説明

高バイパス比ターボファンジェットエンジン

【課題】ファン径を拡大することなくバイパス比を高め且つエンジンに作用する空気抵抗が小さなターボファンジェットエンジンを提供する。
【解決手段】フロントファン10によって圧縮された圧縮空気を外気に放出するフロントファン流路20a,20bと、アフトファン40に空気を導入するアフトファン流路50a,50bを、コアエンジン30を中心として、その周りを反時計方向に回転させながら各々の断面形状を変えて、フロントファン10の直後の断面1とアフトファン40の直前の断面11においてフロントファン流路20a,20bとアフトファン流路50a,50bとの幾何学的関係が反転するように配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高バイパス比ターボファンジェットエンジン、特にファン径を拡大することなくバイパス比を高め且つエンジンに作用する空気抵抗が少ない構造とすることが可能な高バイパス比ターボファンジェットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
亜音速で飛行する航空機に広く用いられるターボファンジェットエンジンにおいては、一般に、コア部を通過する空気量に対するファン部を通過する空気量の割合(バイパス比)が大きいほど、排気速度が巡航速度に近くなり、推進効率が高くなる。従って、バイパス比が大きいエンジンの方が燃費が良くなる上に、ジェット騒音が小さくなる。一方で、ファンを大きくすると、次のような問題が発生する。第1に、動静翼やファンケース/ナセルの重量が増大する。第2に、エンジンの径が大きくなるため、翼下にエンジンを搭載する航空機では、地面とエンジンとの距離を一定以上に保つため、主脚を長くする必要が生じる。第3に、ファン効率を保つため外周での流速を一定以下に抑えると、径の大きなファンでは回転数が小さくなり、ファンと同軸で回転する低圧タービンの回転数も下がって、その効率が低下する。これらの改善策として、低圧タービンとファンの間に減速機構を設けて、ファンとタービンの回転数を最適な値とする減速式ターボファンジェットエンジン(Geared Turbo Fun)の研究開発が行われている。しかし、このターボファンジェットエンジンの場合は、推力が一定以上になると、減速機構、および、その潤滑システムによる重量増の影響や、軸動力の損失が、燃費向上の効果より大きくなると考えられる。
【0003】
ファン径を保ったまま、バイパス比を大きくする方法として、ナセルのないUnducted FanやAdvanced Turbo Propが研究されているが、ファンブレードが何らかの原因で飛散した場合、それが航空機の胴体に衝突して損傷を与えてはならないとする耐空性の確保が難しいという問題、および、騒音の問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した通り、ファン径を大きくしてバイパス比を大きくする場合は、ファンケース/ナセルの重量増、主脚の大型化、低圧タービン効率の低下の負の効果が大きくなる。
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的はファン径を拡大することなくバイパス比を高め且つエンジンに作用する空気抵抗が少ない構造とすることが可能な高バイパス比ターボファンジェットエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジンは、燃焼ガスを後方に噴出することにより推進力を発生するコアエンジンと、空気流を圧縮しながら後方に噴出することにより推進力を発生すると共に前記コアエンジンの排気流の騒音を抑制するファンとを具備したターボファンジェットエンジンであって、前記ファンは、前記コアエンジンの圧縮機の近傍又は上流に配設されたフロントファンと、同タービンの近傍又は下流に配設されたアフトファンとから成り、前記フロントファンによって圧縮された圧縮空気を外部に放出するフロントファン流路と、前記アフトファンへ空気を導入するアフトファン流路は、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されていることを特徴とする。
これにより、エンジンを正面から見て、2つのファンの空気取り入れ口で構成するエンジンの正面断面から外にファン流路をはみ出させることなく、2つのファン流路を独立に(内部の流体が混合することなく)配設することが可能である。また、エンジンの任意の2つの軸方向位置、例えばフロントファン直後とアフトファン直前において、フロントファン流路とアフトファン流路の断面の幾何学的関係を所望の幾何学的関係に変換することが可能である。例えば、フロントファン直後の位置において、フロントファン流路がエンジンの中央部に、アフトファンの流路がその周囲にある場合、そこから適切にダクトを配設することにより、アフトファン直前では、中央部にアフトファン流路、周囲にフロントファン流路が来るように、断面の変換を行なうことが可能である。このことにより、フロントファンの空気取入口とアフトファンの空気取入口を、エンジンに作用する空気抵抗が少なくなるよう適切に配置することが可能となる。フロントファン流路とアフトファン流路を上記構成とすることにより、ファン径を拡大することなくバイパス比を大幅に高めることが可能となる。なお、上記「幾何学的関係」とは、これら2つのファン流路の、エンジン全体の胴部断面における位置・形状・大きさによって特徴付けられる「相互の関係」のことである。
【0006】
請求項2に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジンでは、前記フロントファン流路と前記アフトファン流路は、前記フロントファン直後における断面の幾何学的関係と前記アフトファン直前における断面の幾何学的関係が反転するように、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、フロントファン流路とアフトファン流路を上記構成とすることにより、2つのファン流路を独立に(内部の流体が混合することなく)配設することが可能である。
【0007】
請求項3に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジンでは、前記フロントファン流路と前記アフトファン流路は、エンジンの一部または全部の胴部断面積が一定になるように、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、フロントファン流路とアフトファン流路を上記構成とすることにより、エンジンの断面積が一定である直胴構造(ストレート胴構造)で構成することが出来るようになる。
【0008】
請求項4に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジンでは、前記フロントファンの空気取入口がエンジンの前面中央に設けられているのに対し、前記アフトファンの空気取入口はエンジン全体の水平方向に対し該フロントファンの両側または片側に設けられていて、前記エンジン全体の空気取入口が水平方向に長く鉛直方向に短い楕円形を成していることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、フロントファンの空気取入口とアフトファンの空気取入口を上記構成とすることにより、アフトファンを追加してバイパス比を高めても、エンジンと地上との距離が縮まらないため主脚を長くする必要がない。
【0009】
請求項5に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジンでは、前記フロントファンの空気取入口と前記アフトファンの空気取入口は離隔して主翼の内部に埋め込まれていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、フロントファンの空気取入口とアフトファンの空気取入口を上記構成とすることにより、エンジンに作用する空気抵抗、ひいては機体全体に作用する空気抵抗を小さくすることが可能となる。従って、航空機の空気抵抗を増加させることなく、バイパス比を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の高バイパス比ターボファンジェットエンジンによれば、下記の効果が期待される。
(1)フロントファンとアフトファンという2つのファンを備えるため、単一のファンを備える従来ターボファンジェットエンジンに比べバイパス比を大幅に高めることが出来る。
(2)本発明のエンジンとバイパス比が同じの単一ファンエンジンでは、ファン径が大きくなり、ファンに作用する遠心力が増えるため動翼の根元部を太くする必要がある。また、動翼が外れてもエンジン内に留めるためのファンケースを丈夫にする必要、および、ナセルを大きくする必要がある。本発明のエンジンの場合、ファンは2つになるが、どちらも径が小さいため、単一ファンより動翼根元部を細く、ファンケースを簡易にすることができ、また、ナセルも小さくなるため低抵抗で軽量となる。
(3)単一ファンの超高バイパス比エンジンで生じるファンとタービンの回転数の不整合が本発明のエンジンでは起きにくくなり、ファンとタービンを、より適切な回転数で動作させることが可能となるため効率が向上する。
また、フロントファン流路とアフトファン流路が、コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されているため、
(4)エンジンの胴部形状を横長の楕円形とすることが可能で、翼下に取り付けた時の対地距離を大きく出来る。
(5)エンジンを直胴構造にすることが可能で、エンジンに作用する空気抵抗が小さい構造とすることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係るターボファンジェットエンジン100を示す説明図である。なお、説明の都合上、このターボファンジェットエンジン100は縦長の楕円形として描かれているが、実際は横長の楕円形である。
このターボファンジェットエンジン100は、圧縮機31、燃焼器32、タービン33および排気ノズル34から成るコアエンジン30、コアエンジンより上流に位置するフロントファン10、フロントファン10が圧縮した空気のうちコアエンジンに入らないバイパス空気を外部へ導出するフロントファン流路20、コアエンジンの下流部に位置するアフトファン40と、アフトファン40に空気を導入するアフトファン流路50を具備している。
【0013】
フロントファン流路20およびアフトファン流路50は、その詳細については図2を参照しながら後述するが、コアエンジン30を中心として回転しつつ各々の断面形状を変えながらコアエンジン30に沿って配設され、フロントファン10直後の断面1とアフトファン40の直前の断面11における幾何学的関係が反転するように構成されている。このように構成することにより、エンジン全体を断面積が一定の直胴構造にすることが可能となる。
【0014】
エンジン全体を正面から見た場合、エンジン前面入口では、中央部にフロントファン10の空気取入口21が配置され、両側部にアフトファン40の空気取入口51が配置された横長の楕円形状を成している。その外形寸法を出口まで維持したまま、エンジン後面出口端では、中央部にコアエンジン30の排気ノズル34、その周囲にアフトファン40の排気ノズル52、更に、その両側にフロントファン10の排気ノズル22が配設された横長の楕円形状を成している。
【0015】
フロントファン10は、高圧タービン33aの後段に配置された第1低圧タービン33bと低圧回転軸によって直結され、第1低圧タービン33bにより駆動される。また、圧縮機31は高圧タービン33aによって駆動される。
【0016】
アフトファン40は、第2低圧タービン33cの動翼の外周端部に直結されている。従って、アフトファン40は第2低圧タービン33cの回転と完全に同期した形態で駆動されるように構成されている。
【0017】
図2は、図1の断面1から断面12に到るフロントファン流路20およびアフトファン流路50の各断面の形状変化の一例を示す説明図である。なお、説明の都合上、断面形状を矩形で近似して示したが、実際の各流路の断面形状は、空気力学的に見て損失が少ない滑らかな形状を成している。
【0018】
図1に示す通り、断面1はフロントファン出口部の断面で、断面12は、アフトファン入口部の断面である。断面2から断面11は、その間を順に適宜切断した断面である。
【0019】
先ず、断面1では、フロントファン流路20が上方と下方の2つに仕切られ、フロントファン流路20a,20bが各々形成されている。その両側には、アフトファンに向かう空気流を導入するサイドインレットとしてのアフトファン流路50a,50bが各々形成されている。すなわち、これら2つのファンによって取り込まれた空気流は、コアエンジン30へ導入される分を除くと、独立した4つの流れに分割されて、後述する特徴を備えたフロントファン流路20およびアフトファン流路50を流れ、互いに混合することなくコアエンジン30から噴出される燃焼ガスの周囲に排気される。
【0020】
断面2から断面12に示す通り、フロントファン流路20a,20bおよびアフトファン流路50a,50bは、下流に行くに従い、上流側から見てコアエンジン30を中心として反時計回りに回転しつつ、位置・形状・大きさを各々変える。なお、ここで留意すべきは、エンジン全体の外形形状が一定に保持されていることである。つまり、エンジンが空気抵抗の少ない直胴構造を成している。
【0021】
なお、断面1から断面4までは、フロントファン流路20aと20bは一体として単一の流路を構成しても良い。
【0022】
断面1で中央部(コアエンジン30の周囲) に位置していたフロントファン流路20a,20bは、断面11では外側に位置しており、一方、断面1で外側に位置していたアフトファン流路50a,50bは、断面11では中央部に位置している。つまり、フロントファン流路20a,20bおよびアフトファン流路50a,50bは、断面1と断面11において、幾何学的関係が反転している。
【0023】
なお、断面9から断面12までは、アフトファン流路50a,50bは一体として単一の流路を構成してもよい。
【0024】
上記の通り、フロントファン流路20およびアフトファン流路50が、コアエンジン30を中心として反時計方向に回転しつつ各々の断面形状を変えながらコアエンジン30に沿って配設され、フロントファン10の直後の断面1とアフトファン40の直前の断面11では幾何学的関係が反転するように構成されている。これにより、エンジン全体をその断面積が一定の直胴構造にすることが可能となる。
【0025】
図3は、実施例1に係るターボファンジェットエンジン100の航空機への搭載例を示す説明図である。なお、比較例として、推力レベル及びバイパス比が上記ターボファンジェットエンジン100と同程度である従来ターボファンジェットエンジンを併記した。
図3から明らかなように、本発明のターボファンジェットエンジン100は、従来ターボファンジェットエンジンよりも鉛直方向の長さが短いため、エンジンと地面との距離を大きく確保することが出来る。従って、主脚の長さを短くすることができ、機体全体の軽量化に寄与することが出来る。
【実施例2】
【0026】
図4は、実施例2に係るターボファンジェットエンジン200を示す説明図である。
このターボファンジェットエンジン200は、エンジン全体が主翼の内部に埋め込まれている。また、航空機を正面から見た場合、フロントファン10の空気取入口21、およびアフトファン40の空気取入口51が別個に離隔して設けられている。
【0027】
また、図5は、実施例2に係るフロントファン流路20およびアフトファン流路50の各断面の形状変化の一例を示す説明図である。
フロントファン流路20およびアフトファン流路50は、実施例1の場合と同様に、下流に行くに従い、上流側から見てコアエンジン30を中心として反時計回りに回転しながら、位置・形状・大きさを各々変える。なお、フロントファン流路20の断面積とアフトファン流路50の断面積との和は、実施例1と同様に一定であっても良いし、或いは、主翼から突出しない範囲で変化しても良い。但し、何れの場合も、流路断面は滑らかに変化するものとする。
実施例2の場合も、実施例1と同様に、フロントファン流路20およびアフトファン流路50が、コアエンジン30を中心として反時計方向に回転しつつ各々の断面形状を変えながらコアエンジン30に沿って配設され、フロントファン10直後の断面1とアフトファン40の直前の断面10における幾何学的関係が反転するように構成されている。これにより、エンジンの断面積が一定の直胴構造にすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のターボファンジェットエンジンは、航空機用ターボファンジェットエンジン、特に巡航時亜音速で飛行する航空機の推進用ジェットエンジンに適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1に係るターボファンジェットエンジンを示す説明図である。
【図2】図1の断面1から断面12に到るフロントファン流路およびアフトファン流路の各断面の形状変化の一例を示す説明図である。
【図3】実施例1に係るターボファンジェットエンジンの航空機への搭載例を示す説明図である。
【図4】実施例2に係るターボファンジェットエンジンを示す説明図である。
【図5】実施例2に係るフロントファン流路およびアフトファン流路の各断面の形状変化の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
10 フロントファン
20 フロントファン流路
21 フロントファン空気取入口
22 フロントファン排気ノズル
30 コアエンジン
40 アフトファン
50 アフトファン流路
51 アフトファン空気取入口
52 アフトファン排気ノズル
100,200 ターボファンジェットエンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガスを後方に噴出することにより推進力を発生するコアエンジンと、空気流を圧縮しながら後方に噴出することにより推進力を発生すると共に前記コアエンジンの排気流の騒音を抑制するファンとを具備したターボファンジェットエンジンであって、前記ファンは、前記コアエンジンの圧縮機の近傍又は上流に配設されたフロントファンと、同タービンの近傍又は下流に配設されたアフトファンとから成り、前記フロントファンによって圧縮された圧縮空気を外部に放出するフロントファン流路と、前記アフトファンへ空気を導入するアフトファン流路は、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されていることを特徴とする高バイパス比ターボファンジェットエンジン。
【請求項2】
前記フロントファン流路と前記アフトファン流路は、前記フロントファン直後における断面の幾何学的関係と前記アフトファン直前における断面の幾何学的関係が反転するように、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されている請求項1に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジン。
【請求項3】
前記フロントファン流路と前記アフトファン流路は、エンジンの一部または全部の胴部断面積が一定になるように、前記コアエンジンを中心としてその周りを回転しつつ各々の断面形状を変えながら該コアエンジンに沿って配設されている請求項1又は2に記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジン。
【請求項4】
前記フロントファンの空気取入口がエンジンの前面中央に設けられているのに対し、前記アフトファンの空気取入口はエンジン全体の水平方向に対し該フロントファンの両側または片側に設けられていて、前記エンジン全体の空気取入口が水平方向に長く鉛直方向に短い楕円形を成している請求項1から3の何れかに記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジン。
【請求項5】
前記フロントファンの空気取入口と前記アフトファンの空気取入口は離隔して主翼の内部に埋め込まれている請求項1から3の何れかに記載の高バイパス比ターボファンジェットエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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