説明

高コレステロール血症の改善又は予防剤

【課題】 従来、高コレステロール血症の治療にはHMG-CoA還元酵素阻害作用を有するスタチン系の薬剤、胆汁酸の再吸収阻害作用を有する陰イオン交換樹脂、小腸刷子縁膜上に存在する小腸コレステロールトランスポーターの阻害剤などが使用されている。しかし、それぞれ種々の副作用があることから、より副作用が少ない高コレステロール血症の治療剤が求められている。
本発明の目的は、安全でより効果的な高コレステロール血症の改善又は予防に有用な組成物を提供することである。
【解決手段】 メグスリノキの樹皮を有効成分として配合したことを特徴とする高コレステロール血症の改善又は予防用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高コレステロール血症の改善又は予防剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血清脂質にはコレステロールとトリグリセライドがあり、コレステロールが高ければ高コレステロール血症、トリグリセライドが高ければ高トリグリセライド血症と診断される。近年、食生活をはじめとする生活環境の変化や高齢化に伴い、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患が急増している(非特許文献1参照)。高コレステロール血症は動脈硬化の主たる原因疾患の一つであり、高コレステロール血症の改善又は予防は動脈硬化性疾患を未然に防ぐ観点からも重要である。本邦における高コレステロール血症の治療にはHMG-CoA還元酵素阻害作用を有するスタチン系の薬剤、胆汁酸の再吸収阻害作用を有する陰イオン交換樹脂などが広く用いられている(非特許文献1参照)。また、小腸刷子縁膜上に存在する小腸コレステロールトランスポーターの阻害剤も使用されている。しかし、スタチン系薬剤のプラバスタチンナトリウムでは黄紋筋融解症、肝障害、血小板減少などの重篤な副作用が報告されており(非特許文献2参照)、また、陰イオン交換樹脂のコレスチミドでは便秘、腹痛、嘔気等の消化管症状、肝機能障害などの副作用が知られている(非特許文献3参照)。さらに、小腸コレステロールトランスポーター阻害剤のエゼチミブでは便秘、発疹、下痢、腹痛、肝機能障害などが知られており(非特許文献4参照)、より副作用が少ない高コレステロール血症の治療剤が求められている。
【0003】
従来、天然物の高脂血症改善あるいは高コレステロール血症改善などに関してはウァナルポ・マチョを有効成分とするコレステロール吸収阻害剤(特許文献1参照)、フェルラ酸のβシトステロールエステルを有効成分とするコレステロール吸収阻害剤(特許文献2参照)、烏賊骨由来のβキチンより製造されたキチン・キトサンを有効成分とするコレステロール及び脂質吸収阻害剤(特許文献3参照)、松樹皮抽出物を有効成分とする脂質代謝改善剤(特許文献4参照)、発芽させた米を有効成分としてなる脂質の吸収を阻害する食品(特許文献5参照)、メグスリノキ抽出物を有効成分とするトリアシルグリセロール合成抑制剤(特許文献6参照)などが知られている。
【0004】
メグスリノキはAcer nikoense Maxim.を基原とする落葉高木で日本の各地で自生あるいは栽培されている。メグスリノキの樹皮にはロドデンドロールが含まれており古来、民間的にかすみ目、疲れ目、二日酔いに良いとされ、目や肝臓に効く薬木として珍重されてきた。現在でも、メグスリノキ茶などの形態で飲用されている。
【0005】
さらに、メグスリノキの葉に含まれるトリペノイドのベータ・アミリン、フラボノールのクエルセチン、その配糖体のクエルチトリンが血管壁の硬化を防ぐことにより、成人病の引き金となる動脈硬化を予防するといわれている。
【0006】
しかしながら、メグスリノキの樹皮を配合した高コレステロール血症の改善又は予防剤は知られていない。
【0007】
【特許文献1】特開2007−99743
【特許文献2】特開平7−330611
【特許文献3】特開平11−147828
【特許文献4】WO2005/046706
【特許文献5】特開2006−158343
【特許文献6】特開2007−314475
【非特許文献1】生活習慣病 分子メカニズムと治療、pp.92-98、中山書店、2001年
【非特許文献2】医薬品添付文書(メバロチン(登録商標))
【非特許文献3】医薬品添付文書(コレバイン(登録商標))
【非特許文献4】医薬品添付文書(ゼチーア(登録商標))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、安全でより効果的な高コレステロール血症の改善又は予防剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、種々検討した結果、メグスリノキから調製した抽出物がコレステロールの小腸での吸収を阻害することにより、高コレステロール血症を改善又は予防できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、
(1)メグスリノキの樹皮を有効成分として配合したことを特徴とする高コレステロール血症の改善又は予防剤、
(2)メグスリノキの樹皮を有効成分として配合したことを特徴とするコレステロール吸収抑制剤、
(3)メグスリノキの樹皮がメグスリノキの樹皮の抽出物である(1)又は(2)のいずれか1項に記載の薬剤、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によりコレステロールの消化管からの吸収を抑制し、高コレステロール血症を改善又は予防することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明でメグスリノキの樹皮はAcer nikoense Maxim.を基原とする落葉高木の樹皮である。
【0013】
本発明ではメグスリノキの樹皮を粉砕した生薬末の他、エキスを用いることもできる。エキスは水、アルコール、水−アルコール混液等の一般的な溶媒を用い、必要があれば加温して一般的な方法で製造したエキスを用いることができる。本発明の効果をさらに発揮するために、エキスを製造する際の溶媒としては30〜70%の水−エタノール混液がさらに好ましい。エキスを用いる場合、抽出物をそのまま用いる他、乾燥エキス、流エキス、チンキなどの一般的な形態のものを用いることができる。
【0014】
本発明の効果を発現させるために、通常、成人にはメグスリノキの原生薬に換算して1回あたり300〜800mgを1日2〜3回経口投与することが好ましく、1回600mg程度を1日3回経口投与することがさらに好ましい。また、この投与量は年齢、性別、体重、症状の重症度などにより適宜増減することも可能である。
【0015】
メグスリノキの樹皮は古くから民間薬として用いられ、現在でもメグスリノキ茶などとして一般的に飲用されているものであることから高い安全性を有する。
【0016】
メグスリノキの樹皮を配合した組成物を高コレステロール血症の改善又は予防剤として使用する場合、投与の容易さの点から、経口剤として投与することが特に好ましい。経口剤としては、錠剤、カプセル剤、細粒剤、微粒剤、液剤、チュアブル剤、トローチなどの形態で摂取することが可能である。
【0017】
また、発明の効果を損なわない質的および量的範囲で、ビタミン、キサンチン誘導体、アミノ酸などを添加することができる。さらに必要に応じて他の公知の添加剤として、生薬、天然物、賦形剤、pH調整剤、清涼化剤、懸濁化剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味剤、界面活性剤、可塑剤、香料などの一般的に使用される成分を混合することができる。
【0018】
以下に製造例及び試験例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、メグスリノキエキスは、メグスリノキの樹皮を細切後、50%エタノール水溶液で30分間沸騰抽出し、ろ過後エタノールを減圧下で留去し、さらに、濃縮することにより製したメグスリノキ軟エキス(水分含量:63.9%)を購入して使用した。
【0019】
製造例1
メグスリノキエキスを832.9mg(乾燥エキス重量:301mg相当)秤量し、水を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合飲料を製造した。
【0020】
製造例2
メグスリノキエキス1668.4mg(乾燥エキス重量:602mg相当)を秤量し、水を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合飲料を製造した。
【0021】
製造例3
メグスリノキエキスを2224.7mg(乾燥エキス重量:803mg相当)を秤量し、水を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合飲料を製造した。
【0022】
製造例4
メグスリノキエキスを1673.3mg(乾燥エキス重量:604mg相当)を秤量し、予め製した紅茶を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合紅茶飲料を製造した。
【0023】
製造例5
メグスリノキエキスを1675.1mg(乾燥エキス重量:604mg相当)を秤量し、予め製した緑茶を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合茶飲料を製造した。
【0024】
製造例6
メグスリノキエキスを1658.3mg(乾燥エキス重量:599mg相当)を秤量し、予め製した玄米茶を加えて350mLにメスアップした。その後、不溶物を除去するためフィルターを用いてろ過し、瓶に封入することにより、メグスリノキ配合茶飲料を製造した。
【0025】
試験例1
Caco-2細胞を用いたコレステロール吸収阻害試験
コレステロール吸収抑制作用の評価はCaco-2細胞(ヒト大腸癌由来)を用いて実施した。
【0026】
モノオレイン0.5mM、オレイン酸1mM、L-α-フォスファチジルコリン0.6mM、タウロコール酸ナトリウム6.6mM、コレステロール0.05mM、[4-14C]-コレステロールを含むミセルを調製し、コレステロール吸収量を測定した。コラーゲンコートされたトランスウェル12穴プレートのメンブレン上にCaco-2細胞を培養し、管腔側のダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)をメグスリノキエキス150μg/mL(乾燥重量として)を含むDMEM培地0.5mLに交換し、基底膜側はDMEM培地1.5mLを添加してインキュベーター内で16時間培養した。対照群は管腔側のDMEM培地中にエタノールを添加した。その後、管腔側の培地を吸引除去し、前述のミセルにメグスリノキ50%エタノール抽出エキス150μg/mLを、対照群にはエタノールを添加して37℃で1時間放置した被検体を細胞に添加し、インキュベーター内で6時間培養した。培養終了後、管腔側の培地を吸引除去し、リン酸緩衝生理食塩水で細胞を2回洗浄した。0.2N水酸化ナトリウム水溶液1.5mL/ウェル を加えてメンブレン上から細胞を剥がし、そのうち0.1mLをバイアル瓶に移した。また、基底膜側の培地1mLを別のバイアル瓶に移した。これらのバイアル瓶に5mLのシンチレーターを加え、液体シンチレーションカウンタを用いて[4-14C]-コレステロールの放射活性量を測定し、細胞中および基底膜側培地中の値を合わせた量を、吸収されたコレステロール量として計算した。陽性対照薬としてエゼチミブ(濃度 100μM)を用いた。
【0027】
結果を表1に示した。メグスリノキはコレステロールの吸収を対照群に比較して90%抑制することが明らかになった。陽性対照薬のエゼチミブは同条件下で100%の阻害率を示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかな通り、メグスリノキエキスは陽性対照薬のエゼチミブと同程度のコレステロール吸収抑制作用を有することが明らかになった。
【0030】
試験例2
正常ラットのコレステロール吸収に及ぼす影響
7週齢の雄性SDラット(日本チャールスリバー株式会社)24匹を基本飼料(MF飼料,オリエンタル酵母株式会社)で1週間馴化した。次いで、16時間絶食させ、各群の平均体重がほぼ同等となるように1群8匹で2群に分けた。
【0031】
対照群には0.5%メチルセルロース溶液を、メグスリノキ投与群にはメグスリノキ50%エタノール抽出エキスを100mg/kg(乾燥重量として)の用量で経口投与した。1時間後に対照群にはエマルション(モノオレイン0.5mM、オレイン酸1mM、L-α-フォスファチジルコリン0.6mM、タウロコール酸ナトリウム6.6mM、コレステロールおよび[4-14C]-コレステロール0.05mMをリン酸緩衝生理食塩水で懸濁し超音波処理したものを、メグスリノキ投与群にはエマルションにメグスリノキ50%エタノール抽出エキスを100mg/kgとなるように添加した混合液を2mL/kgで経口投与した。エマルション溶液を投与してから6時間後に外頸静脈より0.4mL採血を行い、血液を遠心分離した後、0.17mLの血漿をバイアル瓶に移した。そのバイアル瓶に5mLのシンチレーターを加え、血漿中の[4-14C]-コレステロールの放射活性量を液体シンチレーションカウンタにより1分間測定し、これをコレステロール吸収量とした。
【0032】
結果を表2及び図1に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2及び図1から明らかなように、対照群に比べ、メグスリノキは200mg/kgの用量で有意なコレステロール吸収抑制作用を示した。
【0035】
試験例3
高脂肪/高コレステロール食負荷ハムスターの血中コレステロール濃度に及ぼす影響
4週齢の雄性ゴールデンシリアンハムスター(日本チャールスリバー株式会社)を20時間絶食し、外頸静脈より血液を採取した。血漿を分離後、血漿中の総コレステロール濃度をコレステロールEテストワコー(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。1群8匹とし、コレステロール濃度が均一になるように3群に分け、正常群、対照群、メグスリノキ投与群とした。正常群には通常食を、対照群とメグスリノキ投与群には10%ココナッツ油と0.12%コレステロールを配合した高脂肪/高コレステロール食を与えた。さらに、正常群とコントロール群には水を、メグスリノキ群にはメグスリノキ50%エタノール抽出エキスを600mg/kg(乾燥重量)の用量で1日1回2週間経口投与した。
【0036】
最終投与後、20時間絶食し、外頸静脈より血液を採取した。血漿を分離後、血漿中の総コレステロール濃度を測定した。結果を、表3及び図2に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3及び図2から明らかな通り、対照群の血中コレステロール濃度は高脂肪/高コレステロール摂取により有意に上昇した。メグスリノキは600mg/kgの用量でこの血中コレステロール濃度の上昇を有意に抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の改善又は予防剤は医薬品、医薬部外品の他、「コレステロールが高めの方に」、「コレステロールが気になる方に」などの表示を付した特定保健用食品(健康増進法(平成14年法律第103号)第26条第1項の許可又は第29条第1項の承認を受け、食生活において特定の保健の目的で摂取する者に対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品)などとして利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】メグスリノキエキス投与群と対照群のコレステロール吸収に及ぼす影響を示した図であり、横軸に各サンプル、縦軸に血中[4-14C]コレステロール量(dpm)を示した。
【図2】高脂肪/高コレステロール食負荷ハムスターの血中コレステロール濃度に及ぼす影響を示した図であり、横軸に各サンプル、縦軸に血中コレステロール濃度(mg/dL)を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メグスリノキの樹皮を有効成分として配合したことを特徴とする高コレステロール血症の改善又は予防剤。
【請求項2】
メグスリノキの樹皮を有効成分として配合したことを特徴とするコレステロール吸収抑制剤。
【請求項3】
メグスリノキの樹皮がメグスリノキの樹皮の抽出物である請求項1又は2のいずれか1項に記載の薬剤。

【図1】
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【図2】
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