説明

香気が付与された食肉加工食品の製造方法

【課題】食肉加工食品全体にわたり、香気成分に由来する香りがバランスよく均一に付与された食肉加工食品の製造方法を提供する。
【解決手段】香料またはハーブ類、香辛料、柑橘類、酒類、コーヒー等の香気成分をピックル液に分散させ、当該ピックル液を単一肉塊あるいは非単一肉塊からなる原料肉塊に添加することで、全体にバランスよく均一に香気が付与され、食肉加工食品の内部(断面)から特徴ある風味を香らせる食肉加工食品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香気成分に由来する香りが付与された食肉加工食品の製造方法、より詳しくは、香気成分が分散されたピックル液を、原料肉塊に添加する工程を含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
日本人の食生活の多様化と相俟って、今やハム、ソーセージ等の食肉加工食品は重要な食品の1つになってきている。また、消費者の嗜好、味覚の変化に対応すべく、バラエティに富んだ食肉加工食品が提案されている。
【0003】
例えば、独特の香りを付与するために、ハーブやバジル、パセリ等の香草、黒胡椒のような香辛料を添加したソーセージや、また、特許文献1には、クレソンの特性を生かしたクレソン入りソーセージとその製造方法が提案されている。このような香気成分が付与された食肉加工食品はソーセージが中心であり、ハムでは数少ない。
【0004】
その理由は、ソーセージとハムの製造方法の違いに起因するが、一般的に、ソーセージの製造方法は、ミンチした原料肉と塩漬剤を混ぜ原料肉を塩漬させ(塩漬工程)、その後調味料、香辛料と混合し(カッティング又はミキシング工程)、ケーシングに充填、加熱することにより製造することができる。ハーブやパセリ、黒胡椒等の香気成分は、前記カッティング又はミキシング工程において混合することができる。
【0005】
しかし、ハムの製造工程は、原料肉を塩漬し(原料肉をピックル液に漬けるか、又はピックル液をインジェクションする)、塩漬した原料肉を充填し、加熱する工程を経ることによって製造される。よって、ハムにおいて香気を付与させる手段として、調味液に塩漬した原料肉を漬け込むことで、香気を付与させている。しかし、この方法では、ハムの表面にしか香気を付与することができず、ハムの内部まで香気を付与することができない。例えば、特許文献2では、塩漬した原料肉を八丁味噌を主原料とする調味液に漬け込み、八丁味噌の味、風味を付与する技術が開示されているが、表面から2〜10mmの部分に八丁味噌の風味が付与されるに過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−253785号
【特許文献2】特開2006−345725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の通り、ハムのような食肉加工食品においては、全体にバランスよく均一に香気が付与するための食肉加工食品の製造方法については知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者らは、ピックル液に香気成分を分散させ、当該ピックル液を原料肉塊に添加することで、食肉加工食品の内部(断面)から特徴ある風味を香らせることに成功し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、全体にバランスよく香気を食肉加工食品に付与するために(1)原料肉塊に、香気成分が分散されたピックル液を添加する工程を含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法、(2)前記ピックル液の添加工程の後に、さらにケーシングへ充填する充填工程を含むこと特徴とする(1)に記載の食肉加工食品の製造方法、(3)前記ピックル液の添加工程の後に、さらに真空包装する真空包装工程を含むことを特徴とする(1)に記載の食肉加工食品の製造方法、(4)前記(1)〜(3)記載の製造方法によって製造されることを特徴とする食肉加工食品、に関する。
【発明の効果】
【0010】
香気成分を含むピックル液を、原料肉塊に添加することで、肉塊全体に均一に香気成分が分散され、食肉加工食品の内部(断面)から特徴ある風味を香らせることができ、従来にない嗜好性に富んだ食肉加工食品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、香気が付与された食肉加工食品の製造方法であって、原料肉塊に、香気成分が分散されたピックル液を添加する工程を含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法である。
【0012】
本発明の「食肉加工食品」としては、食肉を原料肉とするハムやベーコン類を含み、ロースハム、ボンレスハム、ショルダーハム、骨付ハム、ベリーハム、生ハム、プレスハム、チョップドハムがあげられるが、これらに特に限定されない。
【0013】
本発明の「食肉加工食品」に使用できる「原料肉塊」とは、ロースハムやボンレスハム等の製造時に、加工に適した大きさにカットされる肉塊であり、当該原料肉塊は、1つのブロックからなる単一肉塊であってもよいし、カットされたブロックが2つ以上集合した非単一肉塊であってもよい。原料肉の種類としては、豚肉、牛肉、馬肉、めん羊肉、山羊肉、家兎肉、家禽肉のいずれでもよく、特に種類は限定されない。また、原料肉の部位も、ロース肉、バラ肉、胴肉等が挙げられるが、加工に適していれば、いずれの部位でもよく、特に限定されない。
【0014】
香気成分とは、香料や食品に含まれる揮発性成分であり、香りを有するものをいう。例えば、ハーブ類、香辛料、柑橘類、酒類、コーヒー等があげられるが、水溶性のものであれば、これらに限定されるものではない。
【0015】
ピックル液とは、水に食塩、亜硝酸塩等の発色剤、アスコルビン酸等の酸化防止剤、重合リン酸塩、砂糖などの塩漬剤を溶解したものであり、原料肉塊に添加することで、食肉加工食品特有の色調、風味を付与することができる。また、植物性タンパク質や動物性タンパク質等の異種タンパク質をピックル液に含有させることで、食肉加工食品の物性面を改良することもできる。さらに、亜硝酸塩の働きにより、ボツリヌス菌の生育を抑制することも可能である。このように原料肉をピックル液に漬け込む工程を塩漬工程というが、食肉加工食品の色調、風味、物性、品質を左右する重要な工程である。
【0016】
本発明では、その塩漬工程において、香気成分をピックル液に分散させたものを原料肉塊に注入するが、香気成分をピックル液に添加する方法として、食塩、発色剤、砂糖等の塩漬剤とともに香気成分を水に溶解させてもよいし、塩漬剤を溶解させた後に香気成分を水に溶解させてもよいし、また、あらかじめ抽出・溶解・乳化させた香気成分を添加してもよく、特に限定されない。
【0017】
香気成分の添加量としては、例えば香辛料の場合、原料肉塊100重量部に対して、0.05重量部〜2.0重量部添加することが好ましく、より好ましくは0.1重量部〜1.0重量部である。ただし、これは付与する香気成分の強度により調整する必要があり、例えば香辛料の場合2.0重量部以上だと香気が強すぎて、エグ味が生じ、食肉製品の旨味に影響が出る。
【0018】
本発明において、ピックル液を原料肉塊に添加する方法としては、原料肉塊にピックル液を噴射する方法、原料肉塊をピックル液に浸漬させる方法、インジェクターを使って、ピックル液を原料肉塊に注入する方法等があるが、原料肉塊内部までピックル液を浸透させるための手段としては、ピックル液を原料肉塊に注入する方法を採用することが好ましい。さらに、ピックル液注入後の原料肉塊を真空タンブラー等により振とうさせることでピックル液を原料肉塊になじませることができる。
【0019】
本発明は、また、前記ピックル液の添加工程の後に、さらにケーシングへ充填する充填工程、又は、真空包装する真空包装工程を含むこと特徴とする食肉加工食品の製造方法、にも関する。
【0020】
例えば、ロースハムやボンレスハム等のハム類の場合、前記塩漬工程を経た後は、塩漬処理された原料肉塊をケーシングに充填するか又は真空包装を行い、加熱処理し、冷却処理を経ることで製造される。加熱処理の条件としては、通常のハムの製造で適用され得る、蒸煮、湯煮等の条件を採用することができる。一方、ベーコン類の場合は、塩漬処理された原料肉塊を、燻煙し、冷却処理を経ることで製造される。燻煙とは、燻煙材(サクラやカシ等の堅木のチップやおが屑)をいぶらせ、発生する揮発性成分を製品に付着させる操作である。ベーコンの場合、熱くん法(50〜70℃)が一般的である。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)香気成分を添加したハムの製造(ケーシング充填による製造)
以下の手順に従い、ハーブ類、香辛料、柑橘類、酒類を添加した食肉加工食品の製造を行った。ハーブ類としてバジル抽出物(試験区1)、香辛料としてシソ抽出物(試験区2)、柑橘類としてレモン果汁およびライム果汁(試験区3)、酒類としてブランデー(試験区4)を使用した。試験区5は香気成分を何も添加していない。
【0023】
表1に示す割合になるように、適宜調製したピックル液を豚肉中に添加した。ピックル液の添加量は原料肉種や部位により調整する。ピックル液の添加は、ピックルインジェクターによる注入により行った。ピックル液の注入を行った後、原料肉塊を1時間タンブリングし、3日間熟成した。そしてケーシングに充填した後、結さつし、加熱処理を行った。加熱処理はまず乾燥処理を67℃で120分し、その後蒸煮処理を80℃で100分行った。表1中、単位は%である。
【0024】

【表1】

【0025】
(官能評価)
8名のパネルにこれら試験区1〜5のハムを試食してもらったところ、香気成分を添加した試験区1〜4は、香気成分に由来する香りが付与されており、味、香りともに良好という評価であった。特に試験区2は評価が高かった。試験区5は、ハム特有の味と香りしかしなかった。
【0026】
(実施例2)香気成分を添加したハムの製造(真空調理製法による製造)
実施例1と同じく試験区1〜5の香気成分を使用し、真空調理製法によりハムの製造を行った。即ち、実施例1と同様の方法で、原料肉塊にピックル液の注入を行い、タンブリングを行い、熟成処理を行った後、真空包装を施し加熱処理を行った。加熱処理は75℃140分の条件で湯煮にて行った。
【0027】
(官能評価)
8名のパネルにこれら試験区1〜5のハムを試食してもらったところ、香気成分を添加した試験区1〜4は、香気成分に由来する香りが付与されており、実施例1よりも味、香りともに良好という評価であった。特に試験区2は評価が高かった。試験区5は、ハム特有の味と香りしかしなかった。
【0028】
(まとめ)
試験区1〜4のいずれの試験区もそれぞれ特徴があるものの、ハムに香気成分特有の香気を付与できる香気成分として、いずれも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、香気成分が分散されたピックル液を原料肉塊に添加することで、食肉加工食品全体にわたり、香気成分に由来する香りがバランスよく均一に付与された食肉加工食品を製造することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
香気が付与された食肉加工食品の製造方法であって、原料肉塊に、香気成分が分散されたピックル液を添加する工程を含むことを特徴とする食肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記ピックル液の添加工程の後に、さらにケーシングへ充填する充填工程を含むこと特徴とする請求項1に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記ピックル液の添加工程の後に、さらに真空包装する真空包装工程を含むこと特徴とする請求項1に記載の食肉加工食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法によって製造されることを特徴とする食肉加工食品。





















【公開番号】特開2012−80789(P2012−80789A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227436(P2010−227436)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】