説明

骨欠損部充填材料およびその製造方法

【課題】骨再建能力を有効に導き出すための化学組成物の徐放システムと患部へのフィッティングを良好にする柔軟性のある綿状の三次元立体構造を持つとともに、高い細胞進入性が期待できる生体吸収性の骨欠損部充填材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させるとともに、平均直径が10μm以上の繊維状物質を生成できる粘度に調整された溶液を用いて、エレクトロスピニング法による紡糸を実施し、この紡糸を送風下で行うことで、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有し、平均直径が10μm以上の繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造体を生成する。二次元構造の不織布では、平均直径が10μmのときに高い細胞進入性が得られたことから、この綿状の三次元立体構造体も、高い細胞進入性を有することが期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔や顎顔面手術、整形外科手術の分野において利用される骨欠損部分に充填する骨修復材料として有用な生体活性材料、とくに骨との親和性を高め、かつ生体内で吸収される性質を有する生体吸収性の生分解性樹脂との複合体繊維を骨格とする三次元立体構造体を有する骨欠損部充填材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨欠損部に埋入されると、骨と反応して直接化学結合する材料は生体活性材料と呼ばれ、さらに、反応が材料表面に限定される表面活性材料と、反応が材料の内部にまでおよび次第に骨と置き換えられていく生体吸収性材料に分けられる。表面活性材料としては水酸アパタイトセラミックス(例えばHOYA製の商品名アパセラム)、生体吸収性材料としてはβ型リン酸三カルシウムセラミックス(例えばオリンパステルモバイオマテリアル製の商品名オスフェリオン)が実用化されている。
【0003】
炭酸カルシウム(CaCO)、石膏(CaSO4・2H2O)についても、生体吸収性であることが知られている。しかし、強度や靱性は低く機械的に加工することも容易ではない。一方、ポリ乳酸やポリグリコール酸、あるいはその共重合体、さらにはポリカプロラクトンなどの生分解性高分子は柔軟性に富み、機械加工も容易であるが、生体内で分解されて排出されるという形態の生体吸収性であり、骨形成性は示さない。また分解される過程で乳酸となるなど酸性化し、周囲組織に影響を及ぼすことがあるという報告も一部にはなされている。そこで、これらの無機化合物と有機化合物を複合して骨形成性と生体吸収性を持たせ、さらには機械的性質も向上させる研究がされてきた。例えば、ポリ乳酸と炭酸カルシウムを複合して生体吸収性材料を作製する方法が、特許文献1に記載されている。炭酸カルシウムの中でも水への溶解度が高いバテライトを主成分とするものとポリ乳酸等の生分解性高分子化合物を混合して生体吸収性材料を合成する方法が報告されている。ポリ乳酸が分解して酸性化しても炭酸カルシウムが溶解することで緩衝効果を発揮し、pHは常に中性付近で保たれるという利点もある。
【0004】
超高齢化社会における健康維持において、咀嚼能力や運動能力の維持確保は極めて重要であり、骨欠損には一刻も早い治癒が望まれている。骨形成能を向上させるために生体吸収性膜に骨形成伝導剤(特許文献2参照)、成長因子または骨形態発生因子(特許文献3、4参照)を含有させる試みもあるが、このような因子を取り扱うことは容易ではない。骨の自己再生をより確実に早くさせる骨再建能力に優れた生体吸収性材料の開発が求められている。
【0005】
最近の生体関連材料の研究技術動向を見ると、材料と骨とを結合させるという材料設計から、骨を再生させるための材料設計に研究内容が移行しており、骨形成に及ぼすケイ素の役割が注目され、ケイ素含有を特徴とした材料設計が見られるようになった(非特許文献1参照)。例えば、ケイ素の徐放により細胞への遺伝子的働きかけが行なわれ、骨生成が促進されることが報告されている(非特許文献2参照)。また、3種の炭酸カルシウム(カルサイト、アラゴナイト、バテライト)とポリ乳酸の複合体を擬似体液(SBF)に浸漬させると、最も短時間で骨と類似した組成や形態を持つ水酸アパタイトが材料表面に生成するものはバテライトとポリ乳酸の複合体であることが示されている(非特許文献3参照)。これらのことから、ケイ素を徐放するバテライトを用いることが骨再建の速い材料を提供するための重要な手段となる。
【0006】
骨欠損部充填材料の使用にあたっては、患部を切開し、患部を十分に埋める大きさの緻密質あるいは多孔質の材料を直接埋め込む、あるいは、顆粒状の材料を充填する、という方法がとられる。
【0007】
骨形成を確実にするためには、患部に隙間無く材料が埋入されていることが望ましいが、緻密質あるいは多孔質の材料の場合、患部の形状にあわせて加工するのは容易ではなく、また、顆粒状の材料を充填した場合には、術後に患部から脱落することが多く、対策が必要であった。
【0008】
一方、患部に充填する方法ではないが、骨形成に寄与しない細胞や組織の骨欠損部への侵入を防ぎ、骨の自己再生能力を活かし、骨を再建させるために欠損部を覆う遮蔽膜を用いる骨再生誘導法も知られている。これは、生体が本来持っている治癒力を利用して骨欠損を治癒するものであって、特許文献5には、ケイ素溶出型炭酸カルシウム(バテライト)と生分解性樹脂とを主成分とする不織布層と、生分解性樹脂を主成分とする不織布層との二層構造を有する骨再生誘導膜とその製造方法が記載されている。この膜ではマウス由来骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)の増殖性が良好で、兎の頭蓋骨に設けた骨欠損部を被覆した場合に、その膜内に旺盛な骨形成が見られたことが報告されている(非特許文献4参照)が、厚さが230〜300μmであるため骨欠損部充填材料として用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−294673号公報
【特許文献2】特開平6−319794号公報
【特許文献3】特表2001−519210号公報
【特許文献4】特開2006−187303号公報
【特許文献5】特開2009−61109号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】都留寛治、小川哲朗、大串始、「生体関連材料の研究技術および標準化の動向」、セラミックス、41, 549-553 (2006)
【非特許文献2】H.Maeda, T.Kasuga and L.L.Hench, “Preparation of Poly(L-lactic acid)-Polysiloxane-Calcium Carbonate Hybrid Membranes for Guided Bone Regeneration”, Biomaterials, 27, 1216-1222 (2006)
【非特許文献3】H.Maeda, T.Kasuga, M.Nogamiand Y.Ota, “Preparation of Calcium Carbonate Composite and Their Apatite-Forming Ability in Simulated Body Fluid”, J.Ceram.Soc.Japan, 112, S804-808 (2004)
【非特許文献4】T.Wakita, A.Obata and T.Kasuga, “New Fabrication Process of Layered Membranes Based on Poly(Lactic Acid) Fibers for Guided Bone Regeneration”, Materials Transactions, 50 [7], 1737-1741 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このため、骨再建能力を有効に導き出すための化学組成物の徐放システムと患部へのフィッティングを良好にする柔軟性のある三次元立体構造を持つ生体吸収性骨欠損部充填材料が望まれている。
【0012】
そこで、本発明者は、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させた溶液またはスラリーに、生分解性樹脂より比誘電率の大きな水を添加した溶液を用い、電圧印加装置によりコレクターに正電荷を印加し、シリンジのノズルには電荷を印加せずアースとしてエレクトロスピニング法を実施し、コレクター上に生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有する骨欠損部充填材料およびその製造方法を発明し、特願2009−163320号として出願している。
【0013】
また、三次元立体構造体ではないが、上記特許文献5に記載のような不織布では、不織布の気孔径の大きさは、不織布を構成する繊維状物質の直径の大きさに依存し、繊維状物質の平均直径が10μmのときに、平均直径が10μmよりも小さいときと比較して、高い細胞進入性が得られることが、本発明者の実験結果よりわかっている。このため、不織布の内部に細胞が進入して成長、増殖するためには、繊維状物質の平均直径は10μm以上であることが望ましいと考えられる。
このことから、綿状の骨欠損部充填材料においても、繊維状物質の平均直径を10μm以上とすることによって、高い細胞進入性を有することが期待できる。
しかし、特願2009−163320号に記載の骨欠損部充填材料を生成する方法では、繊維状物質の平均直径が10μm以上である綿状の骨欠損部充填材料を生成することができなかった。
【0014】
本発明の目的は、骨再建能力を有効に導き出すための化学組成物の徐放システムと患部へのフィッティングを良好にする柔軟性のある綿状の三次元立体構造を持つ生体吸収性骨欠損部充填材料であって、高い細胞進入性が期待できる骨欠損部充填材料およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させるとともに、平均直径が10μm以上の繊維状物質を生成できる粘度に調整された溶液またはスラリーを用いて、エレクトロスピニング法による紡糸を実施し、この紡糸を送風下で行うことで、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有する骨欠損部充填材料を生成することを特徴としている。
ここで、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させるとともに、平均直径が10μm以上の繊維状物質を生成できる粘度に調整された溶液またはスラリーを用いて、エレクトロスピニング法による紡糸を実施した場合、溶液またはスラリーがノズルからコレクターに向かって飛び出し、飛び出した溶液またはスラリーが電界の力によって引き伸ばされて繊維化して、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質がコレクター上に堆積する。このとき、コレクター上に堆積した繊維状物質が溶剤を含んでいると、繊維状物質が軟化して折り重なることで二次元的に繊維状物質が堆積して不織布が形成されてしまう。
【0016】
これに対して、本発明によると、紡糸を送風下で行うことで、溶剤の揮発を促進させ、溶剤をほとんど含まない状態で繊維状物質をコレクターに到達させることができる。このため、コレクター上に堆積した繊維状物質は、溶剤をほとんど含まないので軟化せず繊維形状を維持でき、繊維状物質が折り重ならずに三次元的に堆積するので、平均直径が10μm以上である繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造体を生成することができる。この結果、本発明の骨欠損部充填材料は、平均直径が10μm以上である繊維状物質から構成されるので、高い細胞進入性を有することが期待できる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明では、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有し、繊維状物質の平均直径が10μm以上であることを特徴としている。請求項2に記載の骨欠損部充填材料は、請求項1に記載の発明によって得られるものである。これによると、繊維状物質の平均直径が10μm以上であるので、骨欠損部充填材料が高い細胞進入性を有することが期待できる。
【0018】
なお、繊維状物質の平均直径が100μmよりも大きいと、骨欠損部充填材料が有する空隙の大きさが数百μm以上となり、空隙を構成する繊維状物質同士にまたがって細胞が空隙内に存在することができず、細胞が繊維状物質の表面上にのみ存在してしまうので、本発明のように、繊維状物質の平均繊維径を100μm以下とすることが好ましい。また、繊維状物質が太すぎると、生体内で分解されるまでの期間が長くなってしまうので、3ヶ月未満等の早期に分解されるようにするという観点では、繊維状物質の平均繊維径を50μm以下とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態で用いるエレクトロスピニング装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施例1での紡糸後のエレクトロスピング装置の外観を示す写真である。
【図3】実施例1で作製した三次元立体構造体を構成する繊維状物質のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好ましい実施の形態では、エレクトロスピニング法による紡糸を実施し、この紡糸を送風下で行うことで、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有する骨欠損部充填材料を製造する。
【0021】
図1に、本実施形態で用いるエレクトロスピニング装置の概略構成を示す。図1に示すように、エレクトロスピニング法による紡糸は、電圧印加装置によりシリンジのノズルに電荷を印加し、即ち、紡糸溶液にプラス電荷をかけることで実施される。これにより、ゆっくりとノズル先端から溶液を押し出すと、表面張力より電界の効果が大きくなったときに、溶液は細く引き伸ばされ繊維状となってアース電極のコレクターに向かい、溶媒(溶剤)を揮発させながらコレクター上に到達する。この結果、コレクター上に繊維状物質が堆積する。
【0022】
本実施形態では、この紡糸を送風下で行う。すなわち、図1に示すように、紡糸の際に、送風機を用いて、ノズルとコレクターとの間の空間に向けて送風する。これは、溶剤の揮発を促進させるためである。
【0023】
送風の向きについては、溶剤の揮発を促進できれば特に限定されず、ノズルとコレクター間に対して(側方)横から送風したり、ノズル側からコレクター側に向けて送風したり、コレクター側からノズル側に向けて送風したりしても良い。
【0024】
ただし、綿状に堆積した繊維状物質の回収のしやすさから、図1に示すように、ノズルとコレクターとの間に形成される空間の側方の両側に、送風機と回収器(回収箱)とを配置して、ノズルとコレクターとの間の空間に対して側方から送風することが好ましい。
【0025】
また、送風量は、溶剤の揮発を促進させて、綿状に堆積した繊維状物質が回収できるように設定すれば良い。
【0026】
紡糸溶液として、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させた溶液またはスラリーを用いる。
【0027】
生分解性樹脂としては、好ましくはポリ乳酸(PLA)、あるいはポリ乳酸とポリグリコール酸(PGA)との共重合体の他、使用可能な生分解性樹脂として、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリカプロラクトン(PCL)や、PLA、PGA、PEG及びPCLの共重合体のような合成高分子の他、フィブリン、コラーゲン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、キトサンのような天然高分子が挙げられる。
【0028】
溶剤としては、クロロホルム、ジクロロメタン等が挙げられる。なお、ポリ乳酸とポリグリコール酸(PGA)等の共重合体を用いる場合では、溶剤としてアセトンを使用できる場合もある。
【0029】
生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させた溶液として、代表的には、PLAをクロロホルム(CHCl3)もしくは、ジクロロメタンに溶解させ、これにアミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の水溶液を混合した溶液を用いることができる。このときのPLA:APTESの重量比は1:0.01〜1:0.5が可能であるが、多量にAPTESを加えても水溶液に浸漬すると初期にほとんどが溶出してしまうため効果が薄く、好ましくはPLA:APTES=1:0.01〜1:0.05(重量比)である。PLA(分子量:20〜30万kDa程度)の濃度は8〜15wt%が紡糸しやすい。良好な紡糸状態を維持するためにジメチルホルムアミドまたは、メタノールをクロロホルムやジクロロメタンに対して50wt%程度まで適宜加えてもよい。
【0030】
また、シロキサンが分散された炭酸カルシウム微粒子(Si-CaCO3)を例えば特開2008−100878号公報に記載される方法を用いて調製し、これを最大60重量%までPLAと混合することで、生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質とすることもできる。PLA に対するSi-CaCO3の混合量としては10〜60重量%が好適である。これは、60重量%を超えると均一な混合が難しく、10重量%より少ないと、Si-CaCO3のケイ素の徐放による効果が顕著に現れないからである。予め所定の割合のPLAとSi-CaCO3微粒子を加熱ニーダーで混練して調製した複合体を上記の溶媒に溶かして紡糸溶液とする方法が微粒子の均一な分散化をはかるために好適である。
【0031】
紡糸溶液の粘度については、平均直径が10μm以上の繊維状物質を生成できる粘度に調整する。エレクトロスピニング法による紡糸では、紡糸溶液の粘性が高いほど、得られる繊維状物質の直径が太くなるからである。具体的には、溶液の濃度やPLAの分子量等を設定する。
【0032】
なお、繊維状物質の平均直径が100μmよりも大きいと、骨欠損部充填材料が有する空隙の大きさが数百μm以上となり、空隙を構成する繊維状物質同士にまたがって細胞が空隙内に存在することができず、細胞が繊維状物質の表面上にのみ存在してしまう。また、繊維状物質が太すぎると、生体内で分解されるまでの期間が長くなってしまうので、3ヶ月未満等の早期に分解されるようにするという観点では、繊維状物質の平均繊維径を50μm以下とすることが好ましい。このため、紡糸溶液の粘度については、生成する繊維状物質の平均直径が100μm以下、より好ましくは、50μm以下となるように、粘度を調整する。
【0033】
ところで、本発明者の実験によれば、本実施形態と同じ紡糸溶液を用いても、紡糸を無風状態で行うと、綿状の三次元立体構造体は生成されず、繊維状物質が二次元に堆積した不織布しか生成できなかった。これは、コレクター上に堆積した繊維状物質が溶剤を含んでいるために、繊維状物質が軟化して折り重なることで不織布が形成されたものと考えられる。
【0034】
これに対して、本実施形態のように、紡糸を送風下で行うことで、溶剤の揮発を促進させ、溶剤をほとんど含まない状態で繊維状物質をコレクターに到達させることができる。このため、コレクター上に堆積した繊維状物質は、溶剤をほとんど含まないので軟化せず繊維形状を維持でき、繊維状物質が折り重ならずに、多数の繊維が送風方向に流されるうちに互いに絡まって三次元的に堆積する。つまり、溶媒の乾燥と繊維の絡み合い工程を同時に達成することができる。これにより、本実施形態によれば、平均直径が10μm以上である繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造体を生成することができる。
【0035】
ちなみに、溶剤の揮発を促進させる手段としては、送風の他に加熱が考えられる。すなわち、ノズルとコレクター間の空間を加熱しながら紡糸を行うことが考えられる。しかし、本発明者が、本実施形態と同様の紡糸溶液を用いて、ノズルとコレクター間を種々の温度で加熱しながら紡糸を行ったが、綿状の三次元立体構造体は得られなかった。加熱の場合、送風下のような強制的な繊維の絡み合い工程がないことがその原因と考えられる。このことから、綿状の三次元立体構造体を得るために溶剤の揮発を促進させる手段としては、紡糸時に送風することが特に有効であると言える。
【0036】
以上の通り、本実施形態によれば、ポリ乳酸(PLA)のような生分解性樹脂を主成分とし、シロキサンを含有させた繊維状物質から構成される三次元立体構造を有し、三次元立体構造に由来した柔軟性のある骨欠損部充填材料を得ることができる。
【0037】
そして、エレクトロスピニング法による紡糸によって得られる三次元立体構造体の気孔径の大きさは、繊維状物質の直径の大きさに依存し、直径が小さいと気孔径が小さくなり、直径が大きいと気孔径が大きくなる傾向がある。このため、本実施形態の三次元立体構造体は、繊維状物質の平均直径が10μm未満である三次元立体構造体と比較して、大きな気孔径を有している。
【0038】
ここで、上述の通り、不織布においては、繊維状物質の平均直径が10μmのときに、平均直径が10μmよりも小さいときと比較して、高い細胞進入性が得られることが、本発明者の実験結果よりわかっており、細胞が進入して成長、増殖するためには、繊維状物質の平均直径は10μm以上であることが望ましいと考えられる。
【0039】
したがって、本実施形態によって製造される三次元立体構造体においても、高い細胞進入性を有することが期待できる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明に係る三次元立体構造体の製造方法の実施例について説明する。以下の実施例についての説明は本発明をより深く理解するためのものであって、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例で用いた原料〕
・ポリ乳酸(PLA):LACEA(三井化学, Mw:140 kDa)
・クロロホルム(CHCl3):特級試薬、純度99.0%以上、キシダ化学株式会社
・シロキサン含有炭酸カルシウム(Si-CaCO3):消石灰(ミクロスターT、純度96%以上、矢橋工業株式会社)、メタノール(特級試薬、純度99.8%以上、キシダ化学株式会社)、APTES、炭酸ガス(高純度液化炭酸ガス、純度99.9%、大洋化学工業株式会社)を用いて調製された、シロキサンを含む(ケイ素イオン量換算で2.9重量%)バテライト
〔実施例のエレクトロスピニングの条件〕
紡糸溶液供給速度:0.20 ml/min、印加電圧:20kVでノズル側に印加、プレートコレクター側に接地、ノズルとプレートコレクター間の距離:200 mm
(実施例1)
PLAとSi-CaCO3を加熱ニーダーで180℃、10分間混練してSi-CaCO3を30、60重量%含有するSi-CaCO3/PLA複合体を調製した。以下では、Si-CaCO3を30、60重量%含有するSi-CaCO3/PLA複合体を、それぞれ、SiPVH30、SiPVH60と記載する。そして、Si-CaCO3/PLA複合体とクロロホルムとを混合して紡糸溶液を作製した。また、参考例としてPLAとクロロホルムとを混合した紡糸溶液を作製した。本実施例および参考例では、PLAをクロロホルムに対して10 wt%となるように溶液を作製した。作製した溶液の粘度は、PLA溶液が2368 [mPa・s]、SiPVH30溶液が3986 [mPa・s]、SiPVH60溶液が5312 [mPa・s]であった。
【0041】
また、図1に示すように、エレクトロスピング装置において、紡糸方向(ノズルとコレクター間を結ぶ方向)と垂直方向に送風機を設置し、その対面に繊維を回収するため、絶縁体(発泡スチロール)の回収箱を設置した。そして、作製した紡糸溶液を用いて、上記条件にてエレクトロスピングによる紡糸を実施し、Si-CaCO3/PLA三次元立体構造体を作製した。紡糸時では、風速を〜1m/sに設定して送風機から送風した。
【0042】
図2に、紡糸後のエレクトロスピング装置の外観を示す。図2に示すように、送風下で紡糸を行った結果、いずれの紡糸溶液を用いた場合でも、回収箱とコレクターとの間を中心に空間的に繊維が多く張り、綿状の三次元立体構造体が得られた。回収箱とコレクター間に引っかかった繊維自身がコレクターの役割を果たすことで、綿状の三次元立体構造体が得られたものと考えられる。
【0043】
図3に、得られた綿状の三次元立体構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図3に示すように、いずれの紡糸溶液を用いた場合においても、直径が10μm以上の繊維状物質を確認できた。また、SEM画像から任意の繊維40本を抽出して直径の平均値及び範囲を計測した結果、PLAの直径の平均値及び範囲は15μm及び9〜23μmであり、SiPVH30の直径の平均値及び範囲は18μm及び9〜32μmであり、SiPVH60の直径の平均値及び範囲は21μm及び14〜32μmであった。
【0044】
なお、参考例では、PLAを成分とし、シロキサンを含まない紡糸溶液を用いて、平均直径が10μm以上の繊維状物質から構成された綿状の三次元立体構造体が得られたことから、参考例で用いた紡糸溶液にシロキサンを含有させた場合においても、紡糸溶液の粘度を適切に設定すれば、平均直径が10μm以上の繊維状物質から構成された綿状の三次元立体構造体が得られるものと推測する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する物質を溶剤に溶解させるとともに、平均直径が10μm以上の繊維状物質を生成できる粘度に調整された溶液またはスラリーを用いて、エレクトロスピニング法による紡糸を実施し、前記紡糸を送風下で行うことで、前記生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有する骨欠損部充填材料を生成することを特徴とする骨欠損部充填材料の製造方法。
【請求項2】
生分解性樹脂を主成分としシロキサンを含有する繊維状物質から構成される綿状の三次元立体構造を有し、前記繊維状物質の平均直径が10μm以上100μm以下であることを特徴とする骨欠損部充填材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−212039(P2011−212039A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80139(P2010−80139)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】