説明

骨格に標的とされるナノ粒子

本発明は、生理活性因子の全身骨格への送達のための方法および組成物を提供する。本発明の方法は、両親媒性物質を含むナノカプセルを用いて、生理活性因子の骨への標的化された送達を可能にする。生理活性因子の徐放もまた、治療の効力を増加させるために用いられ得る。本発明の方法は、骨関連疾患の治療または予防のための幅広い適用性をもつ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は、一般的に、医学分野に関する。より具体的には、それは、生理活性因子を骨に送達するための方法および組成物に関する。
【0002】
本出願は、2003年8月21日に出願された米国仮特許出願第60/496,740号の優先権を主張し、それの全開示は、参照により本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
多数の病的状態は、骨粗鬆症、骨関節症、ページェット病、骨石灰脱失症、骨軟化症、歯周病、多発性骨髄腫および他の型の癌に起因する骨量の減少、他の薬物療法(ステロイドのような)の副作用に起因する骨量の減少、ならびに加齢による骨量の減少を含む、異常な骨細胞機能に関連している。特に、骨量の減少は、骨折が日常生活の極微の外傷に起因し得るような骨格不全に導き得る。そのような骨折は、骨折の修復または治癒の不十分さがある限りは、深刻な疾病または病的状態を引き起こす。
【0004】
骨粗鬆症は、骨量の減少の最も一般的な原因であり、高齢者における、特に高齢の女性における、身体障害の主要原因である。骨粗鬆症は、総骨量の低下および骨形成不全の増加に起因する進行性疾患である。これは、しばしば、結果として、耐力骨の特発性骨折、ならびに運動抑制性損傷を特徴とする肉体的および精神的衰弱を生じる。現在使用されている、最も広く受け入れられている骨粗鬆症の予防薬は、エストロゲン治療である。しかしながら、エストロゲンの全身投与は、乳癌もしくは子宮内膜癌(エストロゲン依存性腫瘍)の異常に高いリスクがある女性において、または男性にとって、実行可能な選択肢ではない(Cooper, 1994)。さらに、最近の研究は、エストロゲン補充療法(ERT)が他の有害な副作用をもつことを示し、これらの治療の長期効果に疑問を呼んでいる。
【0005】
ビスホスホネートは、破骨細胞の骨吸収の有効な阻害剤であり、骨粗鬆症の治療において効果を得るために用いられた(Parfitt et al., 1996)。ビスホスホネートは、処置された対照と比較して後肢無負荷ラットにおいて、骨梁体積を増加させ、かつ海綿骨量における減少を抑制することが示された。しかしながら、これらの動物での骨梁における軟骨の量は、有意に増加し、モデリング過程は変化し、石灰化した軟骨は、再吸収されて骨に取って代わられることができないことを示している。
【0006】
ビタミンD(1,25D)、カルシウムおよびサイアザイド利尿薬もまた、コルチコステロイド処置に伴う骨量の減少を防ぐために、単独で、または併用して、用いられた。そのような治療の目的は、カルシウム吸収を向上させ、それに従ってカルシウムの尿中排出量を減少させ、二次性副甲状腺機能亢進症を改善することである(Joseph, 1994)。カルシウム補給剤は、確定した骨粗鬆症を管理するのに広く用いられるが、骨密度に関する、または将来の骨折のリスクに関するカルシウム補給剤の満足な前向き研究はほとんどなかった(Cooper, 1994)。
【0007】
骨折のような骨損傷は、もう一つの一般的な骨疾患を代表する。骨の修復、治癒および増強は、十分に定義されていない複雑な一連の事象を必要とするが、特定の天然に存在する因子がこれらの目的を達成するために必要とされることが知られている。そのような因子は、損傷部位へ放出されるまたは移動させられ、創傷部位の基質形成およびリモデリングを刺激するように骨および軟骨における骨芽細胞、軟骨細胞および象牙質芽細胞を刺激する(ten Dijke et al., 1989)。
【0008】
新しい骨は、以下の3つの基本的な機構により形成され得る:骨形成、骨伝導、および骨誘導。海綿骨および骨髄移植片は、そのような過程のための実行可能な細胞を供給する。トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)は、骨芽細胞の増殖および基質合成を刺激する(Centrella et al., 1987)、かつ破骨細胞の形成および活性を抑制すること(Chenu et al., 1988)が示された。骨形成タンパク質ファミリーのメンバーは、軟骨および骨形成の誘導に有用であることが示された。例えば、BMP-2は、新しい海綿および/または骨組織の形成を誘導する能力があることが示された(米国特許第5,013,649号)。選択されたスタチン(Mundy et al., 1999)および特定のプロテアソーム阻害剤(Garrett et al., 2003)のようないくつかの低分子は、BMP-2産生を刺激し、従って、新しい骨組織の形成へ導くことが示された。
【0009】
宇宙飛行中の無重力状態もまた、骨量の減少の原因であった。そのような骨量の減少への対策は、サイクリング、模擬ランニング、およびローイングのような骨格ストレス型であった(Baldwin et al., 1996)。研究は、運動誘発性骨格ストレスが、骨芽細胞活性を維持しかつ増加させるように働くことを示している。しかしながら、これらの方法単独では、そもそも、地球上で遭遇されるものと等しい大きさの力を発生することはできないため、骨量の減少を防ぐのに不十分である(McCarthy et al., 2000; Baldwin et al., 1996)。後肢無負荷ラットにおける選択された一連の筋肉の電気的刺激もまた、骨芽細胞活性および類骨表面を増加させるが、骨梁体積または骨幹端付加率における減少を防止しない(Zerath et al., 1995)。アレンドロネートのようなビスホスホネートは、破骨細胞の骨吸収を阻害することにより、無負荷中の骨量の減少を最小にするが、骨形成の無負荷誘発性抑制を防止しない(Bikle et al., 1994)。従って、再吸収阻害薬は、主たる欠陥が低下した骨形成である場合、骨量の減少への理想的な対策ではない(McCarthy et al., 2000)。
【0010】
下垂体切除されたラットの成長ホルモン(GH)処置は、動物が負荷をかけられるか負荷をかけられないかに関係なく、骨量を増加させることが示された。しかしながら、無負荷動物は、それでもなお、同じ処置プロトコールについて処置された動物と比較してより低い骨量を示す。500 μg/mlのGHの薬理学的用量もまた、骨梁体積および皮質骨付加率の減少を含む、後肢無負荷に応答しての下垂体切除されたラットにおける骨格異常を仲介することができなかった(Halloran et al., 1995)。GHおよび1,25Dのような全身性因子は、無負荷に対する骨の応答を調節する可能性があるとはいえ、骨成長を局所的に制御する因子は、骨量の減少を防ぎ得る対策分子としてより大きい有用性をもっている可能性がある。
【0011】
骨量の減少への上記対策は、異常な骨細胞機能に関連した病的状態をある程度、最小にすることに成功したが、そのような処置の効力は、必要とされている部位へ活性成分を適切に送達する能力により限定される。さらに、これらの処置の大部分は、全身性に投与される場合、重篤な副作用をもつ。
【0012】
それゆえに、治療剤の部位特異的標的化についての必要性が感じられる。しかしながら、部位特異的標的化は、骨に固有である、量的にはっきりと識別できる受容体を必要とする。ヒドロキシアパタイト(HAp)を含む骨の無機成分は、通常、硬組織においてのみ存在する。メチレンビスホスホネート(MBP)などのようなビスホスホネートは、リモデリングを受ける骨部位へのそれらの偏向について知られている。特に、MBPは、骨病理学の研究において、非治療的診断画像化ツールとして、テクネチウム-99m(99mTc)と組み合わせて用いられた(Davis and Jones, 1976; Lantto et al., 1987; Cronhjort et al., 1999)。アレンドロネート、リセンドロネートなどを含む治療用のMBPの類似体は、骨吸収へのそれらの作用の基盤として固相リン酸カルシウムの表面へ強く結合するビスホスホネート足場の周知の能力を利用する(Fleisch, 1995)。MBPは、骨指向性薬物送達のための骨基質標的化部分として研究された。Fujisaki, et al., (1995; 1996)は、MBPに様々なモデル物質およびプロドラッグ候補を結合し、インビボでのそれらの標的化効力を実証した。MBPに結合したエストラジオールは、骨に取り上げられ、その後、エステル結合の酵素的または化学的加水分解のいずれかによりMBPから遊離された。Uludag, et al., (2000a; 2000b)は、類似した化学作用により、MBPに結合したモデルタンパク質の骨指向性送達を実証した。
【0013】
さらに、オステオポンチンおよび骨シアロタンパク質のようないくつかの非コラーゲン性タンパク質は、HApに特異的に結合するアミノ酸残基配列を含むことが知られている(Nagata et al., 1991)。Fujisawa et al.は、6残基のアスパラギン酸オリゴペプチド(Asp6)が、インビボで石灰化基質に優先的に結合すること(Kasugai et al., 2000)、およびこの標的リガンドが、インビボでエストラジオールプロドラッグを送達することができること(Yokogawa et al., 2000)を測定した。
【0014】
骨に優先的に蓄積する骨標的リガンドに結合した単純な分子を用いる、骨を標的とするための以前のアプローチは、重大な欠点をもつ。第一に、結合した分子は、全身性に曝され、それゆえに、急速な排出を受けやすい、または骨以外の部位への作用をもち得る。第二に、骨標的リガンドの治療用分子への結合は、それらの治療活性を不利に変化させ得る。最後に、標的リガンドからの活性分子の放出およびそれのその後の活性は、結合の分解反応速度に依存する。
【0015】
それでもなお、老齢の全世界に渡る集団は、加齢に伴って増加する骨格構造の脆弱性に起因する骨格劣化への整形外科的対策についての増え続ける需要へとつながる。さらに、他の骨状態および疾患の有効な対策を見出す深刻な必要性がある。それゆえに、骨関連疾患の有効な処置として骨における標的へ治療剤を送達するために用いられ得る新規な治療用組成物についての、当技術分野における大きな必要性がある。
【発明の開示】
【0016】
発明の概要
特定の局面において、本発明は、ナノカプセル送達媒体の使用を含む、骨標的化についての改善された技術を提供する。カプセル化は、骨疾患を処置するにおいて効果的であるが、他の点では、系から迅速に排除され得る標的細胞のすぐ近くにおいて生物学的応答を誘発し得るのみである、他の細胞表現型への毒性があり得るか、または全身性に活性であり得る治療用物質を検討する機会を提供する。本発明の特定の局面において、治療剤の骨へ標的化された送達は、送達媒体の操作された分解を通して、または限局性刺激に応答してのいずれかで、治療剤の徐放および誘発型放出の能力を含むことにより拡大される。
【0017】
一つの局面において、本発明は、少なくとも第一の疎水性生理活性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルであって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含む、ナノカプセルを提供する。ナノカプセルは、ミセルナノカプセルとして定義され得る。一つの態様において、リガンドは、その全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有する。特定の態様において、以下の構造を含むビスホスホネートであり得る:

式中、R1はH、OH、またはClであり、R2は、ナノカプセル表面に結合されたアルキルアミンまたは他のヘテロ二官能性リンカーである。リガンドはまた、アミノメチレンビスホスホネート(aMBP)であり得る、および配列Aspn、例えばn=6、を含むオリゴペプチドを含む、タンパク質、ペプチド、オリゴペプチド、または抗体であり得る。そのようなタンパク質またはペプチドの例は、オステオポンチンもしくは骨シアロタンパク質の配列、またはそれらの断片を含む。
【0018】
本発明の特定の態様において、提供されるナノカプセルは、約10 nm〜約50 nm、約50 nm〜約100 nm、約100 nm〜約150 nm、および約150 nm〜約200 nmを含む、約1 nm〜200 nmの直径を有し得る。第一標的リガンドは、その表面に共有結合性に結合され得る。生理活性因子は、骨指向性作用物質またはタンパク同化性作用物質であり得る。両親媒性表面は、ブロック重合体から構成され得る、およびポリエチレングリコール修飾リン脂質から構成され得る。そのような物質の例は、ジステアリオールホスホエタノールアミン-N-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)である。特定の態様において、両親媒性表面は、約1 μmと約20 μmの間の臨界ミセル濃度をもつ物質を含む。
【0019】
もう一つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、それを必要としている患者の全身骨格の成分へ生理活性因子を送達する方法を提供する:(a)少なくとも第一の疎水性生理活性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルであって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含むナノカプセルを得る段階;および(b)組成物を患者へ投与する段階。本方法において、ナノカプセルは、ミセルナノカプセルであり得る。リガンドは、その全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有し得る、およびアミノメチレンビスホスホネート(aMBP)またはAspnのようなオリゴペプチドを含み得る。組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る、および生理活性因子は、そのナノカプセルがその全身骨格から放出されるシグナルと接触することで、そのナノカプセルから放出され得る。ナノカプセルは、様々な時間的放出特性を含み得る。そのようなナノカプセルは、本明細書に記載されているように、約50 nm〜約100 nm、約100 nm〜約150 nm、および約150 nm〜約200 nmを含む、約1 nm〜200 nmの直径を有し得る。生理活性因子は、スタチン、プロテアソーム阻害剤、および抗骨粗鬆症のアルキロイドからなる群より選択され得る、ならびに骨指向性作用物質、ホルモン活性またはタンパク同化性物質であり得る。両親媒性表面は、ブロック重合体を含み得る、およびホスホエタノールアミン-N-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)のようなポリエチレングリコール修飾リン脂質であり得る。両親媒性表面は、約1 μmと約20 μmの間の臨界ミセル濃度をもつ物質から構成され得る。組成物は、局所的(locally)、全身性、静脈内、動脈内、局所的(topically)、または経口的手段を含む、任意の望ましい手段により送達され得る。
【0020】
さらになおもう一つの局面において、本発明は、以下の段階を含む、それを必要としている対象において骨量の減少を防ぐ方法を提供する:(a)少なくとも第一の疎水性骨指向性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルであって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含むナノカプセルを得る段階;および(b)組成物を患者へ投与する段階。本方法において、ナノカプセルは、ミセルであり得る。リガンドは、その全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有し得る。特定の態様において、骨指向性因子は、そのナノカプセルがその全身骨格から放出されるシグナルと接触することで、そのナノカプセルから放出される。ナノカプセルは、様々な放出特性を含み得る。適したリガンドの例は、aMBPおよびAspnを含む。組成物は、薬学的に許容される担体に製剤化され得る、および局所的(locally)、鼻腔内、全身性、静脈内、動脈内、局所的(topically)、または経口的のような、任意の望ましい様式で送達され得る。
【0021】
本発明の一つの局面において、本発明のナノカプセルにおける生理活性成分の含有量の範囲は、約0.01〜8モル%程度である。従って、ナノカプセルにおける標的リガンドの約0.01モル%、0.02モル%、0.05モル%、0.1モル%、0.25モル%、0.5モル%、1.0モル%、2.0モル%、2.5モル%、3.0モル%、4.0モル%、5.0モル%、6.0モル%、7.0モル%、および約8.0モル%を用い得る。そのような枠のすべての中間範囲が、具体的に企図される。
【0022】
本発明の特定の局面において、ナノカプセルは、1 nmから200 nmまでの直径を有する。本発明の非限定的態様において、ナノカプセルは、約50 nm、100 nm、150 nmまたは200 nmの直径を有する。本発明のナノカプセルは、約10 nm、20 nm、30 nm、40 nm、60 nm、70 nm、80 nm、90 nm、110 nm、120 nm、130 nm、140 nm、160 nm、170 nm、180 nm、190 nm、および5 nm、15 nm、17 nm、38 nm、240 nmなどのような中間値の直径を有し得ることが企図される。
【0023】
本発明のいくつかの局面において、ナノカプセルは、任意の骨関連疾患または状態を予防または治療することができる生理活性因子を含み得る。骨関連状態を治療し得る当技術分野において公知の任意の生理活性因子の使用が用いられ得る。本発明のこの局面のいくつかの態様において、生理活性因子は、骨形成タンパク質、プロテアソーム阻害剤、タンパク質断片、ペプチド、エストロゲン、ビスホスホネート、TGF-β、抗骨粗鬆症のアルカロイド、非ペプチド低分子、および骨指向性作用物質である。本発明の他の態様において、生理活性因子は、骨指向性作用物質である。本発明のなお他の態様において、生理活性因子はペプチドである。本発明のこの態様の特定の局面において、ペプチドは、ホルモン活性がある。本発明のさらに他の態様において、生理活性因子はタンパク質である。本発明のなお他の態様において、生理活性因子は、非ペプチド低分子である。
【0024】
本発明の一つの局面において、組成物が投与される患者または対象は、骨関連疾患または状態に苦しめられている者である。他の局面において、患者または対象は、骨関連疾患または状態を発症するリスクがある者であり得、それゆえに、方法は予防方法である。本発明の方法により治療できるまたは予防できる、患者または対象を苦しめる骨疾患または状態のいくつかの非限定的例は、骨粗鬆症、骨関節症、ページェット病、骨石灰脱失症、骨軟化症、歯周病、多発性骨髄腫および他の転移性骨癌、多発性骨髄腫および他の型の癌に起因する骨量の減少、ステロイド処置または骨折による骨量の減少、ならびに加齢による骨量の減少を含む。
【0025】
治療用組成物を投与する異なる方法は、当技術分野において公知であり、任意のそのような方法は、本発明の治療用組成物を送達するために用いられ得る。本発明のいくつかの非限定的態様において、組成物は、局所的(locally)、全身性または局部的に投与され得る。本発明の他の非限定的態様において、組成物は、静脈内、動脈内、局所的(topically)、経口的、または鼻腔に投与され得る。本発明のなお他の態様において、筋肉、皮下、腹腔内、病変内、皮膚のような非経口投与の他の方法もまた企図される。
【0026】
「1つの(a)」または「1つの(an)」は、1つまたは複数を意味するように本明細書で定義される。本発明の他の対象、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるものと思われる。しかしながら、詳細な説明および特定の例は、本発明の好ましい態様を示しているが、本発明の真意および範囲内の様々な変化および改変が、この詳細な説明から当業者に明らかになると思われるため、例証としてのみ与えられる。
【0027】
例証的態様の説明
本発明は、治療剤の標的化された送達のためのナノカプセルを全身骨格に供給することにより先行技術の欠陥を克服する。本発明の組成物および方法は、可能性のある任意の生理活性因子の骨への送達のために用いられ得る。生理活性因子は、生理活性因子のペイロードを含み、かつ骨への特異的な送達として標的とされるナノカプセルにおいて送達される。ナノカプセルは、治療用物質として、または骨異常の発生を防ぐように設計された対策として非侵襲性に送達され得る。本発明は、限定されるわけではないが、骨粗鬆症、骨関節症、ページェット病、骨石灰脱失症、骨軟化症、歯周病、骨髄腫および他の転移性骨癌、多発性骨髄腫および他の型の癌に起因する骨量の減少、他の薬物療法(ステロイドのような)の副作用に起因する骨量の減少、骨折、人工補装具固定に起因する骨量の減少、ならびに加齢による、または無重力による骨量の減少を含む、骨量の減少、骨異常または骨損傷を伴う様々な状態についての適用を有する。特に、タンパク同化性作用物質は、骨に対して選択性ではなく、このゆえに、それらの治療性-毒性適量は狭くあり得、標的とされる送達機構の必要性は、どんなに誇張してもしすぎることはない。
【0028】
本発明は、特定の局面において、全身骨格へ標的とされるミセルナノカプセルを提供する。全身骨格への標的化作用物質に結合した、ポリエチレングリコール修飾リン脂質および他のブロック型重合体のような両親媒性物質からミセルナノカプセルを形成することにより、本発明は、カプセル化疎水性生物学的作用物質に関する骨の優先的な標的化を可能にする。本発明は、疎水性薬物の送達について、リポソームに基づいたナノカプセルを超える有意な進歩を示す。リポソームは、主として、リン脂質二重層から形成されるか、またはそれを包含する、細胞様小胞を含む。二重層は、外部連続水相と閉じ込められた水性容積の間にバリアを生じるように配向する両親媒性分子の2つの相互に配向された層からなる。二重層は、本質的に、安定性を与えるか、または分子種の選択的二重層輸送を与えるために他の親油性添加物を有し得る有機油である。
【0029】
リポソームの構造により、それらは、第一に、閉じ込められた水性容積内の親水性種のカプセル化に適している。疎水性種のカプセル化は、水溶性複合体を使用することにより、または二重層膜中へ疎水性種を組み入れることにより可能であるが、これは内在する弱点をもつ。水溶性複合体の場合、疎水性種は、疎水性物質をゲスト分子として収容できる水溶性宿主分子、例えば、シクロデキストリンと複合体形成される。宿主-ゲスト複合体は、その後、リポソームの水性内部にカプセル化され得る。このアプローチに関する弱点は、低い複合体形成効率、宿主-ゲスト複合体形成に影響を及ぼし得る温度上昇処理、および脂質二重層成分(例えば、コレステロール)との複合体のゲスト交換を含む。二重層包含の場合、二重層による疎水性物質の取り込みの量は、分子サイズおよび二重層組成により制限される。弱点は、低いカプセル化効率および生理的状態における急速な二重層交換である。
【0030】
本発明は、一つの態様において、疎水性生理活性作用物質の効率的なカプセル化を達成し得る両親媒性物質を含むミセルナノカプセルを供給することによりこれらの制限を克服する。両親媒性物質は、部位特異的標的リガンドで修飾され得る。いわゆる臨界ミセル濃度(CMC)での、またはより上の濃度においてこれらの物質を含む水性系において、両親媒性物質は、疎水性内部および親水性外部を有するミセルを優先的に形成する。疎水性内部は、疎水性分子の可溶化にとって理想的である。低いCMCをもつ両親媒性物質が用いられる場合には(例えば、1〜20 μM)、結果生じたミセルは、低濃度で極めて安定しており、生理的状態下における薬物適用に適している。さらに、両親媒性物質の親水性末端が、選択された組織部位に特異的であるリガンドで機能的にされる場合には、優先的な部位標的化および薬物送達が起こる。
【0031】
特に、天然および合成のリン脂質、PEG修飾ジアシルリン脂質およびABまたはABAブロック型重合体は、本発明に従って、ミセルナノ粒子の作製への使用を見出す。PEG修飾リン脂質の例は、ジステアリオールホスホエタノールアミン-N-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)である。この物質は、骨標的化能力を獲得するために、骨の石灰化基質(リン酸カルシウム)に対する証明できる結合親和性を有する、メチレンビスホスホネートまたはアスパラギン酸オリゴマーのようなリガンドで効率的に機能的にされ得る。DSPE-PEGおよびその類似体は、極めて低いCMCを有し(典型的には、1〜20 μM)、緩衝系において安定したミセルを生じる。それゆえに、本発明は、生理的状態においてミセル安定性を獲得するのに十分低い臨界ミセル濃度を有する両親媒性物質を含むナノカプセルにおいて、筋骨格系へ活性因子を優先的に送達する方法を提供する。同様に、別個の疎水性および親水性ブロックを含むブロック共重合体が、安定化された疎水性相を形成するために用いられ得る。相形態、サイズおよび安定性は、共重合体の相対的ブロック長を調整することにより選択され得る。この型の物質の具体的な例は、プルロニック(Pluronic)およびポロキシマー(Poloxamer)系におけるもののようなポリエチレンオキシド-コ-ポリエチルプロピレンオキシドブロック共重合体である。両親媒性ブロック共重合体の他の例は、ポリエチレンオキシド-コ-ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキシド-コ-アスパルテート、ポリアクリル酸-コ-ポリスチレン、ポリエチレンオキシド-コ-ポリブタジエン、ポリエチレンオキシド-コ-ポリエチルエチレン、ポリエチレンオキシド-コ-ポリ乳酸、ポリジメチルシロキサン-コ-ポリ(2-メチルオキサゾリン)、およびポリエチルエチレン-コ-ポリスチレンスルホン酸などを含む。
【0032】
生理活性因子の標的化された送達を可能にすることにより、本発明は、その因子が必要とされる骨格部位に、例えば、冒された骨基質へ、生理活性因子の優先的送達を与える。局所的送達は、用量の増加なしに効力を増加させ、また、全身性曝露により招かれる副作用を低減させる。本発明のナノカプセルはまた、例えば、カプセル分解およびペイロード拡散による、または骨微環境に生じた外部シグナルもしくは生理的シグナルに応答しての、徐放または誘発型放出のために設計され得る。これは、処置が必要とされる場所および時間に、部位への特異的な治療的放出を可能にする。生理活性因子の標的化されたおよび/または時間調節された送達はまた、生理活性因子のより少ない全体的用量の患者への投与を可能にし、狭い治療性-毒性適量による有害な副作用の可能性を最小限にする。ナノカプセルのそのような送達および標的化のための方法ならびに組成物は、2003年1月24日に出願された米国特許出願第10/350,805号に考察されており、その全開示は、参照により本明細書に具体的に組み入れられている。
【0033】
ナノカプセル薬物媒体は、表面結合型骨特異的標的リガンド、および生理活性治療用作用物質、化合物または対策手段を含むペイロードの両方を含むようにナノカプセルを組み立てることにより標的とされ得る。そのような表面結合型骨標的リガンドは、骨無機相を特異的に標的とすることができる。用いられ得る標的リガンドの例は、骨に優先的に結合することが示されたビスホスホネートおよびオリゴペプチドを含む。
【0034】
骨への標的化は、特に、ヒドロキシアパタイト(HAp)結合残基(例えば、ビスホスホネート、ペプチド残基など)での表面機能付与ナノカプセルにより達成され得る。それゆえに、ナノカプセルは、標的リガンド、膜成分および治療用ペイロードから構成され得る。標的リガンドは、ナノカプセル膜に付着させられ得、全身骨格内の標的化された部位に選択的に結合することができる。
【0035】
本発明の一つの適用は、骨量の減少を防ぐことにより骨格健康を維持し得る生理活性因子の送達においてである。そのような因子は、例えば、骨粗鬆症を治療するために、または骨量の減少の予防的防止のための維持プログラムとして、骨吸収を防ぎ得る。そのような予防的処置は、例えば、有人宇宙飛行中の骨量の減少の防止において使用を見出し得る。骨量減少はまた、急速に高齢化する人口にとってますます大きな問題であり、本発明により提供された標的とされるナノカプセルの投与により防止され得る。用いられ得る1つのそのような生理活性因子は、インビトロで骨芽細胞様細胞において細胞増殖および代謝経路を活性化する、トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)である。用いられ得る生理活性ペプチドの他の非限定的例は、ペプチドのTGF-βファミリーの他のサブクラス、および骨形成タンパク質である。用いられ得るさらに他の生理活性因子は、骨形成タンパク質2の発現を刺激する化合物である。そのようなBMP-2発現刺激物質の他の非限定的例は、特定のスタチンおよびプロテアソーム阻害剤である。すべてのこれらの分子は、当技術分野において周知である。
【0036】
ナノカプセルの特異的標的化はまた、骨格構造、特に高い骨ターンオーバーの領域(例えば、疾患または無負荷使用による活性吸収を受けている領域)の標的化を可能にする。標的化されたナノカプセルはまた、例えば、感染症または腫瘍の、それぞれ、抗生物質または癌治療による処置を含む、他の選択された治療用物質を骨に送達するために用いられ得る。同様に、ナノカプセルはまた、骨折修復治療および組織工学適用の使用を見出し得る。
【0037】
I. 生理活性因子の標的化された送達
A. 対策方法
本発明の一つの局面は、図1において例証的目的のために示されている。このアプローチにおいて、生理活性因子は、本発明に従って、ナノカプセル媒体へ組み入れられる。ナノカプセルは、例えば、骨格基質のヒドロキシアパタイト(HAp)成分を標的とすることにより、骨を特異的に標的とするように設計される。インビボでは、標的化されたナノカプセルは、露出したHAp表面(例えば、特に、破骨細胞の吸収を受けた骨基質部位)に優先的に結合し、それらは、その後、ナノカプセルに含まれた治療用ペイロードを放出するように崩壊させる。
【0038】
第二アプローチにおいて、ナノカプセルは、特定の刺激に応答して時間的にそれらの治療用ペイロードを放出するように設計され得る。この刺激は、外部から与えられるシグナル、スケジュールにおいて投与される相補的因子であり得るか、または骨微環境に存在する生化学的シグナルであり得る。このように、送達は、必要とされるかまたは別なふうに適切である部位および時間においてなされ得る。ナノカプセルは、適切なシグナルまたは因子に曝されない場合には、ナノカプセルは無傷のままであり、最終的には、通常の代謝活性を通して身体により排出される。それゆえに、ナノカプセルに含まれる生理活性因子に関連した任意の副作用は、処置が必要とされない場合避けられ得る。なおさらに、局所的に影響を及ぼされる骨微環境におけるより低い有効量の生理活性因子は、処置が必要とされる時に患者により受け取られる。
【0039】
生理活性因子は、新しい骨基質(例えば、BMP、タンパク質断片、スタチン、プロテアソーム阻害剤、エストロゲン、分子結合体など)の形成に影響すること、または任意の骨関連疾患に関して任意の他の所望の治療的もしくは予防的効果を有することが示されている多くの作用物質の1つまたは複数であり得る。示されているように、生理活性因子は、適切な生理的環境において制御された時間的放出を有するように設計され得る、本発明によるミセルナノカプセルにカプセル化され得る。本発明に関して送達され得る生理活性因子のいくつかの例は、インスリン様成長因子(IGF)、骨形成タンパク質(BMP)、ヘパリン結合線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、TGF-β、副甲状腺ホルモン(PTH)、フロリド、スタチン、抗骨粗鬆症のアルコロイド、およびプロテアソーム阻害剤を含む。
【0040】
ナノカプセルは、静脈内注射により全身性に、または鼻腔内摂取もしくは局所適用により非侵襲性に、導入され得る。インビボでは、ナノカプセルは、露出されたHAp表面(例えば、特に、破骨細胞の吸収を受けた骨基質部位)に優先的に結合し、それらは、その後、それらの治療用ペイロードを放出するように崩壊させる。
【0041】
B. 骨量の減少
上記のように、本発明の方法の一つの適用は、骨量の減少の予防または処置においてである。高齢化する世界的規模の人口は、加齢に伴った骨格構造の脆弱性の増加に起因する骨格の劣化に対する、そのような手段の右肩上がりの需要へと至る。米国、欧州および日本における人口統計学的傾向は類似しており、65歳の年齢を超える人口のパーセンテージは、劇的に増加している(図2)(例えば、US Department of Health and Human Services, Administration on Aging, www.aoa.dhhs.govを参照されたい)。これは、本発明の重要性を際立たせる。骨量を維持するかまたは回復させることは、それゆえに、一般人口のますます厖大する部分にとっての主要な健康管理問題である(例えば、Trends in Orthopedics, 2000; Orthopedic Industry, 2000を参照されたい)。骨量を維持および/または増加するための全身骨格を標的とする治療プロトコールの必要性は、どんなに誇張してもしすぎることはない。
【0042】
この技術のさらにもう一つの適用は、骨折治癒および骨折中の骨量の減少の予防に関してである。タンパク同化性作用物質のような骨治癒剤の骨の標的化された送達は、骨治癒の時間を最小限にし、また、存在する骨組織の損失を防ぎ得る。さらに、本発明は、人工補装具固定の過程で有用であることが企図される。
【0043】
本発明で処置され得る骨量の減少のもう一つの可能性のある源は、宇宙飛行である。長期間の宇宙飛行中の宇宙飛行士の健康は、主要な懸案事項であり、この一般的に健康の懸案事項の中心となるのは、宇宙飛行の骨格組織への影響である。骨格劣化は、長期間の宇宙ミッション中の基本的な仕事および重要な船外活動の両方を実施する能力に劇的に影響を及ぼし得る。宇宙飛行士は、選択された骨格部位において1ヶ月あたり骨量の1〜2%の減少を経験し、この骨量減少は、一般的に、地球への帰還において完全には回復されない(National Geographic, January, 2001; Vico et al., 2000)。骨量減少のこの率は、2〜3年の火星ミッション中に50%より多い骨ミネラル密度(BMD)の減少を引き起こし得、重大なことには、宇宙飛行中および重力環境への突入において宇宙飛行士の能力を損なう。骨量減少の対策が継続する宇宙探査にとって必要であることが、一致した意見である。
【0044】
長期間の宇宙飛行へのヒトの適応の知識は、そのような旅行に必要とされる技術的知識より立ち遅れている(Turner, 2000)。地球に近い宇宙飛行における経験は、骨格系への最も生物学的影響が、骨格の物理的負荷における変化に起因することを示唆している。これは、地球近くの軌道における宇宙飛行士が、まだ重力場内であるが、宇宙船の速度の付属物として自由落下を経験するという事実に由来する。骨生物学における変化および関連した骨量における減少は、地球を発ってから数日間内に生じ始める。MIR宇宙ステーション研究は、個体は、腰椎、近位大腿骨および踵骨のような耐力領域においてBMDの減少を経験し、一方、頭蓋骨、遠位橈骨および肋骨のような非耐力領域では、BMDの増加を経験することを明らかに示している(McCarthy et al., 2000)。実験は、TGF-βおよびインスリン様成長因子-1(IGF-1)(両方とも骨形成を制御することが知られている(Mundy, 1996))のような選択された骨基質サイトカインの発現の減少を示した(Carmeliet et al., 1998)。同様の発見は細胞培養研究において報告されており、骨芽細胞活性および関連した新しい骨格基質の沈着の両方が減少する。従って、正常な骨リモデリング過程は、宇宙飛行中に大いに変わることは、明らかである。骨芽細胞の骨形成が減少し、破骨細胞の吸収活性は、変化しないままか、またはわずかに増加するかのいずれかである。最終結果は、オステオペニアの発症である(Holick, 2000)。
【0045】
IGF-1の注入は、正常に負荷された骨において骨成長を刺激するが、負荷されていない骨においては、2 mg/kg/日の極めて高用量が、無負荷に対する任意の保護作用を示すのに必要とされる(Bikle et al., 1994)。TGF-βメッセージレベルの減少は、骨格無負荷の以下の3つの異なるモデルにおいて観察された:宇宙飛行、座骨神経切離、および後肢無負荷(Westerlind and Turner, 1995)。これらの結果は、宇宙飛行中の低下した骨形成が骨芽細胞機能の減少によることを示唆する増加した一連の証拠と一致している(Harris et al., 2000)。重要なことには、TGF-β(2 μg/kg/日)の注入は、ラットにおける後肢無負荷により引き起こされた、骨量、カルシウム含有量、骨芽細胞数および石灰化率における減少を補正するが、対照動物において骨形成に効果を生じない。さらに、TGF-β注入は、正常および無負荷のラットの両方において、骨吸収の指標を減少させる(Machwate et al., 1995)。骨の微環境における局所的な濃度の増加への効果的なTGF-βの標的化および送達が、任意の薬物送達対策の望ましい目標である(Mundy, 2000)。
【0046】
まだなお、この技術のさらなる適用は、多発性骨髄腫および他の転移性骨癌の処置においてである。多発性骨髄腫、血漿細胞のクローン性造血性腫瘍、は二番目に多い成人の血液学的悪性腫瘍であり、骨破壊を引き起こすそれらの傾向において、血液学的腫瘍の中では珍しい(Mundy, 1998)。それは、約145,000人の患者という世界的罹患率をもち(Parkin et al., 1999)、70,000人の米国人を冒し、毎年、15,000人の新しい患者を生じ、癌関連死の1〜2%を占める(Jemel et al., 2003, Kyle et al., 2003)。疾患は、患者の80%が壊滅的かつ進行性の骨破壊を被り、一様に致死的である。この悪性腫瘍に関連した高い罹患率および死亡率は、激しい苦痛かつ間断のない骨痛、病理学的骨折、脊髄圧迫のような神経圧迫症候群、および生命にかかわる高カルシウム血症のような、骨破壊の結果に起因する。たいていの患者において、多発性離散的渙散性病変が、骨髄腫細胞の巣に近接して生じるが、時折、広汎性骨減少症を示す患者は、同時に、中軸および体肢骨格の両方における複数の骨に生じる。
【0047】
従来の治療法の有益な効果はささやかであり、再発は変えられない。その疾患の骨吸収のビスホスホネート阻害剤での特定の処置は、動物モデルにおいて、および骨髄腫患者において、骨溶解性病変を減少させるが、総骨髄腫細胞負荷量を低減せず、さらに、生存期間を延長することは示されなかった。診断後の平均寿命は、3年未満、30年間有意には変化したことがない統計値である(Bataille et al., 1997)。臨床的予後の改善へと至る骨髄腫骨疾患における低下は、腫瘍増殖および進行も制御する作用物質でのみ、最も効果的である可能性が高い。骨髄腫骨疾患に関連した深刻な罹患率のため、および骨髄腫が、現在有効な化学療法または幹細胞移植により治すことができないため、新しい処置ストラテジーが緊急かつ極めて重大な事項である。
【0048】
癌患者の臨床的管理における最近の大きな発展は、抗癌モダリティーとしての26S プロテアソームの標的化であった(Jemel et al., 2003; Parkin et al., 1999)。プロテアソーム機能の阻害は、患者において実質的かつ顕著な抗腫瘍効果をもつ新規な治療的アプローチとして出現した。これは、抗腫瘍剤、PS-341、プロテアソーム機能を可逆的に阻害することにより働くホウ素化されたジペプチドの発見および開発により例証されている(Adams, 2002)。PS-341は、そもそも、腫瘍細胞のパネルに対して細胞毒性であることが示された。その薬物は、インビトロでの骨髄腫細胞増殖および生存の両方の強力な阻害剤である。重要なことには、骨髄腫における治療的モダリティーとして、PS-341および他のプロテアソーム阻害剤の使用に重大かつ未解決の問題がある。
【0049】
PS-341の臨床的使用は、血小板減少症、末梢神経障害、低血圧症、および重篤な症例では、心血管毒性のような多くの副作用を伴った。しかしながら、興味深いことに、20S プロテアソームの特定の触媒性βサブユニットに結合するいくつかの構造的に関連のない阻害剤が、10 nMほどの低い濃度で骨器官培養物において骨形成を刺激したこと(他の低分子について観察されたものよりもずっと強力な効果)が示され、このクラスの化合物は、新しい骨成長の誘因への相乗的効果をもちえたことを示唆している(Garrett et al., 2003)。それゆえに、有害な全身性副作用を低減しながら、これらの化合物の効力を最大にすることが重要である。これは、対象となる部位において薬物の摂取を促進するように、この場合は、骨における病変へ、本発明により実行され得る標的化された薬物送達機構を用いて最良に達成される。
【0050】
C. ナノカプセルの標的化された送達
ナノカプセルによる治療用物質の標的化された送達は、受動的または能動的のいずれかの機構により生じ得る。受動的標的化は、ナノカプセルが、損傷を受けた脈管構造を通して血管外遊出して腫瘍および炎症性組織に蓄積する場合、生じる(Wu et al., 1993)。蓄積は、循環半減期を向上させることにより、およびナノカプセルの血清成分との相互作用を防止することにより増加する。対照的に、能動的標的化は、ナノカプセル結合または会合リガンドと、標的化された部位における相補的結合因子との間の特異的な相互作用を通して達成される。多くは、骨を標的とせず、全身性に投与された場合に狭い治療性-毒性適量を持ち、およびそれらの生物活性を発揮するために標的細胞への密接性を必要とすることから、このアプローチは、生理活性作用物質の改善された効果的な送達の明らかな機会をもつ。
【0051】
リポソームに基づいた標的化アプローチを用いる先行技術は、受容体標的化、細胞接着分子、細胞外基質分子、セレクチンおよび抗体リガンドを含むほんの一握りのうちの1つを用いている(Forssen and Willis, 1998)。Lee and Huang (1995)は、葉酸受容体を過剰発現させる上皮癌細胞への葉酸修飾リポソームからのドキソルビシン摂取において45倍の増加を実証した。Kamps, et al. (1997)は、陰イオン化アルブミンで修飾されたリポソームは肝臓内皮細胞により摂取されるが、ほとんどすべての非修飾リポソームは、注入から30分間、循環したままであったことを実証した。
【0052】
骨は、生理活性作用物質の標的化された送達のためのいくつかの可能性のある部位を提供する。骨は、有機および無機成分を含む複合基質である。基質の有機部分は、コラーゲン、骨タンパク質、水および細胞の混合物からなる(Rho et al., 1998)。基質の無機部分は、主として、ヒドロキシアパタイト(HAp)からなる。骨細胞上かまたは骨タンパク質上のいずれかに位置する特異的な受容体へ生理活性成分を選択的に結合させることは可能であるが、そのような標的化は、十分に特異的ではない可能性がある。類似した受容体が、他の細胞表現型上に存在している場合があり、多くの骨タンパク質は、骨基質の外部に見出され得る。部位特異的標的化は、他の組織に見出される受容体部位と量的に異なる標的化受容体を必要とする。こういう訳で、通常には硬組織にのみ存在するHApが、生理活性作用物質の骨への選択的送達のための1つの魅力的な標的化部位を提供する。
【0053】
1. 標的リガンド
本発明の特定の局面において、骨との親和性を有するリガンドは、ナノカプセルへ連結される。関連した治療効果なしに、例えば、骨基質のHAp部分へのナノカプセルの標的化に用いられ得る、特に2つのリガンドは、メチレンビスホスホネート(MBP)およびアスパラギン酸ペプチド残基である。MBPは、骨リモデリング部位への偏向について周知である。このため、それは、骨病理学の研究において、診断用画像化ツールとしてテクネチウム-99m(99mTc)と組み合わせて広く用いられている(Davis and Jones, 1976; Lantto et al., 1987; Cronhjort et al., 1999)。MBPは、骨指向性薬物送達のための骨基質標的化としてさらに研究された。Fujisaki, et al., (1995および1996)は、様々なモデル物質およびプロドラッグ候補をMBPに結合し、インビボでのそれらの効力を実証した。MBPに結合したエストラジオールは、骨に迅速に取り込まれ、およびその後、エステル結合の酵素的または化学的加水分解のいずれかによりMBPから遊離されることが示された。Uludag, et al. (2000)は、類似した化学作用によるMBPに結合したモデルタンパク質の骨指向性送達を実証した。MBPの化学式は、下記に与えられる:

【0054】
オステオポンチンおよび骨シアロタンパク質のようないくつかの骨非コラーゲン性タンパク質もまた、HApに特異的に結合するアミノ残基配列を含むことが知られている。例えば、Fujisawa, et al.は、6残基のアスパラギン酸オリゴペプチド(Asp6)が、インビボで石灰化基質に優先的に結合することを実証した(Kasugai et al., 2000)。彼らはさらに、この標的リガンドが、インビボでエストラジオールプロドラッグを送達し得ることを示した(Yokogawa et al., 2000)。この標的リガンドの化学式は下記に与えられる:

【0055】
用いられ得るさらにもう一つのリガンドは、1-アミノ-1,1-ジホスホネートメタン(ABP)である。メチレンジホスホネートのアミノ官能性を持たせた類似体は、Uludag, et al. (2000)により修飾されるよう、公開された方法(Kontoci et al., 1996)により合成され得る。いったん合成されれば、ABPの分子構造は、1H、13Cおよび31P NMRにより確認され得る。ABP-リン脂質およびABP-PEG化リン脂質結合体の合成についての技術の説明は、図3に示されている。用いられ得るさらにもう一つのリガンドは、アレンドロン酸である。
【0056】
2. 標的リガンドのナノカプセルへの連結
二官能性架橋試薬は、本発明に関して用いられ得るナノカプセルに標的リガンドを付着させるための一つの手段を示す。二官能性架橋試薬は、アフィニティーマトリックスの調製、種々の構造の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造的研究を含む、様々な目的のために広く用いられており、標的化作用物質をナノカプセルへ連結するために用いられ得る。2つの同一の官能基を有するホモ二官能性試薬は、同一および異なる高分子間、または高分子のサブユニット間の架橋、ならびにポリペプチドリガンドのそれらの特異的結合部位への連結を誘導するのに非常に効率的であることが証明された。ヘテロ二官能性試薬は、2つの異なる官能基を含む。2つの異なる官能基の示差的反応性を利用することにより、架橋は、選択的および逐次的の両方で制御され得る。二官能性架橋試薬は、それらの官能基、例えば、アミノ、スルフヒドリル、グアニジノ、インドール、カルボキシルの特定の基の特異性により分類され得る。これらのうち、遊離アミノ基に向けられる試薬は、それらの商業的入手性、合成の容易さ、およびそれらが適用され得る穏やかな反応条件のために特に普及した。ヘテロ二官能性架橋試薬の大部分は、第1級アミン反応性基およびチオール反応性基を含む。
【0057】
リガンドをナノカプセルに架橋するための例示的方法は、全体として参照により本明細書にそれぞれ明確に組み入れられた、米国特許第5,603,872号および米国特許第5,401,511号に記載されている。様々なリガンドは、アミン残基の架橋を通してナノカプセル表面へ共有結合性に結合され得る。本発明によるナノカプセルにおけるPEG化ホスファチジルエタノールアミン(PE)の含有は、架橋目的として、表面上に活性官能性残基、第1級アミンを供給する。
【0058】
リガンドは、ナノカプセル表面上の別個の部位へ共有結合性に結合され得る。これらの部位の数および表面密度は、ナノカプセルの型により決定される。ナノカプセル表面はまた、非共有結合性会合についての部位を有し得る。リガンドおよびナノカプセルの共有結合性結合体を形成するために、架橋試薬が、有効性および生体適合性について試験された。架橋試薬は、グルタルアルデヒド(GAD)、二官能性オキシラン(OXR)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、および水溶性カルボジイミド、好ましくは、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を含む。架橋の複雑な化学作用を通して、認識している物質およびナノカプセルのアミン残基の結合が確立される。
【0059】
もう一つの例において、ヘテロ二官能性架橋試薬および架橋試薬を用いる方法が記載されている(米国特許第5,889,155号、全体として参照により本明細書に明確に組み入れられている)。架橋試薬は、求核性ヒドラジド残基を求電子性マレイミド残基と結合させ、1つの例において、アルデヒドの遊離チオールへの結合を可能にする。架橋試薬は、様々な官能基を架橋するために修飾され得、それに従って、ポリペプチドおよび糖を架橋するために有用である。表1は、本発明に従って用いられ得る特定のヘテロ二官能性架橋剤の例を列挙する。
【0060】
(表1)ヘテロ二官能性架橋剤


【0061】
表面結合した標的リガンドは、他の粒子成分または表面吸着種により遮蔽され得ることが示された(Allen et al., 1995)。しかしながら、最近の研究は、標的リガンドが、表面結合したスペーサーに繋がれる場合、これらのリガンドの結合部位を捕獲する確率、および部位認識が生じる距離は、繋ぎ鎖の長さが増加するにつれて両方とも増加する(Jeppesen et al., 2001)。
【0062】
II. ナノカプセル
特定の局面において、本発明は、全身骨格に標的とされるミセルナノカプセルを提供する。非常に低い臨界ミセル濃度(CMC)をもつ両親媒性物質からそのようなナノ粒子を形成することにより、生理的状態下で安定であるミセルナノ粒子が作製され得る。骨折を治す、転移性病変を処置する、骨量の減少を防ぐ、骨組織を構築するなどのような生理活性ペイロードは、これらの構造に含まれ得る。本発明に従って疎水性作用物質の送達について特定の恩恵が得られる。
【0063】
本明細書に用いられる場合、用語「ナノ粒子」は、サイズにおいて直径が数ナノメートルから数マイクロメートルまでの範囲である粒子を含む。「ナノカプセル」とは、1つまたは複数の作用物質をカプセル化したナノ粒子を指す。ナノ粒子形成および関連した治療の一つの重要な局面は、小胞安定性およびインビボでの循環半減期における向上を達成し得る出発成分の選択である。特定のPEG化リン脂質結合体は、特定の態様において、ナノ粒子の形成のための使用を見出す。Allen, et al., (1991)を参照されたい。特に、DSPE-PEGは、本発明に関して使用を見出し得る。PEG化されているリン脂質は、卵または大豆のホスファチジルコリン、脳のホスファチジン酸、脳または植物のホスファチジルイノシトール、心臓のカルジオリピン、および植物または細菌のホスファチジルエタノールアミンのような天然源由来であり得るが、その結果生じた粒子の不安定性および漏出性のために、一般的に、好ましくは、主なホスファチドすなわち、全ホスファチド組成物の50%以上を構成するホスファチドとしては、用いられない。特定の態様において、生理活性因子は、例えば、本発明により提供されたナノ粒子の疎水性内部にカプセル化され得る。
【0064】
ミセルナノ粒子は、容器、例えば、ガラスの西洋ナシ型フラスコで、CMCより上の水性環境において、本明細書に記載されているように適切な出発両親媒性物質を混合することにより形成され得る。疎水性生理活性作用物質は、カプセル化を達成するためにミセルナノ粒子形成中に両親媒性物質と混合され得る。その過程中、容器が、ナノ粒子の予想される懸濁液の容量より数倍大きい容量をもつことが有益であり得る。ロータリーエバポレーターを用いて、溶媒は、陰圧下、約40℃で除去され得る。
【0065】
特定の局面において、ナノ粒子組成物は、保存のために乾燥され得る。乾燥した粒子は、フィルムが再懸濁されるまで振盪させることにより、滅菌した発熱物質なしの水において約25〜50 mMで水和され得る。水性粒子は、その後、アリコートへ分割されて、それぞれ、バイアルに配置され、凍結乾燥され、真空下で密封され得る。
【0066】
限定されるわけではないが、ホルモン、薬物などを含む作用物質のようなカプセル化されていない追加の物質は、遠心分離により、またはサイズ排除クロマトグラフィーにより除去され得る。精製されたナノ粒子は、適切な総ミセル濃度で再懸濁され得る。カプセル化された追加の物質または活性作用物質の量は、標準的方法に従って測定され得る。調製物におけるカプセル化された追加の物質または活性作用物質の量の測定後、ナノ粒子は、適切な濃度まで希釈され、使用まで4℃で保存され得る。ナノ粒子を含む薬学的組成物は、通常は、水もしくは食塩水のような、滅菌した薬学的に許容される担体または希釈剤を含む。
【0067】
ナノ粒子のサイズは、合成の方法に依存して変化する。本発明におけるナノ粒子は、様々なサイズであり得る。本発明により、特定の態様において、ナノカプセルが、血管壁を横断するのに十分に小さいことが望ましい。そのようなナノカプセルは、一般的に、外径が約90 nm、約80 nm、約70 nm、約60 nm、または約50 nm未満を含む、約100 nm以下のサイズをもつ。そのようなナノカプセルの調製において、本明細書に記載された、または当業者に公知であると思われるような、任意のプロトコールが用いられ得る。
【0068】
水溶液に懸濁されたミセルナノ粒子は、一般的に、親水性部分が水相と接触したままである傾向にあり、かつ疎水性領域が中心において自己会合する傾向にあるように配置された表面を有する球形小胞の形態である。1つより多いミセルナノカプセルの親水性および疎水性部分がお互いに会合する場合、凝集体が形成され得る。これらの凝集体のサイズおよび形態は、溶媒の性質および溶液中の他の化合物の存在のような、多くの異なる変化するものに依存する。
【0069】
ミセルナノカプセルの作製は、例えば、PEG化リン脂質のような出発両親媒性物質の超音波処理により達成され得る。一つの局面において、ナノカプセルを調製するための企図された方法は、加熱、超音波処理、および減少する細孔サイズのフィルターまたは膜を通しての逐次押し出しであり、それにより、結果として、小さな安定したナノ粒子の形成を生じる。超音波処理された粒子の調製のための器械類の最も一般的な部品は、浴槽およびプローブチップソニケーターである。カップ-ホーンソニケーターもまた用いられ得る。プローブチップソニケーターは、懸濁液へ高エネルギー入力を発するが、分解を引き起こす過熱を被り得る。超音波処理はまた、使用の前に遠心分離により除去されなければならない脂質懸濁液へチタン粒子を放出する傾向にある。こういう訳で、浴槽ソニケーターが好ましくあり得る。
【0070】
溶液の超音波処理は、浴槽ソニケーターに試料を含む試験管を置き(または試験管内にソニケーターのチップを置く)、5〜10分間、超音波処理することにより達成され得る。平均サイズおよび分布は、組成および濃度、温度、超音波処理時間および力、容量、ならびにソニケーターチューニングにより影響を及ぼされる。超音波処理の条件を再現することはほとんど不可能であるため、異なる時間に生成されるバッチ間のサイズ変化は珍しいことではない。
【0071】
押し出しもまた、粒子を一定のサイズに作製するために用いられ得る。押し出しは、用いられたフィルターの細孔サイズに近い直径をもつ粒子を生じるように、確定した細孔サイズをもつポリカーボネートフィルターを通して懸濁液が押し出される技術である。最終の細孔サイズを通しての押し出しの前に、懸濁液は、数回の凍結-融解サイクルによるか、または懸濁液をより大きい細孔サイズ(典型的には、0.2 μm〜1.0 μm)に通してプレ濾過することによるかのいずれかで分裂され得る。この方法は、膜が詰まるのを防ぐのに役立ち、最終懸濁液のサイズ分布の均一性を向上させる。粒子ばらつきを縮小するためのすべての手順と同様に、押し出しは、一般的に、用いられる任意の脂質のTcより上の温度で実施される。Tcより下で押し出そうとする試みは、細孔を通過できない硬い膜で詰まらせ得る。100 nm 細孔をもつフィルターを通しての押し出しは、典型的には、120〜140 nmの平均粒子直径を生じる。
【0072】
いったん製造されたならば、ナノ粒子は、本明細書に記載されているように、骨への標的化としてカプセル化された生理活性因子を送達するために用いられ得る。ナノ粒子は、少なくとも以下の4つの異なる機構により、細胞と相互作用して、作用物質を送達することができる:マクロファージおよび/または好中球のような細網内皮系の食作用性細胞によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水性力および/もしくは静電力によるか、および/または細胞表面成分との特異的な相互作用によるかのいずれかでの細胞表面への吸着;細胞質への内容物の同時放出を伴う、原形質膜へのナノ粒子の表面の挿入による形質細胞膜との融合;ならびに/または、ナノ粒子脂質の、細胞および/もしくは細胞下の膜への移動による、および/もしくは逆に、ナノ粒子内容のいずれの会合を伴わない。ナノ粒子製剤を変えることは、どの機構が働いているかを変化させることができるが、複数の機構が同時に働き得る。
【0073】
B. ナノカプセルペイロードの徐放または誘発型放出
本発明の特定の態様において、徐放(sustained release)、誘発型放出、または徐放(timed release)のために設計されたナノカプセルの使用が企図される。例えば、ナノカプセルは、例えば骨により放出される所定のシグナルと接触することで生理活性因子のペイロードを放出するように設計され得る。このようにして、ナノカプセルペイロードは、骨へ標的とされるだけでなく、所定の生理活性因子での処置を必要としている骨へ送達される。そのようなシグナルは、内因性であり得るか、または外部から投与され得る。外部シグナルは、例えば、化学的シグナルまたは物理的シグナルを用いることにより、ナノカプセルペイロードの放出を引き起こすために用いられ得る。物理的シグナルの例は、超音波または熱の投与を含む。この様式において、シグナルは、生理活性因子での処置が必要とされる部位のみに投与され得、必要とされる部位への因子の送達を最大にし、かつ身体の他の部分への曝露を最小にする。徐放性ナノカプセル製剤もまた用いられ得る。この様式において、ナノカプセルの継続的投与の必要性なしに、ゆっくり時間をかけて生理活性因子の治療レベルを維持することにより、処置の効力は最大にされ得る。
【0074】
ナノカプセルの時間的パルス放出もまた、特に企図される。これは、例えば、異なる遅延性放出特性をもつナノカプセルのいくつかの型の投与により達成され得る。そのような時間的パルス技術は、徐放性製剤で得られるものを超える利益を生じ得る。例えば、骨基質発生活性の増加が、生理活性因子への持続性曝露を受けた系と対照的に、生理活性因子への間欠的曝露を受けた系において観察される。この基質発生の増加は、部位における生理活性因子のスパイクされた投与により誘発された天然の基質発生カスケードの制約されていない完了による可能性がある。また、徐放は、骨因子濃度におけるスパイクされた上昇に対して誘発された応答を抑制する生理的順応を引き起こし得る。
【0075】
C. キット
本発明に従って調製されたナノカプセルは、キットに含まれ得る。非限定的例において、骨に標的とされ、かつ1つまたは複数の生理活性因子を含むペイロードを含むナノカプセルがキットに含まれ得る。キットは、従って、適切な容器手段に本発明のナノカプセルを含む。
【0076】
キットは、適切に等分された製剤においてナノカプセルを含み得る。キットの成分は、水性媒体中に、凍結乾燥された形態で、包装され得る。キットの容器手段は、一般的に、成分が置かれ得る、および好ましくは、適切に等分され得る、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、注射器または他の容器手段を含む。キットに複数の成分がある場合、キットはまた、一般的に、追加の成分が別々に置かれ得る第二、第三または他の追加の容器を含む。しかしながら、成分の様々な組み合わせがバイアルに含まれてもよい。本発明のキットはまた、典型的には、委託販売のための厳重な監禁において、ナノカプセルおよびいずれの他の試薬容器も含むための手段を含む。そのような容器は、所望のバイアルが保持される射出成形または中空成形プラスチック容器を含み得る。
【0077】
本発明の治療用キットは、骨に標的とされる生理活性因子含有ナノカプセルの送達のための薬学的組成物を含み得る。そのようなキットは、一般的に、適切な容器手段に、ナノカプセルの薬学的に許容される製剤を含む。キットは、単一の容器手段を有し得、および/またはそれは、各化合物について別個の容器手段を有し得る。
【0078】
キットの成分が1つおよび/または複数の液体溶液中で供給される場合、液体溶液は、水溶液であり、滅菌した水溶液が特に好ましい。ナノカプセル組成物はまた、注射可能組成物へ製剤化され得る。その場合、容器手段は、製剤が動物へ注射され得る、および/もしくは塗布までもされ得る、および/もしくはキットの他の成分と混合され得る、それ自身、注射器、ピペット、ならびに/または他のそのような装置であり得る。
【0079】
しかしながら、キットの成分は、乾燥粉末として供給されてもよい。試薬および/または成分が乾燥粉末として供給される場合、粉末は、適切な溶媒の添加により元に戻され得る。溶媒はまた別の容器手段で供給され得ることが構想される。
【0080】
容器の数および/または型に関係なく、本発明のキットはまた、動物の身体内への最終的なナノカプセル含有組成物の注射/投与および/もしくは留置の手助けをする道具を含み得る、ならびに/または、それらと包装され得る。そのような道具は、注射器、ピペット、鉗子、および/または任意のそのような医学的に認可された送達媒体であり得る。
【0081】
III. 薬学的組成物
本発明の特定の局面において、薬学的組成物は、それを必要としている患者または対象へ生理活性因子を含むナノカプセルを送達するために提供される。本発明の薬学的組成物は、従って、薬学的に許容される担体に溶解または分散された任意の他の望ましい成分に加えて、ナノカプセルに含まれた1つまたは複数の生理活性因子の有効量を含む。
【0082】
「有効量」とは、患者または対象において関係した骨関連状態もしくは疾患を治療または予防するのに十分である生理活性もしくは治療用化合物、作用物質または因子の量である。従って、「有効量」とは、未処置の対象と比較して、少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、よりいっそう好ましくは少なくとも約60%、およびさらにより好ましくは少なくとも約80%、感染した患者において状態の症状の量を好ましく低減させるものである。例えば、化合物の効力は、実施例に記載されたものか、または当業者に公知のもののいずれかのモデル系といった、ヒトにおいて疾患を治療する際に効力を予測し得る動物モデル系において評価され得る。
【0083】
語句「薬学的または薬理学的に許容される」とは、必要に応じて、例えばヒトのような動物に投与される場合、有害な、アレルギー性または他の都合の悪い反応を生じない分子的実体および組成物を指す。用語「生理活性因子」は、本発明に従って対象へ投与された場合、所望の治療効果を与える能力がある、固相、液相、または気相に関わらず、化学的実体を指すことを意図される。用語「生理活性因子」は、合成化合物、天然産物、およびポリペプチド、ポリヌクレオチドまたは脂質のような高分子的実体、ならびにまた、神経伝達物質、リガンド、ホルモンまたは元素化合物のような小さな実体を含む。その用語はまた、未精製の混合物においてでも、精製かつ単離されていても、そのような化合物を含む。
【0084】
少なくとも1つのナノカプセルまたは他の成分を含む薬学的組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられた、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990に例示されているが、本発明の開示に照らせば、当業者に公知であると思われる。さらに、動物(例えば、ヒト)投与について、調製物は、FDA Office of Biological Standardsにより要求されるとおり、滅菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たすべきであることは理解されているものと思われる。
【0085】
本明細書に用いられる場合、「薬学的に許容される担体」は、当業者に公知であると思われるが、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、被覆剤、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤(例えば、抗細菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、防腐剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香料添加剤、色素、同種類の物質、およびそれらの組み合わせを含む(例えば、参照により本明細書に組み入れられた、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照されたい)。任意の通常の担体が生理活性因子のナノカプセルと適合しない範囲を除いて、治療的または薬学的組成物におけるその使用が企図される。
【0086】
ナノカプセル含有薬学的組成物は、それが、固体か、液体か、またはエアゾールのいずれの形態で投与されるか、およびそれが注射のような投与経路について滅菌される必要があるかどうかに依存して、担体の異なる型に含まれ得る。ナノカプセルは、当業者に公知であると思われるが、可能性的には、静脈内に、皮内に、動脈内に、腹腔内に、病変内に、頭蓋内に、関節内に、前立腺内に、胸膜腔内に、気管内に、鼻腔内に、硝子体内に、腟内に、直腸内に、局所的に(topically)、腫瘍内に、筋肉内に、腹腔内に、皮下に、結膜下に、膀胱内に、粘膜に、心膜内に、臍内に、眼球内に、経口的に、局所的に(topically)、局所的に(locally)、吸入(例えば、エアゾール吸入)、注射、注入、持続注入、標的細胞を直接的に浴する局所的灌流、カテーテルを通して、洗浄を通して、クリームにおいて、脂質組成物において、または他の方法もしくは前記の任意の組み合わせにより、投与され得る(例えば、参照により本明細書に組み入れられた、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990を参照されたい)。本発明の特定の局面において、特に、非侵襲性投与技術が有利に用いられ得、例えば、鼻腔内投与である。
【0087】
患者に投与される本発明の薬学的組成物の実際の用量は、体重、状態の重症度、処置されることになっている疾患の型、以前または同時の治療的介入、患者の特発症のような物理的および生理的因子により、および投与経路において、決定され得る。この量はまた、ナノカプセルについて用いられる標的化作用物質に基づいて調整され得る。本発明の一つの進歩は、標的化が、非標的型処置を用いる場合に必要とされるものよりも少ない用量の使用を可能にすることである。
【0088】
投与に関して責任がある医師は、とにかく、組成物における生理活性因子およびナノカプセルの濃度ならびに個々の対象についての適切な用量を決定する。特定の態様において、薬学的組成物は、例えば、活性化合物の少なくとも約0.1%の全体的濃度を含み得、例えば、約0.1%〜約75%、0.1%〜約50%、0.1%〜約25%、0.1%〜約10%、0.1%〜約5%、0.1%〜約3%、0.1%〜約1%、1%〜約10%、および約5%〜約15%を含む。
【0089】
他の非限定的実施例において、用量はまた、ナノカプセル担体において、1回投与あたり、約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重、および約1000 mg/kg/体重またはそれ以上、ならびにそれらの中に導き出せる任意の範囲を含み得る。本明細書に列挙された数から導き出せる範囲の非限定的例において、約5 mg/kg/体重〜約100 mg/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重〜約500ミリグラム/kg/体重などの範囲が、上記の数に基づいて、ナノカプセルペイロードにおいて投与され得る。
【0090】
ナノカプセルに加えて、組成物は、1つまたは複数の成分の酸化を遅らせ得る様々な酸化防止剤を含み得る。さらに、微生物の活動の防止は、限定されるわけではないが、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはそれらの組み合わせを含む、様々な抗細菌剤および抗真菌剤のような防腐剤によりもたらされ得る。
【0091】
用いられる生理活性因子は、遊離塩基、中性または塩の形態で組成物へ製剤化され得る。薬学的に許容される塩は、酸付加塩、例えば、タンパク性組成物の遊離アミノ基で形成されたもの、または、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、蓚酸、酒石酸もしくはマンデル酸のような有機酸で形成されるものを含む。遊離カルボキシル基で形成された塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄のような無機塩基;またはイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカインのような有機塩基から誘導され得る。
【0092】
ナノカプセル組成物が液体の形態をとっている場合の態様において、担体は、限定されるわけではないが、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、脂質(例えば、トリグリセリド、植物油、リポソーム)およびそれらの組み合わせを含む、溶媒または分散媒であり得る。そのような担体は、患者への送達の前にナノカプセルを崩壊させないことが必要である。組成物の適切な流動性は、例えば、レクチンのような被覆剤の使用により;例えば、液体ポリオールまたは脂質のような担体における分散により必要とされる粒子サイズの維持により;例えば、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤の使用により;またはそのような方法の組み合わせで維持され得る。場合によっては、例えば、糖、塩化ナトリウムまたはそれらの組み合わせのような等張剤を含むことが好ましい。
【0093】
本発明の他の態様において、本発明で点眼液、点鼻液または鼻噴霧、エアゾールまたは吸入剤を用い得る。そのような組成物は、一般的に、標的組織の型と適合するように設計される。非限定的例において、点鼻液は、通常、滴剤または噴霧で鼻孔へ投与されるように設計された水溶液である。点鼻液は、それらが鼻汁と多くの点で類似しているように、正常な絨毛作用が維持されるように調製される。従って、好ましい態様において、水性点鼻液は、通常、等張性であるか、または約5.5〜約6.5のpHを維持するように少し緩衝化されている。さらに、点眼薬、薬物に用いられるものと類似した抗菌性保存料、または適切な薬物安定剤が、必要に応じて製剤に含まれ得る。例えば、様々な市販の鼻用調製物が知られており、抗生物質または抗ヒスタミンのような薬物を含む。
【0094】
特定の態様において、ナノカプセルは、経口摂取のような経路による投与のために調製される。これらの態様において、固体組成物は、例えば、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸薬、カプセル(例えば、殻の硬いまたは軟らかいゼラチンカプセル)、徐放製剤、バッカル組成物、トローチ、エリキシル、懸濁液、シロップ、カシェ剤、またはそれらの組み合わせを含み得る。経口組成物は、食餌療法の食物と直接的に組み合わせられ得る。経口投与のために好ましい担体は、不活性の希釈剤、同化できる食用担体、またはそれらの組み合わせを含む。本発明の他の局面において、経口組成物は、シロップまたはエリキシルとして調製され得る。シロップまたはエリキシルは、例えば、少なくとも1つの活性作用物質、甘味剤、防腐剤、香料添加剤、色素、防腐剤、またはそれらの組み合わせを含み得る。
【0095】
特定のさらなる態様において、経口組成物は、1つまたは複数の結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、香料添加剤、およびそれらの組み合わせを含み得る。そのような組成物は、例えば、以下の1つまたは複数を含み得る:例えば、トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチンまたはそれらの組み合わせのような結合剤;例えば、リン酸二カルシウム、マンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、またはそれらの組み合わせのような賦形剤;例えば、コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸、またはそれらの組み合わせのような崩壊剤;例えば、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;例えば、ショ糖、乳糖、サッカリン、またはそれらの組み合わせのような甘味剤;例えば、ペパーミント、冬緑油、サクラの香料、オレンジ香料などのような香料添加剤;または前記の組み合わせ。用量単位形態がカプセルである場合、それは、上の型の物質に加えて、液体担体のような担体を含み得る。様々な他の物質は、被覆として、またはそうでなければ用量単位の物理的形態を改変するために存在し得る。例えば、錠剤、丸薬、またはカプセルは、セラック、糖または両方で被覆され得る。
【0096】
投与の他の様式に適している追加の製剤は、坐剤を含む。坐剤は、様々な重さおよび形態の固体剤形態であり、通常、直腸、膣または尿道への挿入として投薬される。挿入後、坐剤は、柔らかになり、腔液に溶解する。一般的に、坐剤について、伝統的な担体は、例えば、ポリアルキレングリコール、トリグリセリドまたはそれらの組み合わせを含み得る。特定の態様において、坐剤は、例えば、約0.5%〜約10%、および好ましくは約1%〜約2%の範囲で活性成分を含む混合物から形成され得る。
【0097】
滅菌した注射溶液は、生理活性因子を、例えば、ナノカプセルに、必要に応じて、上で列挙された様々な他の成分と共に、適切な溶媒中に必要とされる量で組み込み、続いて濾過滅菌を行うことにより調製される。一般的に、分散体は、様々な滅菌された活性成分を、基本的な分散媒質および/または他の成分を含む滅菌した媒体へ組み込むことにより調製される。滅菌した注射溶液、懸濁液または乳濁液の調製のための滅菌した粉末の場合、調製の好ましい方法は、活性成分と、以前に滅菌濾過された液状媒質からの任意の追加の望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥または凍結乾燥技術である。液状媒質は、必要ならば、適切に緩衝化され、液体希釈剤は、まず、十分な生理的食塩水またはブドウ糖の注入の前に等張にされるべきである。直接的注入のための高濃縮の組成物の調製も企図され、溶媒としてDMSOの使用が、結果として極めて迅速な浸透を生じ、小さな領域へ高濃度の活性作用物質を送達することが構想される。
【0098】
組成物は、製造および保存の条件下で安定しており、かつ細菌および真菌のような微生物の汚染活動から保護されなければならない。内毒素汚染は、安全レベル、例えば、0.5 ng/mgタンパク質未満、で最小限に保たれるべきであることは認識されているものと思われる。
【0099】
特定の態様において、注射用組成物の持続性吸収は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンまたはそれらの組み合わせのような吸収を遅らせる作用物質の組成物における使用によりもたらされ得る。
【0100】
IV. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含まれる。後に続く実施例に開示された技術は、本発明の実施において十分に機能し得る本発明者らにより発見された技術を示しており、従って、それの実施についての好ましい様式を構成するとみなされ得ることは、当業者により認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らせば、開示されている特定の態様において多くの変化がなされ得、かつなお、本発明の真意および範囲から逸脱することなく同様のまたは類似した結果を得ることができることを認識するべきである。
【0101】
実施例1
標的リガンド合成およびリン脂質への結合
MBPのアミノの官能性をもたせた類似体は、公知の方法(Uludag et al., Biotechnol. Prog., 16, 258-267 (2000))により合成され、クロマトグラフィーにより精製された。アスパラギン酸の6マーのオリゴマー(Asp6)は、カスタム合成された(New England Peptide, Inc.)。両方のリガンドのN末端を、2-イミノチオラン(2-IT)でチオールへ変換させ、生成物を、その後、マレイミドの官能性をもたせたジステアロイルホスホチジルエタノールアミン-N-メトキシポリエチレングリコール-2000(DSPE-PEG2000-M, Northern Lipids)へ結合させた。結合体構造は、MALDI-TOF/MSにより分析された(図6)。純DSPE-PEG2000-MについてのMALDIスペクトルは、それが約3010の質量中央値をもつことを示した。この官能性をもたせた脂質のチオール化MBPリガンド(FW=280.2)への結合は、それに応じて、質量中央値をシフトし、約3305の質量中央値をもつ結合体を生じた。Asp6リガンドの同じ脂質への結合は、同様に確認された。
【0102】
実施例2
リガンド-リン脂質結合体のインビトロの標的化
2つのリガンド、a-MBPおよびAsp4、を別々に、それらのN末端を通してフルオレセインイソチオシアネート(FITC)に結合させた。リガンドを、HEPES緩衝液および2xモル過剰で添加されたFITCに、それぞれ、溶解した。反応は24時間、行われ、その後、生成物を未反応の成分を除去するために透析した。表1は、標識されたリガンド吸着の程度を試験するために用いられた4つの異なるヒドロキシアパタイト粉末の性質を列挙している。走査電子顕微鏡写真は、粉末のそれぞれについて作成された。粉末をリン酸緩衝液で洗浄し、使用の前に乾燥させた。フルオレセイン標識リガンドを、HAp粉末の様々な量と混合して、0〜100 nmolのリガンド/ mgのHAp基質を含む分散体を生じた。分散体を室温で24時間、インキュベートし、遠心分離し、微粒子を含まない液体を収集し、510 nmでのUV-VisによりFITC含有量を分析した。HEPES緩衝液における結合していないFITCは、対照として用いられた。
【0103】
(表1)標的化試験に用いられたヒドロキシアパタイト粉末

【0104】
図7は、FITC標識リガンドの様々なHAp基質上への表面積正規化吸着を示している。純FITCの各基質への吸着は微々たるものであった。リガンドのHA-1上への吸着は、他の基質と比較してわずかであった。リガンド吸着は、基質の有効表面積と共に、および系に投入されたリガンドの量の増加に伴って、増加した。両方のリガンドは、HAp基質へ類似した親和性を有するようにみえる。これらの曲線は、Asp4リガンドがMBPリガンドよりわずかに良く吸着することを示唆している。
【0105】
実施例3
骨標的化リポソームの調製
リポソームは、それぞれ、モル比1:1:0.04:0.05でのジステアロイル-ホスファチジルコリン、コレステロール、α-トコフェロールおよびDSPE-PEG2000から、凍結乾燥された脂質フィルムの水和、続いてナノ多孔性フィルターを通してのサイジングおよび精製により調製された(www.avantilipids.com; Mayer et al., 1986)。粒子サイズおよび分布は、最終のリポソームの標的粒子サイズを確認するために分析された(N4 Plus, Beckman-Coulter)。
【0106】
リガンド-リン脂質結合体は、ポスト挿入の方法(Uster et al., 1996)を用いて実行されるリポソームへ挿入された。簡単には、リガンド-リン脂質結合体のミセルを、分散体を得るようにHEPES緩衝液において多量の物質を超音波処理することにより調製した。ミセルを、実行されるリポソームと60℃で約1時間、インキュベートし、その後、リポソームをサイズ排除クロマトグラフィーにより分離した。改変されたリポソームのリガンド含有量は、リガンドを99mTcと複合体を形成し、液体シンチレーション計測を行うことにより測定された。
【0107】
実施例4
骨標的化リポソームのヒドロキシアパタイトへのインビトロの標的化
骨標的化リポソームは、実施例2に記載されているように調製された。MBPリガンドを含むリポソームのみがこの実施例において試験された。リポソームをウェルへ投入し、ヒドロキシアパタイト分散体を添加して、ヒドロキシアパタイトの単位あたりリガンドの既知量を含む懸濁液を作製した。懸濁液を、撹拌しながら、37℃で1時間、インキュベートし、その後、ウェルに既知量の99mTcを投入して、遊離リガンドをキレート化した。ウェルを30分間、インキュベートし、ウェル内容物を取り出し、遠心分離し、液体および固体画分へ分離し、その後、それぞれ、ガンマ計数にかけた。
【0108】
図8は、MBPリガンド含有リポソームのHAp基質上への相対的吸着を示す。MBPリガンドを含まないリポソームは、基質を標的しなかった。リポソーム標的化の程度は、有効表面積と共に増加した。しかしながら、有効表面積による吸着データの正規化は、単一曲線を生じなかった。これは、おそらく、基質粉末のサイズに対するリポソームのサイズ、および隣接した粒子間を侵入するそれらの能力によると思われた。
【0109】
実施例5
骨標的化ミセルの調製
MBP-リン脂質結合体のミセルは、相分離技術により調製された。簡単には、脂質を、少量のクロロホルムに溶解し、溶液をHEPES緩衝液に乳化した。乳濁液を60℃で超音波処理し、透明、無色の液体を生じた。メチレンビスホスホネート-リン脂質結合体ミセルの粒子サイズ分布は、ミセルの典型である、21.4±5.6 nmの平均値を与えた。測定されたミセルサイズは、約30 nmの予測された粒子サイズと十分一致していた。
【0110】
実施例6
骨標的化ミセルにおけるロバスタチンのカプセル化
ロバスタチンを、相分離技術を用いて、約1:1〜1:50のモル:モルのロバスタチン:脂質の範囲に渡る比でMBP-脂質結合体ミセル中にカプセル化した。すべての調製物は、最初は、透明無色の溶液を生じ、脂質によるロバスタチンの完全溶解を示した。しかしながら、時間が経てば、通常、約24時間内に、針状晶が流体の表面上に観察された。その結晶の、HEPES緩衝液におけるクロロホルムから結晶化されたロバスタチンとの比較により、それらがロバスタチンであることが示唆された。結晶は、HPLC分析によりロバスタチンであることが確認された。図9は、HPLCで測定された場合のミセル溶液のロバスタチン含有量を示している。データは、ロバスタチンが、シミュレーションから予測された溶解度値と非常によく一致して、約0.03 μg/μgの脂質まで(〜1:5のモル:モルのロバスタチン:脂質)、ミセルにおいて安定していたことを示している。しかしながら、溶液を寝かせた場合には、安定したロバスタチンの量が、すべての組成物に渡ってわずかに増加した。寝かされた組成物の粒子サイズ分析は、ミセル粒子サイズの増加を示し、ロバスタチン含有量の増加が粒子サイズの増加に付随していることを示唆した。
【0111】
本明細書に開示および主張された組成物および方法のすべては、本開示に照らせば、過度の実験なしに作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して記載されているが、変化が、本発明の概念、真意および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された組成物および方法に、かつ方法の段階においてまたは一連の段階において、適用され得ることは、当業者に明らかであると思われる。より具体的には、化学的および生理学的の両方に関連している特定の作用物質が、本明細書に記載された作用物質と置き換えられる場合にも、同じまたは類似した結果が達成されるであろうことは、明らかであると思われる。当業者にとって明らかなすべてのそのような類似した置換および改変は、添付された特許請求の範囲により定義された本発明の真意、範囲および概念内にあると考えられる。
【0112】
参照文献
以下の参照文献は、本明細書に示されたものに補足的な例示的手順または他の詳細を提供する程度であるが、参照により本明細書に明確に組み入れられている。


【図面の簡単な説明】
【0113】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに実証するために含まれる。本発明は、本明細書に提示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の1つまたは複数への参照によりより良く理解され得る。
【図1】図1Aは標的化ナノカプセルは、適切な手段により系に導入されることを示す。ナノカプセルは、治療用ペイロードを包囲する、含む、または安定させる膜を含む。ナノカプセル膜は、骨に位置した標的とされる部位に選択的に結合する標的リガンドで覆われている。図1Bは標的化ナノカプセルは、標的リガンドを介して骨基質のヒドロキシアパタイト成分に選択的に結合することを示す。図1Cは治療用ペイロードが、標的部位付着後放出されることを示す。
【図2】年代:1900〜2050による、年齢群65+歳および85+歳についての高齢者人口(出典:US Department of Health and Human Services, Administration on Aging)を示す。
【図3】標的リガンドをリン脂質またはPEG化リン脂質に付着させるための合成経路を示す。
【図4】図4Aは減少する押し出し細孔サイズでリポソーム粒子サイズの進化を示す。リポソームは、2 μm細孔を通して2回、0.4 μm細孔を通して4回、および0.1 μm細孔を通して8回、押し出された。図4Bは典型的最終リポソーム粒子サイズ分布トレースを示す。リポソームサイズは、112.1 nm±μ23.8 nmである。
【図5】MBPをリン脂質に付着させるためのリン脂質結合ストラテジーの例を示す。このストラテジーは、Asp6オリゴペプチドについてと同じであり、結合は、N末端を通してなされる。
【図6】リガンド-リン脂質結合体のマトリックス支援レーザーイオン化飛行時間/質量分析スペクトルを示す。リガンドは、メチレンビスホスホネートであり、280の分子量をもつ。リン脂質は、ジステアロイルホスホチジルエタノールアミン-N-メトキシポリエチレングリコール-2000であり、3037の報告された分子量をもつ(MALDI TOF/MSにより3010と測定される)。結合体は、3318の質量中央値をもつ(理論上の質量は3331である)。
【図7】系に投入された標識リガンドの量の関数としてのFITC標識リガンドの様々なヒドロキシアパタイト基質上への表面積正規化吸着を示す。アスパラギン酸オリゴマーは、メチレンビスホスホネートリガンドよりHAp表面へわずかに良く吸着する。
【図8】メチレンビスホスホネート含有リポソームの様々なヒドロキシアパタイト基質上への絶対的吸着を示す。HA1基質は、HA2基質より高い表面積を有する。HA2基質は、すぐに飽和されるが、HA1は、標的化ナノカプセルを吸着し続ける。
【図9】メチレンビスホスホネートに基づいたリガンド-リン脂質結合体から調製されたミセルにおけるロバスタチンの分布を示す。メセルは、遊離薬物が系から沈殿する前に、約0.03 μgのロバスタチン/1 μgの脂質までカプセル化する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一の疎水性生理活性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルであって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含む、ナノカプセル。
【請求項2】
ミセルナノカプセルとして定義される、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項3】
リガンドが全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有する、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項4】
リガンドが以下の構造を含むビスホスホネートである、請求項1記載のナノカプセル:

式中、R1はH、OHまたはClであり、R2は、ナノカプセル表面に結合されるアルキルアミンまたは他のヘテロ二官能性リンカーである。
【請求項5】
リガンドがアミノメチレンビスホスホネート(aMBP)である、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項6】
リガンドがタンパク質、ペプチド、オリゴペプチドまたは抗体である、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項7】
タンパク質またはペプチドが、配列Aspnを含むオリゴペプチドを含む、請求項5記載のナノカプセル。
【請求項8】
n=6である、請求項6記載のナノカプセル。
【請求項9】
タンパク質またはペプチドが、オステオポンチンもしくは骨シアロタンパク質の配列またはそれらの断片を含む、請求項5記載のナノカプセル。
【請求項10】
ナノカプセルが1 nmから200 nmまでの直径をもつ、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項11】
ナノカプセルが約50 nmから約100 nmまでの直径をもつ、請求項9記載のナノカプセル。
【請求項12】
ナノカプセルが約100 nmから約150 nmまでの直径をもつ、請求項9記載のナノカプセル。
【請求項13】
ナノカプセルが約150 nmから約200 nmまでの直径をもつ、請求項9記載のナノカプセル。
【請求項14】
第一標的リガンドが表面に共有結合性に結合している、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項15】
生理活性因子が骨指向性作用物質である、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項16】
生理活性因子がタンパク同化性作用物質である、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項17】
両親媒性表面がブロック重合体を含む、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項18】
両親媒性表面がポリエチレングリコール修飾リン脂質を含む、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項19】
両親媒性表面がジステアリオールホスホエタノールアミン-N-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)を含む、請求項17記載のナノカプセル。
【請求項20】
両親媒性表面が、約1 μmと約20 μmの間の臨界ミセル濃度を有する物質を含む、請求項1記載のナノカプセル。
【請求項21】
以下の段階を含む、それを必要としている患者の全身骨格の成分へ生理活性因子を送達する方法:
(a)少なくとも第一の疎水性生理活性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルを得る段階であって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含む、段階;および
(b)組成物を患者へ投与する段階。
【請求項22】
ナノカプセルがミセルナノカプセルである、請求項20記載の方法。
【請求項23】
リガンドが全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有する、請求項20記載の方法。
【請求項24】
リガンドがアミノメチレンビスホスホネート(aMBP)である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
リガンドが以下の分子式を有するオリゴペプチドを含む、請求項20記載の方法:

【請求項26】
組成物が薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項27】
ナノカプセルが全身骨格から放出されたシグナルと接触することで、生理活性因子がナノカプセルから放出される、請求項20記載の方法。
【請求項28】
ナノカプセルが様々な時間的放出特性を含む、請求項20記載の方法。
【請求項29】
ナノカプセルが、直径約1 nmから約200 nmまでである、請求項20記載の方法。
【請求項30】
ナノカプセルが約50 nmから約100 nmまでの平均直径を含む、請求項20記載の方法。
【請求項31】
ナノカプセルが約100 nmから約150 nmまでの平均直径を含む、請求項20記載の方法。
【請求項32】
ナノカプセルが約150 nmから約200 nmまでの平均直径を含む、請求項20記載の方法。
【請求項33】
第一標的リガンドが表面に共有結合性に結合している、請求項20記載の方法。
【請求項34】
生理活性因子が、スタチン、プロテアソーム阻害剤および抗骨粗鬆症のアルキロイドからなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項35】
生理活性因子が骨指向性作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項36】
生理活性因子がホルモン活性がある、請求項20記載の方法。
【請求項37】
生理活性因子がタンパク同化性作用物質である、請求項20記載の方法。
【請求項38】
両親媒性表面がブロック重合体を含む、請求項20記載の方法。
【請求項39】
両親媒性表面がポリエチレングリコール修飾リン脂質を含む、請求項20記載の方法。
【請求項40】
両親媒性表面がジステアリオールホスホエタノールアミン-N-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)を含む、請求項20記載の方法。
【請求項41】
両親媒性表面が、約1 μmと約20 μmの間の臨界ミセル濃度を有する物質を含む、請求項20記載の方法。
【請求項42】
組成物が、局所的に(locally)、全身性に、静脈内に、動脈内に、局所的に(topically)、または経口的に投与される、請求項20記載の方法。
【請求項43】
以下の段階を含む、それを必要としている対象において骨量の減少を防ぐ方法:
(a)少なくとも第一の疎水性骨指向性因子をカプセル化した両親媒性表面を含むナノカプセルを得る段階であって、表面が、全身骨格の成分に対する親和性を有する少なくとも第一のリガンドを含む、段階;および
(b)組成物を患者へ投与する段階。
【請求項44】
ナノカプセルがミセルナノカプセルである、請求項42記載の方法。
【請求項45】
リガンドが全身骨格におけるヒドロキシアパタイトに対する親和性を有する、請求項42記載の方法。
【請求項46】
ナノカプセルが全身骨格から放出されたシグナルと接触することで、骨指向性因子がナノカプセルから放出される、請求項42記載の方法。
【請求項47】
ナノカプセルが様々な放出特性を含む、請求項42記載の方法。
【請求項48】
リガンドがアミノメチレンビスホスホネート(aMBP)である、請求項42記載の方法。
【請求項49】
リガンドが以下の分子式を有するオリゴペプチドである、請求項42記載の方法:

【請求項50】
組成物が薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項42記載の方法。
【請求項51】
組成物が、局所的に(locally)、鼻腔内に、全身性に、静脈内に、動脈内に、局所的に(topically)、または経口的に投与される、請求項42記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−502833(P2007−502833A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524042(P2006−524042)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【国際出願番号】PCT/US2004/026943
【国際公開番号】WO2005/020965
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(501294021)サウスウエスト・リサーチ・インスティチュート (3)
【Fターム(参考)】