説明

高い降伏値を有するカルボキシメチルセルロースナトリウム塩

【課題】高い降伏値を有することにより軟塑性能の高いCMC−Naを提供する。
【解決手段】エーテル化度が0.2〜0.5であって、1%水溶液の粘度が10〜100mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を60〜80重量%、エーテル化度が0.6〜0.7であって、1%水溶液の粘度が1000〜15000mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を5〜15重量%、およびエーテル化度が0.8〜1.5であって、1%水溶液の粘度が100〜5000mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を15〜25重量%(全量100重量%)で含むカルボキシメチルセルロースナトリウム塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い降伏値を有することにより軟塑性能の高いカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下“CMC−Na”と略す)に関する。
【背景技術】
【0002】
CMC−Na水溶液の粘性挙動の特徴は、チクソトロピー性(揺変性)を持つことであり、この性質を利用したCMC−Naの用途は多く開発されている。例えば食品添加剤や化粧品などへの粘稠性の付与や、建築または土木用途での保形性の付与がある(特許文献1および2参照)。なお揺変性とは、粘度がズリ速度に依存するという性質である。
【0003】
一方、従来のCMC−Naは粘着性が高く、ゼリー状となったCMC−Na水溶液は、接触感覚として過度のネバリ感やベタツキ感を生じさせる。従来のCMC−Naは、この性質のため、接触感覚としてサラット感が求められるクリーム状ペースト、軟膏基材、特殊歯磨ペースト、マヨネーズ、ケチャプ等への使用は困難であるという問題があった。この問題は、CMC−Na水溶液が軟塑性能を十分に有さないことに起因する。
【0004】
従来のCMC−Na組成物として、低粘度のCMC−Naと高粘度のCMC−Naの混合物であることを特徴とするCMC−Na組成物がある(特許文献3参照)。当該CMC−Na組成物により、粘度をさして高めることなく、揺変性の大きなCMC−Na水溶液を得ることができる。しかしながら軟塑性能の付与という面では、必ずしも満足できるものではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開平10−155434号公報
【特許文献2】特開平11−106561号公報
【特許文献3】特開平5−214162号公報
【非特許文献1】NEW FOOD INDUSTRY,22,No.4〜6、p.24〜27(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、軟塑性能の高いCMC−Na水溶液を得るために、降伏値の高いCMC−Naを提供することを目的とする。また、CMC−Naの粘性に大きな影響を与える因子であるエーテル化度および粘度が異なる3種類のCMC−Naを所定の割合で含み、高い降伏値を有することにより軟塑性能の高いCMC−Naを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、前記目的を達成するために、CMC−Na水溶液の粘度を19500〜20500mPa・sとしたときの降伏値が32000〜200000mPa・sであるCMC−Naを提供する。
【0008】
ここで降伏値とは、クリーム類やマヨネーズ等の軟塑性体に外力を加えたとき、当該軟塑性体が流動し始める応力の限界値である。すなわち、クリーム類やマヨネーズ等の軟塑性体はそのまま放置した場合には固体と同じように流動しないが、比較的小さい外力を加えることにより容易に流動させることができる。この外力を当該軟塑性体より除いた場合であっても、外力を加えることにより流動した後の形が保たれるため、当該軟塑性体を任意の形に成形することができる。この性質を塑性(plasticity)といい、軟塑性体が流動し始める応力の限界値を降伏値という。
【0009】
降伏値を持つ物質として、ポマード、化粧クリーム、軟膏、練り歯磨、バター、粘度ペースト、マヨネーズ、ケチャップ、塗料、印刷インキ、油絵具等の軟塑性体が挙げられる(非特許文献1参照)。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1記載の発明におけるCMC−Naが、エーテル化度が0.2〜0.5であって、1%水溶液の粘度が10〜100mPa・sであるCMC−Na(以下“CMC−Na(A)”と略す)を60〜80重量%、エーテル化度が0.6〜0.7であって、1%水溶液の粘度が1000〜15000mPa・sであるCMC−Na(以下“CMC−Na(B)”と略す)を5〜15重量%、およびエーテル化度が0.8〜1.5であって、1%水溶液の粘度が100〜5000mPa・sであるCMC−Na(以下“CMC−Na(C)”と略す)を15〜25重量%(全量100重量%)で含むCMC−Naであることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2記載の発明におけるCMC−Naが、エーテル化度が0.3〜0.7であって、1%水溶液の粘度が30〜500mPa・sであることを特徴とする。
【0012】
従来、CMC−Na水溶液に軟塑性能を付与することは困難であったが、本発明によれば、水溶液粘性の異なるCMC−Na(A)、CMC−Na(B)およびCMC−Na(C)を所定の割合で含むCMC−Naを提供することにより、軟塑性能を十分に有する従来にないCMC−Na水溶液を得ることができる。
【0013】
CMC−Na水溶液に軟塑性能が発現する機構としては、以下のものが考えられる。すなわち、低エーテル化度であって粘性の低いCMC−Na(A)を基にし、高粘度のCMC−Na(B)および高エーテル化度のCMC−Na(C)が存在すると、水溶液中で基のCMC−Na(A)分子の網目構造にCMC−Na(B)分子およびCMC−Na(C)分子が入り込み、これら3種のCMC−Na分子の相互作用的な絡み合いにより、軟塑性能を与える特異物性が発現すると推定される。
【0014】
なお、軟塑性能が発現する機構が上記と異なっていたとしても、本発明をなんら限定するものではない。
【発明の効果】
【0015】
本発明のCMC−Naは、接触感覚として、サラット感が求められるクリーム状ペースト、軟膏基材、特殊歯磨ペースト、マヨネーズ、ケチャプ等の粘性調整剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のCMC−Naは、ベトツキや粘りを少なくするため、CMC−Na(A)を60〜80重量%で含む。ベトツキや粘りの発現を抑えるためには60重量%以上が好ましく、糊液形性能を維持するためには80重量%以下が好ましい。より好ましくは65〜75重量%である。
【0017】
CMC−Na(A)のエーテル化度は、本発明にかかるCMC−Na水溶液のベトツキや粘りを少なくするため、0.2〜0.5である。CMC−Na(A)の水への溶解性を維持するためには、エーテル化度0.2以上が好ましく、本発明にかかるCMC−Na水溶液の粘りの発現を抑えるためには、エーテル化度0.5以下が好ましい。より好ましいエーテル化度は0.25〜0.45である。
【0018】
CMC−Na(A)の1%水溶液の粘度は、本発明にかかるCMC−Na水溶液の粘度を維持するために10mPa・s以上である。低エーテル化度品であって高粘度品であるCMC−Naを得ることが困難であることに鑑みて、CMC−Na(A)の1%水溶液の粘度は100mPa・s以下であることが好ましいが、特に制限されない。
【0019】
本発明のCMC−Naは、CMC−Na(B)を5〜15重量%で含む。本発明にかかるCMC−Naの水溶液に硬さを付与するためには5重量%以上が好ましく、該水溶液にかかるペーストがもろくならない程度の硬さとするためには15重量%以下が好ましい。より好ましくは8〜12重量%であり、さらに好ましくは9〜11重量%である。
【0020】
CMC−Na(B)のエーテル化度は、本発明のCMC−Naに適度な粘度を付与するため、0.6〜0.7である。
【0021】
CMC−Na(B)の1%水溶液の粘度は、本発明にかかるCMC−Na水溶液の硬さを粘度により保持するため、1000mPa・s以上である。1%水溶液の粘度が15000mPa・sを超えるCMC−Naを市販品として得ることが困難であることに鑑みて、CMC−Na(B)の1%水溶液の粘度は15000mPa・s以下であることが好ましいが、特に制限されない。CMC−Na(B)の1%水溶液のより好ましい粘度は3000〜10000mPa・sである。
【0022】
本発明のCMC−Naは、CMC−Na(C)を15〜25重量%で含む。本発明にかかるCMC−Naの水溶液に粘性を付与するためには15重量%以上が好ましく、過度の粘性を生じさせないためには25重量%以下が好ましい。より好ましくは18〜22重量%であり、さらに好ましくは19〜21重量%である。
【0023】
本発明にかかるCMC−Naの水溶液に、容易に粘性を発現させるため、CMC−Na(C)のエーテル化度は0.8〜1.5である。粘性を維持するためにはエーテル化度0.8以上が好ましい。エーテル化度が1.5を超えるCMC−Naを市販品として得ることが困難であることに鑑みて、CMC−Na(C)のエーテル化度は1.5以下であることが好ましいが、特に制限されない。CMC−Na(C)のより好ましいエーテル化度は0.9〜1.2である。
【0024】
本発明にかかるCMC−Naの水溶液に、容易に粘性を発現させるため、CMC−Na(C)の1%水溶液の粘度は、100〜5000mPa・sである。本発明にかかるCMC−Na水溶液の粘性を維持するためには、CMC−Na(C)の1%水溶液の粘度は100mPa・s以上が好ましい。1%水溶液の粘度が5000mPa・sを超えるCMC−Naを市販品として得ることが困難であることに鑑みて、CMC−Na(C)の1%水溶液の粘度は5000mPa・s以下であることが好ましいが、特に制限されない。CMC−Na(C)の1%水溶液のより好ましい粘度は500〜3500mPa・sである。
【0025】
以下、本発明を例示する。
【0026】
本発明で使用されるCMC−Naには、市販品でもよく、また適宜合成したものを用いてもよい。
【0027】
(CMC−Naの分析方法)
(1)水分
CMC−Na試料1〜2gを秤量ビンに精秤し、104.8〜105.2℃の乾燥機中において、2時間乾燥し、減量より以下の式を用いて水分を求めた。
水分(%)=減量(g)/試料(g)×100
【0028】
(2)1%水溶液粘度
300mLのトールビーカーに、約2.5gのCMC−Na試料を精秤し、次式を用いて求めた1%水溶液を得るために必要な溶解水量の水を加え、ガラス棒にて分散させた。
溶解水量(g)=試料(g)×(99−水分(%))
得られた水溶液を一昼夜放置した後、マグネチックスターラーで約5分間撹拌して完全な溶液とし、その後30分間、25℃の恒温水槽に入れた。該溶液を25℃とした後、ガラス棒でゆるやかにかき混ぜ、BM型粘度計にローターおよびガードを取り付け、回転数60rpm、25℃で粘度計を回転させ、回転開始3分後の粘度計目盛を読み取った。読み取り目盛から以下の式を用いて粘度を求めた。なお式中kは、ローターと回転数によって決まる換算乗数であり、ローターNo.1、2、3および4を使用した場合、kの値はそれぞれ、1、5、20および100である。
1%水溶液粘度(mPa・s)=読み取り目盛×k
【0029】
(3)エーテル化度
104.8〜105.2℃の乾燥機中において、2時間乾燥させたCMC−Na試料1.000gを取り、濾紙に包んで磁製ルツボの中に入れ、600℃で灰化し、生成したナトリウム化合物を0.1N硫酸によりフェノールフタレインを指示薬として滴定し、以下の式を用いてエーテル化度を計算した。以下の式中、Aは、中和に要した0.1N硫酸の量(mL)、fは0.1N硫酸の力価を示す。
エーテル化度=(162×A×f)/(10000−80×A×f)
【0030】
(降伏値の測定方法)
CMC−Na水溶液粘度を19500〜20500mPa・sに調整する。均一に撹拌したCMC−Na水溶液について、BH型粘度計でNo.6のローターを用い、回転数20rpm、25℃の条件で粘度を測定する。粘度が低い場合には、CMC−Naを追加して再度粘度を調整し、粘度が高い場合には、水を添加して再度粘度を調整する。このようにして粘度を調整したCMC−Na水溶液を、B−8H型粘度計でNo.5のローターを用い、最も回転数の少ない0.5rpmで25℃条件下、通常の測定と同様に粘度計を2分間回転させる。
【0031】
粘度計の指針をクランプにより固定した後、モーターの回転を止める。次に、クランプを放して指針の動きを自由として、指針が静止する位置の粘度計目盛を測定する。CMC−Na水溶液に降伏値があれば指針は粘度計目盛0に復帰することなく静止する。粘度計指針の静止位置に対応した粘度計目盛の値が、降伏値の算出基礎となる。
【0032】
粘度計指針の静止位置は、上記クランプを放して指針の動きを自由としてから5分後に測定する。ただし、粘度計指針の始めの偏角が大きいと、回転部の慣性で指針が行き過ぎる場合がある。このため、当該静止位置より数目盛高い位置まで手動でローターを回転させ、粘度計指針をクランプにより固定し、次いでクランプを放して、再び粘度計指針の静止位置を再度測定する。これらの粘度計指針の静止位置に対応する粘度計目盛のうち、より高い目盛値が降伏値の算出基礎となり、これをθ0とする。降伏値は以下の式を用いて算出した。式中、乗じる係数8000は、B−8H型粘度計の回転数0.5rpmにおけるずり応力係数である。
降伏値(mPa・s)=θ0×8000
【実施例】
【0033】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0034】
CMC−Naのエーテル化度および1%水溶液粘度の測定結果を、実施例1〜8について表1に、また比較例1〜10について表2に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
エーテル化度および1%水溶液粘度の異なるCMC−Naが含まれるCMC−Naについて、前記方法により降伏値を測定した結果を、実施例1〜8について表3に、また比較例1〜10について表4に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
表3および表4に示されるように、降伏値測定時の粘度は、いずれの実施例および比較例とも19500〜20500mPa・sの範囲にあり、ほぼ同じ粘度を有する。しかしながら、表3に示されるように、本発明にかかるCMC−Naは、比較例として表4に示されるCMC−Naより著しく高い降伏値を有することが示される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のCMC−Naは、食品用、化粧品用、医薬用等の粘性調整剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液の粘度を19500〜20500mPa・sとしたときの降伏値が32000〜200000mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩。
【請求項2】
エーテル化度が0.2〜0.5であって、1%水溶液の粘度が10〜100mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を60〜80重量%、エーテル化度が0.6〜0.7であって、1%水溶液の粘度が1000〜15000mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を5〜15重量%、およびエーテル化度が0.8〜1.5であって、1%水溶液の粘度が100〜5000mPa・sであるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を15〜25重量%(全量100重量%)で含む請求項1記載のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩。
【請求項3】
エーテル化度が0.3〜0.7であって、1%水溶液の粘度が30〜500mPa・sである請求項1または2記載のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩。

【公開番号】特開2008−247927(P2008−247927A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57508(P2007−57508)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】