説明

骨接合用骨製ネジ

【課題】初期の固定性に優れ生物学的癒合を早めることの可能な骨接合用骨製ネジを提供すること。
【解決手段】 骨を切り出してスクリュー形に成形したものを、プラズマ処理によって内部の骨形成因子は変性させない程度に表面部を平滑にしたことを特徴とする骨接合用骨製ネジ。ねじ込みの際のトルクを小さく保ったままメスネジとの接触性をより高めることができ、骨折箇所の初期の固定性を向上し、ネジ内部の骨形成因子により接触部分からの骨細胞の成長を補助ないし促進させ癒合を早めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨接合用骨製ネジに関し、特に、初期の固定性に優れ生物学的癒合を早めることの可能な骨接合用骨製ネジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折の際に骨と骨とを接合させる際には、例えば、大腿骨の様に大型の骨であってプレートをあてがい金属製の釘を打ち込んで強度を確保しつつ骨自体の接合を促進させていた。
しかしながら、例えば、膝の皿や関節部分を構成する様な骨の端部が欠けてしまう様な骨折(以下適宜端部骨折と称する。)の場合には、欠けた部分が断面方向に動き易く、関節の曲げ方によっては、その移動量が多くなり、浮遊した状態となってしまう。
【0003】
従って、この様な骨折の場合には、スクリュータイプの骨接合用のネジによって、欠けた部分を本体部分にねじ込んで接合する。
【0004】
【特許文献1】特表2004−525681
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では以下の問題点があった。
まず、上述した端部骨折の場合には、ネジの頭が欠けた部分より突出すると、他の骨やスジを痛めたり、筋肉を痛めたりしてしまう。従って、ネジ頭を含めてネジを完全に骨の中に埋入させる必要がある。
【0006】
次に、素材の観点からは、金属製の場合には、ネジの埋入の観点からは優れるが、最終的な骨組織の再生による接合という観点からすると異物でしかなく、抜取り手術が必要な場合もあり、患者への負担が大きい。また、ネジ頭部分に骨組織が被さったり、抜取り後の再生によっては、ねじ穴部分が凸部になったりする場合もあり、患者に違和感が残ってしまう場合もあった。
【0007】
一方、この様な組織的癒合ないし接合の観点で優れている、ブタの骨などを用いた骨製ネジも存在する。骨製ネジは、そのまま埋め込むことができるので、患者の負担が小さいという利点がある。しかし、骨製ネジは、ねじれに対する強度が金属製に対して弱いため、メスネジの径が小さすぎると、ねじ込みに際して、骨製ネジ自身が割れたり欠けたりしてしまう。そのため、メスネジの径を骨製ネジと同程度の径とする必要が出てくるが、そうすると初期の固定性が劣ってくるという問題点が生じてくる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、初期の固定性に優れ生物学的癒合を早めることの可能な骨接合用骨製ネジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の骨接合用骨製ネジは、骨を切り出してスクリュー形に成形したものを、プラズマ処理によって内部の骨形成因子は変性させない程度に表面部を平滑にしたことを特徴とする。
【0010】
すなわち、請求項1に係る発明によれば、ねじ込みの際のトルクを小さく保ったままメスネジとの接触性をより高めることができ骨折箇所の初期の固定性を向上し、また、ネジ内部の骨形成因子により接触部分からの骨細胞の成長を補助ないし促進させて癒合を早めることができる。
【0011】
なお、骨製ネジに用いる骨は、人骨またはブタ骨などの骨を挙げることができる。また、強度を確保するため、皮質骨を用いることが好ましい。
【0012】
また、プラズマ処理は、骨形成因子を変性させにくい条件とする。例えば、常圧プラズマを用いたり、雰囲気ガスは希ガスなどを用いることが好ましい。また、ネジを載置するプレートは当然温度が上昇しにくい素材が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、初期の固定性に優れ生物学的癒合を早めることの可能な骨接合用骨製ネジを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
プラズマ処理によって被処理材の表面を平滑にすることは可能であるが、一般的にこの様な処理をおこなうと、骨ネジの径は大きくてもせいぜい5mmまでであるので、例えば、5分もプラズマに曝してしまうと、内部まで温度が上昇してしまうと考えられる。従って、骨組織中の骨形成因子が変性してしまい、その効果が期待できないと予見される。従って、これまでプラズマによる骨ネジの平滑処理は何ら検討されてこなかったが、本願発明者等が実験してみたところ、驚くべきことに、骨形成因子を変性させずに表面を平滑にすることが可能であることが確認できた。
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、ブタの皮質骨を切り出し、旋盤にて加工して直径3mm、ピッチ0.5mm、長さ8mmのネジに加工した。次に、このネジをプラズマ処理し、表面を平滑にした。プラズマ処理にあたっては、周波数:10MHz、ピーク電圧:300V、電力:100W(反射2−3W)、雰囲気ガス:アルゴン、ガス流量:アルゴンガス2リットル/分、雰囲気気圧:大気圧(開放型の処理台)、照射口径:10mm、照射口から非処理片の距離:5mm、の条件にて5分間処理した。なお、1分間照射を続けた時点でネジの照射表面温度は150℃であり、以降、表面温度は一定であった。
【0016】
処理前のネジと処理後のネジに関して、摩擦係数と表面粗さを測定した。結果を表1に示す。なお、表面粗さについては、算術平均粗さを測定した。
【表1】


また、図1に、処理前と処理後の表面状態を撮影した写真を示した。
【0017】
図表から明らかな様に、処理後の骨ネジ表面は非常に平滑になっていることが確認できる。よって、端部骨折の様に相手が海綿骨であって骨ネジよりも径の小さいメスネジにねじ込む場合には、表面粗さと摩擦係数が小さな骨製ネジは極めて有効であり、初期の固定性を向上できる。
【0018】
次に、豚大腿骨内側顆の軟骨下骨に所定径のメスネジをあけ、上記の骨製ネジ(処理前)を挿入引き抜きする際の挿入トルクおよび引抜トルクを測定した。表2に結果を示す。なお、この軟骨下骨は海面骨であり、関節部分を構成する骨と同様にスポンジ状である。また、骨製ネジは、マイナスドライバでねじ込み(挿入)可能な様に、ネジ頭部分に0.6mmの直線溝を切り、挿入時の破壊確率も併せて示した。引抜トルクに関しては、挿入が成功したものだけのトルクを測定した。なお、挿入ができた骨製ネジについては、引き抜きの際に、破壊は生じなかった。なお、骨製ネジの破壊はほとんどの場合ネジ頭部分が割れたり欠けたりして生じる。
【0019】
【表2】

【0020】
表から明らかな様に、メスネジの径が小さいほど、大きなトルクが必要であることがわかる。また、メスネジの径が小さいほど破壊確率が高いことが確認できた。よって、骨製ネジの表面が平滑であるほど破壊確率を小さくすることが可能であり、換言すれば、破壊確率を一定レベル以下にしつつ初期の骨の固定性を向上させることができる。
【0021】
次に、プラズマ処理後の骨の癒合性を検討した。なお、ネジ山による構造的に発揮される強度の影響を除くため、ブタの皮質骨を切り出し、旋盤にて加工して直径3mm長さ8mmの円柱ピンを作製して引抜強度を評価することとした。なお、比較として、プラズマ処理しないピンと、80℃の温水に5分間浸したピンを比較した。なお、プラズマ処理したピンの表面温度は180℃〜200℃であり処理時間その他の条件は前述のものと同じとした。
【0022】
実験に際しては、ウサギ大腿骨に直径3.3mmの穴をあけ、ピンを挿入し、術後3週間にて、引抜を評価した。表3は、比較表である。
【表3】



【0023】
表から明らかな様に、プラズマ処理したピンの表面温度は温水処理したピンの温度よりはるかに高いが、内部の骨形成因子が変性していないと考えられ、プラズマ処理していないピン(骨形成因子が変性していないピン)と同程度に癒合しているといえる。
【0024】
以上説明した様に、本発明によれば、初期の固定性に優れ生物学的癒合を早めることの可能な骨接合用骨製ネジを提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、膝の皿(膝蓋骨)、関節部分の骨折、など、浮遊した骨折片を好適に癒合させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】プラズマによる表面処理の前後の骨の表面状態を示した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨を切り出してスクリュー形に成形したものを、プラズマ処理によって内部の骨形成因子は変性させない程度に表面部を平滑にしたことを特徴とする骨接合用骨製ネジ。


【図1】
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【公開番号】特開2007−195571(P2007−195571A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13997(P2006−13997)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【出願人】(392030184)エステック株式会社 (5)
【Fターム(参考)】