説明

高い熱安定性を有するナノ構造ジルコニア粒子

【課題】比表面積が高く、同時に熱安定性が高いナノ構造ジルコニア粒子を含む組成物の提供。
【解決手段】ナノ構造ジルコニア粒子と安定化剤とを含む組成物であって、前記ナノ構造ジルコニア粒子が、(1)少なくとも800℃の温度および少なくとも6時間の焼成の後に、大部分が準安定正方晶相であるものであって、(2)50m/g以上の表面積−質量比を有し、(3)粒径が5nmから50nmまでの一次粒子からなり、(4)2nm〜30nmの孔径分布を有するメソ多孔質であり、前記安定化剤は、シリカ、ケイ酸イオン、リン酸イオン、リン酸アルミニウム、アルミン酸イオンおよびアルミナからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造粒子の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を開発する場合、最も重要な2つのパラメータは、触媒材料を含む粒子のサイズと、そうした粒子の熱安定性である。粒径が重要なのは、それが表面積に関係し、表面積を増加させると効率を向上させることができる、つまり、より大きな表面積は、触媒材料が触媒すべき物質と接触できる場所をより多く提供するからである。熱安定性が重要なのは、多くの触媒反応では、収率を良くするために高温工程が必要または有利であり、また触媒が有効となるためには、触媒自体がこうした温度で安定でなければならないからである。
【0003】
残念ながら、触媒応用分野で使用される粒子を開発するための公知の技術は、表面積−質量比が十分に大きく、かつ熱安定性が十分に高い粒子を生成することができない。例えば、望ましい表面積−質量比を有する多孔質およびメソ多孔質ジルコニア製品が、触媒の応用分野において使用されてきた。しかしながら、これら製品の高多孔質構造は、現存する技術の下では高温処理において粒子を最適の効率にするには至っていない。他の公知の方法によれば、高い熱安定性を有する粒子を生成することができるが、これら粒子は許容できない表面積−質量比しか有していない。
【0004】
それ故、高い表面積−質量比を有し、熱的に安定なナノ粒子で構成される組成物を開発することが依然として必要とされている。本発明は、解決策を提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、比表面積(これは表面積−質量比を指す)が高く、同時に熱安定性が高いナノ構造粒子生成物を対象とする。より詳しくは、本発明は、上記特性を有するナノ構造金属酸化物粒子生成物を対象とする。
【0006】
一実施形態において、本発明は、高い熱安定性と高い表面積−質量比を有するナノ構造金属酸化物粒子を提供する。これら粒子は、50m2/g以上の表面積−質量比を有し、少なくとも600℃の温度において熱的に安定であることが好ましい。さらに、このナノ構造金属酸化物粒子は、5nm〜50nmの寸法範囲にある一次粒子からなることが好ましい。
【0007】
別の実施形態において、本発明は、ジルコニア粒子が表面積−質量比50m2/g以上であり、少なくとも600℃、より好ましくは少なくとも800℃において熱的に安定であるナノ構造ジルコニア粒子からなる組成物を提供する。
【0008】
別の実施形態において、本発明は、ナノ粒子からなる組成物を生成する方法を提供する。この方法は、液体懸濁液中、好ましくは水懸濁液中で、60℃以上の温度で、pH7以上でナノ粒子前駆物質を熟成することを含む。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、ジルコニアを含有するナノ粒子からなる組成物を生成する方法を提供する。この方法は、(a)ジルコニウム塩溶液と塩基性溶液とを一緒にするステップであって、前記ジルコニウム塩基溶液が、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ炭酸ジルコニウムからなる群から選択される化合物を含むステップと、(b)コロイド状含水酸化ジルコニウム沈殿物をpH7以上で沈殿させるステップと、(c)前記沈殿物を、pHを7以上に維持しながら、60℃以上の温度で熟成させるステップと、(d)前記沈殿物を、ろ過または遠心分離によって回収するステップと、(e)前記沈殿物を乾燥して、乾燥粒子を生成するステップと、(f)前記乾燥粒子を焼成して、焼成粒子を生成するステップとを含んでなる。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、(a)金属酸化物である少なくとも1ナノメートルサイズの一次粒子と、(b)安定化剤とも称される安定剤とを含む、ナノ構造金属酸化物粒子生成物を提供する。安定剤は、オキソアニオン種およびそれらの対応する酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の物質を含むことが好ましい。
【0011】
本発明の微粒子生成物は、大きな表面積および高い熱安定性を有していることで、例えば、触媒、触媒担体、吸着剤、および分離膜の材料として有用な生成物となる。これらの生成物は、高温での操作が必要であるかまたは有利である応用分野において特に有用である。こうした応用分野には、DeNOx触媒、自動車触媒、および高温反応用化学触媒が含まれる。
【0012】
本発明をより良く理解するため、他のさらなる実施形態と共に、実施例と併せて以下の記述が参照されるが、その範囲は添付の特許請求の範囲に記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本開示は、ナノ粒子の学術論文であることを意図するものではない。さらなる背景情報に関しては、この分野の適切な利用可能な教科書および他の資料を参照されたい。
【0014】
定義
本開示において使用するとき、いくつかの用語および語句は、別段の指定がない限り、次の通り定義される。
「メソ孔径範囲」という語句は、BET法で測定して2〜50nmの範囲のサイズを指す。
「ナノ粒子」という用語は、1〜100nmのナノスケール範囲の外形寸法を有する粒子を指す。
「ナノスケール」という用語は、少なくとも1つの寸法が、1〜100nmの寸法範囲にある物質を指す。
「ナノ構造粒子」という語句は、1〜100nmのサイズを有する1つ以上のサブユニット(本発明の一次粒子または微結晶)からなる粒子を指す。
「一次粒子」という語句および「微結晶」という用語は、凝集、表面電荷あるいは他の微粒子間力によって結合している、ナノ構造粒子内の物質の個々の最小微粒子単位を指す。例えば、「一次粒子」および「微粒子」は、分子、あるいは無機金属水酸化物など会合した元素または分子の複合体を指すことがある。
【0015】
本発明によれば、高い比表面積および高い熱安定性を有するナノ構造粒子を含有する組成物を生成することができる。
【0016】
第1の実施形態によれば、本発明は、50m2/g以上の表面積を有し、少なくとも600℃において熱的に安定な、ナノ構造金属酸化物粒子からなる組成物を提供する。表面積−質量比は、50m2/gと200m2/gの間が好ましく、70m2/gと150m2/gの間がより好ましい。表面積は、当業者に良く知られているBET N2吸着技術によって決定される。
【0017】
ナノ構造粒子は、外径が比較的大きくてもよく(ミクロン範囲まで)、形状が主として球形で、化学的あるいは物理的に結合されたナノメートルサイズの一次粒子(微結晶)からなる。一次粒子は、一般的に5〜50ナノメートルの寸法範囲を有しており、一次粒子は、好ましくは粒径分布が2〜30nmの範囲にあるように生成される。この一次粒子によって生成されたナノ構造粒子は、高い比面積および狭い孔径分布を有する独特で特徴あるメソ多孔質構造を有している。
【0018】
メソ多孔質構造の粒子は、上で述べたように、少なくとも600℃の温度において熱的に安定であり、関連する金属酸化物の性質および下記に説明する安定剤を使用するかどうかに応じて、潜在的には1000℃までの温度において熱的に安定である。
【0019】
本発明のナノ構造粒子の熱的安定性とは、所定の温度における熱に対しての粒子の構造と多孔性の丈夫さをいう。安定性は、粒子が処理の後に保持している比表面積値および孔径分布データにより測定する。ある種の金属酸化物では、微結晶相転移は500℃〜1000℃の温度範囲で起こる。こうした場合、ナノ構造粒子の熱安定性は、所望の微結晶相(ジルコニアの場合は準安定正方晶相、チタニアの場合はアナターゼ相)がより望ましくない「高温相」(ジルコニアの場合は単斜晶相、チタニアの場合はルチル相)へ転移する温度によって定量化することもできる。それ故、転移温度が高くなるほど、生成物が高い熱安定性をゆうすもことになる。
【0020】
表面積−質量比も、熱安定性の指標となる。表面積−質量比が高くなるほど、所望の温度で所望の時間焼成したとき生成物の熱安定性も高くなる。上で述べたように、本発明の粒子の表面積は、BET比表面積を指す。
【0021】
例を挙げると、本発明の第1の実施形態によれば、組成物が600℃において熱的に安定な場合、ナノ構造粒子の構造は崩壊せず、それに対応してこの温度またはそれより低い温度で処理あるいは使用した後、組成物の比表面積は著しくは減少しない。比表面積が少なくとも10%以上減少した場合に、著しい減少であると見なす。粒子に対する熱の累積効果により、ある温度にある時間保持した後で始めて、その温度で粒子が不安定になるかもしれないことを理解すべきである。本明細書で使用するとき、別段の指定がない限り、ナノ構造粒子の熱安定性とは、例えば焼成において、特定の温度に少なくとも6時間さらして測定して安定であることを指すものとする。それ故、組成物がこれらの条件にさらされた後で、感知できる程度に破壊されず、それに対応して、その比表面積が著しく減少しない場合にのみ、組成物はその温度において熱的に安定であると称される。
【0022】
第2の実施形態によれば、本発明は、50m2/g以上の表面積を有し、少なくとも600℃、より好ましくは少なくとも800℃において熱的に安定なナノ構造ジルコニア粒子からなる組成物を提供する。ナノ構造ジルコニア粒子が、70m2/g以上の表面積を有していることが好ましい。
【0023】
本実施形態の組成物においては、一次粒子の大きな表面積に、例えば、吸収、分離、触媒すべき物質が接近可能なように、ナノ構造ジルコニア粒子は、ナノメートルサイズの一次粒子によって生成される。メソ孔径範囲において、BET技術によって測定して実質上すべての表面が接近可能でなければならない。
【0024】
さらに、粒子構造は強固に結合しており、高温処理の下でもほとんど損なわれない。一次粒子は、例えば、主として熱処理中に形成される化学結合および粒子間の表面電荷相互作用によって結合されてもよい。この独特のナノ構造の熱安定性は、ナノ構造粒子を形成する一次粒子の表面が安定化している結果であり、これは、例えば以下に説明する熟成処理によって得ることができる。
【0025】
さらに、ナノ構造ジルコニア粒子は、5〜50nmのメソ孔径範囲にあり、好ましくは孔径分布が2nmと30nmの間、より好ましくは、約10ナノメートルを中心にして2nmと20nmの間である間隙孔(一次粒子間の空間)を有する、ナノメートルサイズの一次粒子を含む多孔質の凝集物であることが好ましい。
【0026】
以下においてさらに詳しく説明するように、第1実施形態および第2実施形態の組成物は、熱安定性をさらに増加させるために使用することのできる安定化剤をさらに含んでいてもよい。
【0027】
第3の実施形態によれば、本発明はナノ粒子を含む組成物を製造する方法を提供する。この方法は、ナノ粒子前駆物質を、液体懸濁液中、pHをpH7以上に維持しながら、60℃以上の温度で熟成することを含む。「ナノ粒子前駆物質」とは、それを処理するとナノ粒子を生成することができる物質である。したがって、これは金属酸化物に変換することができ、あるいはすでに金属酸化物であって、本発明の組成物を生成するために処理することができる物質である。
【0028】
この前駆物質を、所望の表面積を有する熱的に安定な生成物を生成することを可能にする時間熟成する。この熟成のための「延長期間」の継続時間は、一部には熟成が行われる温度に依存する。例えば、温度が高くなると、必要な「延長期間」は短くなる。さらに、高い熱安定性が所望され、かつ/またはより大きな表面積−質量比を有する粒子が所望される場合は、より長い期間の熟成が望ましいこともある。いくつかの実施形態において、本方法は、10時間から100時間実施される。いくつかの好ましい実施形態においては、熟成を少なくとも80℃の温度で行うこと、熟成を少なくとも24時間行うこと、そしてpHはpH9以上であることという条件の少なくとも1つ、好ましくは全部が存在する。
【0029】
適切な条件の下、適切な時間、適切な温度で粒子を熟成することによって、高温処理の後であっても高い比表面積を保持し、高い熱安定性を有する組成物を生成することができる。熟成によって、粒子の表面が熱処理に関してより不活性となり、それによって熱処理中の粒子の積極的な成長が防止されまたは減少される。これにより、より高い表面積−質量比が可能になる。表面が不活性であると、熱処理中に、たとえ非常に高温であっても、細孔が除去される機会も減少してしまう。
【0030】
熟成中、水酸化物基を消費する加水分解反応が継続すること、またはNH3などの塩基分子が蒸発することのいずれか、あるいは両方の原因によって、一般的にスラリーのpHは低下する。pHを所望の範囲に維持するために、必要に応じて余分に塩基を加えてもよい。
【0031】
本実施形態の方法は、金属酸化物、混合金属酸化物および複合金属酸化物の高表面積生成物を生成するのに使用することができる。これらの生成物は、例えば、ジルコニア、チタニア、ハフニア、酸化スズ、セリア、酸化ニオブおよび酸化タンタルからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸化物を含むこともできる。
【0032】
生成物がジルコニアを含む場合、好ましくは、ナノ粒子前駆物質は、コロイド状含水酸化ジルコニウム沈殿物を生成する。さらに、このコロイド状含水酸化ジルコニウム沈殿物は、好ましくはジルコニウム塩溶液と塩基溶液を7以上のpHで一緒にすることによって生成される。ジルコニウム塩溶液は、例えば、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウムおよびオキシ炭酸ジルコニウムからなる群から選択される1種の物質を含むこともできる。
【0033】
ジルコニウムアルコキシドなど、加水分解可能な有機ジルコニウム化合物も前駆物質材料として使用することもできる。類似の塩生成物およびアルコキシド化合物も、それだけには限らないが、チタニアまたはセリア酸化物を含めた他の金属酸化物の前駆物質として使用することもできる。チタニアおよびセリアの前駆物質の例には、それだけには限らないが、オキシ塩化チタン、オキシ硫酸チタン、チタンイソプロポキシド、硝酸セリウム(III)、硝酸アンモニウムセリウム(IV)および硫酸セリウム(IV)アンモニウムが含まれる。
【0034】
アンモニアおよびpKaが9以上のどの水溶性有機塩基も、沈殿物の生成に使用することができる。有機塩基には、それだけに限らないが、メチルアミン(pKa=10.657)、エチルアミン(pKa=10.807)、ジエチルアミン(pKa=10.489)、エチレンジアミン(pKa=10.712)、n−ブチルアミン(pKa=10.77)、ピペリジン(pKa=11.123)、n−ヘキシルアミン(pKa=10.56)およびシクロヘキシルアミン(pKa=10.66)が含まれる。尿素は、それ自体が強い有機塩基ではないが、加熱時に尿素分子が分解してアンモニアを発生するので、尿素を使用することもできる。アンモニアおよび有機塩基は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基より好ましい。アンモニアおよび有機塩基は、焼成ステップ中に容易に除去することができるが、無機金属水酸化物を使用すると、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基を使用した場合がそうであるように洗浄後にかなりの量の残留物が残った場合、粒子の焼結を促進することになる。その結果、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの無機塩基を用いる場合、ナノ構造の安定性が低下し、表面積値が小さくなることになる。
【0035】
特定の理論に拘泥するものではないが、上述の有用な塩基は、塩を水酸化物または含水酸化物として沈殿させるためのOH-基を提供するブレンステッド塩基として機能する(例えば、これら塩基は、ジルコニウム塩を、水酸化ジルコニウムまた含水酸化ジルコニウムとして沈殿させる場合にOH-基を提供することができる)だけでなく、沈殿した粒子表面の水またはヒドロキシル基を置換することのできるルイス塩基としても機能すると想定される。後者の機能が、無機アルカリ金属水酸化物と比較して、本発明の粒子の熱安定性を増大させる際にアンモニアおよび有機塩基を有効にする推進力であると考えられる。
【0036】
沈殿は、現在知られているか、または将来知られることになるどんな方法、および本開示を読んで、当業者が本発明と関連して使用するのが有利であると結論することになるどんな方法によって行ってもよい。例えば、「複ジェット法」で沈殿を実施することもできる。これは、塩溶液、例えばジルコニウム塩溶液の塩溶液と塩基溶液を、沈殿生成の間中pHが一定に(一般的に9以上のpHに)維持されるように塩基溶液の流入速度を制御可能にして、絶えず攪拌しながら反応器に同時に添加することを言う。沈殿は、単一ジェット法で実施することもできる。これは、反応容器中で絶えず攪拌しながら、塩溶液を適切な量の塩基溶液に加えるか、または塩基溶液を適切な量の塩溶液に加えるものである。所望のpHに達した後に沈殿を停止することもでき、あるいは必要ならば、沈殿が完了する前に沈殿物を所望のレベルに維持するためにさらに塩基を加えてもよい。所望のpHは「終了pH」と呼ばれることもある。
【0037】
また、本方法は、(a)沈殿物を回収すること、(b)沈殿物を乾燥して、乾燥粒子を生成すること、(c)乾燥粒子を焼成して、焼成粒子を生成することをさらに含むこともできる。
【0038】
回収ステップは、例えば、ろ過、デカントまたは遠心分離によって実施することができる。一般的に、回収の後、沈殿物は、望ましくない部分を除去するのに適した溶媒で洗浄する。例えば、水を溶媒として使用することができる。
【0039】
乾燥ステップは、例えば、沈殿物をオーブンに入れることで実施することができる。乾燥ステップは、洗浄ステップの後に行うことが好ましい。あるいは、洗浄した沈殿物を所望の濃度に再スラリー化しスプレー乾燥することもできる。
【0040】
焼成ステップは、所望の温度で実施することができる。本発明のナノ構造ジルコニア粒子は、さらに処理し粒子の熱安定性を測定するために、好ましくは少なくとも600℃で、より好ましくは少なくとも700℃で、最も好ましくは少なくとも800℃で焼成される。さらに、焼成ステップは、少なくとも6時間実施することが好ましい。焼成した粒子は、それ自体が所望のナノ構造粒子であることもあるし、あるいは所望の属性をもつナノ粒子を生成するためにさらに処理することもある。焼成後のさらなる処理としては、例えば、焼成した粒子の微粉砕が挙げられる。微粉砕は、当業者に公知の技術であり、所望のサイズの粒子を得るためにそれを使用することができる。
【0041】
熟成前の沈殿物は、非晶質である。しかし、熟成の後、特に熟成時間が24時間以上の場合、沈殿物はいくらかの結晶化度を獲得する。高解像度のTEM(透過型電子顕微鏡)画像により、ナノ粒子がジルコニアベースのものである場合、十分に熟成した材料は、熟成後に約2〜5ナノメートルサイズの微結晶を含み得ることが明らかになっている。特定の結晶d空間に対応する個々の微結晶の格子縞が明瞭に観察できる。サイズが非常に小さいため、粉末XRD(X線回折)パターンは、非常に幅広の線しか示さない。
【0042】
焼成後、5〜50nmの微結晶サイズを有する、ナノ構造粒子の高度に結晶性の多孔質凝集物に変わる。さらに、孔径分布は、約2〜30nmを中心とすることが好ましい。
【0043】
特に好ましい実施形態によれば、本発明は、ナノ粒子からなる組成物の製造方法を提供する。この方法は、(a)塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ炭酸ジルコニウムからなる群から選択される化合物を含むジルコニウム塩溶液と塩基溶液を一緒にすること、(b)コロイド状含水酸化ジルコニウム沈殿物を沈殿させること、(c)前記沈殿物を、pHを7以上に維持しながら、60℃以上の温度で熟成させること、(d)前記沈殿物を、ろ過または遠心分離によって回収すること、(e)前記沈殿物を乾燥して、乾燥粒子を生成すること、および(f)前記乾燥粒子を焼成して焼成粒子を生成することを含む。こうした乾燥粒子は、所望の応用分野で使用されるナノ粒子であったり、あるいは任意の所望の属性をもつナノ粒子を生成するためにさらに処理することもできる。さらなる処理には、例えば、焼成した粒子の微粉砕が含まれる。
【0044】
前の実施形態と同様に、この実施形態によれば、この方法も、以下の条件、すなわち、熟成を少なくとも80℃の温度で行うこと、熟成を少なくとも24時間行うこと、およびpHをpH9以上とすることの少なくとも1つの条件の下で、好ましくはすべての条件の下で実施することが好ましい。
【0045】
ジルコニアベースのナノ粒子の場合、材料は、焼成後約5〜50nmの微結晶サイズを有する高度に結晶性のナノ構造粒子になる(図3参照)。粉末XRD測定により、ナノ構造粒子は主として正方晶相であることが明らかになっているが、下記に説明するように安定化剤を使用する場合でも、安定化剤の量が少量であり、あるいは処理時間がそれほど長くない場合には、少量の単斜結晶相も観察できる(図4参照)。焼成後に形成されるナノ構造粒子は、ナノメートルサイズの微結晶の多孔質凝集物である。粒子中の微結晶および細孔は、いずれもサイズがかなり均一である。上で述べたように、細孔は一般的にメソ孔径範囲であり、粒径分布は約2〜30ナノメートルである(図2参照)。
【0046】
別の実施形態によれば、本発明は、表面が安定剤によって安定化されたナノ構造生成物を提供する。安定剤は、ナノ粒子の熱安定性を高める。安定剤は、1つまたは複数のオキソアニオン種および対応する酸化物からなる物質の群から選択されることが好ましく、オキソアニオン種は、リン酸イオン、ケイ酸イオン、アルミン酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオン、ポリタングステン酸イオン、およびポリモリブデン酸イオンからなる群から選択され、酸化物は、シリカ、アルミナ、リン酸アルミニウム、酸化タングステン、および酸化モリブデンからなる群から選択される。安定剤は、上述のどの実施形態でも使用することもできる。
【0047】
有効な安定化剤は、塩基性条件の下でマイナスに帯電し、会合する相手のジルコニアの表面または他の酸化物の表面に対して強い結合力を有していることが好ましい。例えば、シリカは、高塩基性および高温の条件下で、可溶性となって、マイナスに帯電したケイ酸イオン種を生成することができる。おそらく、これらの化学種は、酸化物表面のH2OおよびOH-基に効果的に置き換わり表面活性を低下させ、それによってナノ粒子を安定化させ、ナノ粒子が激しく成長するのを妨げることができる。ジルコニア表面上の安定化種は、焼成中に単斜晶相の核形成を妨げまたは遅らせることもでき、その結果、正方晶相の単斜晶相への相転移温度を上昇させ、それによってナノ構造粒子の熱安定性を増大させる。ナノ構造粒子がジルコニアを含有している場合は、相転移温度が600℃以上となるように安定剤を選択することが好ましい。
【0048】
ジルコニアナノ構造粒子の熱安定性に対するいくつかの安定化剤の有効性を図1に要約する。図に示すように、ケイ酸塩、リン酸塩およびリン酸アルミニウムが非常に有効な安定化剤である。これらの化学種によって安定化されたサンプルのBET表面積値は、800℃で6時間焼成した後、約80m2/g〜140m2/gの範囲である。タングステン酸イオン、モリブデン酸イオン、ポリタングステン酸イオン、ポリモリブデン酸イオンなど、遷移金属のオキソアニオンおよびポリオキソアニオンは、中間的な安定化効果を有し、こうした化学種によって安定化されたナノ構造粒子は、ケイ酸塩およびリン酸塩など、主要グループの対応物に比べて、熱安定性が幾分低い。それでもなお、これらは、その生成物が使用される応用分野次第では望ましいこともある。それに反して、高温で分解して気体種に変わるアニオンは、安定化効率が限られている。こうした化学種には、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが含まれる。
【0049】
ここで提唱するジルコニアナノ構造粒子安定化機構は、粒子間凝縮に関する不活性さが増大し、高温での焼成中の粒子成長が減少するように、ナノ粒子表面が安定化剤によって改質されるものである。これは、TEM像における微結晶サイズを比較することによって立証することができる(図3参照)。図3の像に見られるように、比較例(像AおよびB)の微結晶サイズは約50nmであるが、安定化剤を使用した実施例では約5nmで、比較例の約1/10である。安定化の効果の別の側面は、安定化剤が、準安定正方晶相と単斜晶相の間の相転移を効果的に遅らせることができることにある。図5は、焼成は同一の条件(800℃で6時間)の下で行ったが、異なる安定化剤を使用して調製したサンプルのBET表面積値と、示差熱分析(DTA)曲線中の対応する放熱極大値から導き出した正方晶相から単斜晶相への転移温度との相関関係を示す。ほぼ完璧な直線的相関関係は、ナノ構造粒子の熱安定性および表面積値が、準安定正方晶相の安定性に緊密に関係していることを示している。より高い相転移温度は、粒子のより高い熱安定性およびより高い表面積値と相関関係がある。したがって、この相転移温度を使用して、ジルコニアナノ構造粒子生成物の熱安定性を定量的に測定することができる。さらに、相転移温度は、安定化剤の有効性の指標ともなる。
【0050】
この実施形態による熱的に安定なナノ構造粒子の生成は、(a)前駆物質溶液と塩基溶液を一緒にするステップと、(b)前駆物質溶液を、7以上、好ましくは9以上の終了pHで塩基溶液と混合することにより、コロイド状含水酸化物を沈殿させるステップと、(c)少なくとも1種の表面安定化剤の存在下、60℃以上、好ましくは80℃以上で、塩基溶液により熟成中の沈殿物のpHを絶えず7以上、好ましくは9以上に制御しながら、沈殿物を約10時間以上処理するステップと、(d)処理した粒子をろ過または遠心分離によって分離し、洗浄し、スプレー乾燥によって主として球状の粒子を生成するステップと、(e)所望の温度、一般的には600℃〜1000℃で、6時間以上焼成するステップによって実施することができる。
【0051】
あるいは、上記のステップ(c)は密封オートクレーブを使用して実施することもできる。この場合、沈殿したナノ粒子前駆物質は、実質的に熱水条件下で処理される。高温に加えて、より高い圧力が加えられるため、処理時間を大幅に短縮することができる。熱水処理時間は2〜12時間、処理温度は80〜150℃が好ましい。熱水処理条件下では、周囲圧力のときよりずっと速く結晶が成長するので、これより高い処理温度およびこれより長い処理時間は好ましくない。高温で長時間処理すると、表面積値の小さな、過成長した結晶を生成する可能性がある。密封反応器による熱水処理の1つの利点は、上記の通常の熟成工程で必要な塩基を追加する必要がないことである。
【0052】
上記の生成ステップ(c)は、粒子が高い熱安定性を得るのに特に有利である。上で述べたように、熱安定性が高いということは、所望の微結晶相が得られ、高温度での焼成の後にも大きな表面積値が維持されることを示唆している。これは、安定化剤の添加(表1のデータおよび図1のプロット参照)、5mol%SiO2対10mol%SiO2の場合のような、安定化剤の濃度(表1および図1参照)、他の処理条件(例えば、表1および図1によって示されるように、熱水処理は周囲圧力による熟成よりも安定な生成物を生成する)など、ステップ(c)における処理条件により、粒子の比表面積値が劇的に変化することによって立証することもできる。
【0053】
一般的に言えば、本実施形態の製造方法は、ジルコニアの高表面積生成物を生成するのに使用することもでき、同様に、TiO2、CeO2など他の金属酸化物、ZrO2/TiO2、ZrO2/CeO2など混合金属酸化物、および複合金属酸化物の高表面積生成物を製造するのにも使用することもできる。粒子状生成物の表面積が大きく熱安定性が高いことは、触媒、触媒担体、吸着剤、および分離膜の材料などとして、特に高温での操作が必要である応用分野において有用である。こうした応用分野には、DeNOx触媒、自動車触媒、および高温反応用化学触媒が含まれる。
【0054】
本実施形態に従って製造されたナノ構造粒子の特に有利な大きな表面積および高い熱安定性特性は、安定化剤によって表面が安定化されたナノスケールの一次粒子、およびその結果として生ずる粒子生成物の独自の安定したメソ多孔質構造に起因すると考えられる。個々の粒子は、一次粒子の表面の多くが依然として接近可能であるが、粒子構造が強固に結合しており、高温処理の下でもほとんど損なわれないようなナノメートルサイズの一次粒子によって形成されている。
【0055】
上で述べたように、本実施形態によれば、得られた沈殿物は、60℃以上、好ましくは80℃から還流温度(約102℃)までの温度で、10時間〜数日間処理される。処理温度が高くなると、処理工程が加速される。さらに、熱水処理条件下では、温度および圧力のいずれも処理工程を促進するので、処理時間を短縮することができる。さらに、例えばSiO2、AlPO4など、安定化剤を処理中に先ず溶解する必要がある場合は、処理時間の決定に際して、安定化剤を完全に溶解するのに必要な時間を考慮に入れなければならない。一般的に、溶解は、溶解した化学種が酸化物表面と結合する工程よりも遅い工程である。したがって、溶解工程によって処理時間が決まる。実際には、処理時間を変えて表面積の変化を監視することを含む通例の実験によって、最適処理時間を決定することもできる。最適の処理時間は、最大の表面積が達成される時間である。それ故、さらに処理しても表面積はもはや増加することはない。
【0056】
例えば、開放型反応器系において、5mol%の乾式法シリカを安定剤として用いて、80℃で約10時間の処理の後、ナノ構造粒子は完全に安定化される。処理中、水酸化物基を消費する加水分解反応が続くこと、安定化剤(例えばシリカ)が溶解すること、および/またはNH3などの塩基分子が蒸発することにより、一般的にスラリーのpHは低下する。系のpHを7以上、好ましくは9以上に維持するために、必要な場合には追加の塩基を加える。熱水条件下では、処理時間を2〜3時間に短縮することができ、追加の塩基は不要である。
【0057】
処理後、ろ過または遠心分離によって、生成物を分離し洗浄することができる。洗浄した生成物を、通常はスプレー乾燥し、次いで700℃以上で少なくとも6時間焼成する。最適の焼成時間は、異なる焼成時間でいくつかの焼成実験を実施することで決定することができる。しかしながら、発明者らは、6時間の焼成後、比表面積値が、基本的に安定化していることを発見した。
【0058】
粒子の幾何形状および粒子の外形寸法を制御するために、スプレー乾燥が好ましい。スプレー乾燥は、大部分が球形のミクロンサイズの粒子を生成する。しかしながら、粒子の外形寸法および幾何学的形状を制御しても、ナノ構造粒子の熱安定性および表面積値は変わらないように思われる。オーブン乾燥粒子およびスプレー乾燥粒子は、いずれも類似の熱安定性および表面積を示している。
【0059】
上で述べたように、高熱安定性のジルコニアベースの粒子を生成するこの方法を、高熱安定性の他の金属酸化物生成物を生成するのに使用することもできる。その例には、それだけに限らないが、ハフニア、チタニア、酸化スズ、セリア、酸化ニオビウム、酸化チタン、これらの金属種の混合酸化物および複合酸化物が含まれる。高熱安定性のナノ構造ジルコニア生成物は、触媒、触媒の担体およびキャリア材料、吸着剤、分離またはろ過用多孔性膜などとして、特に高温での操作が必要であるか、または収率、効率などにとって有利である応用分野において、高い潜在的応用可能性を有する。
【0060】
担体またはキャリア材料は、活性成分をその表面に堆積させることにより、活性成分でさらに処理することもできる。活性成分の例には、それだけに限らないが、硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、シリカ、アルミナ、および他の金属酸化物、金属塩および金属が含まれる。活性成分を触媒物質と一緒にする方法は、当業者に公知である。
【0061】
上記の組成物、および上記に記載した方法に従って生成された組成物は、商業的に発生した有害物質を除去するための触媒を生成するのに使用することもできる。こうした有害物質には、それだけに限らないが、自動車および発電所の運転中に生成される物質が含まれる。したがって、本発明は、自動車および発電所、ならびに触媒を使用することが望ましいその他の応用分野において使用することができる。
【0062】
本発明をある程度詳しくで説明してきたが、次に実施例を提供する。これら実施例は、特許請求の範囲を限定することを意図するものではなくまた決して限定すると解釈してはならない。本発明は、以下の実施例を参照することによって、容易に理解されるが、実施例は例示の目的で提供されるものであり、特に指定がない限り、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1
ZrOC12・6H2O結晶粉末を脱イオン水に溶解して調製した0.8mol/lオキシ塩化ジルコニウム溶液1000mlを、20重量%のアンモニア溶液1000gが入っている3リットル容の二重壁ガラス製反応器に供給した。反応器は、プログラム可能な熱循環浴、pH電極付きpH制御器、オーバーヘッド攪拌機および液体ポンプを、必要に応じて備えていた。供給は、強力な攪拌の下、30℃の一定温度に保ちながら、60分で完了した(約16.7ml/分)。pHは、ジルコニウム溶液が供給される前のアンモニア溶液のpH11.2から、ジルコニウムが沈殿した後の約pH9.6まで低下した。ジルコニウムが沈殿した後、乾式法SiO2を加え(ジルコニア5mol%)、温度を85℃に上昇させた。沈殿物を、pH制御器で液体ポンプを制御しながら自動的にアンモニア溶液をポンプで送り込むことによってpHを9.0以上に制御し、絶えず攪拌しながら85℃で48時間熟成した。熟成した沈殿物を次いでろ過し、ろ液の導電率が1mS/cmより低くなるまで脱イオン水で数回洗浄した。洗浄した沈殿物をスラリー化してスプレー乾燥した。サンプルの一部を、700℃、800℃および900℃でそれぞれ6時間焼成した。BET表面積値を表1にまとめて示す。
【0064】
実施例2
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同様に行った。ただし、沈殿物を熟成する前に、10mol%の乾式法SiO2を加えた。サンプルの一部を、同じくそれぞれ700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿方法および使用したシリカの割合は、実施例2と同じであった。ただし、沈殿物のpHを熟成前に11に調整し、熟成は、攪拌機付き密封式オートクレーブ中、90℃で12時間行った。熱水熟成工程中に塩基は加えなかった。生成物は同様に処理し、上記のようにごく一部を700℃、800℃および900℃で焼成した。BET表面積結果を表1に示す。
【0066】
実施例4
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿および使用したシリカの割合は、実施例1と同じであった。ただし、ケイ酸塩前駆物質として、テトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)を使用した。TEOSは、塩基条件下、水中で加水分解して、単純なまたはオリゴマーのケイ酸塩種を生成する。使用した熟成および仕上げの工程は、実施例1と同じであった。サンプルの一部を、同じくそれぞれ700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積結果を表1に示す。
【0067】
実施例5
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同じであった。ただし、5mol%のリン酸アルミニウム(AlPO4)を、高温熟成の前に加えた。熟成および仕上げの工程は、実施例1と同様に行った。サンプルの一部を、600℃、700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0068】
実施例6
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿および安定化剤(5mol%AlPO4)は、実施例5と同じであった。ただし、熟成は実施例3と同じ熱水条件下で行った。すなわち、90℃で12時間、熱水処理中に追加の塩基を加えることなく行った。サンプルの一部を、同じくそれぞれ600℃、700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0069】
実施例7
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同様に行った。ただし、10mol%のリン酸水素アンモニウム((NH42HP04)を安定化剤として使用し、熟成の前に加えた。熟成および仕上げの工程は、実施例1と同様に実施した。この場合も、サンプルの一部を、それぞれ600℃、700℃、800℃および900℃で焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0070】
実施例8
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同様に行った。ただし、5mol%(W)のパラタングステン酸アンモニウム((NH4101241・5H2O)を安定化剤として使用し、熟成の前に加えた。 熟成および仕上げの工程は実施例1と同様に行った。サンプルの一部を、それぞれ500℃、600℃、700℃、および800℃で6時間焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0071】
実施例9
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同様に行った。沈殿物は、実施例1と同じ条件下で高温で熟成した。ただし、熟成処理の前に安定化剤は加えなかった。ジルコニア前駆物質として塩化物塩が使用されており、アンモニアが沈殿物中で塩基として使用されているので、塩化アンモニウムを安定化剤と見なすこともできる。熟成処理の後、サンプルは洗浄および乾燥によって仕上げた。サンプルの一部を、それぞれ500℃、600℃、700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0072】
比較例1
オキシ塩化ジルコニウムの沈殿は、実施例1と同様に行った。ただし、沈殿物は熟成せず、安定化剤も加えなかった。生成物は洗浄および乾燥によって仕上げた。サンプルの一部を、それぞれ500℃、600℃、700℃、800℃および900℃で6時間焼成した。BET表面積データを表1に示す。
【0073】
【表1】

表1のデータを検討すると、熟成だけでもBET表面積が大きくなり、熟成と組み合わせて安定剤を加えると、BET表面積がさらに大きくなることが実証される。加えて、安定剤の濃度を高めると、BET表面積はさらに大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】BET表面積を焼成温度に対してプロットした、ナノ構造ジルコニア粒子の熱安定性の比較を示す図である。
【図2】ナノ構造ジルコニア粒子の孔径分布曲線を示す図である。すべてのサンプルが、800℃で6時間の同一の条件の下で焼成された。
【図3A】800℃で6時間焼成された比較例1のナノ構造ジルコニア粒子のTEM(透過型電子顕微鏡)像を示す図である。
【図3B】800℃で6時間焼成された比較例3のナノ構造ジルコニア粒子のTEM像を示す図である。
【図3C】比較例1の粒子を、図3Aより高倍率で示す図である。
【図3D】800℃で6時間焼成された実施例6の粒子を示す図である。
【図4】生成物の粉末X線回析パターンを示す図である。(A)は実施例9の生成物を700℃で焼成したもので、典型的な単斜晶相パターンを示す。(B)は、実施例1の生成物を800℃で焼成したもので、主として正方晶相で、少量の単斜晶相を含むパターンを示す。(C)は、実施例2の生成物を800℃で焼成したもので、典型的な準安定正方晶相パターンを示す。
【図5】示差熱分析から導き出された正方晶相から単斜晶相への相転移温度に対して、BET表面積値をプロットした図である。ほぼ直線の相関関係によって、ナノ構造粒子の熱安定性は、準安定正方晶相の安定性によって決まることが示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造ジルコニア粒子および少なくとも1種の安定化剤を含む組成物であって、前記ナノ構造ジルコニア粒子が、(1)少なくとも800℃の温度および少なくとも6時間の焼成の後に、大部分が準安定正方晶相であるものであって、(2)50m/g以上の表面積−質量比を有し、(3)粒径が5nmから50nmまでの一次粒子からなり、(4)2nm〜30nmの孔径分布を有するメソ多孔質であり、前記安定化剤が、シリカ、ケイ酸イオン、リン酸イオン、リン酸アルミニウム、アルミン酸イオンおよびアルミナからなる群から選択されるものである組成物。
【請求項2】
前記安定化剤が、リン酸イオン、ケイ酸イオンおよびアルミン酸イオンからなる群から選択されるオキソアニオン種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記安定化剤が、シリカ、アルミナおよびリン酸アルミニウムからなる群から選択される酸化物種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ジルコニア粒子が、(1)5nm〜20nmのサイズであり、(2)70m/g以上の表面積を有し、(3)2nm〜20nmの孔径分布を有する一次粒子を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1の組成物、ならびに硫酸塩、バナジウム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、アルミナ、シリカ、金属酸化物、金属塩および金属からなる群から選択される少なくとも1種の活性成分からなる触媒。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公開番号】特開2013−14511(P2013−14511A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178544(P2012−178544)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2006−552141(P2006−552141)の分割
【原出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(506036493)ミレニアム インオーガニック ケミカルズ、 インコーポレイテッド (11)
【氏名又は名称原語表記】MILLENNIUM INORGANIC CHEMICALS, INC.
【Fターム(参考)】