説明

高分子固体電解質

【課題】高分子化合物と電解質塩とケイ素含有酸化物粒子の良好な組み合わせにより、室温で良好なイオン導電性を有する高分子固体電解質を提供すること。
【解決手段】少なくとも一種の高分子化合物と、少なくとも一種の電解質塩と、少なくとも一種の酸化物粒子と、を含む高分子固体電解質であって、酸化物粒子の添加量は、高分子化合物と電解質塩との総体積に対して4%以下であること、を特徴とする。本構成によって、イオン導電率の高い高分子固体電解質を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン導電率の高い高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ、携帯電話などのポータブル機器の発展に伴い、高いエネルギー密度と優れたサイクル特性を持つ電池が要望されている。
【0003】
上記要望に対して、有機電解液、有機電解液をポリマーやゲル化剤を用いて非流動化したゲルポリマー電解質、或いは固体電解質のような各種の非水電解質を電解質に用い、リチウムイオンを電荷移動用媒体とする非水電解質リチウム二次電池が実用化されている。中でも高分子固体電解質は、液漏れがないことによる電池の信頼性や安全性の向上、電池形態の自由度等、多くの利点を有している。
【0004】
しかしながらポータブル機器の機能向上に伴い、電源に対してはこれまで以上の高いエネルギー密度が求められている。そこで従来、電解質に無機フィラーを添加することによりイオン導電率を向上させる試みがなされてきた(例えば特許文献1参照)。また、室温で良好なイオン導電性を有する高分子固体電解質を形成するため、基礎ポリマーと、金属塩と、イオン導電体と、無機フィラーとを調整する試みがなされてきた(例えば特許文献2参照)。さらに、シリカ、アルミナをセパレータに添加することにより電解液の吸収容量に対する効果があることを報告している(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−329061号公報
【特許文献2】特表2003−508886号公報
【特許文献3】特許第3253090号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2のような構成では、基礎ポリマーが複数必要となったり、サルファイドガラス等のイオン導電性材料が別途必要であることなど、その構成が非常に複雑であるという課題を有していた。また、上記特許文献3の構成は、セパレータ膜に関するものであり、イオン導電率はセパレータ膜に吸収する電解液により大きな依存性がある。
【0006】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するもので、高分子化合物と電解質塩と酸化物粒子との良好な組み合わせにより、室温で良好なイオン導電性を有する高分子固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記従来の課題を解決するために、本発明の高分子固体電解質は、
少なくとも一種の高分子化合物と、少なくとも一種の電解質塩と、少なくとも一種の酸化物粒子と、を含む高分子固体電解質であって、
酸化物粒子の添加量は、高分子化合物と電解質塩との総体積に対して4%以下であること、を特徴とする。
【0008】
本構成によって高いリチウムイオン導電率を有する高分子固体電解質を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子固体電解質によれば、イオン導電率の高い高分子固体電解質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0011】
(実施の形態)
本発明の高分子固体電解質は、少なくとも一種の高分子化合物と、少なくとも一種の電解質塩と、少なくとも一種の酸化物粒子と、を含み、酸化物粒子の添加量が、高分子化合物と電解質塩との総体積に対して4%以下であること、を特徴とする。
【0012】
高分子化合物としては、リチウムイオン導電性を有するものが適用できる。リチウムイオン導電性を発揮する高分子化合物には、ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなどエチレンオキシド基を主鎖もしくは側鎖に導入した化合物の他にエステル基、アミン基またはスルフィド基を導入した化合物が挙げられるが、高イオン導電率を発現するためには電解質塩のイオン解離が可能な電子供与性基を主鎖または側鎖に導入したものが好ましい。これを考えると、ポリエチレンオキシドなどのエチレンオキシド鎖を構造単位として主鎖または側鎖に導入したものが本発明の高分子化合物として好ましい。
【0013】
ポリエチレンオキシドのリチウムイオン導電機構は、エチレンオキシドの酸素にリチウムイオンが配位し、非晶質化したポリエチレンオキシド鎖の熱運動によりリチウムイオンが移動することによりリチウムイオン導電性が発現するものである。本発明では、電解質塩が溶解した高分子化合物中に酸化物粒子を分散させた高分子固体電解質を作製することにより、エチレンオキシドの結晶化を抑制することが出来る。そのため、エチレンオキシド鎖の熱運動が活発になるために高いイオン導電率を達成することが出来る。
【0014】
電解質塩については、高分子化合物中でリチウムが解離するものであれば特に限定されないが、高分子中でリチウムの解離度が高い材料であるLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(CSO等が好ましい。特にLiN(SOCFやLiN(CSOは高分子化合物に対して可塑化効果があるためにさらに好ましい。
【0015】
酸化物粒子の添加量は高分子化合物と電解質塩の総体積に対して4%以下である。ケイ素含有酸化物粒子の添加量が多すぎると高分子固体電解質中に非導電体の割合がふえるためイオン導電率が低下する。
【0016】
酸化物粒子にはケイ素含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、チタン含有酸化物、マグネシウム含有酸化物などが適用できるが、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素、オルトケイ酸リチウムなどのケイ素含有酸化物が好ましい。さらに二酸化ケイ素がより好ましい。
【0017】
また、酸化物粒子の粒径は10μm以下であることが好ましい。粒径が10μm以上である場合は、高分子固体電解質の膜厚を酸化物粒子の粒径以上にする必要があるため、膜抵抗が大きくなってしまうからである。
【0018】
本発明の高分子固体電解質は、高分子化合物、電解質塩、および酸化物粒子からなる混合体を作製し、フィルム状に形成することにより得られる。具体的にはアセトニトリル等の有機溶媒に高分子化合物、電解質塩、および酸化物粒子を混合させ、ドクターブレード法により導電性基材上にフィルム状に形成する。その後有機溶媒を除去することにより本発明の高分子固体電解質を得ることが出来る。
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0020】
(実施例1)
(a)高分子固体電解質フィルムの密度測定
LiN(SOCFを2.4416g秤量し、15gのアセトニトリルに投入後、マグネティックスターラーにより500rpmで10分間撹拌混合した。その後平均分子量300000のポリエチレンオキシド(Aldrich製)を3.0211g投入し、マグネティックスターラーにより500rpmで3時間撹拌混合した。
【0021】
この混合溶液をドクターブレード法によりSUS基板上に塗工した。その後、50℃で24時間真空乾燥してアセトニトリルを除去することにより、フィルム状の高分子固体電解質を得た。得られたフィルムの厚みは10.4μmであり、単位面積あたりの重量は1.58mgであった。従ってこのときの固体高分子電解質の密度は1.52g/cmであることがわかった。
【0022】
実験的には酸化物粒子を高分子化合物と電解質塩との総重量に対して酸化物粒子を重量比で添加しているが、ここで得られた高分子固体電解質の密度を用いると、高分子化合物と電解質塩との総体積に対する酸化物粒子の添加比を決定することが出来る。
【0023】
(b)高分子固体電解質フィルムの作製
LiN(SOCFを0.815g秤量し、5gのアセトニトリルに投入後、マグネティックスターラーにより500rpmで10分間撹拌混合した。その後分子量300000のポリエチレンオキシドを1g投入し、マグネティックスターラーにより500rpmで3時間撹拌混合した。この混合溶液にケイ素含有酸化物粒子としてSiO(扶桑化学製:平均粒径1μm、密度2.2g/cm)を高分子化合物と電解質塩との総重量に対して1%である0.0185g投入し(総体積比に換算すると0.7%である)、マグネティックスターラーにより500rpmで24時間撹拌混合した。
【0024】
この混合溶液をドクターブレード法によりSUS基板上に塗工した。その後、50℃で24時間真空乾燥してアセトニトリルを除去することにより、フィルム状の高分子固体電解質を得た。このときのフィルムの厚みは12μmであった。このフィルム状の高分子固体電解質をサンプル1−1とする。
【0025】
さらに、SiOの添加量を高分子化合物と電解質塩の総重量に対して2%、4%、6%、10%、15%とした以外は同様の工程で高分子固体電解質を作製した(総体積比に換算すると1.4%、2.8%、4.2%、7.1%、10.9%である)。得られたフィルム状の高分子固体電解質をそれぞれサンプル1−2、サンプル1−3、サンプル1−4、サンプル1−5、サンプル1−6とした。
【0026】
(c)導電率測定
イオン導電率は下記式(1)のように定義される。
【0027】
σ=L/(S×R)・・・・(1)
ここでLはフィルム厚み、Sは電極表面積、Rはフィルム抵抗値である。式(1)に従い、フィルム抵抗値Rを求めることによってイオン導電率を決定した。また、フィルム抵抗値Rの測定には複素交流インピーダンス法を用いた。具体的には、作製したフィルムをSUS電極で挟み、SUS基板を下部電極、SUS電極を上部電極としてその抵抗値Rを測定した。得られたR値から式(1)を用いてイオン導電率を求めた。なお、SUS電極の表面積は1.54cmであり、測定はすべて20℃の環境下で行った。
【0028】
(比較例1)
SiOを添加しないこと以外は実施例1と同様の方法でフィルム状の高分子固体電解質を作製した。得られたフィルム状高分子固体電解質をリファレンス1−1とした。イオン導電率も実施例1と同様の方法で測定を行った。
【0029】
このときのSiO添加量と高分子固体電解質のイオン導電率の測定結果を表1と図1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
これより、高分子化合物と電解質塩との総体積に対してSiOの添加量が0.7体積%、1.4体積%、2.8体積%、4.2体積%の場合はイオン導電率が向上し、1.4体積%でイオン導電率が最大と成ることが判明した。しかし添加量が7.1体積%以上の場合、SiO添加無しと比較してイオン導電率が減少した。
(実施例2)
SiOの粒径を10μmとし、添加量を高分子化合物と電解質塩との総重量に対して0.5%、1.9%、4%、6%、10%、15%(総体積に換算すると0.4%、1.3%、2.8%、4.2%、7.1%、10.9%である)とした以外は実施例1と同様の方法でフィルム状の高分子固体電解質を作製し、実施例1と同様の方法を用いてイオン導電率の測定を行った。得られたフィルム状の高分子固体電解質をそれぞれサンプル2−1、サンプル2−2、サンプル2−3、サンプル2−4、サンプル2−5、サンプル2−6とした。
【0032】
このときのSiO添加量と高分子固体電解質のイオン導電率の測定結果を表2と図2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
これより、高分子化合物と電解質塩の総体積に対してSiOの添加量が0.4体積%、1.3体積%、2.8体積%の場合はイオン導電率が向上し、1.3体積%でイオン導電率が最大と成ることが判明した。しかし添加量が4.2体積%以上の場合、SiO添加無しと比較してイオン導電率が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の高分子固体電解質は酸化物粒子を所定量含むことによりイオン導電率が高く、この高分子固体電解質を用いて大電流放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を作製することが出来る。また、本発明の高分子固体電解質は有機溶媒を使用していないため液漏れの心配がなく、信頼性、安全性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例1および比較例1におけるSiO添加量とイオン導電率を示す図
【図2】本発明の実施例2および比較例1におけるSiO添加量とイオン導電率を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種の高分子化合物と、少なくとも一種の電解質塩と、少なくとも一種の酸化物粒子と、を含む高分子固体電解質であって、
前記酸化物粒子の添加量は、前記高分子化合物と前記電解質塩との総体積に対して4%以下であること、を特徴とする高分子固体電解質。
【請求項2】
前記酸化物粒子の粒径は、10μm以下である、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
前記酸化物粒子は、ケイ素含有酸化物粒子である、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項4】
前記ケイ素含有酸化物粒子は、二酸化ケイ素である、請求項3に記載の高分子固体電解質。
【請求項5】
前記高分子化合物は、エチレンオキシド鎖を有するエチレンオキシド化合物である、請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項6】
前記エチレンオキシド化合物は、ポリエチレンオキシドである、請求項5に記載の高分子固体電解質。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−280658(P2007−280658A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102684(P2006−102684)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】