説明

駆動装置

【課題】摩擦係合部材を振動軸に対して容易に係合させられる摩擦駆動方式の駆動装置を提供する。
【解決手段】電気的入力に応じて伸縮する電気機械変換素子3と、電気機械変換素子3の伸縮によって軸方向に振動させられる振動軸4と、振動軸4に摩擦力によって係合する摩擦係合部材5とを有し、電気機械変換素子3の急峻な伸縮によって、振動軸4を急峻に移動させることで、摩擦係合部材5を振動軸4に対して滑り変位させられる駆動装置1において、振動軸4および摩擦係合部材5の少なくともいずれかを着磁し、その磁力によって振動軸4と摩擦係合部材5とが吸引し合うようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦駆動方式の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機械変換素子の伸縮によって振動軸を軸方向に振動させ、振動軸に摩擦係合する摩擦係合部材を振動軸上で滑り変位させる摩擦駆動方式の駆動装置では、例えば、特許文献1に記載されているように、ばねによって摩擦係合部材を振動軸に押圧して摩擦係合させるのが一般的である。
【0003】
ばねを直接振動軸に当接させると、ばねと振動部材との間の摩擦力が不安定になるので、特許文献2に記載されているように、摩擦力の安定した中間の部材を介してばねを作用させることが多い。また、特許文献2には、金属製の摩擦係合部材(玉枠)と磁石との間に振動軸を挟み込むことで、摩擦係合部材を振動軸に押圧して摩擦係合させる発明が記載されている。
【0004】
このように、振動軸に摩擦係合できるように、摩擦係合部材は、複数の部品で構成され、振動軸に係合する状態で組み立てられる。これは、駆動装置を小形化する際、摩擦係合部材を振動軸に組み付ける作業を難しくするという問題を有している。
【特許文献1】特開平04−69070号公報
【特許文献2】特開平07−274543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記問題点に鑑みて、本発明は、摩擦係合部材を振動軸に対して容易に係合させられる摩擦駆動方式の駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明による駆動装置は、電気的入力に応じて伸縮する電気機械変換素子と、前記電気機械変換素子の伸縮によって軸方向に振動させられる振動軸と、前記振動軸に摩擦力によって係合する摩擦係合部材とを有し、前記電気機械変換素子の急峻な伸縮によって、前記振動軸を急峻に移動させることで、前記摩擦係合部材を前記振動軸に対して滑り変位させられる駆動装置において、前記振動軸および前記摩擦係合部材の少なくともいずれかが着磁されており、その磁力によって前記振動軸と前記摩擦係合部材とが吸引し合うものとする。
【0007】
この構成によれば、摩擦係合部材は、磁力によって振動軸に吸着されることで、振動軸に対して摩擦係合するので、摩擦係合部材を振動軸に摩擦係合させる際に、他の部材を組み付ける必要がなく、製造が容易である。
【0008】
また、本発明の駆動装置において、前記振動軸および前記摩擦係合部材の着磁された方は、N極に着磁された部分とS極に着磁された部分とが同時に、前記振動軸および前記摩擦係合部材の他方と当接してもよい。
【0009】
この構成によれば、振動軸および摩擦係合部材の間に磁束の閉じたループが形成されるので、振動軸と摩擦係合部材との間の吸引力が大きくなる。これにより、摩擦係合部材の振動軸に対する摩擦力係合力が大きくなり、駆動装置の駆動トルクを大きくできる。
【0010】
また、本発明の駆動装置において、前記振動軸および前記摩擦係合部材の少なくともいずれかは、表面が平滑になるようにコーティングが施されていてもよい。
【0011】
この構成によれば、摩擦係合部材と振動軸との間の摩擦力が一定になるので、安定した駆動が可能になる。
【0012】
また、本発明の駆動装置において、前記振動軸および前記摩擦係合部材の着磁された方は、非磁性体でコーティングされていてもよい。
【0013】
この構成によれば、コーティングが磁束をバイパスしないので、摩擦係合部材を振動軸に効率よく吸着できる。
【0014】
また、本発明の駆動装置において、前記コーティングは、フッ素を含む材料からなってもよい。
【0015】
この構成によれば、摩擦係数が小さくなるので振動軸および摩擦係合部材の摩耗が少なくなる。コーティングによる摩擦力の低下を補い得るだけ磁力を大きくして、同じ摩擦係合力を発揮できるようにしても、摩耗低減の効果が勝るので、駆動装置が長寿命となる。
【0016】
また、本発明の駆動装置において、前記振動軸は、軸方向全長に亘って磁極が延伸するように軸直角方向に着磁されていてもよい。
【0017】
柱状の振動軸を軸直角方向に着磁することは比較的容易であり、やや形状が複雑となり易い摩擦係合部材を鉄などの加工が容易な磁性材料で形成することで、部品コストを低くできる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、摩擦係合部材を振動軸に対して磁力によって吸着させることで摩擦係合させるので、部品点数が少なく、駆動装置の組立が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の第1実施形態の駆動装置1の構成を示す。駆動装置1は、例えばタングステンのような比重の大きな金属からなる錘2と、印加された電圧に応じて伸縮し、伸縮方向一端が錘2に固定された圧電素子(電気機械変換素子)3と、一端が圧電素子3の伸縮方向他端に固定された円柱状の磁石からなる振動軸4と、振動軸4に磁力によって吸引されて摩擦係合する磁性材料からなる摩擦係合部材5とを有する。
【0020】
摩擦係合部材5は、レンズ6を保持する樹脂製の玉枠7に、インサート成型されて保持されている。玉枠7は、摩擦係合部材5と反対側に、振動軸4と平行に配設された案内軸8に摺動可能に係合する案内溝9が設けられている。
【0021】
振動軸4は、例えば、ネオジムからなり、径方向片側がN極、反対側がS極になるように軸直角方向に着磁され、磁極が軸方向全長に亘って延伸している。磁石材料の着磁は、一般に、磁界を印加しながら熱処理して行うので、軸直角方向の着磁も、通常の均一磁界によって可能であるため、高価な部品とはならない。また、振動軸4は、磁石材料の酸化防止のために、表面がコーティング(例えばニッケルメッキ)されている。
【0022】
摩擦係合部材5は、例えば、振動軸4を受け入れるために、それぞれ振動軸4と当接する第1翼部5aおよび第2翼部5bを有する直角V型に炭素鋼板をプレス成形してなる。摩擦係合部材5は、フッ素を含むコーティング剤によって、表面がコーティングされ、鋼板の酸化が防止され、表面が平滑化されている。
【0023】
図2に示すように、振動軸4は、磁極の方向と直角方向に、摩擦係合部材5に受け入れられる。これにより、振動軸4のN極から出た磁束が摩擦係合部材5を通ってS極に至るような、磁束の閉じたループが形成される。これによって、振動軸4と摩擦係合部材5との間の磁気的結合が強くなり、摩擦係合部材5は、振動軸4に強い力で吸引される。この磁気的吸引力の第1翼部5aおよび第2翼部5bに垂直に作用する成分をそれぞれ垂直抗力として、摩擦係合部材5の第1翼部5aおよび第2翼部5bと振動軸4との間に摩擦力が生じ、摩擦係合部材5は、振動軸4に対して摩擦係合する。
【0024】
駆動装置1では、圧電素子3に非対称に変動する周期的な駆動電圧を印加して圧電素子3を非対称に伸縮させ、圧電素子3の伸縮によって振動軸4を軸方向の一方向に急峻に、逆方向に緩慢に移動するように非対称に振動させる。振動軸4を急峻に移動させるとき、摩擦係合部材5および玉枠7の慣性力が磁力による摩擦係合力に勝るようにすることで、駆動装置1は、摩擦係合部材5を振動軸4に対して滑り変位させることができる。ここで、摩擦係合部材5の駆動軸4に対する摩擦係合力が強いということは、駆動装置1の出力し得るトルクが大きいことを意味する。
【0025】
この駆動装置1の摩擦係合部材5は、磁力によって振動軸4に押圧(吸引)されるので、振動軸4に摩擦係合するためにばねのような別部材を必要とせず、組立に細かな作業が要求されないので製造が容易である。また、この駆動装置1は、部品点数も少ないため、工数が少なく、安価に提供できる。
【0026】
尚、振動軸4の軸端部に摩擦係合部材5を係合させると、その吸引力が弱くなるが、実際の駆動装置1では、振動軸4の軸端部に不図示の軸受が設けられるので、摩擦係合部材5が摩擦係合する範囲では、振動軸4が摩擦係合部材5を吸引する力は一定とみなすことができる。
【0027】
ここで、振動軸4の磁極の向きと吸引力について検討する。図3に示すように、振動軸4のN極の向きを、摩擦係合部材5に対して135°(第1翼部5aと平行)の方向D1に配置した場合、摩擦係合部材5に対して90°の方向D2に配置した場合、および、摩擦係合部材5に正対する(摩擦係合部材5の角に向かう)方向D3に配置した場合について、その吸引力の大きさを、異なる径の振動軸4についてシミュレーションによって算出した結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
尚、吸引力は、振動軸4のN極側に吸着される摩擦係合部材5の片側の第1翼部5aに垂直な成分(垂直抗力)をX成分、S局側に吸着される摩擦係合部材5の反対側の第2翼部5bに垂直な成分(垂直抗力)をY成分とする。また、摩擦係合部材5は、厚さが0.2mm、両翼部5a,5bの長さがそれぞれ0.8mmである。
【0030】
磁力は、N極からS極に至る磁力線の延長距離を短くする方向に作用する。このため、方向D1では、振動軸4の磁極と平行に延伸する第1翼部5aを振動軸4に向かって引き寄せるX成分が大きくなる。しかしながら、摩擦係合部材5を磁極と平行に移動しても、第1翼部5aを通過する磁力線の延長距離は大きく変化しないので、Y成分が小さい。摩擦係合部材5は、片側の係合力が弱いと、外部からの衝撃などによって、係合力の弱い側が脱離してしまう場合があるので好ましくない。
【0031】
方向D2では、両翼部5a,5bの吸引条件が同じになるので、X成分とY成分とが等しくなる。その吸引力は、磁力線が短くなる方向とX方向およびY方向が共に45°の角度を有するので方向D1のX成分よりは小さくなるが、摩擦係合部材5を振動軸4に摩擦係合させるには十分な力である。
【0032】
方向D3では、吸引力のX成分とY成分とは等しくなるが、磁力線の延長距離が長く、その吸引力が小さいために、振動軸4が相当に強力な磁力を有していないと摩擦係合部材5を振動軸4に摩擦係合させることができない。
【0033】
以上の結果より、摩擦係合部材5は、両翼部5a,5bのいずれも振動軸4の着磁方向と平行にならず、振動軸4が形成する磁束が摩擦係合部材5を介して最短のループを形成するように、振動軸4のN極に着磁された部分およびS極に着磁された部分と同時に当接する向きに配置されることが好ましい。
【0034】
理論的には、方向D2の、両翼部5a,5bの摩擦係合力が等しくなる向きが最も好ましいが、製品の誤差を吸収するために、方向D2から振動軸4を僅かに回転して配置することによって、摩擦係合部材5の摩擦係合力を調節してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、フッ素を含むコーティング材で摩擦係合部材5をコーティングしているため、振動軸4との間の摩擦係数が低い。このため、摩擦係合部材5の振動軸4に対する摩擦係合力を大きくして、駆動装置1が十分な駆動トルクを発揮できるようにするためには、振動軸4に着磁する磁力を大きくする必要がある。このとき、振動軸4の磁力を大きくして摩擦係合部材5の振動軸4に対する摩擦係合力(静止摩擦力)を大きくしても、フッ素を含むコーティング材によって、摩擦係合部材5が振動軸4に対してすべり移動する際の摩擦係合部材5および振動軸4の摩耗が低減されるので、駆動装置1の寿命を長くすることができる。
【0036】
また、図4に示す本発明の第2実施形態のように、振動軸4と摩擦係合部材5の両方を着磁して、互いのN極とS極とが当接するようにしてもよい。尚、この実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明は省略する。この構成によれば、組み立て工程を複雑化することなく、より大きな摩擦係合力を得ることができる。
【0037】
また、図5に示す本発明の第3実施形態のように、振動軸4を磁性材料で形成し、摩擦係合部材5を着磁してもよい。この実施形態においても、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明は省略する。本実施形態において、摩擦係合部材5は、図示するように、振動軸4の軸方向に着磁してもよく、振動軸4の径方向に着磁してもよい。
【0038】
また、本発明において、振動軸4および擦係合部材5の着磁した方を、フッ素を含む樹脂のような摩擦係数を低減できる材料でコーティングしてもよいが、コーティングが厚くなる場合は、コーティングが磁束をバイパスしないように、非磁性材料の材料を用いることが好ましい。
【0039】
尚、本発明は、圧電素子を用いた駆動装置だけでなく、磁歪素子など、電気的入力を機械的変位に変化する他の電気機械変換素子を用いた振動型の駆動装置全般にも広く適用できる。また、電気機械変換素子は、他の部材を介して間接的に振動軸を軸方向に振動させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1実施形態の駆動装置の分解斜視図。
【図2】図1の駆動装置の振動軸と摩擦係合部材の詳細平面図。
【図3】図1の駆動装置の振動軸の着磁方向を示す平面図。
【図4】本発明の第2実施形態の駆動装置の平面図。
【図5】本発明の第3実施形態の駆動装置の側面図。
【符号の説明】
【0041】
1…駆動装置
2…錘
3…圧電素子(電気機械変換素子)
4…振動軸
5…摩擦係合部材
6…レンズ
7…玉枠
8…案内軸
9…案内溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的入力に応じて伸縮する電気機械変換素子と、
前記電気機械変換素子の伸縮によって軸方向に振動させられる振動軸と、
前記振動軸に摩擦力によって係合する摩擦係合部材とを有し、
前記電気機械変換素子の急峻な伸縮によって、前記振動軸を急峻に移動させることで、前記摩擦係合部材を前記振動軸に対して滑り変位させられる駆動装置において、
前記振動軸および前記摩擦係合部材の少なくともいずれかが着磁されており、その磁力によって前記振動軸と前記摩擦係合部材とが吸引し合うことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記振動軸および前記摩擦係合部材の着磁された方は、N極に着磁された部分とS極に着磁された部分とが同時に、前記振動軸および前記摩擦係合部材の他方と当接することを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記振動軸および前記摩擦係合部材の少なくともいずれかは、表面が平滑になるようにコーティングが施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記振動軸および前記摩擦係合部材の着磁された方は、非磁性体でコーティングされていることを特徴とする請求項3に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記コーティングは、フッ素を含む材料からなることを特徴とする請求項3または4に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記振動軸は、軸方向全長に亘って磁極が延伸するように軸直角方向に着磁されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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