説明

駆動力伝達装置

【課題】二段階のカム部を有するカム機構を採用する場合に、伝達トルクの急変を抑制できる駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】カム機構150は、支持カム部材151と、移動カム部材152と、カムボール153と、インナシャフト120またはメインクラッチ130に対して移動カム部材152をメインクラッチ130側とは反対側の軸方向に付勢する第一弾性部材154および第二弾性部材155とを備える。カムボール153が第一カム部151a1-152b1の所定位置より深い側に位置する場合には、第一弾性部材154が付勢力を発生し、かつ、第二弾性部材155は付勢力を発生せず、カムボール153が第一カム部151a1-152b1の所定位置より浅い側に位置する場合、および、カムボール153が第二カム部151a2-152b2に位置する場合に、第一弾性部材154および第二弾性部材155が付勢力を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向力を発生するカム機構にて二段階のカム部を有する駆動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
いわゆる電子制御カップリングと称される駆動力伝達装置は、例えば、特開2004-108575号公報(特許文献1)に記載されたものがある。この駆動力伝達装置は、以下のように構成される。電磁クラッチ装置のパイロットクラッチを介して外側回転部材と内側回転部材との回転差に応じたトルクをカム機構に伝達し、カム機構により当該トルクをメインクラッチに対する軸方向の押付力に変換し、押し付けられたメインクラッチにより外側回転部材と内側回転部材との間でトルクが伝達される。
【0003】
このカム機構は、支持カム部材に形成される支持側カム溝と移動カム部材に形成される移動側カム溝とにより、二段階のカム部を形成する。すなわち、傾斜角度が大きな第一カム部と、第一カム部の傾斜角度より小さな傾斜角度となる第二カム部とを連続して形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-108575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、第一カム部と第二カム部との境界においてカムボールが移動する瞬間に、移動カム部材によりメインクラッチを押し付ける力が急変する。つまり、当該瞬間の前後において、外側回転部材と内側回転部材との間で伝達されるトルクが急変する。伝達トルクの急変は、運転者にとって不快感となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、二段階のカム部を有するカム機構を採用する場合に、伝達トルクの急変を抑制できる駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明に係る駆動力伝達装置は、円筒形状の外側回転部材と、前記外側回転部材内に相対回転可能に同軸上に配置された軸状の内側回転部材と、前記外側回転部材と前記内側回転部材との間でトルクを伝達するメインクラッチと、磁力によりアーマチュアを引き寄せることで前記外側回転部材のトルクを伝達可能なパイロットクラッチを備える電磁クラッチ装置と、前記メインクラッチと前記パイロットクラッチとの間に設けられ、前記パイロットクラッチを介して伝達される前記外側回転部材の回転と前記内側回転部材の回転との位相差を軸方向の押圧力に変換して、移動カム部材を軸方向移動させることにより前記メインクラッチを押圧するカム機構とを備える。
【0008】
前記カム機構は、前記パイロットクラッチにスプライン嵌合すると共に支持側カム溝を備える支持カム部材と、前記内側回転部材にスプライン嵌合すると共に移動側カム溝を備える前記移動カム部材と、前記支持側カム溝と前記移動側カム溝との間に介在し、前記支持カム部材に対して前記移動カム部材を移動させるカムボールと、前記内側回転部材または前記メインクラッチに対して前記移動カム部材を前記メインクラッチ側とは反対側の軸方向に付勢する第一弾性部材および第二弾性部材とを備える。
【0009】
前記支持側カム溝および前記移動側カム溝は、軸直交平面に対する角度が第一角度である第一カム部と、前記第一カム部より浅く形成されかつ前記第一カム部に周方向に隣接して形成され、軸直交平面に対する角度が前記第一角度より小さな第二角度である第二カム部とを構成する。前記カムボールが前記第一カム部の所定位置より深い側に位置する場合には、前記第一弾性部材が付勢力を発生し、かつ、前記第二弾性部材は付勢力を発生せず、前記カムボールが前記第一カム部の所定位置より浅い側に位置する場合、および、前記カムボールが前記第二カム部に位置する場合に、前記第一弾性部材および前記第二弾性部材が付勢力を発生する。
【0010】
(請求項2)また、前記第二弾性部材のばね定数は、前記第一弾性部材のばね定数より大きく設定されているとよい。
【0011】
(請求項3)また、前記メインクラッチは、前記外側回転部材にスプライン嵌合された複数のアウタクラッチ板と、前記内側回転部材にスプライン嵌合され複数の前記アウタクラッチ板のそれぞれの間に挟まれるインナクラッチ板と、前記アウタクラッチ板の内周面より径方向内方に配置され、複数の前記インナクラッチ板のうち両端のインナクラッチ板の間に挟まれ、前記第二弾性部材による付勢力を受けることにより前記両端のインナクラッチ板の接近を規制するインナクラッチ規制部材とを備えるようにしてもよい。
【0012】
(請求項4)また、前記第二弾性部材は、前記メインクラッチと前記移動カム部材との軸方向間に介在し、前記メインクラッチに対して前記移動カムを前記メインクラッチ側とは反対側の軸方向に付勢する皿バネであり、前記駆動力伝達装置は、前記メインクラッチと前記移動カム部材との軸方向間に介在して、前記移動カム部材による前記メインクラッチに対する押圧力を伝達し、前記皿バネの軸方向変形量を規制する皿バネ変形規制部材を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
(請求項1)本発明によれば、カム機構は二段階のカム部を構成している。すなわち、カム機構は、軸直交平面に対する角度が第一角度である第一カム部と、軸直交平面に対する角度が第一角度より小さな第二角度である第二カム部とを構成する。傾斜角度の大きな第一カム部により、支持カム部材に対する移動カム部材の軸方向移動量を長くすることができる。さらに、傾斜角度の小さな第二カム部により、メインクラッチに対する大きな押付力を得ることができる。
【0014】
そして、カムボールが第一カム部の所定位置より深い側に位置する場合には、第一弾性部材が付勢力を発生している。従って、確実に、第一弾性部材によって、移動カム部材をメインクラッチから遠い位置に移動させることができる。つまり、第一カム部と第一弾性部材との作用によって、メインクラッチの係合を確実に解除することができるため、引きずりトルクを低減できる。
【0015】
さらに、カムボールが第一カム部の所定位置より浅い側に位置する場合、および、カムボールが第二カム部に位置する場合に、第一弾性部材および第二弾性部材が付勢力を発生する。つまり、カムボールが第一カム部と第二カム部との境界の前後においては、第一弾性部材および第二弾性部材が付勢力を発生している。そのため、移動カム部材が受けるメインクラッチとは反対側への付勢力が大きくなる。ここで、カムボールが第一カム部と第二カム部との境界前後で移動する場合に、移動カム部材によるメインクラッチへの押付力が変化する。しかし、この瞬間において、第一弾性部材に加えて第二弾性部材の付勢力が発生しているため、移動カム部材によるメインクラッチへの押付力の急変を抑制することができる。その結果、メインクラッチの伝達トルクの急変を抑制することができ、運転者への不快感を和らげることができる。
【0016】
(請求項2)第二弾性部材のばね定数を第一弾性部材のばね定数より大きくすることで、第一カム部と第二カム部との境界前後において、移動カム部材によるメインクラッチへの押付力の急変をより確実に抑制することができる。
【0017】
(請求項3)隣り合うインナクラッチ板の対向面間のうち、アウタクラッチ板の内周面より径方向内方においては、軸方向隙間が形成されている。そして、第二弾性部材によってインナクラッチ板を付勢する位置がアウタクラッチ板の内周面より径方向内方に位置する場合には、当該軸方向隙間が形成されているインナクラッチ板の部位を軸方向に押し付けることになる。そうすると、インナクラッチ板が変形するおそれがある。しかし、インナクラッチ規制部材を設けることにより、両端のインナクラッチ板同士の接近を規制することができるため、インナクラッチ板の変形を抑制できる。従って、第二弾性部材による付勢力を確実にインナクラッチ板に伝達できる。
【0018】
(請求項4)第二弾性部材としての皿バネが完全につぶれた状態に変形すると、反転した形状になるおそれがある。反転すると、皿バネの耐久性、バネ定数などに影響を及ぼすおそれがある。しかし、皿バネ変形規制部材を備えることにより、皿バネが反転することを防止できる。さらに、皿バネ変形規制部材は、移動カム部材の押付力をメインクラッチに伝達する。つまり、移動カム部材からメインクラッチへ押付力を伝達するための部材を利用して、皿バネの変形を規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の駆動力伝達装置を備える車両の駆動系統の一部を示すスケルトン図である。
【図2】図1の駆動力伝達装置の軸方向断面図であり、移動カム部材がメインクラッチへの押付力を発生していない状態を示す。
【図3】図2における支持カム部材の左側から見た部分図である。
【図4】図2における移動カム部材の右側から見た部分図である。
【図5】図2におけるカム機構の支持側カム溝および移動側カム溝の周方向断面図であり、図10〜図13の位相差θ0の状態を示す。
【図6】図2におけるカム機構の周方向断面図であり、図10〜図13の位相差θ1の状態を示す。
【図7】図2におけるカム機構の周方向断面図であり、図10〜図13の位相差θ2の状態を示す。
【図8】図2におけるカム機構の周方向断面図であり、図10〜図13の位相差θ3の状態を示す。
【図9】図2の駆動力伝達装置に対して、移動カム部材がメインクラッチへの押付力を発生している状態を示す。
【図10】支持カム部材と移動カム部材との位相差に対する移動カム部材の軸方向変位量を示す図である。
【図11】支持カム部材と移動カム部材との位相差に対する第一,第二弾性部材による付勢力を示す図である。
【図12】支持カム部材と移動カム部材との位相差に対する移動カム部材の軸方向力を示す図である。
【図13】支持カム部材と移動カム部材との位相差に対するメインクラッチの伝達トルクを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の駆動力伝達装置について説明する。本実施形態の駆動力伝達装置は、自動車の四輪駆動モードと二輪駆動モードとの切り換える装置として適用する。そこで、駆動力伝達装置を四輪自動車に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0021】
(自動車の駆動系統)
自動車の駆動系統の一部について図1を参照して説明する。ここで、当該自動車は、エンジンの駆動力を前輪のみに伝達する前輪駆動モードと、当該駆動力を前後輪に伝達する四輪駆動モードとを切り換えることができる。図1には、エンジン(図示せず)から後輪への駆動力の伝達系統について示す。
【0022】
図1に示すように、エンジン(図示せず)からの駆動力がプロペラシャフト10を介して、後輪差動装置20に伝達される。後輪差動装置20は、ドライブピニオン21、リングギヤ22、ピニオン23,24、サイドギヤ25,26を備える。そして、プロペラシャフト10から後輪差動装置20のドライブピニオン21に伝達された駆動力は、ピニオン23,24、サイドギヤ25を介して、左後輪駆動軸31に伝達され、左後輪36に伝達される。一方、ドライブピニオン21に伝達された駆動力は、ピニオン23,24、サイドギヤ26を介して、右後輪出力軸32に伝達される。右後輪出力軸32は、駆動力伝達装置100および右後輪駆動軸33を介して、右後輪37に伝達される。
【0023】
ここで、駆動力伝達装置100は、入力側の右後輪出力軸32と出力側の右後輪駆動軸33との間でトルク伝達を行う接続状態と、トルク伝達を行わない切断状態とを切り換える。つまり、四輪駆動モードになると、駆動力伝達装置100が接続状態に切り替わり、エンジンからの駆動力が、左右後輪36,37に伝達される。一方、前輪駆動モードになると、駆動力伝達装置100が切断状態に切り替わり、左右後輪36,37は自由な状態となる。このとき、左右後輪36,37は、路面との接触によって従動する。
【0024】
そして、四輪駆動モードにおいては、駆動力伝達装置100が接続状態になることで、駆動力伝達装置100の入力側である右後輪出力軸32と、出力側である右後輪駆動軸33とは、同方向に回転する。一方、前輪駆動モードにおいては、駆動力伝達装置100が切断状態になることで、駆動力伝達装置100の入力側である右後輪出力軸32と、出力側である右後輪駆動軸33とは、反対方向に回転する。このように、モードの切り換えによって入出力の回転方向が反転するため、駆動力伝達装置100を切断状態にした時の引きずりトルクを非常に小さくする必要がある。
【0025】
(駆動力伝達装置の構成)
駆動力伝達装置100の構成について、図2を参照して説明する。駆動力伝達装置100は、いわゆる電子制御カップリングからなる。この駆動力伝達装置100は、図2に示すように、外側回転部材としてのアウタケース110と、内側回転部材としてのインナシャフト120と、メインクラッチ130と、パイロットクラッチ機構を構成する電磁クラッチ装置140と、カム機構150とを備えている。
【0026】
アウタケース110は、円筒形状のホールカバー(図示せず)の内周側に、当該ホールカバーに対して回転可能に支持されている。このアウタケース110は、全体として円筒形状に形成されており、車両左側(図2の左側)に配置されるフロントハウジング111と車両右側(図2の右側)に配置されるリヤハウジング112とにより形成されている。
【0027】
フロントハウジング111は、例えばアルミニウムを主成分とする非磁性材料のアルミニウム合金により形成され、有底筒状に形成されている。フロントハウジング111の円筒部の外周面が、ホールカバーの内周面に軸受を介して回転可能に支持されている。さらに、フロントハウジング111の底部が、右後輪出力軸32(図1に示す)に連結されている。つまり、フロントハウジング111の有底筒状の開口側が図2の右側を向くように配置されている。そして、フロントハウジング111の内周面のうち軸方向中央部には、雌スプライン111aが形成されており、当該内周面の開口付近には、雌ねじが形成されている。
【0028】
リヤハウジング112は、円環状に形成されており、フロントハウジング111の開口側の径方向内側に、フロントハウジング111と一体的に配置されている。リヤハウジング112の図2の右側には、全周に亘って環状溝が形成されている。このリヤハウジング112の環状溝底の一部分には、非磁性材料としての例えばステンレス鋼により形成された環状部材112aを備えている。リヤハウジング112のうち環状部材112a以外の部位は、磁気回路を形成するために磁性材料である鉄を主成分とする材料(以下、「鉄系材料」と称する)により形成されている。リヤハウジング112の外周面には、雄ねじが形成されており、当該雄ねじはフロントハウジング111の雌ねじにねじ締めされて固定される。
【0029】
インナシャフト120は、外周面の軸方向中央部に雄スプライン120aを備える軸状に形成されている。このインナシャフト120は、リヤハウジング112の中央の貫通孔を液密的に貫通して、アウタケース110内に相対回転可能に同軸上に配置されている。そして、インナシャフト120は、フロントハウジング111およびリヤハウジング112に対して軸方向位置を規制された状態で、フロントハウジング111及びリヤハウジング112に軸受を介して回転可能に支持されている。さらに、インナシャフト120の車両右側(図2の右側)は、右後輪駆動軸33(図1に示す)に連結されている。なお、アウタケース110とインナシャフト120とにより液密的に区画される空間内には、所定の充填率で潤滑油が充填されている。
【0030】
メインクラッチ130は、アウタケース110とインナシャフト120との間でトルクを伝達する。このメインクラッチ130は、鉄系材料により形成された湿式多板式の摩擦クラッチである。メインクラッチ130は、フロントハウジング111の円筒部内周面とインナシャフト120の外周面との間に配置されている。メインクラッチ130は、フロントハウジング111の底部とリヤハウジング112の図2の左側端面との間に配置されている。このメインクラッチ130は、インナメインクラッチ板131とアウタメインクラッチ板132とにより構成され、軸方向に交互に配置されている。つまり、それぞれのインナメインクラッチ板131は、複数のアウタメインクラッチ板132のそれぞれの間に挟まれて配置されている。
【0031】
インナメインクラッチ板131は、内周側に雌スプライン131aが形成されており、インナシャフト120の雄スプライン120aに嵌合されている。アウタメインクラッチ板132は、外周側に雄スプライン132aが形成されており、フロントハウジング111の雌スプライン111aに嵌合されている。
【0032】
さらに、複数のインナメインクラッチ板131のうち両端以外には、内周縁と外周縁との間に、複数の貫通孔131bが相互に同位相となるように形成されている。この貫通孔131bが形成されている部位は、アウタメインクラッチ板132の内周面より径方向内方に位置する。
【0033】
メインクラッチ130は、さらに、インナクラッチ規制部材としての規制ピン133を備える。規制ピン133は、両端以外のインナメインクラッチ板131の貫通孔131bに挿通されており、両端のインナメインクラッチ板131の間に挟まれている。そして、規制ピン133の両端面が両端のインナメインクラッチ板131に当接することで、両端のインナメインクラッチ板131の接近を規制する。ここで、規制ピン133の両端面が両端のインナメインクラッチ板131に当接している状態において、複数のインナメインクラッチ板131とアウタメインクラッチ板132との間で十分なトルク伝達が可能となるように、規制ピン133の長さを設定している。また、両端のインナメインクラッチ板131の板厚は、他に比べて厚く形成している。つまり、両端のインナメインクラッチ板131は、規制ピン133に押し付けられることによる変形を抑制することができる。
【0034】
電磁クラッチ装置140は、磁力によりアーマチュア143をヨーク141側に引き寄せることでパイロットクラッチ144同士を係合させる。つまり、電磁クラッチ装置140は、アウタケース110のトルクを、カム機構150を構成する支持カム部材151に伝達する。この電磁クラッチ装置140は、ヨーク141と、電磁コイル142と、アーマチュア143と、パイロットクラッチ144とにより構成されている。
【0035】
ヨーク141は、環状に形成されており、リヤハウジング112に対して相対回転可能となるように隙間を介してリヤハウジング112の環状溝に収容されている。ヨーク141は、ホールカバーに固定されている。また、ヨーク141の内周側が、リヤハウジング112に軸受を介して回転可能に支持されている。電磁コイル142は、巻線を巻回することにより円環状に形成され、ヨーク141に固定されている。
【0036】
アーマチュア143は、鉄系材料により形成されている。外周側に雄スプラインを備える円環状に形成されている。アーマチュア143は、メインクラッチ130とリヤハウジング112との軸方向間に配置されている。そして、アーマチュア143の外周側が、フロントハウジング111の雌スプライン111aに嵌合されている。アーマチュア143は、電磁コイル142に電流が供給されると、ヨーク141側に引き寄せられるように作用する。
【0037】
パイロットクラッチ144は、アウタケース110と支持カム部材151との間でトルクを伝達する。このパイロットクラッチ144は、鉄系材料により形成されている。パイロットクラッチ144は、フロントハウジング111の円筒部内周面と支持カム部材151の外周面との間に配置されている。さらに、パイロットクラッチ144は、アーマチュア143とリヤハウジング112の図2の左側端面との間に配置されている。このパイロットクラッチ144は、インナパイロットクラッチ板144aとアウタパイロットクラッチ板144bとにより構成され、軸方向に交互に配置されている。インナパイロットクラッチ板144aは、内周側に雌スプラインが形成されており、支持カム部材151の雄スプラインに嵌合されている。アウタパイロットクラッチ板144bは、外周側に雄スプラインが形成されており、フロントハウジング111の雌スプライン111aに嵌合されている。
【0038】
そして、電磁コイル142に電流が供給されると、ヨーク141、リヤハウジング112の外周側、パイロットクラッチ144、アーマチュア143、パイロットクラッチ144、リヤハウジング112の内周側、ヨーク141を通過する磁気回路が形成される。そうすると、アーマチュア143がヨーク141側に引き寄せられて、インナパイロットクラッチ板144aとアウタパイロットクラッチ板144bとが摩擦係合する。そして、アウタケース110のトルクを支持カム部材151に伝達する。一方、電磁コイル142への電流供給を遮断すると、アーマチュア143に対する吸引力がなくなり、インナパイロットクラッチ板144aとアウタパイロットクラッチ板144bとの摩擦係合力が解除される。
【0039】
カム機構150は、メインクラッチ130とパイロットクラッチ144との間に設けられ、パイロットクラッチ144を介して伝達されるアウタケース110の回転とインナシャフト120の回転との位相差に基づくトルクを軸方向の押圧力に変換してメインクラッチ130を押圧する。このカム機構150は、支持カム部材151と、移動カム部材152と、カムボール153と、第一弾性部材154と、第二弾性部材155と、皿バネ変形規制部材156とから構成されている。
【0040】
支持カム部材151は、外周側に雄スプラインを備えた円環状に形成されている。この支持カム部材151の図2の左側端面には、支持側カム溝151aが形成されている。支持カム部材151は、インナシャフト120の外周面に対して隙間を介して設けられ、リヤハウジング112の図2の右側端面にスラスト軸受160を介して支持されている。つまり、支持カム部材151は、インナシャフト120およびリヤハウジング112に対して相対回転可能であり、軸方向に対して規制されて設けられている。さらに、支持カム部材151の雄スプラインは、インナパイロットクラッチ板144aの雌スプラインに嵌合している。ここで、支持カム部材151の支持側カム溝151aの詳細については、図3〜図5を参照して後述する。
【0041】
移動カム部材152は、鉄系材料により形成され、内周側に雌スプライン152aを備える円環状に形成されている。移動カム部材152は、支持カム部材151の図2の左側に配置されている。移動カム部材152の図2の右側端面には、支持カム部材151の支持側カム溝151aに対して軸方向に対向するように、移動側カム溝152bが形成されている。移動カム部材152の雌スプライン152aが、インナシャフト120の雄スプライン120aに嵌合している。従って、移動カム部材152は、インナシャフト120と共に回転する。さらに、移動カム部材152の図2の左側端面は、メインクラッチ130の一端に配置されるインナメインクラッチ板131に当接し得る状態となっている。移動カム部材152は、図2の左側に移動すると、当該インナメインクラッチ板131に対して図2の左側へ押し付ける。ここで、移動カム部材152の移動側カム溝152bの詳細については、支持側カム溝151aと共に、図3〜図5を参照して後述する。
【0042】
カムボール153は、球状からなり、支持側カム溝151aとそれに対向する移動側カム溝152bとの間に介在している。つまり、カムボール153およびそれぞれのカム溝151a,152bの作用により、支持カム部材151と移動カム部材152に位相差が生じた際には、移動カム部材152が支持カム部材151に対して軸方向に離間する方向(図2の左側)へ移動する。支持カム部材151に対する移動カム部材152の軸方向離間量は、支持カム部材151と移動カム部材152との位相差が大きいほど大きくなる。
【0043】
第一弾性部材154は、インナシャフト120における雄スプライン120aの図2の右側に形成された段差端面と、それに対向する移動カム部材152の図2の左側端面との間に介在している。この第一弾性部材154は、コイルスプリングであり、軸方向長さに応じて軸方向力を発生する。つまり、移動カム部材152がメインクラッチ130側へ移動する場合には、第一弾性部材154は、インナシャフト120に対して移動カム部材152をメインクラッチ130側とは反対側の軸方向に付勢する。
【0044】
第二弾性部材155は、一端のインナメインクラッチ板131の端面と、それに対向する移動カム部材152の図2の左側端面との間に介在している。この第二弾性部材155は、皿バネであり、軸方向長さに応じて軸方向力を発生する。特に、第二弾性部材155のばね定数は、第一弾性部材154のばね定数よりも大きく設定されている。さらに、第二弾性部材155の無負荷状態における軸方向長さは、第一弾性部材154の無負荷状態における軸方向長さより短く形成されている。つまり、移動カム部材152がメインクラッチ130側へ移動して第一弾性部材154が付勢力を発生した後に、第二弾性部材155は、インナシャフト120に対して移動カム部材152をメインクラッチ130側とは反対側の軸方向に付勢する。
【0045】
この第二弾性部材155は、インナメインクラッチ板131のうち規制ピン133が配置される径方向位置を付勢する。つまり、第二弾性部材155がインナメインクラッチ板131を押し付ける場合には、その裏面にて規制ピン133が当該付勢力を受けている。ここで、第二弾性部材155は、本実施形態において、インナメインクラッチ板131に対して移動カム部材152を付勢する構成としたが、第一弾性部材154と同様に、インナシャフト120に対して移動カム部材152を付勢するようにしてもよい。
【0046】
皿バネ変形規制部材156は、環状に形成され、メインクラッチ130と移動カム部材152との軸方向間に介在する。つまり、皿バネ変形規制部材156は、第二弾性部材155の径方向外側に配置されている。従って、皿バネ変形規制部材156は、第二弾性部材155の軸方向変形量を皿バネ変形規制部材156の軸方向幅よりも狭くなるように変形することを規制する。この皿バネ変形規制部材156は、インナメインクラッチ板131とアウタメインクラッチ板132とが重なり合う径方向位置に配置されている。従って、皿バネ変形規制部材156は、移動カム部材152によるメインクラッチ130に対する押圧力を伝達することになる。
【0047】
(カム機構の構成)
次に、カム機構150の詳細構成について、図3〜図5を参照して説明する。まずは、支持側カム溝151aについて図3および図5を参照して説明する。図3および図5に示すように、支持側カム溝151aは、周方向中央部に端面からの深さが深い中央部151a1と、中央部151a1の周方向両側に隣接して形成され、端面からの深さが浅い端部151a2とを備える。
【0048】
中央部151a1の周方向切断面形状は、図5に示すように、軸直交平面に対する角度が第一角度φ1となるように形成されている。この第一角度φ1は、例えば45°である。つまり、カムボール153が中央部151a1内において周方向に移動する場合には、第一角度φ1の方向に移動する。また、端部151a2の周方向切断面形状は、図5に示すように、軸直交平面に対する角度が第二角度φ2となるように形成されている。第二角度φ2は、第一角度φ1より小さな角度に設定されている。第二角度φ2は、例えば、5°である。つまり、カムボール153が端部151a2内において周方向に移動する場合には、第二角度φ2の方向に移動する。そして、支持側カム溝151aにおける中央部151a1と端部151a2との境界部分は、カムボール153が移動しやすくするために凸状曲面により滑らかに接続している。
【0049】
移動側カム溝152bは、図4および図5に示す。移動側カム溝152bは、支持側カム溝151aと同形状に形成されている。すなわち、移動側カム溝152bは、中央部152b1と、端部152b2とを備える。つまり、中央部152b1の周方向切断面形状は、軸直交平面に対する角度が第一角度φ1であり、端部152b2の周方向切断面形状は、軸直交平面に対する角度が第二角度φ2である。
【0050】
そして、支持側カム溝151aの中央部151a1と移動側カム溝152bの中央部152b1とにより、第一カム部151a1-152b1を形成する。支持側カム溝151aの端部151a2と移動側カム溝152bの端部152b2とにより、第二カム部151a2-152b2を形成する。
【0051】
(支持カム部材に対する移動カム部材の動作)
次に、支持カム部材151に対する移動カム部材152の動作について、図5〜図8を参照して説明する。図5に示すように、支持カム部材151に対して移動カム部材152の位相差がゼロの状態においては、カムボール153が第一カム部151a1-152b1の最も深い位置に位置する。このとき、カムボール153は、支持側カム溝151aの中央部151a1および移動側カム溝152bの中央部152b1に当接している。
【0052】
支持カム部材151に対して移動カム部材152の位相差が少し生じた場合には、図6に示すように、カムボール153が第一カム部151a1-152b1のうち第二カム部151a2-152b2との境界側へ移動する。そうすると、移動カム部材152は、支持カム部材151に対して軸方向へ移動する。さらに、支持カム部材151に対して移動カム部材152の位相差が生じた場合には、図7に示すように、カムボール153が第一カム部151a1-152b1と第二カム部151a2-152b2との境界に移動する。そうすると、移動カム部材152は、支持カム部材151に対して軸方向へさらに移動する。さらに、支持カム部材151に対して移動カム部材152の位相差が生じた場合には、図8に示すように、カムボール153が第二カム部151a2-152b2のうち境界から遠ざかる方向へ移動する。そうすると、移動カム部材152は、支持カム部材151に対して軸方向へさらに移動する。
【0053】
(駆動力伝達装置の動作)
次に、上述した構成からなる駆動力伝達装置100の動作について図2および図9を参照して説明する。初期状態として、電磁クラッチ装置140の電磁コイル142に電流が供給されていない状態を説明する。この場合、パイロットクラッチ144が係合していないため、アウタケース110と支持カム部材151とは相対回転可能な状態となる。
【0054】
また、移動カム部材152は、インナシャフト120とスプライン嵌合しているため、インナシャフト120と共に回転する。そして、図2に示すように、移動カム部材152は、第一弾性部材154によって図2の右側へ常に付勢されている。さらに、支持カム部材151は、カムボール153を介して移動カム部材152のみにより回転規制されているため、移動カム部材152の回転に伴って回転する。そのため、支持カム部材151と移動カム部材152とは位相差を生じない。そうすると、カムボール153は、図5に示すように、第一カム部151a1-152b1の最も深い位置に位置することになる。従って、移動カム部材152は、支持カム部材151側に最も近い位置、すなわち、メインクラッチ130から最も遠い位置に位置している。従って、メインクラッチ130の係合が確実に解除されている。そのため、引きずりトルクを低減できる。
【0055】
このとき、移動カム部材152は、図2の右側に位置するため、メインクラッチ130に対して押付力を発生しない。さらに、インナメインクラッチ板131の一端と移動カム部材152との離間距離は最も長い状態であるため、第二弾性部材155は、付勢力を発生しない。
【0056】
続いて、アウタケース110とインナシャフト120とが回転差を生じている場合であって、電磁クラッチ装置140の電磁コイル142に電流を供給する。そうすると、電磁コイル142を基点としてヨーク141、リヤハウジング112、アーマチュア143を循環するループ状の磁気回路が形成される。
【0057】
磁気回路が形成されることで、アーマチュア143がヨーク141側、すなわち図2および図9の右側に向かって引き寄せられる。その結果、アーマチュア143は、パイロットクラッチ144を押圧して、インナパイロットクラッチ板144aとアウタパイロットクラッチ板144bとが摩擦係合する。そうすると、アウタケース110の回転トルクが、パイロットクラッチ144を介して支持カム部材151へ伝達されて、支持カム部材151が回転する。
【0058】
そうすると、支持カム部材151と移動カム部材152とに回転差が生じる。そして、カムボール153およびそれぞれのカム溝151a,152bの作用により、支持カム部材151に対して移動カム部材152が軸方向に移動する。この動作は、図5〜図8を参照して説明した通りである。
【0059】
移動カム部材152が図2および図9の左側へ移動すると、第一弾性部材154および第二弾性部材155を収縮変形させる。そして、移動カム部材152は、皿バネ変形規制部材156を介して、メインクラッチ130を押し付ける。そうすると、インナメインクラッチ板131とアウタメインクラッチ板132とが摩擦係合する。その結果、アウタケース110のトルクが、メインクラッチ130を介してインナシャフト120に伝達される。
【0060】
ここで、図9に示すように、移動カム部材152がメインクラッチ130を押し付ける状態において、第二弾性部材155は、インナメインクラッチ板131を押し付けて、その裏面側を規制ピン133によって支持されている。従って、インナメインクラッチ板131が第二弾性部材155により付勢されるとしても、インナメインクラッチ板131は変形しない。
【0061】
さらに、図9に示すように、皿バネ変形規制部材156がメインクラッチ130を押し付けている状態において、皿バネである第二弾性部材155の軸方向長さは、十分に確保されている。従って、皿バネである第二弾性部材155がつぶれ変形して反転する状態になることを防止できる。
【0062】
(第一,第二カム部と第一,第二弾性部材の作用)
上述した駆動力伝達装置100において、移動カム部材152が支持カム部材151に対して軸方向移動する場合に、第一カム部151a1-152b1、第二カム部151a2-152b2、第一弾性部材154および第二弾性部材155の作用について、図10〜図13を参照して説明する。各図は、支持カム部材151と移動カム部材152との位相差θを横軸とする。そして、位相差θ0は、図5に示すように位相差ゼロの状態である。位相差θ1は、図6に示す状態であり、第二弾性部材155が付勢力を発生し始める時点である。位相差θ2は、図7に示す状態であり、カムボール153が第一カム部151a1-152b1と第二カム部151a2-152b2との境界に位置する状態である。この位相差θ2が、本発明における第一カム部の所定位置に相当する。位相差θ3は、図8に示すように、カムボール153が第二カム部151a2-152b2に位置する状態である。また、図11〜図13においては、比較例として、第二弾性部材155を設けない構成の場合を一点鎖線にて示す。
【0063】
位相差θに対する移動カム部材152の軸方向変位量Xは、図10に示すようになる。位相差θ0の場合における移動カム部材152の軸方向変位量は、X0とする。そして、位相差θ0〜θ2間は、カムボール153が第一カム部151a1-152b1を移動する。そのため、この間は、第一カム部151a1-152b1の第一角度φ1に応じた変位量となる。そして、位相差θ2における移動カム部材152の軸方向変位量は、X2となる。
【0064】
そして、位相差θ2を超えてθ3までの間、カムボール153が第二カム部151a2-152b2を移動する。そのため、この間は、第二カム部151a2-152b2の第二角度φ2に応じた変位量となる。位相差θ3における移動カム部材152の軸方向変位量は、X3となる。ここで、図5に示すように、第二角度φ2は、第一角度φ1より小さな角度である。従って、位相差θに対する移動カム部材152の軸方向変位量Xの変化量は、θ0〜θ2間の方がθ2〜θ3間より大きくなる。
【0065】
位相差θに対する第一,第二弾性部材154,155による付勢力は、図11の実線に示すようになる。図11の実線にて示すように、位相差θ0においては、第一弾性部材154のみの付勢力が発生している。このときの付勢力は、Fa0である。そして、位相差θ0〜θ1間において、第一弾性部材154のみが付勢力を発生し、第二弾性部材155は付勢力を発生していない。そのため、この間は、第一弾性部材154の軸方向収縮量に応じた力となる。第一弾性部材154の軸方向収縮量は、移動カム部材152の軸方向変位量に対応する。位相差θ1における付勢力はFa1となる。
【0066】
位相差θ1〜θ2間では、第一弾性部材154に加えて第二弾性部材155が付勢力を発生する。従って、この間は、第一弾性部材154および第二弾性部材155の軸方向収縮量に応じた力となる。つまり、位相差θ0〜θ1間における付勢力の変化量に比べて、位相差θ1〜θ2間における付勢力の変化量は、第二弾性部材155の影響により大きくなる。位相差θ2における付勢力はFa2となる。
【0067】
位相差θ2〜θ3間は、位相差θ1〜θ2間と同様に、第一弾性部材154に加えて第二弾性部材155が付勢力を発生する。従って、この間も、第一弾性部材154および第二弾性部材155の軸方向収縮量に応じた力となる。ここで、位相差θ2〜θ3間は、図10に示したように、位相差θ1〜θ2間に比べて、位相差θに対する移動カム部材152の軸方向変位量の変化が小さくなる。そのため、位相差θ2〜θ3間における付勢力の変化は、位相差θ1〜θ2間における付勢力の変化に比べて小さくなっている。ここで、位相差θ3における付勢力はFa3となる。
【0068】
ここで、比較例における第一弾性部材154のみによる付勢力について説明する。図11の一点鎖線にて示すように、第一弾性部材154のみであるため、位相差θ0〜θ2間は、直線状に変化し、位相差θ2〜θ3間は、傾きの異なる直線状に変化する。つまり、本実施形態と比較すると、第二弾性部材155の付勢力が発生している位相差θ1〜θ3間における付勢力が異なる。
【0069】
次に、位相差θに対する移動カム部材152の軸方向力Fbは、図12の実線にて示すようになる。ここで、移動カム部材152は、第一,第二弾性部材154,155の付勢力に抗してメインクラッチ130側へ移動する。つまり、当該軸方向力とは、移動カム部材152がカムボール153およびカム溝151a,152bの作用によって軸方向一方に移動する力から、第一,第二弾性部材154,155の付勢力を差し引いた力となる。
【0070】
図12の実線にて示すように、位相差θ0における軸方向力は、Fb0である。位相差θ0〜θ1間における軸方向力は、直線状に変化する。そして、位相差θ1における軸方向力はFb1となる。位相差θ1〜θ2間における軸方向力は、θ0〜θ1間における軸方向力の傾きに比べて緩やかな傾きの直線状に変化する。そして、位相差θ2における軸方向力はFb2となる。位相差θ2〜θ3間における軸方向力は、θ1〜θ2間における軸方向力の傾きに比べて急な傾きの直線状に変化する。つまり、位相差θ2〜θ3間において、カムボール153が第二カム部151a2-152b2の第二角度φ2に沿って移動するため、移動カム部材152による大きな軸方向力、すなわち移動カム部材152によるメインクラッチ130に対する大きな押付力を得ることができる。なお、位相差θ3における軸方向力はFb3となる。
【0071】
ここで、比較例における移動カム部材152の軸方向力について説明する。図12の一点鎖線にて示すように、第一弾性部材154のみであるため、位相差θ0〜θ2間は、直線状に変化し、位相差θ2〜θ3間は、傾きの異なる直線状に変化する。つまり、本実施形態と比較すると、第二弾性部材155の付勢力が発生している位相差θ1〜θ3間における付勢力が異なる。
【0072】
図12の実線にて示す本実施形態と、一点鎖線にて示す比較例とを比較する。両者における位相差θ2の前後における軸方向力の変化量を見ると、本実施形態の方が比較例より小さいことが分かる。つまり、本実施形態によれば、カムボール153が第一カム部151a1-152b1と第二カム部151a2-152b2との境界を超える際に、移動カム部材152の軸方向力の変化を抑制することができている。特に、第二弾性部材155としてばね定数の大きな皿バネを適用することで、移動カム部材152の軸方向力の変化をより確実に抑制できる。
【0073】
次に、位相差θに対するメインクラッチ130の伝達トルクTrは、図13の実線にて示すようになる。ここで、メインクラッチ130が伝達トルクTrを発生させるのは、第二弾性部材155が付勢力を発生させた後となる。つまり、当該伝達トルクTrは、第二弾性部材155が付勢力を発生させ始めた後における移動カム部材152の軸方向力Fbに応じた値となる。
【0074】
図13の実線にて示すように、位相差θ0〜θ1間における伝達トルクは、Tr0(=0)である。位相差θ1〜θ2間における伝達トルクTrは直線状に変化する。そして、位相差θ2における伝達トルクはTr2となる。位相差θ2〜θ3間における伝達トルクTrは、θ1〜θ2間における軸方向力の傾きに比べて急な傾きの直線状に変化する。そして、位相差θ3における伝達トルクはTr3となる。
【0075】
ここで、比較例における伝達トルクTrについて説明する。ここで、移動カム部材152がメインクラッチ130への押付力を発生させる時点を、位相差θ1の時として説明する。図13の一点鎖線にて示すように、位相差θ0〜θ1間における伝達トルクTrはゼロである。位相差θ1〜θ2間において、伝達トルクTrは、直線状に変化し、位相差θ2〜θ3間は、傾きの大きな直線状に変化する。
【0076】
図13の実線にて示す本実施形態と、一点鎖線にて示す比較例とを比較する。位相差θ1〜θ2、θ2〜θ3において、本実施形態における伝達トルクTrは、比較例における伝達トルクより小さい。この理由は、本実施形態においては、第二弾性部材155の付勢力が、移動カム部材152によるメインクラッチ130への押付力を弱める方向に作用するためである。
【0077】
そして、両者における位相差θ2の前後における伝達トルクTrの変化量を見ると、本実施形態の方が比較例より小さいことが分かる。つまり、本実施形態によれば、カムボール153が第一カム部151a1-152b1と第二カム部151a2-152b2との境界を超える際に、伝達トルクTrの変化を抑制できている。その結果、運転者への不快感を和らげることができる。
【符号の説明】
【0078】
100:駆動力伝達装置、 110:アウタケース(外側回転部材)、 120:インナシャフト(内側回転部材)、 130:メインクラッチ、 131:インナメインクラッチ板、 132:アウタメインクラッチ板、 133:規制ピン(インナクラッチ規制部材)、 140:電磁クラッチ装置、 142:電磁コイル、 143:アーマチュア、 144:パイロットクラッチ、 150:カム機構、 151:支持カム部材、 151a:支持側カム溝、 152:移動カム部材、 152b:移動側カム溝、 151a1-152b1:第一カム部、 151a2-152b2:第二カム部、 153:カムボール、 154:第一弾性部材、 155:第二弾性部材、 156:皿バネ変形規制部材、 φ1:第一角度、 φ2:第二角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形状の外側回転部材と、
前記外側回転部材内に相対回転可能に同軸上に配置された軸状の内側回転部材と、
前記外側回転部材と前記内側回転部材との間でトルクを伝達するメインクラッチと、
磁力によりアーマチュアを引き寄せることで前記外側回転部材のトルクを伝達可能なパイロットクラッチを備える電磁クラッチ装置と、
前記メインクラッチと前記パイロットクラッチとの間に設けられ、前記パイロットクラッチを介して伝達される前記外側回転部材の回転と前記内側回転部材の回転との位相差を軸方向の押圧力に変換して、移動カム部材を軸方向移動させることにより前記メインクラッチを押圧するカム機構と、
を備える駆動力伝達装置において、
前記カム機構は、
前記パイロットクラッチにスプライン嵌合すると共に支持側カム溝を備える支持カム部材と、
前記内側回転部材にスプライン嵌合すると共に移動側カム溝を備える前記移動カム部材と、
前記支持側カム溝と前記移動側カム溝との間に介在し、前記支持カム部材に対して前記移動カム部材を移動させるカムボールと、
前記内側回転部材または前記メインクラッチに対して前記移動カム部材を前記メインクラッチ側とは反対側の軸方向に付勢する第一弾性部材および第二弾性部材と、
を備え、
前記支持側カム溝および前記移動側カム溝は、
軸直交平面に対する角度が第一角度である第一カム部と、
前記第一カム部より浅く形成されかつ前記第一カム部に周方向に隣接して形成され、軸直交平面に対する角度が前記第一角度より小さな第二角度である第二カム部と、
を構成し、
前記カムボールが前記第一カム部の所定位置より深い側に位置する場合には、前記第一弾性部材が付勢力を発生し、かつ、前記第二弾性部材は付勢力を発生せず、
前記カムボールが前記第一カム部の所定位置より浅い側に位置する場合、および、前記カムボールが前記第二カム部に位置する場合に、前記第一弾性部材および前記第二弾性部材が付勢力を発生する駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第二弾性部材のばね定数は、前記第一弾性部材のばね定数より大きく設定されている駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記メインクラッチは、
前記外側回転部材にスプライン嵌合された複数のアウタクラッチ板と、
前記内側回転部材にスプライン嵌合され複数の前記アウタクラッチ板のそれぞれの間に挟まれるインナクラッチ板と、
前記アウタクラッチ板の内周面より径方向内方に配置され、複数の前記インナクラッチ板のうち両端のインナクラッチ板の間に挟まれ、前記第二弾性部材による付勢力を受けることにより前記両端のインナクラッチ板の接近を規制するインナクラッチ規制部材と、
を備える駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記第二弾性部材は、前記メインクラッチと前記移動カム部材との軸方向間に介在し、前記メインクラッチに対して前記移動カムを前記メインクラッチ側とは反対側の軸方向に付勢する皿バネであり、
前記駆動力伝達装置は、前記メインクラッチと前記移動カム部材との軸方向間に介在して、前記移動カム部材による前記メインクラッチに対する押圧力を伝達し、前記皿バネの軸方向変形量を規制する皿バネ変形規制部材を備える駆動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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