説明

骨充填材

【課題】骨欠損部に強く圧入しても圧壊することがなく、荷重が加わる部位の骨欠損部に適用可能であり、且つ生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進される骨充填材を提供する。
【解決手段】本発明の骨充填材は、ASTM D 790により測定した曲げ強さが100MPa以上である熱可塑性樹脂(ポリエーテルエーテルケトン等)を用いてなり、生体活性セラミック粒子(リン酸カルシウム化合物の粒子等)が含有されている顆粒の集合体からなり、生体活性セラミック粒子の一部が顆粒の表面から突出しており、タップ充填したときに、顆粒の間に径方向の寸法が50μm以上(50μm以上、2mm以下)の連通孔が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨充填材に関する。更に詳しくは、本発明は、生体骨と同等以上の十分な強度を有する熱可塑性樹脂を用いてなる顆粒の集合体であるため、骨欠損部に強く圧入しても圧壊することがなく、荷重が加わる部位の骨欠損部に適用可能な骨充填材に関する。また、顆粒間に生体骨の進入に適した寸法の連通孔が形成され、且つ顆粒には生体活性セラミック粒子が含有されているため、生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進される骨充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨充填材として各種の材料が開発されているが、多くは水酸アパタイト焼結体を用いた材料である。水酸アパタイトは、生体内の硬組織の無機成分と同じ化合物であり、優れた生体親和性を有する。しかし、焼成により生成する水酸アパタイト焼結体は、結晶性が高く、化学的に安定であり、結晶性が低い生体骨とは相違するものである。また、より生体骨に近似の組成の骨充填材として水和反応により生成するリン酸カルシウム化合物が知られている。このリン酸カルシウム化合物としては、低結晶性水酸アパタイト、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム水和物等が用いられている。これらのうち、低結晶性水酸アパタイトは、体温に近似の反応温度により生成する化合物であるため、生体内で生成する硬組織の無機成分と類似しており、優れた生体親和性を有する。
【0003】
上記のように、リン酸カルシウム化合物を用いた骨充填材は優れた生体親和性を有しているが、リン酸カルシウム化合物を用いた骨充填材であっても、単にこれを骨欠損部に充填したのみでは、生体骨が進入するまでに長時間を必要とする。そこで、骨欠損部に充填したときに、骨充填材の内部に生体骨が速やかに進入する多孔質の骨充填材が提案されている。しかし、多孔質の骨充填材では、強度が低下し、骨欠損部に強く圧入したときに圧壊することがあり、荷重が加わる部位の骨欠損部には適用することができないという問題もある。
【0004】
以上、詳述したように、骨充填材には、優れた生体親和性を有するとともに、十分な強度を有することが必要とされるが、この骨充填材として、高密度ポリエチレン等の熱可塑性樹脂からなるマトリックス中に二酸化チタン粒子が分散された複合体であって、表面に二酸化チタンが露出した骨修復乃至骨置換用材料が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリエーテルエーテルケトン等の生体適合性ポリマー及び生物活性な微粒子セラミックの均質な混合体を含む整形外科用組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。更に、リン酸カルシウム系セラミックスからなる造粒物の表面に同一組成のセラミック粉末がコーティングされ、この粉末からなる突出部間に3次元的空間が形成された骨空隙部及び骨吸収部充填用造粒物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−13476号公報
【特許文献2】特表2004−521685号公報
【特許文献3】特開平3−272769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された複合体では、熱可塑性樹脂をマトリックスとしているため、骨欠損部への充填時に容易に圧壊することはないと推察される。しかし、好ましい熱可塑性樹脂として用いられている高密度ポリエチレンは、生体骨より強度が低く、荷重が加わる部位の骨欠損部への適用は困難であると推察される。また、特許文献2には、顆粒形状での使用について言及されてはいるものの、骨欠損部に充填したときに顆粒間に十分な間隙が形成される必要があること等については何ら記載がない。更に、特許文献3に記載された骨空隙部及び骨吸収部充填用造粒物では、顆粒表面に凹凸を形成することにより顆粒間の間隙を確保しているが、セラミック製であるため顆粒そのものの強度が低く、充填時に力が加わりすぎたとき、及び荷重が加わる部位の骨欠損部に用いたときには、顆粒が圧壊し、顆粒間の間隙が十分に確保されないことが推察される。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、生体骨と同等以上の十分な強度を有する熱可塑性樹脂を用いてなる顆粒の集合体であるため、骨欠損部に強く圧入しても圧壊することがなく、荷重が加わる部位の骨欠損部に適用可能であり、また、顆粒間に生体骨の進入に適した寸法の連通孔が形成され、且つ顆粒には生体活性セラミック粒子が含有されているため、生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進される骨充填材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、セラミックスのみからなり、樹脂を用いていない顆粒状の骨充填材は知られているが、顆粒の強度が低いため、大きな荷重や衝撃が加わる部位の骨欠損部には適用することができない。また、大きな荷重が加わらない部位の骨欠損部への適用であっても、強い力で圧入したときに顆粒が圧壊してしまうことがある。この場合、圧壊部のみが空隙が少ない密な構造となり、生体骨が進入するための顆粒間の間隙が塞がれてしまい、骨充填材として十分に機能しないことがある。
本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0009】
本発明は以下のとおりである。
1.ASTM D 790により測定した曲げ強さが100MPa以上である熱可塑性樹脂を用いてなり、生体活性セラミック粒子が含有されている顆粒の集合体からなる骨充填材であって、前記顆粒の粒径が0.35〜10mmであり、前記生体活性セラミック粒子の一部が前記顆粒の表面から突出しており、タップ充填したときに、前記顆粒の間に径方向の寸法が50〜2000μmの連通孔が形成されることを特徴とする骨充填材。
2.前記顆粒が、球状、概球状又は偏球状である上記1.に記載の骨充填材。
3.前記連通孔が形成されるときに、タップ充填率が35〜70%である上記1.又は2.に記載の骨充填材。
4.前記顆粒を100体積%とした場合に、前記生体活性セラミック粒子は10〜40体積%である上記1.乃至3.のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
5.前記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトンである上記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
6.前記生体活性セラミック粒子がリン酸カルシウム化合物の粒子である上記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
7.前記リン酸カルシウム化合物が水酸アパタイトである上記6.に記載の骨充填材。
【発明の効果】
【0010】
本発明の骨充填材は、生体骨と同等以上の十分な強度を有する熱可塑性樹脂を用いてなる顆粒の集合体であるため、骨欠損部に強く圧入しても圧壊することがなく、大きな荷重や衝撃が加わる部位の骨欠損部にも適用可能である。また、顆粒間に所定寸法の連通孔が形成され、且つ含有される生体活性セラミック粒子の一部が顆粒の表面から突出しているため、生体親和性に優れ、生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進される。更に、顆粒の粒径によって、種々の大きさ及び形状の骨欠損部への充填に対応可能な骨充填材とすることができる。
また、顆粒が、球状、概球状又は偏球状である場合は、骨欠損部に充填し易い骨充填材とすることができる。
更に、連通孔が形成されるときに、タップ充填率が35〜70%である場合は、顆粒の集合体として骨欠損部に充填されたときに、十分な強度を有する充填体が形成される骨充填材とすることができる。
また、顆粒を100体積%とした場合に、生体活性セラミック粒子が10〜40体積%であるときは、顆粒の弾性率を充填される骨欠損部に進入する生体骨の強度に対応して調整することができる骨充填材とすることができる。
更に、熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトンである場合は、生体骨に近似の十分な強度を有する樹脂であるため、充填時に圧壊することがなく、荷重が加わる部位への適用も可能な骨充填材とすることができる。
また、生体活性セラミック粒子がリン酸カルシウム化合物の粒子である場合は、優れた生体親和性を有するセラミック粒子であるため、生体骨がより速やかに進入し、骨欠損部の治癒がより促進される骨充填材とすることができる。
更に、リン酸カルシウム化合物が水酸アパタイトである場合は、既に骨充填材としての安全性、有用性等が十分に確認されているため、より安全、且つ有用な骨充填材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の骨充填材[図1の骨充填材(符号100)参照]は、ASTM D 790により測定した曲げ強さが100MPa以上である熱可塑性樹脂を用いてなり、生体活性セラミック粒子が含有されている顆粒の集合体からなる骨充填材であって、顆粒の粒径が0.35〜10mmであり、生体活性セラミック粒子の一部が顆粒の表面から突出しており、タップ充填したときに、顆粒の間に径方向の寸法が50〜2000μmの連通孔が形成されることを特徴とする。
【0012】
前記「熱可塑性樹脂」[図2の熱可塑性樹脂(符号11)参照]は、ASTM D 790により測定した曲げ強さが100MPa以上であればよく、特に限定されない。この曲げ強さは150MPa以上であることが好ましい。また、曲げ強さの上限も特に限定されないが、骨充填材の用途では、500MPa以下、特に300MPa以下であることが好ましい。また、骨充填材を生体に埋入した際に、適度な弾性を有しつつ、且つ過剰な弾性により生じる生体骨のストレスシールディングを抑制するために、熱可塑性樹脂はASTM D 790により測定した曲げ弾性率が0.5〜50GPa、特に1〜30GPa、更に2〜10GPaであることが好ましい。このように生体骨と同等以上の強度を有する熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルホン、ポリアリルサルホン、変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。これらのうちでは、耐摩耗性などの機械的特性の面から、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、が好ましく、既に人工骨材料として臨床応用されており、体内に長期埋入したときの生体適合性についての実績が十分であることから、ポリエーテルエーテルケトンがより好ましい。
【0013】
前記「生体活性セラミック粒子」[図2の生体活性セラミック粒子(符号12)参照]は、生体活性を有するセラミック粒子であればよく、特に限定されない。この生体活性セラミック粒子としては、リン酸カルシウム化合物、炭酸カルシウム化合物、バイオガラス等の粒子が挙げられ、リン酸カルシウム化合物の粒子が好ましい。また、リン酸カルシウム化合物としては、水酸アパタイト、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられ、体内にて顕著な溶解性を示さず、また、既に骨充填材としての安全性、有用性等が十分に確認されていることから、水酸アパタイトがより好ましい。生体活性セラミック粒子は1種のみ含有されていてもよく、2種以上が含有されていてもよい。
【0014】
生体活性セラミック粒子の形状は特に限定されないが略球形であることが好ましい。この略球形とは、一方向における寸法と、これに直交する方向の寸法との比が0.7〜1.3、特に0.8〜1.2であることを意味し、これによって、生体活性セラミック粒子を顆粒中により均一に分散させ、含有させることができる。また、生体活性セラミック粒子の平均粒径も特に限定されないが、0.5〜30μm、特に1〜15μmであることが好ましい。生体活性セラミック粒子の平均粒径が0.5〜30μmであれば、顆粒の表面により均等に突出させることができ、骨充填材の生体親和性が向上し、生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進される。
生体活性セラミック粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0015】
前記「顆粒」[図1の顆粒(符号1)及び図1のAの領域を拡大した図2の顆粒(符号1)参照]の粒径は0.35〜10mmであり、この粒径は、骨充填材が充填される部位、及びこの部位の形状等を勘案して調整することが好ましい。顆粒の粒径は、0.35〜1mm、特に0.35〜0.8mmとすることができ、1〜10mm、特に2〜7mmとすることができる。このように、顆粒の粒径が0.35〜10mmであり、且つ充填部位、及びその形状等により粒径を適宜調整することにより、所定寸法の連通孔が容易に形成され、生体骨がより速やかに進入し、骨欠損部の治癒がより促進される骨充填材とすることができる。この顆粒の粒径の下限値は、径方向の寸法が十分に大きい連通孔を形成するための重要な因子であり、顆粒の粒径が0.35mm以上であることにより、生体骨をより速やかに進入させることができる。一方、顆粒の粒径が0.35mm未満であると、連通孔内に入り込んだ小径の顆粒によって、その部分が一部塞がれてしまって孔径が小さくなり、生体骨の進入が阻害されてしまうことになる。
顆粒の形状は光学顕微鏡により観察することにより確認することができる。また、顆粒の粒径は、顆粒をデジタルマイクロスコープにより観察し、視野における10個の顆粒の各々の最大寸法を測定し、それぞれの寸法の累積値を顆粒の個数で除した値であるとする。
【0016】
顆粒の形状は特に限定されず、球状、概球状、偏球状、紐状等の細長い形状等であればよく、不定形状であってもよいが、球状、概球状、偏球状であることが好ましい。ここで、球状とは、顆粒の最小径(dmin)と最大径(dmax)との比(dmin/dmax)が0.9以上である顆粒を意味する。また、概球状とは、(dmin/dmax)が0.8以上、0.9未満である顆粒を意味する。更に、偏球状とは、(dmin/dmax)が0.5以上、0.8未満である顆粒を意味する。このように、顆粒が球状等であれば、骨欠損部に充填し易く、且つ所定寸法の連通孔が容易に形成され、生体骨がより速やかに進入し、骨欠損部の治癒がより促進される骨充填材とすることができる。
【0017】
本発明の骨充填材では、タップ充填したときに、顆粒間に径方向の寸法が50〜2000μmの前記「連通孔」が形成される。この連通孔は、骨充填材が骨欠損部に充填されたときに形成される連通孔を模したものであり、タップ充填したときに形成される連通孔の三次元的な形状、及び径方向の寸法の大小は、骨充填材が骨欠損部に充填されたときに形成される連通孔の三次元的な形状、及び径方向の寸法の大小と相関を有している。
【0018】
タップ充填したときに形成される連通孔は、タップ充填率を測定したときのタップ装置を用いて同様にしてタッピングし、タップ充填することにより形成される。連通孔の径方向の寸法は50〜2000μmであり、特に100〜1000μmとすることができる。この連通孔の径方向の寸法は、顆粒の粒径等と相関を有しており、顆粒の粒径等により調整することができる。
【0019】
連通孔の径方向の寸法[図3の内接円(符号3)の直径(符号d)参照]は、以下のようにして測定することができる。
(1)内径30〜50mm、長さ30mmのポリテトラフルオロエチレン製のチューブ(PTFE製チューブ)を準備し、一方の開口面をパラフィルム等によりシールする。
(2)PTFE製チューブを、一方の開口面を下側として縦方向とし、他方の開口面から骨充填材を投入し、これをタップ装置にセットする。
(3)500回タッピングし、その後、PTFE製チューブに埋め込み樹脂(エポキシ樹脂)を流し込み、樹脂を固化させる。
(4)骨充填材[図1の骨充填材(符号100)参照]を含有する固化樹脂をPTFE製チューブから取り出して研磨し、研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、視野内の任意の10箇所において最も近接した3個の顆粒[図3の顆粒(符号1a、1b、1c)参照]の間隙部[図3の間隙部(符号2)参照]に内接する円[図3の内接円(符号3)参照]の直径[図3の直径(符号d)参照]を測定し、この直径の累積値を箇所数で除した値を連通孔の径方向の寸法とする。
【0020】
更に、タップ充填したときに形成される連通孔は、その三次元的な形状、及び径方向の寸法が長さ方向において変動するが、この変動が大き過ぎないことが好ましい。連通孔の断面形状は全長さに渡って略円形であることが好ましく、長さ方向における径方向の寸法は、最小径(dmin)と最大径(Dmax)との比(dmin/Dmax)が0.7以上、特に0.8以上であることが好ましい。このように長さ方向において連通孔の形状及び径方向の寸法に大差がなければ、骨充填材を骨欠損部に充填したときに、生体骨が充填体の内奥にまで十分に、且つ速やかに進入し、骨欠損部の治癒を促進することができる。
【0021】
また、タップ充填により連通孔が形成されるときに、骨充填材のタップ充填率は35〜70%であることが好ましく、35〜65%、特に40〜60%であることがより好ましい。顆粒の形状及び粒径等は、所定寸法の連通孔が形成されるときのタップ充填率が上記の範囲となるようにすることが好ましく、このような顆粒であれば、骨充填材が顆粒の集合体として骨欠損部に充填されたときに、十分な強度を有する充填体が形成されるものと推察される。
【0022】
タップ充填率は、以下のようにして測定し、算出することができる。
(1)容量20ミリリットルのメスシリンダーに10gの骨充填材を投入し、これをタップ装置(蔵持科学器械製作所製、型式「KRS−406」)にセットする。
(2)500回タップし、その後、メスシリンダーの目盛りを読み取り(Aミリリットルとする)、充填密度[10/A(g/ミリリットル)]を算出する。
(3)骨充填材の理論比重[B(g/ミリリットル)]に対するタップ後の充填密度の割合としてタップ充填率を算出する。
タップ充填率(%)=[10/(A×B)]×100
【0023】
顆粒における生体活性セラミック粒子の含有量は特に限定されないが、顆粒を100体積%とした場合に、生体活性セラミック粒子は10〜40体積%であることが好ましい。生体活性セラミック粒子が10〜40体積%であれば、十分な強度を有し、充填時に圧壊することがなく、荷重が加わる部位の骨欠損部への適用も可能であり、且つ顆粒の弾性率を生体骨の強度に対応して調整することができる。
尚、生体活性セラミック粒子の体積割合は、10個の顆粒の断面をSEMにより観察し、撮影した写真面に存在する生体活性セラミック粒子の累積面積を、熱可塑性樹脂と生体活性セラミック粒子の各々の累積面積の合計により除して100倍した値で代用するものとする。
【0024】
顆粒に含有される生体活性セラミック粒子は、一部が顆粒の表面から突出し[図2の生体活性セラミック粒子(符号12)参照]、顆粒の表面の一部が生体活性セラミック粒子により構成されている。これにより、骨充填材が骨欠損部に充填されたときに、顆粒間に形成される連通孔の壁面に生体活性セラミック粒子が突出することになり、生体骨がより速やかに進入し、骨欠損部の治癒がより促進される骨充填材とすることができる。
【0025】
更に、顆粒は生体内非吸収非分解性の熱可塑性樹脂を用いてなり、生体活性セラミック粒子が含有されているが、顆粒を100質量%とした場合に、熱可塑性樹脂とセラミック粒子との合計は、90質量%以上、特に95質量%以上(100質量%であってもよい。)であることが好ましい。このように、熱可塑性樹脂と生体活性セラミック粒子との質量割合が大きい顆粒であれば、十分な強度を有し、且つ優れた生体活性を備える骨充填材とすることができる。
【0026】
顆粒に熱可塑性樹脂及び生体活性セラミック粒子を除く他の成分が含有されている場合、この他の成分は特に限定されず、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられる。顆粒に含有される熱可塑性樹脂、生体活性セラミック粒子、及び他の成分が含有される場合は、この他の成分の、それぞれの質量割合は、顆粒を作製するときの各々の配合量により算出することができる。
【0027】
骨充填材の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
(1)熱可塑性樹脂と生体活性セラミック粒子とを、熱可塑性樹脂の融点を越える温度で混練し、混合し、その後、混合物を粉砕又は破砕し、整粒して、所定寸法の顆粒とすることにより製造することができる。
(2)熱可塑性樹脂と生体活性セラミック粒子とを、混練押出機を用いて、熱可塑性樹脂の融点を越える温度で混練し、その後、溶融した混練物を混練押出機の先端側に取り付けられたダイより吐出させ、次いで、ダイ出口側で連続的にペレット化して顆粒とすることにより製造することができる。
(3)熱可塑性樹脂と生体活性セラミック粒子とを、熱可塑性樹脂の融点を越える温度で混練し、混合し、その後、混合物を粉砕し、粉砕物を加熱加圧して所定形状に成形し、次いで、冷却して顆粒とすることにより製造することができる。
【0028】
上記(1)〜(3)の方法のうちでは、顆粒の形状を球状化するという観点では(2)及び(3)の方法が好ましい。また、連続的に、且つ効率よく製造するという観点では(2)の方法が好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
実施例1
ポリエーテルエーテルケトン(Victrex社製、商品名「PEEK 450G」、ASTM D 790により測定した曲げ強さ;170MPa、融点;334℃、)の粉末(平均粒径;300μm)と、水酸アパタイト粒子(太平化学産業株式会社製、商品名「HAP−200」、平均粒径;10μm)とを、混合し、得られた混合物を混練押出機に供給し、先端部から押し出された混練物を破砕し、整粒して、不定形状であり、且つ粒径が600〜1000μmの顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。
【0030】
上記のようにして製造した骨充填材を前記のようにしてタップ充填したときに、顆粒間に形成された連通孔の径方向の寸法を、前記の方法により測定したところ98μmであった。また、骨充填材のタップ充填率を前記の方法により測定したところ49%であった。更に、ポリエーテルエーテルケトンと水酸アパタイト粒子との合計を100体積%とした場合の、水酸アパタイト粒子の体積割合を前記の方法により測定したところ30体積%であった。
【0031】
実施例2
破砕により得られた顆粒の粒径が355〜600μmであることを除いて、実施例1と同様にして不定形状の顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は72μm、タップ充填率は35%、水酸アパタイト粒子の体積割合は30体積%であった。
【0032】
実施例3
実施例1で用いたポリエーテルエーテルケトンの粉末と、水酸アパタイト粒子とを混合し、得られた混合物を混練押出機に供給し、先端部に取り付けられたペレタイザーにより、概球状であり、且つ粒径が700〜850μmの顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は118μm、タップ充填率は60%、水酸アパタイト粒子の体積割合は30体積%であった。
【0033】
実施例4
ペレット化により得られた顆粒の粒径が355〜500μmであることを除いて、実施例3と同様にして概球状の顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は53μm、タップ充填率は59%、水酸アパタイト粒子の体積割合は30体積%であった。
【0034】
実施例5
ペレット化により得られた顆粒の粒径が3〜5mmであることを除いて、実施例3と同様にして概球状の顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は720μm、タップ充填率は58%、水酸アパタイト粒子の体積割合は30体積%であった。
【0035】
実施例6
ペレット化により得られた顆粒の形状が偏球状であり、その粒径が3〜5mmであることを除いて、実施例3と同様にして偏球状の顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は780μm、タップ充填率は51%、水酸アパタイト粒子の体積割合は10体積%であった。
【0036】
実施例7
実施例1で用いたポリエーテルエーテルケトンの粉末と、水酸アパタイト粒子とを混合し、得られた混合物を混練押出機に供給し、先端部から押し出された混練物を破砕し、破砕物を加熱加圧して成形し、次いで、冷却して、球状であり、且つ粒径が5〜10mmの顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は1320μm、タップ充填率は65%、水酸アパタイト粒子の体積割合は40体積%であった。
【0037】
比較例1
加熱加圧成形により得られた顆粒の粒径が100〜600μmであることを除いて、実施例7と同様にして球状の顆粒の集合体からなる骨充填材を製造した。この骨充填材の、実施例1と同様にして測定した連通孔の径方向の寸法は32μm、タップ充填率は56%、水酸アパタイト粒子の体積割合は30体積%であった。
以上、実施例1〜7及び比較例1の、顆粒の形状及び粒径、連通孔の径方向の寸法、タップ充填率及び水酸アパタイト粒子の体積割合を表1に記載する。
【0038】
【表1】

【0039】
表1の結果によれば、顆粒の粒径が所定範囲内にある実施例1〜7では、顆粒の形状、タップ充填率等によらず、53μm以上の寸法の連通孔が形成されており、骨欠損部に充填したときに、生体骨が速やかに進入し、骨欠損部の治癒が促進されることが推察される。また、顆粒の粒径と連通孔の寸法との間には相関があり、顆粒が大径であれば寸法の大きい連通孔が形成されていることが分かる。一方、顆粒の粒径が過小である比較例1では、連通孔の寸法も小さく、骨欠損部に充填したときに、生体骨が十分に進入せず、骨欠損部の治癒が促進されないことが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、骨欠損部、特に椎体整復部等の荷重が加わる部位の骨欠損部にも適用可能であり、骨充填材の分野において幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】タップ充填され、顆粒間に連通孔が形成された骨充填材の模式的な説明図である。
【図2】図1の破線で囲まれたAの領域を拡大した説明図である。
【図3】図1の破線で囲まれたBの領域を拡大した説明図である。
【符号の説明】
【0042】
100;骨充填材、1、1a、1b、1c;顆粒、11;熱可塑性樹脂、12;生体活性セラミック粒子、2;顆粒間の間隙部(連通孔)、3;3個の顆粒間に内接する円、d;内接円の直径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D 790により測定した曲げ強さが100MPa以上である熱可塑性樹脂を用いてなり、生体活性セラミック粒子が含有されている顆粒の集合体からなる骨充填材であって、
前記顆粒の粒径が0.35〜10mmであり、前記生体活性セラミック粒子の一部が前記顆粒の表面から突出しており、タップ充填したときに、前記顆粒の間に径方向の寸法が50〜2000μmの連通孔が形成されることを特徴とする骨充填材。
【請求項2】
前記顆粒が、球状、概球状又は偏球状である請求項1に記載の骨充填材。
【請求項3】
前記連通孔が形成されるときに、タップ充填率が35〜70%である請求項1又は2に記載の骨充填材。
【請求項4】
前記顆粒を100体積%とした場合に、該生体活性セラミック粒子は10〜40体積%である請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリエーテルエーテルケトンである請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
【請求項6】
前記生体活性セラミック粒子がリン酸カルシウム化合物の粒子である請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の骨充填材。
【請求項7】
前記リン酸カルシウム化合物が水酸アパタイトである請求項6に記載の骨充填材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−35827(P2010−35827A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202322(P2008−202322)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】