説明

高い熱伝達係数を有する材料と接触する用途用の、少なくとも一つの熱プログラマブルスイッチングセグメントを有する物品

本発明は、少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する物品に関し、前記少なくとも一つのスイッチングセグメントが、a)少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとそこに埋め込まれる粒子とを含む形状記憶化合物であって、前記粒子は、交流電磁場中で加熱するのに適していて、前記形状記憶化合物は熱伝達係数hschaltを有しているものと、b)前記形状記憶化合物a)を取り囲む隔離領域であって、熱伝達係数hisoを有するものとを含み、hiso < hschaltである物品に関する。さらに、本発明はそのような物品の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
形状記憶プラスチックは、視覚可能な一時形状に加えて、保存された永久的な原形を有することができる。外部刺激を活性化することにより、例えば、温度上昇により、永久形状を、ほぼ完全に呼び起こすことが可能である、すなわち、前記プラスチックは、その原形を「思い出す」。
【0002】
材料は従って、従来型の処理方法(例、ポリマー溶液からと同様に、押出成形、射出成形等)を使用することにより、まずその原形である永久形状へと転換される。プラスチックを、その後、所望の一時形状へと変形および固定する。この処理をプラグラミングと呼ぶ。そのプログラミングには、スイッチング温度Tswより高く且つ最も高い転移温度Tpermより低くサンプルを加熱し、前記サンプルをある形状に強制することにより変形し、その後、その強制された形状を維持しながら前記サンプルを冷却することを含む。また、スイッチング温度Tswより低い低温で変形(「冷延伸」)することにより、プログラミングを実行することもできる。
【0003】
一時形状を実際に呈する一方で、永久形状が現状で保存される。記憶形状効果を、前記プラスチックをスイッチング温度Tswよりも高い温度に加熱することにより活性化し、その材料はエントロピー弾性により保存された永久形状へと回復する。
【0004】
一時的なものから永久形状へとの転移が温度変化により引き起こされる場合、このことは、熱誘導性形状記憶効果と呼ばれる。この熱誘導性形状記憶効果は、ほとんどの状況で、直接的温度作用(熱の適用)により実現される。また、間接的加熱も知られている。例えば、形状記憶プラスチックにナノスケールの粒子を取り込み、外部的に発生させた交流電磁場(EMF)と相互作用させることが知られている。このやり方では、形状記憶ポリマー中の温度上昇を、埋め込まれたナノ粒子を介して「間接的に」得ることができる。
【0005】
これらのナノ粒子がEMFを介する励起を通して加熱を実現する能力は、いくつかの適用例において既に行われてきた。そのEMFにおいて電気伝導性粒子中で誘導される渦電流が熱を発生させる。この原理は、技術的応用において、例えば、接着剤硬化のための革新的接着技術(WO 2004/056156A、WO2002/012409A)において使用されるだけでなく、ナノ粒子は、身体組織の短時間の局所的な過剰加熱による転移腫瘍を殺傷するための生物医学適用例(US 2004219130 A)において、既に使用されてきた。
【0006】
形状記憶ポリマー中における添加剤の使用は、現在に至るまで、主要な対象となっている研究であって、その物性(例、導電性、スイッチング過程における構造または復元力(Li F.ら、ポリウレタン/導電性カーボンブラック複合体:構造、電気伝導性、歪み回復挙動、およびそれらの関係性、Journal of Applied Polymer Science 75 (1), 68-77 (2000)))の変化に主に焦点を当ててきた。現在に至るまでに、これらの研究中で、形状記憶ポリマーに添加された添加剤の種類は、炭素繊維(Gall K.ら: 炭素繊維により補強された形状記憶ポリマー複合体、Journal of Intelligent Material Systems and Structures 11 (11), 877-886 (2001); Liang C.ら: 形状記憶ポリマーおよびそのハイブリッド複合体の研究、Journal of Intelligent Material Systems and Structures 8 (4), 380-386 (1997))、ならびにSiC(Gall K.ら:形状記憶ポリマーナノ複合体、Acta Materialia 50, 5115-5126 (2002))から、金属(Gotthardt R.ら:形状記憶合金に基づくスマート材料(SMAs):ヨーロッパからの例には、Materials Science Forum、327-328 (形状記憶材料)、83-90 (2000); Monkmann G. J.: 形状記憶ポリマーの作動における進展、 Mechatronics 10, 489-498 (2000)がある)の範囲に及ぶ。例えば、形状記憶ポリマーへの炭素繊維の添加は、主として、強度または剛性を増加させることを意図している。粒子添加剤として金属や金属合金を形状記憶ポリマーへ添加することにより生じる典型的な効果は、Monkmann(上記参照)により議論され、それは、粒子フリー形状記憶ポリマーを用いた比較研究に基づいている。スキーの減衰振動に関連しては、Gotthardt R.らにより議論されている。
【0007】
CTD社(ラフィーエット、コロラド、米国)は、宇宙空間中で適用する製品である「Tembo」を設計し、形状記憶ポリマー中に埋め込まれた熱導体の使用を記載する。ここでは、宇宙空間に輸送された際に、依然として折りたたまれているソーラーパネルを、ヒンジを加熱して開くために形状記憶機能を使用することを意図する。
【0008】
交流磁場が適用される際に加熱するケイ酸塩層中に埋め込まれる酸化鉄を、「Advanced Nanomaterials」社が、近年提供してきた。
【0009】
強磁性体または金属性粒子を形状記憶ポリマーに付加混合するのが新しいアプローチである (US 20050212630 A)。ここでは、粒子を、外部刺激を介する形状記憶効果を活性化するための「アンテナ」として用いる。DE 10 2007 061 342 .5は、形状記憶ポリマーと適する粒子との対応する混合物を開示し、また、その生産ならびに熱プログラミングおよびスイッチング方法も同様に開示する。DE 10 2007 061 342 .5に開示された内容は、本出願に完全に組み込まれる。外部刺激は、ここでは交流電磁場であり、強磁性体または金属性粒子中で熱を発生させる。そして、形状記憶ポリマーの温度上昇および、従って、形状記憶効果の活性化を引き起こす。 達成可能な温度上昇の大きさは、多数のパラメータに依存する。これらのパラメータには、一方でEMFにより決定されるパラメータ、特に周波数および交流場のフィールド強度を含む。他方では、所定のフィールドに対する最大達成可能な材料温度は、形状記憶ポリマーと適するナノ粒子とを含有する混合物の組成に依存し、特には、前記ナノ粒子のサイズ、種類、量、および熱伝導性に依存する。表面積対体積率 (O/V)も、周囲への随伴する熱伝達による前記達成可能な材料温度に影響があることも観察されてきた。したがって、比較的小さいO/Vを有する形状記憶体は、大きな表面を有するものよりも、EMF中で高い材料温度に到達することができる。
【0010】
しかしながら、前述のパラメータの最適化は、形状記憶体において、要求されるスイッチング温度を得るためには必ずしも十分ではない。医学分野では、ヒトの身体において、例えば、形状記憶体を縫合材料として使用する場合、形状記憶体へとより高いエネルギーを結合する目的のために、EMFの周波数とフィールド強度を、自由に選択することはできない。なぜなら、さもなくば、身体を損傷してしまう場合があるからだ。形状記憶体の力学的特性を実質的に維持する一方で、限られた方法においてのみ、ナノ粒子の濃度を増加させることができる。最後に、表面積対体積率は、適用例に関連する制限をも有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、EMF中でスイッチング可能な形状記憶体を提供することであり、その保存形状は、高い熱伝達係数を有する材料から構成された環境においてさえも呼び起こすことが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的は、少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する物品を提供することにより解決される。前記少なくとも一つのスイッチングセグメントは、
a)少なくとも一つの熱プログラマブル(熱でプログラム化可能な)形状記憶ポリマーとそこに埋め込まれる粒子とを含む形状記憶化合物であって、前記粒子は、交流電磁場中で加熱するのに適していて、前記形状記憶化合物は熱伝達係数hschaltを有しているものと、
b)前記形状記憶化合物a)を取り囲む隔離領域であって、熱伝達係数hisoを有するものとを含み、hiso < hschaltである。
【0013】
スイッチングセグメントは、好ましくは平滑表面および/または液不透過性表面を有していて、液体および/またはガスが隔離領域に進入するのを防止する。
【0014】
スイッチングセグメントの操作で重要なことは、形状記憶化合物中にある、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーのスイッチング温度Tswを超えた場合に、前記形状記憶化合物がその原形である永久形状へと回復することである。要求される温度を、スイッチングセグメントの有する形状記憶ポリマーよりも熱伝達係数が大きい環境中で得ることはしばしば難しい。本発明において提示される解決策は、スイッチングセグメントの有する活性のある形状記憶化合物を取り囲む隔離領域を隔離層のように含むことである。この隔離領域はスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の熱伝達係数hschaltよりも小さい熱伝達係数hisoを有している。このように、スイッチングセグメントの有する活性領域は、温度上昇を達成する必要がある領域であるが、形状記憶化合物が位置する周辺領域とは独立していて、現状では、有利な熱伝達係数を有する領域に取り囲まれている。スイッチングセグメントの活性領域を、その後、環境から断熱する。交流外部EMFにより、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物へと供給される熱エネルギーは、その後急速には消散することがなく、したがって、形状記憶化合物中において、より高い温度を得ることができる。少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの臨界スイッチング温度Tswを、その後、より簡単に超えることも可能である。
【0015】
本発明に係る物品は、少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する。本明細書中に記載される本発明に係る物品には、任意の物体を含み、但し、この物体は少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する。
【0016】
用語「スイッチングセグメント」は、 形状記憶化合物と隔離領域とを含む物品の領域を指す。スイッチングセグメントの目的は、前記スイッチングセグメントの一領域中でスイッチング操作を活性化することにより、スイッチングセグメントの形状と、したがって、任意ではあるが、物品の形状とを変化可能にすることである。本発明の目的のために、用語「スイッチングセグメント」は、特に、形状記憶を有し、熱でプログラム化可能であり、および交流電磁場でスイッチング可能である(すなわち、一時形状から永久形状へと転換可能な)物品の領域を指す。
【0017】
この目的のために、スイッチングセグメントは、形状記憶化合物を含む。用語「形状記憶化合物」は、本明細書中では、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとそこに取り込まれる粒子とを含む組成物を指し、前記粒子は交流電磁場中において加熱可能である。 また、形状記憶化合物には、他の材料を含んでもよく、特に、形状記憶化合物は、一若しくは複数の同一または異なる追加的な形状記憶ポリマーを含んでもよく、その全てが熱でプログラム化可能である必要は無い。形状記憶化合物はの熱伝達係数はhschaltである。
【0018】
本発明は、また、その全体が形状記憶化合物からなる物品を含み、その形状記憶化合物は、本発明に係る隔離領域により、部分的または完全に取り囲まれている。
【0019】
少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーは、従来型形状記憶ポリマーまたは熱刺激性形状記憶効果を有するSMPである。言い換えると、熱力学的にプログラム化された一時形状から永久形状への少なくとも一つの温度誘導性形状転移を経ることができる。そのような形状記憶ポリマーは、当業者に公知である。
【0020】
少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーは、特に熱誘導性形状記憶効果を有するポリマーネットワークである場合がある。 前記ネットワークは、本明細書中では、共有結合により、または物理的相互作用(例、静電効果)を介して形成可能である。クロスリンクに関する点に加えて、前記ポリマーネットワークは、材料依存的転移温度(例、結晶化温度またはガラス転移温度)を有する少なくとも一種類のスイッチングセグメントを含む。形状記憶効果を有するポリマーネットワークは、文献に詳細に記載されている。本発明は、基本的には特定の材料に限定されない。例えば、前記ポリマーネットワークは、ポリエステル、特にポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、およびポリ(パラ-ジオキサノン)等からなる群より選択されるスイッチングセグメントを有していてもよい。前記ポリマーネットワークは、本グループ等と異なる2以上のスイッチングセグメントを含む場合がある。少なくとも一つのスイッチングセグメントを、各々の適用例に適する範囲にあるスイッチング温度を有するように好ましく選択する。
【0021】
任意ではあるが、形状記憶ポリマーは、加水分解的に切断可能な官能基、特には、エステル基、アミド基、無水物基、カルボネート基、エーテル基、オルソエステル基、またはその組み合わせを有する場合がある。生分解性材料を、したがって、得ることができ、そのことは生物医学分野において特定の利点を有する。生分解性形状記憶ポリマーもまた、文献から十分公知である。本発明は、この群の具体的な代表的化合物に限定されない。
【0022】
形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマー中に、粒子を取り込み、前記粒子は、交流電磁場中で加熱可能である。これらは、ナノ粒子またはマイクロメーターの範囲の粒子であってもよい。本明細書中では、マイクロ粒子を1から999μmの範囲の平均粒子直径のものにより定義し、そして、ナノ粒子を1から999nmの平均粒子直径のものにより定義する。この定義は、したがって、粒子を粉末の粘張度を有する物質として導入可能であることを含む。交流磁場中で、粒子の加熱を引き起こす相互作用を呈するのに適するすべての材料を、これらの粒子のために考慮することができる。特に、前記粒子には、金属(例、Ni、Fe、および/またはCo)を含む。合金、特に、Ni-Si、Fe-Pt、Ni-Pd、および/またはCo-Pdも適している。また、金属酸化物、特に 、Ni-Zn-Fe-O、Ba-Co-Fe-O、および/またはFe-Oが、粒子中の磁性材料として使用可能である。また、適するものには、マグネタイトまたは酸化鉄があり、 そこでは、鉄原子を、Co、Ni、Mn、Zn、Mg、Cu、Cr、Cd、および/またはGaにより、少なくとも部分的に置換する。また、適するものには、フェライト、特に、Ni-Zn-フェライトおよび/またはSr-フェライトがある。前述の材料の混合物も、実施可能である。好ましくは、ポリマーマトリックス中に均質に分布可能な(すなわち、非常に均質な混合物を生産する)材料を使用する。しかしながら、この特性が欠如している場合、粒子は、形状記憶ポリマーとの内部混合を改善する材料のコーティングを有している場合がある。そのコーティング材料は、有機ポリマーの形であってもよい。その性質、サイズ、数量、および埋め込み処理は、例えば、用いられる形状記憶ポリマー、達成可能なスイッチング温度、ならびに用いられる電磁場(周波数およびフィールド強度)のそれぞれに依存する。好ましくは、平均粒子サイズが<500nm、特に好ましくは<100nmの磁性ナノ粒子である。前記粒子は、例えば、磁性材料からなる場合があるか、または層構造を有する場合があり、少なくとも一つの層は、交流電磁場中で加熱する特性を有している。多くの供給元が適する粒子を販売していて、当業者であれば、本発明に用いるこれらの粒子を困難無く実施できる。ナノ粒子が交流外部電磁場により加熱可能なように、用いられる形状記憶ポリマー中に、前記ナノ粒子を機能的に埋め込むことが特に重要である。埋め込まれたナノ粒子の加熱は、その後、粒子を取り囲む形状記憶ポリマーの加熱を引き起こす。
【0023】
少なくとも一つのスイッチングセグメントの構造は、スイッチングセグメントの内部-断面中に-位置する形状記憶化合物を、相対的にさらに外側に-断面中においても-位置する隔離領域により封入するものである。前記隔離領域は好ましくは、形状記憶化合物を取り囲んでいて、物品のスイッチングセグメントが有する形状記憶化合物は、物品を取り囲む媒体と直接接触しない。本明細書中での隔離領域は、形状記憶化合物上に直接堆積可能である。しかしながら、追加的な層が、形状記憶化合物と隔離領域との間に存在していてもよい。隔離領域は、形状記憶化合物と隣接していてもよく、形状記憶化合物材料と共に製造可能である。特に、形状記憶化合物を隔離領域により完全に封入してもよい。好ましくは、物品のスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物と前記スイッチングセグメントに連結される物品の追加的セグメントとの間には、隔離領域が存在しない。
【0024】
本発明に係る隔離領域は、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の熱伝達係数hshaltよりも小さい熱伝達係数hisoを有する(すなわち、hiso < hschalt)という特徴を有する。
【0025】
hisoは、以下のように計算される:
hiso = 2λiso / Diso+schalt ln (Dschalt / Diso+schalt)
式中、
hiso = 隔離領域の熱伝達係数
λiso = 隔離領域の材料の有する熱伝導率
Diso+schalt = 形状記憶化合物とその周囲隔離領域とを横断する平均直径
Dschalt = 形状記憶化合物の平均直径である。
【0026】
隔離領域の層の厚さが、形状記憶化合物の平均直径に比べて小さい場合、hisoを以下のように近似計算する:
hiso = λiso / x
式中、
hiso = 隔離領域の熱伝達係数
λiso = 隔離領域の材料の有する熱伝導率
x = 隔離領域の層の厚さの平均である。
【0027】
特に、hiso/hschaltの比率が≦0.9、好ましくは≦0.5、特に好ましくは≦0.3、特別に好ましくは≦0.1となるように、隔離領域を構築する。
【0028】
隔離領域は、一又は複数の形状記憶ポリマーを含んでいてもよく、前記形状記憶ポリマーは、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物中にも存在する。しかしながら、隔離領域には、前記形状記憶化合物中に存在しないいくつかの材料をも含む場合もある。特に、交流電磁場において加熱可能な粒子を基本的に有しないように、隔離領域を構築してもよい。形状記憶化合物、好ましくは形状記憶化合物の有する少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの材料の有する熱伝導率λschaltよりも小さな熱伝導率λisoを有する材料を有するか、または前記材料で製造されてもよい。
【0029】
隔離領域の熱伝導率λisoがより小さい材料は、特にはガスである。好ましくは、隔離領域の有するおよび/または形状記憶化合物の有する他の材料に対して不活性なガスを使用する。特に好ましくは、前記ガスはCO2もしくは空気、または≧10質量%の濃度のこれらガスの一つを含む混合物である。特に、隔離領域が発泡構造を有する場合、気泡の一部または発泡構造の全ての気泡には、対応する熱伝導率を有するそのようなガスを含んでもよい。
【0030】
スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の特に効果的な隔離を達成するために、隔離領域は形状記憶化合物の構造と異なる構造を有していてもよい。例えば、いくつかの同一もしくは異なる層から隔離領域を構築してもよいし、または隔離領域は多孔質構造を有していてもよい。前記多孔質構造は、基本的には連続気泡または独立気泡である可能性がある。もし隔離領域が多孔質構造を有している場合、多孔質構造の一部または全ての孔は、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の有する、熱プログラマブル形状記憶ポリマーの有する特異的熱伝達係数よりも小さい特異的熱伝達係数を持つ材料で充填可能である。特に、隔離領域は、部分または全体が発泡構造を有する場合があり、特に、大部分が独立気泡の発泡構造を有する場合がある。隔離領域は、隔離領域の断面に渡り孔サイズの密度勾配に沿って分布する孔を有していてもよく、そこでは、隔離領域の外側領域にある孔が隔離領域の内側領域の孔よりも平均して小さい。好ましい実施形態では、隔離領域の有する孔および/または発泡気泡の平均サイズは5から50μmである。
【0031】
特に、スイッチングセグメント、好ましくは隔離領域は、平滑な外部表面を有する場合がある(図3a)〜c)も参照されたい)。スイッチングセグメントおよび/または隔離領域の有するこの平滑表面を操作して、形状記憶化合物の力学的安定性を保証し、そして、他の材料(例、液体もしくはガス)が形状記憶化合物の内部に侵入するのを防止する。
【0032】
特に、形状記憶化合物を、スイッチングセグメントの周囲から効果的に隔離するような層の厚さの平均値を、隔離領域が有している場合がある。その環境中では、スイッチングセグメントが外部電磁場によりスイッチングされるべきであることを当業者は知っている。スイッチングセグメントの有する形状記憶ポリマー中の熱プログラマブル形状記憶ポリマーに粒子を浸透させてスイッチングするべきであることをも当業者は知っているし、したがって、所定のEMFに関して、隔離領域の層の厚さの要求される平均値を、当業者は容易に決定可能である。EMFに関して限界がある場合、より弱い適用フィールドの使用を、任意ではあるが補うのに、ある厚さを有する隔離領域を提供すること、および/または特に有利な熱伝導率を有する特定材料をもちいることによって行ってもよい。
【0033】
特に、少なくとも一つのスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の平均直径(Dschalt)に対する隔離領域と形状記憶化合物との平均直径(Diso+schalt)の比率(Diso+schalt/Dschalt)は、断面中で、形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの有するスイッチング温度を、交流電磁場の励起を介して、形状記憶化合物中で達成可能なように選択してもよい。その場合、少なくとも一つのスイッチングセグメントは、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物の熱伝達係数よりも大きな熱伝達係数を有する環境中にある。水性環境中でおよび/または245〜265kHzの周波数と10〜16kA/mのフィールド強度とを有する交流電磁場中で、少なくとも一つのスイッチングセグメントがスイッチング温度を達成するように、直径比率Diso+schalt/Dschaltを選択してもよい。
【0034】
少なくとも一つのスイッチングセグメントの断面中における、形状記憶化合物の平均直径に対する隔離領域と形状記憶化合物との平均直径の比率は、Diso+schalt/Dschalt≧1.01、好ましくは≧1.05、特に好ましくは≧1.1であってもよい。
【0035】
隔離領域の機能は、スイッチングセグメントの有する領域中において、物品からその周囲への熱伝達を減少させることである。一方で、スイッチングセグメントの有する記憶化合物中において、物品の周囲へ有意な熱流出を引き起こすこと無しに、埋め込まれたナノ粒子を介して、電磁場中で物体を加熱することができる。
【0036】
スイッチングセグメントを有利に階層的に構築することができる。すなわち、ナノ/マイクロレベルでの形状記憶化合物の構造(硬性領域およびスイッチング領域/ナノ粒子)に加えて、μm/mm範囲の追加的な構成を導入する、つまり、隔離領域とスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物との中にある構造である。物品のスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物とそれを取り囲む媒体との間の隔離を実現するために、このマクロ構造は構成され、したがって、熱伝達係数を減少させる。
【0037】
小さな熱伝達係数のみを許容する隔離領域または「シース(さや)」を実施することで、外部から適用される交流EMFにより生み出される温度効果であって、形状記憶化合物中における温度効果の程度は、高い熱伝達係数を有する流動体または区域を使用する応用例においても、形状記憶効果を実現するために現状において十分である。
【0038】
形状記憶化合物の調製と同様に、引き続く生産過程において、特別な構造の材料を実施することができる。
【0039】
例えば、材料の最大達成可能温度上昇は、前述のパラメータだけでなく、適用するフィールドにも強く依存するという観察を、本発明は利用する。なぜなら、近接する材料への熱伝達は、最大達成可能温度差にも影響するからだ。形状記憶化合物の周囲への熱放散(熱伝達係数として表されるもの)は、特定の役割を演ずる。いくつかの時点においては、EMFを介して供給される熱エネルギーとナノ粒子により周囲に放散される熱エネルギーとの間において平衡に到達し、最大達成可能温度を生じる。形状記憶化合物が高い熱伝達係数を有する材料と接触する場合、その他の条件が同等下では、小さな伝達係数を有する材料と接触する場合よりも、達成可能温度差は有意に小さい。供給されるエネルギーは、したがって、最初の場合では、熱形状記憶効果を活性化する温度を実現するのに不十分である。このことは、図1および図2において強調される。
【0040】
外部から操作されるEMFと形状記憶効果の活性化のための随伴する温度上昇とを伴って、本発明に係る形状記憶化合物中でナノスケールの粒子を間接励起する場合に、医学分野において、利点が特に明確になる。例えば、人体中で縫合材料として形状記憶化合物を使用する際に、周囲組織への高い熱伝達係数が、不可避的に生じる。 例えば、それらの条件下において、前述の形状記憶効果を実現するために、本発明に係る解決策を提案する。
【0041】
hschaltよりも高い熱伝達係数を有する材料(特に、液体材料ならびに人体組織および動物体組織)と、物品が当接するような適用例のための発明に係る物品に、本発明は関する。hschaltよりも高い熱伝達係数を有する材料と当接するそのような物品の例には、カテーテル(例、可動型もしくは拡張式カテーテル)、血管支持体(例、自己拡張型および/もしくは脱着可能型血管支持体)、ならびに/またはステント(特に、冠状動脈領域用のもの、膀胱用のもの、 または腎臓用のもの)、あるいは静脈フィルター(例、大静脈フィルター)がある。
【0042】
また、人体もしくは動物体の外科的または医薬的治療方法中での適用のため、あるいは診断過程における適用のための発明に係る物品に、本発明は特に関する。そこでは、物品は、人体または動物体の部分と接触を生じる。外科的または医薬的治療方法中での適用のための物品の例は、例えば、ドラッグデリバリーシステム(特に、インプラント可能なおよび外部から制御可能なドラッグデリバリーシステム)、医療機器(例、最小侵襲手術に最適化された医療機器(例、ガイドワイヤー、特に可動型ガイドワイヤー))、または縫合材料である。
【0043】
また、医学分野における発明に係る物品の使用、特に、人体もしくは動物体中での外科的または医薬的治療方法における適用あるいは診断過程中での適用に、本発明は関する。そこでは、物品は、人体または動物体の部分と接触を生じる。本発明に係る物品の適する使用は、例えば、刺激可能な結び目の作製、留め金もしくはインプラント、またはインプラントの外科手術不要のもしくは手術後の変化(例えば、位置、サイズ、機能、流動性もしくは流動抵抗性に関する適用)である。後に、すなわち、術後に、例えば、心臓ペースメーカーの電極用に、位置変化を使用する。本発明の文脈でのサイズ変化は、幾何学的パラメータ(例、長さ、幅、高さ、直径、または一般的形状の変化)を指す。本発明に係る物品の応用例は、身体の成長領域中でのインプラントまたは人工補装具に特に関心がある。なぜなら、本発明の物品を用いて、例えば、関節の人工補装具および/または骨を代替するインプラントは、ヒトおよび/または動物の成長に順応可能であるからである。機能変化は、例えば、静脈フィルター(例、大静脈用のもの)を開くことまたは血管支持体および/もしくはステントの拡張のことを指す。例えば、血液供給を刺激可能に適用させることにより、ある種の器官機能さえも、本発明にかかる物品を用いて制御可能である。その上、本発明に係る物品は、インプラント可能な監視システムの一若しくは複数の診断機能を喚起または引き出したりするのに適してもいる。前述の応用例および可能な使用は、医学分野、特に再生医学分野からの選択例を示すだけのものであり、したがって、限定することを意図しない。他の適する分野および応用例への可能性が、当業者に知られている。
【0044】
本発明は、少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する本発明に係る物品の製造方法に関し、
a)少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとそこに取り込まれる粒子とを含む、少なくとも一つのスイッチングセグメントの形状記憶化合物を調製する工程であって、前記粒子は、交流電磁場中で加熱するのに適していて、前記形状記憶化合物は熱伝達係数hschaltを有している工程と、
b)前記少なくとも一つのスイッチングセグメントの前記形状記憶化合物上に、熱伝達係数がhiso<hschaltの隔離領域を堆積する工程を有し、したがって、前記隔離領域が前記形状記憶化合物を取り囲む工程とを含む方法であって、
工程b)が工程a)と同時または工程a)に引き続いて実行される方法にも関する。
【0045】
形状記憶化合物は、基本的には当業者に公知の方法および技術を用いて生産可能であり、例えば、ポリマー溶融体から形成されることにより、連続および/もしくは非連続な単層または多層押出成形処理により、連続および/もしくは非連続な単層または多層射出成形処理により、あるいはいくつかの組み立て式の部品を互いに連結する接合処理により行われる。特に、DE 10 2007 061 342 .5は、詳細に、交流電磁場中で加熱するように適用される埋め込み粒子を用いるのに適する形状記憶ポリマーを記載し、同様に、そのようなポリマーの製造方法およびそのようなポリマーを含む形状記憶化合物の製造方法を記載する。好ましくは、少なくとも一つのスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物を、ポリマー溶融体を変形することにより、連続および/もしくは非連続な単層ならびに/または多層の押出成形処理あるいは射出成形処理により、および/またはいくつかの組み立て式要素の接合処理により生産する。
【0046】
別の内容に関する当業者に公知のいくつかの製造方法を使用することにより、スイッチングセグメントの有する形状記憶化合物上に、隔離領域を堆積することができる。特に好ましいのは、発泡化処理、層状化処理(例、エアブラシ処理)、または転相処理である。発泡化処理においては、高圧および高温での超臨界状態で、ガス(好ましくは二酸化炭素)をポリマー溶融体中に導入し、ガスはその条件下で平衡状態に維持される。温度および/または圧力を低下させた後に、自発的弛緩プロセスと発泡化プロセスとが起こり、その結果、多孔質形態が形状体中に創出される。この「発泡化」は、押出成形中に連続的にまたはその後のいずれかにおいて、非連続処理(圧力クエンチ)中で実行可能である。平衡状態が全体に渡り確立して発泡化された際にできるだけ早く、形状記憶化合物の完全な発泡化を達成する。ガス圧力を弱めることにより、この処理は未然に停止可能であり、それにより、部分的発泡化を得ることができる。発泡化処理時間が増加すると共に、完全な封入に到達するまで、外側から内側に向かって、本発明に係る物品を隔離する。
【0047】
多孔質構造を、転相処理を用いて作り出すことも可能である。本明細書中では、液相のポリマー(ポリマー溶液もしくはポリマー溶融体)を、ポリマー液を冷却することにより生じるまたは非溶媒を導入することにより生じる転相に供する。
【0048】
または、隔離領域の有する層を、形状記憶化合物の対応する位置上に堆積することも可能で、それは、例えばスプレーにより(任意ではあるが、エアブラシ法を使用することにより)行われる。
【0049】
好ましくは、発泡化、スプレー、および/または転相により、隔離領域を堆積する。特に、形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの発泡化および/または転相により、隔離領域を作り出すことができる。特に好ましい実施形態では、形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとは異なる一若しくは複数の材料の発泡化および/または転相により、隔離領域を作り出す。
【0050】
例えば、本発明に係る解決策は、以下の種類の処理を包含する。
【0051】
i)形状記憶化合物が単一の材料のみからなることで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0052】
ii)いくつかの異なる材料、特に2つの異なる材料から、形状記憶化合物を製造し、少なくとも一つの材料が熱プログラマブル形状記憶ポリマーを示すことで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0053】
iii)連続的押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、材料の同時的部分発泡化を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0054】
iv)押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、引き続く「圧力クエンチ」処理中において、材料の部分発泡化を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0055】
v)押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、材料の引き続く部分転相処理を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0056】
vi)連続的多層押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、材料の部分発泡化を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0057】
vii)多層押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、引き続く「圧力クエンチ」処理中において、材料の部分発泡化を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0058】
viii)多層押出成形により形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、材料の引き続く部分転相処理中にて達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0059】
ix)接合処理を用いて形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、引き続く「圧力クエンチ」処理中において、部分発泡化を介して達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0060】
x)接合処理を用いて形状記憶化合物を生産し、その断面に渡る外皮非均質形態を、引き続く転相処理中において達成することで、本発明に係る解決策は達成可能である。
【0061】
本発明の方法を用いて、形状記憶化合物の有する形状記憶ポリマーの発泡化および/または転相により、隔離領域を創出することができる。
【0062】
本発明の方法を用いて、例えば、形状記憶化合物の有する形状記憶ポリマーと異なる一若しくは複数の材料の発泡化および/または転相により、隔離領域を作り出すこともできる。
【0063】
この特別な構造の材料をさらによく説明するために、例示的形態構造の例を図3に示す。
【0064】
本発明はまた、形状記憶化合物から作製される物品に関し、その物品には、硬性ドメインを有する形状記憶ポリマーと少なくとも一つのスイッチングドメインと、および形状記憶ポリマー中に取り込まれる粒子であって、交流電磁場中にて加熱するように適用される粒子とを含み、前記物品の構造は、断面中で物体の外部領域が断面中の内部領域よりも熱伝達係数が小さいことを特徴とする。特に、外部領域は、より小さな熱伝達係数を生じる構造(特に、発泡構造)を有してもよい。好ましくは、内部領域の有する材料の特異的熱伝達係数よりも小さな特異的(質量関連)熱伝達係数を有する材料を、外部領域は有する可能性がある。
【0065】
本発明はまた、本発明に係る形状記憶化合物の生産方法にも関し、硬性ドメインを有する形状記憶ポリマーと少なくとも一つのスイッチングドメインと、および形状記憶ポリマー中に埋め込まれる粒子であって、交流電磁場中にて加熱するように適用される粒子とを含む形状塊を、噴霧剤と混合し、射出形成処理において部分的に発泡化することに関する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
本発明の例示的実施形態を、添付した図面を参照して今から説明する。これらを以下に示す。
【図1】様々な周辺領域(1.空気、2.0.5%NaCl溶液中の10%ゼラチン、3.蒸留水)中での形状記憶化合物(形状記憶ポリマー中での18.1%のナノ粒子)に関する加熱曲線を示す図である。
【図2】様々な磁場強度における豚肉中での形状記憶化合物(表面積/容量の比率が8.3である形状記憶化合物中の14.4%のナノ粒子)に関する加熱曲線を示す図である。
【図3】図3a)-e)は、特別な構造の層構造を有する、本発明に係る形状記憶化合物の実施形態の形態構造を示す図である。
【図4】コア領域(b)の拡大詳細を伴う、本発明に係る物品の円筒状実施形態を示す図である。
【図5】高い熱伝達係数を有する媒体中における、交流磁場中での様々サンプルの温度挙動を測定するための、概略的な試験装備を示す図である。
【図6】a)異なるフィールド強度のEMFを用いた場合の発泡化隔離領域を有するポリマー円筒体の、水中での温度曲線、およびb)隔離領域を有するかまたは有しないポリマー円筒体間での比較の温度曲線を示す図である。
【図7】異なる溶媒(水、空気)中での、EMF中の異なる構造の形状記憶化合物の温度曲線を示す図である。
【図8】発泡化処理を説明する図である。
【図9】(a)本発明に係る形状記憶化合物由来の人工血管の拡張を概略的に説明する図である。(b)そのような血管の垂直方向の電顕写真である。
【図10】管状(a)および円筒状(b)幾何学を有する本発明に係る物品の発泡化を概略的に説明する図である。
【実施例】
【0067】
例示的実施形態
実施例1:
ナノ粒子(MagSilica 50-85)を含む形状記憶ポリマーを、射出成形処理により、直径5mmおよび高さ5mmの円筒体へと変形する。前記円筒体を、オートクレーブ中にて引き続く処理工程にて部分的に発泡化する。本明細書中では、外側にある円筒状層の空隙率を、高圧(100bar)且つ高温(100℃)において、ポリマー材料と二酸化炭素(超臨界のもの)との間の接触により増加させる。5分(飽和相)後に、圧力は900bar/minの速度で自発的に減少し、サンプルをオートクレーブ中で冷却(室温に)する。生産される発泡化隔離領域の有する層の厚さの平均は、約0.4mmである。
【0068】
この第2処理工程に供されないポリマー円筒体(サンプル1)と第2処理工程に供される多孔質の外側隔離領域を有するポリマー円筒体(サンプル2)とは、この例示的実施形態の出発点である。両サンプルにおいて、サンプル体の内部温度を、熱電対を用いて測定することができる。本発明に係る方法に対応する出発サンプル(サンプル1)とサンプル2を、周波数が253kHzおよびフィールド強度が12.6kA/mで、交流EMFに曝露する。380秒後に、水中(高熱伝達係数)に配置されたテストサンプルの各々で温度上昇を測定する。サンプル1の内部温度は42℃であったが、本発明に係るサンプル2の温度は65℃であった。図7は、本発明に係る効果を説明する。
【0069】
類似する条件下で、特に高い熱伝達係数を有する周囲媒体中において、有意により高い温度を、本発明に係る解決策を用いて生み出すことができる。
【0070】
実施例2:
ナノ粒子(酸化鉄)を5質量%含む形状記憶ポリマーであるポリ(エーテルウレタン)から、ポリマーテストサンプルを生産する。超臨界CO2中における発泡化処理へとテストサンプルを移行し、発泡構造を有する隔離領域を、前記テストサンプルの有する断面中に創出する(図3a)〜d)を参照されたい)。テストサンプルの断面における、均質な構造を有する隔離領域の厚さは約0.4mmで、円筒体の最も外側にある表面に位置している。発泡気泡の直径は5〜50μmの範囲にあり、気泡からテストサンプルの表面への距離に依存している。その形状がテストサンプルの表面に近づけば近づくほど、その直径は小さくなり、その逆もまた成り立つ。圧力減少工程の制御を介して、テストサンプルの有する隔離領域中にある発泡構造の孔サイズを制御することができる。図3e)は、ナノ粒子(本場合においては、酸化鉄粒子)がポリマーマトリックス中に良好に分布していることを示す。特に注目すべきは、隔離領域が平滑な最も外側にある表面を有することである(図3a)〜c)を参照されたい)。隔離領域の有する平滑な液不透過性表面の機能は、その物体の力学的安定性を保証することであり、および他の材料(例、液体もしくはガス)が、その物体の内側に進入するのを防止することである。テストサンプルの有する隔離領域の機能は、その周辺領域においてテストサンプルの熱伝達を減少させることである。一方で、形状記憶化合物中では、テストサンプルの周囲へと有意な熱放散を生じることなく、埋め込まれたナノ粒子を介して、電磁場中でテストサンプルを加熱することができる。
【0071】
断熱材としての発泡化隔離領域の効率を実証するために、ポリマー円筒体を(5質量%を有するポリ(エーテルウレタン)の)ナノ粒子で調製した。ナノ粒子の直径Diso+schaltは7mmであり、形状記憶化合物を有する隔離領域の直径Dschaltは6mmであり、および長さは12mmであった(図4a))。図4b)は、ポリ(エーテルウレタン)マトリックスのコア領域の拡大詳細を示し、黒い領域は、ナノ粒子サイズの酸化鉄粒子を表す。
【0072】
図5によれば、円筒状サンプルを、蒸留水12で充填したガラス容器10(直径25mm、高さ55mm)に移した。ガラス容器10は、断熱プラスチック支持体14上に位置し、誘導子のコイル16により取り囲まれている。誘導子自身は示されない。サンプル18中の温度、発泡シース20中の温度、および周囲の水12中の温度を、別々の温度センサー22を用いて測定した。図5は、テスト装置の概略図を示す。この配置を、周波数が257kHzで異なるフィールド強度を有する交流電磁場に供した。図6a)に示されるように、円筒体18を、増加するフィールド強度を用いて、より迅速に且つ全体的により高い最大温度へと加熱することができた。発泡化円筒体の表面温度は、基本的に一定の30℃のままであった。また、円筒体を取り囲む水の温度変化は、基本的に検出されなかった。
【0073】
引き続いて、発泡化隔離領域を有する円筒体中の温度変化を、周波数が257kHzでフィールド強度が14kA/mである固定フィールドで測定し、発泡化処理に供されず、したがって本発明に係る対応する隔離領域を有しない同一の構造を有する円筒体の温度曲線と比較した。図6b)に見られるように、隔離領域を有する円筒体の温度は、比較円筒体中よりもずっと迅速に増加し、およびより高い最大値に到達する。
【0074】
実施例3:
半径Rを有する球体の発泡化プロセスを、図8に概略的に説明する。半径Rの関数として平衡にあるCO2の分圧φをプロットする。t=0では、全体が未だ発泡化していない。φ(CO2)=1では、半径R全体に渡り平衡が確立された。そこでは、平衡は外側から内側に向かって確立される。弛緩後に、その物体は、その後完全な発泡構造を有する。完全平衡φ(CO2)=1が、60分後に到達する。平衡が全体に渡って確立する前に、発泡化処理はいつでも(例、5分後に)、弛緩を介して停止可能である。5分後に、半径(ここではR5)のある特定の部分に渡り、平衡が既に実現された。弛緩後に、R5のこの領域は、断熱発泡構造を有する。部分的発泡化は、したがって、適する処理制御により、および発泡化処理のタイムリーな停止を用いて実現可能である。
【0075】
実施例4:
本発明に係る形状記憶化合物を、人工血管製造用の血管代替物として使用する。交流磁場の影響下で、垂直方向に人工血管壁の拡張形態の形状変化を生み出す。図9a)は、この転移を概略的に示す。有利なことには、自然の血管への損傷が最小であり、引き続き所望の長さへと拡張可能であるように、短い血管代替物の一片を挿入する。本明細書中では、血管壁を外科手術の位置を超えて安定化し、それは治癒過程に有利である。図9b)は、人工血管のために使用される孔構造を示す。人工血管を形成するチャネルは、黒色で視覚できる。
【0076】
図10は、医療用の様々な幾何学体の発泡化を概略的に示す。カテーテルおよび血管代替物に使用される管状幾何学を、そのシース表面上において選択的に発泡化する(図10a))。固形円筒体を、縫合材料として、例えば、単一繊維の形態で使用する。そのような発泡化単一繊維を、図10b)に概略的に図示する。
【0077】
参照記号のリスト
10 ガラス容器
12 蒸留水
14 プラスチック支持体
16 誘導子のコイル
18 サンプル
20 発泡シース
22 温度センサー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する物品であって、
前記少なくとも一つのスイッチングセグメントは、
a)少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとそこに埋め込まれる粒子とを含む形状記憶化合物と、
b)前記形状記憶化合物a)を取り囲み且つ熱伝達係数hisoを有する隔離領域を含み、
前記粒子は、交流電磁場中で加熱するのに適しており、前記形状記憶化合物は、熱伝達係数hschaltを有し、
hiso < hschaltである、少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する物品。
【請求項2】
hiso/hschaltの比率が≦0.9、好ましくは≦0.5、特に好ましくは≦0.3、特別に好ましくは≦0.1であることを特徴とする、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記隔離領域が、交流電磁場において加熱に適する粒子を実質的に有しないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
前記隔離領域が、前記形状記憶化合物の前記少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの有する熱伝導率λschaltよりも小さな熱伝導率λisoを有する材料を含むか、または前記材料で製造されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項記載の物品。
【請求項5】
前記隔離領域が、前記形状記憶化合物の構造と異なる構造を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の物品。
【請求項6】
前記隔離領域が、発泡構造、特に、大部分が独立気泡の発泡構造を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項記載の物品。
【請求項7】
前記隔離領域の材料が、ガス、好ましくは形状記憶化合物の少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーに不活性なガス、特に好ましくはCO2または空気を含むことを特徴とする、請求項4、5、および6のいずれか一項記載の物品。
【請求項8】
形状記憶化合物の平均直径(Dschalt)に対する、隔離領域と前記形状記憶化合物との平均直径(Diso+schalt)の比率(Diso+schalt / Dschalt)が、形状記憶化合物の有する少なくとも一つの形状記憶ポリマーのスイッチング温度が交流電磁場の励起を介して前記形状記憶化合物中で達成可能であるように、少なくとも一つのスイッチングセグメントの断面において選択され、前記少なくとも一つのスイッチングセグメントは、前記スイッチングセグメントの有する前記形状記憶化合物の熱伝達係数よりも大きな熱伝達係数を有する環境にあることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項記載の物品。
【請求項9】
水性環境中でおよび/または245〜265kHzの周波数と10〜16kA/mのフィールド強度とを有する交流電磁場中で、前記少なくとも一つのスイッチングセグメントがスイッチング温度を達成するように、直径比率Diso+schalt/Dschaltが選択されることを特徴とする、請求項8記載の物品。
【請求項10】
前記少なくとも一つのスイッチングセグメントの断面中における、形状記憶化合物の平均直径に対する隔離領域と形状記憶化合物との平均直径の比率が、Diso+schalt/Dschalt≧1.01、好ましくは≧1.05、特に好ましくは≧1.1であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項記載の物品。
【請求項11】
隔離領域が、前記隔離領域の断面に渡り孔サイズの密度勾配に沿って分布する孔を含み、前記隔離領域の外側領域にある孔が前記隔離領域の内側領域における孔よりも平均して小さいことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項記載の物品。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項記載の少なくとも一つのスイッチングセグメントを有する物品の生産方法であって、
a)少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーとそこに埋め込まれる粒子とを含む、少なくとも一つのスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物を調製する工程であって、前記粒子は、交流電磁場中で加熱するのに適していて、前記形状記憶化合物は熱伝達係数hschaltを有している工程と、
b)前記少なくとも一つのスイッチングセグメントの有する前記形状記憶化合物上に、熱伝達係数がhiso<hschaltの隔離領域を堆積する工程を有し、したがって、前記隔離領域が前記形状記憶化合物を取り囲む工程とを含む、方法であって、
工程b)が工程a)と同時または工程a)に引き続いて実行される、方法。
【請求項13】
前記少なくとも一つのスイッチングセグメントの有する形状記憶化合物が、ポリマー溶融体を変形することにより、連続および/もしくは非連続な単層ならびに/または多層の押出成形処理あるいは射出成形処理により、および/またはいくつかの組み立て式要素の接合処理により生産されることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記隔離領域が、発泡化、スプレー、および/または転相により堆積されることを特徴とする、請求項12または13記載の方法。
【請求項15】
前記隔離領域が、形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーの発泡化および/または転相により作り出されることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記隔離領域が、形状記憶化合物の有する、少なくとも一つの熱プログラマブル形状記憶ポリマーと異なる一若しくは複数の材料の発泡化および/または転相により作り出されることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
hschaltよりも大きな熱伝達係数を有する材料と、特に、液体材料とまたは人体組織もしくは動物体組織と、物品が当接するような適用例のための、請求項1〜11のいずれか一項記載の物品。
【請求項18】
物品が人体もしくは動物体の部分と接触を生じる、人体もしくは動物体の外科的または医薬的治療方法中での使用のための、あるいは診断過程における使用のための、請求項1〜11のいずれか一項記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−506938(P2012−506938A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533739(P2011−533739)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064367
【国際公開番号】WO2010/049521
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(511103650)ヘルムホルツ−ツェントルム ゲーストハッハト ツェントルム フューア マテリアル−ウント キュンステンフォルシュング ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】