説明

高い転換率のガラクトース異性化反応を用いたタガトースの製造方法

本発明は高い転換率を有するガラクトース異性化反応を用いたタガトースの製造方法に関するものであって、より詳しくは、タガトースに選択的に結合するホウ酸塩(borates)を添加してガラクトース異性化反応の転換率を増加させ、これを用いてガラクトースからタガトースを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い転換率を有するガラクトース異性化反応及びこれを用いたタガトースの製造方法に関するものであって、より詳しくは、ケトン糖のタガトースに選択的に結合する塩であるホウ酸塩(borates)を最適の条件で反応液に添加することによって既存の異性化反応の転換率を飛躍的に向上させる方法及びこれを用いて高い収率でタガトースを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、タガトースは主にガラクトースから化学的合成法によって製造されている。前記化学的合成法による製造方法は無機塩の存在下で金属水酸化物(Metal hydroxide)が触媒で作用してガラクトースを異性化し、金属水酸化物−タガトース複合体の中間体を形成した後、これを酸で中和して最終的にタガトースを生産する工程を含む。しかし、このような従来の化学的方法は経済性や収率の側面からは優秀な場合もあるが、工程そのものが複雑で非効率的であり、産業廃棄物を発生させる問題点があった。
【0003】
また、もう一つのタガトースの製造方法で、アルドース(aldose)またはアルドース誘導体からケトース(ketose)またはケトースの誘導体への転換によってガラクトースをタガトースに、酵素的な方法によって転換させる方法が知られている。特に、アラビノース(L-arabinose)をリブロース(L-ribulose)に転換させることに用いられるアラビノース異性化酵素はインビトロでガラクトースを基質としてタガトースを製造できることが知られている。このような酵素的転換法のための多様な由来のアラビノース異性化酵素及びこれを用いたガラクトースからタガトースの製造方法が報告されてきた。
【0004】
ガラクトースからタガトースへの異性化酵素反応は可逆反応であって、その反応の特性上反応物と生成物の濃度の間に一定な平衡状態が存在する。前記酵素反応は熱力学的に反応温度に比例して、その転換率が相対的に増加する反応である。従って、異性化酵素を用いたタガトースの酵素的転換法は高温で安定した酵素の開発及びこれを用いた異性化工程の開発が産業化の核心であり、これに多数の研究チームによってこのような研究が進められてきた。
【0005】
従来の大腸菌由来のアラビノース異性化酵素は30℃において24時間反応させたとき、ガラクトースからタガトースへの転換率が25%水準で低かった。耐熱性微生物であるゲオバチルス ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)由来のアラビノース異性化酵素はその安定的反応条件の60℃で46%の転換率を有することが報告された。サーモトーガ マリチマ(Thermotoga maritima)由来の超高温性アラビノース異性化酵素を用いて高温の70℃と80℃で反応したとき、ガラクトースからタガトースへの転換率はそれぞれ50%と56%で高かった(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0006】
高温適合性酵素の適用及び高温での反応はガラクトースからタガトースへの転換率を漸進的に増加させることができるが、70℃以上の反応温度では温度の上昇によって糖溶液の褐変反応が比例して急激に増加することが一般的である。このような高温反応時、比例的にたくさん発生される反応副産物は最終産物の純度、精製単価などに影響を与えることにより、反応温度上昇には限界がある。従って、実質的に適用可能な反応温度の70℃水準以下の反応温度における異性化酵素反応は最大56%(70℃である場合)水準の転換率がその最大値であり、その水準以上の反応転換率を得ることは事実上不可能であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Oh, D.K., Kim, H.J., Ryu, S.A., Kim, P., 2001. Development of an immobilization method of 1-arabinose isomerase for industrial production of tagatose. Biotechnol. Lett. 23, 1859-1862.
【非特許文献2】Kim, H.J., Oh, D.K.,2005. Purification and characterization of an L-arabinose isomerase from an isolated strain of Geobacillus thermodenitrificans producing d-tagatose., J.Biotech. Nov 4; 120(2): 162-73. Epub 2005 Aug 9.
【非特許文献3】Lee, D.W., Jang, H.J., Choe,E.A., Kim, B.C., Lee, S.J., Kim, S.B., Hong, Y.H., Pyun, Y.R., 2004. Characterization of a thermostable 1-arabinose (d-galactose) isomerase from the hyperthermophilic eubacterium Thermotoga maritime. Appl. Environ. Microbiol.70, 1397-1404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、タガトースに選択的に結合するホウ酸塩を添加してガラクトースからタガトースへの異性化反応を行うことにより、従来の転換率より高い転換率を有することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は好熱性の異性化酵素及びそれを含む宿主細胞を用いたガラクトース異性化反応によるタガトースの製造方法を提供することであり、より詳細には、タガトースに選択的に結合力を有するホウ酸塩を添加して、その転換率を増加させる方法及びこれを用いてタガトースを高収率で生産する方法を提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの目的は、ホウ酸塩を適量添加し、ホウ酸塩とタガトースとの選択的結合を誘導する反応条件下で、高温における異性化反応を行うことにより、異性化転換率を人為的に増加させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記のような目的を達成するために、本発明は好熱性乃至は高度好熱性由来のアラビノース異性化酵素を用いたガラクトースからタガトースへの異性化反応工程において、タガトースに選択的に結合するホウ酸塩を添加剤として使用してその転換率を画期的に増加させ、これを用いてガラクトースから高収率でタガトースを生産することができることを確認した。
【0012】
このような本発明を詳しく説明すると次の通りである。
【0013】
本発明のアラビノース異性化酵素は好熱性微生物であるゲオバチルス属(Geobacillus sp.)、サーモトーガ属(Thermotoga sp.)、サーマス属(Thermus sp.)などの多数の異なる微生物に由来するが、これらに限られるものではない。従って、それぞれ使用される多数の菌株由来のアラビノース異性化酵素は、固有の最適反応条件(温度、pH)の範囲内の条件である限りは、それぞれの酵素の種類に応じて異なる条件で適用が可能であり、このようにして適用された異性化反応は全て本発明に含まれるものと解釈されなければならない。
【0014】
前記タガトースに選択的に結合できる塩はホウ酸塩である。本発明で使用されたホウ酸塩はガラクトースよりタガトースに選択的に結合することがわかり(図1)、ホウ酸塩添加が、従来のホウ酸塩無添加の方法より効率的なガラクトース異性化反応を誘導し、結果的に、基質と反応物の相平衡が転移する効果を有する。
【0015】
本発明の効果はホウ酸塩のみに限定されるものではなく、一般にタガトースに選択的に結合できる塩に通常的に適用され、これは多様な反応条件において多様な種類の塩によって誘発できる。従って、任意に選ばれるタガトースに親和的な塩を添加して、高い転換率を有する反応仕組みは本発明の範囲に含まれるものと解釈べきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ガラクトースとタガトースを多様な条件でホウ酸塩(borates)と反応させた後、これをTLC(Thin layer chromatography)で展開した結果を示す図面である。 Lane1 タガトース、 Lane2 ガラクトース、 Lane3 ガラクトース+ホウ酸塩、 Lane4 タガトース+ガラクトース+ホウ酸塩、 Lane5 タガトース+ガラクトース
【図2】ホウ酸塩を添加した条件と添加しない条件で、各pH別にガラクトースからタガトースへの転換率を最高値を100にして相対値で表示した結果を示すグラフである。 ●はホウ酸塩を20mM濃度で添加した条件における反応結果であり、 ○はホウ酸塩を添加しない条件における反応結果を示す。
【図3】ホウ酸塩を添加した条件と添加しない条件で、各温度別にガラクトースからタガトースへの転換率を最高値を100にして相対値で表示した結果を示すグラフである。 ●はホウ酸塩を20mM濃度で添加した条件における反応結果であり、 ○はホウ酸塩を添加しない条件における反応結果を示す。
【図4】高濃度基質(100g/L、200g/L、300g/L)において、ホウ酸塩を異なったモル比で添加した条件における転換率を示すグラフである。
【図5】300g/L濃度のガラクトースの基質溶液(基質:ホウ酸塩=100:40、モル比)でガラクトースからタガトースへの異性化反応を行った結果を示すグラフである。 ●はホウ酸塩640mM濃度存在下における反応結果であり、○はホウ酸塩不存在下における反応結果を示す。■及び□はそれぞれ反応中に減少するガラクトースの量及び反応中に生成するタガトースの量を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施例を通じてより詳しく説明する。しかし、これら実施例は本発明を例示的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限られるものではない。
【実施例1】
【0018】
基質および生成物へのホウ酸塩の結合能力
【0019】
異性化反応結果物中に存在する二つの糖源であるガラクトースとタガトースがホウ酸塩と反応するかどうかを調べるために、ホウ酸塩の緩衝液の存在下で各糖源を添加した後、これを比較分析した。ガラクトース、タガトース及びガラクトースとタガトースとの同量混合物をそれぞれ100mMの濃度で製造した。このように製造された糖液1mlと100mMの濃度で製造されたホウ酸塩の緩衝液(pH9.5)1mlを混ぜて30分間常温で放置した後、これをTLC(Thin layer chromatography)で展開して分析した。それぞれの反応結果物50μlをTLC板にスポットしてからこれを乾燥した後、80%のアセトニトリル(acetonitrile)水溶液で展開した。結果物の分析は発色法を使用し、使用した発色試薬は95%のメタン、5%の硫酸、そして0.3%のN−1−ナフチルエチレンジアミン(N-1-Naphthylethylenediamine)を混合して使用した。研究の結果を調べると、ガラクトースとタガトースに対するホウ酸塩の結合力はタガトースのみに選択的に作用することがわかり、この結果は図1に示した。
【実施例2】
【0020】
耐熱性アラビノース異性化酵素の発現
【0021】
ガラクトースからタガトースへの高温異性化反応を行うために、高温菌のゲオバチルス サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)由来のアラビノース異性化酵素遺伝子を選択して実験に使用した。なお、従来に報告された情報に基づいて、450番(cystein)と475番(asparagine)のアミノ酸をそれぞれセリンとリシンで遺伝子変異した遺伝子を、ベクターpTrc99Aに挿入し、これを大腸菌BL21(DE3)(Escherichia coli BL21(DE3), Invitrogen, U.S.A.)に形質転換して生産菌株として使用した。このようにして得られた組換え菌株は各々50μg/ml濃度のアンピシリンを含むLB(Bacto-tryptone 10 g/L, yeast extract 5 g/L, Nacl 10 g/L)培地に初期濃度O.D.600=0.1で接種し、37℃で2時間培養した後、最終濃度1mMのIPTG(Isoprophyl-beta-D-thiogalactosidase)を添加して酵素発現を誘導した。発現されたアラビノース異性化酵素の活性を測定するために、培養液を8,000xgで10分間遠心分離して菌体を回収した後、50mMのTris-HCl(pH7.0)バッファー溶液に再懸濁し、これを超音波処理で細胞破砕処理して粗酵素液として使用してガラクトース異性化反応を測定した。ガラクトース異性化反応活性測定は40mMのガラクトースを基質として含む100μlの酵素液と1mlの反応バッファー溶液(50mM Tris-HCl, pH 7.0)を混合して使用した。この際、反応液内に最終濃度5mMの塩化マンガン(MnCl2)と最終濃度1mMの塩化マグネシウム(MgCl2)をそれぞれ添加して使用した。
【実施例3】
【0022】
酵素反応条件の最適化
【0023】
ホウ酸塩の添加条件下で、酵素の最適反応のpH条件を決定するために、ガラクトースと各pH別のホウ酸塩緩衝液(pH 7.0, 7.5, 8.0, 8.5, 9.0)を混合して反応基質液を製造した。反応基質母液の最終組成は100mMのガラクトース及び20mMのホウ酸塩で一定にした。このように定められた反応液にそれぞれ精製された酵素液を4mg/mlの濃度になるように添加した後、60℃で平衡状態に至るまで反応させた後、最終的に到達した基質の転換率を相対値で比較分析した(図2)。
【0024】
反応の結果、ホウ酸塩の添加によって全体的にガラクトースのタガトースへの転換率が上昇する結果が得られ、これは中性からpH8までのアルカリ条件下でだんだん増加し、pH8.5以上ではほぼ一定の転換率を有する結果が得られた。pH9以上の条件では酵素的な生産より化学的な生産による反応が優先されるのが一般的な現象であるため、酵素の活力が最もよく、転換率の上昇効果にも優れたpH8.5を最適反応pHとして定めた。このように定められた最適反応基質(100mMのガラクトース、20mMのホウ酸塩、pH8.5)に4mg/mlの粗酵素液を添加した後、同様に各反応温度別の転換率を測定した。その結果をタガトースが最大に生産される値を100にして相対値で表示した(図3)。
【0025】
反応の結果、60℃でホウ酸塩を添加した場合、最高のタガトース転換率を有することがわかった。
【実施例4】
【0026】
高濃度基質におけるホウ酸塩モル比による転換率の最適化
【0027】
高濃度基質反応におけるホウ酸塩の添加量に応じるガラクトースからタガトースへの転換率上昇効果を調べて条件を最適化するために、各々100g/L、200g/L、300g/Lの濃度でガラクトース基質溶液を用意した。各濃度別の基質溶液にはそれぞれガラクトース:ホウ酸塩のモル比を100:20、100:40、100:60、100:80に調節した後、pH8.5及び60℃の温度で同様に反応を行った(図4)。
【0028】
前記反応結果によって、ガラクトースからタガトースへの異性化転換反応において、ホウ酸塩の作用は基質のガラクトースの濃度とは関係なく、ホウ酸塩のモル比に応じて一定な割合で転換率が増加することがわかり、ガラクトースとホウ酸塩の最適モル比はガラクトース:ホウ酸塩が100:40であることがわかった。
【実施例5】
【0029】
最適反応条件におけるタガトース生産
【0030】
前記実施例1乃至4において、最適化した反応条件比でホウ酸塩を添加した結果と添加しない場合を比べて実験した。300g/Lのガラクトースと640mMのホウ酸塩を含んでいるpH8.5基質溶液を製造した後、30mg/mlの粗酵素液を添加し60℃でそれぞれ異性化反応を行った(図5)。
【0031】
ホウ酸塩を添加した場合、ホウ酸塩を添加しない場合に比べて飛躍的に高い転換率で反応が起きることが確認できた。反応時間20時間で300g/Lのガラクトース基質からホウ酸塩を添加しない場合は158g/L、ホウ酸塩を添加した場合は232g/Lのタガトースが生成されたことを確認し、各々の転換率は52.7%と77.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上から、アラビノース異性化酵素を用いたガラクトースからタガトースへの異性化反応において、酵素固有の最適条件には大きな影響を与えないながらホウ酸塩を選択的に添加することによって、異性化酵素が反応温度において有する転換率より高い転換率を得ることができた。異性化反応は熱力学的に高温で転換率が漸進的に増加する反応であって、その反応温度を高くすると高い転換率を有することができる。しかし、糖の処理工程は高温で容易に褐変化する性質的特性によって、一般に60℃乃至70℃程度の温度以上で反応することが容易でない。従って、今までのアラビノース異性化酵素を用いたガラクトースからタガトースへの異性化反応は70℃で55%程度の転換率が実質的に可能な水準であった。しかし、本研究からホウ酸塩の添加を通じて同じ反応条件で最も高い転換率を獲得することができ、これは生産工程において画期的に生産費を節減する効果がある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラクトース異性化反応を用いてタガトースを製造する方法において、ホウ酸塩を添加してガラクトースからタガトースを製造する方法。
【請求項2】
前記異性化反応はガラクトース100モルに対してホウ酸塩1乃至80モルを添加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記異性化反応はpH8.5乃至9の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記異性化反応は温度60℃乃至70℃の範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公表番号】特表2010−511699(P2010−511699A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540173(P2009−540173)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006389
【国際公開番号】WO2008/072864
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(308028418)
【Fターム(参考)】