説明

香杉芝(Antrodiasalmonea)菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物

【課題】香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物の提供。
【解決手段】香杉芝(Antrodia salmonea)の菌糸体を平板の上に接種し、25℃にて2週間培養、菌糸体を削り取ってフラスコの中に接種し、7-9日間振とう培養した後、フラスコ培養物を醗酵槽の中に接種し、撹拌又は不撹拌状態で空気を入れて培養、更に水などの溶剤で前記菌糸体を抽出して菌糸体抽出液を獲得し、アルコール沈殿によって香杉芝の菌糸体活性物質を分離する。或いは前記培養懸濁液をアルコールやメチル・アルコールなどの有機溶剤によって振とう抽出を行い、更に上清液を取って減圧濃縮を行い、最後に香杉芝の菌糸体活性物質及びこれを含有する組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物、特に、香杉芝菌糸体の液体を培養した後、溶剤によって抽出した香杉芝菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
香杉芝(Antrodia salmonea)は、台湾省特有の真菌で、台湾特有の香杉樹(Cunninghamia konisii)の枯れ木の幹の中にのみ寄生する。香杉芝は2004年に正式にAntrodia salmoneaと名づけられ(張東柱、2004)、多孔菌科・薄孔菌属(Antrodia)の新品種であり、樟芝(Antrodia camphorate)と同属で、真菌界(Fungus)・担子菌門(Baidiomycota)・担子菌亜門(Basidiomycotina)・同担子菌綱(Homobasidiomycetes)・無褶菌目(Aphyllophorales)・多孔菌科(Polyporaceae)・薄孔菌属(Antrodia)に属する。
【0003】
香杉は又の名をランダイスギといい、台湾本島特有の常緑針葉の高木で、高さは70メートルに及び、胸径は2.5メートルに達する。主として台湾北部及び中部、海抜範囲1300〜2800メートルの山の中に分布する。分布範囲は大雪山を中心として、東は太平山・木瓜山まで、西は小雪山・鹿林山まで、南は白姑大山・香杉山、北は紀納磯山までで、牛樟樹の分布範囲より更に小さい。
【0004】
香杉芝と樟芝の外形はよく似ており、版状の形態を呈し、菌孔がある。違うところは、樟芝の色は橙色で香杉芝の孔面は淡黄又は黄土色で、しかし時には橙色のものもあるが、匂いの違いで区別できる。両者の匂いには明らかな違いがある。樟芝の価格が高いので、多くの商人は形態が似ていて比較的安い香杉芝を混ぜている。しかし食用するものが日増しに増え、評判も前者に劣らない。従って、その生理活性及び有効成分は研究に値し、開発する価値がある。
【0005】
香杉樹や牛樟樹は、台湾固有の原生稀少樹種であり、枯れ死した牛樟樹や香杉の上で育つことの出来る樟芝及び香杉芝の数量はもともと稀少で、成長速度が緩慢である上に、牛樟樹や香杉は既にわが政府によって保育樹種に指定されており、人工的に経済的培養を行うことが出来ず、野外採集方式で獲得するほかなく、価格が極めて高く、樟芝の新鮮子実体はウェット重量50グラムで最低新台幣2500-3000元する。香杉芝は比較的安いが、何れも台湾市場では高価な伝統的薬材である。
【0006】
現在、香杉芝や樟芝などの子実体は人工栽培の方式では獲得できないが、樟芝は固態又は液態で樟芝菌糸体を培養生産することが出来る。姑菌類は、通気・撹拌を伴う液態での培養過程では子実体が生じる事はなく、円球状物(pellets)形式の菌糸体で存在する。従って、適当な液態の培養基を利用して香杉芝菌糸体を培養し、香杉芝活性物質を大量生産することは実行可能且つ開発が待たれている方法である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、香杉芝菌糸体活性物質の調製方法を提供し、大量に香杉芝菌糸体を生産し、且つその活性物質を抽出することにある。
本発明のもう一つの目的は、香杉芝菌糸体活性物質の組成物を提供し、免疫活性剤又はガン細胞の成長抑制剤とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成できる香杉芝菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物は、
香杉芝(Antrodia salmonea)の菌糸体と。
菌糸体を平板上に接種し、平板培養を行った後、更に菌糸体を削り取ってフラスコの中に接種し、フラスコ培養を行った後、最後に、フラスコ培養物を醗酵槽の中に接種して20-22日間培養し、菌糸体および上清液を含む香杉芝菌糸体の液体培養懸濁液を取得する香杉芝菌糸体の培養と、
前記培養懸濁液を水などの溶剤で抽出し、アルコール沈殿によって香杉芝菌糸体活性物質を分離する香杉芝菌糸体活性物質の分離方式と、
前記培養懸濁液をメチルアルコール又はアルコールなどの有機溶剤で抽出し、上清液を濃縮して獲得するもう一つ別の香杉芝菌糸体活性物質の分離方式と、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明が提供する香杉芝菌糸体活性物質の調製方法及びこれを含有する組成物は、前述香杉芝子実体に比べて、さらに下記のような長所がある。
1.本発明が提供する香杉芝菌糸体培養方法は、人工方式で大量に香杉芝菌糸体を生産することが出来、香杉芝を使用するコスト及び価格を引き下げることが出来る。
2.本発明が提供する香杉芝菌糸体活性物質には、免疫細胞を活性化し、ガン細胞の成長を抑制する効果がある。
3.本発明が提供する香杉芝菌糸体活性物質には、DPPHフリーラジカルを除去する能力がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明実施例に使用した香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体は、請求者がChina General Microbiological Culture Collection Center (CGMCC)に預けてある香杉芝菌糸体CGMCC 1342 , CGMCC 1343である。但し本発明に述べた香杉芝菌糸体活性物質はこの二つの菌種から得られたものに限らない。
【0011】
香杉芝菌糸体の培養は、菌糸体を平板の上に接種し、15-35 ℃(好ましい温度は約25 ℃)のような適当な温度にて13-15日間培養した後、菌糸を削り取ってフラスコの中に接種し、下記の培養基を使って、約25 ℃、pH 2-8、より好ましくはpH 4-7、更に好ましくは約pH 4.5、及び振とうスピード10-250rpmにて7-9日間振とう培養する。次に、フラスコ培養物を醗酵槽の培養基へ接種し、15-30 ℃(好ましい温度は25 ℃)にて、槽圧0.5-1.0kg/cm2、pH 2-8、撹拌スピード10-150rpm又は撹拌しない状況で空気を通し(air lift)、0.01-1.5VVM通気スピードで空気又は空気と酸素、二酸化炭素又は窒素の混合物、より好ましくは空気、を通し、20-22日間培養すると、菌糸体と上清液を含む香杉芝菌糸体液体培養懸濁液が得られる。
前記香杉芝菌糸体液体培養の培養基の処方は下記の通り。
【0012】
培養基の処方
成分 濃度(g/100ml)
総合性炭素・窒素源 0.01-5
動植物由来の蛋白及びその水分解物 0.01-2
無機塩類 0.0001-0.05
糖類 0.01-10
酵母又は麦芽抽出物(粉・クリーム状) 0.001-2
【0013】
前記無機塩類は、硫酸マグネシウム・硫酸水素ジカリウム・硫酸鉄などであってよい。
前記糖類は、ブドウ糖・蔗糖・果糖・麦芽糖などであってよい。
前記総合性炭素・窒素源は、穀物類(例えば、麦の粉類)又は豆類(例えば、大豆粉・緑豆粉)であってよい。
【0014】
香杉芝菌糸体活性物質の分離では、先ず香杉芝液体培養懸濁液を菌糸体自体及び上清液とに分離し、更に活性物質をそれぞれ分離する。尚、菌糸体および液体培養基を含めて、直接香杉芝液体培養懸濁液を抽出してその中から活性物質を分離してもよい。
【0015】
菌糸体と液体を分離する方法では、従来の技術を使ってもよい。例えば、遠心・ろ過・沈着(settling)・傾しゃ(decantation)など、本発明の好ましい実施例では、遠心分離法を採用、慣用の遠心分離機を使用している。例えば、欧式遠心脱水機・スエーデンALFA LAVAL社製のDecater NX418 Sを、3200rpm(4000 x g)で遠心分離させれば菌糸体と上清液を分離できる。
【0016】
菌糸体から活性物質を分離する方法は、溶剤を用いて抽出又は菌糸体を溶剤ひび割れさせてから分離するなど、好ましくは溶剤抽出法を採用し、溶剤は水・アルカリ性又は酸性溶液などでもよい。本発明の好ましい実施例では、水を使用して抽出した。抽出温度は30-121 ℃、抽出時間は30分から2時間で、菌糸体抽出液を分離して得られる、繰り返し数回抽出し、この菌糸体抽出液を合併して活性物質の分離を行う。
【0017】
菌糸体抽出液及び培養上清液から活性物質を分離する方法も、同じである。培養上清液を数倍に濃縮し、例えば、5-30倍、より好ましくは約10倍、200リットルを20リットルに濃縮し、次にアルコール類、例えば、アルコール、又はアルコール/水、例えば、95%アルコール(アルコール:水=95:5)で0-30 ℃の低温、より好ましくは4℃にて一晩沈殿させ、最後に分離した沈殿物が活性物質である。
【0018】
又、香杉芝菌糸体液体培養懸濁液から直接活性物質を分離することも出来る。
菌糸体及び培養基を含む培養液を直接30-121 ℃まで適当な期間、例えば、30分から2時間加熱した後、香杉芝菌糸体を分離・除去し、次に上清液を濃縮し、上述の手順でアルコール類を使って活性物質を沈殿分離する。
【0019】
もう一つの香杉芝菌糸体活性物質の分離方式は、菌糸体および上清液を含む前記培養懸濁液を、メチルアルコール又はアルコールなどの有機溶剤によって活性物質の抽出を行う方式で、前記懸濁培養液を先ず冷凍乾燥して香杉芝菌糸体発酵冷凍乾燥粉を取得し、前記発酵冷凍乾燥粉を、5-30倍体積のメチルアルコール又はアルコール溶液と共に泳動瓶の中で振とう抽出を行い、10-250rpmで15-30 ℃において12-24時間振とう抽出し、上清液を取って減圧濃縮方式で乾燥するまで濃縮し、香杉芝菌糸体活性物質を得る。これを適当な溶剤によって溶き戻し、適当な定量濃度とし、4 ℃にて保存、使用に備える。
【0020】
又、直接前記懸濁培養液を有機溶剤によって抽出を行ってもよい。菌糸体および上清液を含む前記培養懸濁液を取って、5-30倍体積のメチルアルコール又はアルコール溶液と共に泳動瓶の中で振とう抽出を行い、10-250rpmで15-30 ℃において12-24時間振とう抽出し、上清液を取って減圧濃縮方式で乾燥するまで濃縮し、香杉芝菌糸体活性物質を得る。これを適当な溶剤によって溶き戻し、適当な定量濃度とし、4℃にて保存、使用に備える。
【0021】
香杉芝菌糸体活性物質を含む組成物については、本発明の香杉芝菌糸体活性物質に適当な希釈剤・付形剤又は担体を配合して、各種形式の製剤、例えば、錠剤・カプセル・顆粒剤・溶液剤・シロップ剤などを作ることが出来る。
【0022】
前記希釈剤は、例えば、水・アルコール類・ケトン類・エステル類又はその他の組合わせによる極性溶剤であってよく、より好ましくは、水・アルコール・水/アルコール混合物・生理食塩水・緩衝水溶液・緩衝食塩水などがある。
【0023】
前記付形剤又は担体は、例えば、乳糖・寒天・澱粉・ステアリン酸ナトリウム等の液体又は固体形式であってよく、液体付形剤又は担体は水・サラダオイル・酒・フルーツジュースなど含む。
【0024】
尚、本発明の香杉芝菌糸体活性物質を含む組成物は、抽出済みの活性物質を使って適当な混合物を作るほか、直接液体培養によって得られた香杉芝菌糸体を使って、抽出手順を踏まず、直接適当な希釈剤・付形剤又は担体を配合して各種形式の製剤を作ってもよい。
【0025】
本発明は、下記の実施例によって範例の説明を行うが、しかし本発明は下記実施例の制限を受けるものではない。
【0026】
実施例一
香杉芝菌糸体(CGMCC 1342, CGMCC 1343 )によって行った菌糸体の培養
【0027】
菌糸体菌株:
China General Microbiological Culture Collection Center (CGMCC)に預けてある菌株CGMCC 1342, CGMCC 1343を使用。
【0028】
平板培養:
菌糸体を平板の上に接種し、ポテト・ブドウ糖・寒天培養基(Potato Dextrose Agar, PDA)を使って、25 ℃にて13-15日間培養。
【0029】
フラスコ培養:
平板上の菌糸を削り取ってフラスコの中に接種し、下記の培養基を使って、約25 ℃、pH 4.5で、泳動機の上で振とう速度10-250rpmにて7-9日間振とう培養する。
【0030】
培養基の処方:
成分 濃度(g/100ml)
穀物類(例えば麦の粉)又は
豆類(例えば大豆の粉・緑豆の粉等) 2
ペプトン(peptone) 0.1
硫酸マグネシウム 0.05
リン酸二カリウム 0.05
硫酸鉄 0.05
庶糖 2
酵母抽出物・粉・練り状物 0.5
【0031】
醗酵槽培養:
培養基は上記と同じ、フラスコ培養物を醗酵槽培養基の中に接種し、25 ℃にて、槽圧0.5-1.0キロ/平方センチ、10-150rpmの撹拌速度及びpH約4.5で、0.5-1.0 VVM通気速度で空気を通し、20-22日間培養すると、菌糸体および上清液を含む香杉芝菌糸体液体培養懸濁液が得られる。
【0032】
結果:
100リットルの醗酵液を醗酵させて1.2キロの菌糸体(乾燥重量)及び90リットルのろ過液が得られた。多糖体の含有量では、図1及び図2に示すように、
香杉芝CGMCC 1342又は CGMCC 1343に拘わらず、10日間培養した後、乾燥重量及び多糖体の産出量が明らかに増加し、約18日後に安定状態に達した。
【0033】
実施例二 香杉芝菌糸体活性成分の分離――水による抽出
【0034】
菌糸体及び上清液の分離:
遠心分離法を採用して実施例一で得られた香杉芝菌糸体及び上清培養液を別々に分け、スエーデンALFA LAVAL社製の慣用遠心分離機Decater NX418 Sを使用。3200rpm (4000 x g)で遠心分離を行って菌糸体及び上清培養液を分離した。
【0035】
菌糸体から活性物質を分離:
上述分離後の菌糸体を水に浸し、100 ℃にて1時間抽出、次に遠心分離を行って菌糸体抽出液を取得、数回繰り返して菌糸体抽出液を合併処理してもよい。3倍体積の95%アルコールを加え、4℃にて一晩沈殿させ、最後に沈殿物及び上清液を分離し、沈殿物を取って活性物質とし、且つ抽出した活性物質を冷凍乾燥し、更に二次蒸留した無菌水で定量濃度10mg/mlまで溶き戻しを行い、香杉芝菌糸体多糖抽出液原液を作った。
【0036】
菌糸体培養上清液から活性物質を分離:
上述分離後の培養上清液を約10倍に濃縮し、次に3倍体積の95%アルコールを加え、4℃にて一晩沈殿させ、最後に沈殿物及び上清液を分離、沈殿物を取って活性物質とし、且つ抽出した活性物質を冷凍乾燥し、更に二次蒸留した無菌水で定量濃度10mg/mlまで溶き戻しを行い、香杉芝菌糸体多糖抽出液原液を作った。
【0037】
直接香杉芝菌糸体液体培養懸濁液から活性物質を分離:
実施例一で得られた香杉芝菌糸体液体培養懸濁液を、菌糸体及び上清液を含めて、直接100 ℃にて1時間抽出、次に遠心分離法によって香杉芝菌糸体を分離、且つ上清液を約10倍濃縮し、次に3倍体積の95%アルコールを加え、4℃にて一晩沈殿させ、最後に沈殿物及び上清液を分離、沈殿物を取って活性物質とし、且つ抽出した活性物質を冷凍乾燥し、更に二次蒸留した無菌水で定量濃度10mg/mlまで溶き戻しを行い、香杉芝菌糸体多糖抽出液原液を作った。
【0038】
実施例三 香杉芝菌糸体活性成分の分離――有機溶剤による抽出
【0039】
メチルアルコールを使って香杉芝菌糸体液体活性物質を抽出:
実施例一で得られた香杉芝菌糸体液体培養懸濁液を、菌糸体及び上清液を含めて、冷凍乾燥を行って香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾粉を取得、前記香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾粉を20倍体積のメチールアルコール溶液で1リットル泳動瓶にて振とう抽出(120rpm、16時間、15-30℃)を行い、次に遠心分離方式で上清液を取得し、残り滓の部分をもう一度上述方式で抽出し、抽出した二回分の上清液を合併して減圧濃縮方式によって乾燥するまで濃縮し、メチールアルコールで溶き戻して適当な定量濃度とし、香杉芝菌糸体メチールアルコール抽出液を得た後、4℃にて保存、使用に備える。
【0040】
アルコールを使って香杉芝菌糸体液体活性物質を抽出:
実施例一で得られた香杉芝菌糸体液体培養懸濁液を、菌糸体及び上清液を含めて、冷凍乾燥を行って香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾粉を取得、前記香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾粉を20倍体積のアルコール溶液で1リットル泳動瓶にて振とう抽出(120rpm、16時間、15-30℃)を行い、次に遠心分離方式で上清液を取得し、残り滓の部分をもう一度上述方式で抽出し、抽出した二回分の上清液を合併して減圧濃縮方式によって乾燥するまで濃縮し、アルコールで溶き戻して適当な定量濃度とし、香杉芝菌糸体アルコール抽出液を得た後、4℃にて保存、使用に備える。
【0041】
実施例四 香杉芝活性物資の免疫効能分析――マクロファージ起動試験
【0042】
実験菌株:
香杉芝(Antrodia salmonea) CGMCC 1342及び CGMCC 1343
【0043】
実験方法:
1. 試供品の調製:
実施例二で分離した香杉芝菌糸体活性物質を試験サンプルとして使用。実施例一で得られた香杉芝菌糸体液体培養懸濁液を、菌糸体及び上清液を含めて、直接100 ℃にて1時間抽出、次に遠心分離法によって香杉芝菌糸体を分離、且つ上清液を約10倍濃縮し、次に3倍体積の95%アルコールを加え、4 ℃にて一晩沈殿させ、最後に沈殿物及び上清液を分離、沈殿物を取って活性物質とし、且つ抽出した活性物質を冷凍乾燥し、更に二次蒸留した無菌水で定量濃度10mg/mlまで溶き戻しを行い、香杉芝菌糸体多糖抽出液原液を作った。
2. マクロファージ起動試験:
安定状態まで培養したRAW264.7マクロファージ(Macrophage)を24孔の培養皿に入れて培養(細胞数は1x105 細胞/孔)、更に上述香杉芝菌糸体多糖抽出液100ミリリットルを取り、それぞれRAW264.7マクロファージの中に加えて刺激活性化を行い、最終濃度を100mg/ml(100ppm)又は500mg/ml(500ppm)とし、それぞれ3回繰り返し処理を行う。なお、未処理のマクロファージの中に100mlのリン酸塩緩衝液(PBS)を加えて陰性対照組とし、37 ℃、5% CO2 にて一晩刺激培養した後、細胞培養液を取り出し、免疫学テスト法(ELISA)によってマクロファージが分泌した腫瘍壊死因子(TNF-α)の濃度を分析した。
【0044】
結果:
腫瘍壊死因子(TNF-α)には腫瘍細胞の破壊及び免疫細胞活性化の機能がある。従って、免疫系では重要な役割を持っている。本実験結果は図3に示すように、異なる香杉芝菌糸体菌株から抽出された活性物質は、全てRAW264.7マクロファージを刺激してTNF-αを分泌させることが出来、二種類の濃度処理で得られたTNF-α濃度は共に陰性対照組より明らかに高く、且つ顕著な差異がある。従って、この実験から、香杉芝菌糸体多糖抽出液には、マクロファージを刺激・活性化する能力があるということが分かる。

【0045】
実施例五 香杉芝活性物質の免疫効能分析――ガン細胞成長の抑制試験(MTT法)
【0046】
実験菌株:
香杉芝(Antrodia salmonea) CGMCC 1342及び CGMCC 1343
【0047】
実験細胞株:
人類結腸腺ガン細胞株LoVo、人類乳ガン細胞株MCF-7、人類肝臓ガン細胞株PP5、Hep-G2 及びHep-3B。
【0048】
実験方法:
1. 試供品の調製:
実施例三で得られた香杉芝菌糸体アルコール抽出液を試験サンプルとして使用。実施例一で得られた香杉芝菌糸体液体培養懸濁液を、菌糸体及び上清液を含めて、冷凍乾燥して香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾燥粉を取得する。前記香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾燥粉20グラムを取り、20倍体積のアルコール溶液で1リットル泳動瓶にて振とう抽出(120rpm、16時間、15-30℃)を行い、次に遠心分離方式で上清液を取得し、残り滓の部分をもう一度上述方式で抽出し、抽出した二回分の上清液を合併して減圧濃縮方式によって乾燥するまで濃縮し、アルコールで溶き戻して適当な定量濃度とし、香杉芝菌糸体メチルアルコール抽出液を得た後、4 ℃にて保存、使用に備える。
【0049】
2. ガン細胞成長の抑制試験
異なるガン細胞株をそれぞれ96孔培養皿の中に入れて培養、細胞濃度は1x105 細胞/100ml/孔、且つそれぞれ異なる濃度の香杉芝菌糸体アルコール抽出液を加えて処理、最終濃度は6.25ppm/12.5ppm/25ppm/50ppmの4種類で、37 ℃、5% CO2 培養箱の中に置き、24時間培養した。
【0050】
培養後、20ml/孔のMTT(5mg/ml)を加え、引き続き37 ℃、5% CO2にて4時間培養、その後、250xgで10分間遠心分離を行い、上清液を取り除いた後、200ml/孔のジメチル・スルフォキシド(DMSO)を加えて、5分間振とうした後、ELISA readerでA570nmの光吸収値を測定した。
【0051】
結果:
実験結果は図4及び図5に示すように、二種類の香杉芝菌糸体アルコール抽出液は、5種類のガン細胞株に対して何れもその成長を抑制する現象が見られ、そのなかで、50ppm濃度の抑制効果が最もよい。この実験から、香杉芝菌糸体アルコール抽出液にはガン細胞の成長を抑制する能力があることが分かる。
【0052】
実施例六 香杉芝菌糸体メチルアルコール抽出物の抗酸化分析――DPPHフリーラジカル除去能力の試験
【0053】
実験方法:
1. 試供品の調製:
実施例五に同じく、実施例三で得られた香杉芝菌糸体メチルアルコール抽出液を試験サンプルとする。
2. DPPHフリーラジカル除去能力の試験:
島田などの方法(Shimada K., Fujikawa K., Yahara K., and Nakamura T., 1992. Antioxidative properties of Xanthan on the autoxidantion of soybean oil in cyclodextrin emulsion. J. Agric. Food Chem. 40: 945-948.)を参考にして、異なる濃度(0.5,1,5,10,20 mg/ml)の香杉芝菌糸体メチルアルコール抽出液を4ml取り、さらに新たに調合した10mM 1,1-diphenyl-2-picryl hydrazyl(DPPH)メチルアルコール溶液を加え、均一に混合した後、室温下において30分間反応させ、且つ抗酸化剤BHA (Butylated Hydroxy Anisole)を対照組として、分光光度計でA570nmの光吸収値を測定し、DPPHフリーラジカル除去のパーセンテージを計算した。計算公式は、
【0054】
Scavenging effect (%) = [(absorbance of control at 517nm)-(absorbance of sample at 517nm)]/(absorbance of control at 517nm)
【0055】
結果:
表1に示すように、香杉芝菌糸体メチルアルコール抽出物は、10、20 mg/mlの二種類の濃度では、DPPHフリーラジカル除去能力に対して悪くない効果を有し、且つ霊芝や樟芝の効果より優れている。
【0056】
【表1】

【0057】
上記詳細な説明は、本発明の実行可能な実施例の具体的説明であり、但し前記実施例は本発明の特許請求範囲を制限するものではなく、凡そ本発明の技芸精神を逸脱せずなされる等価実施又は変更、例えば、活性物質の抽出に係る温度・時間・溶剤などは、全て本案の特許請求範囲に含まれるものとする。
【0058】
以上を総合すると、本発明は、香杉芝菌糸体活性物質の抽出方法において確かに新規性があるのみならず、前記活性物質には上述のような幾多な効能があり、新規性及び進歩性の法定発明特許の要件を十分満たしているものと考える。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】香杉芝(CGMCC 1342)菌糸体の100リットル醗酵槽培養期間における多糖体及び菌糸乾燥重量の変化である。
【図2】香杉芝(CGMCC 1343)菌糸体の100リットル醗酵槽培養期間における多糖体及び菌糸乾燥重量の変化である。
【図3】RAW264.7マクロファージ細胞が異なる品種及び濃度の香杉芝菌糸体多糖抽出物の刺激を受けた後、TNF-α分泌の濃度変化である。
【図4】香杉芝(CGMCC 1342)菌糸体アルコール抽出物の5種類のガン症細胞株に対する成長抑制状況である。
【図5】香杉芝(CGMCC 1343)菌糸体アルコール抽出物の5種類のガン症細胞株に対する成長抑制状況である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法であって、下記のステップ、
(1) 平板培養:菌糸体を平板の上に接種し、15-35 ℃にて
13-15日間培養する。
(2) フラスコ培養:平板上の菌糸を取ってフラスコ培養基の中に接種し、15-35 ℃、pH 2-8にて、7-9日間振とう培養する。
(3) 醗酵槽培養:フラスコ培養物を醗酵槽培養基の中に接種し、15-35℃、pH2-8にて、20-22日間培養すると、菌糸体と上清液を含む香杉芝菌糸体液体培養懸濁液が得られる。
(4) 培養懸濁液から香杉芝菌糸体活性物質を分離する、
を含むことを特徴とする香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項2】
前記菌糸体は、China General Microbiological Culture Collection Center (CGMCC)に預けてある香杉芝菌糸体で、登録番号:CGMCC 1342及びCGMCC 1343の香杉芝菌糸体であることを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項3】
前記培養基には、0.01-5g/100mlの穀物類又は豆類等の総合性炭素・窒素源、及び0.01-2g/100mlの動植物由来蛋白及びその水分解物、及び0.0001-0.05g/100mlの硫酸マグネシウム・硫酸水素ジカリウム又は硫酸鉄などの無機塩類、及び0.01-10g/100mlのブドウ糖・蔗糖・果糖・麦芽糖などの糖類、及び0.001-2g/100mlの酵母又は麦芽抽出物を含むことを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項4】
前記醗酵槽培養は、槽圧0.5-1.0kg/cm2 、且つ0.01-1.5 VVMの通気速度で空気を入れる状態下で行うことを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項5】
前記培養懸濁液から香杉芝菌糸体活性物質を分離する方法は、下記のステップ、
A) 前記培養懸濁液を香杉芝菌糸体と上清培養液とに分離する。
B) 抽出溶剤を使って前記菌糸体を抽出する。
C) アルコール沈殿によって香杉芝菌糸体活性物質を分離する。
を含むことを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項6】
前記抽出溶剤は水、抽出温度は30-121℃であることを特徴とする請求項5に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項7】
前記前記培養懸濁液から香杉芝菌糸体活性物質を分離する方法は、下記のステップ、
A) 前記培養懸濁液を香杉芝菌糸体と上清培養液とに分離する。
B) 上清培養液を5-30倍に濃縮する。
C) アルコールを使って0-30℃にて香杉芝菌糸体活性物質を沈殿分離する。
を含むことを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項8】
前記上清培養液は、10倍濃縮すること特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項9】
前記アルコール沈殿は、4℃にて沈殿させることを特徴とする請求項5又は7に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項10】
前記培養懸濁液から分離した香杉芝菌糸体活性物質は、培養懸濁液を有機溶剤によって振とう抽出し、上清液を取って濃縮させて取得した香杉芝菌糸体活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項11】
前記培養懸濁液から分離した香杉芝菌糸体活性物質は、培養懸濁液を冷凍乾燥して香杉芝菌糸体醗酵冷凍乾粉を取得し、さらに前記冷凍乾粉を有機溶剤によって振とう抽出を行い、上清液を取って濃縮させて取得した香杉芝菌糸体活性物質であることを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項12】
前記有機溶剤は、メチルアルコール又はアルコール溶液で、且つその体積が抽出物の5-30倍であることを特徴とする請求項10又は11に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項13】
前記振とう抽出は、10-250rpmの回転速度、15-30℃にて12-24時間抽出を行うことを特徴とする請求項10又は11に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項14】
前記培養懸濁液から分離した香杉芝菌糸体活性物質は、培養懸濁液中の香杉芝菌糸体を直接乾燥したものであることを特徴とする請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法。
【請求項15】
前記請求項1に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質の調製方法によって調製した香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体活性物質、及び適量の希釈剤・付形剤又は担体によって組成されたことを特徴とする香杉芝菌糸体の組成物。
【請求項16】
ガン細胞の治療又は成長抑制用とすることを特徴とする請求項15に記載の香杉芝(Antrodia salmonea)菌糸体組成物の応用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−135464(P2007−135464A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333117(P2005−333117)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(505428008)葡萄王生技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】