説明

高充填の遷移酸化アルミニウム含有分散液

唯一の固形物としての遷移酸化アルミニウム及び分散剤を含有する水性分散液であって、該分散液中で− 遷移酸化アルミニウムが一次粒子の凝集体の形態で存在し、分散液中の遷移酸化アルミニウムの含量が40〜65質量%であり、分散液中の凝集体が100nm未満の平均凝集体直径を有し、− 分散剤はポリアルミニウムヒドロキシクロリド、ポリアルミニウムヒドロキシニトラート及び/又はポリアルミニウムヒドロキシサルフェートを含有し、分散液は3〜5のpHを有する、水性分散液である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遷移酸化アルミニウムの分散液、その製造及びその使用に関する。
【0002】
セラミック素地が高充填金属酸化物分散液によって製造され得ることは公知である。該分散液が満たすべき要件には、主に、熱処理工程における収縮と亀裂を最小限にするための低い粘度と高程度の充填が含まれる。高程度の充填は、粗粒子間の間隙がより細かい粒子によって充填されるという二峰性の粒径分布によって達成され得ることも公知である。
【0003】
Shi及びZhangのJournal of the American Ceramic Society 83 (2000年), 737は、透過電子顕微鏡法によって0.17μm、0.37μm及び0.86μmと測定された粒径を有する酸化アルミニウム粉末を使用する二峰性酸化アルミニウム分散液を開示する。該分散液は、これらの粉末のうちの2つを水中で攪拌し、その後pHを設定することによって得られる。各場合におけるより細かい酸化アルミニウムの最適な割合は、さらに処理可能な分散液とほぼ緻密な成形体を得るために、粗い酸化アルミニウムと細かい酸化アルミニウムの合計を基準として、約30%である。ShiとZhangによると、全酸化アルミニウム含量は45体積%までになり得る。しかしながら、酸化アルミニウムの焼結活性度については未だ改善を必要とする。
【0004】
SmithとHaberのJournal of the American Ceramic Society 78 (1995年), 1737は、1μm(85部)を上回る平均粒径を有する酸化アルミニウム粉末と0.4μm(15部)の平均粒径及び50体積%までの含量を有する酸化アルミニウム粉末を使用する二峰性酸化アルミニウム分散液を開示する。ここでもまた、酸化アルミニウムの焼結活性度については未だ改善を必要とする。
【0005】
DE−A−19603584号は製紙工業において使用される水酸化アルミニウムの分散液を開示している。この分散液はポリアルミニウムヒドロキシクロリドを分散剤として含有し、その結果、該分散液の充填の程度を増加させることができ、該分散液は未だ常にポンプ圧送可能である。この分散液の欠点は、実施例から明らかなように、極めて低い沈降安定性である。
【0006】
従って、本発明の目的は、熱処理時に高い焼結活性度を有する安定な、高充填の、低粘度の酸化アルミニウム含有分散液を得ることを可能にする形態の酸化アルミニウムを提供することである。
【0007】
本発明は、唯一の固形物としての遷移酸化アルミニウム及び分散剤を含有する水性分散液であって、
− 該遷移酸化アルミニウムが一次粒子の凝集体の形態で存在し、分散液中の該遷移酸化アルミニウムの含量が40〜65質量%であり、分散液中の該凝集体が100nm未満の平均凝集体直径を有し、
− 該分散剤はポリアルミニウムヒドロキシクロリド、ポリアルミニウムヒドロキシニトラート及び/又はポリアルミニウムヒドロキシサルフェートを含有し、
− 該分散液は3〜5のpHを有する、
ことを特徴とする、水性分散液を提供する。
【0008】
この分散液を以後、遷移酸化アルミニウム分散液と呼ぶ。その特性、例えば粘度及び沈降安定性は、少なくとも1ヶ月を大きく超えて変化しない。一般に、6ヶ月を超えても沈降が認められない。
【0009】
遷移酸化アルミニウム分散液中に存在する遷移酸化アルミニウムは、カイ−、カッパ−、ガンマ−、デルタ−及びシータ−酸化アルミニウムを含む。これらの結晶成分を別にして、少ない割合の非晶質酸化アルミニウムも存在し得る。この分散液は固形物として遷移酸化アルミニウムのみを含有する。主な成分は、有利にはガンマ−酸化アルミニウム、デルタ−酸化アルミニウム、シータ−酸化アルミニウム又はそれらの混合物である。遷移酸化アルミニウムは、特に有利には少なくとも60%のデルタ−酸化アルミニウムとシータ−酸化アルミニウムの混合物を含む。アルファ−酸化アルミニウムは本発明の分散液の成分ではない。遷移酸化アルミニウムは一次粒子の凝集体の形態で存在し且つ有利には20〜150m/gのBET表面を有する。BET表面積は、特に有利には30〜100m/g、極めて特に有利には55〜70m/gであってよい。
【0010】
遷移酸化アルミニウムは有利には熱分解処理により得ることができる。係る処理は、火炎加水分解及び/又は火炎酸化であってよい。ここで、有機又は無機アルミニウム化合物、例えば塩化アルミニウムは、水蒸気及び/又は酸素の存在下で反応して酸化アルミニウムを形成する。得られた一次粒子は多孔性ではなく且つそれらの表面上にヒドロキシル基を有する。出発材料としての塩化物含有アルミニウム化合物の場合、酸化アルミニウムはまた、少量の塩化物、一般に0.1質量%未満の塩化物を含有し得る。遷移酸化アルミニウム分散液は、有利には300ppm未満の塩化物を含有する酸化アルミニウムを使用して製造される。
【0011】
遷移酸化アルミニウム分散液の重要なパラメーターは、分散液中の平均粒径である。これは100nm未満であり、有利には70〜90nmの仮定値であってよい。これは、例えば、レーザー光の散乱により測定することができる。
【0012】
遷移酸化アルミニウム分散液のpHは3〜5、有利には3.5〜4.5である。pHは、所望の場合、pH調節剤、酸又は塩基の添加により調整することができる。酸化アルミニウムを製造するための出発材料として塩化アルミニウムを使用する場合、塩酸が付帯する結果、pHは既に所望のpH範囲内であり得る。
【0013】
本発明の分散液はポリアルミニウムヒドロキシクロリド(PAC)、ポリアルミニウムヒドロキシニトラート及び/又はポリアルミニウムヒドロキシサルフェートを有意な成分として含有し、該分散液は有利にはポリアルミニウムヒドロキシクロリド(PAC)を含有する。これは式Al(OH)Cl(3n−m)、例えばAl(OH)2.6Cl3.4の水溶性塩である。PACは有利には、Alとして計算して、5〜25質量%のアルミニウム含量を有する。
【0014】
PACとカチオンポリマーとの混合物及び/又はPACとカチオンジシアンジアミド樹脂との共縮合生成物が、特に有利な分散剤であることが見出された。
【0015】
カチオンポリマーとして、ポリエチレンイミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド又はカチオンジシアンジアミド樹脂を使用することが有利である。
【0016】
カチオンジシアンジアミド樹脂及びその製造が、例えば、DE−A−3500408号に記載されている。ポリアルミニウムヒドロキシクロリド及びカチオンポリマーは有利には30:70〜95:5の重量比で存在する。
【0017】
分散剤の割合は、有利には分散液の全量を基準として、0.1〜3質量%である。
【0018】
更に、本発明の分散液は、成分としてポリアルミニウムヒドロキシクロリドとカチオンジシアンジアミド樹脂との共縮合生成物を含有し得る。これらの共縮合生成物及びその製造はDE−A−3742764号から公知である。この共縮合生成物におけるPACとカチオンジシアンジアミド樹脂の比は、同様に広範囲で変わり得るが、15:1〜2:1のアルミニウムとジシアンジアミドのモル比が有利である。
【0019】
一般式A(式中、R=CONH、CN又はH;X=Cl、1/2SO2−且つn=5−15)の化合物が、本発明の分散液の成分として特に好適である。
【化1】

【0020】
本発明は更に遷移酸化アルミニウム分散液の製造方法を提供し、その際、適切であれば、1種又は複数種の添加剤を水中に入れ、酸化アルミニウム粉末を全て一度に添加、少量ずつ添加又は継続的に添加し、そして1000kJ/mを上回るエネルギーの導入により混合物を分散させる。
【0021】
この方法は有利には、分散を最初に1000kJ/m未満のエネルギー入力において実施して予備分散液を形成し、該予備分散液を少なくとも2つの部分流に分け、これらの部分流を少なくとも500バールの圧力下の高エネルギーミルに置き、ノズルを介して減圧し、そして部分流をガス−又は液体−充填反応空間で互いに衝突させ、適切であれば、高−エネルギー微粉砕を1回以上繰り返すことにより実施できる。
【0022】
遷移酸化アルミニウム分散液は、アルファ−酸化アルミニウム、酸化セリウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン又は二酸化ジルコニウムからなる群から選択される1種又は複数種の金属酸化物を固形物として付加的に含有する分散液の成分であり得る。この分散液を混合酸化物分散液と呼ぶ。この分散液では、いずれの場合も分散液の全量を基準として、金属酸化物と遷移酸化アルミニウムの全含量は一般に60〜75質量%であり、遷移酸化アルミニウムの含量は30〜45質量%である。金属酸化物という用語は、遷移酸化アルミニウムを除き且つメタロイド酸化物として二酸化ケイ素を含むものとして解釈されるべきである。金属酸化物の平均粒径は100〜500nmであり、従って遷移酸化アルミニウムの平均粒径よりも大きい。一般に、この金属酸化物の粒径は200〜400nmである。この金属酸化物粒子は、凝集した粒子又は非凝集の粒子の形態で存在し得る。通常5〜20m/gのBET表面積を有するアルファ−酸化アルミニウムが最も使用される。
【0023】
この遷移酸化アルミニウム分散液はセラミック素地を製造するために使用できる。
【0024】
実施例
遷移酸化アルミニウム分散液
実施例1(本発明による):37kgの脱イオン水と460gのALZOFIX(登録商標)P9(PAC−ジシアンジアミド共縮合生成物、Degussa AG社)を60Lのステンレス鋼混合容器に装入する。25kgのAEROXIDE(登録商標)Alu65(熱分解酸化アルミニウム、BET=65m/g、主成分:シータ−及びデルタ−酸化アルミニウム;Degussa AG)を、Ystral社Conti−TDS3吸込ホース(ステータスリット:4mmリング及び1mmリング、ロータ/ステータ間隔約1mm)を用いて剪断条件下で引き続き吸引する。次に更に340gのALZOFIXを添加し、5kgのAEROXIDE(登録商標)Alu65を吸引する。この交互の添加を合計6回実施する。添加の完了後、吸込み口を閉じて更に20分間3000rpmで剪断をかける。最後に、5.5kgの脱イオン水を用いて予備分散液を55質量%の含量にし、更に約5分間もう一度剪断を行って該分散液を均一にする。この予備分散液を、2500バールの圧力において直径0.3mmのダイアモンドノズルを有するSugino Ultimaizer HJP−25050高エネルギーミルを介して2つの通路に通し、それによって更に強力な微粉砕にかける。
【0025】
pHは4.1である。分散液の固形含量は55質量%である。平均凝集体直径は83nm(Horiba LA−910を用いて測定)である。分散液のゼータ電位は0.16S/mの導電性において+43mVである。分散液は6ヶ月後でもゲル化又は沈降の徴候を示さない。
【0026】
実施例2:実施例1に類似するがAEROXIDE(登録商標)Alu65の代わりにAEROXIDE(登録商標)Alu C(熱分解酸化アルミニウム、BET=100m/g、主成分:ガンマ−酸化アルミニウム、Degussa)を使用する。
【0027】
pHは4.1である。分散液の固形含量は55質量%である。平均凝集体直径は79nm(Horiba LA−910を用いて測定)である。分散液は6ヶ月後でもゲル化又は沈降の徴候を示さない。
【0028】
実施例3(比較例):実施例1と類似するが、ALZOFIXの代わりに50%濃度の酢酸水溶液を使用する。酢酸をALZOFIXと類似の方法で0.9kgと1.0kgの2部分ずつ添加する。
【0029】
この分散液は、数日後にかなりの沈降を示す。
【0030】
混合酸化物分散液
実施例4:実施例1からの550gの分散液を容器に装入する。実験室攪拌機を用いて攪拌している間、155gのアルファ−酸化アルミニウム粉末(AKP−50、住友化学工業社製、平均粒径約200nm)を添加する。
【0031】
実施例5及び6:実施例4と類似するが、表1に示された量を使用する。
【0032】
表1に示すように、本発明による分散液は、セラミック材料の出発材料としての高充填の分散液の製造に理想的である。この方法で製造された混合酸化物分散液は、非常に高度の充填においてさえも未だ良好な加工性を有する。混合酸化物分散液は、遷移酸化アルミニウム分散液中に金属酸化物を単純に攪拌導入することにより製造できる。
【0033】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
唯一の固形物としての遷移酸化アルミニウム及び分散剤を含有する水性分散液であって、
− 遷移酸化アルミニウムが一次粒子の凝集体の形態で存在し、分散液中の遷移酸化アルミニウムの含量が40〜65質量%であり、分散液中の凝集体が100nm未満の平均凝集体直径を有し、
− 分散剤はポリアルミニウムヒドロキシクロリド、ポリアルミニウムヒドロキシニトラート及び/又はポリアルミニウムヒドロキシサルフェートを含有し、
− 分散液は3〜5のpHを有する、
ことを特徴とする、水性分散液。
【請求項2】
遷移酸化アルミニウムのBET表面積が20〜150m/gであることを特徴とする、請求項1記載の水性分散液。
【請求項3】
遷移酸化アルミニウムがシータ−及び/又はデルタ−酸化アルミニウムを主成分として含有することを特徴とする、請求項1又は2記載の水性分散液。
【請求項4】
分散剤がポリアルミニウムヒドロキシクロリド、ポリアルミニウムヒドロキシクロリドとカチオンポリマーとの混合物及び/又はポリアルミニウムヒドロキシクロリドとカチオンジシアンジアミド樹脂との共縮合生成物であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の水性分散液。
【請求項5】
分散剤の割合が分散液の全量を基準として0.1〜3質量%であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の水性分散液。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項記載の水性分散液の製造方法であって、
分散剤を、適切であれば、水中に入れることと、遷移酸化アルミニウムを全て一度に添加、少量ずつ添加又は継続的に添加することと、1000kJ/mを上回るエネルギーの導入により混合物を分散させること
を特徴とする、水性分散液の製造方法。
【請求項7】
分散を最初に1000kJ/m未満のエネルギー入力において実施して予備分散液を形成することと、予備分散液を少なくとも2つの部分流に分けることと、これらの部分流を少なくとも500バールの圧力下の高エネルギーミルに置くことと、ノズルを介して減圧することと、部分流をガス−又は液体−充填反応空間で互いに衝突させることと、適切であれば、高−エネルギー微粉砕を1回以上繰り返すこと
を特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
更なる分散液を製造するための及び複合材料を製造するための請求項1から5までのいずれか1項記載の酸化アルミニウム含有水性分散液の使用。

【公表番号】特表2009−519197(P2009−519197A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−544969(P2008−544969)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069424
【国際公開番号】WO2007/068646
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】