説明

骨再生医療材料及びその製造方法

【課題】効率的に細胞培養ができる3次元の細胞培養基盤を有する骨再生医療材料、および該骨再生医療材料の製造方法の提供。
【解決手段】連続気泡を有する発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料、および連続気泡を有する発泡体と塩化ナトリウムを含む処理溶液とを混合し、二酸化炭素をバブリングして、塩化カルシウムと第二リン酸化カリウムとを加えるアパタイト析出工程を有し、前記発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料の製造方法。該発泡体のセルは、200〜600μmの前後左右の広がりを有することが好ましい。該発泡体は、ポリエーテルエステルポリオールとポリイソシアネート類を反応させて得られる親水性のポリウレタンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生医療材料及びその製造方法に関し、特に、三次元的育成基盤となる骨再生医療材料に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞は生体の中では3次元の環境の中で、正常に増殖と分化を繰り返し、正常の組織に育成する。しかるに従来、細胞の培養の研究は、実験の便宜上、伝統的に、2次元平板の容器の中で行われてきた。その結果、最近になって、2次元平板だけでの培養の研究結果は、3次元の環境とは、かなりの差があり、数々の不都合が明らかになった。とくに幹細胞を従来型の平板で培養すると、ガン化(テラトーマ形成)することが明らかになった。そこで適正な3次元の構造をもった細胞培養基盤が急速に求められるようになった(非特許文献1)。しかし細胞をガン化させずに、正常に組織へと育成する3次元の細胞育成基盤の決定版が未だないのが現状である。
【0003】
幹細胞をはじめとする有用細胞を、正常に分化、育成させ、実際に役立つ組織へと導くための3次元の細胞育成基盤の素材には、いくつかの要件が必要とされる。人工細胞外幾何学(非特許文献2〜5)によれば、次のような条件が満たされる必要がある。
(1) 0.2〜0.6 mmの前後左右の広がりの3次元的空間を与えるような、少なくとも部分的壁を伴ったコンパートメントを提供できること。
(2) そのコンパートメントは、互いに少なくとも部分的には解放され、連通していること
(3) 材質が、細胞と生体成分に対し親和性を持つこと。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature, 423: 21 August, (2003) p869-872
【非特許文献2】Archives of Bioceramics Research, 5 (2005) p146-149
【非特許文献3】Archives of Bioceramics Research, 5 (2005) p277-280
【非特許文献4】久保木芳徳・他: 人工細胞外マトリックスの幾何学の統一原理、日本再生医療学会雑誌、再生医療、5: 20-30, 2006.
【非特許文献5】久保木芳徳・他: 人工ECM細胞外マトリックスの幾何学、田畑泰彦、岡野光夫 編集、日本組織工学会監修、ティッシュエンジニアリング2006、東京、日本医学館、24-33, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効率的に細胞培養ができる3次元の細胞培養基盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(1)は、連続気泡を有する発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料である。
【0007】
本発明(2)は、前記発泡体のセルが、200〜600μmの前後左右の広がりを有する、前記発明(1)の骨再生医療材料である。
【0008】
本発明(3)は、前記発泡体がポリウレタン発泡体である、前記発明(1)又は(2)の骨再生医療材料である。
【0009】
本発明(4)は、前記ポリウレタン発泡体が親水性である、前記発明(3)の骨再生医療材料である。
【0010】
本発明(5)は、前記ポリウレタン発泡体が、3分以内に100μLのダルベッコウのリン酸緩衝生理食塩水を、表面に残さず吸い込むものである、前記発明(4)の骨再生医療材料である。
【0011】
本発明(6)は、前記ポリウレタン発泡体が、ポリエーテルエステルポリオールを原料として得られたものである、前記発明(3)〜(5)のいずれか一つの骨再生医療材料である。
【0012】
本発明(7)は、前記ポリウレタン発泡体が、ポリオール類とポリイソシアネート類を反応させて得られるものであり、前記ポリイソシアネート類のイソシアネート指数が、85〜110である、前記発明(3)〜(6)のいずれか一つの骨再生医療材料である。
【0013】
本発明(8)は、前記アパタイトが、球状結晶の集合した被覆面を形成している、前記発明(1)〜(7)のいずれか一つの骨再生医療材料である。
【0014】
本発明(9)は、連続気泡を有する発泡体と処理溶液とを混合し、二酸化炭素をバブリングして、塩化カルシウムと第二リン酸化カリウムとを加えるアパタイト析出工程を有し、
前記処理溶液が、塩化ナトリウムを含むことを特徴とする、
前記発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料の製造方法である。
【0015】
本発明(10)は、前記アパタイト析出工程前に、連続気泡を有する発泡体を、ポリリン酸を含む前処理溶液に浸漬し、前記浸漬後、前記溶液を除去して乾燥する前処理工程を有する、本発明(9)の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明(1)によれば、高い生体親和性や強靭性を有し、効率的に細胞培養ができる3次元の細胞培養基盤を提供することができるという効果を奏する。
【0017】
本発明(2)によれば、前記効果に加えて、細胞の成長に適したセルのサイズを有することにより、細胞がより成長しやすくなるという効果を奏する。
【0018】
本発明(3)によれば、ポリウレタン骨格を使用することにより、更に高い生体親和性を有する骨再生医療材料を得ることができるという効果を奏する。
【0019】
本発明(4)によれば、親水性を有することにより、特に骨再生医療材料として適した性質を有するという効果を奏する。
【0020】
本発明(5)によれば、特に細胞が成長しやすい骨再生医療材料を得ることができる。すなわち、当該指標を満たすためには、発泡体が高い親水性を有し、更に、セルが高度に連通していなければならない。したがって、高い親水性を有することによりアパタイトを被覆しやすくなる。さらに、このような材料は、高い通気性を有し、更に、多くのセル数を有する発泡材料であることを意味するので、特に細胞の成長に適した環境を有する骨再生医療材料を得ることが可能となる。
【0021】
本発明(6)によれば、特に高い生体親和性を有し、細胞が著しく成長しやすくなるという効果を奏する。
【0022】
本発明(7)によれば、特に高い親水性を有するという効果を奏する。
【0023】
本発明(8)によれば、特に細胞成長に適した構造を有する骨再生医療材料を得ることができるという効果を奏する。
【0024】
本発明(9)によれば、特に、ハイドロキシアパタイトが発泡体表面に析出しやすくなるという効果を奏する。当該方法により、ハイドロキシアパタイトが球状結晶を作り、その球が融合して面となり発泡体の骨格を被覆する。このような構造を有することにより、特に細胞の成長に適した環境を有する骨再生医療材料を得ることが可能となる。
【0025】
本発明(10)は、ハイドロキシアパタイトの被覆効率がより高くなるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施例1の被覆前のポリウレタン発泡体と、被覆後のポリウレタン発泡体の電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例2の被覆前のチタン発泡体と、被覆後のチタン発泡体の電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例1の骨再生医療材料(アパタイト被覆ポリウレタン発泡体)及びポリウレタン発泡体で細胞増殖試験を行なった結果である。
【図4】図4は、実施例1の骨再生医療材料(アパタイト被覆ポリウレタン発泡体)を、ラットの頭蓋骨の骨膜下に埋植後、6週後の組織像である。
【図5】図5は、骨再生医療材料のセルの柱のアパタイトの上に形成されている新生骨を示した写真である。
【図6】図6は、図5における新生骨の拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本最良形態に係る骨再生医療材料は、連続気泡を有する発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む。本最良形態に係る骨再生材料は、アパタイトが被覆されている状態でも、内部にセル(気泡、コンパートメント)を有し、当該セルが連通している状態であることが、細胞が成長しやすくなるため好適である。また、連通していることにより水を吸収し、細胞の成長にとって好ましい環境を形成しやすくなる。骨再生医療材料の内部に形成されたセル(気泡、コンパートメント)は、200〜600μm(好適には200〜400μm)の前後左右の広がりを有する3次元空間であることが好適であり(セル径は、200〜600μmが好適であり、200〜400μmがより好適である。セル径とは、発泡体断面を電子顕微鏡で観察した際の平均セル径を意味する。)、セル数(JIS K 6400)としては、125個/25mm〜40個/25mm(好適には125個/25mm〜55個/25mm)である。このようなサイズのセルを有することにより、特に、細胞が成長しやくなる。また、発泡体の骨格をアパタイトで覆うことにより、生体物質への親和性や強靭性を付与することができる。以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0028】
本最良形態に係るアパタイトとしては、ヒドロキシアパタイト、炭酸アパタイト、フッ素アパタイト等が挙げられる。生体適合性の観点から、アパタイトが好ましく、特にヒドロキシアパタイトが好ましい。
【0029】
本最良形態に係る発泡体は、連続気泡を有している。その材料は、特に限定されず、例えば、チタン等の金属発泡材料や、ポリウレタン発泡体等の樹脂発泡材料であってもよい。これらの中でも、ポリウレタン発泡体が特に好適である。更に、ポリウレタン発泡体の中でも、親水性のポリマーを使用することが好適である。
【0030】
続いて、特に好適なポリウレタン発泡体を構成する原料について説明する。
(ポリオール類)
ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルエステルポリオール又はポリエステルポリオールが単独又は混合して用いられる。これらの中でも、ポリエーテルエステルポリオールが好ましい。
【0031】
ポリエーテルポリオールとしては、多価アルコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとを付加重合させた重合体よりなるポリエーテルポリオール、その変性体等が用いられる。変性体としては、前記ポリエーテルポリオールにアクリロニトリル又はスチレンを付加させたもの、或はアクリロニトリルとスチレンの双方を付加させたもの等が挙げられる。ここで、多価アルコールは1分子中に水酸基を複数個有する化合物であり、例えばグリセリン、ジプロピレングリコール等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとして例えば、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたトリオール、ジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合させ、さらにエチレンオキシドを付加重合させたジオール等が挙げられる。
【0032】
ポリエーテルエステルポリオールは、ポリオキシアルキレンポリオールに、ポリカルボン酸無水物と環状エーテル基を有する化合物とを反応させて得られる化合物である。ポリオキシアルキレンポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。ポリカルボン酸無水物としては、コハク酸、アジピン酸、フタル酸、トリメリット酸等の無水物が挙げられる。環状エーテル基を有する化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。これら3成分を反応させる順序については特に限定されない。例えば、3成分を同時に反応させる方法、ポリオキシアルキレンポリオールとポリカルボン酸無水物に環状エーテル基を有する化合物を吹き込んで反応させる方法、ポリオキシアルキレンポリオールとポリカルボン酸無水物の一部を反応させ、それに環状エーテル基を有する化合物とポリカルボン酸無水物の残部を反応させる方法等がある。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。
【0033】
これらのポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0034】
(ポリイソシアネート類)
次に、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数個有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)や、これらの変性物等が挙げられる。
【0035】
イソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は85〜110の範囲、より好適には85〜105、さらに好適には85〜100の範囲に設定することが好ましい。このような範囲とすることにより、ポリウレタン発泡体の骨格表面上にOH基が残り易くなり親水性が高まるため、特に骨再生医療材料に適したポリウレタン発泡体とすることができる。ここで、イソシアネート指数は、ポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、イソシアネート指数が100を越えるということは、ポリイソシアネート類がポリオール類に対して過剰であることを意味する。
【0036】
(発泡剤)
発泡剤はポリウレタン樹脂を発泡させてポリウレタン発泡体とするためのもので、例えば水のほかジクロロメタン(塩化メチレン)、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、炭酸ガス等が挙げられる。これらの発泡剤のうち、ポリイソシアネート類と速やかに反応して十分な炭酸ガスを発生でき、取扱いが良好である点から水が好ましい。発泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり1〜5質量部であることが好ましい。発泡剤の含有量が1質量部未満の場合には、発泡が不十分となり、低密度の発泡体が得られ難くなる。一方、5質量部を越える場合には、発泡が過剰となり、発泡体の硬さ、引張強さ等の物性が低下する。
【0037】
(触媒)
触媒は主としてポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応やポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応を促進する。触媒として、例えば、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン等の第3級アミン(アミン触媒)、オクチル酸スズ(スズオクトエート)、ラウリン酸ジブチルスズ(ジブチルスズジラウレート)等の有機金属化合物(金属触媒)、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。これらの物質は単独、或いは混合して用いられる。触媒としては、その効果を高めるためにアミン触媒と金属触媒とを組合せて用いることが好適である。
【0038】
触媒の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.05〜2.0質量部であることが好ましい。触媒の含有量が0.05質量部未満の場合、ウレタン化反応や泡化反応などの進行が十分ではなく、発泡体の機械的物性等が低下する傾向を示す。一方、2.0質量部を越える場合、ウレタン化反応や泡化反応が過剰に促進されるとともに、両反応のバランスが悪くなり、発泡体の歪特性が低下する。
【0039】
(整泡剤)
整泡剤は発泡を円滑に行うためにポリウレタン発泡体の原料に配合されることが好ましく、係る整泡剤としては、ポリウレタン発泡体の製造に際して一般に使用されるものを用いることができる。整泡剤として、例えば、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、フェノール系化合物等が挙げられる。これらの中でも、線状或いは分枝状ポリエーテル−シロキサン共重合体が好ましく、特に連通性を高めるためには整泡力の低い線状ポリシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体がより好ましい。整泡剤の含有量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜2.5質量部であることが好ましい。この含有量が0.5質量部未満の場合には、ポリウレタン発泡体の原料の発泡時における整泡作用が十分に発現されず、良好な発泡体を得ることが難しくなる。一方、2.5質量部を越える場合には、整泡作用が強くなり、セルの連通性が低下する傾向を示す。
【0040】
(その他の配合剤)
ポリウレタン発泡体の原料にはその他必要に応じて、架橋剤、酸化防止剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤、可塑剤等を常法に従って配合することができる。
【0041】
(ポリウレタン発泡体の製造)
次に、上記のポリウレタン発泡体の原料を用いてポリウレタン発泡体を製造する場合には常法に従って行われる。すなわち、発泡体の製造にあたって、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させるワンショット法、或いはポリオール類とポリイソシアネート類とを事前に反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類を反応させるプレポリマー法のどちらも採用される。そして、ポリオール類とポリイソシアネート類との混合液、或いはプレポリマーとポリオール類との混合液に、発泡剤を混和し、さらに整泡剤、触媒、消臭剤などを添加して攪拌、混合し、それらの原料をウレタン化反応、架橋反応などによって反応させると共に、泡化反応によって発泡させる。
【0042】
発泡形態としては、金型を用いるモールド発泡のほか、自然発泡させるスラブ発泡が採用されるが、発泡の容易性及び生産性の点からスラブ発泡が好ましい。スラブ発泡は、攪拌、混合された原料をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に原料が常温、大気圧下で反応し、自然発泡することで行われる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)することにより、スラブ発泡体が得られる。ポリウレタン発泡体を製造する際の反応は複雑であるが、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類とが付加重合するウレタン化反応、ポリイソシアネート類と発泡剤としての水との泡化反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋反応である。
【0043】
上記のポリウレタン発泡体の中でも、エーテル構造とエステル構造を有している発泡体が好適である。ポリウレタン発泡体の原料としては、ポリエーテルエステルポリオールや、ポリエーテルポリオールとポリエステルポリオールの組合せ、ポリエーテルエステルポリオールと、ポリエーテルポリオール及び/又はポリエステルポリオールの組合せが好適である。エステル構造を有することにより、部分的に極性が高まり水との水素結合を形成しやすくなり、更に、エーテル構造中のエチレンオキシド鎖によって親水性が増す。すなわち、当該構造のポリウレタン発泡材料を使用することにより、アパタイトがポリウレタン発泡体骨格の表面上に析出しやすくなる。
【0044】
ポリウレタン発泡体が、3分以内(好適には2分以内、より好適には30秒以内)に100μLのダルベッコウのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を、表面に残さず吸い込むことが好適である。ここで、使用するポリウレタン発泡体は、78mm以上とする。当該性質を有するような高い親水性を有し、更に、セルが高度に連通している発泡体を使用することが好適である。
【0045】
(骨再生材料の製造方法)
本最良形態に係る骨再生材料の製造方法としては、アパタイト析出工程を有する。当該アパタイト析出工程前に前処理工程を有していることが好適である。また、アパタイト析出工程後、一定の温度で静置する静置工程や、当該静置工程中沈殿があれば容器を上下して攪拌する攪拌工程を有していてもよい。前記アパタイト析出工程と、静置工程と、攪拌工程とを数回繰り返すことによって、発泡体骨格表面に被覆されるアパタイトの量が増加する。
【0046】
アパタイト析出工程では、連続気泡を有する発泡体と処理溶液と混合し、二酸化炭素をバブリングして、塩化カルシウムと二リン酸カルシウムとを加える。また、当該処理溶液は、少なくとも塩化ナトリウムを含むことが好適である。塩化ナトリウムを含むことにより、理由は定かではないが、アパタイトが球状結晶を作り、この球が面状となり発泡体の骨格表面を被覆する。このような構造を有することにより、特に細胞の成長に適した環境を有する骨再生医療材料を得ることができる。また、当該処理溶液は、さらに炭酸水素ナトリウムを含んでいることが好適である。また、塩化カルシウム、第二リン酸化カリウムの順で添加することが好適である。このような順序とすることにより、ポリウレタン骨格表面上で効率的にアパタイトを析出させることができる。カルシウムとリン酸を加え終わった時のpHは、6.01〜6.05であることが好適である。これらの工程は室温で行なうことが好適である。
【0047】
静置工程では、発泡体と処理溶液と塩化カルシウムと二リン酸カルシウムとを含有する系を一定の温度で静置する。温度は、20〜50℃程度であることが好適である。静置の時間は12〜48時間が好適である。特に限定されないが、フラン器内に静置することが好適である。
【0048】
前処理工程は、前記アパタイト析出工程前に、連続気泡を有する発泡体を前処理溶液に浸漬し、前記浸漬後、前記溶液を除去して乾燥する。ここで、溶液の除去は、吸引であっても、搾出であってもよい。当該工程によって、よりアパタイトが発泡体骨格の表面に付着しやすくなる。前処理溶液としては、例えば、ポリリン酸溶液が挙げられる。このように前処理を行なうことによって、ハイドロキシアパタイトの被覆の効率がより高くなる。
【実施例】
【0049】
実施例1
ポリウレタン発泡体材料(#1)を、直径10mm〜100mm、厚さ1〜2mmの円盤状に切り出し十分水洗乾燥したのち、0.1%のポリリン酸溶液に浸漬した後、溶液を濾紙上にて吸引除去したのち大気中にて風乾した。尚、本実施例において使用した浸漬前のポリウレタン発泡材料は、100μLのダルベッコウのリン酸緩衝生理食塩水を表面に滴下したところ、30秒間以内に表面に残さず当該リン酸緩衝生理食塩水を吸い込んだ。また、当該ポリウレタン発泡材料のセル数は60個/25mmであり、セルは、200〜400μmの前後左右の広がりを有していた(尚、セル径は200〜600μmであった)。ポリリン酸溶液に浸漬するのは、アパタイトの被覆の効率を上げるためである。
ポリウレタン発泡体材料(#1)は、エーテル構造とエステル構造を有しており、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、およびポリエーテルエステルポリオールを原料として使用し、イソシアネート指数を90として、整泡剤、触媒の存在下で反応させて、当該発泡体を得た。
【0050】
(アパタイト被覆処理)
前処理の済んだポリウレタン発泡体材料(最適ウレタン構造体)、たとえば直径13 mm、厚さ2 mmの円盤 50枚を、1リットルのナルゲン社製透明角型びんに入れ、976 mlの0.684 mM NaCl(約40 w/w%)/ 21 mM NaHCO溶液を加え、二酸化炭素をバブリングして飽和させた。この溶液に1.00 Mの塩化カルシウムを15.0 ml加えバブリングを続けた後、1.00 Mの第2リン酸化カリウム液を9.00 ml加えてさらに十分バブリングを10分間続けた。この時、瞬時白濁したが、すぐに消失した。カルシウム溶液を先に、リン酸溶液を後にする順序は重要である。リン酸とカルシウムを加えおわった時のpHは、6.01〜6.05であった。この操作は、室温にて行い、その後直ちに37℃フラン器内に静置した。この時析出する球状の結晶(直径1〜10μm)は、結晶性の低いヒドロキシアパタイトであることは、X線解析の結果明らかにされている。
【0051】
以上の第1回の浸漬をおこなって15時間後、沈殿があれば、びんを上下して攪拌した。24時間後、栓を緩め、ガス圧を解除する。2−3日で、沈殿が出尽くすので、この段階で懸濁液をサランのメッシュを使って静かに濾過して、ポリウレタン発泡体材料をサランメッシュの上に残し、球状アパタイト懸濁液を分離し、再び新鮮な第1液に浸漬した。この段階で、球状のアパタイト結晶粒子がポリウレタン発泡体材料に付着始めているのを光学顕微鏡で確認した。
【0052】
以上の操作を数回繰り返すと、ポリウレタン発泡体材料の重量は、リン酸カルシウムを含まないポリウレタン発泡体の重量の数倍にまで増加した。反応終了後、当該ポリウレタン発泡体材料を、サランメッシュの袋に入れ、蒸留水にて洗浄し、濾紙上にて水分を吸引除去したのち大気中にて風乾することにより、本発明に係る骨再生医療材料が得られた。被覆前及び被覆後のポリウレタン発泡体材料の表面の様子を観察した結果を図1に示した。以上、ポリウレタンの表面がヒドロキシアパタイトの結晶で覆われていることが明らかである。
【0053】
比較例1
ポリウレタン発泡体材料(#2)を、ポリエーテルポリオールのみを原料として使用し、イソシアネート指数を120として、整泡剤、触媒の存在下で反応させて、当該発泡体を得た。当該ポリウレタン発泡材料のセル数は40個/25mmであった。上記と同様に、ポリウレタン発泡材料に、100μLのリン酸緩衝生理食塩水を表面に滴下したところ、10分経っても液滴を吸収できなかった。
【0054】
実施例2
ポリウレタン発泡材料をチタン発泡体材料に置き換えた以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2に係る骨再生医療材料を製造した。当該骨再生医療材料のアパタイト被覆前後の電子顕微鏡写真を図2に示した。
【0055】
(ポリウレタン細胞培養基盤をアパタイトコートした場合の細胞増殖に対する効果)
本実施例1においてアパタイトコートしたポリウレタン細胞培養基盤及び非アパタイトコートポリウレタンのディスク(2x12.2 mm)を48ウエルの多穴シャーレの底に敷き、骨芽細胞MC3T3−E1をウエル当たり3万ずつ播種し、17日後の細胞数を、テトラカラーワン(生化学バイビジネス社)キットにて比較測定した。その結果細胞数は、非コートポリウレタン細胞培養基盤の1.5倍に増加していることが分かった。この実験によって、ポリウレタン細胞基盤が細胞培養基盤として、細胞を支持し増殖させる機能を持つこと、さらに同基盤をアパタイトコートすることにより、その増殖支持能力が1.5倍に高まることが示された(図3)。
【0056】
(動物実験の方法と結果)
6週齢のウイスター系雄ラットを麻酔下にて、頭蓋骨の骨膜下に実施例1の骨再生医療材料(アパタイト被覆最適ウレタン構造体)(4 x 4 x 2 mm)を埋植し、6週間後の摘出し、通法に従って組織切片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色と光学顕微鏡像を観察した(図4〜6)。図4は、実施例1の骨再生医療材料を、ラットの頭蓋骨の骨膜下に埋植後、6週後の組織像である。ラットの頭蓋骨の上に骨再生医療材料を載せると、6週後、ポア内に骨が呼び寄せられる様子が観察できる。また、新生骨が、骨再生医療材料のセル(コンパートメント)の柱のアパタイトの上に形成されている様子が確認できる(図5)。図6は、新生骨の拡大像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡を有する発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料。
【請求項2】
前記発泡体のセルが、200〜600μmの前後左右の広がりを有する、請求項1記載の骨再生医療材料。
【請求項3】
前記発泡体がポリウレタン発泡体である、請求項1又は2記載の骨再生医療材料。
【請求項4】
前記ポリウレタン発泡体が親水性である、請求項3記載の骨再生医療材料。
【請求項5】
前記ポリウレタン発泡体が、3分以内に100μLのダルベッコウのリン酸緩衝生理食塩水を、表面に残さず吸い込むものである、請求項4記載の骨再生医療材料。
【請求項6】
前記ポリウレタン発泡体が、ポリエーテルエステルポリオールを原料として得られたものである、請求項3〜5のいずれか一項記載の骨再生医療材料。
【請求項7】
前記ポリウレタン発泡体が、ポリオール類とポリイソシアネート類を反応させて得られるものであり、前記ポリウレタン発泡体のイソシアネート指数が、85〜110である、請求項3〜6のいずれか一項記載の骨再生医療材料。
【請求項8】
前記アパタイトが、球状結晶の集合した被覆面を形成している、請求項1〜7のいずれか一項記載の骨再生医療材料。
【請求項9】
連続気泡を有する発泡体と処理溶液とを混合し、二酸化炭素をバブリングして、塩化カルシウムと第二リン酸化カリウムとを加えるアパタイト析出工程を有し、
前記処理溶液が、塩化ナトリウムを含むことを特徴とする、
前記発泡体と、前記発泡体の骨格表面を被覆しているアパタイトとを含む、骨再生医療材料の製造方法。
【請求項10】
前記アパタイト析出工程前に、連続気泡を有する発泡体を、ポリリン酸を含む前処理溶液に浸漬し、前記浸漬後、前記溶液を除去して乾燥する前処理工程を有する、請求項9記載の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−130921(P2011−130921A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293195(P2009−293195)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000127307)株式会社イノアック技術研究所 (73)
【Fターム(参考)】