。
(16)外層組成物に添加する副原料が魚粉、油脂、塩類、糖類、糖アルコール類、グリセリン、増粘多糖類から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである(12)ないし(15)いずれかの養魚用飼料の製造方法。
(17)その他栄養成分が、ビタミン類及び/又はミネラル類を含むものである(12)ないし(16)いずれかの養魚用飼料の製造方法。
(18)内層組成物が魚粉30〜70重量%及び油脂30〜70重量%含有するものである(12)ないし(17)いずれかの養魚用飼料の製造方法。
(19)内層組成物にさらに多糖類及び/又は乳化剤が含まれていることを特徴とする(12)ないし(18)いずれかの養魚用飼料の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飼料は、マグロ類が好む物性を有し、かつ、マグロ類の成長に十分な栄養分を含む飼料である。生餌に替えて使用することができる、飼料供給の安定性、飼料の保存性に優れた高栄養の配合飼料であり、摂餌性と飼料効率に優れた養魚用飼料とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は試験例7に記載の外層の物性測定方法を示す図である。
【図2】図2は試験例17の硬化油添加による22℃における内層の硬さの変化を示す図である。
【図3】図3は試験例17の硬化油添加による42℃における内層の硬さの変化を示す図である。
【図4】図4は試験例17の硬化油添加による22℃における内層の粘度の変化を示す図である。
【図5】図5は試験例17の硬化油添加による42℃における内層の粘度の変化を示す図である。
【図6】図6は試験例17の硬化油添加による22℃における内層の保油性の変化を示す図である。
【図7】図7は試験例17の硬化油添加による42℃における内層の保油性の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
マグロ類は餌の物性に非常に敏感であり、各種飼料が工夫されてきたが、生餌と同程度の摂餌性を有し、かつ、生餌よりも単位量当たりの栄養価が高く、飼料効率のよい飼料は完成していない。これまで、餌の大きさ、柔らかさなどが注目されてきたが、それだけでは十分な摂餌性を有する飼料を得ることができていない。
本願発明者らは、試験例1に示すように種々の物性の食品を給餌してみたところ、単に硬度としての軟らかさだけではなく、弾力性と柔軟性を併せ持った物性を好むことを見出した。また、マグロ類は餌を一度口にくわえて、大きさや物性を確認した後、水中にもぐってその餌を飲み込むという摂餌行動を取ることもわかってきた。そのため、マグロ類がくわえたときに折れたり、崩れたりするものでは好ましくなく、弾性や柔軟性がありながら、かつ、一定の強度を有する物性が必要であった。給餌の際の衝撃に耐える強度も必要であることはいうまでもない。
【0013】
マグロ類の嗜好性に合う物性の飼料を製造するためにマグロ類の好む飼料と好まない飼料の物性を比較した結果、マグロ類の嗜好性にあう物性として、「破断応力が5×10〜6×10N/m、凝集性(30%)が0.4〜0.6%、破断歪率が20〜60%」(飼料全体の物性)の範囲に入る物性の飼料を好むことが明らかとなった。生魚もこの範囲にはいる。
しかし、物性だけを満たしてもその飼料に含まれる栄養素がマグロ類の成長に必要十分含まれるものでなければ、養魚用飼料としては使えない。カニカマのような物性はマグロ類が好むものであったが、カニカマではたんぱく質も脂肪分もマグロ類の養殖用飼料としては不十分である。養魚用飼料の栄養素として欠かせない魚粉と油脂を一定以上含有し、かつ、好ましい物性の飼料でなければならない。
発明者らは、魚肉練り肉に魚粉、油脂を添加して、飼料を作製することを試みたが、必要な量の魚粉、油脂を添加した練り肉では成形することができなかった。そこで、魚粉と油脂を練り肉と混合するのではなく、練り肉などゲル形成能のある物質で包む本発明に思い至った。
【0014】
本発明において、破断応力とは、主に硬さを反映するパラメーターである。測定する試料に一定の断面積S(mm2)を有するプランジャーで圧力をかけ、試料が破断した際の荷重をF(N)とすると、破断応力はF/S(×10−6N/m2)で表される。
本発明において、破断歪率とは、割れやすさ、もろさに関するパラメーターである。破断応力の測定において、破断荷重Fによって破断するまでに試料が変形した程度、すなわち、試料の高さがH(mm)で、プランジャーが進んでいた距離をΔH(mm)とすると、破断歪率はΔH/H(×100%)で表される。
本発明において、凝集性とは、弾力、柔軟性に関するパラメーターであり、圧力を加えて変形したものが元通りに回復する性質を反映する。測定する試料に一定の断面積S(mm2)を有するプランジャーで圧力をかけていく。事前に設定した距離(クリアランス)進めたところでプランジャーを元に戻す。これを2回繰り返す。このときの荷重の大きさの経時変化をチャートに描き、1回目と2回目の荷重の曲線下面積の比率で表される。凝集性はA/A(A:1回目の曲線下面積、A:2回目の曲線下面積)で表される。
これら物性を表すパラメーターは測定条件によって数値が多少ばらつくが、本発明においては、それぞれの組成物で直径2.3cm、長さ2.0cmの円柱を作り、横に寝かせた状態で測定した値を用いた。他の形やサイズのサンプルを作製して測定してみたが、組成物の成分が同一であれば、±10%以上変化することはなかった。また、生魚のように組成が均一でない場合は、類似のサイズの魚をぶつ切りにしたものなどを使用して測定し、参考値とした。
【0015】
上述のマグロ類が好む飼料を製造するために必要な外層の物性を種々試した結果、「破断応力が5×10〜1×10N/m、凝集性(30%)が0.4〜1.0%、破断歪率が30〜80%」を満たす物性の外層で魚粉、油脂を包むことで全体の物性がマグロ類の好む物性の飼料を製造することができた。
本発明において加熱ゲルとは、蛋白質を60℃以上に加熱する、あるいは、60℃以上に加熱後冷却することによりできるゲルや澱粉に水分を加えて60℃以上に加熱することにより糊化してできるゲルを意味する。
【0016】
外層の組成物は上記の物性を有し、内層組成物を包みこめるものであればなんでもよいが、蛋白質を加熱してできるゲル、あるいは、澱粉を加熱してできるゲルの物性が、その柔軟性、伸展性などの点で、本発明に適していることを見出した。例えば、魚肉、すり身、オキアミ、グルテン、コラーゲン、大豆たん白、酵素分解大豆たん白、ゼラチン、卵白などの蛋白質の単体もしくはこれらの2種以上の混合物などのゲル形成能を有する蛋白質が好ましい。澱粉としては、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉が好ましい。これら蛋白質及び/又は澱粉を多く含む食品素材を用いることもできる。これら蛋白質及び/又は澱粉を含む組成の外層は加熱することによりゲルが固定され、柔軟性を持ち、かつ、内層組成物の保持力もあり、一定の強度を有する。
例えば、魚肉すり身を外層組成物として用いる場合、一般的なかまぼこなどの練製品の製造方法を用いて製造することができる。具体的には、2%以上の食塩を加え10℃以上、好ましくは30℃〜40℃で10分以上置いてから、80〜90℃で10分以上加熱する。あるいは卵白を用いる場合、例えば、卵白:澱粉:魚粉:水を1:1:2:6の重量比率で混合し、加熱することにより、望ましい物性の組成物を得ることができる。
【0017】
飼料全体の栄養効率を高めるためには、飼料全体として少しでも、水分含量が低く、高蛋白、高脂肪にするのが好ましい。外層のゲル化に影響を与えない範囲で外層にも魚粉、油脂を添加することが好ましい。用いるゲルの種類にもよるが、外層には魚粉を60重量%程度まで、また、油脂を30重量%まで添加することが可能である。魚粉を20〜30重量%及び油脂を5〜10重量%程度添加するのが好ましい。
外層のゲルの品質をよりよくするために、魚肉練製品などの品質改良剤として用いられている添加物を添加することができる。澱粉、増粘多糖類、分離大豆蛋白、重曹、重合リン酸塩、卵白、トランスグルタミナーゼ、各種プロテアーゼインヒビター、などを添加してもよい。特に、ゲル強度を強化するために、寒天、ジェランガム、プルラン、澱粉、マンナン、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、アラビアガム、キトサン、デキストリン、可食性水溶性セルロースなどの増粘剤を適宜配合してもよい。但し、マグロ類をはじめ多くの養殖魚は、多糖類に対する消化性が悪いので、多糖類については、必要最小限に留めるのが好ましく、外層の材料のうち、増粘剤の使用は好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1.5%重量%とすることが望ましい。
【0018】
本発明の外層として好ましい別の態様として、澱粉を主成分とする加熱ゲルがその弾力性、柔軟性において優れていることを見出した。澱粉に水を加えて混練し、加熱したゲルには弾力、柔軟性、伸展性がある。特に種々の加工澱粉にはそれぞれに特徴があり、2種以上を組み合わせることでより、弾力性、柔軟性、伸展性などの性質をもった外層を得ることができる。例えば、エーテル化澱粉とリン酸架橋澱粉の組み合わせのように異なるタイプの加工澱粉を組み合わせるのがよい。澱粉にグルテン、大豆タンパクなどの蛋白質を加えることによりさらに強いゲルを得ることができる。グルテンの変りにグルテンを含有する小麦粉などを使用することもできる。その他の副原料としては、小麦粉などの穀粉、大豆タンパク、グルテン、卵白などのタンパク質、砂糖、水あめなどの糖・糖アルコール類、カラギーナン、寒天、ジェランガム、プルラン、マンナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カードラン、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、アラビアガム、キトサン、デキストリン、可食性水溶性セルロースなどの増粘剤、リン酸塩等の塩類を添加してもよい。例えば、澱粉に小麦粉を加えることによって、外層に強度を与えることができる。また、一定量のタンパク質を加えることで加熱後の表面のべたつきを押さえることができる。
【0019】
澱粉の加熱ゲルで魚粉、魚油を主成分する内層を包んだ本発明の飼料は外層に弾力性、柔軟性があるので、魚が好んで摂食する。製造効率においても、伸展性に優れた物性であり、包餡機やエクストルーダで内層を包みこむのに適している。
飼料全体の栄養価の観点からは、外層にもできるだけ多く魚粉や魚油を添加するのが好ましい。例えば、澱粉を含まず小麦粉を主成分とする加熱ゲルで作製した外層では、魚粉を一定以上添加すると、澱粉を含有するドウと比較して、柔軟性が低く、もろい物性のため、うまく内層を包むことができないが、澱粉を含む加熱ゲルは魚粉を入れても柔軟性ある外層とすることができる。
【0020】
本発明で用いる澱粉は特に制限はないが、タピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉などが利用でき、特にこれらのエーテル化、アセチル化、アセチル架橋、エーテル架橋、リン酸架橋、α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋などの加工澱粉が好ましい。これら澱粉に蛋白質など他の副原料を加え、水を加えて混合し混練し、包餡機などで、内層を包んだ後、加熱することにより本発明の飼料を製造する。あるいは、外層原料と内層原料をそれぞれ二重ノズルのエクストルーダに供給し、外層原料を混合、加熱処理しながら、同時に外層で内層を包み込む形で押し出し成形することによっても製造できる。澱粉等の原料に対し水の添加量は包餡機やエクストルーダに対応できる量であればよいが、30〜50重量%程度が適当である。加熱温度は、澱粉や添加した蛋白質等がゲル化する温度以上であればよく、品温が60〜120度、好ましくは、70〜100℃程度になればよい。魚油は酸化しやすいのでなるべく高温は避けるのが好ましい。
【0021】
本発明の澱粉の加熱ゲルで内層を包んでできあがった飼料の外層の水分量は25〜50重量%程度になる。そのまま長期保存する場合は、冷蔵又は冷凍保存することができる。また、この飼料をさらに乾燥させ水分量を10〜20重量%にすると保存性が高い飼料とすることができる。製造時の加熱工程に過熱水蒸気を用いることにより、最初から水分量の低い飼料を製造することもできる。この水分量の飼料を給餌するときには、水や海水などの液体に浸漬して水分を吸収させて給餌することもできる。澱粉加熱ゲルは吸水性に優れ、20〜30秒程度浸漬すれば、乾燥前の35重量%程度水分を含む外層と同程度の柔軟性に戻すことができる。外層を乾燥させることと外層に添加物を加えて水分活性を低下させることを併用することにより、室温で長期に保存できる飼料を製造することができる。水分量10〜20重量%、水分活性0.8以下、特に0.6以下が好ましい。
本発明により、保存性が高く、かつ、給餌前に水や海水などの液体に浸漬して、速やかにすいぶんを吸水することができる飼料を提供することができる。
【0022】
澱粉を含有する外層の組成物の配合は種々のパターンが考えられる。魚種や魚の成長段階によって、飼料に要求される栄養素、カロリーは異なる。魚粉や魚油を多く入れるほど、外層の配合を厳密に調製する必要があるが、魚粉や魚油が少なめの場合は、外層の配合にはかなりの自由度がある。少なくとも乾物換算で澱粉を20〜80重量%含有させる。魚粉を25〜50重量%(乾物換算)添加した外層とする場合、乾物換算で、澱粉20〜65重量%、小麦粉5〜20重量%、タンパク質、油脂、増粘剤、塩類などを合計5〜15重量%程度添加するのが好ましい。魚油は1〜5重量%、リン酸塩は1〜2重量%、タンパク質は1〜5重量%、増粘剤は1〜5重量%程度添加するのが好ましい。
副原料として用いる場合、小麦粉はグルテン含有量の多い強力粉が好ましいが、薄力粉でもよい。
外層の品質をよりよくするために、澱粉食品の品質改良剤として用いられている添加物を添加することができる。
【0023】
内層の組成物は魚粉と油脂が主成分であるが、養魚用の栄養成分として知られているその他の栄養成分、例えば、ビタミン、ミネラル等を添加してもよい。また、外層に包まれているが魚粉や液状である油脂が漏れることがあっては好ましくないので、多糖類や硬化油を配合、また乳化し安定化させることもできる。特に、機械で製造する場合、内層組成物の物性を機械適性のある流動性、物性にするのが好ましい。魚油を固める硬化油や魚油を吸着する多孔質素材などを添加するのが好ましい。多糖類(油脂吸着剤)としては、オイルQ(日殿化学社製)、粉末状大豆蛋白質ニューフジプロSEH(不二製油社製)等が例示される。
魚油は室温で液状であり、特に温度が高くなると粘度が低下し、外層から染み出してくることがある。これを回避するために、魚油に硬化油を混合するのが好ましい。硬化油とは、魚油、大豆油、菜種油などの動植物油に水素添加した白色固体脂肪である。原料油は成分脂肪酸としてオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、他の高度不飽和脂肪酸などの不飽和脂肪酸を含むが、水素添加油は不飽和脂肪酸に水素が添加して不飽和脂肪酸が減少し、ついには飽和脂肪酸となり、固体脂肪となる。硬化油を添加することにより、液状油はペースト状〜固化させることができる。飼料から内層の魚油が外層のひび割れや隙間から、漏れ出たり、染み出してくるのを抑制するには、50℃以上の融点を有する硬化油を添加するのが好ましい。このような硬化油としては、硬化油を構成する脂肪酸の主成分(脂肪酸組成において最も量の多い脂肪酸)が炭素数18以上の脂肪酸であり、かつ、ヨウ素価(100gの油脂に吸収されるヨウ素の質量(g単位))が0〜2である硬化油が該当する。極度硬化油として販売されている硬化油のヨウ素価はこの範囲に入る。好ましい硬化油としては、豚脂極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、ユニショートK(不二製油株式会社製)、ハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、牛脂極度硬化油(新日本理化株式会社製)、大豆極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)、TAISET50(太陽化学株式会社製)などが例示される。特に、炭素数22のベヘン酸などの炭素数が20以上の脂肪酸を多く含むハイエルシン菜種極度硬化油(横関油脂工業株式会社製)などが好ましい。硬化油の添加量は、内層の魚油等の液状油の量に対して、0.5〜15重量%が好ましく、特に1〜10重量%が好ましい。硬化油の魚類による消化性は高くないといわれているので、飼料全体の重量に対して、5重量%を超えない程度の使用が好ましい。 また、硬化油を添加することにより、一定の粘度のある内層となるため、内層を外層に包みこみ成型するときの機械適性も改良される。
さらに、内層の組成物には、従来の養殖魚用配合飼料の原材料を添加することができる。例えば、生魚類、イカミール、オキアミミール、大豆油かす、コーングルテンミールなどのタンパク質、オキアミ油、鯨油、大豆油、コーン油、菜種油、硬化油などの油脂、澱粉、小麦粉、米粉、タピオカ粉、トウモロコシ粉などのデンプン質、アルギン酸及びその塩類、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、グァガム、デキストリン、キトサン、カードラン、ペクチン、カラギーナン、マンナン、ジェランガム、アラビアガム、可食性水溶性セルロースなどの多糖類、ビタミン、ミネラル類などである。
【0024】
上記内層の組成物は、油脂含量を20〜70質量%、特に大型養殖魚に給餌する場合、油脂含量を好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、最も好ましくは45質量%以上となるように配合する。多量の油脂含量は、養殖魚の成長及び成長効率に優れた効果を奏するが、油脂含量を70質量%超配合すると、必然的に他の配合成分が減少し、栄養バランスの調整が困難となる。魚油やその他植物性油脂は流動性が高いものであり、そのまま用いてもよいが、好ましくはビタセルWF200、ビタセルWF600又はビタセルWF600/30(レッテンマイヤー社製)、オイルQ No.50又はオイルQ−S(日澱化学株式会社製)、パインフロー(松谷化学工業株式会社製)等のデキストランをはじめとする吸油性多糖類、発酵大豆、イソフラボンなどの吸油性タンパク又はダイズ油、ナタネ油又はパーム油などの油脂に水素付加した硬化油を用いて流動性を低下させて用いることができる。あるいは、魚油を乳化させることにより流動性を低下させて用いることもできる。ただし、魚の消化性を考慮すると、これらの流動性を低下させるような成分は好ましくは内層の組成物の10質量%以下、より好ましくは5質量%以下とすることが望ましい。油脂としては、魚油がもっとも好ましいが、他の植物性油脂などで一部代替することも可能である。
内層の必須成分である魚粉は通常養魚用飼料原料として用いられている各種魚粉、オキアミなどの甲殻類の粉末などが利用できる。魚粉含量を30〜70質量%、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、最も好ましくは45質量%以上となるように配合する。
【0025】
本発明の飼料は養殖魚、特に、クロマグロ(Thunnus orientalis, Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、キハダ(Thunnus albacares)、メバチ(Thunnus obesus)等のマグロ類に適した飼料であるが、その他、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)等のブリ類、トラウト(Salmo trutta)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutsh)、アトランティックサーモン(Salmo salar)等のサケ類、その他マダイ(Pagrus major)、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、トラフグ(Takifugu rubripes)、ハタ(Epinephelinae)、クエ(Epinephelus bruneus)、スズキ(Lateolabrax japonicus)、バラマンディ(Lates calcarifer)などの飼料としても好ましいものである。
飼料の大きさは魚の大きさに応じて調製する。魚が天然界において通常餌にしている魚の大きさ、形から大きく離れなければよい。マグロ類では長さが約5〜20cm、断面の径が約1〜5cm位の略円筒形、あるいは略円筒形をやや平らにつぶしたような形状が適当である。
【0026】
本発明の飼料の保存性を考慮して、水分活性を調節してもよい。この水分活性の調整は、内層、外層の組成物の組成により調整することができる。例えば、添加する水分量の調整により、内層の組成物の水分活性を低くすることができる。また、塩類(食塩、リンゴ酸ソーダ、乳酸ソーダなど)、糖類(砂糖、乳糖、マルトース、ソルビットなど)、糖アルコール類、アミノ酸、核酸関連物質、有機酸類、アルコール類、プロピレングリコース、グリセリン、澱粉類、蛋白類などの水分活性調整剤の添加により、組成物の水分活性を調整してもよい。
【0027】
本発明の外層と内層からなる飼料は、外層組成物で内層組成物の少なくとも主表面を覆うことができれば、どのような方法で製造してもよい。大量生産するには、例えば、以下のように製造することができる。外層と内層の組成物をそれぞれ混合しておき、それぞれの量を決めて、包餡機(コバード社製、ロボセブンシリーズ“AR-800”等)にかけて包み込む。あるいは、二重ノズルを有する押し出し機で外層組成物と内層組成物を押し出し、適当なサイズに切断する。これらの方法により成形し、加熱することにより、外層のゲルを固定させる。加熱方法は、湿式加熱でも乾式加熱でもよい。スチーム加熱、誘電加熱、マイクロウェーブ加熱などが例示される。加熱も同時にできるエクストルーダを用いれば、外層を加熱処理しながら、同時に内層を包みこむ成型を行うことができる。
主表面を覆うとは、外層は完全に内層を包みこむ状態にしてもよいし、円筒状の側面のみを包み、両断面は包んでいない状態にしてもよく、形状によるが、内層組成物の表面の7割程度以上が外層で覆われていればよい。完全に包み込まない場合は、内層の組成物が崩れにくいように、内層組成物に結着性のある多糖類、硬化油、乳化剤などの賦形剤を添加しておくのが好ましい。
【0028】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
本実施例において、破断応力、凝集性、破断歪度の測定には、株式会社山電のRHEONER II CREEP METER RE2-3305Sを使用した。使用したプランジャーは直径8mmの円柱状のものを使用した。破断応力解析には、ソフトウェアとして株式会社山電の破断強度解析Windows(登録商標)を使用した。凝集性解析には、ソフトウェアとして株式会社山電のテクスチャー解析Windows(登録商標)を使用した。凝集率の測定は、クリアランス30%で行った。測定スピードは1mm/secで行った。サンプルの形状は、ほぼ直径23mm、高さ20mmの円柱もしくは、それに近い形状にし、円柱を横向きに寝かせてその中央部分をプランジャーで圧縮して行った。飼料は25℃にした後、測定を行った。
【0030】
<試験例1>
マグロ類の餌の物性に対する嗜好性を調べるために、各種の物性を有する飼料や食品を養殖生簀にて飼育中のマグロ(体重2kg前後)に投餌してみて、摂餌の様子を観察し、5段階評価を行った。評価基準は、通常与えている解凍した魚と同程度に躊躇なく食べてしまうものを5、多少ためらいつつもほどほどに食べるものを4、食べることは食べるが一定以上食べようとしない3、少し食べてみようとするが実質的には食べないものを2、まったく食べないものを1とした。
また、これらの飼料、食品等の物性を測定した。鮮魚は2cm幅でぶつ切りにしたものを横に寝かせた状態で測定し、各飼料、ソーセージ、カニカマもそれぞれ横に寝かせた状態で測定した。
結果を表1に示す。各飼料、食品は形状や大きさが異なるため、数値を厳密に比較することはできないが、傾向をつかむことはできた。マグロ類は、凝集性(30%)が0.4以上、破断歪率が30〜60%の範囲に入るような柔軟性の高い物性の飼料を好むことがわかった。
【0031】
【表1】

【0032】
<試験例2>
試験例1の結果、練製品の物性がマグロ類に好まれることがわかったので、表2の配合で、練り製品を作る要領で、すりみを主原料として用い、魚粉、魚油、澱粉、植物タンパク質、水、ビタミン、ミネラル等を配合し、カニカマ状に成型した後、蒸しゲル化させた直径15mm、長さ120mmの飼料を試作し、マグロ類に給餌してみた。
結果は、マグロ類がよく摂餌し、その物性も好ましいといえる範囲に入るものであった。物性は飼料を横に寝かせた状態で、既述の方法で測定した。
【0033】
【表2】

【0034】
<試験例3>
次にマグロ類に必要な栄養分である魚油を物性を維持しながら添加して増やすることを試みた。魚肉すり身35重量%、魚粉19重量%、魚油8又は15重量%、水21又は14重量%、大豆蛋白3重量%、デンプン2重量%、砂糖4重量%、塩4重量%、グルテン2重量%、重合リン酸塩0.5重量%、重曹0.5%重量%、卵白1重量%をフードプロセッサで混合し、スチーム加熱し、直径2.3cm、長さ2.0cmの円柱を切り出し、サンプルとした。
それらサンプルの物性を測定した。表3に示すように魚油の量が多くなると破断応力、凝集性、破断歪率いずれの値も低下し、一定以上の魚油を添加すると好ましい物性の範囲からはずれてしまうことがわかった。
【0035】
【表3】

【0036】
<試験例4>:外層の蛋白質として卵白をもちいた例
表4に示す成分を混合し、直径2.3cm、長さ2.0cmの円柱に成型した後、蒸気により90℃、15分間加熱処理をした。放冷後、前述と同様に破断応力、凝集性、破断歪度の測定を測定した。結果は表5に示すように、本発明の外層の組成物に適したものであった。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
<試験例5>
外層組成物のタンパク質として魚肉すり身を用いる場合に、魚肉すり身の配合比率がどの程度が適当であるかを検討するため、すり身、100、75、50、25、18.75、12.5、又は6.25重量部に対して、水、塩、ニューフジプロSHE、アミコール乳華、砂糖、魚粉、卵白、ビタミンミックス、重合リン酸塩、グルテン、魚油、トランスグルタミナーゼ、及び重曹をそれぞれ45、7.5、5、5、6.25、40、1.25、5、0.75、2.5、17.5、1.25、1.25重量部ずつ配合した組成物を調製した(それぞれ、配合1〜7)。上記成分を混合し、直径2.3cm、長さ2.0cmの円柱に成型した後、蒸気により90℃、15分間加熱処理をした。放冷後、前述と同様に破断応力、凝集性、破断歪度の測定を測定した。結果は表6に示すように、すり身を100〜50重量部配合したものが、本発明の外層の組成物に適していた。
【0040】
【表6】

【0041】
<試験例6>
すり身の魚種による相違があるかどうか検討するために、表8に記載の魚種のすり身を用いて、試験例5の配合2と同じ配合の試料を調製して、前述と同様に破断応力、凝集性、破断歪度の測定を測定した。表7に示すようにいずれのすり身を使用しても本願発明に必要な物性範囲の物性のゲルが得られた。
【0042】
【表7】

【0043】
<実施例1>
<魚肉すり身を含有する外層を有する飼料>
魚肉すり身45重量%、水18重量%、魚粉19重量%、魚油9重量%、塩3重量%、グルテン0.3重量%、砂糖2.5重量%、増粘多糖類(アミコール乳華:日澱化学社製オクチニルコハク酸化タピオカ澱粉)2.0重量%、分離大豆タンパク粉体(ニューフジプロSEH:不二製油社製)2.0重量%、ビタミンミックス1.5重量%、重曹0.45重量%、卵白0.45重量%、重合リン酸塩0.25重量%をサイレントカッターを用い混合し、外層用組成物とした。
魚粉50重量%、魚油41重量%、硬化油5重量%、吸油性デキストリン(オイルQ:日澱化学社製:No.50)4%をミキサーを用い混合し、内層組成物とした。
外層用組成物、内層用組成物は包餡機(コバード社製、ロボセブンシリーズ“AR-800”)にそれぞれ投入し、外層用組成物と内層の組成物の重量比が50:50で、平均の長さ150cm、外層の断面直径約20mm、内層部分の断面直径約15mmのソーセージ状になるように内層組成物の周囲を外層用組成物で包み成型した後、蒸機にて90℃で10分間蒸し、その後冷却を行った。
比較例1とし実施例1の外層用組成物を用いて、実施例1と同じ大きさの単層の飼料を調製した。
【0044】
表8に示すように、実施例1の飼料の成分組成は鮮魚や比較例1と比較して、はるかに高蛋白質、高脂肪であり、養魚用飼料として好ましいものであった。
【0045】
【表8】

【0046】
<実施例2>
方法:高蛋白質、高脂肪である実施例1の飼料を用い、マグロ類の成長性を生餌と比較した。直径10mの海面円形生簀2区画にマグロを140尾ずつ収容して飼育を開始した。飼育期間中の平均水温は25℃であった。飼料は1日1回飽食給餌とした。それぞれ与えた飼料の量(給餌量)から残った飼料の量を引き、実際に食べた飼料の量(摂餌量)を測定した。
【0047】
結果:試験期間を通じ、実施例1の飼料の摂餌量は生餌の50〜60重量%であった。それぞれの飼料の重量当たりのカロリー量を計算すると、生餌は1670kcal/kgであるのに対し、実施例1の飼料のカロリーは3600kcal/kgであった。生餌の1/2程度の重量の量を摂取すれば生餌と同程度以上のカロリーを摂取できる。試験開始から40日間の魚体重の増重率は、実施例1の飼料、生餌共に127%であった。実施例1の飼料は生餌と同程度の成長が見込めるものであった。
実施例1の飼料は内層:外層の重量比が50:50であるが、内層、外層の比率やそれぞれの組成を調節することにより、飼料の栄養、カロリーを調節することができる。実施例1の配合よりも高カロリー、高栄養の飼料を製造することにより、生餌や従来のマグロ類用飼料などより高い成長率の飼料を得ることができる。
【0048】
<試験例7>
外層に蛋白質以外の材料を用いて、好ましい物性を持つ飼料を作製することを試みた。すり身のような動物性原料ではなく、植物性原料を主成分として用いることを検討した。
また、各種原料について検討する中で、外層の物性を破断応力、凝集性(30%)、破断歪率で測定するよりも、より簡便に本発明の飼料の外層として適否を判断する指標について検討し、以下の方法を見出した。
外層の物性測定方法
外層の原料(合計30g:水を含む)を混練し、底面が90×90mmの大きさの樹脂トレーに広げ、約3mm厚さの薄層とし、100℃の蒸し器で5分間加熱する。80×15×3mmの大きさの短冊状に切り、それぞれ4枚をサンプルとする。それらを105℃の乾燥機で30分間乾燥させる。熱が取れたら食品用ラップフィルムに包んで25℃の水槽に30分間浸けて品温を一定にさせる。
それぞれの短冊状サンプルを図1のように中ほどでゆっくり折り曲げて、亀裂が生じた時点の角度(α)を求める。角度αが大きいほど、伸展性、柔軟性があり、本発明の飼料の外層と適した物性であるといえる。角度αが90度以上であれば、本発明飼料の外層として適している。
以下の試験例、実施例で用いた原料は以下のとおりである。
タピオカ澱粉(エーテル化):松谷化学工業(株)製、商品名 ゆり8/日澱化学(株)製、商品名G-800
タピオカ澱粉(アセチル化):松谷化学工業(株)製、商品名 桜2
タピオカ澱粉(リン酸架橋):松谷化学工業(株)製、商品名 パインベークCC
ワキシー澱粉(α化):日澱化学(株)製、商品名 アミコールW
馬鈴薯澱粉(エーテル化):松谷化学工業(株)製、商品名 ファリネックスAG600
豆澱粉(アセチル架橋):日澱化学(株)製、商品名 FPA
大豆タンパク:不二製油(株)製、商品名ニューフジプロSE H
小麦粉:日東富士製粉(株)、商品名 赤ナイト
リン酸水素二ナトリウム:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製
【0049】
<試験例8>
澱粉を含まない配合
食品分野で用いられる配合を参考に小麦のドウを用いた配合で外層を作製した。表9に示す配合で試験例7記載の方法で短冊状のサンプルを製造し、亀裂が生じた角度αを測定したところ、54度であった。また、乾燥前に折り曲げても90度曲がらないうちに亀裂が生じてしまった。このサンプルは乾燥前も柔軟性、伸展性に乏しいものであり、本発明の外層には適当ではなかった。魚粉、魚油を添加する場合、小麦粉だけで外層を作製するには、混練時間を長くするなど、グルテンの効果が強くでるような製造方法を採用することが必要である。
【0050】
【表9】

【0051】
<試験例9>
小麦粉と澱粉を含有する配合
魚粉、魚油を含む場合、小麦粉だけでは十分な物性のものを得ることができなかったので、澱粉を用いることを試みた。試験例8の配合を基本配合とし、小麦粉40重量%(乾物換算)のうち35重量%を表10に示す澱粉に置き換えた配合で短冊状のサンプルを作製し、折り曲げたときに亀裂が生じる角度αを測定した。
表10に示すように、各種澱粉を添加することにより、小麦だけの場合と比較して顕著に伸展性に優れた物性のものが得られた。
【0052】
【表10】

【0053】
<試験例10>
澱粉の配合
試験例9において、複数種類の澱粉を用いたほうが好ましいという結果が得られたので、試験例9と同様に試験例8の小麦粉40重量%(乾物換算)のうち35重量%を表11に示す澱粉に置き換えた配合で短冊状のサンプルを作製し、折り曲げたときに亀裂が生じる角度αを測定した。
表11に示すように、1種類の澱粉よりも2種類を組み合わせることによって相乗効果が認められた。
【0054】
【表11】

【0055】
<試験例11>
魚粉の添加可能量の検討
外層にどの程度の魚粉を添加することができるか確認するため、表12の基本配合を用い、魚粉と澱粉の添加量を表13のように変化させて短冊状サンプルを作製し、亀裂が生じる角度αを測定した。
表13に示すように魚粉の含有量が乾物換算で50重量%を超えると、亀裂が生じる角度αが90度を割り、好ましくない物性になるが、50重量%程度までは添加可能であることが確認できた。
【0056】
【表12】

【0057】
【表13】

【0058】
<試験例12>
小麦粉の添加
試験例11の結果に基づき、魚粉の量が限界量であると考えられる表13のタピオカ澱粉(エーテル化):魚粉=24:53を基準配合とし、そのうち小麦粉の添加量を表14のように増減させて短冊状サンプルを作製し、亀裂が生じた角度αを測定した。
表14に示すように、小麦粉の添加は亀裂が生じた角度αを改善させた。また、同時に外層に強度を付与する効果を有することが認められた。
【0059】
【表14】

【0060】
<試験例13>
リン酸塩の添加
試験例12と同様に、表13のタピオカ澱粉(エーテル化):魚粉=24:53を基準配合とし、そのうちリン酸水素二ナトリウムの添加量を表15のように増減させて短冊状サンプルを作製し、亀裂が生じる角度αを測定した。
表15に示すように、リン酸塩を添加することにより亀裂が生じる角度αが改善されることが確認された。リン酸塩の添加により、柔軟性、伸展性にすぐれた物性となることを確認した。
【0061】
【表15】

【0062】
<試験例14>
澱粉量
表16の配合を基準配合とし、タピオカ澱粉と小麦粉の配合量を調節することにより、澱粉の合計量と小麦粉の量を表17のように増減させて短冊状サンプルを作製し、亀裂が生じる角度αを測定した。
表17に示すように澱粉含有量が少なくなると柔軟性が低下した。魚粉を35重量%含有する場合、澱粉含有量は20重量%程度以上とするのが好ましいことが示された。
【0063】
【表16】

【0064】
【表17】

【0065】
<試験例15>
表18の配合で短冊状のサンプルを作製し、亀裂が生じる角度αを測定したところ、116度であった。その他の副原料なしでも、柔軟性のある外層ができることが確認できた。しかし、やや表面がべたつくので、取扱の点からはその他の副原料を添加したほうが好ましい。
【0066】
【表18】

【0067】
<試験例16>
試験例14の表16の基準配合により作製した短冊状サンプルを水分が20重量%以下になるまで105℃で乾燥させた。この乾燥短冊状サンプルを水及び海水に浸漬したところ、速やかに吸水し、30秒程度で乾燥前の状態に近い物性が得られた。
【0068】
<実施例3>
タピオカ澱粉(エーテル化澱粉)18重量%、ワキシー澱粉(α化ヒドロキシプロピルリン酸架橋澱粉)4重量%、豆澱粉(アセチル化澱粉)1重量%、分離大豆タンパク粉体(ニューフジプロSEH:不二製油社製)3重量%、オキアミミール3重量%、小麦粉3重量%、グルテン1重量%、カラギーナン0.5重量%、リン酸水素二ナトリウム0.5重量%、卵白3重量%、魚粉20重量%、水あめ3重量%、魚油2重量%、水40重量%をサイレントカッターを用いて混合し、外層用組成物とした。
魚粉60重量%、魚油36重量%、硬化油1.2重量%、オキアミミール3重量%、ビタミン2.5重量%、ミネラル1重量%、リン酸カルシウム1.2重量%、有機酸0.1重量%をミキサーを用い混合し、内層組成物とした。
外層用組成物、内層用組成物は包餡機(コバード社製、ロボセブンシリーズ AR-800)にそれぞれ投入し、外層用組成物と内層の組成物の重量比が4:6で、平均の長さ11cm、外層の断面直径約23mm、内層部分の断面直径約20mmのソーセージのような形状になるように内層組成物の周囲を外層用組成物で包み成型した後、蒸機にて95℃で100秒間蒸し、冷却した。
澱粉を主体とする外層でも、すり身を用いた場合と同様に表面に弾力、柔軟性がある飼料を製造することができた。実施例1の飼料と本実施例の飼料を比較すると実施例1では飼料全体として、湿重量で、魚粉34.5重量%、魚油25重量%含有するのに対し、本実施例の飼料では魚粉44重量%、魚油22.4重量%含有するものであり、同様に栄養価の高い飼料であった。また、本実施例の飼料をマグロに給餌したところ、生餌と同様に活発に摂餌した。
【0069】
<試験例17>
硬化油
内層に添加する硬化油の種類について検討した。表19、20に示した種々の性質の硬化油を用いて比較試験を行った。
【0070】
【表19】

【0071】
【表20】

【0072】
魚粉57重量%、魚油40重量%及び硬化油3重量%の配合で、各種の内層を作成した。製造方法は、最初に魚油と硬化油を加熱混合し、均一にしてから魚粉を混合した。これら内層を22℃と42℃の恒温槽に保存後、硬さ(コンシステンシー)、粘度、保油性(遠心ドリップ)を測定した。
測定方法は、以下のとおりである。
(1)硬さ: 基準油脂分析試験法(日本油化学会.2003)に準拠し、コンシステンシー(侵入試験法)を測定した。測定器:(株)山電RHEONER II‐3305S、プランジャー:直径3mm円柱、侵入速度:1mm/s、測定値:10mm侵入したときの最大荷重(N)
(2)粘度: 基準油脂分析試験法(日本油化学会.2003)に準拠し、粘度(Brookfield法)を測定した。測定器:リオン(株)VISCOTESTER VT-04、単位:1P(ポアズ)=1mPa・s
(3)保油性: 遠心ドリップを測定した。すなわち目皿付き遠沈管にセットした袋状ろ紙内に内層10gを入れ、遠心機にかけたときに分離した油脂の量を測定した(遠心は室温、1500rpm、10分)。遠心ドリップが低いほど保油性が高い。
結果を図1〜6に示す。硬化油の種類により程度の差はあるが、いずれも、内層の物性を改良した。50℃以上の融点を有する硬化油、硬化油を構成する脂肪酸の主成分(脂肪酸組成において最も量の多い脂肪酸)が炭素数18以上の脂肪酸であり、かつ、ヨウ素価(100gの油脂に吸収されるヨウ素の質量(g単位))が0〜2である硬化油が好ましい傾向にあった。特に、炭素数22のベヘン酸などの炭素数が20以上の脂肪酸を多く含む硬化油が好ましい結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、飼料供給の安定性、飼料の保存性に優れた高栄養の配合飼料を、蛋白質及び/又は澱粉の加熱ゲルにより包むことで、摂餌性が高く、従来の飼料より栄養効率の高い養魚用飼料を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質及び/又は澱粉の加熱ゲルによって構築された外層と魚粉と油脂を必須成分とする栄養成分を含む組成物からなる内層からなることを特徴とする養魚用飼料であって、内層の油脂が魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂であることを特徴とする養魚用飼料。
【請求項2】
蛋白質が魚肉すり身、魚肉落し身、オキアミ、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、卵白、大豆蛋白質から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである請求項1の養魚用飼料。
【請求項3】
澱粉がタピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉である請求項1又は2の養魚用飼料。
【請求項4】
外層がさらに魚粉及び/又は油脂を含有するものである請求項1ないし3いずれかの養魚用飼料。
【請求項5】
外層と内層の組成物の重量比率が2:8〜7:3である請求項1ないし4いずれかの養魚用飼料。
【請求項6】
外層の水分含量が20〜50重量%である請求項1ないし5いずれかの養魚用飼料。
【請求項7】
外層が、厚さ3mmの短冊状の薄片を製造し、温度105℃で30分間乾燥後、二つに折り曲げたときに少なくとも90度折り曲げても亀裂を生じない物性を有する組成物であることを特徴とする請求項1ないし6いずれかの養魚用飼料。
【請求項8】
内層の組成物が魚粉30〜70重量%及び油脂30〜70重量%含有するものである請求項1ないし7いずれかの養魚用飼料。
【請求項9】
内層の組成物にさらに多糖類及び/又は乳化剤を含むことを特徴とする請求項1ないし8いずれかの養魚用飼料。
【請求項10】
養魚用飼料が、マグロ類用飼料である請求項1ないし9いずれかの養魚用飼料。
【請求項11】
請求項1ないし10いずれかの飼料の外層の水分含量を10〜20重量%に調整したことを特徴とする養魚用飼料。
【請求項12】
加熱によりゲルを形成する蛋白質原料及び/又は澱粉原料に副原料を添加し撹拌混合した外層組成物と、魚粉、魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂及びその他栄養成分を撹拌混合した内層組成物を調製し、外層組成物で内層組成物の少なくとも主表面を包むように成形し、加熱処理により外層組成物をゲル化することを特徴とする養魚用飼料の製造方法。
【請求項13】
加熱によりゲルを形成する蛋白質原料及び/又は澱粉原料に副原料を添加し撹拌混合した外層組成物、魚粉、魚油及び融点が50℃以上の硬化油を含有する油脂及びその他栄養成分を撹拌混合した内層組成物を調製し、二重ノズルを備えたエクストルーダを用いて、外層組成物に加熱処理を加えゲル化しながら、同時に内層組成物の少なくとも主表面を包むように押出成形することを特徴とする請求項12の養魚用飼料の製造方法。
【請求項14】
蛋白質原料が魚肉すり身、魚肉落し身、オキアミ、ゼラチン、コラーゲン、グルテン、卵白、大豆蛋白質から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである請求項12又は13の養魚用飼料の製造方法。
【請求項15】
澱粉原料がタピオカ澱粉、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、豆澱粉、ワキシーコーンスターチ、及びそれらの加工澱粉から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである請求項12ないし14いずれかの養魚用飼料。
【請求項16】
外層組成物に添加する副原料が魚粉、油脂、塩類、糖類、糖アルコール類、グリセリン、増粘多糖類から選ばれる1つ又は2つ以上を組み合わせたものである請求項12ないし15いずれかの養魚用飼料の製造方法。
【請求項17】
その他栄養成分が、ビタミン類及び/又はミネラル類を含むものである請求項12ないし16いずれかの養魚用飼料の製造方法。
【請求項18】
内層組成物が魚粉30〜70重量%及び油脂30〜70重量%含有するものである請求項12ないし17いずれかの養魚用飼料の製造方法。
【請求項19】
内層組成物にさらに多糖類及び/又は乳化剤が含まれていることを特徴とする請求項12ないし18いずれかの養魚用飼料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−65565(P2012−65565A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211632(P2010−211632)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【Fターム(参考)】