説明

高伸縮性スクリーン基布

【課題】薄地でソフトなストレッチ性と適度の透明性をもつ、スクリーン基布を提供すること。
【解決手段】非弾性フィラメント繊維とポリオレフィン系弾性糸より構成される高伸縮性布帛であって、定荷重伸長率が50%以上で、同回復率が50%以上である高伸縮性フィラメント布帛を用いたことを特徴とするスクリーン基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は形状適合性、面の平滑性に優れ、かつ長期の露光での変耐色に耐える高伸縮性スクリーン基布に関する。さらに詳しくは長期使用に対し、発生する伸び歪みが軽度の熱処理により、原形に回復し、折り畳み収納可能な高伸縮性スクリーン基布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりスクリーン基布に強く要求される性能は、投影された画像を鮮明に描写すること、すなわち明彩度を再現し、画像の歪を生じさせないことにある。そのためには、投影光を効率よく均一に反射することが生命線であり、適度の白度を保ち、平滑性を損なわない工夫が必要である。これらスクリーンは固定式で原寸収納または非移動のもの、または巻きあげ収納し、非移動または移動収納するもの等あり、それぞれの使用目的に沿った役割を果たしてきた。しかし、近年の投影技術の進歩、投影機の普及化に伴い、観賞目的からインテリア等の装飾目的でスクリーンを用いられ始め(例えば特許文献1参照)、その要求性能も変化しつつある。
【0003】
すなわち、インテリア等の装飾用途スリーンに求められる性能とは、(1)容易に脱着可能で装着時に平面性がたもてること、すなわち、たるみ、皺が発生せず、多少の変形にも追従すること、(2)軽量でコンパクトに収納できること、(3)耐光性に優れ、白度を保ち、変退色がないこと、(4)適度の透明性があることが掲げられる。
【0004】
上記(1)はインテリアとして要求される性能であり、その時の気分、雰囲気で脱着可能で好きな時に取り付け、好む画像が楽しめるために必要な機能であり、様々な形にも厳密な寸法設計が必要なく、追従できることが、縫製上望まれる特性である。
【0005】
上記(2)は家庭またはオフィス内での脱着において望まれる性能であり、特別な工具や装置が必要なくできることがこのましく、軽量化が強く望まれている。また特別な収納スペースも必要なく、折畳んでどこにでも収納できることも望まれている。
【0006】
上記(3)は、スクリーン基布はあくまでも受光することが目的であり、耐光性が要求され、更には、洗濯できることも望まれている。
【0007】
上記(4)はインテリアとして要求される性能であり、場合によっては、透過して見える背景と投影画像の重ね合わせや、複数のスクリーンを並置し、透過画像を作り出すことも要求される。このような、インテリアとしてスクリーンを使用する際、上記(1)〜(4)の要請を全て満たすスクリーン基布は存在しないのが現状である。
なお、ここで言うスクリーンとはカーテン等のようにギャザーのある平面を形成するものではなく、皺たるみのない平滑平面を形成できるものを言う。
【特許文献1】特開2003−3679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、容易に脱着可能でたるみ、皺が発生せず、多少の変形にも追従することができ、軽量でコンパクトに収納でき、耐光性に優れ、白度を保ち、変退色がなく、適度の透明性を有するインテリア用途に用いて好適なスクリーン基布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、遂に本発明を完成するに到った。すなわち本発明の第1は、非弾性フィラメント繊維とポリオレフィン系弾性糸より構成される高伸縮性布帛であって、定荷重伸長率が50%以上で、同回復率が50%以上である高伸縮性フィラメント布帛を用いたことを特徴とするスクリーン基布であり、本発明の第2は、ポリオレフィン系弾性糸が架橋型ポリオレフィン系弾性糸であることを特徴とする上記1に記載のスクリーン基布であり、本発明の第3は、該非弾性繊維がポリエステル系、もしくはポリオレフィン系のフィラメント糸であり、弾性糸の混用率が30%未満である高伸縮性フィラメント布帛を用いたことを特徴とする上記第1項または第2項記載のスクリーン基布であり、本発明の第4は、高伸縮性布帛が丸編地もしくは経編地であることを特徴とする上記第1項から第3項のいずれかに記載のスクリーン基布である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のスクリーン基布は透明性、伸長性に優れ、インテリアとしても審美性に優れ、スクリーンとしても、フラット性、耐変色性に優れるという利点がある
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明にかかるスクリーン基布は、非弾性フィラメント繊維とポリオレフィン系弾性糸から構成されていることが好ましい。
【0012】
ポリオレフィン繊維を用いるべき主な理由は次による。1つは、比重が1より小さく、水に浮くほど軽いこと。2つ目は、ポリオレフィン系であるが故に耐光性にすぐれること。他の1つは、架橋型ポリオレフィン繊維である場合には、伸長応力を除去した状態で、熱処理すると過度の伸長により、生ずる残留歪みが後の熱処理により除去可能でかつ、何度も繰り返しが可能なことにある。例えば、使用時に不慮の過剰伸長で部分的に歪が生じ、たるみが発生したとしても、ヘヤードライヤー等で部分過熱するか、取り外して、タンブラー乾燥機等で70℃から100℃で熱処理することでこれらの歪が除去でき、たるみを取ることもできる。またこの布の伸長応力は低く、薄地の布帛となり、ソフトな伸縮性を示し、脱着時の取り扱い性に優れている。さらには、製品製造時のメリットとして、布の乾熱セットで中間セットも可能で、例えば縫製前に伸長熱セットし、伸縮性を小さくしておき、取り扱い性を上げ、縫製後にリラックス熱処理でもとの伸縮性にもどすことも可能である。
【0013】
本発明でいう架橋型ポリオレフィン繊維は分枝を有しており、実質的に線状であるオレフィンに架橋処理を施されてなる繊維である。ここで分枝していて実質的に線状であるオレフィン繊維とは、オレフィン系モノマーを重合させた重合物であるものを言う。
例えばαオレフィンを共重合させた低密度ポリエチレンや特表平8−509530号公報記載の弾性繊維がこれに当たる。また架橋処理の方法としては、例えばラジカル開始剤やカップリング剤などを用いた化学架橋や、エネルギー線を照射することによって架橋させる方法等が挙げられる。製品となった後の安定性を考慮するとエネルギー線照射による架橋が好ましいが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。
【0014】
次に非弾性糸を併用する理由は、布帛の補強を主目的とするが、透明性のコントロール手段としての機能も有する。弾性糸と非弾性糸の複合法としては、引き揃え、交撚、カバリング、交織、交編等の手段を用いることができるが、弾性糸の金属摩擦を軽減し、製布時の工程通過性をよくすることや、スクリーンとしての耐磨耗性をよくする観点から、弾性糸を非弾性糸が覆うカバリング糸とすることが望ましい。また、非弾性糸として短繊維紡績糸をもちいることもできるが、布帛表面の毛羽が映像を乱す原因となり、ぼやけたファンタジー効果を求める場合を除き、フィラメント繊維であることが望ましい。
【0015】
フィラメント糸には非捲縮糸(以下、フラットヤーンと称する)と捲縮糸(以下、加工糸と称する)があるが、要求される透明性のレヴェルにより使い分けすることができる。透明性が高度にほしい場合はフラット糸が、低い場合は加工糸が適している。フィラメント糸であれば目的を達することができるが、耐久性、耐光性、経済性の観点より、ポリエステル系またはポリオレフィン系のフィラメント糸が、なかんずく軽量性からポリオレフィン系が好ましい。更に好ましくは難燃剤を練り込んだ、あるいは共重合した合成繊維である。
【0016】
布帛中の架橋型ポリオレフィン繊維の混用率は布帛の伸長応力を左右し、多すぎると布帛の伸長応力が高くなり取り扱いし辛くなり、また、製品の強度の保持が難しいことから30重量%を上限とすべきである。加えて架橋型ポリオレフィン繊維は高価であり、混用率が高くなると、経済性でも不利となる。しかしながら、取り付け時の形態保持や平滑性を満足するには布帛の定荷重伸長率が50%以上、同回復率が50%が必要であり、これを満足するには、弾性糸の混用率は5%以上が望ましい。定荷重伸長率が50%を下回ると形状追従性が悪くなり、取り付け難や複雑縫製を招くことになる。また同回復性が50%を下回ると、取り付け後のスクリーンに皴ができたり、使用中の歪の発生につながる。
【0017】
これらの伸長特性は、弾性糸の混用率のみならず、布帛の構成要件である組織や密度に大きく依存する。スクリーン機能の面では、織物、編物、不織布等でなんら問題がないが、50%以上の伸長率と回復率を満足するには、かなり密度の低い布帛とする必要があり、目ずれ等の発生のない編物が適している。また編物は折り畳み収納時の折れ皴回復性の観点からも優れた素材である。編地として丸編と経編があるが、特に制約するものではないが、広幅のスクリーンの要求に対しては、経編、特にトリコットが適している。
【0018】
さらに、編地の編み組織も重要であり、前述の伸縮性は複合糸の伸長性と編地の組織変形がもたらす生地伸びの複合として生じ、伸びやすく、編地の薄い天竺組織やトリコット、ハーフ組織が適している。しかし、場合により、冬季用等でリブ組織やインターロック組織とすることも可能である。ここではパール編みも広義に天竺に含める。トリコットの場合は最前筬に非弾性糸を使用すれば、弾性糸は編地の中心部に配され、非弾性糸が編地の表裏を覆うため、ベアー糸で使うこともできる。弾性糸が編地の表面に出ると摩擦力が高くなり、肌や上衣との滑りが悪く、着用感を害する。丸編み地の場合はレイイン等の手法を用いるとベアー糸でも用いることができるが、編み機が複雑になることや、裁断をすると素抜けしやすい等の問題があり好ましくなく、カバリングや交絡等で非弾性フィラメント糸と複合して用いることが好ましい。勿論、複合糸100%でも他のフィラメント糸との交編でも良い。
【0019】
本発明にかかるスクリーン基布は、透過率が40%から90%である事が好ましい。
40%未満では、透過性が弱く、背景の透過性が悪く、審美性に欠け、90%を超える と投影画像の鮮明性がおとるためであり、背景と画像のマッチングを適度にするには、
透過率を40%から90%とする必要がある。

【実施例】
【0020】
以下、実施例で詳細な説明をするが、本発明の実施形態を限定するものではない。
本発明の評価は以下の方法で実施した。
(A)[定荷重伸長率及び回復率]
「風合い評価の標準化と解析」(日本繊維機械学会編集)の第IV章 「布の力学的特性の測定」に記載の方法にのっとり、測定した。幅20cm、長さ5cmの試料を布帛の経方向、緯方向に採取し、長さ方向に4.00×10-3 /sec 一定で、最大荷重100gf/cmまで引張り、変形回復過程に移り、最大荷重時の伸長率を求めた。伸長率と変形回復過程の0応力到達時の歪み量の差の伸長率との比率を回復率とし、トリコットの場合は経方向と緯方向の平均値を、丸編みの場合はコース方向を、織物の場合は用いた弾性糸が伸長される方向(経糸及び緯糸双方の場合は双方の平均値)をその伸長率及び回復率とした。
(B)[架橋型ポリオレフィン繊維の混用率]
使用した架橋型ポリオレフィン繊維の繊度を複合時のポリオレフィン繊維のドラフト比で除し、複合糸の伸長時の繊度との比率に複合糸の混用率をかけて(%)で表示する。トリコットの場合は弾性糸のランナーをビーミング時のドラフト比で除した値と非弾性糸とのランナーとの対比で(%)で表示する。
(C)[透過率の測定方法]
得られた編地を特定の枠に両面テープで固定し、分光光度計(日立製作所製U−3210型)で320nmから900nmまでの透過率を測定し、500nmの透過率を求め編地の透過率とする。
【0021】
(実施例1)
架橋型ポリオレフィン弾性糸44デシテックスをバック筬に、ポリエステルブライトフィラメント糸56デシテックス36フィラメントをフロント筬に用いて28ゲージのトリコット編み機でハーフ組織の経編地を得た。ちなみに弾性繊維の含有率は18%であった。常法で精練、ファイナルセットをして、コース密度;60C/in. ウェール密度;62W/in. 目付;80g/ m2 の仕上げ布を得た。この編地の伸長特性と透過率を表1に示した。この編地を縫製してスクリーンとしがその縦横の寸法は取り付け枠の10%減とした。このスクリーンは比較的透過性が低く投影すると鮮明な画像が得られた。スクリーン表面には皺、たるみが全く見られなかった。繰り返しの投影や昼間の露光に対しても変耐色することなく変わらない白度を示した。また強度低下や弾性性の変化も認められなかった。
【0022】
(実施例2)
架橋型ポリオレフィン系弾性糸22デシテックスを3.3倍にドラフトしながら、ポリエステルブライトフィラメント16デシテックス6フィラメントと引き揃え3,500T/mで1段仮撚り加工をし、巻取り前でおおむね60個/mの交絡を入れて、巻き取った。
該仮撚り複合糸を用いて36Gの丸編み機で天竺組織の編地を得た。常法で精練、染色、セットして、コース密度が52コース/吋、ウエール密度が45ウエール/吋で目付が35g/m2で弾性糸の含有率が25%の仕上げ布を得た。この編地の伸長特性と透過率を表1に示した。この編地を縫製してスクリーンとした。このときスクリーンの寸法は取り付け枠の寸法より縦横との15%小さくし、15%伸長して取り付けた。このスクリーンに投影したところ、パステル調のかすかな画像と透かし見える背景の夜景が重なり合い、エキゾチックな雰囲気をかもしだした。
またこのスクリーンを取り外し、幾重にも折りたたみ収納したがコンパクトに収納できた。
この収納スクリーンを再度広げ、伸長しながら、型枠に取り付けたところ、折り皴、たるみが全く見られず、スクリーンとしての性能を保っていた。また空調機等の風が注がれるとスクリーン表面が微妙に揺れ動きよりエキゾチックな画像が得られた。
【0023】
(実施例3)
架橋型ポリオレフィン弾性糸44デシテックスを3倍にドラフトしながらポリプロピレンブライト偏平糸(偏平率=4.8)33デシテックス18フィラメント糸をS方向に1000T/mでカバリングして複合糸として伸長状態で巻き上げ、85℃で15分キヤーセットした。別途用意したポリエステル仮撚加工糸55デシテックス24フィラメント糸に300回/mの実撚を施した糸を経糸とし、緯糸に前記カバリング糸を用い常法で平織りに製織、精練セットして、経密度が100本/吋、緯密度が85本/吋の織物を得た。この織物の伸長特性と透過率を表1に示した。この織物を通常のカーテンと同様に縫製し、カーテンレールとともに取り付け、常時はカーテンとして使用し、スクリーンとして使う場合は緯方向に10%伸長して固定した。透過度はやや劣るものの、収納機会がないことより、常に表面状態の良いスクリーンが得られた。
【0024】
(比較例1)
実施例―1のバック筬に供給した架橋型ポリオレフィン弾性糸に変え、ポリウレタン弾性糸44デシテックス(東洋紡エスパT765)を用いた以外は実施例―1と同法でスクリーン基布を得、スクリーンとしたが、使用ごとに黄変し、半年くらいで、カーテン地としては審美性に欠け、スクリーンとしては映像の鮮明性の劣るものになってしまった。この基布の伸長特性および透過性を表―1に示した。
【0025】
(比較例2)
実施例―2の架橋型ポリオレフィン弾性糸に変え、ポリエステルフィラメント22デシテックス8フィラメントとすること以外は実施例―2と同法でスクリーン基布を得た。同布の伸長特性および透過性を表―1に示した。同布の伸長率はある程度あるものの、回復率が十分ではなく、取り付け後にやや皺やたるみが見られ、特に収納後に取り付けた場合にそのたるみ、皺が目立ち、品位を損なった。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のスクリーン基布は透明性、伸長性に優れ、インテリアとしても審美性に優れ、スクリーンとしても、フラット性、耐変色性にすぐれたスクリーン基布であり、産業界に寄与すること大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非弾性フィラメント繊維とポリオレフィン系弾性糸より構成される高伸縮性布帛であって、定荷重伸長率が50%以上で、同回復率が50%以上である高伸縮性フィラメント布帛を用いたことを特徴とするスクリーン基布。
【請求項2】
ポリオレフィン系弾性糸が架橋型ポリオレフィン系弾性糸であることを特徴とする請求項1に記載のスクリーン基布。
【請求項3】
該非弾性繊維がポリエステル系、もしくはポリオレフィン系のフィラメント糸であり、弾性糸の混用率が30%未満である高伸縮性フィラメント布帛を用いたことを特徴とする特許請求の範囲第1項または第2項記載のスクリーン基布。
【請求項4】
高伸縮性布帛が丸編地もしくは経編地であることを特徴とする特許請求の範囲第1項から第3項のいずれかに記載のスクリーン基布。

【公開番号】特開2006−77376(P2006−77376A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−265332(P2004−265332)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】