説明

高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法

【課題】 イオン導電性高分子膜を用いた、屈曲運動、拡径運動、直動運動など多様な運動制御が可能な高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法を提供する。さらには、アクチュエータとしての変位を大きくとり、かつ発生力を大きくすることができ、一括生産が可能で実用的な高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法を提供する。
【解決手段】 屈曲可動部を有し両表面に電極層を設けた1枚のイオン導電性高分子膜を構成単位とし、互いに隣りあう前記構成単位を二次元的に配接して構成単位の集合体とし、各構成単位の屈曲可動部を屈曲させて運動を行なうことを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン導電性高分子膜を用いた高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法に関し、さらに詳しくは直動運動、拡径運動、屈曲運動などを制御しうる高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法に関し、特に人工筋アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
小型で軽量なイオン導電性高分子アクチュエータが注目されている。このイオン導電性高分子アクチュエータは、図18に示すような、高分子電解質ゲル181(イオン導電性高分子、固体高分子電解質等)に電極182および183を接合した接合体等である。そして電圧を印加すると、陽イオン交換膜であれば正電極側が凹となるように、陰イオン交換膜であれば負電極側が凹となるよう、図18(b)に示すように屈曲する。
高分子電解質ゲルとしてはフッ素系イオン交換樹脂などが用いられ、電極としては金、白金などが用いられてきた。このアクチュエータの特徴としては、(I)低電圧で駆動すること、(II)比較的応答速度が速いこと、(III)大きな変位がとれること、(IV)材料設計により比較的大きな発生力が得られること、(V)成型が容易であること、(VI)マイクロ化が可能であること、(VII)軽量であることなどの利点が挙げられる。使用条件としては、イオン交換樹脂がイオン導電性を保つために水などにより膨潤させて使用することができ、したがって何らかの方法でイオン導電性高分子内の水を保持しうる環境(例えば水中)で使用される。これらの特徴をいかし、低電圧駆動でウェットなソフトアクチュエータとして機能させることができれば、生体環境に直接触れる手術デバイスや、福祉機器をはじめとしたパーソナルロボットなどの人工筋アクチュエータとして利用しうるものとして期待されている。
【0003】
一方今日の状況に鑑みれば、機械が人間にはできない高速で高出力、高精度な動作を実現しつつあり、すでに社会や産業に大きく貢献しはじめている。そして最近では、その小型化や柔軟性が要求されてきている。とりわけ人間の生活環境に共存するロボットとして、安全でやわらかさを備えたものが望まれている。こうした要求に応えうるのが、上述したように生物的な柔らかい動作が可能なイオン導電性高分子アクチュエータである。
【0004】
かかるニーズをうけ、フッ素系イオン交換樹脂膜の両面に金や白金などの貴金属を、無電解メッキ法を用いて接合したIPMC(Ionic Polymer−Metal Composites)アクチュエータが提案されている(非特許文献1参照)。具体的なものとしては例えば、イオン導電性薄状樹脂膜を長手方向に直列に接続させ、さらにそれを長手方向に対して並列に配置させ、その各々の両端部を絶縁状態で接続した直動アクチュエータが提案されている(特許文献1参照)。しかしこの直動アクチュエータでは、直列につなぐことしかできず、高密度に実装できない。伸縮に伴う拡がりも大きく、体積(断面積)あたりの発生力・ストロークは小さい。また電圧をかけて縮む際の「引き」運動しかできず、一箇所が断裂すると全体(少なくとも直列に連結した素子のすべて)が不能となってしまう。さらに一括して作製すること、作製の自動化などは不可能である。また、屈曲方向を制御するためスリットを同一箇所に有するバイモルフ型板状アクチュエータも提案されている(特許文献2参照)。しかしこれは単に屈曲方向を制御するためのものであり、複雑な屈曲運動、拡径運動、直動運動など多様な運動制御は不可能である。
【0005】
その他、能動カテーテルや生体動作を模倣した小型ロボットへの応用などが試みられているが(非特許文献2参照)、運動の方向が限定され、アクチュエータとして発生すべき力は小さく要求に応えられていない。大きな発生力を得ようとして電圧を大きくすれば、高分子膜が電気分解をおこしてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2004−314219号公報
【特許文献2】特開2005−192892号公報
【非特許文献1】安積欣志、「高分子アクチュエータ材料」、高分子、50巻、2001年7月、450−453頁
【非特許文献2】長田義仁編著、「ソフトアクチュエータ開発の最前線〜肉の実現をめざして〜」、(株)エヌ・ティー・エス出版、2004年10月、76−119頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、イオン導電性高分子膜を用いた、屈曲運動、拡径運動、直動運動など多様な運動制御が可能な高分子アクチュエータ集合体、その製造方法、およびその作動方法の提供を目的とする。またアクチュエータとしての変位を大きくとり、かつ発生力を大きくすることができ、一括生産が可能で実用的な高分子アクチュエータ集合体、さらにはそのような人工筋高分子アクチュエータ、ならびにそれらの製造方法および作動方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)屈曲可動部を有し両表面に電極層を設けた1枚のイオン導電性高分子膜を構成単位とし、互いに隣りあう前記構成単位を二次元的に配接して構成単位の集合体とし、各構成単位の屈曲可動部を屈曲させて運動を行なうことを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
(2)前記構成単位の二次元配列として、(i)構成単位を端部で並列に配接し、または(ii)構成単位を端部で並列および直列に配接し、前記構成単位を所定周期で連接したことを特徴とする(1)に記載の高分子アクチュエータ集合体。
(3)前記構成単位の二次元配列として、構成単位の端部を直列に配接して直列配接単位とし、一方の直列配接単位中の各構成単位の中央部と、他方の直列配接単位中の各構成単位の端部とが配接されるように前記直列配接単位を並列配接し、前記構成単位を所定周期で連接したことを特徴とする(1)に記載の高分子アクチュエータ集合体。
(4)前記構成単位の連接集合体が、(a)平板状膜の集合体または(b)平板状膜に切れ目を入れ交互に折り曲げてなした集合体であり、直動運動または屈曲運動することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
(5)前記構成単位の連接集合体が円筒状の構造体であり直動運動することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
(6)前記構成単位を連接して円筒状の構造体とし、円筒内側および外側の電極の少なくとも一方の電極を円周方向に屈曲可動部の数にあわせて複数個に分割して独立させた、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
(7)(5)または(6)記載の円筒状の高分子アクチュエータ集合体の複数を、アクチュエータの運動時に集合体どうしが相互に接触干渉しないよう所定間隔を設けて並設集合させた、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
(8)異なる円筒径を有する(5)または(6)記載の円筒状の高分子アクチュエータ集合体の複数からなり、小径の円筒状高分子アクチュエータ集合体をこれより大径の円筒状高分子アクチュエータ集合体内に、アクチュエータの運動時に集合体どうしが相互に接触干渉しないよう所定間隔を設けて内設した、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする多重円筒状の高分子アクチュエータ集合体。
(9)両表面に電極層を設けた中空円盤状のイオン導電性高分子膜の複数を積層し、互いに接する2層の円盤状膜の円周上の2箇所以上を連結配接して局限した構成単位を有する高分子アクチュエータ集合体であって、前記円盤状膜を1層ごとに周期的に異なる位置で連結配接して、前記構成単位を積層連接した構造体とした、直動運動することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
(10)前記中空円盤状のイオン導電性高分子膜の両面の電極を、それぞれ少なくとも4つに分割して独立させた、直動運動または円盤軸を中心として円盤の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする(9)記載の高分子アクチュエータ集合体。
(11)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の製造方法であって、1枚の板状イオン導電性高分子膜に所定周期で切り込みを入れて構成単位の集合体を構成することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体の製造方法。
(12)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の製造方法であって、短冊状イオン導電性高分子膜を所定位置で連結配接して構成単位の集合体を構成することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体の製造方法。
(13)平板状の高分子アクチュエータ集合体もしくは円筒状の高分子アクチュエータ集合体のイオン導電性高分子膜の両面に設けられた電極層に電圧を印加するにあたり、
前記電極層をそれぞれの面で独立し、該電極層に電圧値を調節しておよび/またはその電極極性を反転させて電圧を印加し、直動運動させることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の作動方法。
(14)円筒状の高分子アクチュエータ集合体もしくは中空円盤状膜積層型の高分子アクチュエータ集合体のイオン導電性高分子膜の両面に設けられた電極層に電圧を印加するにあたり、
少なくとも一方の面において分割独立させた電極層ごとに、少なくとも2つの異なる電圧値の電圧を印加して、円筒軸または円盤軸の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることを特徴とする(6)〜(8)、および(10)のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の作動方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子アクチュエータ集合体は、高い発生力、大きなストローク、また自由度の高い運動制御を可能とするものであり、例えば従来にない「押し」の高分子アクチュエータ集合体を提供することもできる。また、本発明の高分子アクチュエータ集合体の製造方法によれば製品を一括して自動生産することができ、工業的な規模での生産にも対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、屈曲可動部を有し両表面に電極層を設けた1枚のイオン導電性高分子膜を構成単位とし、互いに隣りあう前記構成単位を二次元的に配接して構成単位の集合体とし、各構成単位の屈曲可動部を屈曲させて運動を行なう高分子アクチュエータ集合体である。以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
(イオン導電性高分子膜)
まず、本発明の高分子アクチュエータ集合体に用いられる高分子電解質ゲルについて説明する。
高分子電解質ゲルは通常、フッ素系イオン交換樹脂で、例えば、ポリエチレン、フッ素樹脂などにスルホン酸基・カルボシル基などの親水性官能基を導入したものを用いることができる。このような樹脂としては、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂(商品名「Nafion」、DuPont社製)、パーフルオロカルボン酸(商品名「フレミオン」、旭硝子社製)、ACIPLEX(商品名:旭化成工業社製)、NEOSEPTA(商品名:トクヤマ社製)を用いることができる。容易に入手できる点では、DuPont社製のNafionが好ましい。またイオン交換樹脂として陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂のいずれも使用することができ、それらを組み合わせて用いてもよい。陽イオン交換樹脂としては、ポリスチレンスルホン酸、スルホン基やカルボキシル基をもつフッ素系イオン交換樹脂等が挙げられ、陰イオン交換樹脂としては、アンモニウム基を含んだフッ素系イオン交換樹脂等が挙げられる。従って、該アクチュエータにおいては、これらのイオン交換樹脂を製膜しその両表面に設けた両電極に電位差を印加することで、イオン交換樹脂膜の表裏での水分量に差を生じさせ、イオン交換樹脂膜を含水量の低い側へ収縮させ湾曲変形させることができる。
製膜されたイオン導電性高分子膜には様々な厚みのものがあり、例えば、乾燥厚みで25〜175μmの範囲のものが市販されているが、本発明はこの範囲に限られるものではなく、大きな力を発生させる場合には、より厚いイオン交換樹脂膜を用いることが好ましく、大きな湾曲変形・より速い応答速度を得るには、より薄いイオン交換樹脂膜を用いることが好ましい。
【0012】
(電極)
次に、イオン導電性高分子膜に設けられる電極について説明する。
本発明の高分子アクチュエータ集合体において、イオン導電性高分子膜に設けられる電極は、(a)表面伝導が大きいこと、(b)電気二重層容量が大きいこと(有効表面積が大きいこと)、(c)柔らかいこと、(d)イオン導電体との接合強度が強いこと、(e)(電気)化学的に安定であること(酸化還元反応をしないこと)、(f)電位窓が広いこと(酸化還元反応を起こしにくいこと、分極性である電位領域が広いこと)が好ましい。
好ましい電極材料としては、例えば、金、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の貴金属が挙げられ、金、白金がより好ましく、できるだけたくさんの容量性電流を流すことができ電位窓の広い電極材料が望まれることから、金が特に好ましい。貴金属以外の銅、アルミ、銀、ニッケル等でもよいが、これらの金属は酸化を防がなければ、長時間の動作ができない場合がある。また電極としてこれらの金属電極を用いた場合、電極に亀裂が生じ電気的導通が遮断されてしまい、大きな変形を得るのが難しく、また繰り返しにも限度が生ずる場合がある。このような亀裂を防ぐため電極を厚付けすることが好ましいが、電極層が厚すぎると柔軟性が阻害され、変形が抑制されることもある。大きな変形、長時間の動作をさせるために、例えばカーボン電極のようなより柔軟性に富む電極材料を用いることも好ましい。
【0013】
電極の好ましい形成方法として具体的には、樹脂表面にガラスビーズ、アルミナ微粒子などを吹き付けるサンドブラスト法で表面を粗化し、表面積を大きくして行うことが挙げられる。この方法によれば、めっき金属のはがれ強さを強くすることができる。サンドブラストが行えない場合は、ペーパーで表面を粗化しても同様な効果が得られる。次に付けたい金属の錯体水溶液中に(白金アンミン錯体、金フェナントロリン錯体などの溶液中に)、例えば一昼夜以上浸し、イオン交換によって錯体を樹脂内に吸着させる。そののち適当な還元剤水溶液中で還元する。還元条件(還元力、温度、pHなど)を適切に設定すれば、樹脂表面に所望の状態で食い込んだ形の接合強度の強い金属層として還元析出させることができる。このような方法によれば、一回の工程で片面1〜2mg/cm−2の金属を析出させることができるが、析出しためっき金属層を核として通常の化学めっき法で膜の外側から金属層を成長させる、吸着・還元の過程を何回か繰り返すなどして金属層をさらに厚く設けることが好ましい。
本発明の高分子アクチュエータ集合体において、電極層を化学めっき法により形成する場合、例えば非特許文献1または2に記載されたようなフラクタルな構造としたものでもよく、電極と膜との接触界面を大きくし電気二重層容量を大きくするために、めっき行程を少なくとも5回以上繰り返してめっき量を10mg/cm程度とすることが好ましい。
【0014】
(高分子アクチュエータ集合体)
本発明の高分子アクチュエータ集合体は、屈曲可動部を有し両表面に電極層を設けた1枚のイオン導電性高分子膜を構成単位とする。以下、図2に基づいてこの構成単位について説明する(図2は後述する平板状の高分子アクチュエータ集合体における構成単位を説明するための部分拡大正面図である。具体的に理解するためこの図に基づいて説明するが、本発明がこの態様に限られるものではない。)。
【0015】
本発明の高分子アクチュエータ集合体においては、構成単位が屈曲可動部を有している(本発明において屈曲可動部とは、構成単位における端部(後述)以外の部分を意味する。)。そして図2の構成では構成単位21と構成単位22とが配接している。詳しくは「端部21aと端部22aとの配接」および「端部21cと端部22cとの配接」を介して前記2つの構成単位が配接している(本発明において端部とは、構成単位ごとに区分けしたときの端にあたる部分を意味する。)。配接した2つの構成単位(21,22)は、電位差の印加によりその中央部付近を運動方向25の方向に変位して屈曲運動させ、運動方向26に対しては直動運動させることができる(本発明において、直動運動とは、略直線方向に伸縮するように運動することをいう。)。
【0016】
図2に示した屈曲可動部を有する構成単位の組み合わせにおいて、各電極の極性の組み合わせと形状変化の関係を具体的に示せば、イオン導電性高分子膜が陽イオン交換膜であると仮定して、例えば、電極24aおよび24dを負極とし、24bおよび24cを正極として電位差を印加することで、図示したような開口部27を開口した状態とすることができる。電圧の印加を中断する、または電極極性を反転することで開口部27を閉じた状態に変化させることができる。このように電圧値および/または電極極性を適宜調節して電位差を印加することにより所望の運動を得ることができる。イオン導電性高分子膜が、逆に陰イオン交換膜であれば、逆の方向に変位させることができる。
【0017】
本発明の高分子アクチュエータ集合体は、1枚のイオン導電性高分子膜に電極を設けて構成単位とし、その隣りあうものを二次元的に配接して構成単位の集合体としたものである。ここで配接とは(イ)イオン導電性高分子膜が連続した状態、(ロ)電極を介して通電した状態、(ハ)導電性の連結具(例えばクリップ状の連結具)などにより通電した状態、(ニ)絶縁体により連結された状態、または(イ)〜(ニ)の組み合わせをいう。ただし、工業的に安価で大量に製造する観点からは、(イ)〜(ハ)の配接、またはその組み合わせが好ましい。図2の態様においては、電極およびイオン導電性高分子膜が連続して配接している。二次元的に配接するとは、各膜状構成単位の一部(端部またはそれ以外の一部分)を縦横に配接した状態をいい、同一平面内で配接していなくてもよく(つまり曲率をもった集合体となってもよく)、例えば構成単位の一部分を直列および/または並列に配接することをいう。
【0018】
構成単位の二次元配列の好ましい態様として、構成単位をその端部で並列に配接し<配接態様i>、または構成単位を端部で並列および直列に配接し<配接態様ii>、構成単位を所定周期で連接したものが挙げられる。より好ましくは、略同一長さを有する複数の構成単位の少なくとも3つを端部で並列配接した並列配接単位(構成単位を複数並列に配接したもの)とし<配接態様ia>、または該並列配接単位をさらに直列に配接し<配接態様iia>、構成単位を所定周期で連接したものが挙げられる。具体的には例えば、図6〜9、11、および12に示したような円筒状の高分子アクチュエータ集合体における配接態様が挙げられる(これらの高分子アクチュエータ集合体の詳細については後述する。)。図6に示したものでいえば、イオン導電性高分子膜からなる構成単位63と構成単位65とが並列配接している(詳しくは、「端部63aと端部65aとの配接」および「端部63bと端部65bとの配接」を介して前記2つの構成単位が配接している。)。さらにそれが周期的に繰り返され連接して集合体となっている。
【0019】
構成単位の2次元配列の別の好ましい態様として、構成単位の端部を直列に配接して直列配接単位(構成単位を複数直列に配接したもの)をなし、一方の直列配接単位中の各構成単位の中央部と、他方の直列配接単位中の各構成単位の端部とが配接されるように、前記直列配接単位を並列配接し<配接態様iii>、構成単位を所定周期で連設したものが挙げられる。より好ましくは、略同一長さの複数の構成単位からなる直列配接単位を、隣あう直列配接単位どうし略半ピッチずらして一方の構成単位の中央部と他方の構成単位の端部とが配接するように並列配接し<配接態様iiia>、構成単位を所定周期で連接したものが挙げられる。具体的には例えば図1および5に示したような平板状の高分子アクチュエータにおける配列態様が挙げられる(これらの高分子アクチュエータ集合体の詳細については後述する。)。
これを理解のため図5に示した平板状高分子アクチュエータ集合体により説明する(ただし、これにより本発明が限定的に解釈されるものではない。)。この態様においては、構成単位51と52とが、それぞれの端部51bと52aを介して直列配接し、直列配接単位56a(図5では一点鎖線で補助的に示している。)を構成している。そして、これと隣あう直列配列単位56bが約0.5ピッチずれた状態で(それぞれの構成単位の端部と中央部とで配接した状態で)並列配接している(図5では各構成単位の区切り位置54を点線により補助的に示している。)。詳しくは、直列配接単位56aに属する「構成単位51の端部51bおよび構成単位52の端部52aが配接された配接点」の直下に「直列配接単位56bに属する構成単位58の端部58aおよび58bの中央部」が位置している。そして、「端部51bおよび52aの前記配接点」と、「端部58aおよび58bの前記中央部」とがさらに配接している。このような配接が周期的に繰り返されることにより図5に示したような網目状の配列となる。
【0020】
本発明の高分子アクチュエータ集合体は、このように構成単位を二次元的に配接組織化することにより、構成単位の屈曲運動を複雑な運動に変換し、その運動を制御して行うことを可能とするものであって、構成単位の形状や大きさはとくに制限されるものではない。以下に、本発明の高分子アクチュエータ集合体の好ましい実施態様を、図面に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0021】
(平板状高分子アクチュエータ集合体)
図1は、本発明の好ましい実施態様である平板状の高分子アクチュエータ集合体を模式的に示す正面図である。図1においては、上述した構成単位(図2参照)が<配接態様iii>の態様で二次元的に配接され平板状のアクチュエータ1が構成されている。このようなアクチュエータ集合体とすることで、支持体5aおよび5bを運動方向2の方向に直動運動させることができる。ただしこのアクチュエータ集合体は運動方向2だけではなく、運動方向3に対しても直動運動するものであり(図1に示したものは支持体5a、5bが取り付けられているため、その部分での運動は拘束されているが、中央部では運動方向2および3の両方向に運動する。)、その構造上、振幅の大きさを運動方向2の方向に対してより大きくとることができる。すなわち、従来困難であった、「引き」のストロークに比べ「押し」のストロークの大きなアクチュエータ集合体とすることができる。
【0022】
このような平板状高分子アクチュエータ集合体は、例えば、高分子電解質ゲルの両面に金電極を設け、図3に示すように、切れ目32を網目状配列としたイオン導電性高分子膜のシート30により作製することができる。図3に示す切れ目パターンは1例であるが、切れ目長さや数など必要に応じて適宜定めることができる。高分子アクチュエータ集合体としたときの屈曲の幅、発生力、伸縮量を勘案し適切なパターンとすることが好ましい。また切れ目32は、ある程度の幅を設けてあらかじめ開口させ、窓状にしてもよい。切れ目32を設ける手段としては、ナイフ、レーザ加工等、種々の手段が利用できる。なお、図3で示したものは、一枚のシート30に加工するものであるが、ロール状のシートに切れ目加工を施して、後述する円筒状高分子アクチュエータ集合体とすることもできる。
【0023】
次いで、図3に示した切れ目加工後のシートを、図4に示すように切れ目の部分が稜43および谷44となるように交互に折り畳んで折り目づけ加工をする(このときシート表面41および42には全面に連続した電極が設けられている。)。加工用のシートは、図のような略正方形のものでなくても、長尺のロール状シートを用いてもよい。この場合、連続して切れ目の加工・折り畳み加工を行うことができる。折り畳みの方法としては、工業的には、例えば山谷の繰り返し周期の長い型から短い型に順に該シートを押し付けることで可能である。折り目の部分は折り畳むことによって(あるいは動作を繰り返すことで)、その電極が損傷し電気的に絶縁されることがある。そのような場合には例えば、導電性のクリップ状の治具等で導通を補強することが好ましい。
【0024】
本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体において、別の好ましい態様として、平板状膜を<配接態様iii>の態様で配接し、連接して集合させたものが挙げられる。図5は、この態様におけるアクチュエータ集合体を模式的に示す部分斜視図である。図5において、長いストリップ状のイオン導電性高分子膜の両面には電極層が設けられており(図示せず)、その電極面どうしが向いあうよう並設し、膜状構成単位が所望の位置で局限され構成されるように導電性の連結具53(例えば、金属製のヘアピン状の連結具など)を用いて連結し、平板状の高分子アクチュエータ集合体としている。連結具は、非屈曲部を局限してアクチュエータの重量増加を可能な限り抑えるためできる限り小さく軽量なものであることが好ましい。
このような構成態様とすることで、前に述べた図3および4のシート状膜に切れ目加工および折り目加工して作製したものに対し、折れ目の部分での導通不良が生じにくく、作製には工数を要するものの耐久性の面では有利であり好ましい。
【0025】
本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体の大きさに工業的には特に制限はなく連続して製造できるが、変位速度は流れる電流量に比例し、応答量は電極のチャージ量に比例することから、実用的には必要とされる変位速度・応答量によって定めることが好ましい。
本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体においては、屈曲可動部を有する構成単位が二次元的に配接して連接しているので、空間に無駄のないアクチュエータとすることができる。また、本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体は、図1の運動方向2には「押し」の方向に運動力を生じるアクチュエータとして用いることもでき、その複数を直列もしくは並列に組み合わせることで、「押し」「引き」両方が可能なアクチュエータとすることができ、さらにはクランクを連結することで、「押し」「引き」運動を回転運動に変換することも可能である。
【0026】
(円筒状高分子アクチュエータ集合体)
次に本発明の別の好ましい実施態様である円筒状の高分子アクチュエータ集合体について説明する。
図6は、<配接態様i>の配接態様を有する円筒状高分子アクチュエータ集合体の構造およびその運動態様を模式的に示す説明図である。図6(a)は円筒状高分子アクチュエータ集合体60の切り込み部61が閉じた状態を示しており、屈曲可動部を有するイオン導電性高分子膜(構成単位)の中央部には外側に凸の折れ目62がつけられている。円筒状膜の表側および裏側の全面にはそれぞれ電極(図示せず)が設けられており、内側電極および外側電極はそれぞれ独立している。ここで、切れ目61が開口するように電圧を印加すると、図6(a)の状態から、図6(b)の状態を経て、図6(c)に示した状態に変化する。すなわち円筒状高分子アクチュエータ集合体は、拡径運動しながら、運動方向64においては直動運動する。
【0027】
さらに、円筒状の高分子アクチュエータ集合体においては、円筒内側および外側の電極の少なくとも一方の電極を、円周方向に屈曲可動部の数にあわせて複数個に分割して独立させることで、円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることができる。加工しやすい点では内側の電極層を全面に連続させ、外側の電極層を分割して設けることが好ましい。図7は、そのようなアクチュエータ集合体の構成例を模式的に示す斜視図である。この構成例では図7に示したように、内側電極73を連続させ、外側電極72を円周方向に分割して独立させている。このようにすることで各外側電極に独立して少なくとも2つの異なる電圧を印加することができ(本発明において異なる電圧とは、0.5V以上の電位差のある電圧をいう。)、その印加電圧を適宜調節すれば所望の方向に屈曲させることが可能である。例えば、陽イオン交換膜を用いている場合であれば、曲げを意図する側の外側電極を負極として電位差を印加することで、曲げを意図する側の各構成単位が外側に凸に屈曲し、全体として円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることができる。外側電極および切れ目の間隔をともに細分化すれば、より細かく屈曲方向を制御することも可能である。
【0028】
図8は、図6に示した円筒状の高分子アクチュエータ集合体を、長手方向に複数連結した構成を有し<配接態様ii>の配接態様を有する高分子アクチュエータ集合体の構造およびその運動態様を模式的に示す説明図である。この高分子アクチュエータにおいては、複数の並列配接単位が互いに直列に配接され(各並列配接単位の区切り位置84を点線で補助的に示している。)、内側の全面および外側の全面にそれぞれ連続した電極層(図示せず)が設けられている。このアクチュエータ集合体の運動態様について説明すると、イオン導電性高分子膜が陽イオン交換膜であれば、外側電極を負極、内側電極を正極として電位差を印加することで各構成単位が外側に凸に屈曲し、全体として図8(a)に示す長手方向に縮んだ形態81とすることができる。次いで、電位差の印加を停止する、あるいは極性を反転させることで、図8(b)に示す長手方向に伸びた形態82または図示した以上に伸びた状態とすることができる。
【0029】
図9は、上述した図7に示した円筒状の高分子アクチュエータ集合体を長手方向に複数連結した構造を有し<配接態様ii>の配接態様を有する高分子アクチュエータ集合体の構造および運動態様を模式的に示す説明図である。図9に示した円筒状高分子アクチュエータ集合体は、図7のものにおいて説明したように、外側電極が屈曲部の数にあわせて円周方向に分割され、その個々の電極を独立して制御できる(ただし、直列に配接された構成要素間においてはその外側電極が連続していてもよい。)。このとき例えば、イオン導電性高分子膜が陽イオン交換膜で構成されているのであれば、曲げを意図する側の外側電極のみに電位差を印加することで図9の実線のような曲げ状態を得ることができる。また印加する電位差に分布を設けることによっても、同様な曲げ形態91を得ることが出来、その分布を反転させれば、運動方向93にそって運動し図9の2点鎖線のような曲げ形態92を得ることができる。すなわち分割した各電極への印加電圧を独立に制御し所定の電圧分布を与えることで、円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることが可能である。また、全ての電極に同一の電位差を印加することで図8に示した高分子アクチュエータ集合体と同様の直動伸縮運動をさせることも可能である。すなわち図9に示したような態様においては、電圧値の調節および/または極性の切り替えにより、直動運動および屈曲運動の両方をさせることができる高分子アクチュエータ集合体とすることができる。なお、上述した円筒状高分子アクチュエータ集合体では、管の長軸方向に平行に切れ目を入れたが、必ずしも平行である必要はなく、長軸に対して一定の角度を持っていてもよく、そのようにすることでねじれ運動をさせることもできる。
【0030】
このような円筒状アクチュエータ集合体は、例えば、図10に示したようにシートに切れ目加工する方法により作製することができる。具体的には、切れ目101を、図示したような格子状パターンになるようにいれ、折り目102を設けイオン導電性高分子膜シート100のシート端105とシート端106とが接合するように丸め加工して管状とすることで、図8または図9に示したような筒状高分子アクチュエータ集合体とすることができる(このとき、図示していないがシート表面には電極が所望の状態に設けられている)。つまり、シート切れ目加工および折り目加工といった簡便な方法で、この円筒状の高分子アクチュエータ集合体を製造することができる。またイオン導電性高分子樹脂で作製した管の内外面に電極を設け、さらに切れ目加工を施すことでも同様な高分子アクチュエータ集合体を製造することができる。
【0031】
本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体の大きさは特に限定されず、工業的には大きくも小さくもできるが、変位速度は流れる電流量に比例し、応答量は電極のチャージ量に比例するため、必要とする変位速度・応答量を勘案して外径、長さ、構成単位の幅、長さ、並列数、直列数を選択することが好ましい。
本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体は、電圧の印加を調節して内側へ屈曲させることもでき、この場合、切れ目の幅を大きくとり、構成単位どうしが干渉しないように配置することが好ましい。また、一段ごとに電極を切り離し、個々に伸縮を制御することもできる。さらには、管状であるので、管内に何らかのものを挿入して用いることもでき、例えばバネを入れることで剛性を付与でき、配線を通すことで空間を有効利用することもできる。
【0032】
本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体は上述した構成のものに限られず、別の好ましい態様として図11に示すものが挙げられる。図11に示した<配接態様i>の配接態様を有する高分子アクチュエータ集合体は、ストリップ状のイオン導電性高分子膜111を筒状に並べ、絶縁性の連結具(例えば、はと目型の連結具)で連結させることで作製することができる。このようにすれば、長い円筒状高分子アクチュエータ集合体であっても比較的容易に製造することができる。連結具の間隔を短くすることで伸縮に伴う径の拡がりが抑えられる。また、電圧を各ストリップごとに調節して印加することで、直動運動、屈曲運動が可能であり、屈曲運動においては円筒軸を中心として円筒の半径方向に任意の方向に制御して屈曲させることができる。
【0033】
(並設集合させた高分子アクチュエータ集合体)
図12は、並設集合させた高分子アクチュエータ集合体を模式的に示す斜視図である。この態様においては、切れ目121および折れ目122を有し<配接態様ii>の配接態様を有する円筒状高分子アクチュエータ集合体120が複数併設して束ねられている。このような構成にすることで、発生力の大きなアクチュエータができる(例えばn本の集合体を束ねることで発生力をそのn倍にすることも可能である。)。束ねる際には、アクチュエータの運動時に隣り合う集合体どうしがぶつかりあい、干渉しないようにすることが好ましい。
【0034】
(多重円筒状高分子アクチュエータ集合体)
多重円筒状の高分子アクチュエータ集合体とすることも可能である。この態様においては、<配接態様i>または<配接態様ii>の配接態様を有し異なる円筒径を有する複数の円筒状高分子アクチュエータ集合体を用い、小径の円筒状高分子アクチュエータ集合体をより大きな径を有する円筒状高分子アクチュエータ集合体の内側に内設する。このようにすることで、円筒状アクチュエータの内側の空間を無駄なく効率的に利用することできる。なお、この場合においてもアクチュエータの運動時に隣りあう集合体どうしが接触し干渉しないようにすることが好ましい。
【0035】
(円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体)
次に、本発明の別の好ましい態様である円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体について説明する。本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体は、両表面に電極層を設けた中空円盤状のイオン導電性高分子膜の複数を積層し、互いに接する2層の円盤状膜の円周上の2箇所以上を連結配接して局限した構成単位を有する高分子アクチュエータ集合体であって、前記円盤状膜を1層ごとに周期的に異なる位置で連結配接して、前記構成単位を積層連接して構造体とした高分子アクチュエータ集合体である。以下、この態様について図面に基づき具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0036】
図13は、中空リング状のイオン導電性高分子膜131の表面に電極層132および133を設けたアクチュエータ要素130を模式的に示す説明図である。このアクチュエータ要素130を複数重ね合せる。このとき図14に示したアクチュエータ要素の連結説明図のように、1層目と2層目を図13(a)の位置でクリップ状の導電性連結具142により連結し、次いで2層目と3層目を約90°ずらした図13(b)の位置で同様に連結し、さらに3層目と4層目を(a)位置、4層目と5層目を(b)位置と、周期的に異なる位置で交互に替えて組み立てる。
【0037】
この円盤状膜積層型の高分子アクチュエータ集合体は直動伸縮運動させることができる。図15は、そのアクチュエータ集合体に、電圧を印加して伸長させた状態を模式的に示した正面図である。図15に示したとおり、上記(a)位置に相当する連結具151と接する側の電極(すべてを図示してはいないが、電極151a〜151d)どうしは電気的に連続しているため同一の極性となり、(b)位置の連結具152と接する側の電極(電極152a〜152d)どうしは電気的に連続しているため同一の極性となる。ただし(a)側の電極と(b)側の電極は独立している。したがって、(a)側の電極と(b)側の電極に電位差を印加することで運動方向153にそって直動運動するアクチュエータ集合体とすることができる。
【0038】
次に円盤状膜積層型の高分子アクチュエータ集合体について、別の好ましい実施態様を説明する。本態様においては、表・裏ともに電極を4つ以上に分割して設けたアクチュエータ要素を用いる。具体的には、例えば図16の連結説明図に示したように、表・裏ともに4つに分割した電極を設ける(表側電極163〜166。裏側電極は図示せず。)。このとき表・裏の電極はイオン導電性高分子膜を介して同じ位置に同じ形状で設けられている。これを用いて、1層目と2層目を図16(a)の位置(2箇所、4点)でヘアピン状の導電性連結具162により連結する。このとき各連結具は短絡していない。次いで2層目と3層目を約90°ずらした図16(b)の位置で同様に連結し、さらに3層目と4層目を(a)位置、4層目と5層目を(b)位置と周期的に異なる位置で交互に替えて組み立てる。
この円盤状膜積層型の高分子アクチュエータ集合体は直動運動および屈曲運動をさせることができる。図17は、このアクチュエータ集合体を屈曲させたときの状態を模式的に示す正面図である。この態様においては、電極171と172が短絡していないので、図15に示したものと異なり、(a)側にあっても電極174と電極176とを独立して制御することができる。そのことは(b)側においても同様である。したがって、一層の4分割した電極の隣り合う二つの電極のみに電位差を印加する、あるいは大きな電位差を印加すれば、図17のようにアクチュエータ全体が屈曲した形状を得ることができる。そして分割した各電極への印加電圧を独立に制御し、所定の電圧分布を与えることで円盤軸を中心として円盤の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることができる。また、電圧の印加を調節して、図15に示したものと同様の直動運動をさせることも可能である。
【0039】
本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体の大きさに特に制限はない。
図17で示した円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体は、電極を4分割しているが、120度の位置を固定し、その上下の連結位置を60度ずつずらして固定した、6分割式のアクチュエータ集合体とすることもできる。このようにすることで、任意に印加する電圧を調節して6方向に屈曲させることができる。
また膜形状は必ずしも円盤状である必要はなく、多角形膜などであってもよい。また、円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体の複数を組み合わせて連結することで、「押し」「引き」のアクチュエータができ、クランクをつなげば回転運動に変換することもできる。
【0040】
本発明の高分子アクチュエータ集合体は上述のとおり複雑な工程を要さずに製造することが可能であり工業的な規模での生産に適し、またその変位方向の自由度が高く発生力も大きい優れた運動特性を有するものである。このような本発明の高分子アクチュエータ集合体の利用範囲は広く、例えば、人工筋肉、位置決め装置、姿勢制御装置、昇降装置、搬送装置、移動装置、調節装置、調整装置、誘導装置、または関節装置の駆動部などに利用することが可能である。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
(参考例1)
約20cm角のNafion117(厚さ183μm)の両面に金を10mg/cm程度化学めっきしたものから、幅5mm、長さ10cmの短冊膜を切り出した。
短冊状膜の両面の電極にリード線を介して電圧(約2.5V)を印加すると、正極側が収縮することによって屈曲した。さらに片端を固定して同様に電圧を印加したとき、やはり正極側が凹となるように屈曲し、その他端での変位量は約10mmであった。この結果から、イオン交換樹脂膜として陽イオン交換樹脂膜を用いた場合、負極側に凸型の形状になり、正極側に凹となるように短冊状膜が変形することがわかる。
【0043】
(実施例1)
参考例1で作製した短冊状膜を図5のような配列になるように連結し、20層積層して、<配接態様iii>の配接態様を有する本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体とした。このとき、連結具としては導電性の金具を使用し、隣りあう連結具の間隔が80mmとなるようにした。各電極層にリード線を接続し、2.5Vの電圧を印加したところ、短冊状膜の膜面と直交する方向に約100mmの伸張が得られた。
【0044】
(実施例2)
両面に金電極を設けたイオン交換樹脂膜のシート(巾100mm、長さ350mm、厚さ約200μmに、図3に示すようなパターンで貫通した切れ目を入れた。切れ目は約80mmの長さで、約5mm間隔で設け、構成単位が20層並列するようにした。次いでこの切れ目の入った該シートを、各切れ目が折り目の稜または谷となるよう図4のように折り畳み加工をして、<配接態様iii>の配接態様を有する本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体とした。
この集合体の電極にリード線を接続し、2.5Vの電圧を印加したところ、切れ目と直交する方向(図1でいうと運動方向2)に約100mmの伸張が得られた。
【0045】
(実施例3)
両面に金電極を設けたイオン交換樹脂膜のシート(巾50mm、長さ300mm、厚さ約200μmに、図10に示すようなパターンで貫通した切れ目を入れた。ただし、切れ目は約80mmの長さで、約5mm間隔で設け、1列の切れ目が9本で、その直列数が6列となるようにした。このシートの切れ目と平行するシート端の切れ目のない部分で絶縁性の連結具で配接し、<配接態様ii>の配接態様を有する本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体とした。
この集合体の電極層にリード線を接続し、2.5Vの電圧を印加したところ、円筒軸方向に約60mmの直動運動を得た。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の平板状の高分子アクチュエータ集合体の好ましい実施態様を模式的に示す正面図である。
【図2】図2は、図1に示した高分子アクチュエータ集合体における構成単位を説明するために領域IIを拡大して模式的に示した部分拡大正面図である。
【図3】図3は、図1に示した高分子アクチュエータ集合体を製造するための切れ目いれ加工における、切れ目パターンを模式的に示す平面図である。
【図4】図4は、図1に示した高分子アクチュエータ集合体を製造するための折り畳み加工における、折り曲げ態様を模式的に示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明の平板状高分子アクチュエータ集合体の別の好ましい実施態様を模式的に示す部分斜視図である。
【図6】図6は、本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体の好ましい実施態様を模式的に示す正面図であり、図6(a)は切り込み部が閉じた状態を示し、図6(b)は切り込み部が中程度開いた状態であり、図6(c)は切り込み部が大きく開いた状態を示す。
【図7】図7は、本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体の別の好ましい実施態様として、外側電極を分割したものを模式的に示す斜視図である。
【図8】図8は、本発明の円筒状の高分子アクチュエータ集合体のさらに別の好ましい実施態様として、図6に示した円筒状高分子アクチュエータ集合体を長手方向に複数連結した構成を有するものを模式的に示す正面図である。
【図9】図9は、本発明の円筒状の高分子アクチュエータ集合体のさらに別の好ましい実施態様として、図7に示した円筒状高分子アクチュエータ集合体を長手方向に複数連結した構成を有するものを模式的に示す正面図である。
【図10】図10は、図8に示した高分子アクチュエータ集合体を製造するための切れ目いれ加工における、切れ目パターンを模式的に示す平面図である。
【図11】図11は、本発明の円筒状高分子アクチュエータ集合体のさらに別の好ましい実施態様をとして、ストリップ状膜を筒状に並べた構造を有するものを模式的に示す斜視図である。
【図12】図12は、本発明の並設集合させた高分子アクチュエータ集合体を模式的に示す斜視図である。
【図13】図13は、中空リング状のイオン導電性高分子膜の表面に電極を設けたものを模式的に示す説明図である。
【図14】図14は、本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体における、アクチュエータ要素の連結態様を説明する連結説明図である。
【図15】図15は、本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体を伸長させた状態を模式的に示す正面図である。
【図16】図16は、本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体における、アクチュエータ要素の別の連結態様を説明する連結説明図である。
【図17】図17は、本発明の円盤状膜積層型高分子アクチュエータ集合体を屈曲させたときの状態を模式的に示す正面図である。
【図18】図18は、一般的なイオン導電性高分子アクチュエータの屈曲運動を模式的に示す正面図であり、図18(a)は電圧を印加していない状態を示し、図18(b)は電圧を印加した状態を示す。
【符号の説明】
【0047】
1 平板状高分子アクチュエータ集合体
2、3 運動方向
4 開口部(切れ目部)
5a、5b 支持体
21、22 屈曲可動部を有する構成単位(電極を設けたイオン導電性高分子膜)
21a、21c、22a、22c 構成単位の端部
24a、24b、24c、24d 電極層
25、26 運動方向
27 開口部(切れ目部)
28、29 イオン導電性高分子膜
30 切れ目パターン(切れ目を設けたイオン導電性高分子膜シート)
32 切れ目
41、42 シート表面
43 稜(折り目)
44 谷(折り目)
51、52、57、58、59 局限されたストリップ状のイオン導電性高分子膜(構成単位)
51a、51b、52a、52b、57b、58a、58b、59a 構成単位の端部
53 連結具
54 構成単位の区切り位置
56a、56b 直列配接単位(構成単位を複数直列に配接したもの)
60 円筒状高分子アクチュエータ集合体
61 切れ目
62 折れ目
63、65 屈曲部を有する構成単位
63a、63b、65a、56b 構成単位の端部
64 運動方向
130 アクチュエータ要素
131、141、161 中空円盤状イオン導電性高分子膜
132、133、143、151a、151b、151c、151d、152a、152b、152c、152d、163、164、165、166、174、175、176、177 電極層
142、151、152、162、171、172、173 連結具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲可動部を有し両表面に電極層を設けた1枚のイオン導電性高分子膜を構成単位とし、互いに隣りあう前記構成単位を二次元的に配接して構成単位の集合体とし、各構成単位の屈曲可動部を屈曲させて運動を行なうことを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
【請求項2】
前記構成単位の二次元配列として、(i)構成単位を端部で並列に配接し、または(ii)構成単位を端部で並列および直列に配接し、前記構成単位を所定周期で連接したことを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項3】
前記構成単位の二次元配列として、構成単位の端部を直列に配接して直列配接単位とし、一方の直列配接単位中の各構成単位の中央部と、他方の直列配接単位中の各構成単位の端部とが配接されるように前記直列配接単位を並列配接し、前記構成単位を所定周期で連接したことを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項4】
前記構成単位の連接集合体が、(a)平板状膜の集合体または(b)平板状膜に切れ目を入れ交互に折り曲げてなした集合体であり、直動運動または屈曲運動することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項5】
前記構成単位の連接集合体が円筒状の構造体であり直動運動することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項6】
前記構成単位を連接して円筒状の構造体とし、円筒内側および外側の電極の少なくとも一方の電極を円周方向に屈曲可動部の数にあわせて複数個に分割して独立させた、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項7】
請求項5または6記載の円筒状の高分子アクチュエータ集合体の複数を、アクチュエータの運動時に集合体どうしが相互に接触干渉しないよう所定間隔を設けて並設集合させた、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
【請求項8】
異なる円筒径を有する請求項5または6記載の円筒状の高分子アクチュエータ集合体の複数からなり、小径の円筒状高分子アクチュエータ集合体をこれより大径の円筒状高分子アクチュエータ集合体内に、アクチュエータの運動時に集合体どうしが相互に接触干渉しないよう所定間隔を設けて内設した、直動運動または円筒軸を中心として円筒の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする多重円筒状の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項9】
両表面に電極層を設けた中空円盤状のイオン導電性高分子膜の複数を積層し、互いに接する2層の円盤状膜の円周上の2箇所以上を連結配接して局限した構成単位を有する高分子アクチュエータ集合体であって、前記円盤状膜を1層ごとに周期的に異なる位置で連結配接して、前記構成単位を積層連接した構造体とした、直動運動することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体。
【請求項10】
前記中空円盤状のイオン導電性高分子膜の両面の電極を、それぞれ少なくとも4つに分割して独立させた、直動運動または円盤軸を中心として円盤の半径方向の任意の方向に屈曲運動することを特徴とする請求項9記載の高分子アクチュエータ集合体。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の製造方法であって、1枚の板状イオン導電性高分子膜に所定周期で切り込みを入れて構成単位の集合体を構成することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の製造方法であって、短冊状イオン導電性高分子膜を所定位置で連結配接して構成単位の集合体を構成することを特徴とする高分子アクチュエータ集合体の製造方法。
【請求項13】
平板状の高分子アクチュエータ集合体もしくは円筒状の高分子アクチュエータ集合体のイオン導電性高分子膜の両面に設けられた電極層に電圧を印加するにあたり、
前記電極層をそれぞれの面で独立し、該電極層に電圧値を調節しておよび/またはその電極極性を反転させて電圧を印加し、直動運動させることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の作動方法。
【請求項14】
円筒状の高分子アクチュエータ集合体もしくは中空円盤状膜積層型の高分子アクチュエータ集合体のイオン導電性高分子膜の両面に設けられた電極層に電圧を印加するにあたり、
少なくとも一方の面において分割独立させた電極層ごとに、少なくとも2つの異なる電圧値の電圧を印加して、円筒軸または円盤軸の半径方向の任意の方向に屈曲運動させることを特徴とする請求項6〜8、および10のいずれか1項に記載の高分子アクチュエータ集合体の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−118159(P2007−118159A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316639(P2005−316639)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】