説明

骨髄細胞から歯を作製する方法

本発明は、骨髄細胞を用いて歯の原基を作製することができ、また骨髄細胞は細胞集団の精製及び増殖の必要なく歯を作製するのに使用できるという発見に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の生成に関し、また特に、歯を形成するための骨髄細胞の使用に関する。
本明細書中で参照される全ての文献は、そのまま本明細書に含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
歯は、動物の生存に必須の器官であって、臨床上及び/又は美容上の重要性は明白である。歯の交換が望まれる多数の事例が存在しているが、現在の治療法は人工的な義歯又はインプラントに限られている。
歯の原基の外植片は、in vitroで培養することができ、遺伝子及び/又はタンパク質の導入や組織再構成(tissue recombination)などを含む様々な操作研究を可能にする。
歯の発生は、間葉系統由来の細胞と上皮系統由来の細胞との組合せを必要とする。哺乳動物の歯の発生は、器官形成の間の上皮/間葉の相互作用を研究するモデル系として認識されている。歯は、哺乳動物の胚形成の初期(マウスでは11日、ヒトでは6週間)に、口腔上皮細胞と神経冠由来の間葉細胞という2種類の細胞間の一連の交換的(reciprocal)相互作用から、発生を始める。
歯の発生に対する誘導シグナルは上皮から来て、上皮上の応答する間葉細胞は、歯原性細胞となるようにプログラムされている(参考文献2)。
歯原性間葉細胞は、続いて、更なる歯の発生のための指令シグナルを提供する(参考文献3)。上皮細胞は、最終的にエナメル形成を担うエナメル芽細胞を生じ、間葉細胞は、象牙質及びセメント芽細胞を生成する象牙芽細胞を形成する。
遺伝子発現研究及び移植実験によって、このような個々の指令シグナルの正体が明らかにされてきた。FGF8、BMP4及びSHHは、口腔上皮に由来する初期の指令シグナルとして確認されている(参考文献3)。BMP類、FGF類及びアクチビンは、間葉由来の初期シグナルのうちに属する(参考文献3及び4)。
歯の原基の生成に対する従来技術のアプローチは、in vitro組織組換えに含まれる。そのようなアプローチでは、2つの異なる種類の組織が動物の胚から別個独立に解剖され、それらの組織が研究室で組換えられる。次に、一方の組織由来のシグナルが、他方における歯の原基の形成を誘導し得る。このようなアプローチは、多大な外科的医療技術を伴う高度に訓練された作業者によって行なわれる労働集約的方法である。
【0003】
別のアプローチでは、Youngらが、初期の歯牙から分離した細胞を基質上で培養して動物の成体に移植すると歯を形成できるということを示しており、これにより、上皮性幹細胞及び間葉性幹細胞の両方の存在が示唆される(Young, C.S., Terada, S., Vacanti, J.P., Honda, M., Bartlett, J.D., Yelick, P.C. (2002) Tissue engineering of complex tooth structure on biodegradable polymer scaffold. J.Dent.Res. 81, 695-700)。
ヒトを治療する目的に対して、主たる障害は移植拒絶の可能性の問題であり、そのような拒絶反応を回避するため、ホスト(被移植者)の免疫抑制又は移植細胞の遺伝的操作のいずれかを必要とし、また移植細胞を得ることの難しさも主たる障害である。従って、排他的な各患者由来の細胞の使用が、このような拒絶反応の問題を回避するだろう。
Sharpe(国際特許出願第01/60981号)は、培養した胚性幹細胞が、胚性幹細胞からの歯の原基の生成を可能にする上皮系統及び間葉系統を生じることを示した。
胚性幹細胞のような幹細胞の使用は、細胞集団の精製及び増殖を必要とする。これには、複雑且つ高度に熟練を要する分離技術及び操作技術が伴う。従って、移植用の歯の前駆細胞を形成するための細胞の分離や精製を必要としない供給方法は、そのような移植片の生成を非常に容易にするであろう。
胚性幹細胞の使用に関連する別の問題は、入手可能な胚性幹細胞についての利用可能性及び容易さが制限されていることである。
成体の(すなわち、非胚性の)骨髄細胞は、(a)造血細胞と(b)間質(間葉)細胞とを生じる幹細胞及び多能性細胞の集団を含むことが知られている。しかしながら、骨髄の造血細胞は、非造血組織を生じない(Wagers et al)。間葉性幹細胞は、骨、軟骨、脂肪,筋肉、腱、造血支持間質及びメサンギウム組織といった組織の同質に分化する種類の細胞を生じるが、複合性の細胞系統の器官や、器官の発生に2以上の細胞系統の寄与を必要とする歯のような器官を形成できることは、知られていない。
本発明は、従来技術に付随する少なくとも幾つかの問題を克服することに努める。
【発明の開示】
【0004】
(発明の概要)
驚くべきことに、骨髄細胞を用いて歯及び歯の原基を作製できることを発見した。従って、成人の骨髄細胞(すなわち、完全に成熟した動物又は未成熟な動物(例えば子供)から得られ得る非胚性細胞)は、歯の前駆細胞や歯の原基及び歯などの、より完全に発生した構造物を生成することにおいて、胚性神経冠由来の間葉細胞に取って代わることができる。
骨髄細胞はいずれの個人からも得ることができるため、治療的な歯の形成に骨髄細胞を使用することは、(a)移植拒絶反応の問題の回避と、(b)胚性幹細胞と比較して、より広範な多能性細胞成分の入手し易さとを提供する。
驚くべきことに、骨髄細胞が、細胞集団の精製及び増殖の必要なく、本発明の方法に用いられることも発見した。
本発明によって与えられる様々な利点が存在している。
本発明は、労力節約のため、有利である。
更に、本発明は、多段階の外科的な組織再構成を伴わないことから、有利である。
本発明は、胚性細胞の使用を必要とせず、また非胚性細胞から歯の原基/歯を完全に形成し得ることから、有利である。
有利には、本発明の方法を用いて、通常は歯を形成しない非歯性組織から、歯の原基/歯を完全に形成することができる。
本明細書において開示される歯の発生に関する教示は、歯のin vitro生成に用いられ得ること、最終的には成人の口腔での歯のin vivo生成に用いられ得ることが予見される。
【0005】
(発明の詳細な説明)
第一の観点によると、本発明は、骨髄細胞を用いて歯の原基を作製する方法を提供し、その方法は、
i) 骨髄細胞を、歯の前駆細胞を生成するのに充分な時間、口腔上皮誘導シグナルの存在下でインキュベートすること;
ii) 得られた歯の前駆細胞を、歯の原基を生成するのに充分な時間、少なくとも1つの上皮細胞の存在下でインキュベートすること;
を含む。
驚いたことに、骨髄細胞が、細胞集団の精製及び増殖の必要なしに、本発明の方法に用い得ることも発見した。従って、本発明の一態様では、骨髄細胞は、特定の種類の細胞について精製されない。「特定の種類の細胞についての精製」という用語は、未精製の細胞集団中に存在する1又は2以上の種類の他の細胞を除去することによって、存在する特定の種類の骨髄細胞の割合を増加させるいずれの方法をも指す。
好ましくは、未精製の骨髄細胞は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行なわれない。あるいは、未精製の骨髄細胞は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行なわれる。
本発明の別の態様では、骨髄細胞が特定の種類の細胞について精製され、例えば、存在する骨髄幹細胞の割合が増加する。本発明の一態様では、本発明の第一の観点において使用される骨髄細胞が、骨髄幹細胞である。精製された細胞集団を得るための技術は、当業者に周知であろう。
好ましくは、精製された骨髄細胞は、(精製の前又は後のどちらか;好ましくは精製後に)増殖が行なわれる。このようにして、存在する特定の種類の細胞が、増加した数で得られ得る。
【0006】
本発明の第二の観点では、歯の前駆細胞を作製する方法が提供され、その方法は、骨髄細胞を口腔上皮誘導シグナルの存在下でインキュベートして歯の前駆細胞を生成することを含み、この場合、前記骨髄細胞は、特定の種類の細胞について精製されていない。
好ましくは、未精製の骨髄細胞は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行なわれていない。あるいは、未精製の骨髄細胞は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行なわれている。
好ましくは、本発明の第一及び第二の観点では、少なくとも約100個、約500個、約1000個、約2500個、約5000個、約7500個、約10000個又は約15000個の骨髄細胞が、口腔上皮誘導シグナルの存在下でインキュベートされる。
骨髄細胞を得る方法は、当業者には周知であろう。
骨髄細胞は、単一個体から得られるのが好ましい。あるいは、骨髄細胞は、複数の個体から得られてプールされてもよい。
骨髄細胞は、複数の方法で、誘導/相互作用のために調製され得る。例えば、骨髄細胞はペレット化されて、小さな凝集体を形成してもよい。凝集体は、フィルタ上でペレット化して得られてもよい。そのようなフィルタは、予めゼラチン化されたミリポアフィルタのように、いずれか適切な基質を含んでいてもよい。便宜上、フィルタは、例えばFergusonらの文献(1998)に記載されるように、金属格子で支持されていてもよい。骨髄細胞は、ゲル又は他の適切な半固形の支持体中に作られた、小さな穴の中にペレット化されてもよい。ゲルは、コラーゲンゲルであってもよい。ゲルは、Collaborative Biomedical Productsのマトリゲル(Matrigel)又は同様な基質であってもよい。
場合により、上皮が骨髄細胞上にかぶさって前記穴を覆ってもよく、次にゲルの薄い層で覆われてインキュベートされてもよい。
このような様式で使用されるゲルは、膜及び/又は金属格子によって支持されているものであってもよい。
【0007】
骨髄細胞は、口腔上皮誘導シグナルと接触させられる。好ましくは、骨髄細胞は、FGF8、BMP4、SHH及びWNTSのうちのいずれか1つ、2つ、3つ又は全部の組合せと接触させられる。下で考察するように、口腔上皮誘導シグナルは種々の方法によって提供され得るが、そのような方法の幾つかは、胚性口腔上皮細胞の存在を必要としない。
歯の前駆細胞は、歯の前駆細胞に特有のある種の分子マーカーを発現している細胞である。例えば、細胞が1又は2以上の歯の間葉細胞マーカーを発現している場合、その細胞は歯の前駆細胞であると考えられよう。そのようなマーカーの例としては、Barx1、Dlx2、Dlx5、Msx1、Pax9、アクチビンβA、Lhx6、Lhx7などが挙げられる。これらのマーカー類は、ウエスタンブロット、免疫蛍光法、放射性in situハイブリダイゼーション又は他の適切な手法などの適切な方法によって検出することができる。
野生型の歯において、蕾状期のBarx-1遺伝子の発現は、下顎及び上顎の臼歯領域で主に見出され、歯の間葉に限らず、神経冠由来の間葉細胞の広範な領域に存在している(Ferguson et al., 1998 : Tissier-Seta et al., 1995)。
Msx-1、Lef-1及びBmp-4は、上皮性シグナル伝達に応答して、歯の間葉(すなわち、切歯及び臼歯の上皮性歯芽の陥入に関連して、凝縮している間葉細胞)で発現されている(Ferguson et al 1998.,;Mackenzieet al., 1991;Vainio et al., 1993)。
Dlx-2の発現は、上皮性歯芽を取り囲んで隣説する間葉細胞において主に見出されるが、上皮性歯芽の頬側上の歯上皮にも存在している(Ferguson et al., 1998;Thomas et al., 1995;Qui et al., 1997)。
【0008】
Pax-9、Lhx6及びLhx7は、歯芽形成に先立って初期の歯の間葉で発現されており、続いて、蕾状期に凝集している間葉で発現されている(Ferguson et al., 1998;Neubuser et al., 1997)。
Gli-3は、E 10.5から、間葉で発現されている。蕾状期及び帽状期のGli-3の発現は、Par-9の発現よりも僅かに局在しており、歯乳頭及び歯嚢に集中している(Ferguson et al., 1998;Hardcastle and Sharpe, 1998)。
細胞表面ヘパリン硫酸プロテオグリカンであるSyndecan-1は、歯の間葉において一過的に発現されており、陥入している歯上皮の真下における歯の間葉細胞の凝縮を調節すると考えられている(Ferguson et al., 1998;Thesleff et al., 1996)。
Tgfβ-1は、歯の間葉において見出されており、帽状期では、切歯の上皮には乏しく、臼歯の歯上皮にのみ現れる(Ferguson et al., 1998;Vaahtokari et al., 1991)。
Tgfβ-3の発現は、顔の間葉には広く行き渡っているが、切歯及び臼歯の上皮性歯芽にすぐ隣接した凝縮している間葉細胞では実質的に発現を欠くようである(Ferguson et al., 1998;Chai et al., 1994)。
口腔上皮誘導シグナルとのインキュベーションは、歯の前駆細胞が生成するのに充分な時間行われる。好ましくは、その時間は少なくとも約12時間である。好ましくは、その時間は12〜82時間、好ましくは12〜72時間である。好ましくは、その時間は12〜24時間、12〜36時間又は12〜48時間である。
【0009】
国際特許出願第01/60981号で議論されているように、口腔上皮誘導シグナルは、種々の方法で提供することができ、例えば次のようなものが挙げられる:
(i) 胚性口腔上皮細胞を使用すること;
(ii) 胚性口腔上皮細胞ではないが、口腔上皮誘導シグナルを発現することによって、胚性口腔上皮細胞のシグナル伝達特性を真似る(emulate)細胞を使用すること;及び
(iii) 精製したタンパク質を使用すること。
本発明の第一及び第二の観点の一態様において、本発明の方法は、骨髄細胞を1又は2以上の胚性口腔上皮細胞の存在下でインキュベートして歯の前駆細胞を生成することを含む。
好ましくは、骨髄細胞は、胚性口腔上皮の存在下でインキュベートされる。
国際特許出願第01/60981号で議論されているように、口腔上皮誘導シグナルの提供における胚性口腔上皮細胞の役割は、特に、胚性口腔上皮のシグナル伝達特性を真似る誘導性歯原性細胞を使用することで置き換えられる。国際特許出願第01/60981号は、胚性口腔上皮の特性を有するように操作された培養細胞から歯原性上皮細胞を生成することができ、よって、胚性口腔上皮を、操作された上皮で置き換えることが可能となることを開示している。歯の前駆体の生成における胚性口腔上皮細胞の役割に取って代わり得る細胞の例は、国際特許出願第01/60981号で提供されており、例えば、不死化した細胞株(例えば、歯上皮細胞の不死化した株に由来する上皮細胞)や、ES細胞由来の(すなわち、培養細胞由来の)上皮細胞などが挙げられる。
【0010】
従って、本発明の第一及び第二の観点の別の態様では、骨髄細胞が、胚性口腔上皮細胞のシグナル伝達特性を真似る1又は2以上の誘導性歯原性細胞の存在下でインキュベートされて、歯の前駆細胞を生成する。
誘導性歯原性細胞は、非口腔上皮性の細胞(例えば、歯上皮細胞の不死化した株に由来する上皮細胞)から生成されてもよい。好ましくは、誘導性歯原性細胞が、不死化した細胞株又は幹細胞(例えば、ES細胞)から生成される。
誘導性歯原性細胞は、好ましくは、FGF8、BMP4、SHH、Pitx2及びIslet1のうちのいずれか1つ、2つ、3つ、4つ又は全てを発現する。
国際特許出願第01/60981号で議論されているように、初期の口腔上皮のシグナル伝達特性であるかどうかを分析して決定できる分子マーカーは、よく確立されている。一例を挙げると、FGF8、BMP4、SHH及びPitx2(口腔上皮の最初のマーカー)の発現が分析されて、どの細胞が口腔上皮細胞に取って代わり得る可能性を有するかを決定することができる。細胞株の歯形成誘導能力を試験する方法についても、国際特許出願第01/60981号で開示されている。
国際特許出願第01/60981号で議論されているように、上皮細胞が歯形成を適切に誘導しない場合は、誘導シグナル伝達分子(FGF8、BMP4、SHHなど)の発現がコラーゲン移植片培養でアッセイされてもよく、また、喪失しているシグナルは、ビーズ上の精製されたタンパク質で置き換えられるか、又は遺伝子発現構築物のエレクトロポーレーションで置き換えられる。
あるいは、骨髄細胞での歯形成を誘導するのに必要な分泌シグナルの組合せは、国際特許出願第01/60981号に記載されるビーズ送達システムの使用よるものなどのような、精製されたタンパク質の使用が提供されてもよい。
従って、本発明の第一及び第二の観点の別の態様では、骨髄細胞が、口腔上皮誘導シグナルを提供するタンパク質含有ビーズ又はタンパク質被覆ビーズの存在下でインキュベートされて、歯の前駆細胞を生成し得る。当業者であれば、適切なタンパク質濃度を容易に案出できるであろう。
【0011】
歯の前駆細胞が作製されると、歯形成誘導能力は歯の前駆細胞に属し、ナイーブ(未分化)上皮細胞は歯の前駆細胞からのシグナルに応答して、歯の発生を可能にする。培養に使用される成長培地が歯原性上皮の生成に必要とされる因子類を含まない場合は、培養液に必要な因子類を補充してもよい。
有利なことに、本発明の第二の観点の歯の前駆細胞は、歯の原基の生成にも、又は更に完全に発生した歯の生成にも使用することができる。
本技術分野において「歯の原基」という用語は周知であり、完全な生物学的特徴を備えた歯へと発生できる構造物を指す。
歯の前駆細胞の1又は2以上の上皮細胞の存在下でのインキュベーションは、歯の原基を生成するのに充分な時間行われる。好ましくは、その時間は少なくとも約12時間である。好ましくは、歯の前駆細胞は、口腔上皮の存在下でインキュベートされる。
好ましくは、1又は2以上の上皮細胞が、口腔上皮細胞;胚性上皮細胞;口腔胚性上皮細胞;又は、幹細胞(胚性幹(ES)細胞若しくは成体幹細胞)又は不死化した細胞株に由来する上皮細胞である。
本発明の第三の観点は、本発明の第二の観点の方法によって得られる、歯の前駆細胞を提供する。
本発明の第四の観点は、本発明の第一の観点の方法によって得られる、歯の原基を提供する。
【0012】
本発明の第一の観点の歯の原基は、in vitroで培養することができ、遺伝子及び/又はタンパク質の導入や組織再構成を含む種々の(生物学的)操作研究を可能にする。最も注目すべきは、操作された歯の原基を動物成体(例えば、人間やマウスなど)の腎臓被膜に移動させて、永久歯の発生の条件を呈示できるということである。
本発明の第五の観点は歯を作製する方法を提供し、その方法は、
(i) 本発明の第一の観点の方法によって生成した歯の原基を提供すること;
(ii) その歯の原基を哺乳動物の腎臓又は口腔内スペースに埋め込み、歯の原基を歯へと発生させること;
を含む。
好ましくは、本発明の第五の観点の方法は、歯の交換が必要な個体で実施される。
好ましくは、本発明の第五の観点の方法は、ヒト患者で実施される。
本発明の第六の観点は、歯を作製するための薬剤の製造における、本発明の第一の観点の歯の原基の使用に関する。好ましくは、歯の原基は、歯の交換が必要な対象者で、好ましくはヒト患者で、歯を作製するための薬剤の製造に使用される。
好ましくは、本発明の方法は、ヒト又はマウスの細胞を用いて行われる。
本発明は、歯の交換、特にヒト又はマウスの歯の交換に使用することができる。胚性の歯の原基が、例えば腎臓への移転を用いて、成体環境下で正常に発生及び成長できることが知られている(参考文献1及び4)。成体の腎臓及び眼のような部位は、主に適切な血液供給を可能にすることによって、適切な環境を提供するように思われる。
【0013】
歯の交換を可能にする一連の方法を開発し得ることに加えて、in situで正しい形状及びサイズに発生する歯が望まれる。歯の形状を決定する複数の遺伝子が既知であり、それらの遺伝子を操作することによって、歯の形状を変えることができる(参考文献1、4、7、8)。同様に、歯のサイズの変更をもたらすシグナル伝達事象の改変についても、実験的に示されている。
例えば、Wntシグナル伝達の阻害は、より小さな歯の発生をもたらす(参考文献9)。これらの知見は、本発明の方法に有利に用い得るであろう。
本発明の方法は、例えば、発生のために歯の前駆細胞又は歯の前駆細胞から得られた構造物を成体の顎へ移植することなどを介して、歯の発生に通常必要とされる胚性環境を成体環境で置き換えることに、有利に用いることができる。本発明の生成/移植された歯は、顎の骨に埋め込まれても成長及び発生し続けて、顎の骨に固着するようになる。
本発明が、培養中は歯形成経路をたどり、続いて哺乳動物の顎又は腎臓へ移植された場合は成熟した歯へと発生するように指令された細胞を提供することも考えられる。
本発明の利点は、培養中に骨髄細胞を歯形成シグナル(例えば、口腔上皮由来の歯形成シグナル)に暴露することによって、それに続く移植(例えば、腎臓移植又は顎への移植)に際して歯を形成するように骨髄細胞をプログラムできるということである。
本発明の利点は、顎への移植に続いて、歯の原基がうまく固着及び発生するということである。
【0014】
〔上皮マーカー〕
上皮マーカーの例としては、Pitx2、p21、Wnt7bなどが挙げられる。これらのマーカーは、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光法、放射活性in situハイブリダイゼーション又は他の適切な手法などの、いずれか適切な方法によって検出され得る。
歯胚上皮で発現しているのが知られている遺伝子としては、Bmp-4遺伝子、ソニック・ヘッジホッグ(Sonic hedgehog:Shh)遺伝子、CD44遺伝子、FGF8遺伝子、Pitx2遺伝子及びOtlx-2遺伝子が挙げられる。
野生型の胚では、Bmp-4は最初に歯上皮で発現されるが、Bmp-4の発現は、E 13.5から、歯芽の周囲の間葉へ移行する(Aberg et al., 1997)。E 13.5における間葉のBmp-4の発現は、この段階では発生が最も進んでいる下顎切歯のみに見出され、一方、上顎切歯及び臼歯の上皮ではBmp-4の発現が持続する(Ferguson et al., 1998)。
Shhは、初期の歯胚の肥厚している上皮で発現され、この初期段階において上皮からその基底にある間葉へ伝わり、間葉での遺伝子発現を誘導するシグナルの重要な成分であると考えられている(Bitgood and McMahon, 1995;Thesleff and Sharpe, 1997)。後期段階では、Shhはダウンレギュレートされるが、転写物は上皮細胞に再び現れて、歯の発生の蕾状後期で歯の上皮に生じる一過性のシグナル伝達中心であるエナメル結節(enamel knot)を構成する(Ferguson et al., 1998;Vaahtokari et al., 1996)。
【0015】
CD44及びOtlx-2は、口腔上皮ではShhよりも広範に発現されている(Ferguson et al., 1998;Mucchielli et al., 1997)。CD44はヒアルロナン受容体をコードしており、Otlx-2は、変異するとリーガー(Rieger)症候群として知られる歯を欠く疾患を引き起こすヒト遺伝子の、マウスホモログである(Semina et alk., 1996)。
フォリスタチンは、アクチビンの活性を阻害することが示されている、アクチビン結合タンパク質である(Michel et al., 1993;De Winter et al., 1996)。フォリスタチンの発現パターンは、in situハイブリダイゼーション分析によって調べることができる(Ferguson et al., 1998)。
フォリスタチンの発現は、E 11.5から、アクチビン発現細胞に直ぐ隣接する歯胚上皮細胞において見出される。後の段階では、フォリスタチンの転写物は上皮芽の最も外側の層を形成する円柱状の細胞に限定されて、上皮細胞の中核(central core)はフォリスタチン陰性である(Ferguson et al., 1998)。従って、フォリスタチンは、歯の間葉のアクチビンに隣接する歯の上皮で、アクチビンに対して相補的なパターンにて発現されている。
【0016】
(実施例)
本発明はこれから、本発明の参考とされる実施例によって説明される。
〔実施例1:マウス骨髄細胞の誘導及び培養〕
6〜9週齢の雌の野生型マウスの脛骨及び大腿骨から、骨髄細胞を収集した。5匹のマウスを頚椎脱臼によって屠殺し、大腿骨及び脛骨を無菌的に取り出して解剖し、付着している組織を除去した。骨の両端を切断し、無菌21ゲージ針を用いて骨の端から穏やかに注入した培地で、骨空洞を洗い流した。続いて、その骨髄細胞を、10%の熱不活化ウシ胎児血清(FBS;GIBCO BRL, Grand Island, NY, USA)を含有する最小基本培地(MEM;Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)中に懸濁して、75 cm2の組織フラスコで14日間維持した。3日後に培地を交換し、その後は1日おきに培地を交換した。
〔実施例2:口腔上皮の調製〕
グルタマックス-1を含むDMEM中で、胚の下顎を解剖して取り出した。上皮を単離し、続いて、カルシウム及びマグネシウムを含まないPBSで作製した2 U/mL ディスパーゼ(Dispase)(GIBCO BRL)溶液中で15分間、37℃にてインキュベートした。インキュベーションの後、10%FCSを含むDMEMで上皮組織を洗滌し、細いタングステン針を用いて、上皮を機械的に分離した。
【0017】
〔実施例3:骨髄細胞と口腔上皮との共培養〕
実施例1に記載するように骨髄細胞を培養し、トリプシンに短時間暴露することによってフラスコから剥がし、培地で収集し、遠心分離し、再度培地で洗滌して、2回遠心分離した。次に、その細胞を計数して、50〜100 μLの培地に2×106個の細胞数で再懸濁した。次に、これらの幹細胞に10,000×gにて10〜20秒間遠心分離を行い、ペレットを形成させて、そのペレットを、予め1%ゼラチン溶液中に浸しておいた透明なヌクレオポア(Nucleropore)膜フィルタ(孔直径0.1 μm;Costar)上に置いた。ペレットの周囲から過剰な培地を除いた。金属格子で支持されている前記膜フィルタ上で、細胞ペレットを10〜15分間、37℃にてインキュベートし、続いて、Trowell技法をSaxenによって改変されたように、37℃、5% CO2/95% 空気雰囲気下、湿度100%にて行った(Trowell 1959;Saxen 1966)。3〜4つの上皮を実施例2に記載するように調製して、前記細胞ペレットの上に置いた。この共培養物を、更に3日間インキュベートした。
【0018】
〔実施例4:腎臓被膜移植〕
実施例3に記載の骨髄細胞と口腔上皮との共培養物を、雌の成体マウスの腎臓被膜下に外科的に移植して、更に10日間、歯の発生が可能となるように培養した。その期間の最後にマウスを屠殺して、腎臓の移植部位を全体的形態について調べた。組織の脱灰、ワックス包埋、ヘマトキシリン・エオシン染色及び組織検査によって、異所性の歯の発生を確認した。
〔結果〕
移植部位で、歯の構造物を観察した。その一例を図1に示す。
当業者には、本発明の範囲及び意図から離れることなく、説明した本発明の方法及びシステムの種々の修正及び変形は、明らかに理解できるであろう。本発明は具体的な好ましい態様に関連して説明されたが、クレーム記載の本発明がそのような具体的な態様に不当に限定されないことを理解すべきである。実際、本発明の実施について説明した様式の、生化学及びバイオ技術又は関連する技術分野の当業者にとって自明な種々の改変は、本出願の特許請求の範囲内に含まれるものとする。
【0019】
(参考文献)













【0020】
(本明細書中に番号で示された参考文献)

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】移植(埋め込み)部位で観察される歯の構造物を示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄細胞を用いて歯の原基を作製する方法であって、
i) 骨髄細胞を、歯の前駆細胞が生成するのに充分な時間、口腔上皮誘導シグナルの存在下でインキュベートすること;及び
ii) 得られた歯の前駆細胞を、歯の原基が生成するのに充分な時間、少なくとも1つの上皮細胞の存在下でインキュベートすること;
を含む前記方法。
【請求項2】
骨髄細胞が、特定の種類の細胞について精製されていない、及び/又は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行われてない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
骨髄細胞が、特定の種類の細胞について精製されている、及び/又は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行われている、請求項1記載の方法。
【請求項4】
骨髄細胞を口腔上皮誘導シグナルの存在下でインキュベートして歯の前駆細胞を生成することを含む、歯の前駆細胞を作製する方法であって、
前記骨髄細胞は、特定の種類の細胞について精製されていない、及び/又は、存在する特定の種類の細胞の割合を増加させるための増殖が行われていない、前記方法。
【請求項5】
骨髄細胞を、胚性口腔上皮細胞、好ましくは口腔上皮の形態で提供される胚性口腔上皮細胞の存在下でインキュベートして、歯の前駆細胞を生成することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
骨髄細胞を、胚性口腔上皮細胞のシグナル伝達特性を真似る誘導性歯原性細胞の存在下でインキュベートして、歯の前駆細胞を生成することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
骨髄細胞を、胚性口腔上皮細胞のシグナル伝達特性を真似るタンパク質含有ビーズ又はタンパク質被覆ビーズの存在下でインキュベートして、歯の前駆細胞を生成することを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
歯の前駆細胞を、歯の原基を生成するのに充分な時間、口腔上皮細胞の存在下で、好ましくは口腔上皮の形態で提供される口腔上皮細胞の存在下でインキュベートすることを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯の原基を作製する方法。
【請求項9】
歯の前駆細胞を、歯の原基を生成するのに充分な時間、非口腔上皮細胞の存在下でインキュベートすることを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯の原基を作製する方法。
【請求項10】
歯の前駆細胞を、歯の原基を生成するのに充分な時間、成人幹細胞又は胚性幹細胞から生成した上皮細胞の存在下でインキュベートすることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
歯の前駆細胞を、歯の原基を生成するのに充分な時間、不死化した細胞株から生成した上皮細胞の存在下でインキュベートすることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
骨髄細胞を用いて歯の原基を作製する方法であって、
i)骨髄細胞を胚性口腔上皮の存在下でインキュベートして、歯の前駆細胞を生成させること;及び
ii) 生成した歯の前駆細胞を、歯の原基が生成するのに充分な時間、胚性口腔上皮の存在下でインキュベートすること;
を含む前記方法。
【請求項13】
骨髄細胞が、増殖を行われていない骨髄細胞の集団から提供される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項4〜7又は13のいずれか1項に記載の方法によって得られる、歯の前駆細胞。
【請求項15】
請求項1、2又は5〜13のいずれか1項に記載の方法によって得られる、歯の原基。
【請求項16】
歯の交換が必要な患者の歯を交換する方法であって、
i) 請求項15記載の歯の原基を提供する工程;及び
ii)哺乳動物の腎臓又は口腔のスペースへ歯の原基を移植して、歯の原基を歯へと発生させる工程;
を含む前記方法。
【請求項17】
歯の交換が必要な患者の歯を交換するための薬剤の製造における、請求項15記載の歯の原基の使用。
【請求項18】
歯の前駆細胞、歯の原基又は歯を生成するための、骨髄細胞の使用。

【公表番号】特表2006−518210(P2006−518210A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502290(P2006−502290)
【出願日】平成16年2月17日(2004.2.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000635
【国際公開番号】WO2004/074464
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(504242504)オドンティス リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Odontis Limited
【住所又は居所原語表記】London Bioscience Innovation Centre 2 Royal College Street London NW1 0TU United Kingdom
【Fターム(参考)】