説明

高分子固体電解質

【課題】導電性と強度等に優れた高分子固体電解質の提供する。
【解決手段】式(I)


で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖A、及び、式(II)


で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖Bを有するブロック共重合体、(B)電解質塩、及び、(C)一次粒子径が0.1〜5,000nmの疎水性金属酸化物フィラーを含有する高分子固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2次電池用として有用な高分子固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池は古くから利用されているが、最近では半導体や液晶表示素子とともに情報化産業の基礎部品として非常に重要な部品となっている。特に、携帯電話機やノートブック型パソコンなどの情報機器において、電池の高性能化や小型軽量化などの要求が強く、それに対応するものとしてリチウムイオン型電池が注目されている。リチウムイオン型電池はニッケルカドミウム電池などの他の電池に比べてエネルギー密度が高く急速充電が可能なので、この点からも今後ともその有用性が期待されている。
そして、一次電池や二次電池及びコンデンサーなどの電気化学素子においては、電解質として液体が用いられてきたが、液体の電解質は液漏れの心配や長期間の信頼性にかける欠点を有していた。一方、固体電解質はこのような欠点がなく、種々の電気化学素子へ適用すると、素子製造の簡略化が図れると同時に、素子自身の小型化や軽量化が可能となり、さらに液漏れの心配がないため信頼性の高い素子の提供が可能となる。
従って、リチウムイオン型電池などにおいて、固体電解質に関する研究開発、とりわけ軽量かつ柔軟で加工が容易な高分子固体電解質に関する研究開発が活発に行われている。
【0003】
殆どの高分子化合物は絶縁体であるが、ある種の高分子材料、例えばポリエチレンオキサイド(PEO)はリチウム塩のような電解質塩と結晶性の錯体を形成して高いイオン伝導性を示すことが報告されて以来、PEOやその他のポリアルキレンオキサイド、また同様に分子中にイオン解離基を有するポリエチレンイミンやポリホスファゼンなどをマトリックスとする高分子固体電解質の研究が注目されている。とりわけ、ポリアルキレンオキサイドをマトリックスの一成分とした高分子固体電解質の研究が多数報告されており、最近では室温付近のイオン伝導度が、10−4〜10−6S/cmまで改善されている。しかし、高イオン伝導性を得るためにはマトリックス中のポリアルキレンオキサイド含有量を高める必要があり、これは反面電解質膜の強度や耐熱性を著しく低下させるため実用性のある固体電解質を得ることは困難であり、さらに低温、例えば0℃以下になると極端にイオン伝導性が低下することも問題であった(非特許文献1、特許文献1を参照)。
【0004】
高分子固体電解質として、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(A)とスチレン(B)とをリビングアニオン重合により共重合させたABA型トリブロック共重合体をマトリックス基材とする高分子固体電解質が提案されている(非特許文献2を参照)。
しかし、成分Aであるメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートのホモポリマーは高分子量体でも室温で液状であり、A−B−A型共重合体を固体電解質のマトリックス基材とするためには成分Aの含有量には制限があり、このことはリチウムイオンの拡散輸送空間としてのPEOドメインの形状及びサイズに制限があることを意味し、実際40℃でのイオン伝導性は10−6S/cmと満足のいくものではなかった。
【0005】
そこで、出願人は、式(I’)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、又はC1〜10炭化水素基を表し、RとRは、結合して環を形成してもよく、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子、炭化水素基、アシル基、又は、シリル基を表し、nは2〜100のいずれかの整数を表し、R、R同士は、同一又は、相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖A、及び式(II’)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、又はC1〜C10炭化水素基を表し、Rは、アリール基を表す。)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖B、及びブロック鎖Cが、B、A、Cの順で配列している共重合体と電解質塩を含有することを特徴とする高分子固体電解質を提案した(特許文献2)。
しかしながら、まだ、機械的強度などの点で十分ではなかった。
一方、機械的な強度を高めるため、金属酸化物などの無機フィラーが使用されているが、導電性を維持したまま強度を改善するために、種々の工夫がなされている。
たとえば、シリコンオイル、ヘキサアルキルジシラザン、アルキルシランから選ばれるケイ素化合物により表面処理された酸化ケイ素を使用したもの(特許文献3)、[−B−O−]及び/又は[−B−O−Si-O−]の繰り返し単位を有する構造が金属酸化物粒子表面に結合している金属酸化物フィラーを使用したの(特許文献4)、親水性を有する酸化ケイ素を使用するもの(特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−120912号公報
【特許文献2】特開2004−107641号公報
【特許文献3】特開2005−158702号公報
【特許文献4】特開2006−236628号公報
【特許文献5】特開2006−310071号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Appl.Electrochem., No.5, 63-69 (1975)
【非特許文献2】Makromol.Chem., 190, 1069-1078 (1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、出願人の提案した上記特許文献2(特開2004−107641号公報)に記載の高分子固体電解質の導電性と強度等を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記固体電解質に疎水性金属酸化物をフィラーとして配合することにより導電性と強度等を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は
(1)(A)式(I)
【0014】
【化3】

【0015】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。R4a及びR4bはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基又は炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表し、mは2〜100のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、R4a同士及びR4b同士は、同一であっても異なっていてもよい。)で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖A、及び、式(II)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Rは、アリール基を表す。)で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖Bを有するブロック共重合体、
(B)電解質塩、及び、
(C)一次粒子径が1.0〜5,000nmの疎水性金属酸化物フィラー
を含有し、フィラー量が成分(C)が成分(A)に対して0.1〜20部であることを特徴とする高分子固体電解質、
(2)ブロック鎖A及びBがB−A−Bの配列で共重合していることを特徴とする上記(1)に記載の高分子固体電解質、
(3)式(I)で表される繰り返し単位の重合度が、10以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高分子固体電解質、
(4)式(II)で表される繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の高分子固体電解質、
(5)式(I)におけるmが5〜100のいずれかの整数であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子固体電解質、
(6)式(I)で表される繰り返し単位と式(II)で表される繰り返し単位とのモル比(I)/(II)が1/30〜30/1の範囲であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高分子固体電解質、
(7)共重合体のGPCによる数平均分子量が5,000〜1,000,000の範囲であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の高分子固体電解質、
(8)電解質塩がアルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の高分子固体電解質、
(9)疎水性金属酸化物が、疎水性ケイ素酸化物であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の高分子固体電解質、及び、
(10)疎水性金属酸化物が、ジメチルシリル基、または、トリメチルシリル基で表面保護処理をされた疎水性フィラーであることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の高分子固体電解質に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の固体電解質は、イオン導電性と機械的膜強度、そして基材への接着性能等に優れており、特に二次電池、とりわけ薄膜化とフレキシブル化をもたらすポリマー固体電解質リチウムポリマー二次電池用として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】60℃〜−20℃範囲でのポリマー固体電解質膜のイオン導電率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1)本発明の高分子固体電解質に用いられる共重合体
本発明の高分子固体電解質に用いられる共重合体は、式(I)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖Aと式(II)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖Bを、それぞれ少なくとも一つ有する。本発明の共重合体は、たとえば、A−B、B−A、A−B−A、B−A−B等の配列を有する共重合体が例示され、中でも、B−A−Bの配列を有する共重合体が好ましい。
【0021】
ここで、「式(I)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖A」とは、ブロック鎖Aが式(I)で表される繰り返し単位の一種又は二種以上の繰り返し単位を含むこと、及び、それら以外の他の繰り返し単位を含んでいても良いことを意味する。「式(II)で表される繰り返し単位を有するブロック鎖B」も同様である。
【0022】
また、二種以上の式(I)で表される繰り返し単位を含む場合、及び、他の繰返し単位を構成単位として含む場合、各繰り返し単位の重合形式は特に制限されず、ランダム重合、ブロック重合、交互重合等のいずれの重合形式であっても構わない。
【0023】
また、各ブロック鎖がA−B、B−A、A−B−A、B−A−B等の配列を有するとは、各ブロック鎖が、直接結合していても、連結基、重合鎖等の他の構成単位をはさんで結合していてもよいことを意味する。ここで、連結基は、酸素原子、アルキレン基等の低分子の連結基が挙げられ、重合鎖は、ホモポリマーでも、2元以上の共重合体であってもよく、共重合体の場合には、その中の結合状態は特に制限されず、ランダム、ブロック、又は徐々に成分比が変化するグラジエントであってもよい。
【0024】
式(I)で表される繰り返し単位中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、炭素数1〜10の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等のアリール基又はアリールアルキル基等が挙げられる。
【0025】
また、RとRは、結合して環を形成してもよい。
【0026】
4a、及びR4bは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、mは、2〜100のいずれかの整数を表し、5〜100のいずれかの整数が好ましく、さらに10〜100のいずれかの整数が好ましい。各繰り返し単位におけるmの値は、同一でも相異なっていてもよく、R4a同士及びR4b同士は、同一でも、相異なっていてもよい。
【0027】
は、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基又は炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表す。
【0028】
ここで、炭素数1〜10の炭化水素基とは、上記式(I)と同様の基が挙げられる。
【0029】
炭素数1〜10のアシル基とは、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基等が挙げられ、炭素数3〜20のトリ置換シリル基とは、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0030】
〜Rにおいて、適当な炭素原子上に置換基を有していてもよく、そのような置換基として具体的には、フッ素原子、クロル原子、又はブロム原子等ハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ニトリル基、ニトロ基、メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基等を例示することができる。
【0031】
式(I)で表される繰り返し単位の重合度は、mの値にもよるが、10以上が好ましく、さらに20以上が好ましい。
【0032】
式(I)で表される繰り返し単位の原料となるモノマーとしては、具体的には以下の化合物を例示することができる。また、これらの繰り返し単位は、一種単独でも、二種以上を混合していても構わない。
【0033】
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、「ブレンマーPMEシリーズ」〔式(I)においてR1=R2=水素原子、R3=メチル基、m=2〜90に相当する単量体〕(日本油脂製)、アセチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンゾイルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルジメチチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールシクロヘキセン−1−カルボキシレート、メトキシポリエチレングリコール−シンナメート。
【0034】
式(II)で表される繰り返し単位中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、炭素数1〜10の炭化水素としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等のアリール基又はアリールアルキル基等が挙げられる。Rは、フェニル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基などの炭素数6〜14のアリール基を表す。
【0035】
また、R〜Rは、適当な炭素原子上に、置換基を有していてもよく、そのような置換基として、具体的にはフッ素原子、クロル原子、又はブロム原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基等の炭化水素基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、ニトリル基、ニトロ基、メトキシ基、フェノキシ基等の炭化水素オキシ基、メチルチオ基、メチルスルフィニル基、メチルスルホニル基、アミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基等を例示することができる。
【0036】
式(II)で表される繰り返し単位の重合度は、5以上が好ましく、さらに10以上であるのが好ましい。式(II)で表される繰り返し単位の原料となるモノマーとして、具体的には以下の化合物を例示することができる。また、これらの繰り返し単位は、一種単独でも、2種以上を混合していても構わない。
【0037】
スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、m−t−ブトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、4−カルボキシスチレン、ビニルアニソール、ビニル安息香酸、ビニルアニリン、ビニルナフタリン、9−ビニルアントラセン等のアリール化合物。
【0038】
本発明の共重合体は、式(I)〜(II)で表される繰返し単位と異なる繰り返し単位を構成単位として含むことができ、そのような繰り返し単位の原料となるモノマーとして以下の化合物を例示することができる。これらの繰り返し単位は、ブロック鎖A及びB中において、あるいは、ブロック鎖以外のブロック鎖として用いることができる。これらの繰り返し単位は、1種単独でも、2種以上を混合していても構わない。
【0039】
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸2−メチル−2−アダマンチル、(メタ)アクリル酸1−メチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸1−エチレンアダマンチル、(メタ)アクリル酸3,7−ジメチル−1−アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ノルボルナン、(メタ)アクリル酸メンチル 、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフラニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロピラニル、(メタ)アクリル酸3−オキソシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ブチロラクトン、(メタ)アクリル酸メバロニックラクトンなどの(メタ)アクリル酸、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,6−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン、クロロプレンなどの共役ジエン類、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のα、β−不飽和カルボン酸イミド類、(メタ)アクリロニトリルなどのα、β−不飽和ニトリル類等。
【0040】
式(I)で表される繰り返し単位と、式(II)で表される繰り返し単位の合計のモル比(I)/(II)は、1/30〜30/1の範囲であるのが好ましい。式(I)で表される繰り返し単位が1/30未満では、充分な導電性が得られず、30/1より多い場合には、充分な熱的特性、物理的特性が得られない。式(II)で表される繰り返し単位が1/30未満ではでは、充分な熱的特性、物理的特性が得られず、30/1より多い場合には、充分な導電性が得られない。
【0041】
また、標準としてポリスチレンを用いたGPCによる、本発明の共重合体の数平均分子量は、特に限定されないが、5,000〜100,000の範囲が好ましい。数平均分子量が5,000より小さい場合には、熱的特性、物理的特性が低下し、1,000,000より大きい場合には、成形性、又は成膜性が低下する。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、後述するミクロ相分離構造を形成するために、1.01〜2.50、さらに1.01〜1.50の範囲が好ましい。
【0042】
本発明の共重合体は、高分子固体電解質として高いイオン導電性を保持するために膜構造中において、ミクロ相分離構造を発現する構成とすることが好ましく、特に、ネットワーク型のミクロ相分離構造を発現する構成とすることが好ましい。
【0043】
2)共重合体の製造方法
本発明の共重合体は、公知の製造法、例えば、特開2004―107641号公報に記載された方法等により製造することができる。
【0044】
たとえば、以下の様にして製造することができる。
【0045】
下記式(IV)で表される化合物、式(V)で表される化合物、及び必要に応じて他の共重合しうる化合物を用い、遷移金属錯体を触媒、ハロゲン原子を1又は複数含む有機ハロゲン化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合法、安定ラジカルによるリビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法等の公知の方法を用いて製造することができ、中でも、遷移金属錯体を触媒、ハロゲン原子を1又は複数含む有機ハロゲン化合物を重合開始剤とするリビングラジカル重合法を好ましく例示することができる。
【0046】
【化5】

【0047】
ここで、式(IV)及び(V)中のR〜Rは、前記と同じ意味を表す。
さらに具体的に説明すると、
(イ)まず、式(IV)で表される化合物を、リビングラジカル重合法において、2官能開始剤を用いて反応させることにより得られる2官能ブロック鎖等の各ブロック鎖を含むマクロ開始剤に、さらに他のブロック鎖を構成する単量体を反応させて遂次にブロック鎖を伸長して製造する方法、
(ロ)式(IV)の代わりに式(V)で表される化合物を用い、単官能開始剤を用い、他は(イ)と同様に行い、端から順次ブロック鎖を伸長して製造する方法、
(ハ)各ブロック鎖、又は、各ブロック鎖の一部を所定の配列で重合した後、カップリング反応により製造する方法、
等を例示することができる。
【0048】
リビングラジカル重合は、触媒として遷移金属錯体を用い、開始剤としてハロゲン原子を分子内に1つ以上有する有機ハロゲン化合物を用いて行うことができる。
【0049】
遷移金属錯体として、たとえば、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム又はクロロインデニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ルテニウム(II)等のルテニウム錯体、ジカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化鉄(I)、ジ(トリフェニルホスフィン)二塩化鉄、ジ(トリブチルアミノ)二塩化鉄、トリフェニルホスフィン三塩化鉄、(1−ブロモ)エチルベンゼン−トリエトキシホスフィン−二臭化鉄等の鉄錯体;カルボニルシクロペンタジエニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルシクロペンタジエニル臭化ニッケル(II)、カルボニルシクロペンタジエニル塩化ニッケル(II)、カルボニルインデニルヨウ化ニッケル(II)、カルボニルインデニル臭化ニッケル(II)等のニッケル錯体;トリカルボニルシクロペンタジエニルヨウ化モリブデン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル臭化モリブデン(II)、トリカルボニルシクロペンタジエニル塩化モリブデン(II)、ジNアリール−ジ(2−ジメチルアミノメチルフェニル)リチウムモリブデン等のモリブデン錯体等が挙げられる。これらの遷移金属錯体は、1種又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
有機ハロゲン化合物は、1〜4個又はそれ以上のハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)を含み、遷移金属錯体と作用してラジカル種を発生させることにより重合を開始させる開始剤として用いられる。このような有機ハロゲン化合物は1種又は2種以上組み合わせて使用できる。有機ハロゲン化合物としては、特に制限されず種々の化合物が使用できるが、例えば、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化エステル(ハロゲン含有エステル)、ハロゲン化ケトン(ハロゲン含有ケトン)、スルホニルハライド(ハロゲン化スルホニル化合物)などが含まれる。
【0051】
リビングラジカル重合法においては、さらに、金属錯体に作用することにより、ラジカル重合を促進させる活性化剤として、ルイス酸及び/又はアミン類を使用することが出来る。
【0052】
ルイス酸としては、例えば、アルミニウムアルコキシド(アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリs−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトキシドなど)、スカンジウムアルコキシド(スカンジウムトリイソプロポキシドなど)、チタンアルコキシド(チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラt−ブトキシド、チタンテトラフェノキシドなど)、ジルコニウムアルコキシド(ジルコニウムテトライソプロポキシドなど)、スズアルコキシド(スズテトライソプロポキシドなど)などが挙げられる。
【0053】
また、アミン類としては、2級アミン、3級アミン、含窒素芳香族複素環化合物等、含窒素化合物であれば、特に制限されないが、特に、2級アミン、3級アミンを好ましく例示することができる。
【0054】
リビングラジカル重合法による共重合体の製造方法として、具体的には、
1.例えば、第一の単量体の転化率が100%に達した後、第二の単量体を添加して重合を完結させ、これを繰り返すことによりブロック共重合体を得る単量体を逐次的に添加する方法、
2.第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で第二の単量体を加えて重合を継続し、ブロック鎖間にランダム部分が存在するグラジエント共重合体が得る方法、
3.第一の単量体の転化率が100%に達しなくとも目標の重合度又は分子量に達した段階で一旦反応を停止、系外に重合体を取りだし、得られた重合体をマクロ開始剤として他の単量体を加えて共重合を断続的に進め、ブロック共重合体を得る方法、
等を例示することができる。
【0055】
重合方法は、特に制限されず、慣用の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、又は乳化重合などが採用できるが、溶液重合が特に好ましい。溶液重合を行う場合、溶媒としては特に制限されず、慣用の溶媒、たとえば、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂環族炭化水素類(シクロヘキサンなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、オクタンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アルコール類(メタノール、エタノールなど)、多価アルコール誘導体類(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど)などが使用できる。このような溶媒は単独又は2種以上混合して使用できる。重合は、通常、真空又は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、温度0〜200℃、好ましくは40〜150℃、常圧又は加圧下において行うことができる。
【0056】
一方、リビングアニオン重合法においては、アルカリ金属又は有機アルカリ金属を重合開始剤として、通常、真空又は窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、有機溶媒中において、−100〜50℃、好ましくは−100〜−20℃において行う事が出来る。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、セシウムなどを例示することができ、有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物などを使用する事ができ、具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、α−メチルスチレンジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウムなどをあげることができる。
【0057】
用いる有機溶媒としては、芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、オクタンなど)、脂環族炭化水素類(シクロヘキサン、シクロペンタンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなど)、アニソール、ヘキサメチルホスホルアミドなどのアニオン重合において通常使用される有機溶媒をあげることができる。また、共重合反応を制御することを目的として、公知の添加剤、例えば塩化リチウムなどの鉱酸のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を用いてもよい。
【0058】
なお、リビングアニオン重合法を用い、分子内に水酸基、カルボキシル基等の活性水素を有する化合物を用いる場合には、シリル化、アセタール化、BOC化等公知の保護化反応により活性水素を保護してから重合反応に供し、重合後、酸、アルカリ等により脱保護化反応を行うことにより製造することができる。
【0059】
共重合反応過程の追跡及び反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、膜浸透圧法、NMRなどにより容易に行うことができる。共重合反応終了後は、カラム精製、又は、例えば水や貧溶媒中に投入して析出したポリマー分を濾過、乾燥させるなど、通常の分離精製方法を適用することにより共重合体を得ることができる。
【0060】
3)本発明の高分子固体電解質
本発明の高分子固体電解質は、先に述べた共重合体、電解質塩、及び、疎水性金属酸化物フィラーとを含有してなることを特徴とする。
【0061】
上記共重合体は、構成単位が異なる2種以上のものを混合して用いることもできる。
【0062】
本発明で使用する電解質塩としては、特に限定されるものではなく、電荷でキャリアーとしたいイオンを含んだ電解質塩を用いればよいが、硬化して得られる高分子固体電解質中での解離定数が大きいことが望ましく、アルカリ金属塩、(CHNBF等の4級アンモニウム塩、(CHPBF等の4級ホスホニウム塩、AgClO等の遷移金属塩あるいは塩酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸が使用出来、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩又は遷移金属塩の使用が好ましい。
【0063】
使用しうる電解質塩の具体例としては、例えばLiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC(CH)(CFSO、LiCH(CFSO、LiCH(CFSO)、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)、LiB(CFSO、LiPF、LiSbF、LiClO、LII、LiBF、LiSCN、LiAsF、NaCFSO、NaPF、NaClO 、NaI、NaBF、NaAsF、KCFSO、KPF、KI、LiCFCO、NaClO、NaSCN、KBF、KPF、Mg(ClO、Mg(BF等の公知のアルカリ金属塩を例示することができ、これら電解質塩は、単独又は二種以上混合して使用してもよく、中でもリチウム塩が好ましい。
【0064】
これら電解質塩の添加量は、共重合体中のアルキレンオキサイドユニットに対して、0.005〜80モル%、好ましくは0.01〜50モル%の範囲である。
【0065】
疎水性金属酸化物フィラーは、例えば、SiO、TiO、Al、CuO、ZnO、SnO、CeO、Fe、MgO、BaO、CaO、KO、NaO、ZrO、CaO・SiO、KO・(TiO)n、Al・2SiO、CaCO、MgCO、BaSO、MgSOの無機微粉末などをシランカップリング剤やカップリング剤等の疎水化剤で疎水化処理されたものや第四級アンモニウム塩またはシリコーンオイル等で表面処理されたものが挙げられる。表面疎水化処理を施す疎水化剤としては、モノメチルトリクロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルモノクロロシラン、トリエチルモノクロロシラン、t-ブチルジメチルモノクロロシラン、フェニルトリクロロシランなどのクロロシラン類、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエメキシシラン、デシルトリエチキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシランなどのアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザンなどのシラザン類などを、好ましく用いることができる。
【0066】
金属酸化物の一次粒子径は、通常、1.0〜5,000nmであり、例えば1.0〜100nm、特に5〜50nmが好ましい。
【0067】
金属酸化物の疎水化の程度は、処理を施す疎水化剤によって異なり、形成されうる表面官能基によって変化する。一般に、ジメチルシリル基で表面保護処理をされたものよりは、トリメチルシリル基での表面保護処理をされたもの方が疎水性の程度は高い。
【0068】
本発明においては、親水性のシラノール基を有するSiOフィラーに表面処理を施し疎水化させたものが好ましく、特にジメチルシリル基で表面保護処理をされたものがよい。疎水化の程度は一概には決められないが、表面を全て疎水化させたものよりは、目安として6(疎水化):4(親水、シラノール基)の割合のものが好ましい。
【0069】
金属酸化物フィラーの添加量は、高分子固体電解質に対し通常0.1〜20部であり、特に2〜5部の添加が好ましい。
【0070】
本発明の高分子電解質は、上記した共重合体、電解質塩、及び疎水性金属酸化物を混合(複合)させることにより製造することができるが、混合させる方法には特に制限なく、例えば、共重合体、電解質塩及び疎水性金属酸化物をテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、エタノール、ジメチルホルムアミド等の適当な溶媒に溶解させる方法、共重合体、電解質塩及び疎水性金属酸化物を常温又は加熱下に機械的に混合する方法等が挙げられる。
【0071】
特に、前記の高分子固体電解質を、シート状、膜状、フイルム状等の形状に成形するのが好ましく、この場合、加工面の自由度が広がり、応用上の大きな利点となる。シート状等の高分子固体電解質を製造する手段として、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種コーティング手段により支持体上に前記高分子固体電解質を成膜させ、その後支持体を除去することによりシート状等の高分子固体電解質が得ることができる。
【0072】
本発明の高分子固体電解質は、イオン伝導性膜として機能し、該膜は、イオン伝導性を有する式(I)で表される繰り返し単位を有するポリマーセグメント(P1)と、イオン伝導性を有さない式(II)で表される繰り返し単位を有するポリマーセグメント(P2)を含むポリマーを含む膜であって、膜中で、ミクロ相分離構造を形成し、P1からなるミクロドメインとP2からなるミクロドメインが存在することを特徴とする。
【0073】
また、イオン伝導性膜中におけるミクロ相分離構造は、ネットワーク型ミクロ相分離構造であることが好ましい。この様な構造を有することで、イオン導電性及び、物理的特性、熱的特性、特に膜強度を改善することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0075】
なお、以下において、PMEは、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂製、ブレンマーPME−1000)を意味し、PEOはポリエチレンオキサイドを意味する。
【0076】
実施例において使用した原料を以下に示す。
【0077】
リニア型ポリマー:L−MES1490[組成]PME1000:St=91:9(wt%:wt%)、PEO81wt%
Li塩:リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)(キシダ化学製、電池グレード品)
溶剤:ジグライム(和光純薬工業製)
フィラー:組成や親水/疎水性の異なるフィラーを入手し検討を行った。親水性シリカ、疎水性シリカ、アルミナ、酸化チタン、窒化炭素、窒化けい素(疎水性シリカ:シリカの水酸基をトリメチルシリル基、またはジメチルシリル基で表面処理したもの。)
【0078】
【表1】

【0079】
(実施例1)
アルゴン雰囲気下、PEO含有量81wt%のリニア型ポリマーについて、ポリマー固形分濃度が10wt%のジグライム溶液を調製し、LiTFSIをLi/EO=0.05の割合で添加し溶解させ、表1に示すフィラーNo.1をポリマー樹脂分に対し5部添加した。30分間スターラーにて攪拌を行い、さらに超音波処理(80W、30分間)を行うことでフィラー分散ポリマー組成物を得た。
【0080】
具体的には、ポリマーのジグライム溶液20gに対し、LiTFSIを528mg、フィラーNo.1を100mg使用した。
【0081】
<フィラー含有ポリマー固体電解質の物性評価>
上記フィラー分散ポリマー組成物を基材や電極上へキャストし、加熱真空乾燥を行って、フィラー含有ポリマー固体電解質を製造して目的とする評価の各試験片を作製し、物性評価を行った。
【0082】
フィラー含有ポリマー固体電解質膜の物性評価には、引張せん断試験、T型はく離試験、押込み膜強度測定、ナノインデンテーション試験、イオン導電率測定を行った。
【0083】
[引張せん断試験]
引張試験用アルミ試験片(10cm×2.5cm、品番:P3010)と電池用アルミ箔(10cm×2.5cm)を接着させたものを試験片とした。両者の接着部面積(12.5mm×25mm)。
【0084】
アルミ試験片の前処理として接着部を1000番の紙やすりで研磨した後、アセトンで洗浄を行い乾燥させた。
【0085】
上記フィラー分散ポリマー溶液を接着部へ塗布し、加熱真空乾燥させ接着させることで評価用試験片を得た。アルミ試験片側へはピペットにより溶液50μlを、アルミ箔側へはバーコーター(No.20)で溶液を塗布した。加熱真空乾燥を90℃で1時間、その後140℃で4時間行い、フィラー含有ポリマー固体電解質が接着層となる試験片を得た。
【0086】
引張せん断応力測定には、オートグラフAGS−J(島津製作所製)を用い、引張速度10mm/minにて測定を行った。ロードセルは5kNのものを用いた。
【0087】
[T型はく離試験]
切り出した電池用アルミ箔(20cm×2.5cm)の接着部(15cm×2.5cm)に上記フィラー分散ポリマー溶液をバーコーター(No.20)で塗布し加熱真空乾燥を行い接着させた。加熱真空乾燥に90℃で1時間、その後140℃で4時間行うことで、フィラー含有ポリマー固体電解質が接着層となる試験片を得た。
【0088】
引張せん断応力測定には、オートグラフAGS−J(島津製作所製)を用い、100mm/minの引張速度で測定を行った。ロードセルは50Nのものを用いた。
【0089】
[押込み膜強度試験]
SUSシャーレにフィラー分散ポリマー溶液4ml加え、90℃で1時間、140℃で4時間の加熱真空乾燥を行い溶媒を除去することでフィラー含有ポリマー固体電解質膜を得た。
【0090】
押込膜強度測定には、オートグラフAGS−J(島津製作所製)を用い、5mmφの押込進入弾性治具を装着し2mm/minの速度で測定を行った。ロードセルは5kNのものを用いた。
【0091】
[ナノインデンテーション試験]
アルミシャーレにフィラー分散ポリマー溶液1.5mlキャストした後、70℃にセットした真空オーブン中にて真空引きし、その後、90℃で1時間、140℃で4時間の加熱真空乾燥を行うことでフィラー含有ポリマー固体電解質膜を得た。
【0092】
ナノインデンテーション測定には、ピコデンターHM500(フィッシャー・インストルメンツ社製)にてビッカーズ圧子を用い、荷重1mNで20sec、保持時間5secの測定条件にて行った。
【0093】
[イオン導電率測定]
フィラー含有ポリマー電解質を1cm角の白金電極で挟み、周波数100〜10MHzの範囲でインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型、東陽テクニカ社製)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン導電率を測定した。測定範囲−20〜60℃。
【0094】
(比較例1)
フィラー未添加での試験片について、操作は実施例1と同様に作製し評価を行った。
【0095】
(比較例2〜8)
表.1に示すフィラーNo.2〜8を用いて実施例1と同様にフィラー含有ポリマー固体電解質膜を作製し、評価を行った。
【0096】
<結果>
(引張せん断試験、T型はく離試験、押込み膜強度測定及びナノインデンテーション試験の結果)
結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
ジメチルシリル基で表面修飾された疎水性シリカナノフィラーであるフィラーNo.1(実施例)を用いたとき、すべての評価項目にて未添加系を超える結果であった。トリメチルシリル基で表面修飾された疎水性シリカナノフィラーであるフィラーNo.5、6及び7(実施例)を用いた場合、押込み試験やナノインデンテーション評価項目で未添加系よりも優れた結果を得ることができた。
【0099】
(イオン導電性試験の結果)
フィラーNo.1を用いて得られたフィラー含有ポリマー固体電解質のイオン導電率測定結果を表.3に、イオン導電率温度依存性グラフを図1に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
フィラー含有ポリマー固体電解質の方が、比較例の未添加系と比べて高いイオン導電率を示した。フィラー添加が、ポリマー固体電解質の強度、密着性だけでなくイオン導電率をも向上させた。
【0102】
以上の結果から、検討した疎水性シリカナノフィラーNo.1がポリマー固体電解質の特性向上に寄与することが明らかとなり、リチウムポリマー二次電池の薄膜化とフレキシブル化をもたらすポリマー固体電解質として非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)式(I)
【化1】


(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RとRは結合して環を形成してもよい。R4a及びR4bはそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基を表し、Rは、水素原子、炭素数1〜10の炭化水素基、炭素数1〜10のアシル基又は炭素数3〜20のトリ置換シリル基を表し、mは2〜100のいずれかの整数を表し、mが2以上のとき、R4a同士及びR4b同士は、同一であっても異なっていてもよい。)で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖A、及び、式(II)
【化2】


(式中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Rは、アリール基を表す。)で表わされる繰り返し単位を有するブロック鎖Bを有するブロック共重合体、
(B)電解質塩、及び、
(C)一次粒子径が1.0〜5,000nmの疎水性金属酸化物フィラー
を含有し、フィラー量が成分(C)が成分(A)に対して0.1〜20部であることを特徴とする高分子固体電解質。
【請求項2】
ブロック鎖A及びBがB−A−Bの配列で共重合していることを特徴とする請求項1に記載の高分子固体電解質。
【請求項3】
式(I)で表される繰り返し単位の重合度が、10以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子固体電解質。
【請求項4】
式(II)で表される繰り返し単位の重合度が、5以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項5】
式(I)におけるmが5〜100のいずれかの整数であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項6】
式(I)で表される繰り返し単位と式(II)で表される繰り返し単位とのモル比(I)/(II)が1/30〜30/1の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項7】
共重合体のGPCによる数平均分子量が5,000〜1,000,000の範囲であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項8】
電解質塩がアルカリ金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩及びプロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項9】
疎水性金属酸化物が、疎水性ケイ素酸化物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の高分子固体電解質。
【請求項10】
疎水性金属酸化物が、ジメチルシリル基又はトリメチルシリル基で表面保護処理をされた疎水性フィラーであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の高分子固体電解質。


【図1】
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【公開番号】特開2011−222354(P2011−222354A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91348(P2010−91348)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】