説明

駆動装置

【課題】装置の大型化を抑制しつつ回生が可能な駆動装置を提供する。
【解決手段】駆動装置10は、モータ・ジェネレータ11が正回転している場合にワンウエイクラッチ15が係合状態に切り替わってモータ・ジェネレータ11の動力がディファレンシャル機構3に伝達される第1ギア列G1と、第1ギア列G1とは減速比が異なり、モータ・ジェネレータ11が逆回転している場合にツーウエイクラッチ20が係合状態に切り替わってモータ・ジェネレータ11の動力がディファレンシャル機構3に伝達される第2ギア列G2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の回転方向を切り替えることにより変速を行う駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータで出力軸を回転駆動する装置において、電動モータの回転方向を切り替えることにより変速を行うことが可能な装置が知られている。例えば、電動モータと出力軸との間に、減速比が互いに異なるとともに一方は出力軸が電動モータと同じ方向に回転し、他方は出力軸が電動モータと異なる方向に回転するように動力を伝達する2つのギア列を設ける。そして、電動モータの回転方向に応じて各ギア列に設けたワンウエイクラッチでこれらギア列を選択的に切り替えることにより変速を行う装置が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−50414号公報
【特許文献2】特開2009−23372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の装置は、電動モータと出力軸との間に2つのワンウエイクラッチが介在しているので動力伝達が可能な方向が電動モータから出力軸へ向かう方向に限られており、その反対方向、即ち出力軸から電動モータへ向かう方向への動力伝達は不可能である。そのため、例えば、この装置を車両の駆動装置として用いた場合、出力軸から入力される動力を利用して電動モータで回生を行うことができない。従って、こうした回生を行うようにするためには回生に用いるための伝達経路を追加しなければならないので装置が大型化するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、装置の大型化を抑制しつつ回生が可能な駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動装置は、回転電機の回転を変速して出力部へ伝達可能な駆動装置において、前記回転電機と前記出力部との間に設けられ、同一回転方向の入力に対して前記出力部へ出力される回転の方向が互いに反対向きとなり、かつ減速比が互いに異なる2つの伝達経路と、前記2つの伝達経路のいずれか一方の伝達経路に設けられて、前記回転電機及び前記出力部がともに正回転する場合に前記回転電機から前記出力部へ向かう正方向の動力伝達を許容する一方で前記正方向と逆向きの逆方向の動力伝達を阻止し、前記回転電機が逆回転し前記出力部が正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の両方向の動力伝達を阻止するワンウエイクラッチと、前記2つの伝達経路のいずれか他方の伝達経路に設けられて、前記回転電機が逆回転し前記出力部が正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の動力伝達を許容し、かつ前記回転電機及び前記出力部がともに正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の両方向の動力伝達を阻止するツーウエイクラッチと、を備えるものである(請求項1)。
【0007】
この駆動装置によれば、回転電機が正回転した場合にはワンウエイクラッチが設けられた側の伝達経路を通じて回転電機の動力が出力部へ伝達されて出力部が正回転する。一方、回転電機が逆回転した場合にはツーウエイクラッチが設けられた側の伝達経路を通じて回転電機の動力が出力部へ伝達されて出力部が正回転する。これにより、回転電機の回転方向を切り替えることにより、減速比を切り替えて出力部を正回転させることができる。出力部の減速した場合には、ツーウエイクラッチが設けられた側の伝達経路によって出力部から回転電機側へ逆方向に動力が伝達されるので、回転電機による回生が可能となる。従って、回生用の伝達経路を追加することなく回生が可能となるので、装置の大型化を抑制しつつ回生可能となる。
【0008】
本発明の駆動装置の一態様においては、前記他方の伝達経路の減速比が前記一方の伝達経路の減速比に比べて小さくてもよい(請求項2)。この態様によれば、ツーウエイクラッチ側の伝達経路の減速比がワンウエイクラッチ側の伝達経路よりも小さいので、ツーウエイクラッチの出力側が入力側よりも高速回転しツーウエイクラッチ側の動力伝達が遮断される。従って、2つのクラッチが共に係合する干渉を回避しつつ減速時に回生できる。なお、本件における減速比とは、各伝達経路において回転電機側が1回転した場合における出力部側の回転数のことを意味する。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように、本発明の駆動装置によれば、回転電機の回転方向を切り替えることにより減速比の切り替えができるとともに、回生用の経路を追加する必要がないので、装置の大型化を抑制しつつ回生可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の要部を模式的に示す図。
【図2】ツーウエイクラッチの構造を示す説明図。
【図3】ツーウエイクラッチの保持器が左回りに移動した状態を示した図。
【図4】ツーウエイクラッチの保持器が右回りに移動した状態を示した図。
【図5】駆動装置の各駆動モードにおけるモータ・ジェネレータの回転方向、ワンウエイクラッチの状態、及びツーウエイクラッチの状態を示す図。
【図6】本発明の駆動装置が搭載されたパラレル式ハイブリッド車両の要部を模式的に示した図。
【図7】本発明の駆動装置が搭載されたシリーズ式ハイブリッド車両の要部を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一形態に係る駆動装置が組み込まれた車両の要部を模式的に示している。駆動装置10は、回転電機としてのモータ・ジェネレータ11を動力源として備え、このモータ・ジェネレータ11で車両1Aの駆動輪2を駆動する。駆動装置10が車両1Aに搭載されることにより、その車両1Aは電気自動車として構成される。モータ・ジェネレータ11は、電動機及び発電機として機能する周知のものであり、ロータ軸11aと一体回転するロータ11bと、ロータ11bの外周に同軸に配置されて不図示のケースに固定されたステータ11cとを備えている。
【0012】
駆動装置10は、モータ・ジェネレータ11の動力を伝達する動力伝達経路を構成する第1ギア列G1及び第2ギア列G2を有している。第1ギア列G1は、本発明の一方の伝達経路に相当する。第1ギア列G1は、第1ドライブギア12と、第1中間ギア13と、第1出力ギア14とを備えている。第1ドライブギア12は、ロータ軸11aに相対回転可能に支持されるとともに、ワンウエイクラッチ15を介してロータ軸11aと接続されている。第1中間ギア13は、自転可能かつ第1ドライブギア12と噛み合うように不図示のケースに支持されている。第1出力ギア14は、第1中間ギア13と噛み合うように駆動輪2に連結された出力部としてのディファレンシャル機構3のケース3aに固定されている。ワンウエイクラッチ15は、ロータ軸11aが所定の正転方向に正回転し、かつロータ軸11aの回転速度(回転数)が第1ドライブギア12の回転速度以上の場合に係合状態に切り替わり、ロータ軸11aが正転方向とは逆の逆転方向に逆回転している場合又はロータ軸11aの回転速度が第1ドライブギア12の回転速度未満の場合には解放状態に切り替わるように構成されている。そのため、ワンウエイクラッチ15は、モータ・ジェネレータ11及びディファレンシャル機構3のケース3aがともに正回転する場合にモータ・ジェネレータ11からケース3aに向かう正方向の動力伝達を許容する一方でその正方向と逆向きの逆方向の動力伝達を阻止し、モータ・ジェネレータ11が逆回転しケース3aが正回転する場合に正方向及び逆方向の両方向の動力伝達を阻止する。第1ギア列G1は3枚のギア12、13、14を有するので、モータ・ジェネレータ11が正方向に回転する場合がディファレンシャル機構3のケース3aも正回転する。
【0013】
第2ギア列G2は、第2ドライブギア16と、第2中間ギア17と、第3中間ギア18と、第2出力ギア19とを備えている。第2ドライブギア16は、ロータ軸11aに相対回転可能に支持されるとともにツーウエイクラッチ20を介してロータ軸11aと接続されている。第2中間ギア17は、自転可能かつ第2ドライブギア16と噛み合うように不図示のケースに支持されている。第3中間ギア18は、自転可能かつ第2中間ギア17と噛み合うように不図示のケースに支持されている。第2出力ギア19は、第3中間ギア18と噛み合うようにケース3aに固定されている。第2ギア列G2は、ロータ軸11aとディファレンシャル機構3との間の減速比が第1ギア列G1の減速比よりも小さくなるように各ギア間のギア比が設定されている。
【0014】
ツーウエイクラッチ20は、モータ・ジェネレータ11が逆回転しディファレンシャル機構3のケース3aが正回転する場合に正方向及び逆方向の動力伝達を許容し、かつモータ・ジェネレータ11及びケース3aがともに正回転する場合に正方向及び逆方向の両方向の動力伝達を阻止するできる周知のものである。ここで、図2〜図4を参照しながらツーウエイクラッチ20の構造及び機能を簡単に説明する。これらの図に示すように、ツーウエイクラッチ20は、回転中心側に配置された入出力軸20aと、入出力軸20aと同軸にその外側に配置された外輪20bと、入出力軸20aと外輪20bとの間に配置されて周方向に並ぶ複数の(図では一つの)カムローラ20cと、カムローラ20cを保持する保持器20dと、保持器20dを正回転方向及び逆回転方向に動作させ得るスイッチング20eとを有している。入出力軸20aは多角柱形状に形成されるとともに、外輪20bの内周面は円筒面に形成されている。そして、入出力軸20aと外輪20bとの間に形成される隙間Sは、入出力軸20aの各頂点部分でカムローラ20cの直径よりも狭くかつそれ以外の部分ではカムローラの直径よりも大きくなっている。そのため、スイッチング20eによって保持器20dが図3又は図4のように回転すると、カムローラ20が隙間Sに噛み込んで楔として機能するので入出力軸20aと外輪20bとがロックされてこれらの間の動力伝達が可能となる。より具体的に説明すると、図3に示すように、スイッチング20eによって保持器20dが左回りに移動すると、入出力軸20aに入力された右回りのトルクは外輪20bに伝達され、外輪20bに右回りのトルクが入力されると空転し、外輪20bに入力された左回りのトルクは入出力軸20aに伝達される。反対に、図4に示すように、スイッチング20eによって保持器20dが右回りに移動すると、入出力軸20aに入力された左回りのトルクは外輪20bに伝達され、外輪20bに左回りのトルクが入力されると空転し、外輪20bに右回りのトルクは入出力軸20aに伝達される。このような機能を持つ
ツーウエイクラッチ20としては同機能を達成し得る市販品を用いればよい。
【0015】
この駆動装置10では、モータ・ジェネレータ11が正転方向に動作している場合にはワンウエイクラッチ15が係合状態に切り替わり、かつツーウエイクラッチ20が解放状態に切り替わるようになっている。そのため、モータ・ジェネレータ11の動力が第1ギア列G1を介して駆動輪2に伝達される。以下、このように駆動装置10を動作させるモードを正転駆動モードと称する。一方、モータ・ジェネレータ11が逆転方向に動作している場合にはツーウエイクラッチ20が係合状態に切り替わり、かつワンウエイクラッチ15が解放状態に切り替わる。そのため、モータ・ジェネレータ11の動力が第2ギア列G2を介して駆動輪2に伝達される。以下、このように駆動装置10を動作させるモードを逆転駆動モードと称する。また、車両1Aの減速時に、正回転する駆動軸2からの動力は第2ギア列G2を介してモータ・ジェネレータ11に伝達されて、モータ・ジェネレータ11が発電機として機能して回生が行われる。以下、このように駆動装置10を動作させるモードを回生モードと称する。また、モータ・ジェネレータ11が発生するトルクを走行抵抗以下とした場合は、各クラッチ15、20が解放状態に切り替えられるので、車両1Aは惰性で走行する。以下、このように駆動装置10を動作させるモードをフリーランモードと称する。
【0016】
このように駆動装置10では、モータ・ジェネレータ11を正転方向に動作させても逆転方向に動作させても駆動輪2が正転方向に回転する。第1ギア列G1と第2ギア列G2とは互いに減速比が異なるのでモータ・ジェネレータ11の回転方向を切り替えて駆動装置10のモードを切り替えることにより変速を行うことができる。図5は、上述した各モードにおけるモータ・ジェネレータ11の回転方向、ワンウエイクラッチ15の状態、及びツーウエイウエイクラッチ20の状態をまとめて示している。なお、駆動装置10では、ツーウエイクラッチ20を係合状態に切り替えつつモータ・ジェネレータ11を正転させることにより、駆動輪2を逆転方向に回転させる後退モードも実現可能である。この場合、ツーウエイクラッチ20が係合状態となることにより、ロータ軸11aの回転速度よりも第1ドライブギア12の回転速度が高くなるのでワンウエイクラッチは解放状態となるため、各クラッチ15、20が同時に係合状態となることはない。
【0017】
以上に説明したように、本発明の駆動装置10によれば、回生用の伝達経路を追加することなく回生が可能となるので、装置の大型化を抑制しつつ回生可能となる。また、第2ギア列G2の減速比は第1ギア列G1の減速比よりも小さいので、ツーウエイクラッチ20の出力側が入力側よりも高速回転しツーウエイクラッチ20側の動力伝達が遮断される。従って、2つのクラッチ15、20が共に係合する干渉を回避しつつ減速時に回生できる。
【0018】
本発明の駆動装置は、電気自動車に限定されずパラレル式ハイブリッド車両やシリーズ式ハイブリッド車両に搭載してもよい。図6は本発明の駆動装置が搭載されたパラレル式ハイブリッド車両の要部を模式的に示し、図7は本発明の駆動装置が搭載されたシリーズ式ハイブリッド車両の要部を模式的に示している。なお、図6及び図7において図1と共通の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0019】
図6に示したようにパラレル式ハイブリッド車両1Bでは、内燃機関50と、内燃機関50の出力を変速する変速機51とがさらに設けられている。なお、これらはハイブリッド車両に搭載される周知の内燃機関及び変速機であるため、詳細な説明を省略する。この図に示すように変速機51の出力ギア51aは、第1ドライブギア12と噛み合わされている。そのため、この車両1Bでは、モータ・ジェネレータ11の動力及び内燃機関50の動力で駆動輪2を駆動可能である。
【0020】
図7に示したようにシリーズ式ハイブリッド車両1Cでは、内燃機関60と、内燃機関60にて駆動される発電機61とがさらに設けられている。発電機61は、インバータ62を介してバッテリ22と電気的に接続されている。なお、これらはハイブリッド車両に搭載される周知の内燃機関、発電機、及びインバータであるため、詳細な説明を省略する。この車両1Cでは、内燃機関60で発電機61を駆動して発電を行い、その電気をバッテリ22に充電することができる。そして、そのバッテリ22に充電した電気で車両1Cを駆動することができる。
【0021】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明の駆動装置の適用対象は車両に限定されない。本発明の駆動装置は、電動機を動力源として使用可能な種々の装置や機械に適用してよい。
【0022】
本発明の駆動装置の各ギア列のギアの個数は3個と4個に限定されない。一方のギア列を介して動力が伝達される場合にはモータ・ジェネレータと駆動輪とが同方向に回転し、他方のギア列を介して動力が伝達される場合にはモータ・ジェネレータと駆動輪とが異なる方向に回転するように一方のギア列が奇数個のギアで構成され、他方のギア列が偶数個のギアで構成されていればよい。また、各ギア列の減速比は、一方のギア列と他方のギア列とで減速比が互いに異なるように設定されていればよい。
【0023】
各ギア列において各クラッチが設けられる位置は、モータ・ジェネレータのロータ軸と各ギア列の最もモータ・ジェネレータ側のギアとの間に限定されない。ワンウエイクラッチは、ギア列の途中に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
3 ディファレンシャル機構
3a ケース(出力部)
10 駆動装置
11 モータ・ジェネレータ(回転電機)
15 ワンウエイクラッチ
20 ツーウエイクラッチ
G1 第1ギア列(伝達経路)
G2 第2ギア列(伝達経路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転を変速して出力部へ伝達可能な駆動装置において、
前記回転電機と前記出力部との間に設けられ、同一回転方向の入力に対して前記出力部へ出力される回転の方向が互いに反対向きとなり、かつ減速比が互いに異なる2つの伝達経路と、
前記2つの伝達経路のいずれか一方の伝達経路に設けられて、前記回転電機及び前記出力部がともに正回転する場合に前記回転電機から前記出力部へ向かう正方向の動力伝達を許容する一方で前記正方向と逆向きの逆方向の動力伝達を阻止し、前記回転電機が逆回転し前記出力部が正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の両方向の動力伝達を阻止するワンウエイクラッチと、
前記2つの伝達経路のいずれか他方の伝達経路に設けられて、前記回転電機が逆回転し前記出力部が正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の動力伝達を許容し、かつ前記回転電機及び前記出力部がともに正回転する場合に前記正方向及び前記逆方向の両方向の動力伝達を阻止するツーウエイクラッチと、
を備えることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記他方の伝達経路の減速比が前記一方の伝達経路の減速比に比べて小さい請求項1に記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172796(P2012−172796A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37055(P2011−37055)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】