説明

高分子基材のめっき前処理方法

【課題】高分子基材に無電解めっき処理を行う場合に、密着性に優れためっき膜を、低コストで形成する。
【解決手段】高分子基材21と、有機金属錯体を含有する加圧流体とを、有機金属錯体の還元温度未満で接触させて、有機金属錯体を高分子基材21に浸透させる浸透工程と、高圧容器3に、有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させて、高圧容器3内の加圧流体を希釈する希釈工程と、高圧容器3内に高圧二酸化炭素が含まれた状態で、高分子基材21に浸透させた有機金属錯体を還元する還元工程とを有する高分子基材のめっき前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき処理により高分子基材にめっき膜を形成するためのめっき前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子基材の表面にめっき膜を形成する方法として、無電解めっき法が知られている。この無電解めっき法は、触媒的な化学反応を利用して金属イオンを還元することにより、被めっき物上にめっき膜を形成する方法であるため、被めっき物それ自体が還元剤の還元作用に対して触媒活性を示す場合を除いて、触媒活性がある金属物質を被めっき物の表面内部に安定、且つ均一に付着させておくことが、最終的に得られるめっき膜の密着性を確保するために必要となる。そのため、被めっき物が樹脂材料からなる高分子基材である場合、無電解めっき処理の前に六価クロム酸や過マンガン酸などの環境負荷の大きな酸化剤を含有するエッチング液を用いて高分子基材の表面を粗化するエッチング処理を行って、高分子基材の表面に凹凸を形成し、該凹凸に触媒核となる金属物質を付与している。また、このようなエッチング液で浸漬される高分子基材、すなわち、無電解めっきが適用可能な高分子基材としては、ABS系樹脂を含有する高分子基材に限定されている。これは、ABS系樹脂がエッチング液に選択的に浸食されるブタジエンゴム成分を含んでいるのに対して、他の樹脂ではこのようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS系樹脂以外のポリカーボネート樹脂などを樹脂成分として含む高分子基材を無電解めっき処理するにあたっては、無電解めっきを可能にするためにABS系樹脂やエラストマーを含むめっきグレード品が使用されている。しかしながら、そのようなめっきグレード品では、主材料の耐熱性などの物性の劣化を避けることができない。
【0003】
上記のような問題を解決すべく、無電解めっき処理の前に、超臨界状態の二酸化炭素を用いて、めっき触媒となる金属を含む触媒成分を高分子基材に浸透させる表面改質方法が提案されている。例えば、成形された樹脂成形体と、めっき触媒となる金属単体または金属を含む化合物を超臨界二酸化炭素に溶解させた加圧流体とを高圧容器内で接触させることにより、めっき触媒が導入された樹脂成形体を得るめっき前処理方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、上記のような金属単体などは超臨界二酸化炭素への溶解性に劣るため、めっき膜形成のために十分な量のめっき触媒を高分子基材に導入することができず、安定にめっき膜を形成することが難しい。そのため、例えば、有機金属錯体を超臨界状態または亜臨界状態の高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と高分子繊維基材とを高圧容器内で接触させ、接触により高分子繊維基材に導入された有機金属錯体をめっき触媒に還元するめっき前処理方法が提案されている(特許文献2)。
【0004】
超臨界二酸化炭素などの高圧二酸化炭素は気体としての浸透性と液体としての溶媒特性を併せもつ流体であり、また有機金属錯体は金属単体よりも高圧二酸化炭素に対して優れた溶解性を有するため、該有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を使用することにより、加圧流体の浸透に伴って、これに溶解している有機金属錯体が高分子基材に浸透する。これにより、エッチング処理を行うことなく有機金属錯体を高分子基材に導入することができる。従って、上記方法によれば、環境負荷の大きな六価クロム酸などの酸化剤を使用する必要がなく、またエッチング液に浸食される成分の少ない樹脂材料からなる高分子基材に対しても、無電解めっき処理によりめっき膜を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−316832号公報
【0006】
【特許文献2】特開2007−56287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、無電解めっき処理において、有機金属錯体は金属物質に比べて触媒活性が低い。そのため、特許文献2に記載されているように高分子基材に浸透させた有機金属錯体をめっき触媒として利用するにあたっては、有機金属錯体を活性化する必要がある。具体的には、特許文献2では、有機金属錯体の還元温度以上に加熱した高圧容器内で、加圧流体と高分子繊維基材とを接触させたり、あるいは高圧容器内に還元剤を供給することにより、有機金属錯体を金属物質に還元している。このようにして還元された金属物質は高圧二酸化炭素に対する溶解性が低いため、高分子基材の内部に金属物質を固定化することができる。
【0008】
しかしながら、上記のような高圧容器内に有機金属錯体を含有する加圧流体が含まれた状態で還元処理が行われると、高分子基材に浸透していない遊離の有機金属錯体も還元されて金属物質になる。そのため、高価な有機金属錯体を回収することができず、高コストになるという問題がある。また、加圧流体中の有機金属錯体が還元されて金属物質になると、該金属物質は高圧二酸化炭素への溶解性に劣るため、高分子基材の内部に金属物質を浸透させることが難しく、めっき反応に必要な量のめっき触媒を高分子基材の内部に確保することができない。さらに、上記の活性化工程によれば、加圧流体中の遊離の有機金属錯体が還元されて生成される金属物質が高分子基材の最表面に多量に付着する。そのため、このような最表面に金属物質が多量に付着した高分子基材に無電解めっき処理が行われた場合、アンカー効果の少ない高分子基材の最表面からめっき膜が成長し、密着性に優れためっき膜を形成できないという問題がある。
【0009】
上記観点から、高分子基材に有機金属錯体を浸透させた後、還元処理前に高圧容器から加圧流体を排出して、高圧容器を大気開放する減圧工程を設けることが考えられる。この場合、有機金属錯体の還元処理前に加圧流体が排出されるため、排出した加圧流体から有機金属錯体を回収することができる。しかしながら、有機金属錯体は高圧二酸化炭素に対して溶解度が高い反面、高分子基材に対する親和性が低い。また、有機金属錯体は高圧二酸化炭素が存在する高圧条件下でなければ、高分子基材に浸透させておくことが難しい。そのため、高圧容器から加圧流体を排出する際に、高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体が高分子基材から脱け出し、加圧流体とともにめっき反応に必要な量の有機金属錯体も排出されてしまう。その結果、高分子基材の内部の有機金属錯体の量が低下するという問題がある。特に、被めっき物として高分子繊維基材やシート状の樹脂成形体などの薄肉の高分子基材が用いられる場合、その厚さに起因してこれらの高分子基材に浸透させることができる有機金属錯体の量は必然的に少なくなる。また、上記のような薄肉の高分子基材を被めっき物として用いた場合、有機金属錯体を浸透させた後、高圧容器を大気開放させると、加圧流体を排出に伴って、高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体がより脱離しやすくなる。従って、これらの薄肉の高分子基材を用いた場合、極めて低い密着力を有するめっき膜しか形成できないという問題がある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて表面改質された高分子基材に無電解めっき処理を行う場合に、加圧流体中に含まれるめっき反応に不要な有機金属錯体を回収することができるとともに、密着性に優れためっき膜を形成可能なめっき前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、高圧容器内で、高分子基材と、有機金属錯体及び高圧二酸化炭素を含有する加圧流体とを、前記有機金属錯体の還元温度未満で接触させて、前記有機金属錯体を前記高分子基材に浸透させ、
前記高分子基材と前記加圧流体とを接触させた高圧容器に、前記有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させて、前記高圧容器内の前記加圧流体を希釈し、
前記高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた状態で、前記高分子基材に浸透させた有機金属錯体を還元する、高分子基材のめっき前処理方法である。
【0012】
上記前処理方法によれば、高圧容器内で、高分子基材と有機金属錯体を含有する加圧流体とを、有機金属錯体の還元温度未満で接触させることにより、高分子基材に有機金属錯体を浸透させることができる。そして、該加圧流体が供給された高圧容器内に、有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させることにより、高圧容器内の加圧流体が希釈されるから、排出された加圧流体から高分子基材に浸透していない未還元状態の有機金属錯体を回収することができる。また、上記加圧流体の希釈にあたって、高圧の二酸化炭素が使用されているから、高圧容器を大気開放する場合に比べて、加圧流体の排出に伴う高分子基材に浸透した有機金属錯体の脱離を抑えることができる。さらに、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器に流動させることにより、高分子基材の最表面に付着した有機金属錯体の量を低減することができる。そして、上記希釈後に、高圧容器を大気開放することなく、高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた状態で、高分子基材に浸透させた有機金属錯体が還元されるから、還元時における高分子基材の内部に浸透させた有機金属錯体の脱離も少ない。これにより、高分子基材の内部に高濃度でめっき触媒となる金属物質を固定化することができる。従って、この前処理を行った高分子基材を無電解めっき処理すれば、最表面からのめっき膜の成長が抑えられ、高分子基材の内部から成長した高い密着力を有するめっき膜を形成することができる。
【0013】
上記前処理方法において、前記高分子基材としては、高分子繊維基材またはシート状の樹脂成形体を用いることができる。これらの高分子基材は薄肉であるため、有機金属錯体を高分子基材に多量に浸透させることができないが、本発明によれば、このような高分子基材に対しても密着性に優れためっき膜を形成することができる。
【0014】
上記前処理方法において、前記高分子基材と加圧流体との接触前に、前記高分子基材と還元剤とを予め接触させてもよい。上記前処理方法によれば、有機金属錯体が高分子基材に浸透した際に、高分子基材の内部に予め付与した還元剤により有機金属錯体が還元されるから、還元された金属物質を高分子基材の内部に固定化することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のめっき前処理方法によれば、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いて表面改質された高分子基材に無電解めっき処理を行う場合に、密着性に優れためっき膜を、低コストで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施例で用いられる製造装置を示す概略模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施例で用いられる巻回体の一例を示す概略模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施例で用いられる巻回体の他の一例を示す概略模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施例3で形成しためっき膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、図4の拡大写真である。
【図6】図6は、比較例2で形成しためっき膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、図6の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施の形態の高分子基材のめっき前処理方法について具体的に説明する。
【0018】
本実施の形態の高分子基材のめっき前処理方法は、高分子基材を配置した高圧容器内に、有機金属錯体及び高圧二酸化炭素を含有する加圧流体を供給し、高圧容器内で、高分子基材と加圧流体とを有機金属錯体の還元温度未満で接触させて、有機金属錯体を高分子基材に浸透させる浸透工程を有する。めっき触媒となる金属物質は高圧二酸化炭素に対する溶解性が低いが、有機金属錯体は高圧二酸化炭素に対して高い溶解性を有するため、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を用いることにより、環境負荷の大きな六価クロム酸などの酸化剤を含有するエッチング液を用いたエッチング処理を行うことなく、有機金属錯体を高分子基材に効率的に浸透させることができる。また、高圧二酸化炭素を用いることにより、有機金属錯体を高分子基材の内部に浸透させることができるため、エッチング成分がない樹脂材料からなる高分子基材にも無電解めっき処理によりめっき膜を形成することができる。さらに、高分子基材と加圧流体との接触は、有機金属錯体の還元温度未満で行われるため、有機金属錯体が金属物質に還元されていない未還元の状態で、有機金属錯体を高分子基材に浸透させることができる。これにより、後の有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器内に有機金属錯体の還元温度未満で流動させることにより、めっき反応に不要な有機金属錯体を回収することができる。
【0019】
有機金属錯体としては、浸透工程において高圧二酸化炭素に溶解性を有し、還元工程においてめっき触媒となる金属物質に還元されるものであれば特に制限されない。具体的には、パラジウム、白金、ニッケル、銅、銀などの金属を含む有機金属錯体が挙げられる。このような有機金属錯体としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して用いてもよい。これらの中でも、フッ素を配位子として有する有機金属錯体は高圧二酸化炭素に優れた溶解性を有しており、フッ素を含有しない有機金属錯体に比べて、高圧二酸化炭素への溶解度が二桁以上高い。従って、このようなフッ素を配位子として有する有機金属錯体を使用することにより、数分間〜数十分間で高圧容器内の有機金属錯体の濃度を高くすることができる。また、このような溶解性に優れる有機金属錯体を使用することにより、超臨界状態の高圧二酸化炭素を用いなくとも、有機金属錯体が溶解した加圧流体を調製することができる。これにより、浸透工程における処理時間を短くできるとともに、製造装置における負担を軽減することができる。
【0020】
高圧二酸化炭素としては、液体状態、ガス状態、または超臨界状態の二酸化炭素を用いることができる。このような高圧の二酸化炭素を使用することにより、高圧条件下で高分子基材に有機金属錯体を浸透させることができる。本実施の形態において、高圧二酸化炭素としては、超臨界状態の二酸化炭素を用いてもよいが、既述したように、高圧二酸化炭素に優れた溶解性を有する有機金属錯体が触媒成分として使用されるため、超臨界状態にない高圧二酸化炭素を用いることができる。従って、高圧二酸化炭素は、臨界点(温度が31℃以上、圧力が7.38MPa以上の超臨界状態)以上に加圧された二酸化炭素を用いてもよいし、臨界点より低圧力で加圧された二酸化炭素を用いてもよい。より具体的には、高圧二酸化炭素の圧力は、5〜30MPaが好ましい。圧力が5MPa未満の場合、高圧二酸化炭素の密度が低下する傾向がある。一方、圧力が30MPaより高い場合、高耐圧の製造装置が必要となり、コスト高となる。また、高圧二酸化炭素の温度は、加圧流体中における有機金属錯体の還元を防止するため、有機金属錯体の還元温度未満であることが好ましい。さらに、高圧二酸化炭素の密度は、0.10〜0.99g/cmが好ましい。
【0021】
有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体の調製にあたっては、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ポンプなどの加圧手段により液体二酸化炭素を加圧し、加圧した高圧二酸化炭素を有機金属錯体が投入されている溶解槽に供給し、該有機金属錯体と高圧二酸化炭素とを有機金属錯体の還元温度未満で混合することによって加圧流体を調製することができる。加圧流体中の有機金属錯体の濃度は、特に限定されるものではないが、飽和濃度未満が好ましく、30〜1,000mg/Lがより好ましい。有機金属錯体の濃度が余りに高いと、高圧容器内の圧力変化により、加圧流体から有機金属錯体が析出しやすい。この析出した有機金属錯体は加圧流体に溶解していないため、高分子基材に浸透せず、不要な有機金属錯体となる。また、高分子基材の最表面に付着する有機金属錯体の量が増加して、めっき膜が高分子基材の最表面から成長し、密着性が低下しやすい。
【0022】
高分子基材を構成する樹脂材料は特に制限されず、任意の樹脂材料を使用することができる。例えば、高分子基材として樹脂成形体を用いる場合、樹脂成形体を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などを用いることができる。これらの中でも、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂の種類は任意であり、非晶性、結晶性いずれも使用できる。例えば、ポリエステル系樹脂;ナイロン系樹脂;ポリプロピレン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;アモルファスポリオレフィン系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂;液晶ポリマー;ABS系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリフタルアミド系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリ乳酸等の生分解性プラスチックなどを用いることができる。また、これらの樹脂の複合材料を用いてもよい。さらに、これらの樹脂に、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン、ミネラルなどの各種無機フィラー等を混練した樹脂材料を用いることもできる。これらの中でも、加圧流体の浸透性に優れるナイロン系樹脂が好ましい。また、例えば、高分子基材として高分子繊維基材を用いる場合、高分子繊維基材を構成する繊維材料としては、植物繊維や動物繊維などの天然繊維;レーヨンやキュプラなどの再生繊維;アセテートなどの半合成繊維;合成繊維などが挙げられる。合成繊維としては、ナイロン系繊維;アラミド系繊維;ポリアクリル系繊維;ポリエステル系繊維;ポリウレタン系繊維;ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維;ポリ塩化ビニル系繊維;ポリ塩化ビニリデン系繊維;ポリビニルアルコール系繊維などが挙げられる。これらは、単独でまたは複数併用してもよい。これらの中でも、加圧流体及び無電解めっき液の浸透性に優れるナイロン系繊維、及びアラミド系繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。このようなナイロン系繊維としては、例えば、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9Tなどが挙げられる。アラミド系繊維としては、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維いずれも制限なく使用することができる。メタ系アラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(例えば、デュポン社製,ノーメックス)などが挙げられる。また、パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(例えば、東レ・デュポン社製,ケブラー)、コポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(例えば、帝人株式会社製,テクノーラ)などが挙げられる。
【0023】
特に、本実施の形態の前処理方法は、高分子基材として高分子繊維基材またはシート状の樹脂成形体を用いる場合に、その効果が大きい。すなわち、これらの高分子基材は薄肉であるため、肉厚の板状の樹脂成形体と比べて、高分子基材の内部に浸透させることができる有機金属錯体の量が少ない。また、有機金属錯体を高分子基材の内部に浸透させても、浸透工程後、加圧流体を排出して高圧容器を大気開放すると、加圧流体とともに高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体の大半が容易に排出されてしまう。その結果、めっき反応に必要な有機金属錯体の量をこれらの薄肉の高分子基材の内部に確保することができず、優れた密着性を有するめっき膜を形成することが難しい。これに対し、本実施の形態の前処理方法では、浸透工程後に高圧容器内に高圧二酸化炭素を流動させているため、加圧流体を希釈しても有機金属錯体が薄肉の高分子基材の内部に留まり、また高圧容器を大気開放する場合に比べて、薄肉の高分子基材からの有機金属錯体の脱離が抑えられる。従って、高分子繊維基材またはシート状の樹脂成形体を高分子基材として用いても、内部に有機金属錯体を高濃度で有する高分子基材を得ることができる。このため、本実施の形態の前処理方法によれば、例えば、50μm以下の繊維径を有する高分子繊維基材や200μm以下の厚さを有するシート状の樹脂成形体にも高い密着力を有するめっき膜を形成できる。
【0024】
本実施の形態において、高分子基材は、浸透工程前に、還元剤が付与されていてもよい。浸透工程前に高分子基材と還元剤を含有する還元剤含有水溶液とを接触させて還元剤を付与する還元剤付与工程を設けることにより、浸透工程において高分子基材に浸透してくる有機金属錯体が還元剤含有水溶液と接触し、高分子基材の内部で有機金属錯体の一部が高圧二酸化炭素への溶解性に劣る金属物質に還元される。そのため、浸透工程や後の希釈工程において高分子基材に高圧二酸化炭素が浸透してきても、高分子基材からの有機金属錯体の脱離を低減することができる。そして、高分子基材に浸透していない加圧流体中の遊離の有機金属錯体は還元剤と接触しないため、金属物質に還元されることもない。このため、希釈工程において、高圧容器内の加圧流体を希釈することにより、不要な有機金属錯体を回収することができるとともに、無電解めっき工程において、効率的にめっき反応を生じさせることができる。
【0025】
上記還元剤付与工程は、高分子基材を還元剤を含有する還元剤含有水溶液に浸漬することにより行うことができる。このような還元剤としては、無電解めっき処理に用いられる還元剤と同様のものを用いることができる。具体的には、例えば、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、及びフェノール類からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。還元剤付与工程は常圧下で行うことができる。また、還元剤付与工程は、常温下で行ってもよいし、高分子基材への還元剤含有水溶液の浸透を促進するために、加温下で行ってもよい。加温する場合、高分子基材を構成する樹脂材料にもよるが、温度は水の沸点である100℃未満が好ましい。還元剤含有水溶液中の還元剤の濃度は、使用する還元剤の種類や高分子基材を構成する樹脂材料の種類にもよるため、特に限定されるものではないが、通常0.1〜10vol%である。なお、還元剤付与工程においては、高分子基材と還元剤含有水溶液とを接触させた後、高分子基材を洗浄液で洗浄することが好ましい。洗浄により、高分子基材の表面に付着した還元剤が除去されるため、浸透工程において高分子基材の最表面での有機金属錯体の還元が抑えられ、無電解めっき工程における最表面からのめっき反応の進行を抑えることができる。このような洗浄液としては、具体的には、例えば、水、アルコールなどが挙げられる。
【0026】
浸透工程において、高分子基材と、有機金属錯体を含有する加圧流体とを接触させる方法は、高分子基材に有機金属錯体を浸透させることができれば特に限定されない。例えば、高分子基材を高圧容器に配置し、有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体を高圧容器に供給し、高分子基材と加圧流体とを接触させることにより、有機金属錯体を高分子基材に浸透させることができる。高分子基材として高分子繊維基材やシート状の樹脂成形体を用いる場合、多数の貫通孔を有する筒型のメッシュ部材に高分子基材を巻回した巻回体を高圧容器に配置してもよい。このような筒型のメッシュ部材としては、アルミ製のメッシュ部材、SUS製のメッシュ部材を用いることができる。また、これらの高分子基材を用いる場合、無機物から形成されているセパレータを介して高分子基材を巻回した巻回体を高圧容器に配置してもよい。このような無機物から形成されているセパレータとしては、具体的には、例えば、アルミ製のメッシュシート、SUS製のメッシュシート、ガラスクロスなどが挙げられる。加圧流体はこれらのセパレータを通過できるので、拡散性の高い加圧流体がセパレータを介して高分子基材の全表面に均一に拡散して浸透する。これにより、得られる高分子基材へのダメージを低減できるとともに、高分子基材に有機金属錯体を凝集の少ない状態で浸透させることができる。
【0027】
浸透工程において、高圧容器内の圧力は、供給される加圧流体の圧力によるが、5〜30MPaが好ましい。このような高圧条件下で高分子基材と加圧流体とを接触させることにより、効率的に有機金属錯体を高分子基材に浸透させることができる。また、浸透工程において、高分子基材と、有機金属錯体を含有する加圧流体とを接触させるときの高圧容器内の温度は上記したように有機金属錯体の還元温度未満であり、有機金属錯体の還元温度より10℃以上低いことが好ましい。なお、有機金属錯体の還元温度は、窒素雰囲気下で示差走査熱量計(DSC)を用いて有機金属錯体の分解開始温度を測定することにより求めることができる。高圧容器内の温度が有機金属錯体の還元温度以上である場合、高圧容器内に加圧流体が供給されたときに、加圧流体中の遊離の有機金属錯体が高圧二酸化炭素への溶解性に劣る金属物質に還元されるため、加圧流体中の有機金属錯体の濃度が低下する。そのため、高分子基材に浸透する有機金属錯体の量が減少する。また、遊離の有機金属錯体が還元されて金属物質となるため、有機金属錯体の回収率が低下する。さらに、加圧流体中の遊離の有機金属錯体が上記のような金属物質まで還元されると、高分子基材の最表面に還元された金属物質が多量に付着した状態の高分子基材が形成されるため、後の無電解めっき処理で、高分子基材の最表面からめっき膜が成長しやすく、それゆえ高いアンカー効果を有する高分子基材の内部からのめっき膜が形成され難くなる。このため、めっき膜の密着性が低下する。
【0028】
次に、上記のようにして有機金属錯体を浸透させた高分子基材を収容した高圧容器に、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させ、有機金属錯体の還元温度未満で、高圧容器内の加圧流体を希釈する希釈工程が行われる。
【0029】
浸透工程後の高圧容器に、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させることにより、高圧容器内の加圧流体と有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素とが混合され、高圧容器内の加圧流体に含まれる有機金属錯体の濃度が希釈されながら、高分子基材に浸透していない遊離の有機金属錯体を含む加圧流体が高圧容器から排出される。そして、浸透工程及び希釈工程はいずれも、有機金属錯体の還元温度未満で行われるから、排出される加圧流体中に含まれる有機金属錯体は金属物質に還元されていない未還元状態で回収される。このため、回収された有機金属錯体は再利用可能であり、これにより製造コストを削減することができる。
【0030】
また、高圧容器内に有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させることにより、高圧容器内の加圧流体に含まれる有機金属錯体の濃度が希釈されるから、高分子基材の最表面に付着する有機金属錯体の量を減少させることができる。これにより、高分子基材の最表面よりも内部で有機金属錯体の濃度が高くなり、高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体を利用して、めっき反応を起こさせることができる。すなわち、めっき膜の密着力は、めっき膜が樹脂成分に食い込むことによる物理的なアンカー効果に起因する。従って、高い密着力を得るためには、表面内部のめっき触媒を触媒核としてめっき膜を成長させる必要がある。しかしながら、高分子基材を無電解めっき液に浸漬した場合、無電解めっき液は高分子基材の表面から浸透していくため、高分子基材の最表面にめっき触媒が多量に付着していると、無電解めっき液が高分子基材の内部に十分に浸透する前にめっき反応が開始する。そのため、高分子基材の最表面のめっき膜の密度は高くなるが、高分子基材の内部で樹脂成分に食い込んだ状態のめっき膜が形成され難い。その結果、高いアンカー効果を得ることができず、まためっき反応も不均一となりやすい。このため、得られるめっき膜の密着力が低下したり、密着力のばらつきが発生しやすい。これに対して、上記のように浸透工程後に、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器内に流動させれば、高圧容器内の加圧流体に含まれる有機金属錯体の濃度が希釈されるため、高分子基材の最表面に存在する有機金属錯体の量を低下させることができ、最表面よりも内部に有機金属錯体を多く含有する高分子基材を得ることができる。そのため、この高分子基材を還元処理して有機金属錯体を金属物質に還元すれば、高分子基材の内部からめっき膜を成長させることができる。これにより、有機金属錯体を多量に浸透させることが困難な高分子繊維基材またはシート状の樹脂成形体に対しても、優れた密着性を有するめっき膜を形成することができる。
【0031】
有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器に流動させる条件は、高圧容器内の加圧流体に含まれる有機金属錯体の濃度が希釈できれば特に限定されないが、浸透工程で高圧容器内に供給された有機金属錯体の供給量に対して、希釈工程で有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素の流動によって回収される有機金属錯体の回収量との比(回収率)が25〜90質量%となるように、加圧流体を希釈することが好ましい。特に、回収率が50〜75質量%であれば、より高い密着力を有するめっき膜を均一に形成することができる。回収率が25質量%より少ないと、高圧容器内に多量の有機金属錯体が残存するため、後の還元工程において高分子基材に浸透していない遊離の有機金属錯体が金属物質に還元され、効率的に有機金属錯体を回収できないこととなる。また、高分子基材の最表面に有機金属錯体が多量に付着した状態で有機金属錯体が還元されるため、最表面からめっき反応が生じ、得られるめっき膜の密着力が低下する傾向にある。一方、回収率が95質量%より多いと、希釈工程において高分子基材の内部に浸透させた有機金属錯体が高分子基材から多量に脱離して、高分子基材の内部の有機金属錯体の量が低下する。そのため、めっき反応が十分に生ぜず、めっき膜の密着性が低下しやすい。
【0032】
希釈工程において高圧容器内を流動させる高圧二酸化炭素は、浸透工程で用いた高圧二酸化炭素と同様の圧力を有するものを使用することができる。また、希釈工程における高圧容器内の温度は、上記したように有機金属錯体の還元温度未満であり、有機金属錯体の還元温度より10℃以上低いことが好ましい。高圧容器内の温度が有機金属錯体の還元温度以上である場合、高圧容器内で高分子基材に浸透していない遊離の有機金属錯体が金属物質に還元されるため、浸透工程の場合と同様に、有機金属錯体の回収量が減少し、不経済となるとともに、めっき膜の密着性が低下する傾向にある。なお、希釈工程における高圧容器内の温度は、浸透工程における高圧容器内の温度を維持することが好ましい。特に、浸透工程における高圧容器内の温度よりも希釈工程における高圧容器内の温度が低下すると、高圧容器内の圧力が低下して、高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体が脱離しやすくなる。
【0033】
次に、上記のようにして高圧容器内に有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させた後、高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた状態で、高分子基材に浸透させた有機金属錯体を金属物質に還元する還元工程が行われる。これにより、高分子基材の内部に浸透させた有機金属錯体が金属物質に還元され、該還元された金属物質を高分子基材の内部に固定化することができる。また、高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた状態の加圧下で還元処理が行なわれるから、従来の高圧容器を大気開放する場合に比べて、高圧二酸化炭素の排出に伴う有機金属錯体の高分子基材からの脱離を抑えることができる。
【0034】
還元工程は、高圧容器を有機金属錯体の還元温度以上に加熱することにより行ってもよいし、高圧容器に還元剤を供給することにより行ってもよい。また、これらの還元処理を併用してもよい。熱還元処理を行う場合、高圧容器内の温度は、有機金属錯体の還元温度以上であれば限定されないが、還元を促進するために、有機金属錯体の還元温度よりも10℃以上高いことが好ましい。なお、熱還元処理を行う場合、高分子基材の樹脂材料へのダメージを抑えるために、高圧容器内の温度は樹脂材料の分解開始温度未満が好ましい。また、還元剤による還元処理を行う場合、還元剤としては、上述した還元剤付与工程で用いられる還元剤と同様のものを用いることができる。これらの中でも、ニッケル−リンめっき膜を形成する場合、還元剤は、次亜リン酸、及び次亜リン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。還元剤による還元処理を行う場合、還元剤を溶解させた高圧二酸化炭素を高圧容器内に供給する必要がある。しかしながら、還元剤は水が周囲に存在しなければ有機金属錯体の還元作用が得られないのに対し、水の高圧二酸化炭素に対する溶解性は低い。従って、還元剤を含有する水溶液を高圧二酸化炭素に溶解させることが困難となる。このため、還元剤により還元処理を行う場合、還元剤、水、及びアルコールを高圧二酸化炭素に溶解させた還元剤含有流体を高圧容器に供給することが好ましい。アルコールは水との相溶性が高く、また高圧二酸化炭素にも優れた溶解性を有し、さらに高分子基材への浸透性にも優れるため、還元剤を高分子基材に円滑に浸透させることができ、高分子基材の内部で有機金属錯体を金属物質に効率的に還元することができる。アルコールの種類は任意であるが、高分子基材への浸透性を考慮すると、表面張力が低いアルコールが望ましい。具体的には、20℃において、水の表面張力(73dyn/cm)よりも低い表面張力を有するアルコールが好ましく、40dyn/cm以下の表面張力を有するアルコールがより好ましい。また、アルコールの分子量が大きいと高分子基材に浸透し難くなるため、150以下の分子量を有するアルコールが好ましく、120以下の分子量を有するアルコールがより好ましい。これらの条件を満たすアルコールとしては、具体的には、例えば、エタノール(分子量:46.1,表面張力:22.3dyn/cm)、1−プロパノール(分子量:60.1,表面張力:23.8dyn/cm)、2−プロパノール(分子量:60.1,表面張力:21.7dyn/cm)、2−メトキシエタノール(分子量:76.1,表面張力:31.8dyn/cm)、2−エトキシエタノール(分子量:90.1,表面張力:28.2dyn/cm)、1−メトキシ−2−プロパノール(分子量:90.1,表面張力:27.1dyn/cm)、1−エトキシ−2−プロパノール(分子量:104.2,表面張力:25.9dyn/cm)、1,3−ブタンジオール(分子量:90.1,表面張力:37.8dyn/cm)、tert−ブチルアルコール(分子量:74.1,表面張力:19.5dyn/cm)、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール(分子量:134.2,表面張力:31.3dyn/cm)、1−プロポキシ−2−プロパノール(分子量:118.2,表面張力:25.9dyn/cm)、2(2−メトキシプロポキシ)プロパノール(分子量:148.2,表面張力:28.8dyn/cm)などが挙げられる。これらは単独でも複数混合して用いてもよい。アルコールの含有量は任意であるが、水とアルコールとの合計量に対して、35〜65vol%が望ましい。
【0035】
還元工程における高圧容器内の圧力は、高分子基材からの有機金属錯体の脱離を低減するため、5〜30MPaが好ましい。
【0036】
以上の前処理方法により金属物質を高分子基材に固定化することができ、この金属物質をめっき触媒として利用することによりめっき膜を形成することができる。そして、本実施の形態の前処理方法によれば、希釈工程により高分子基材の最表面の有機金属錯体の量が低減されているため、該高分子基材を無電解めっき処理することにより、内部から成長した高いアンカー効果を有するめっき膜を形成することができる。
【0037】
無電解めっき処理を行う場合、無電解めっき液としては、従来公知のめっき液を使用することができる。具体的には、例えば、ニッケル−リンめっき液、ニッケル−ホウ素めっき液、パラジウムめっき液、銅めっき液、銀めっき液、コバルトめっき液などが挙げられる。また、無電解めっき液は、アルコールを含有することが好ましい。無電解めっき液にアルコールを含有させることで無電解めっき液の表面張力を低下させることができ、常圧下の無電解めっき処理であっても、無電解めっき液が高分子基材に円滑に浸透できる。また、アルコールはめっき膜の成長を遅らせる還元剤として作用するので、高分子基材の表面に無電解めっき液が浸透し始めた時点で、最表面におけるめっき反応を遅らせることができる。その結果、形成された無電解めっき膜は、高分子基材の内部で成長し、高い密着強度を有する。無電解めっき液に混合されるアルコールとしては、上記の還元工程で使用されるアルコールと同様のものを使用することができる。無電解めっき液中のアルコールの含有量は任意であるが、20〜60vol%が好ましい。
【0038】
本実施の形態において、無電解めっき工程は、還元工程後、高圧容器を大気開放し、高圧容器から取り出した高分子基材を、常圧下で無電解めっき液に浸漬することにより行うことができる。すなわち、本実施の形態の前処理方法によれば、高圧容器内で有機金属錯体が金属物質に還元されており、該金属物質は有機金属錯体よりも高分子基材に対して高い親和性を有するとともに、高圧二酸化炭素に対する溶解性が低い。そのため、この金属物質が固定化された高分子基材を高圧容器から取り出す際に、高圧二酸化炭素が排出されても、高分子基材からの金属物質の脱離が少ない。従って、常圧下に高分子基材を取り出しても、内部に金属物質が固定化された状態の高分子基材に無電解めっき処理を行うことができる。無電解めっき工程における処理温度は、めっき反応が生ずる温度以上であれば特に限定されない。なお、無電解めっき工程は上記したように常圧下で行えるため、高圧二酸化炭素を使用する必要がない。そのため、圧力や温度変化による無電解めっき液の濃度変化などが少ない均一なめっき浴を調製することができる。これにより、めっき反応のばらつきをさらに抑えることができ、密着力のばらつきの少ないめっき膜を形成することができる。
【0039】
本実施の形態においては、無電解めっき工程は複数回行ってもよい。例えば、上記のアルコールを含有する無電解めっき液を用いて無電解めっき処理を行った後、さらに水系の無電解めっき液を用いた無電解めっき処理を行なってもよい。また、無電解めっき膜の上に、電解めっき膜を積層してもよい。
【0040】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
本実施例では、高分子基材として、アラミド繊維(帝人株式会社製,テクノーラ,単繊維直径:12μmφ)を用い、有機金属錯体として、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
【0042】
(還元剤付与工程)
還元剤付与工程では、高分子基材を還元剤を含有する還元剤含有水溶液に浸漬する。本実施例では、アラミド繊維を80℃の次亜リン酸水溶液(次亜リン酸濃度:6質量%)に常圧下で、30分間浸漬させた。浸漬後、アラミド繊維を取り出し、アラミド繊維表面に付着した次亜リン酸を除去するため、アラミド繊維を水中で1分間超音波洗浄した。その後、さらに、表面に付着した還元剤を十分に除去するため、水で洗浄したアラミド繊維を70℃のエタノールに、常圧下で、15秒間浸漬させた。浸漬後、アラミド繊維を取り出し、乾燥エアによりアラミド繊維表面に付着したエタノールを除去し、さらに大気中で5分間乾燥させた。
【0043】
(浸透工程)
次に、上記のようにして還元剤を付与した高分子基材に有機金属錯体を浸透させるため、高圧容器内で有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた加圧流体と高分子基材とを有機金属錯体の還元温度未満で接触させる浸透工程が行なわれる。図1は本実施例で用いた製造装置を示す概略模式図である。図1に示すように、この製造装置は、液体二酸化炭素ボンベ1と、液体二酸化炭素を所定の圧力に加圧して高圧二酸化炭素を供給するためのシリンジポンプ2と、高分子基材が収容された高圧容器3と、高圧容器3から排出される加圧流体を回収し、有機金属錯体と高圧二酸化炭素とを分離するための分離回収機4と、分離された有機金属錯体を回収する回収槽5とを備えている。液体二酸化炭素ボンベ1とシリンジポンプ2とを接続する配管L1には、手動ニードルバルブV1が配設されており、シリンジポンプ2と高圧容器3とを接続する配管L2には、上流側から順に、圧力計P1、逆止弁S、及び手動ニードルバルブV2が配設されている。また、シリンジポンプ2と高圧容器3とを接続する配管L2には、手動ニードルバルブV2の上流側及び下流側で分岐管L3が接続されており、該分岐管L3には、上流側から順に、手動ニードルバルブV3、有機金属錯体が収容された溶解槽6、及び手動ニードルバルブV4が介設されている。さらに、高圧容器3と分離回収機4とを接続する配管L4には、上流側から順に、圧力計P2、手動ニードルバルブV5、及び背圧弁Vbが配設されている。
【0044】
高圧二酸化炭素を溶解槽6に供給する際には、液体二酸化炭素ボンベ1の手動ニードルバルブV1を開放し、シリンジポンプ2を圧力一定モードに設定して、液体二酸化炭素ボンベ1から液体二酸化炭素を吸引する。そして、圧力計P1で検出される圧力が所定の圧力となるようにシリンジポンプ2で二酸化炭素を昇圧する。本実施例では、液体二酸化炭素ボンベ1から4〜6MPaの液体二酸化炭素を吸引し、シリンジポンプ2によって圧力計P1で検出される圧力が15MPaとなるように二酸化炭素を昇圧した。なお、浸透工程においては、高圧二酸化炭素のみが高圧容器3に供給されないよう、手動ニードルバルブV2は閉鎖されている。
【0045】
所定圧力まで二酸化炭素が昇圧された後、手動ニードルバルブV3を開放し、所定温度に温調された溶解槽6に高圧二酸化炭素を供給する。これにより、溶解槽6中に収容された有機金属錯体が高圧二酸化炭素に溶解され、加圧下で有機金属錯体を含有する加圧流体が調製される。本実施例では、溶解槽6に100mgのヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を収容し、溶解槽6を50℃に温調して、図示しない撹拌装置を用いて撹拌しながら有機金属錯体を高圧二酸化炭素に溶解させた。なお、有機金属錯体が均一に溶解した加圧流体を高圧容器3に供給するため、浸透工程中、溶解槽6中の加圧流体の撹拌を継続した。
【0046】
図1及び2に示すように、高圧容器3内には、高分子基材であるアラミド繊維21を筒型のメッシュ部材22に巻回した巻回体20が収容されている。この筒型のメッシュ部材22は筒部の側面に多数の貫通孔を有しており、筒型のメッシュ部材22の内部を透過した加圧流体も高分子基材の表面と接触するように構成されている。本実施例では、還元剤を付与したアラミド繊維を10mの長さに裁断し、これをSUS製の筒型のメッシュ部材(直径:1.5cmφ,長さ:10cm)に巻回した巻回体20を高圧容器3内に配置した。なお、高圧容器3は図示しない温調機を備えており、これにより有機金属錯体の還元温度未満で高圧容器3が温調される。本実施例では、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)の還元温度である73℃より10℃以上低い50℃に高圧容器3を温調した。
【0047】
高圧容器3に加圧流体を供給する際には、手動ニードルバルブV4を開放する。これにより、高圧容器3に一定圧力の加圧流体が供給され、高圧容器3内で加圧流体が高分子基材と接触し、有機金属錯体が高分子基材に浸透する。本実施例では、圧力15MPaの加圧流体を高圧容器3に供給して、圧力15MPaの高圧容器3内で加圧流体と高分子基材とを30分間接触させた。
【0048】
(希釈工程)
次に、浸透工程後、加圧流体が含まれている高圧容器に、有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させて、高圧容器内の加圧流体を希釈する希釈工程が行われる。
【0049】
高圧容器3内の加圧流体を希釈するためには、まず分岐管L3の手動ニードルバルブV3,V4を閉鎖し、高圧容器3の上流側及び下流側の配管L2,L4に配設されている手動ニードルバルブV2,V5を開放する。また、シリンジポンプ2を圧力一定モードから流速一定モードに変更し、有機金属錯体の還元温度未満の有機金属錯体を含有していない高圧二酸化炭素を、有機金属錯体の還元温度未満に温調された高圧容器3に一定時間送液する。このとき、シリンジポンプ2は流速一定モードで制御されているため、供給される高圧二酸化炭素により高圧容器3内の圧力が上昇する。そのため、圧力上昇分の加圧流体が排出されるように背圧弁Vbを所定圧力に設定する。これにより、高圧容器3内の圧力が一定に保持された状態で、高圧容器3内の有機金属錯体を含有する加圧流体が、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素によって希釈され、遊離の有機金属錯体を含む加圧流体が高圧容器3から分離回収機4に排出される。本実施例では、背圧弁Vbの圧力を15MPaに設定し、10℃の高圧二酸化炭素を流速10mL/minで、浸透工程と同様に50℃に温調した高圧容器3に10分間送液した。このとき、回収槽5に回収される有機金属錯体の回収量を計量した。
【0050】
(還元工程)
次に、希釈工程後、高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた加圧下で、高分子基材に浸透させた有機金属錯体を還元する還元工程が行われる。本実施例では、高圧容器3を有機金属錯体の還元温度以上に加熱する熱還元処理を行った。
【0051】
熱還元処理は、シリンジポンプ2を流速一定モードから圧力一定モードに再度変更し、高圧容器3を加熱することにより行うことができる。このとき、温度上昇に伴い高圧容器3内の圧力が上昇するため、圧力上昇分の高圧二酸化炭素が排出されるように背圧弁Vbを所定圧力に設定する。これにより、高圧容器3内の圧力が一定に保持される。本実施例では、温調機を用いて高圧容器3内の温度を50℃から150℃に上昇させた。また、背圧弁Vbの圧力を15MPaに設定して、高圧容器3内の圧力を15MPaに保持し、圧力上昇分の高圧二酸化炭素を排出しながら30分間熱還元処理を行った。熱還元処理後、背圧弁Vbの圧力を大気圧まで徐々に低下させ、高圧容器3を大気開放して、前処理を行った高分子基材を高圧容器3から取り出した。
【0052】
(無電解めっき工程)
次に、上記のようにして前処理した高分子基材を無電解めっき処理する無電解めっき工程が行われる。これにより、高分子基材に無電解めっき膜を形成することができる。本実施例では、前処理した高分子基材を、常圧下でアルコールを含有する無電解めっき液に浸漬する無電解めっき処理を行った。無電解めっき液は、エタノールと、硫酸ニッケルの金属塩、還元剤、及び錯化剤を含有するニッケル−リンめっき液(奥野製薬工業株式会社製,ニコロンDK)とを混合して調製した(無電解めっき液中のアルコールの含有量:50vol%)。上記の無電解めっき液を開放容器内に投入し、これに前処理した高分子基材を浸漬して、常圧下、70〜85℃で無電解めっき処理を行って、0.5μmの膜厚を有する無電解めっき膜を形成した。
【0053】
[実施例2]
希釈工程において、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素の送液時間を15分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、無電解めっき膜を形成した。
【0054】
[実施例3]
希釈工程において、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素の送液時間を30分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、無電解めっき膜を形成した。
【0055】
[実施例4]
希釈工程において、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素の送液時間を45分間に変更した以外は、実施例1と同様にして、無電解めっき膜を形成した。
【0056】
[実施例5]
本実施例では、高分子基材として、ナイロン6製のシート(三菱樹脂株式会社製,ダイアミロン,厚み:25μm,幅:40cm,長さ:20m)を用いた。浸透工程において、図3に示す筒型のメッシュ部材22にアルミ製のメッシュセパレータ23を介してシート21Aを巻回した巻回体20Aを用い、希釈工程において、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素の送液時間を30分間に変更した以外は、実施例1と同様にして無電解めっき膜を形成した。
【0057】
[比較例1]
浸透工程後、希釈工程を行なわずに、直ちに高圧容器を大気開放して高分子基材を高圧容器から取り出し、これを常圧下、電気炉を用いて150℃で熱還元処理した以外は、実施例1と同様にして無電解めっき処理を行ったが、めっき反応が進行せず、高分子基材に無電解めっき膜を形成することができなかった。なお、大気開放時に回収槽5に回収される有機金属錯体の回収量を計量した。
【0058】
[比較例2]
浸透工程において、高圧容器内の温度を150℃に変更して、有機金属錯体の還元を行いながら高分子基材に有機金属錯体を浸透させ、希釈工程及び還元工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして無電解めっき膜を形成した。
【0059】
[比較例3]
浸透工程後、希釈工程を行なわずに、直ちに還元工程を行った以外は、実施例1と同様にして無電解めっき膜を形成した。
【0060】
以上の実施例1〜5、及び比較例2〜3で無電解めっき膜を形成した各高分子基材について、無電解めっき膜の表面を目視により観察し、無電解めっき膜が欠陥なく高分子基材の全表面に形成されている場合を、○、高分子基材の表面の一部に無電解めっき膜が形成されていない場合を、△として評価した。
【0061】
次に、無電解めっき膜を形成した各高分子基材を用いて、常法の電解銅めっき処理(めっき浴:硫酸銅めっき浴,陽極:銅電極)を行い、無電解めっき膜上に、1.0μmの膜厚を有する電解めっき膜を積層した。この電解めっき膜を形成した各高分子基材を用い、以下のテープ剥離試験によるめっき膜の密着性、及びめっき膜の電気抵抗を測定した。これらの結果と、実施例及び比較例で回収された有機金属錯体の回収率を併せて表1に示す。
【0062】
〔密着性〕
JIS K 5600(25マス,1×1mm/マス)に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行い、めっき膜の密着性を評価した。剥離用テープとして、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を用い、指の腹でめっき膜にテープを密着後、テープを剥離した。剥離後、25マスの内、めっき膜の剥離がない場合を、○、一部剥離する場合を、△、完全に剥離する場合を、×として評価した。
【0063】
〔電気抵抗〕
デジタルマルチメータPC5000テスタ(三和電気計器株式会社製)を用いて、室温下で、めっき膜の電気抵抗を測定した。
【0064】
【表1】

【0065】
上記表1に示すように、加圧流体を用い、有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を高分子基材に浸透させた後、有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器に流動させることにより、未還元状態の有機金属錯体を回収できることが分かる。また、送液時間が長くなるに従って、高圧容器に供給された有機金属錯体の回収率が高くなることが分かる。そして、これら実施例の希釈工程において回収された有機金属錯体を再利用したところ、上記と同様に問題なくめっき膜を形成することができた。従って、有機金属錯体の還元温度未満の浸透工程及び希釈工程を組み合わせることにより、回収された有機金属錯体を再利用できることが確認された。
【0066】
これに対して、希釈工程を行なわず、浸透工程後、直ちに高圧容器を大気開放した場合、供給した有機金属錯体の殆どが回収された。これは、大気開放時に加圧流体の排出に伴って、高分子基材の内部に浸透した有機金属錯体が高分子基材から脱離したものと考えられる。また、従来と同様に、浸透工程において有機金属錯体の還元温度以上に高圧容器を加熱して、有機金属錯体を還元しながら高分子基材に有機金属錯体を浸透させた場合や、希釈工程を行なわずに、浸透工程後、直ちに高圧容器内で還元工程を行った場合、還元時の圧力上昇に伴って高圧容器から加圧流体が排出されたが、該加圧流体中には金属物質のみが含まれており、再利用可能な有機金属錯体は含まれていなかった。
【0067】
また、上記表に示すように、希釈工程で有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を高圧容器内に流動させた後、高分子基材に無電解めっき処理を行なうことにより、高分子繊維基材及びシート状の樹脂成形体いずれにも密着性に優れためっき膜を形成できることが分かる。特に、回収率が50〜75質量%となるように有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させることにより、優れた密着性と、低電気抵抗を有するめっき膜を形成できることが分かる。このため、これらのめっき膜は、高分子基材の内部からアンカー効果の高いめっき膜が均一に形成されていると考えられる。なお、実施例5で形成しためっき膜の密着強度は15N/cmであり、実用上問題のない密着力を有するめっき膜が形成されていることが確認された。
【0068】
これに対して、浸透工程後、直ちに高圧容器を大気開放して、常圧下で還元工程を行った場合、無電解めっき膜自体を形成することができなかった。これは、上記したように、浸透工程後、大気開放することにより、加圧流体の排出に伴って、高分子基材の内部に浸透させた有機金属錯体の殆どが排出されてしまい、高分子基材の内部で無電解めっき膜の形成に必要な触媒核となる有機金属錯体の量が低下したためと考えられる。また、浸透工程において、還元を行った場合や、希釈工程を行わずに、浸透工程後、直ちに高圧容器内で還元工程を行った場合、無電解めっき膜は形成できるが、めっき膜の密着力が非常に低く、容易に高分子基材からめっき膜が剥離することが分かる。また、形成されためっき膜の電気抵抗も非常に高いことが分かる。これは、高分子基材に浸透していない遊離の有機金属錯体が高圧容器内で還元されるため、めっき反応に必要な量の有機金属錯体を高分子基材の内部に十分に浸透させることができなかったことや、高分子基材の最表面に有機金属錯体が還元された金属物質が多量に付着し、アンカー効果の少ない最表面から無電解めっき膜が不均一に成長したためと考えられる。
【0069】
図4及び5に、実施例3でめっき膜を形成した高分子基材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を、図6及び7に比較例2でめっき膜を形成した高分子基材の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図5及び7はそれぞれ、図4及び6の高分子基材の表面部の拡大写真である。図4及び5に示すように、実施例3で形成しためっき膜は、高分子基材の表面で繊維材料とめっき膜とが混ざり合った混合部が形成されていることが分かる。このように、本実施例によれば、高分子基材の内部からめっき膜が形成されているため、優れた密着性が得られるものと考えられる。これに対して、図6及び7に示すように、比較例2で形成しためっき膜は、高分子基材の表面にめっき膜が形成されているが、めっき膜は繊維材料の最表面に積層されているだけであり、繊維材料の内部まで入り込んで形成されていないことが分かる。このため、密着力の低いめっき膜しか形成できなかったと考えられる。なお、図6及び7のSEM写真は、めっき膜と繊維材料との界面におけるめっき膜の形成状態を確認するため、めっき膜が繊維材料の表面を覆っている部分を選択して観察したものであるが、他の部分ではめっき膜が形成されていない欠陥部分が多数観察された。このため、この比較例のめっき膜は高い電気抵抗を示すものと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1 液体二酸化炭素ボンベ
3 高圧容器
20 巻回体
21 高分子基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧容器内で、高分子基材と、有機金属錯体及び高圧二酸化炭素を含有する加圧流体とを、前記有機金属錯体の還元温度未満で接触させて、前記有機金属錯体を前記高分子基材に浸透させ、
前記高分子基材と前記加圧流体とを接触させた高圧容器に、前記有機金属錯体の還元温度未満で、有機金属錯体を含有しない高圧二酸化炭素を流動させて、前記高圧容器内の前記加圧流体を希釈し、
前記高圧容器内に高圧二酸化炭素が含まれた状態で、前記高分子基材に浸透させた有機金属錯体を還元する、高分子基材のめっき前処理方法。
【請求項2】
前記高分子基材は、高分子繊維基材またはシート状の樹脂成形体からなる請求項1に記載の高分子基材のめっき前処理方法。
【請求項3】
前記高分子基材と前記加圧流体とを接触させる前に、前記高分子基材と還元剤とを接触させる請求項1または2に記載の高分子基材のめっき前処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−1576(P2011−1576A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143938(P2009−143938)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】