説明

高分子アクチュエータを用いた光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体

【課題】 光ピックアップの対物レンズ駆動機構として、ピエゾ圧電現象を利用した機構若しくは誘電性液体の比誘電率を利用した機構以外の機構であって、現行のコイルと磁石による電磁誘導現象を利用した装置に匹敵する変位量を有するアクチュエータを提供することにより、光ピックアップ装置の小型化、軽量化を実現させる。
【解決手段】 ピックアップ装置の対物レンズ駆動体として、対向する金属電極(2,2’及び3,3’)間に、イオン交換樹脂4と、塩を含有する分極性有機溶媒またはイオン性液体である液状有機化合物とが含まれる高分子アクチュエータ1とする機構を採用する。イオン交換樹脂4に、リード線5を通じて所定の電位差が与えられると、光軸方向の角度を変えることなく変形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置の対物レンズの駆動体に関し、より詳細には、当該対物レンズ駆動体が、高分子電解質を有し、フォーカス用及び/またはトラッキング用に使用できる駆動体に関する。
【背景技術】
【0002】
CDやDVDのような光記録媒体(光ディスク)に記録されている信号を読み取り、或いは記録可能な前記媒体に信号を書き込むための装置として光ピックアップ装置が一般に用いられている。この光ピックアップ装置には、光記録媒体の情報にフォーカシングするため、或いはトラッキングのため、駆動装置に保持された可動の対物レンズが取り付けられている。
【0003】
この対物レンズの駆動装置には、フォーカシングやトラッキングのためには、光軸方向の角度を保持したまま、垂直または水平方向への微妙な移動が要求される。かかる対物レンズ駆動装置には、通常コイルと磁石による電磁誘導現象を利用した装置が用いられる。
【0004】
しかし、現在光記録媒体の読み取りまたは書き込みの装置(プレーヤーやレコーダー)の小型化、軽量化が要求されているところ、上記駆動装置では、小型化や軽量化に物理的な限界がある。そこで電磁誘導現象以外の現象を利用した駆動装置の研究がなされており、例えばピエゾ圧電効果を利用する圧電素子を用いた駆動装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開昭62−118910号公報
【0005】
しかし、ピエゾ圧電効果による変位量は小さく、また制御の困難性という問題があり、商業的な実用化に至っていない。
【0006】
また、特許文献2には、対物レンズの駆動に、N−エチルホルムアミドやN−(2−ヒドロキシエチル)アセトアミドといった比誘電率の大きい誘電性液体を、電極を設けた円筒形チューブに充填し、該電極に電位差を与えることで、チューブを伸縮させるアクチュエータ機構を採用したユニークな技術が提案されている。
【特許文献2】特開平6−343277号公報
【0007】
しかしながら、誘電性液体の比誘電率を利用したアクチュエータ機構は、アクチュエータの変位を誘電性液体の比誘電率にたよる結果、変位量に原理上の限界があり、また上記技術ではチューブ方向のみの伸縮であって、チューブ垂直方向の変位はできないものであった。このため、フォーカス用若しくはトラッキング用のいずれかしか変位制御できないものであり、両方の制御を可能にするためには別の制御機構が必要となり、かかる新しい機構を採用するメリットに乏しいものであった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記現状を鑑みて、本発明が解決しようとするのは、光ピックアップの対物レンズ駆動機構として、ピエゾ圧電現象を利用した機構若しくは誘電性液体の比誘電率を利用した機構以外の機構であって、現行のコイルと磁石による電磁誘導現象を利用した装置に匹敵する変位量を有するアクチュエータを提供することにより、光ピックアップ装置の小型化、軽量化を実現させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する主要な手段として、光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体として、対向する金属電極間に、イオン交換樹脂と、塩を含有する分極性有機溶媒またはイオン性液体である液状有機化合物とが含まれる高分子アクチュエータとする機構を採用した。
【0010】
前記高分子アクチュエータの好ましい様態としては、その形状が、1組以上の平行な平面側壁を有する板形状または棒形状であり、平行に対向する前記平面側壁に、対となる前記金属電極を有し、前記金属電極を有する平面側壁の面上に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有する様態である。
【0011】
また、フォーカス用、トラッキング用のいずれの機能をも奏するための手段としては、前記高分子アクチュエータの形状が、2組の平行な平面側壁を有する四角柱形状であり、平行に対向する2組の前記平面側壁の面上に、それぞれ対となる前記金属電極を有し、それぞれの前記平面側壁に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものとすることを主要な手段とする。
【0012】
更に対物レンズ駆動体を2本以上の前記高分子アクチュエータによって対物レンズが保持する機構とすることで、チルト駆動も可能になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体によれば、機構を単純化することができ、装置の小型化、軽量化に資することができる。
【0014】
また、本発明に用いる高分子アクチュエータは、液体中で駆動するものではなく、空中での駆動が可能であるから、対物レンズ駆動体として容易に組み込んでも、長期間にわたって安定した駆動をすることができる。特に沸点または分解温度が180℃以上である液状有機化合物を溶媒とした場合には、高分子アクチュエータの溶媒が蒸発して駆動できなくなるおそれがなく、また駆動時の副次的な溶媒の電気分解による水素ガス等の気泡の発生もない。
【0015】
また、本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の様態を、前記高分子アクチュエータの形状が、1組以上の平行な平面側壁を有する板形状または棒形状であり、平行に対向する前記平面側壁に、対となる前記金属電極を有し、前記金属電極を有する平面側壁の面上に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものである様態とすることで、光軸方向の角度を変化させることなく、フォーカス用(ディスクを水平保持する装置では垂直方向)及び/またはトラッキング用(ディスクを水平保持する装置では水平方向)としての制御を容易に行うことができる。
【0016】
また、前記高分子アクチュエータの形状が、2組の平行な平面側壁を有する四角柱形状であり、平行に対向する2組の前記平面側壁の面上に、それぞれ対となる前記金属電極を有し、それぞれの前記平面側壁に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものとすることで、本発明のひとつの機構で、フォーカス用とトラッキング用のいずれも制御することができ、他の機構を必要としないので、装置の小型化、軽量化により一層資することができる。
【0017】
更に対物レンズ駆動体を2本以上の前記高分子アクチュエータによって、対物レンズが保持さえる機構とすることで、ひとつの機構で、チルト駆動までも可能になるため、装置の小型化、軽量化により一層資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(高分子アクチュエータ)
本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体は、高分子アクチュエータで対物レンズを保持するものである。本発明にいう高分子アクチュエータは、対向する金属電極間に、イオン交換樹脂と、塩を含有する分極性有機溶媒またはイオン性液体である液状有機化合物とが含まれるでものある。原理的には、イオン交換樹脂に金属電極を通じて当該イオン交換樹脂に電位差が与えられると、イオン交換樹脂に含まれている液状有機化合物中のイオン性物質が、いずれかの電極方向に移動することにより変形が生じる現象を利用するものである。
【0019】
(イオン交換樹脂)
本発明に用いる高分子アクチュエータ素子のイオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、公知のイオン交換樹脂を用いることができる。現に効果が確認されたのは、アクチュエータのイオン交換樹脂が陽イオン交換樹脂のものである。ただし、イオン交換樹脂が陽イオン型でも陰イオン型でも電位差の与え方を変更することで同様の効果が期待できる。陽イオン交換樹脂を用いる場合には、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基、カルボキシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。このような樹脂としては、例えばパーフルオロスルホン酸樹脂(商品名「Nafion」、DuPont社製)、パーフルオロカルボン酸樹脂(商品名「フレミオン」、旭硝子社製)、ACIPLEX(旭化成工業社製)、NEOSEPTA(トクヤマ社製)を用いることができる。
【0020】
本発明に用いる高分子アクチュエータの屈曲・変位量を大きくするために、前記イオン交換樹脂には柔軟性を有していることが好ましい。イオン交換樹脂に柔軟性を付与するため、液状有機化合物によってイオン交換樹脂を膨潤させる。前記イオン交換樹脂は、膨潤した状態となることで、ゲル電解質となることができる。前記膨潤の度合いは、特に限定されるものではないが、前記高分子アクチュエータの膨潤度、つまり、前記高分子電解質が乾燥した状態での厚さに対して高分子アクチュエータの膨潤した状態での厚さの増加率が、3〜200%であることが好ましく、5〜60%であることがより好ましい。前記膨潤度が3%未満である場合には、変位屈曲性能が劣り、前記膨潤度が200%よりも大きい場合にも、変位屈曲性能が劣り、さらに大きく引張り強度が低下することとなってしまう。なお、前記有機化合物は、イオン交換樹脂中に含まれるが、金属電極が多孔性である場合には、前記溶媒の一部が、塩とともに前記金属電極に含まれても良い。
【0021】
(液状有機化合物)
本発明に用いられる液状有機化合物には、塩を含有する分極性有機溶媒か、イオン性液体を用いる。イオン性液体は単独で用いることができるが、分極性有機溶媒の場合には、電荷のキャリアとなるイオンを含む塩が必要とされる。ただし塩として前記イオン性液体を用いてもよい。これらの液状有機化合物であれば、イオン交換樹脂に電位差が与えられた場合、容易に当該イオン交換樹脂内での移動が生じるからである。液状有機化合物は、常温常圧において液状の有機化合物であり、特に、180℃以上の沸点または分解温度を有するものが好ましい。溶媒の気化が起こりにくくなるので、対物レンズ駆動体としたときの長期安定性に資することができるからである。
【0022】
(分極性有機溶媒)
前記分極性有機溶媒は、180℃以上の沸点または分解温度を有する有機化合物であることが好ましいが、特に245℃以上の沸点を有する分極性有機溶媒であることがより好ましい。好ましい分極性有機溶媒の具体例として、ジエチレングリコール、グリセリン、スルホラン、プロピレンカーボネート、ブチロラクトン又はこれらの混合物を挙げることができる。中でもジエチレングリコール、グリセリン、スルホラン又はこれらの混合物であることが特に好ましい。
【0023】
前記分極性有機溶媒に含まれる塩は、当該分極性有機溶媒に溶解しうる塩であれば特に制限されるものではないが、特に前記イオン交換樹脂がカチオンと対イオンを形成する場合には、1〜3価のカチオンの塩を用いることができ、Na、K、Li等の1価のカチオンを用いることが大きな屈曲若しくは変位をすることができるために好ましく、イオン半径の大きなアルキルアンモニウムイオンを用いることがより大きな屈曲若しくは変位をすることができるために更に好ましい。前記アルキルアンモニウムイオンとしては、CH3+3、C25+3、(CH3)2+2、(C25)2+2、(CH3)3+H、(C25)3+H、(CH3)4+、(C25)4+、(C37)4+、(C49)4+、H3+(CH2)4+3、H2C=CHCH2+HCH3、H3+(CH2)4+2(CH2)4+3、HC≡CCH2+2、CH3CH(OH)CH2+3、H3+(CH2)5OH、H3+CH(CH2OH)2、(HOCH2)2C(CH2+3)2、C25OCH2CH2+3や脂肪族炭化水素を置換基として備えるアンモニウムイオン、または官能基として炭化水素の他に脂環式の環状炭化水素をも有するアンモニウムイオンを用いることができる。このとき、前記の塩の濃度としては、イオン交換樹脂の官能基と等量以上の濃度として含まれていればよく、十分な屈曲乃至変位を得るために0.01〜10mol/lであることが好ましく、0.1〜1.0mol/lであることがより好ましい。
【0024】
(イオン性液体)
前記イオン性液体の好ましい具体例としては、テトラアルキルアンモニウムイオン、イミダゾリウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリウムイオン、ピロリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、及びピペリジニウムイオンからなる群より少なくとも一種選ばれたカチオンと、
PF、BF、AlCl、ClO、及び下式(1)で表されるスルホニウムイミドアニオンからなる群より少なくとも一種選ばれたアニオン
との組み合わせからなる塩を挙げることができる。下式(1)中、n及びmは任意の整数である。
(C(2n+1)SO)(C(2m+1)SO)N (1)
【0025】
前記テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては、特に限定されるものではないが、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウムを用いることができる。
【0026】
前記イミダゾリウムカチオンは、ジアルキルイミダゾリウムイオン及び/またはトリアルキルイミダゾリウムイオンを用いることができる。例えば、前記イミダゾリウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−ヘキシル−3メチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンを例示することができる。
【0027】
前記アルキルピリジニウムカチオンは、特に限定されるものではないが、N−ブチルピリジニウムイオン、N−メチルピリジニウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、1−エチル−2−メチルピリジニウム、1−ブチル−4−メチルピリジニウム、1−ブチル−2,4−ジメチルピリジニウムを例示することができる。
【0028】
前記ピラゾリウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1,2−ジメチルピラゾリウムイオン、1−エチル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−プロピル−2−メチルピラゾリウムイオン、1−ブチル−2−メチルピラゾリウムイオンを例示することができる。
【0029】
前記ピロリウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1,1−ジメチルピロリウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリウムイオンを例示することができる。
【0030】
前記ピロリニウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1,2−ジメチルピロリニウムイオン、1−エチル−2−メチルピロリニウムイオン、1−プロピル−2−メチルピロリニウムイオン、1−ブチル−2−メチルピロリニウムイオンを例示することができる。
【0031】
前記ピロリジニウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1,1−ジメチルピロリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムイオンを例示することができる。
【0032】
前記ピペリジニウムカチオンは、特に限定されるものではないが、1,1−ジメチルピぺリジニウムイオン、1−エチル−1−メチルピぺリジニウムイオン、1−メチル−1−プロピルピぺリジニウムイオン、1−ブチル−1−メチルピぺリジニウムイオンを例示することができる。
【0033】
前記イオン性液体は、上記アニオンと上記カチオンとの組み合わせが特に限定されるものではないが、例えば、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミド(EMITFSI)、1−メチル−3−イミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF)、1−メチル−3−イミダゾリウムヘキサフルオロリン酸(EMIPF)、トリメチルプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホイミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホイミドを用いることができる。
【0034】
(金属電極)
本発明においてイオン交換樹脂の表面には、当該イオン交換樹脂に電位差を与えることができるように、対向する位置に一組以上の金属電極が設けられている。金属電極に用いられる金属は、水銀のような液体金属を除き、導電性のよい個体金属であれば制限なく用いることができ、また合金であってもよい。用いるイオン交換樹脂や液状有機化合物など種類によって、それぞれ適当な金属を選ぶことができる。
【0035】
金属電極が対向するとは、一組の金属電極が平行を保って存在する状態を理想とするものである。ただし、両電極は完全に平行である必要はなく、当該両金属電極に電圧を与えることでアクチュエータ素子が変位できる限りにおいて、平行から多少ずれていてもよい。ただし、平行からずれるに従って、クーロン量あたりの屈曲や変形の効率に変化が生じる。
【0036】
一組の金属電極が平行を保って存在する状態にするには、イオン交換樹脂の形状を平行な平面側壁を有する板形状または棒形状として、この平行に対向する前記平面側壁表面に、対となる金属電極をメッキ法、中でも無電解メッキ法で設けることが好ましい。後述のように、イオン交換樹脂の表面に無電解メッキ法で金属電極になりうる金属膜を形成した場合、イオン交換樹脂と金属電極の接触面積が大きくなり、このためアクチュエータとしての屈曲や変位の量も大きくできるからである。
【0037】
(被覆樹脂)
本発明に用いる高分子アクチュエータは、被覆をせずに長時間駆動することができるが、更に、可撓性を有する樹脂で被覆されてもよい。前記樹脂としては、特に限定されるものではないが、ポリウレタン樹脂及び/又はシリコン樹脂を用いることができる。前記ポリウレタン樹脂は、特に限定されるものではないが、柔軟な熱可塑性ポリウレタンを用いることが、柔軟度が大きく密着性が良好であるために特に好ましい。柔軟な熱可塑性ポリウレタンとしては、商品名「アサフレックス 825」(柔軟度200%、旭化成社製)、商品名「ペレセン 2363−80A」(柔軟度550%)、「ペレセン 2363−80AE」(柔軟度650%)、「ペレセン 2363−90A」(柔軟度500%)、「ペレセン 2363−90AE」(柔軟度550%)、(以上、ダウ・ケミカル社製)を用いることができる。また、前記シリコン樹脂は、特に限定されるものではないが、柔軟度が50%以上である樹脂が、柔軟度が大きいので密着性が良好であるために、特に好ましい。前記シリコン樹脂としては、例えば、「シラシール3FW」、「シラシールDC738RTV」、「DC3145」、及び「DC3140」(以上、ダウコーニング社製)を用いることができる。なお、本願において、柔軟度とは、ASTM D412に準拠する引張破断伸び(Ultimate Elongation%)をいうものである。
【0038】
(高分子アクチュエータの構造)
ひとつの平面側壁に、2電極以上有する様態の高分子アクチュエータの概要斜視図を図1(a)に示した。図1(a)では、直方体形状のイオン交換樹脂4のひとつの側壁に、隣り合った2つの金属電極2,3が存在している高分子アクチュエータ1の様子が示されている。この2つの金属電極2,3には、対となる電極、2’,3’が反対側の側壁にそれぞれ存在している。図1(a)の斜視図では隠れてしまう金属電極2’,3’を点線で示した。図1(a)の様態では、イオン交換樹脂4に電位差を与えるため、各金属電極(2,2’,3,3’)それぞれにリード線5にて電極端子が接続されている。金属電極の大きさは、対となる電極2,2’または3,3’が同じ大きさであることが好ましいのは当然として、本発明では光軸方向の角度を変えずに変形させるためには、これら電極(2,2’,3,3’)全ての大きさが同じであることが好ましい。なお、図示したイオン交換樹脂4には、液状有機化合物が含まれているが、定形性を持たない液体であるため図示していない。
【0039】
図1(b)は、図1(a)の様態の高分子アクチュエータ1の概要上面図である。ただしリード線の図示は省略した。この状態で、電極2,2’間に一定の電位差を与えると同時に、電極3,3’に同じ大きさの反対方向の電位差を与えることで、イオン交換樹脂4、つまり高分子アクチュエータ1は、図1(c)の概要上面図に示したように変形する。
【0040】
光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体として変位を行うためには、フォーカス用にしろ、トラッキング用にしろ、光軸方向の角度を変えることなく屈曲・変位することが必要となる。ここで、光軸方向の角度が変わらない変形とは、上底面及び下底面の中心を貫く垂直線によって構成される角度が変形の生じる前後で変化しないことをいい、上底面とした底面が平行に存在しているときは、図1(b)(c)の一点鎖線で示したように、屈曲・変位の前後で両底面の中心垂直線が一致または平行な状態にあることをいう。
【0041】
このような光軸方向の角度を変えることなく屈曲・変位させるためには、前記金属電極を有するひとつの平面側壁内に、一組の電極(2,2’)によって与えられる電圧と、反対方向の電圧を与えることのできる別の一組(或いはそれ以上)の電極(3,3’)を有することが好ましい。これは、高分子アクチュエータの曲率は、電極に加えた電荷(クーロン量)にほぼ比例するからである。すなわち、高分子アクチュエータの一方の端が固定されている状態で、一組の電極で与える一方向に与えた曲率ともう一組の電極で与える反対方向の曲率を同じにすることで、互いの曲率が打ち消され、他方の端は、図1(b)(c)の一転鎖線で示したように示したような、屈曲・変位の前後で両底面の中心垂直線が平行な状態を維持した屈曲・変位、すなわち光軸方向の角度が変わらない屈曲・変位が可能となるのである。
【0042】
本発明に用いる高分子アクチュエータ1は、その全体に渡ってイオン交換樹脂が存在している必要はなく、少なくともその一部分にイオン交換樹脂4が含まれていれば足りる。すなわち、図1(a)のように、ひとつのイオン交換樹脂の表面に金属電極を設けたもののみならず、図2の概要斜視図に示したように、1組の金属電極(2と2’或いは3と3’)を設けた2つ(またはそれ以上)のイオン交換樹脂4を、絶縁性合成樹脂などを材料とするイオン交換樹脂接続体6を介して、光軸方向に直列的に接続させてもよい。高分子アクチュエータ1は、対向する金属電極に挟まれたイオン交換樹脂4に電位差を設けることで屈曲・変位するのであって、金属電極に挟まれていない部位は、たとえイオン交換樹脂が存在しても屈曲・変位しない。従って、金属電極に挟まれていない部分は、イオン交換樹脂である必要がなく、当該部分を絶縁性の合成樹脂に置き換えることができる。むしろ、図2のような、イオン交換樹脂間に絶縁性のイオン交換樹脂接続体6が介在する様態とすることで、ひとつの側壁面上に隣接する金属電極を設けた場合(2と3、或いは2’と3’)でも、両電極に十分な絶縁性が確保されるため、金属電極どうしの短絡防止に資するという積極的な利点もある。
【0043】
また、本発明に用いる高分子アクチュエータは、図1(a)の様態のように、4つの金属電極(2,2’,3,3’)それぞれにリード線5を接続して電圧を与えることができる。一方で、図2のような間に絶縁性のイオン交換樹脂接続体6を介した場合には、反対側に存在する電極2と3’及び電極3と2’を電気的接続して、例えば電極2,2’の2つの電極のみとリード線5を接続することもできる。これは、図1(c)のような変形を行うためには、電極2,2’間及び3,3’間で反対方向の同じ量の電荷を与える必要があることからすれば、図2のように、電極の大きさを同じにすれば、電極2と3’及び電極3と2’を電気的に接続させることも可能だからである。
【0044】
(対物レンズの取り付け)
上記高分子アクチュエータ1に対物レンズ7を取り付ける方法には、様々な方法があり、特に制限されるものではないが、例えば下記のようなやり方を示すことができる。まず、一般的な方法として、一本または複数本の高分子アクチュエータの一方の端部分に、対物レンズ7そのものまたは対物レンズ7が嵌め込まれている対物レンズ保持体8を取り付ける方法がある。このとき、各高分子アクチュエータ1にかかる対物レンズ7及び対物レンズ保持体8の重さを分散するには、複数の高分子アクチュエータ1を用いて、対物レンズ7保持することが好ましい。対物レンズ7を対物レンズ保持体8が支え、この対物レンズ保持体8に2本の高分子アクチュエータ1,1’の一方の端を固定し、他方の端を光ピックアップ装置との接続部品9に固定した様態である対物レンズ駆動体の正面概要図を図3(a)に、またその上面概要図を図4(a)に示した。ただし、高分子アクチュエータ1の構成の詳細(金属電極、リード線など)は省略して図示した。
【0045】
その他に、比較的幅広の高分子アクチュエータを用いて、側壁の端の方を丸くくり抜き、当該くり抜いた部分に対物レンズを嵌め込んで、対物レンズと一体化した対物レンズ駆動体とすることも可能である(図示せず)。この方法によれば、製造工程を単純化することができる。
【0046】
(対物レンズ駆動体)
上記のとおり、対物レンズ7を組み込んで保持すれば、高分子アクチュエータ1を用いた本発明の対物レンズ駆動体となる。図3(a)、図4(a)に示したように、高分子アクチュエータ1の対物レンズ保持体8と接続した反対側の端は、光ピックアップ装置との接続部品9や光ピックアップの筐体などと接続され、固定される。固定された対物レンズ駆動体は、高分子アクチュエータ4に上記のような電位差を与えることで、例えばフォーカス調整方向の駆動であれば、図3(b)のように垂直移動によりディスク間の距離を調整する。一方トラッキング調整方向の駆動であれば、図4(b)のようにディスク間の距離を変えることなく水平移動する。
【0047】
更に高分子アクチュエータの形状が、2組の平行な平面側壁を有する四角柱形状であり、平行に対向する2組の前記平面側壁の面上に、それぞれ対となる前記金属電極を有し、それぞれの前記平面側壁に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものとする(図示せず)と、対物レンズ駆動体としては、上記フォーカス調整方向の動きと、トラッキング調整方向の動きをひとつの高分子アクチュエータでそれぞれ独立して行うことができるようになる。
【0048】
図3,4の様態のように、2本以上の高分子アクチュエータ1,1’によって対物レンズが保持されている様態であれば、それぞれのイオン交換樹脂に同じ電位差を与えると、光軸方向の角度を変化させることなく、対物レンズのフォーカシングやトラッキングを行うことができることは上述のとおりである。加えて、2本以上の高分子アクチュエータ1,1’を用いた場合は、各イオン交換樹脂に若干異なる電位差を与えることで、対物レンズ駆動体全体としては、光軸方向の角度が変化する変形をさせることができるので、平行性の悪いディスクを補正するためのチルト駆動を行うこともできる。
【0049】
以上が本発明の対物レンズ駆動体の主要部であるが、もちろん従来のコイルと磁石による有用な装置や機構を本発明にも応用することができる。なかでもコイルと磁石の対物レンズ駆動体に用いられる公知のサーボ機構は、フォーカスやトラッキングの微妙な修正のために本発明においても有効である。
【0050】
(製造方法)
以下、本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体に用いられる高分子アクチュエータの製造方法の一例を示す。実施例の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の高分子アクチュエータは、屈曲率や変位量を大きくするために、基本的に以下の技術により製造したが、本発明に用いられる高分子アクチュエータは下記製造方法のより製造されたものに限られない。
【0051】
本発明に用いる高分子アクチュエータの好ましい製造方法の一例は、板状や柱状などのイオン交換樹脂の表面に、金属の膜を設けた積層体を製造し、当該金属膜を金属電極とする素子とすることである。この積層体は、イオン交換樹脂に金属錯体を吸着させた後に、該イオン交換樹脂を還元剤水溶液に浸漬し該金属錯体を還元する電極形成工程を経ることにより製造することができる。このように電極形成工程は、吸着工程と還元工程とを含む工程からなる。前記電極形成工程は、無電解メッキ法により金属電極を形成する工程であり、イオン交換樹脂に金属錯体を吸着させる吸着工程、及び金属錯体が吸着したイオン交換樹脂に還元剤溶液を接触させる還元工程が含まれる。
【0052】
前記吸着‐還元工程を行う前に、イオン交換樹脂を、水やメタノールのような良溶媒または良溶媒を含む混合溶媒に浸漬等を行うことで、イオン交換樹脂を膨潤状態にする膨潤工程を設けてもよい。イオン交換樹脂を膨潤状態とすることで、より多くの金属錯体をイオン交換樹脂に吸着させることができるからである。イオン交換樹脂を膨潤させる比率は、乾燥した状態におけるイオン交換樹脂の厚さに対して110%以上、好ましくは110%〜300%に膨潤させることが、より多くの金属錯体を吸着できるので好ましい。このとき、良溶媒として、塩基性塩を1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%混合したものを用いることもできる。なお、膨潤工程に先立って、粗面化処理等のような事前の処理を行っても良い。
【0053】
前記吸着工程は、イオン交換樹脂に金属錯体を吸着させる工程であれば特に限定されるものではない。前記吸着工程は、金属錯体溶液を高分子電解質に塗布してもよいが、イオン交換樹脂膜を金属錯体溶液に浸漬させることにより行うと作業が容易であるので好ましい。
【0054】
前記吸着工程において用いることができる金属錯体は、還元されることにより積層体表面に形成される金属膜が電極として機能することができる金属であれば、特に限定されるものではない。ただし前記金属錯体は、金錯体、白金錯体、パラジウム錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体等のような電気化学的に安定なイオン化傾向の小さい金属を中心金属とする錯体とすることが好ましい。また析出した金属が電極として使用されるため、通電性が良好で電気化学的な安定性に富んだ貴金属のような金属を中心金属とする金属錯体が好ましい。さらに電気分解が比較的起こり難い金のような金属を中心金属とする錯体が好ましい。以上の点を考慮すれば、金を中心金属とする金錯体が特に好ましい。また、前記金属錯体の配位子としては、特に限定されるものではないが、例として、エチレンジアミンやフェナントロリン誘導体等を挙げることができる。
【0055】
前記吸着工程において用いられる金属塩溶液は、溶媒が特に限定されるものではなく、水の他、非水の極性有機化合物も用いることができる。中でも金属塩の溶解が容易であって取り扱いが容易であることから溶媒が水を主成分とすることが好ましい。また前記金属塩溶液が金属塩水溶液であることが好ましい。したがって、前記金属錯体溶液としては、金属錯体水溶液であることが好ましく、特に金錯体水溶液または白金錯体水溶液であることが好ましく、さらに金錯体水溶液が好ましい。
【0056】
前記吸着工程は、陽イオン交換樹脂に金属錯体を吸着させる工程であれば、温度及び浸漬時間等の条件が特に限定されるものではないが、温度20℃以上であることが効率よく膨潤するために好ましい。また、前記吸着工程は、金属錯体が陽イオン交換樹脂へ容易に吸着させるために、金属錯体溶液中に高分子電解質の良溶媒を含んでいても良い。
【0057】
無電解メッキの還元工程に用いられる還元剤としては、イオン交換樹脂に吸着される金属錯体溶液に使用される金属錯体の種類に応じて、種類を適宜選択して使用することができ、例えば亜硫酸ナトリウム、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム等を用いることができる。
【0058】
前記還元剤は析出させる金属種によって、適宜選択することもできる。還元により析出させる金属がニッケルまたはコバルトの場合には、還元剤として、ホスフィン酸ナトリウム、ジメチルアミノボラン、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸カリウムを用いることができる。還元により析出させる金属がパラジウムの場合には、還元剤として、ホスフィン酸ナトリウム、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムを用いることができる。還元により析出させる金属が銅の場合には、還元剤として、ホルマリン、ホスホン酸ナトリウム、テトラヒドロホウ酸カリウムを用いることができる。還元により析出させる金属が銀または金の場合には、還元剤として、ジメチルアミノボラン、テトラヒドロホウ酸カリウムを用いることができる。還元により析出させる金属が白金の場合には、還元剤として、ヒドラジン、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを用いることができる。還元により析出させる金属が錫の場合には、還元剤として、三塩化チタンを用いることができる。さらに、還元剤は、上記の種類に限られるものではなく、白金黒などの触媒と共に用いられる水素、HgS、HIやIなどの非金属の酸またはイオン、Na(HPO)やNaなどの低級酸素酸塩、COやSO2などの低級酸化物、Li、Na,Cu、Mg、Zn、Fe、Fe(II)、Sn(II)、Ti(III)、Cr(II)などのイオン化傾向の大きい金属またはそれらのアマルガム及び低原子価金属塩、AlH〔(CH3)2CHCH2〕2や水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物、ジイミド、ギ酸、アルデヒド、糖類及びL−アスコルビン酸などを、適宜用いることもできる。
【0059】
前記還元剤は、還元される金属種に応じて、適宜選択することもできるが、メッキの成長速度、析出した金属の粒子サイズ、フラクタル構造の金属電極とイオン交換樹脂の接触面積、電極構造並びにメッキ後の樹脂の可撓性を変えるために、最適な還元剤の種類を選択して用いることができる。また、還元工程における還元浴を所望のpHとするために、前記還元剤の種類を適宜選択することもできる。
【0060】
なお、金属錯体を還元する際に、必要に応じて、酸またはアルカリを添加してもよい。前記還元剤溶液の濃度は、金属錯体の還元により析出させる金属量を得ることができるのに十分な量の還元剤を含んでいればよく、特に限定されるものではないが、通常の無電解メッキにより電極を形成する場合に用いられる金属塩溶液と同等の濃度を用いることも可能である。また、還元剤溶液中には、イオン交換樹脂の良溶媒を含むことができる。
【0061】
また、本製造方法においては、吸着工程と還元工程とを1回ずつ行うことによりイオン交換樹脂の表面に金属膜を備えた積層体を得ることができるが、吸着工程と還元工程とを、この順で、更に繰り返し行うことにより、アクチュエータとして駆動させた場合の変位性能(屈曲率)、並びに金属膜とイオン交換樹脂との界面の電気二重層容量を、従来の値よりも大きくすることができる。吸着工程と還元工程とを繰り返して行う場合には、前還元工程で付着している還元剤をイオン交換樹脂から十分除去して再度の吸着工程を行うために、還元工程の後に洗浄工程を行うことが好ましい。前記洗浄工程としては、特に限定されるものではなく、水洗して還元をも除去してもよい。
【0062】
最後に、上記積層体に含まれている溶媒を、本発明で用いる高分子アクチュエータとして所望の液状有機化合物に交換する。溶媒の交換方法としては、上記で得られた積層体を所望の液状有機化合物中に常温常圧で30分程度浸漬することにより行うことができる。
【0063】
以上の方法で得られた表面全体が金属膜で覆われている積層体から、金属膜の一部を削り取ることで、電気的に短絡状態にない状態の、対向する金属電極を作製する。所定の部位の金属膜を切り取ることで、アクチュエータにおいて、対向する金属電極や、ひとつの側面に2つ以上の金属電極などを設けることができる。また、上記方法で積層体を2つ以上作成し、金属膜を適宜切り取り、図2のように間に合成樹脂の成形体2などを介して直列的に接続することもできる。このように作成された金属電極に電気端子(リード線)を接続することで、本発明の光ピックアップの対物レンズ駆動体に用いる高分子アクチュエータを得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0065】
(高分子アクチュエータの製造)
乾燥時の膜厚700μmの膜状陽イオン交換樹脂(フッ素樹脂系イオン交換樹脂:パーフルオロカルボン酸樹脂、商品名「フレミオン」、旭硝子社製、イオン交換容量1.4meq/g)を縦1mm×横1mm×長さ3mmの大きさの直方体形状に2本切り取った。この陽イオン交換樹脂を良溶媒であるメタノール中に20℃で1時間以上浸漬した。この浸漬を行う際において、膨潤した前記膜状陽イオン交換樹脂の膜厚を測定して、乾燥膜厚に対して膨潤後の膜厚の増加した割合〔膨潤度(%)〕を算出し、膨潤度が50%となるように前記陽イオン交換樹脂を良溶媒に浸漬した。
【0066】
良溶媒で膨潤させた膜状陽イオン交換樹脂を、下記(1)〜(3)の工程を3サイクル繰り返して実施し、金属電極が両側に形成された陽イオン交換樹脂(積層体)を得た。(1)吸着工程:ジクロロフェナントロリン金塩化物水溶液に12時間浸漬し、成形品内にジクロロフェナントロリン金錯体を吸着させ、(2)還元工程:亜硫酸ナトリウムを含む水溶液中で、吸着したジクロロフェナントロリン金錯体を還元して、前記膜状高分子電解質に金電極を形成させた。このとき、水溶液の温度を60〜80℃とし、亜硫酸ナトリウムを徐々に添加しながら、6時間ジクロロフェナントリン金錯体の還元を行った。次いで、(3)洗浄工程:表面に金電極が形成した膜状高分子電解質を取り出し、70℃の水で1時間洗浄した。
【0067】
洗浄後の金属電極が形成された陽イオン交換樹脂(積層体)を取り出た。この段階における前記積層体の厚みは、陽イオン交換樹脂が膨潤して1mmになっていた。またこの段階では、底面及び側面の全体に金の電極が存在している状態なので、積層体底面及び側面の稜線における金を削除した。これにより各側壁(4面)に存在する金電極は、他の側壁に存在する金電極と絶縁された。次に1mm角の立方体形状であるイオン交換樹脂接続体を介して前記2つの積層体を接続した。イオン交換樹脂接続体の材料には、一般的な絶縁性のアクリル樹脂を用いた。
【0068】
次に一の積層体の各側面に存在する金電極と、他の積層体の側面であって、前記金電極と対向する位置に存在する金電極とをそれぞれ電気的に接続した上で(図2の接続方法参照)、一の積層体に各側面に存在する金電極4面それぞれをリード線で接続し、実施例に用いる高分子アクチュエータとした。前記製造方法により、同形同大の高分子アクチュエータを2本製造した。
【0069】
次に直径5mmの対物レンズを横8mm×縦6mm×厚さ1mmの対物レンズ保持体に保持させ、当該対物レンズ保持体と前記2本の高分子アクチュエータの一方の端を固定した。前記高分子アクチュエータの他方の端は、光ピックアップ装置との接続部品に固定し、当該光ピックアップ装置との接続部品は光ピックアップ装置の筐体に固定し、実施例の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体を得た。
【0070】
(駆動確認)
上記で得た光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の高分子アクチュエータ2本に、ディスクと垂直方向に1.5Vの電圧をそれぞれ与えたところ、フォーカス調整方向に上下0.5mmの変位が認められた。次にディスク水平方向に1.5Vの電圧をそれぞれ与えたところ、トラッキング調整方向に左右0.6mmの変位が認められた。これらの変位に際して、光軸方向の角度は変化しないことを確認した。またフォーカス方向とトラッキング方向の調整は、同時に独立して制御できることを確認した。最後に垂直方向に一の高分子アクチュエータに、電圧1.5Vを与え、他の高分子アクチュエータに、垂直方向かつ前記一の高分子アクチュエータの電圧方向とは逆方向の電圧1.5Vを与えたところ、対物レンズ保持体が光軸方向から角度が2度傾く変形が生じ、チルト駆動が可能であることも確認した。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の発明であるので、これを用いたCDやDVDなどのプレーヤーやレコーダーに組み込んで用いることができる。特に小型・軽量化の設計を行うときに用いることが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1(a)】本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体に用いる高分子アクチュエータの概要斜視図である。
【図1(b)】図1(a)の高分子アクチュエータの概要上面図である。
【図1(c)】図1(b)の様態の高分子アクチュエータが変形した様子を示した概要上面図である。
【図2】高分子アクチュエータの別の様態を表す概要斜視図である。
【図3(a)】本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の概要正面図である。
【図3(b)】図3(a)の対物レンズ駆動体をフォーカス調整方向に変形させたときの概要正面図である。
【図4(a)】本発明の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体の概要上面図である。
【図4(b)】図4(a)の対物レンズ駆動体をトラッキング調整方向に変形させたときの概要上面図である。
【符号の説明】
【0073】
1,1’ 高分子アクチュエータ
2,2’ 一組の金属電極
3,3’ 別の一組の金属電極
4 イオン交換樹脂
5 リード線
6 イオン交換樹脂接続体
7 対物レンズ
8 対物レンズ保持体
9 光ピックアップ装置との接続部品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する金属電極間に、イオン交換樹脂と、塩を含有する分極性有機溶媒またはイオン性液体である液状有機化合物とが含まれる高分子アクチュエータによって、対物レンズが保持されている光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。
【請求項2】
前記高分子アクチュエータの形状が、1組以上の平行な平面側壁を有する板形状または棒形状であり、
平行に対向する前記平面側壁に、対となる前記金属電極を有し、
前記金属電極を有する平面側壁の面上に、異なる電位を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものである請求項1記載の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。
【請求項3】
前記高分子アクチュエータの形状が、2組の平行な平面側壁を有する四角柱形状であり、
平行に対向する2組の前記平面側壁の面上に、それぞれ対となる前記金属電極を有し、
それぞれの前記平面側壁に、反対方向の電圧を与えることのできる金属電極を2電極以上有するものである請求項1記載の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。
【請求項4】
2本以上の前記高分子アクチュエータによって対物レンズが保持されている請求項1記載の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。
【請求項5】
前記液状有機化合物は、その沸点または分解温度が180℃以上である請求項1記載の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。
【請求項6】
前記高分子アクチュエータのイオン交換樹脂が、陽イオン交換樹脂である請求項1記載の光ピックアップ装置の対物レンズ駆動体。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図1(c)】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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