説明

骨構造をキャラクタライズするための拡散型磁気共鳴法の手順

【課題】核磁気共鳴法(NMR)及び磁気共鳴画像法(MRI)を用いた骨梁強度を測定するための方法を提供する。
【解決手段】インビトロまたはインビボの核磁気共鳴及び/または磁気共鳴画像により骨試料内部の分子拡散の効果を測定することによって骨梁の構造に関するパラメータを導出する。分子拡散の効果を測定にはDDIF(Decay from diffusion inthe internal field(内部磁場中での拡散による減衰))および/またはパルス磁場勾配(PFG)法を利用する。本手順は、骨梁骨の構造の完全な高解像度画像を必要とすることなく骨梁骨についてトポロジカルな情報を与える非侵襲的な検査法であって、臨床での使用に適合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨梁などの物質をキャラクタライズするための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの筋骨格系の主たる構成要素は骨である。骨は我々の体重を支え、運動を助け、ミネラル恒常性及び血液細胞の産生において重要な役割を担っている。骨粗鬆症は骨強度が異常に低く、些細な外傷で骨折しやすい骨格の疾患である。骨粗鬆症のリスクが最も高い人体の部位としては、脊椎、股関節、及び脚が挙げられる。米国では約3千万人が骨粗鬆症に罹患しており、約1千9百万人以上で骨密度の低下が見られる。米国では年間約700,000件の脊椎骨折、250,000件の股関節骨折、及び200,000件の遠位橈骨骨折が発生しており、米国内での骨粗鬆症の治療に毎年数十億ドルが費やされている。そのため骨粗鬆症の治療方法の開発に努力が注がれている。
【0003】
骨粗鬆症の臨床評価は現在、主として骨ミネラル密度(BMD)測定によって行われている。BMDを調べるために臨床的に広く用いられている方法として、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)及び超音波法の2つがある。DXAは骨組織、主としてカルサイトミネラルによるX線の吸収量を測定するものである。DXAでは2つの異なるエネルギーのX線照射を利用して骨のX線吸収を軟部組織のX線吸収と区別する。吸収量によって骨密度の目安が与えられる。DXAは現在のところ骨粗鬆症のスクリーニングにおいて中心となっている基準的方法である。超音波法は骨内の音波の速度及び減衰率を測定してBMDを予測するものである。しかしながらこの方法にともなう誤差はDXAにおける誤差よりも大幅に大きい。
【0004】
BMD測定法の欠点として、測定されるBMDが全体の平均量であり、骨の構造的完全性や機械的性質に関する情報が得られない点がある。骨のミネラル密度と機械的強度(骨折のリスクを決定する性質)には一定の相関があるものの、平均相関値を中心としたばらつきが大きい。例えば図1は、1群の切除したヒト骨梁試料について骨強度とBMDとの関係をグラフで示したものである。骨強度の目安である見かけの弾性率(MPa)を縦軸に示し、見かけの密度(BMD)を横軸に示してある。直線102は2つの量の相関を示すものである。図1に示されるように任意の密度で骨密度に大きなばらつきが見られる。BMDと骨折の発生率との間には明確な相関が認められるものの、密度測定のみでは骨折のリスクを完全に予測できないことも明らかである。これは骨梁の構造の細部(例、「骨質」)やその経時的変化もまた、骨強度、ひいては骨折のリスクに大きく寄与していることによる。
【0005】
骨質とも呼ばれる骨の微細構造は骨強度に大きく影響していると一般に考えられている。核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴画像法(MRI)及びマイクロ計算機トモグラフィー(μCT)などの複数の医療用画像診断方法が骨試料の構造に関する情報を抽出するために用いられている。μCTは顕微画像診断法の一例である。異なる方向から得られた一連のX線写真によって骨基質の3次元画像を構築することが可能である。この方法を用いて数μm程度の細密なボクセル解像度の画像を生成することが可能である。「ボクセル」とは2次元での「ピクセル」に似た解像度の3次元の尺度である。μCTはDXAと比較して骨損失を高い感度で検出できるが、その代わりに非常に高いX線量を必要とするため現在では臨床的に現実的といえない。
【0006】
研究者の間ではNMR及び高解像度MRIを用いたインビトロ及びインビボでの骨の研究が行われてきた。骨は、石灰化した中実の基質からなる高度に(〜80%)多孔質な基質であり、軟かい髄質、脂肪、微小血管及び水によってその孔隙が埋められている。中実な骨組織は標準的な臨床的条件下ではそれほど多くのMRIシグナルを発生しないことから、骨のMRI画像とは実際には髄腔のシグナルである。小さな試料から解像度56μmの骨の3次元画像が得られている。こうしたMRI画像法の結果には試料の骨強度と相関するさまざまなトポロジカルな性質が含まれている。インビボでのイメージングは現在のところ100μmよりも高い解像度を実現しており、解像度を更に上げるために高度なサブボクセル処理技術が試されている。骨構造のこうした直接的な測定から骨強度に理論的かつ経験的に関連するトポロジカルなパラメータを導出することができる。しかしながら高解像度MRIの使用は現在のところ手首に限定されており、股関節や脊椎には適用されていない。
【0007】
MR法の構造的感度を与える別の性質は中実組織と介在組織/液との間の磁化率の差である。NMR測定に必要な静磁場が作用すると、こうした磁化率の差によって孔隙内部の磁場に空間的変化が生じる。例えば、骨基質と介在髄質との間の磁化率の差による共鳴線の広がり(1/T2’)を測定することが可能である。この広がりは骨強度との相関を示す可能性が考えられる骨のアーキテクチャに依存している。NMRの全体の線幅(1/T2*)に対する静磁場の不均質性(1/T2’)の寄与は、これまでにさまざまな骨試料及び被験者についてインビトロ及びインビボで測定されており、ヤング率などの強度パラメータとの相関が示されている。しかしながら(1/T2’)に基づいた測定法はこれまでのところ日常的な臨床使用にはいたっていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒトの骨をキャラクタライズすることの主な臨床的必要性は、骨強度の異常な低下により骨折のリスクが高くなる骨粗鬆症などの疾患の診断にある。二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)及び超音波法といった標準的方法は骨ミネラル密度(BMD)を測定するものであり、骨折のリスクを評価するうえで臨床的に用いられてきた。しかしながら、骨の機械的強度には骨密度以外にも骨の内部構造が大きく寄与していることから、密度のみでは骨強度のばらつきの全体を説明することはできない。このため骨密度測定に依存した方法では骨折のリスクを完全に予測することはできず、したがってその臨床的価値は限定されている。また、高解像度の磁気共鳴画像法は骨粗鬆症の診断に有用な骨梁アーキテクチャの3次元画像を与えるものであるが、その臨床的応用は困難である可能性がある。特にこうした画像法の解像度を、臨床的に実施されている現在のレベル(約100μm)から大きく向上させることは、主として臨床的に許容されるX線量及びMRIの走査時間の点から困難である。したがってこれらの方法もその臨床的使用は限定されている可能性がある。
【0009】
したがって信頼性が高く、臨床的使用に適した骨折リスクの評価方法が求められている。本発明の各側面及び実施形態は、骨のアーキテクチャのキャラクタリゼーションに対する、高解像度画像法とは異なるアプローチに関するものである。一実施形態によれば、核磁気共鳴法(NMR)及び磁気共鳴画像法(MRI)を用いた骨梁強度を測定するための方法が提供される。本発明の側面に基づいた方法の各実施形態は、骨構造をキャラクタライズするうえで水の拡散を測定すること、及びこれらの方法では高解像度の画像法を必要としないことから、従来のMRI法とは異なるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施形態では、無機多孔性基質においてよく確立されているNMR法を用いて骨梁構造の統計的性質を得ることができる。「内部磁場中での拡散による減衰」(DDIF)と呼ばれるこの方法は、約1μmの解像度で孔構造の特性を得ることが可能である。後述するようにウシの骨の試料を用いたDDIFデータでは骨強度との明確な相関を示している。更にこのDDIFデータは投影表面/体積比との強い相関を示し、高い骨強度及び低い骨強度で2つの領域を示している。これら2つの領域は2種類の骨強度低下の挙動を表すものと解釈できる。すなわち、一方は低強度での骨密度の低下によるもの、他方は高強度での骨アーキテクチャの変化によるものである。顕微鏡画像で見られるDDIFの結果と骨試料の構造的特性との間の相関は、DDIFデータを用いた骨構造のキャラクタリゼーションが可能であることを示唆するものである。したがって特定の実施形態ではDDIFの測定は信頼性の高い骨強度の指標を与えるものであり、したがって骨の評価に用いることが可能であり、高解像度の画像法を行う必要がない。
【0011】
別の実施形態では、骨の性質を測定するためにインビトロまたはインビボで核磁気共鳴法及び/または磁気共鳴画像法を行う方法であって、骨試料の内部における分子拡散の効果を測定することで骨梁の構造に関連したパラメータを得ることによる方法が提供される。この方法は、骨梁の構造の高解像度画像を必要とすることなく、骨梁についての一定のトポロジカルな情報を与える非侵襲的な測定法である。このトポロジカルな情報は本説明文中で例示する傾向を介して降伏応力などの機械的性質と関連付けることも可能である。この相関は骨粗鬆症の診断につながる骨強度のアッセイを与えるものである。特定の例では、本発明の方法を用いることによって例えば、表面/体積比、方向的に重みづけされたS/V、孔径、ヤング率、及び降伏応力などの構造的パラメータ及び骨の性質を測定することが可能である。他の例では、上述のトポロジカルな情報を平均の表面/体積比として抽出、分析する方法が提供される。この情報は先述したようにDDIFの実験から得ることができる。更に他の実施形態では、内部磁場勾配の代わりにパルス磁場勾配を用いた類似の方法を用いて同様または相補的な情報を得ることができる。
【0012】
一実施形態では、骨梁試料について強度を推定する方法は、磁気共鳴法を用いて骨梁試料の内部の分子拡散の効果を測定して測定データを得ることと、該測定データから骨梁試料の構造に関連したパラメータを導出することと、該パラメータから骨梁試料の強度を推定することとを含んでもよい。一つの例では当該方法は更に、パラメータ及び骨の体積分率に基づいて骨梁試料の強度を推定することを含んでもよい。別の例では当該方法は更に、骨梁試料の骨ミネラル密度を計算することを含んでもよく、骨梁試料の強度を推定することは更に、パラメータと骨ミネラル密度に基づいて骨梁試料の強度を推定することを含んでもよい。別の例では、導出されるパラメータは骨梁試料の表面/体積比であってよい。
【0013】
本発明の別の実施形態は、骨構造の試料を得るための手順であって、骨の試料の内部の拡散を測定することと、拡散の測定を複数回繰り返すことと、該拡散の測定に基づいて統計的情報を得ることと、該統計的情報から少なくとも1つの骨の性質を抽出して骨構造の指標を得ることとを含む手順に関する。一つの例では、少なくとも1つの骨の性質には、骨の表面/体積比が含まれる。別の例では、拡散を測定することは、骨の内部磁場中での拡散による磁化の減衰を測定することを含む。
【0014】
以下に本発明の異なる実施形態及び側面を付属の図面を参照して説明する。付属の図面は一定の縮尺で描画されたものではない点は了承されたい。図中、異なる図面に示される同一またはほぼ同一の各要素は同様の参照符号にて示してある。説明を簡潔とするため、各図面で参照符号をすべての要素には付していない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】骨密度と骨強度の関係を示すグラフ。
【図2】(A)骨試料の切片のCT画像、(B)別の骨試料の切片のCT画像、(C)更なる別の骨試料の切片のCT画像。
【図3】本発明の一実施形態に基づくDDIFシミュレートエコーシーケンスの一例を示すパルス図。
【図4】本発明の一実施形態に基づくDDIF参照シーケンスの一例を示すパルス図。
【図5】(A)図2Aの骨試料について正規化したシグナル減衰速度を時間の関数として表したグラフ、(B)図2Bの骨試料について正規化したシグナル減衰速度を時間の関数として表したグラフ、(C)図2Cの骨試料について正規化したシグナル減衰速度を時間の関数として表したグラフ。
【図6】(A)図6Aの骨試料のDDIFスペクトルのプロット、(B)図6Bの骨試料のDDIFスペクトルのプロット、(C)図6Cの骨試料のDDIFスペクトルのプロット。
【図7】一群の骨試料についてDDIFの高速減衰重みを降伏応力に対してプロットしたグラフ。
【図8】本発明の一実施形態に基づいたパルス磁場勾配測定に用いることが可能なパルスシーケンスの一例を示すパルスダイアグラム。
【図9】(A)本発明の実施形態に基づく、補償されたパルス磁場勾配シーケンスで測定した異なる2方向に沿った時間依存拡散係数の図6Aの骨試料についてのプロット、(B)本発明の実施形態に基づく、補償されたパルス磁場勾配シーケンスで測定した異なる2方向に沿った時間依存拡散係数の図6Bの骨試料についてのプロット、(C)本発明の実施形態に基づく、補償されたパルス磁場勾配シーケンスで測定した異なる2方向に沿った時間依存拡散係数の図6Cの骨試料についてのプロット。
【図10】(A)PFG時間依存拡散実験から得られた骨の表面/体積比とDDIFデータの比較を示すグラフ、(B)PFG時間依存拡散実験から計算された表面/体積比テンソルの異方性比率を示すグラフ。
【図11】骨試料の画像において平均切線長を推定するための方法を示す図。
【図12】一群の骨試料について平均切線長を降伏応力の関数としてプロットした図。
【図13】DDIF高速減衰重みと投影表面/体積比PSVRzとの線形相関を示すグラフ。
【図14】前置き部分のDDIFセグメント及び第2のスピンエコー・スピンワープイメージングセグメントを含むDDIFコントラストに対するMRイメージングシーケンスのパルスダイアグラム。
【図15】前置き部分のDDIFセグメントを、切片選択的な最終パルス及びスピン−ワープイメージングセグメントとともに含むDDIFコントラストに対するMRイメージングシーケンスのパルスダイアグラム。
【図16】前置き部分のDDIFセグメントを、切片選択的な最終パルス及びエコープラナーイメージング(EPI)セグメントとともに含むDDIFコントラストに対するMRイメージングシーケンスのパルスダイアグラム。
【図17】前置き部分のDDIFセグメント及び高速スピンエコー(FSE)イメージングセグメントを含むDDIFコントラストに対するMRイメージングシーケンスのパルスダイアグラム。
【図18】3D局在化STEAMイメージングセグメントを含むDDIFコントラストに対するMRイメージングシーケンスのパルスダイアグラム。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
人体には、皮質骨(長い骨の中央部分に存在する高密度で緻密な骨)と骨梁または海綿骨(主な関節の付近及び脊椎に一般に見られる、より多孔質の骨)の2種類の骨が存在する。骨梁は棒状骨及び板状骨がなす複雑な3次元の網目構造からなる。荷重を支える骨格の能力はその大半が骨梁領域によるものである。骨梁構造の発達または劣化は骨梁に作用する機械的力によって大きく影響される。
【0017】
骨組織の機械的強度、したがってその骨折のリスクはいくつかの要因に依存している。骨強度の非常に重要な因子の1つとして骨量がある。骨量は、骨の体積分率(BVF)、多孔度や、最も一般的な臨床パラメータである骨ミネラル密度(BMD)などのさまざまなパラメータに関連している。図1は骨強度とBMDの関係を示すグラフである。骨強度の目安である見かけの弾性率(MPA)を縦軸に示し、見かけの密度(BMD)を横軸に示してある。直線102は2つの量の相関を示すものである。図1に示されるように任意の密度で骨密度に大きなばらつきが見られる。BMDと骨折の発生率との間には明確な相関が認められるものの、密度測定のみでは骨折のリスクを完全に予測できないことも明らかである。これは骨梁の構造の細部(例、「骨質」)もまた、骨強度、ひいては骨折のリスクに大きく寄与していることによる。
【0018】
骨梁は、厚さ/径が100μm程度の棒状骨と板状骨の組み合わせを、相互連結された網目構造として含む。骨構造の変化は骨細胞によって細胞レベルで制御されている。骨細胞には骨破壊を制御する破骨細胞と、骨形成を制御する骨芽細胞とがある。骨粗鬆症において生ずると仮定されているように、これら2種類の細胞によって行われる骨の全体のリモデリングのバランスが崩れると骨梁の網目構造の強度の深刻な低下を招く。文献に述べられるようにこれらの変化については、DXA、μCTまたはMRIを用い、異なるヒト被験者で年齢の関数として広くキャラクタライズされている。平均骨梁厚さ、平均骨梁間隔、及び骨梁数といった構造的指標は顕微鏡画像から計算することができ、構造、異方性、または強度との相関に着目したこれら以外の広範な指標が提唱されている。多くの研究により、骨強度の低下と最も深く相関するパラメータは、任意の方向における単位長さ当りの骨梁の数を表す骨梁数(骨梁板密度または表面密度としても知られる)であることが示されている。骨梁幅もまた年齢とともに減少することが知られているが、骨梁数ほどには劇的に減少せず、多くの症例で骨強度の低下を説明できるほどの減少はみられない。
【0019】
こうした矛盾が、ここにその全容を援用するA.M.パーフィット(A.M.Parfitt)による論文(A.M. Parfitt, Bone 13, S41(1992))に述べられる、骨分解の広く受け入れられているモデルの動機の1つとなっている。このモデルは、観察される骨構造の進行を唯一説明するものとしては、骨梁板が一様に薄くなることではなく、板状骨全体が除去される結果、結合性が失われることであることを実証するものである。こうした除去は、特定の骨梁板における破骨細胞性の骨吸収亢進(骨除去)が所定の期間続くことで始まると考えられている。この骨吸収亢進によって、特定の点で全体の厚さが減少し、それまで隔離されていた骨髄の領域同士を連結する孔、すなわち「穿孔」が形成される。これらの穿孔は、当初の板状骨が隣接する板状骨を連結する棒状骨のみを残してすべて消失するまで成長する。この過程を反映し、強度と高い相関を示す骨梁数パラメータは、所定の方向に沿った投影表面/体積比(PSVR)に類似したものである。更に後述するように、本発明の特定の実施形態で用いる2種類のNMR法はこの投影表面/体積量を調べることが可能である。
【0020】
骨梁の別の重要な特徴はその異方性である。多くの骨が異方性の機械的荷重の作用下にあるため、その構造及び発達は荷重の方向に沿った異方性を示す。この異方性は、異方性の量と方向を記述する「ファブリックテンソル」を用いてしばしば定量化される。ファブリックテンソルは、平均切線長(mean intercept length, MIL)、密度自己相関長(densityautocorrelation length)、またはデジタルトポロジー方向解析(digitaltopology-based orientation analysis, DTA-O)などの顕微鏡画像の基準によって特徴付けられる。これらのテンソル要素を機械的弾性率に関連付けるモデルが開発されており、その例としてここにその全容を援用するS.コーウィン(S.Cowin)の論文(S. Cowin, Mechanics of Materials 4,137(1985))に述べられるものがある。更に、骨分解は異方的に起こり、特定の症例またはライフサイクルの特定の期間において横方向の棒状部分が縦方向の棒状部分よりも消失しやすいことを示す証拠が存在する。本発明の特定の実施形態では、後述するようにこの異方性を測定するのに適したNMR法について述べる。
【0021】
本発明はその応用において、以下の説明文に述べられ、図面に示される構成の細部及び要素の配置に限定されない点は認識されなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、異なる方法で実行、実施することが可能であって、特許請求の範囲において具体的に記載がないかぎり、示される実施例に限定されない。また、本明細書で用いる語法及び用語は説明を目的とするものであって、限定的に解釈されるべきでない点は認識されなければならない。本明細書で用いる「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」、「ともなう」といった単語、及びこれらの変形の使用は、これらの語の後に列記される項目及びその均等物、ならびに更なる項目を包含するものである。
【0022】
図2A〜2Cを参照すると、測定に用いた円筒形のウシの骨の試料例の処理済3次元マイクロCT画像の各部分が示されている。図はそれぞれ、与えられた試料について2枚の断面(一方は円筒の中心軸に垂直な方向、他方は半径に垂直な方向)、及び試料の中心の立方体部分(2x2x2mm)を3D再構築したものを示している。以下の考察を簡単にするため、各試料を、試料A(図2Aに示す)、試料B(図2Bに示す)及び試料C(図2Cに示す)と呼ぶことにする。各試料のおおまかな寸法は、高さ8mm、幅6mm、厚さ6mmである。図2Aの画像は、骨試料がゆるく結合した骨支柱(strut)からなる低密度構造を有していることを示している。図2Bは高度に結合した支柱からなる高密度構造を示し、図2Cは略平行に延びる1群の大きな板状骨を示している。質的には、これは荷重の支承方向に沿って、投影される骨表面積が低〜高〜低と推移することを示している。図に示した試料は本発明の実施形態に基づくDDIF測定で用いた試料の完全な組として、低(2.4MPa、図2A)〜中(6MPa、図2B)〜高(34.5MPa、図2C)と広範囲の機械的降伏応力をカバーする。骨梁要素の密度、形状、及び異方性の質的な違いを図2A〜2Cの画像にみることができる。
【0023】
骨粗鬆症患者における骨折のリスクの正確な予測が困難であることから、骨の微細構造を調べ、これを骨強度と関連付ける新しい技術が求められている。骨梁の構造のキャラクタリゼーションには多くの異なる磁気共鳴法を適用することができる。上記に述べたように核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴画像法(MRI)及びマイクロ計算機トモグラフィー(μCT)法は、いずれも骨試料についての情報を得るために用いられてきた。これらの方法は研究者の間で大きな発展を遂げてきたがさまざまな理由により臨床における標準的技術となるには到っていない。したがって骨質についての有用な情報を効率的に(長時間の走査や高いX線量を必要とせずに)与えることのできる方法が求められている。
【0024】
この要請に応えるため、本発明の特定の側面及び実施形態ではNMR及びMRI法を用いて骨梁強度を求めるための方法を提供した。一実施形態では、拡散型NMR及びMRI法を用いて、後に詳述するように骨試料の構造をキャラクタライズすることができる。この測定法を骨の体積分率(BVF)またはBMDのキャラクタリゼーション及び経験的に確立された骨の機械的性質との相関と組み合わせることによって完全に非侵襲的な方法を用いた骨強度の測定法が与えられる。本明細書で述べる骨強度をキャラクタライズするための方法の実施形態は、水の拡散を用いて骨構造をキャラクタライズできる点、及び高解像度の画像法を必要としない点において従来のMRI法と異なっている。したがって本方法は臨床での使用に適しており、日常的なMRIプロトコールとして利用できる可能性を有している。
【0025】
本発明の実施形態は高解像度の画像法によるアプローチと比較して大きな利点を2つ有している。1つは、本発明は臨床的に行うことが難しい高解像度の画像法を必要としない点である。更に本明細書で述べるDDIF法の各側面を低解像度の画像法と組み合わせることは臨床的に実現可能である。第2の利点は、本発明に基づく方法の実施形態は骨強度のマップとその定性的指標を与える点である。したがって本発明の方法は大面積の骨について骨強度の評価を行うことが可能であり、本発明の方法を用いて骨の内部の強度の弱い部分を特定することが可能である。
【0026】
一実施形態では、DDIF(Decay from diffusion inthe internal field(内部磁場中での拡散による減衰))に基づいた磁気共鳴法を用いて骨梁の微細構造を定量化してインビボで骨の評価を行う。DDIFに基づく方法は最小で1μmの孔径を得ることが可能であるが、これは高解像度のMRIによって現在実現可能な解像度よりも大幅に高い解像度である。そのような高解像度は水の拡散を観測することで達成することができ、骨の内部構造の統計的な性質を得ることが出来る。以下に述べるように、DDIFのデータは骨の機械的性質との直接的な相関を有することが考えられ、従来のBMDよりも優れた骨強度の指標を与える可能性を有する。別の実施形態では、パルス磁場勾配(PFG)測定法を行って、後述するように骨強度ならびにDDIFのデータとやはり直接的な相関を有するパラメータである骨梁の表面/体積比を測定することができる。更に、PFG測定法を用いて、骨強度と相関を有する別のパラメータである骨の異方性を調べることも可能である。一般にPFG−NMR及びDDIFは、いずれも拡散性を測定し、異方的に制限的な境界に対する感度を有するものであることから、骨構造について同様な情報を与えるものである。内部磁場勾配及び印加される磁場勾配という異なるアプローチはそれぞれ異なる利点を有し、これらを組み合わせた結果は相補的なものとなりうる。
【0027】
一実施形態では、核磁気共鳴法を用いて骨梁構造の高解像度の画像ではなく、構造の統計的性質を得る。この方法は、DDIFと呼ばれる。水飽和した岩石において、DDIF測定法によって孔径分布が与えられることが示されている。DDIFは試料の材質の各構成成分間の磁化率の差を利用したものである。試料に外部から均一な磁場Biが作用する場合、磁化率の差によって内部磁場と呼ばれる磁場の不均一性が誘導される。この内部磁場は孔の構造によって生じることから、孔の長さなどの孔隙の「フィンガープリント」を有している。後述するようにDDIF法によってこうした不均一な内部磁場を介して水の拡散を観測し、拡散動力学から孔構造を調べることが可能である。DDIF法及びその応用についてはいくつかの刊行物に概説されている(例、Concepts of magnetic resonance 18A, 97(2003); NMR imaging inChemical Engineering, Stapf and Han(編), chapter 3.7, Wiley-VCH 2005)。
【0028】
上述したように骨梁は、骨梁の網目構造(棒状骨と板状骨)からなる高度に多孔質の材質である。ここで骨梁に関して云う「孔」なる語は骨梁間の空隙を指す。簡単のため、骨梁を孔隙が水で満たされた中実の基質とみなすことができる。ただしこれは近似であって、実際の骨構造はより複雑であることは認識されるべき点であるが、本発明の実施形態の実証、説明の目的ではこうした近似で充分である。2種類の異なる構成要素からなるこうした構造を有する骨梁は磁場の不均質性を有することから、DDIF法を骨梁に適用することが可能である。骨梁の特有の構造及び高い多孔度(〜80%の多孔度)のため、内部磁場勾配は主として骨梁表面の近傍に存在する。
【0029】
一般にDDIFシグナルの減衰率は、内部磁場勾配の空間的大きさなど、内部磁場分布の特定の性質に依存することが考えられる。しかしながら測定のプローブ長スケールは任意の孔の形状について下式(1)に基づいたスピンの拡散長によって一義的に与えられる。
【0030】
【数1】

【0031】
(式中、lは長スケール、D0は拡散定数、及びτは拡散時間である)。骨梁の場合、高速減衰シグナルは孔表面層からのものである。したがって、後述するようにDDIFの結果は試料の表面/体積比に密接に関連している。
【0032】
一実施形態では、DDIF法においてNMRパルスシーケンスを用いる。パルスシーケンスは、試料材質の内部磁場によってシーケンスの最初と最後の間隔に構造に関する情報がコードされたものである。図3にシミュレートしたエコーパルスシーケンスの一実施形態を示した。このパルスシーケンスは下式によって示される。
【0033】
【数2】

【0034】
π/2はスピンベクトルを90°回転させる高周波(RF)パルスを示し、teはコード時間を示し、tDは分散時間を示す。少なくとも1つの実施形態において、内部磁場がシーケンス全体を通じて存在し、外部磁場勾配は作用させずともよい。図3を参照すると、シーケンスの第1の周期104は空間的コード化周期(時間の長さte)であり、第3の周期106は空間的デコード化周期(時間の長さはやはりte)であってよい。中央の周期108(tD)は拡散周期である。
【0035】
質的には、この例はスピンを内部磁場中で時間teだけ歳差運動させることによって開始しうる。最初のπ/2パルス110は長さ方向の磁化を横方向平面に回転させ、局所内部磁場Biに比例した周波数で歳差運動を行う。コード化周期104では、各スピンはその局所磁場に比例した位相を獲得する。その結果、孔の内部における内部磁場の変動がスピンの位相にコード化される。より詳細には、異なる位置のスピン間で歳差位相差が生じる。歳差の位相変調は下式によって与えられる。
【0036】
【数3】

【0037】
(式中、Φは位相変調であり、γは陽子の磁気回転比である。)位相変調は内部磁場の空間的特性に従っていると考えられる。骨測定では、teは10ミリ秒のオーダーである。コード化周期104の終わりに、印加される磁場の方向に沿ってスピン磁化が回転し、歳差運動が停止する。一実施形態では、この回転は横方向の磁化を縦方向に戻す更なるπ/2パルス112を用いて行うことができる。この結果、位相差の空間的パターンは縦方向の磁化の振幅の空間的パターンとしてコード化される。
【0038】
コード化周期の後、スピンを時間tDだけ拡散させる。骨測定の一例ではtDは1ミリ秒〜数秒の範囲である。拡散周期108の終わりに拡散による磁化の減衰が第3のπ/2パルス114によって記録されて刺激エコーが与えられる。tDの間の拡散距離がこの変調の長さのスケールに一致するかこれよりも大きい場合、変調の振幅は劣化し、シグナル減衰が引き起こされる。拡散時間tDの関数として得られるシグナル減衰は試料の内部磁場勾配の分布によって決まる異なる減衰時間を含む。骨梁の場合では、この分布は骨の網目構造のトポロジーと相関している。
【0039】
一実施形態では、DDIFデータセット内に捕捉された分布応答が与えられたものとして、データ解析の一方法として逆ラプラス変換を用いるものがある。逆ラプラス変換とは、特定のシグナルを減衰する指数関数の和に分解するものであり、DDIFデータセットから逆ラプラス変換スペクトルを得るために異なる従来の数学的手法を用いることができる。逆ラプラス変換をデータに適用すると、異なる減衰時間τnについて得られた大きさAnは本明細書でDDIFスペクトルと呼ぶスペクトルを形成する。
【0040】
拡散時間の間における減衰の別の要因は、スピンが励起の記憶を失って平衡状態に戻る過程であるスピン−格子緩和である。一実施形態では、一般に孔径、緩和度、バルク緩和率などの分布の1以上によってやはり分布しうる参照走査を用いてこの依存性を測定する。図4を参照すると、スピン緩和を測定し参照データを得るうえで用いることが可能な参照走査の一例が示されている。この緩和減衰の影響は分析段階でDDIFデータから分離することが可能である。
【0041】
脛骨から抽出した異なるウシ骨梁試料に一連のDDIF測定を行った。データは同じ条件下で見かけ上同等のパルスシーケンスパラメータを用いて取得した。これらのデータを上述したような逆ラプラス変換法で分析した。ただし本発明はデータ分析を行ううえで逆ラプラス変換の使用に限定されず、他の方法を用いることも可能である。例えば、初期減衰アプローチを用いた同様の分析によっても質的に同様の結果を得ることができる。後述するように、各骨試料についてDDIFデータを比較することによって、機械的降伏応力の測定及びマイクロCT画像法の更なる2つのキャラクタリゼーションを行った。
【0042】
Bruker Biospec分光計(BrukerBiospin、マサチューセッツ州、ビラリカ所在)を備えた2T(プロトン磁気共鳴周波数=85MHz)横型ワイドボアNalorac磁石内で水で満たされた骨試料群にDDIFの実験例を行った。印加した磁場の方向は各試料が抽出された元の脛骨の荷重支承軸にほぼ一致する、円筒形の各試料の中心軸に沿った方向である。1msから10sの対数的に離間した異なる拡散時間tD、及び5〜30msの異なるコード化時間teについてDDIF及び参照シグナルを得た。ただし、本発明は例示したこれらの時間の使用に限定されず、また対数的に離間した拡散時間の使用にも限定されない点は認識されよう。
【0043】
図5A〜5Cを参照すると、試料A、試料B及び試料Cのそれぞれに印加したDDIF及び参照走査のシグナル減衰速度のグラフが示されている。図5Aは、試料Aに対応したシグナル減衰グラフを示し、図5Bは試料Bに対応したシグナル減衰グラフを示し、図5Cは試料Cに対応したシグナル減衰グラフを示す。図5A〜5Cではそれぞれ、正規化したシグナル減衰を縦軸に示し、時間(秒)を縦軸に示してある。黒塗りのデータ点は各試料についてのDDIF走査に対応し、白抜きのデータ点は各試料についての参照走査に対応している。データは図5A(図2Aに示した試料Aに対応する)〜図5C(図2Cに示した試料Cに対応する)を骨強度が増加する順に並べてある。緩和の参照データがすべての試料についてほぼ同じであるのに対して、DDIFのデータでは強度が中程度で表面積が大きい試料B(図5B)で高い減衰率を示している。
【0044】
図6に示されるように、シグナル減衰速度と降伏応力の間には相関が見られる。図6Aは、試料Aについて逆ラプラス変換スペクトルを示したものである。同様に、試料B及び試料Cから得られた逆ラプラス変換スペクトルを図6B及び6Cにそれぞれ示す。スペクトルの高速拡散モード部分(20ms<T<600ms)において、低強度における低い重みから、降伏応力6MPa付近の最大の重みへ、更には高い降伏応力における低い重みへと、重みの発展が明らかである。高速減衰領域における重みは2.4〜6Mpaへと連続的に増大した後、最も高強度の試料(34.5MPa)による低強度の値に近い値へと低下する。
【0045】
この傾向を、降伏応力の関数として、関連する値域における逆ラプラス変換の積分として図7に質的に示す。すなわち、図7は高速減衰領域(20ms<T<500ms)における減衰重みの積分を、横軸の降伏応力(MPa)に対してプロットしたものである。減衰速度のデータ点の誤差表示は、ノイズ具現化の異なる結果における変動を示している。データ点116は試料Aを示し、データ点118は試料Bを示し、データ点120は試料Cを示している。骨強度にともなうDDIF減衰シグナルの増大及び減少が明確に示されている。初め、強度が増大するにしたがってDDIFの減衰重みは増大し、約6MPaの降伏応力における最大値まで増大した後、より高い強度では低下する。したがってこのデータは最大値118の両側の「低」領域R1と「高」領域R2の2つの領域に分けることができる。後述するようにこれらの結果は、他のNMR測定法及び画像処理法から得られるデータとの比較によってその解釈が容易となる。
【0046】
別の実施形態では、パルス磁場勾配NMR測定によって時間依存拡散を測定することができる。一実施形態において孔構造を評価するうえで使用することが可能な別の方法として、パルス磁場勾配(PFG)を用いて水拡散係数を直接測定する方法がある。後述するように時間依存水拡散係数から媒質の表面/体積比を求めることが可能である。PFG−NMR及びPFG−MRIの用途は、多孔質の媒質の研究及び生体医学イメージングにおいて非常に多岐にわたる。しかしながら骨強度評価にPFG−NMRを直接応用する試みはこれまでほとんど行われてこなかった。一実施形態では、PFG拡散法の実験例を拡散時間及び拡散感度化勾配方向の関数として行ってもよい。この情報によって骨の表面/体積比を方向の関数として一義的に求めることが可能となり、骨試料のトポロジー及び異方性を調べることが可能となる。
【0047】
一例ではPFG−NMR法において内部磁場を補償した刺激エコーシーケンスを用いることができる。その一例を図8に示す。双極勾配パルス138を最初の2個のπ/2RFパルス(140)の間に、同じ幅及び振幅を有する別の双極勾配パルス144を第3のπ/2RFパルス146の後に発生させてもよい。内部磁場勾配による位相の蓄積を反転させるための再収束(π)パルスを更に含んでもよい。微小勾配gにおける拡散減衰は下式の指数の形で与えられる。
【0048】
【数4】

【0049】
(式中、Δは図8に示した拡散時間であり、δは勾配パルスの時間的長さである。)多孔質の媒質では、水拡散が制限されていることによって、拡散長が孔長のスケールに近づくにしたがって見かけの拡散係数(D)に時間依存性が生ずる。詳細には、Δの関数としての拡散定数Dの傾きによって試料の表面/体積比が決まることが考えられる。骨梁のような異方性媒質では、この測定法は試料と印加される磁場勾配の相対的な方向に依存することが考えられる。PFGの実験例では、印加される磁場勾配は任意の方向であってよい。したがって、異なる方向で複数の測定を行って表面/体積比及びその異方性を完全にキャラクタライズすることができる。
【0050】
特定の実施形態において、上述したDDIF測定で用いたものと同じ磁石システムで同じ試料と同じ試料ホルダーを用いてPFG測定を行った。z軸勾配の方向は印加される磁場及び円筒形の試料の中心軸に沿った方向であった。内部磁場を補償した、図8に示すような刺激エコーシーケンスを用い、各勾配方向に沿って異なる拡散時間Δについて見かけの拡散係数(ADC)を測定した。内部磁場を補償していない従来の刺激エコーシーケンスを用いてADCを測定することも可能である。与えられた拡散時間について、固定されたシーケンスタイミング及び可変拡散勾配強度gに対するエコー減衰を測定することによって単一のADCを求めた。一群の試料について、τ=2.5msかつδ=2msにてΔ=200ms〜3sの異なる拡散時間に対してy方向かつz方向に沿ったADCを測定した。骨の拡散データセットD(t)を大量の水の値のデータセットに対して正規化した。
【0051】
制限拡散媒質における時間依存拡散係数の挙動についてはよく理解されている(例、P.N. Sen, Concepts of magnetic resonance 23A,1(2004))。D(t)の最低次挙動は下式によって与えられる。
【0052】
【数5】

【0053】
(ただし拡散時間が短く、
【0054】
【数6】

【0055】
である場合。)ここでS/Vは多孔質媒質の表面/体積比(SVR)である。この挙動は制限境界の微小構造の細部とは無関係に成り立つ。この式は一次元的拡散に当てはまるものであり、SVRの異方性の値を仮定したものではない点は注意を要する。これは骨梁の高度に異方な構造に的した場合である。水で満たされた骨梁の場合では、3sでの最大のtDにおける拡散長はlD〜108μmであり、これはμCT画像に示される平均孔径1mmよりも大幅に小さい。したがって式(8)によってPFGの完全なデータセットをおおよそ近似することが可能であり、各試料について投影表面/体積比(PSVR)を抽出することが可能である。
【0056】
図9A〜9Cは、試料A(図9Aに結果を示す)、試料B(図9Bに結果を示す)、及び試料C(図9Cに結果を示す)の3つの骨試料について2つの異なる勾配方向に沿った時間依存拡散係数を測定した結果を示したものである。図9A〜9Cではそれぞれ、横方向の勾配方向(y)及び縦(または軸線)方向の勾配方向(z)について拡散時間Δ(秒)に対し、正規化したD(t)をプロットしてある。各試料は異なる量の制限及び/または異方性を示している。図9Aにおいて、白抜きのデータ群148は試料A(図2A)について横(y)方向の拡散を示し、黒塗りのデータ群150はz方向の拡散を示す。図9Bにおいて、白抜きのデータ群152は試料B(図2B)について横(y)方向の拡散を示し、黒塗りのデータ群154はz方向の拡散を示す。同様に図9Cにおいて、白抜きのデータ群156は試料C(図2C)について横(y)方向の拡散を示し、黒塗りのデータ群158はz方向の拡散を示す。最も強度の低い試料である試料Aでは両方向に沿ってほとんど拡散が制限されておらず、その高い多孔度と符合する。中程度の強度を有する試料Bでは、両方向において拡散は制限されており、縦方向よりも横方向においてより著明な制限が見られる。最も強度の高い試料である試料Cでは、主として試料の軸線に対して横方向に拡散が制限され、3つの試料のうちで最も異方性が高くなっている。この異方性拡散の差は図2A〜2CのμCT画像に示されるような試料の外観から予想されうるものである。
【0057】
上述したように、縦方向及び横方向の両方について各D(t)のデータセットから投影表面/体積比を抽出することが可能である。PSVRyと呼ぶ横(y)方向の表面/体積比のデータセット(データセット161)、及びz方向の表面/体積比のデータセットPSVRz(データセット160)を、機械的降伏応力の関数としてDDIFデータ(データセット162)とともに図10Aにプロットしてある。図10AのPSVRデータの誤差表示は大量の水試料について測定したDの分散から推定したものである。図10Aに示されるように、DDIFデータ162とPSVRzデータ160とは、低強度及び高強度領域(それぞれ領域R1及びR2)の双方において高い相関を示している。PSVRyデータは、R1領域では強度とともに増大し、R2領域ではほぼ一定に保たれるという異なる傾向を示している。
【0058】
上述したように、骨梁の異方性は異方性の量及びその方向を記述するファブリックテンソルによって定量化することができる。一実施形態では、骨試料のファブリックテンソルに関連するPFGデータから骨の異方性の目安となる値を計算することも可能である。したがってPFGの測定は、高解像度の画像法を必要とせずに異方性を定量化するための方法を与えると考えられる。1つの例では、異なる方向に沿って6回以上のPSVR測定を行って、3個の固有値及び3個の方向パラメータを含むSVRテンソルを完全に求めることができる。この種の測定は、拡散テンソル画像法(DTI)では一般的である。階数2のテンソル(例、拡散テンソルまたはファブリックテンソル)の固有値がλiであるとすると、異方性比率(fractionalanisotropy, FA)は下式により定義される。
【0059】
【数7】

【0060】
1つの例では、(1)実験室系と重心系が一致(PSVRの測定値がSVRテンソルの固有値である)、及び(2)円筒対称(PSVRy=PSVRx)の2つの仮定の下で、z及びy方向に沿って測定を行うことでSVRテンソルに対するFAを得ることができる。後述するように、これらの仮定はこの試料群では妥当なものであり、試料のμCT画像の対応した分析によって支持されるものである。SVRテンソルは標準的な拡散テンソルと同等ではなく、大量の水試料における値からの水拡散の偏差を反映したものである点は認識されたい。このテンソルを用いることで異なる構造及び強度の試料間のコントラストが最も強調される。
【0061】
図10Bは、式(9)を用いて計算したSVRテンソルの異方性比率(FA)を降伏応力の関数としてプロットしたものである。この場合でもやはり2つの強度領域が明らかに認められる。すなわち、異方性がほぼ一定である低強度領域(R1、降伏応力<7MPa)と、異方性が降伏応力とともに増大する高強度領域(R2、降伏応力>7MPa)である。このことは、高強度の試料である試料C(図2C)が、より強度の低い試料A及びB(それぞれ図2A及び2B)と比較して異方性が高いことが示されている図2A〜2Cの画像と符合する。
【0062】
骨試料の異方性は、骨試料のμCT画像から計算される平均切線長(mean intercept length、MIL)と呼ばれる別の構造的指標によって記述することも可能である。平均切線長を計算するには、未処理のμCT画像に閾値法を用いて画像を骨領域と水領域に分割する。次いで任意の方向に沿って試料の画像に試験線を引く。例として図11Aに、線126がy方向に、線128がx方向に引かれた試料の画像を示す。同様に図11Bに、線130がz方向に引かれた同じ試料の画像を示す。(所定方向の)各線で骨領域間の骨と重ならない部分の長さをカウントして試料全体で平均する。この結果をその方向におけるMILと呼ぶ。
【0063】
図12は、上述のDDIF及びPFG測定値を得た試料群のMILを、他の結果と比較しやすいよう、長さの逆数として示したものである。降伏応力(MPa)を横軸に示してある。z方向に測定したデータ群132、y方向に測定したデータ群134、及びx方向に測定したデータ群136の3群のデータ点をプロットしてある。図12に示されるように、横方向の2方向(x及びy)におけるMIL値の逆数(データ群134及び136)は、低骨強度領域で増大し、高強度領域で一定の飽和値に達する同様の傾向を示し、これはPSVRyにおける傾向(図10Aに示す)と符合する。縦方向のMIL値の逆数(データ群132)はすべての試料で横方向の値よりも低く、低強度領域では増加傾向を示すが高強度領域では減少傾向を示している。この傾向はNMR拡散法で測定された傾向(例えば図10Aに示される)と似ているが、よりばらつきが大きい。
【0064】
骨折リスクの指標の重要な特性の1つとして、この場合では降伏応力として表される機械的強度との相関がある。本明細書で述べるDDIF測定法及びPFG測定法の2種類のNMR法の結果、ならびに骨試料の画像分析の結果を参照することによって、降伏応力との相関が明らかとなる。表1は、測定値の降伏応力との相関及び/または各測定値間の相関を示す、直線近似から得られたピアソンの相関係数rを示したものである。
【0065】
【表1】

【0066】
図13は、DDIFとPSVRzとの近似例を示し、非常に高い相関が認められる(r=0.84)。この相関は、DDIFデータのより簡単な初期減衰分析においても認められ、骨梁網目構造のトポロジカルな性質に対するDDIF走査の感度を強調するものである。事実、穿孔モデルにおける骨梁構造の時間にともなう進行は、ここで調べられる試料群によって示されるものと質的に類似する。平行な骨梁板からなる強く健康な骨は、骨吸収によって相互連結された棒状骨と支柱状骨の網目構造へと劣化し、最終的には緩く連結された棒状骨群へと劣化する。更に、骨梁構造、したがって内部磁場分布が異方性を有することから、DDIF走査において印加される磁場の方向が重要であると考えられ、その変化によってより包括的な構造の詳細が得られる。
【0067】
比較した指標の多くが異方性を示すことから、完全な試料群では類似する測定においてのみ(例、DDIFとPSRVz、またはPSRVyとMILy)相関関係が認められた。その他の場合では、指標がいずれも強度とともに単調に変化するYS=2.4MPa〜6.0MPaへと試料群の低強度領域で降伏応力の相関近似を行った。完全な試料群を用いた場合を太字で示した。
【0068】
表1の最下行は、骨の体積分率(BVF)と他の各指標との線形組合せに対する降伏応力の多重線形回帰の相関係数を示したものである。この手法では骨体積分率の情報の補助的な指標としてこの新たな指標を用いている。PSVRzまたはMILzのデータが含まれる場合に最大の効果が得られる点に注意されたい。
【0069】
骨試料群に対して行った2種類の縦方向NMR測定について図10Aに示した強度依存性は注目に値する。図の値は、強度とともにYS〜7MPaにおける最大値へと初め増大し、これよりも高い降伏応力では減少する。μCT画像から得られたMIL指標(図12)についても同じ質的傾向が認められた。したがってこれらの試料は、骨試料がより等方性でかつ高い多孔度を有し、比較的低い強度を有する、図のR1に相当する「低強度」領域、及び試料がより異方性でかつ多孔度が低く、高い強度を有する、図のR2に相当する「高強度」領域の2つのクラスに分類される。2つの領域における異なる挙動を示すPSVRzのデータが含まれる場合にBVFと強度との相関が最も改善されるという事実は、この分類を支持するものである。これらの相関は、臨床的な値(1.5または3T)に近い所定の印加磁場(2T)でのDDIF測定によって骨構造及び強度に関する情報が得られ、こうした情報にはマイクロ画像法を行う必要も高い磁場勾配を印加する必要もないことを示すものである。このことは臨床用スキャナにおけるDDIF測定の応用の可能性を強調するものである。
【0070】
これらの方法の結果の質的比較もまた重要である。3種類の縦方向の測定法(DDIF、PSVRz及びMILz)はいずれも試料群全体で約2倍のダイナミックレンジを示す。較正した結果もほぼ同じ絶対値(0.5<(S/V)<1.0mm-1)を示す。横方向の測定法(PSVRy及びMILx,y)は、同等の質的傾向を示すものの、高応力における飽和値において1.25倍の差が生じる。実験的NMR測定法とμCT画像処理によって得られる結果とは相応の量的一致を示すことが見出され、このことはこのNMR法の実用的較正を強化するものである。
【0071】
骨質が骨折リスクの評価を改善するうえで重要である点は広く同意が得られるところであるが、この性質をキャラクタライズする目的で用いられるスカラー指標は極めて多岐にわたる。マイクロ画像法から導出される指標はその幾何学的な意味がよく定義されているのに対し、(1/T2’)subscriplinewidth測定法、超音波法などのバルク平均化された測定法から導出される指標はより経験的なものである。拡散に基づいたNMR測定法(DDIF及びD(t))では、定量的拡散長(lD=(2D0t)1/2)が測定に信頼性の高い幾何学的根拠を与える。
【0072】
D(t)の場合では、これによって勾配方向に沿った表面/体積比の定量的測定が可能となる。2つの測定法がよく一致することに示されるように、DDIFシグナルはこのパラメータによって制御されている。これは特に投影表面/体積比の逆数が平均切線長と密接に関係していることから重要な関係である。投影表面/体積比の逆数と平均切線長との密接な関係は、骨梁数指標に対する寄与が大きいと考えられる。
【0073】
本明細書で述べる構造的指標の、強度、BVF、及び相互に対する相関は情報に富んだものである。一次的には、測定から導出されたものと画像から導出されたものとを問わず、すべての指標から強度及び相互に対して良好な相関(r>0.6)が得られた。この結果は、拡散NMR測定がμCT画像の指標と同様、投影表面/体積比によって制御されうるという解釈を裏打ちするものである。一連の相関をより慎重に分析することで本方法の相対的な長所に関する洞察が得られる。強度との最も高い相関がNMR測定法で認められ(r〜0.93)、画像分析法の結果では若干低い相関が認められた(r〜0.80)。同様に、全試料群での最も高い相互相関は、実験的NMR測定法で認められ(r〜0.88)、次いで画像処理法における相互相関が高く(r〜0.77)、実験的NMRの結果を画像処理法と比較した場合の相関が最も低かった(r〜0.74)。NMR及び画像処理法はいずれも平均のBVFと同等の相関を有している(r〜0.88)。これらの相関結果の可能な説明の1つは有効解像度の差である。検出される最小拡散長によって与えられるNMR測定の最小検出長が数μmのオーダーであるのに対して、μCT画像の解像度は幾分大きい(34μm)。このため、NMRに基づいた測定法によれば、CT画像から得られるものよりもより正確かつ完全な投影表面/体積比が得られることになる。しかしながら別の可能性として、CT画像分析から得られる低い相関は、現在の計算アルゴリズムの限界によるものであることが考えられる。
【0074】
骨強度の関数としてのDDIFシグナルの非単調な挙動は、現時点ではDDIFシグナル単独による機械的骨強度の推定が可能でないことを示唆するものである。しかしながら、やはり単独では骨強度の判定に不充分である標準的なDXA骨密度測定法と組み合わせた場合、図15に示される傾向に沿ったプレースメントが可能である。この傾向と骨粗鬆症による骨強度低下との上述した相関を考慮すると、このプレースメントは多大な臨床的可能性を有するものである。DDIF法は、より一般的なバルク平均化された(1/T2’)NMRパラメータと比較して骨試料に関してより多くのトポロジカルな情報を与えるものであるが、長い走査時間も、高解像度のμCTやMRIで必要とされる画像処理も必要としない。この意味で、DDIF法は情報の内容と骨のキャラクタリゼーションの所要時間との妥協点として重要な役割を有すると考えられる。
【0075】
上記のセクションでは骨強度評価のためのDDIF及びPFG法の原理及び実験的試験について説明した。図3、4及び8で述べたパルスシーケンスは骨のインビトロ試料に対して直接使用することができる。しかしながらインビボの応用では骨のシグナルを周辺組織から分離するために空間的局在化法を用いる必要がある。したがって本発明の特定の局面では、拡散に基づいた方法をインビボMRIと組み合わせる方法を提供する。本明細書では、DDIF及びPFGを本発明の実施形態に基づくMRI法を用いて空間的局在化と組み合わせるための数種類のパルスシーケンスについて述べる。拡散に基づく方法によって孔構造に関する情報が与えられることから、ここで述べる方法のMRI解像度が個々の骨梁を解像する必要がない点は認識されよう。例えば、1mmよりも大きいボクセルサイズで充分に事足りる。
【0076】
DDIF及びPFGに局在化を含める手法としては大まかに2つのものがある。第1の手法は、スピンワープ、EPI、RARE、FLASHなどのイメージングシーケンスの先頭に重み付けセグメントとしてDDIFまたはPFGシーケンスを含めるというものである。これらのシーケンスについてはここに援用するカラガン(Callaghan)による著作に概略が述べられている(Principles of Nuclear Magnetic Resonance Microscopy. 1993, Oxford:Oxford University Press)。この手法はDDIF及びPFGの自然な延長であり、従来の拡散重み付けされた画像法でしばしば用いられる。第2の手法は、全シグナルが骨内部の所定のボクセルのみから発せられる3D局在化シーケンスを用いるものである。STEAM、PRESS、及びISISなどの多くの3D局在化シーケンスを使用することができる。例えば、STEAMはDDIFコントラストと空間的局在化を同時に与えることができる。ここでは2つの手法の概念を説明するために数例についてのみ詳しく述べるが、本発明が述べられる具体例に限定されないことは認識すべきである。
【0077】
一実施形態では、図14に示すようにDDIF(またはPFG)をイメージングシーケンスの前置き部分として用いることが可能である。DDIFでは拡散を通じて構造的情報を得ることから、シーケンスのイメージング部分は低解像度であってもよく、これにより走査時間が短縮される。一実施形態では、シーケンスはDDIF(またはPFG)セグメント及びイメージングセグメントの2つの部分を有していてもよい。DDIFセグメントは、3個の非選択的π/2パルスを用い、最後のπ/2パルスから時間にしてte後の時刻に刺激エコーが発生する標準的なDDIFシーケンスと同じものでよい。イメージングセグメントは、切片選択的なπパルスと勾配(切片選択、位相及び周波数コード化のための)を標準的なスピン−ワープの組合せとして含むものでよい。πパルスは第3のπ/2パルスのte+te2後の時刻に発生してよく、最後のエコーシグナルはπパルスのte2後の時刻を中心とするものでよい。エコーは2次元(2D)データセットを形成するように一連の位相コード化勾配工程について取得してもよい。このデータセットをフーリエ変換することにより、DDIFセグメントで重み付けされた骨の2D画像が得られる。次いで異なるtDの2D画像を取得する。このデータから前述したのと同様の方法で各ピクセルに対するDDIFスペクトルを得ることができる。
【0078】
別の同様の実施形態では、DDIF(またはPFG)セグメントは1個の例外を除いて図14とほぼ同様の状態を維持してよい。別個のパルスでスライス選択を行う代わりに、図15に示されるように第3のπ/2パルスをスライス選択的とし、次いで同様のスピン−ワープ法によって刺激エコーを画像コード化してもよい。この方法によれば別の再収束パルス及びスピンエコー、ならびに更なる不要なT2重み付けの必要がなくなる。こうした手法では、DDIFコントラストと競合する可能性のある拡散重み付けを導入することなくDDIFシーケンスにイメージング勾配が組み込まれる。スポイリング及び/または位相サイクリングによって、重複するエコー経路が好ましく除去されうる点に注意されたい。
【0079】
別の実施形態では、DDIF(またはPFG)セグメントは図15の状態を維持してよい。刺激エコーは、図16に示されるような、周波数及び位相の双方のコード化について勾配パルスの交互の波連を含むエコープラナー画像法(EPI)と呼ばれるシングルショット画像法によって画像化することが可能である。一実施形態では、このEPI法によって完全な2Dのk空間データセットを含む1群の勾配エコーを1回の走査で取得することが可能である。このデータセットをフーリエ変換することによって、DDIFセグメントで重み付けされた骨の2D画像が得られる。連続的に走査を行うことで、異なるtDの2D画像を取得することができる。前述したのと同様の要領で各ピクセルについてDDIFスペクトルを得ることが可能である。
【0080】
別の実施形態では、DDIF(またはPFG)セグメントは図14の状態を維持してよい。イメージングセグメントは、第3のπ/2パルスのte+te2後の時刻に切片選択的なπパルスを含んでいてよく、これによりπパルスのte2後の時刻を中心としたエコーが発生する。このエコーは2*te2だけ離隔したπパルスの波連によって更に最収束させることが可能であり、これによりエコーの波連が生ずる。これらのエコーを位相及び周波数についてコード化することで2Dデータセットが得られる。この方法は高速スピンエコー画像法(ターボスピンエコー法、または高速取得緩和重み付け(Rapid Acquisitionw/Relaxation Enhancement,RARE))と呼ばれ、図17に示されるようにスピン−ワープ法よりも大幅に短い時間で2次元データの取得が可能であるが、一定の緩和(T2)コントラスト及び/または画像ボケが導入される。このデータセットをフーリエ変換することによって、DDIFセグメントで重み付けされた骨の2D画像が得られる。次いで異なるtDの2D画像を取得することができる。前述したのと同様の要領で各ピクセルについてDDIFスペクトルを得ることが可能である。
【0081】
別の実施形態では、DDIF(またはPFG)セグメントは図14の状態を維持してよい。イメージングセグメントは全体画像を捉える代わりに1体積のボクセルを選択するための3D局在化シーケンスを含んでいてよい。こうした3D局在化シーケンスには、刺激エコー取得モード(STEAM)、ポイント分解スペクトロスコピー法(PRESS)、及びインビボ分光法で選択される画像(ISIS)シーケンスが含まれる。これらのシーケンスについてはここにその全容を援用するカラガン(Callaghan)によるテキストに概略が述べられている(Callaghan, P.T., Principles of Nuclear Magnetic ResonanceMicroscopy. 1993, Oxford: Oxford University Press)。これらのシーケンスからのシグナルは、RFパルス及び勾配を適宜用いて決定される任意の位置における骨内部の特定のボクセルからのみ得られるものでありうる。シグナルはDDIFセグメントによってあらかじめ重み付けされていてもよい。複数回の走査を行うことで、異なるtDのシグナルを取得することができる。前述したのと同様の要領でこのボクセルについてDDIFスペクトルを得ることが可能である。
【0082】
別の実施形態では、3D局在化及びDDIF(またはPFG)コントラストを同時に実現することが可能である。3D局在化シーケンスの一例を図18に示す。このシーケンスは、DDIFコントラストで求められる時間的間隔で作用させることが可能な、直交する3方向に沿った3個の切片選択的なπ/2パルスを含みうる。複数回の走査において拡散時間tDは異なってよく、選択されたボクセルについて1群のシグナルを得ることができる。前述したのと同様の要領でこのボクセルについてDDIFスペクトルを得ることが可能である。
【0083】
本発明の各側面ならびに実施形態では、1群のウシ骨梁試料において骨梁構造のNMRによる測定を行い、複数の確立されたキャラクタリゼーション法と比較した。このNMR法はいずれも、磁場勾配中での拡散による磁化減衰の測定を行うものである。一実施形態(DDIF)では、これらの磁場勾配は、骨と水(または軟部組織)の磁化率の差に基づく内部磁場の変動によるものである。別の実施形態(D(t)またはPFG)では、内部磁場勾配の拡散重み付けを補償するシーケンスで磁場勾配を外部から印加する。いずれの例も、骨梁の荷重支承軸方向の投影表面/体積比によって決まる傾向である、試料群の機械的降伏応力への非単調な依存を示した。この傾向は、顕微的μCT画像法によって得られる同じ試料の微小画像の2つの分析方法によっても確認された。これらの相関は、拡散NMR法が骨強度の信頼性の高い指標を与えるものであり、画像法によって得られる特定の目安と同等の目安を与えるものであることから、骨の評価を行ううえで用いることができ、高解像度の画像法を行う必要がないことを示している。したがって本発明のNMR法は、NMR線幅(T2’)(単純なバルク平均化指標)と顕微鏡画像(長い走査時間を要する)の2つの両極端な測定法の有用な中間的方法を与えるものである。この中間的方法は、骨粗鬆症患者の骨折の予測、リスク評価、及び患者のスクリーニングを改善するうえで重要な臨床的役割を果たす可能性を有するものである。
【0084】
以上、本発明のいくつかの側面及び実施形態について述べたが、当業者にはその改変例及び/または改良例は自明であり、それらは本開示の一部をなすものとする。本発明は本明細書で述べた特定の実施例に限定されるものではなく、発明の原理は広範な用途で利用可能であることは認識されなければならない。したがって上記の説明文はあくまで例示を目的としたものであって当業者には自明のすべての改変例及び改良例を含むものである。発明の範囲は付属の特許請求の範囲の適当な構成ならびにその均等物によって定められるべきものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨構造の指標を得る手順であって、
骨の試料内部の拡散を測定することと、
複数回の拡散について拡散の測定を繰り返すことと、
前記拡散測定に基づいて統計的情報を得ることと、
前記統計的情報から少なくとも1つの骨の性質を抽出して骨構造の指標を得ることとを含む手順。
【請求項2】
前記少なくとも1つの骨の性質は骨の表面/体積比を含む請求項1に記載の手順。
【請求項3】
前記拡散を測定することは、骨の内部磁場中での減衰による拡散を測定することを含む請求項1に記載の手順。
【請求項4】
前記拡散を測定することは、PFGを用いて拡散を測定することを含む請求項1に記載の手順。
【請求項5】
骨の構造的性質のマップを得るための手順であって、
骨の試料内部の拡散重み付けされた画像を測定することと、
複数回の拡散について拡散重み付けされた画像を繰り返すことと、
前記拡散測定に基づいて統計的情報を得ることと、
前記統計的情報から少なくとも1つの骨の性質を抽出して各ボクセルについて骨構造の指標を得ることと、
骨試料全体について前記骨の性質のマップを得ることとを含む手順。
【請求項6】
前記拡散重み付けされた画像を測定することは、PFGパルスシーケンス、次いでイメージングシーケンスを用いて拡散を測定することを含む請求項5に記載の手順。
【請求項7】
前記拡散重み付けされた画像を測定することは、DDIFパルスシーケンス、次いでイメージングシーケンスを用いて拡散を測定することを含む請求項5に記載の手順。
【請求項8】
骨中の特定のボクセルにおける構造的性質を得るための手順であって、
骨の試料内部で体積選択MRI法を用いて拡散重み付けされたシグナルを測定することと、
複数回の拡散について拡散重み付けされたシグナルを繰り返すことと、
前記拡散測定に基づいて統計的情報を得ることと、
前記統計的情報から少なくとも1つの骨の性質を抽出して前記ボクセルについて骨構造の指標を得ることとを含む手順。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−130759(P2012−130759A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−47954(P2012−47954)
【出願日】平成24年3月5日(2012.3.5)
【分割の表示】特願2008−552528(P2008−552528)の分割
【原出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(500017863)シュルンベルジェ ホールディングス リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】Schlumberger Holdings Limited
【Fターム(参考)】