高分子成形体の製造方法及び高分子成形体
【課題】高分子鎖を配向させつつ、外面の平滑性を向上することのできる高分子成形体の製造方法、及び高分子鎖の配向に基づく熱伝導性能を発揮させることの容易な高分子成形体を提供する。
【解決手段】高分子成形体としての高分子フィルムは、光学異方性を発現している高分子溶液から製造される。高分子フィルムの製造方法は、高分子溶液を膜状に形成した高分子基体の高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、配向工程によって配向された高分子を凝固させることにより、高分子凝固体を得るための凝固工程とを含む。さらに、この製造方法は、高分子凝固体を乾燥させることにより、高分子凝固体を硬化する硬化工程を含む。硬化工程における高分子凝固体13には、多孔質板24が密着して配置される。この多孔質板24は通気性を有しているため、硬化工程では高分子凝固体13の多孔質板24を通じた乾燥が行われる。
【解決手段】高分子成形体としての高分子フィルムは、光学異方性を発現している高分子溶液から製造される。高分子フィルムの製造方法は、高分子溶液を膜状に形成した高分子基体の高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、配向工程によって配向された高分子を凝固させることにより、高分子凝固体を得るための凝固工程とを含む。さらに、この製造方法は、高分子凝固体を乾燥させることにより、高分子凝固体を硬化する硬化工程を含む。硬化工程における高分子凝固体13には、多孔質板24が密着して配置される。この多孔質板24は通気性を有しているため、硬化工程では高分子凝固体13の多孔質板24を通じた乾燥が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子鎖が配向された高分子成形体の製造方法及び高分子成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子鎖が配向された高分子成形体は、光学異方性を有する高分子溶液に対して、磁場又は電場を印加することにより得られている(特許文献1参照)。すなわち、磁場又は電場が印加された高分子溶液では、溶液中の高分子の分子鎖が高度に配向される。高分子成形体は、この高分子溶液を凝固することにより高分子凝固体を得た後に、この高分子凝固体を硬化することにより得られる。こうした高分子成形体では、高分子鎖の配向に伴って、熱的性質や力学的性質に代表される特性に関して、異方性が発現する。
【特許文献1】特開2004−107621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような高分子凝固体における高分子鎖の凝集力は、高分子鎖が配向している方向よりも、その方向に直交する方向において強くなる。このため、高分子凝固体は、高分子が配向している方向に対して直交する方向への収縮を伴って、硬化される。この結果、得られる高分子成形体の外面における平滑性が低下する傾向にある。特に、磁場又は電場によって高分子鎖が高度に配向されている高分子凝固体では、この高分子凝固体を硬化して高分子成形体を得るに際し、収縮する度合いが高まることで、得られる高分子成形体の外面における平滑性が低下し易い。このような平滑性の低下は、例えば発熱体から放熱体への熱伝導を高めるために、高分子成形体を発熱体と放熱体との間に介装する場合、発熱体や放熱体に対する高分子成形体の密着性の低下を招く。そして、このような密着性の低下は、発熱体から放熱体への熱抵抗を高め、その結果、高分子成形体の本来有する熱伝導性を発揮させることが困難となる。
【0004】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子鎖を配向させつつ、外面の平滑性を向上することのできる高分子成形体の製造方法、及び高分子鎖の配向に基づく熱伝導性能を発揮させることの容易な高分子成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、光学異方性を発現している高分子溶液に対して磁場又は電場を印加することにより、前記高分子溶液における高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、該配向工程によって配向された高分子を凝固することにより高分子凝固体を得るための凝固工程と、該高分子凝固体を硬化することにより、高分子成形体を得るための硬化工程とを含み、前記高分子溶液から前記高分子成形体を製造する高分子成形体の製造方法であって、前記硬化工程では、通気性を有するとともに前記高分子凝固体を加圧する加圧体が、前記高分子凝固体に密着して配置された状態において、前記高分子凝固体の前記加圧体を通じた乾燥が行われることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程における加圧の圧力が、0.49MPa〜9.8MPaであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の高分子成形体の製造方法において、前記加圧体が、多孔質板であることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程において前記高分子凝固体が加熱されることを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記高分子溶液は膜状に成形され、前記硬化工程が、該硬化工程に供される前記高分子凝固体の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、該硬化工程により得られる高分子成形体の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)=A2/A1×100が収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われることを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程では、前記高分子凝固体を前記加圧体で挟持することを要旨とする。
【0010】
請求項7に記載の発明の高分子成形体は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法によって得られる高分子成形体であって、前記高分子溶液の高分子が、リオトロピック液晶高分子であることを要旨とする。
【0011】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の高分子成形体において、前記リオトロピック液晶高分子が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高分子成形体の製造方法によれば、高分子鎖を配向させつつ、高分子成形体の外面の平滑性を向上することができる。本発明の高分子成形体によれば、高分子鎖の配向に基づく熱伝導性能を発揮させることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を高分子フィルムの製造方法に適用した一実施形態を詳細に説明する。
図5に示される高分子成形体としての高分子フィルム11は、光学異方性を発現している高分子溶液から製造される。この高分子フィルム11の製造方法は、高分子溶液を膜状に形成することにより得られる高分子基体において、その高分子基体の高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、この配向工程によって配向された高分子を凝固させることにより、高分子凝固体を得るための凝固工程とを含む。さらにこの製造方法は、高分子凝固体を乾燥させることにより、その高分子凝固体を硬化する硬化工程を含む。この硬化工程は、高分子凝固体を加圧する加圧体がその高分子凝固体に密着して配置された状態で行われる。そして、この加圧体は通気性を有しているため、硬化工程では高分子凝固体の加圧体を通じた乾燥が行われる。
【0014】
<高分子溶液>
高分子溶液の高分子としては、高分子溶液中にて光学異方性を発現する高分子が用いられる。すなわち、この高分子としては、リオトロピック液晶高分子が好適に用いられる。高分子溶液は、光学異方性が発現される濃度になるように、リオトロピック液晶高分子を溶媒に溶解することにより調製することができる。この高分子溶液の光学異方性は、高分子が一定の規則性を有した状態で溶液中に存在することで発現される。このリオトロピック液晶高分子としては、特に限定されず、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種が好適である。
【0015】
この高分子溶液の高分子として好適であるポリベンズアゾールについて詳述する。ポリベンズアゾールの具体例としては、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)から選ばれる少なくとも一種を含む高分子が挙げられる。このようなポリベンズアゾールとしては、PBO、PBT、及びPBIのいずれか一種からなるホモポリマー、PBO、PBT、及びPBIから選ばれる少なくとも二種を含むブレンドポリマーやコポリマー(ブロックコポリマー又はランダムコポリマー)を含む。
【0016】
PBOとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのオキサゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)などが含まれる。PBTとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのチアゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンゾビスチアゾール)等が含まれる。PBIとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのイミダゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンズビスイミダゾール)等が含まれる。
【0017】
具体的には、ポリベンズアゾールは、下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位の少なくとも一種を有するポリベンズアゾールを含む。
【0018】
【化1】
(但し、上記式(1)〜(4)中のXはそれぞれ独立してイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、上記式(1)及び(2)中のAr1及びAr2は芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、nは10〜500の整数である。)
Ar1の具体例としては、下記一般式(I)〜(IV)に示される芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
【化2】
Ar2の具体例としては、下記一般式(V)〜(VIII)に示される芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0020】
【化3】
上記一般式(I)〜(VIII)中のZは、それぞれ酸素原子、イオウ原子、SO2、CO、CH2、C(CH3)2、CF2又はC(CF3)2のいずれかを表すか、または、隣り合うベンゼン環中の炭素同士の直接結合を表す。また、上記一般式(I)〜(VIII)中のベンゼン環において、各炭素原子と結合している水素原子は低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基等に置換されていてもよい。この置換反応は、重縮合反応前に対応する上記部分を含む原材料において行われていてもよいし、または重縮合反応後のポリベンズアゾールの対応する部分について行われていてもよい。
【0021】
ポリベンズアゾールには、上記一般式(1)〜(4)で示す繰り返し単位の他に、ポリベンズアゾールの合成過程で未反応の開鎖部分を有する繰り返し単位を含んでいてもよい。こうした未反応の開鎖部分は、例えば下記式(IX)及び(X)に示される。
【0022】
【化4】
上述したようなポリベンズアゾールの中でも、上記一般式(1)及び(2)の少なくとも一方の繰り返し単位を有するポリベンズアゾールであって、前記式中においてXが酸素原子であるとともに、Ar1及びAr2は一般式(I)〜(VIII)のZが酸素原子又は直接結合を示すポリベンズアゾールを採用した場合には、高分子鎖がより直線的となる。このため、このような高分子鎖を配向工程によって配向させることにより、一層高い熱伝導性が発揮される高分子フィルム11を得ることができる。
【0023】
ポリベンズアゾールの極限粘度は、25℃において溶媒としてメタンスルホン酸を用いたオストワルド粘度計による測定(米国材料試験協会規格 ASTM D2857−95準拠)で、好ましくは0.5〜30dl/g、より好ましくは0.5〜20dl/g、さらに好ましくは0.5〜15dl/gである。ポリベンズアゾールの極限粘度が0.5dl/g未満である場合、ポリベンズアゾールの分子量が低くなる結果、得られる高分子フィルム11の機械的強度が十分に得られないおそれがある。一方、ポリベンズアゾールの極限粘度が30dl/gを超えると、そのポリベンズアゾールからポリベンズアゾール溶液を調製した場合に、溶液の粘度が高くなりすぎる結果、ポリベンズアゾールの分子鎖が配向されにくくなるおそれがある。
【0024】
高分子溶液を調製するための溶媒は、高分子の種類によって適宜選択すればよい。例えば、高分子としてポリパラフェニレンテレフタルアミドを採用する場合には、濃硫酸を使用することができる。また例えば、高分子としてポリベンズアゾールを採用する場合には、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プロトン性極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、クレゾール及び高濃度の硫酸等が挙げられ、ポリリン酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一種を使用することが好ましく、少なくともポリリン酸を使用することがより好ましい。
【0025】
このような溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、溶媒には、高分子の溶解性を向上させるという観点から、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸を配合してもよい。
【0026】
溶媒に対する高分子の溶解操作には、周知の攪拌機を用いることができる。なお、溶解操作に供する高分子を、この溶解操作を行う前に、再沈殿や濾過操作のような従来の手法により精製してもよい。
【0027】
高分子溶液中の高分子の濃度は、液晶相の発現、高分子の溶解性、高分子溶液の粘度等に応じて適宜設定される。高分子溶液中の高分子の濃度は、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%である。高分子の濃度が2質量%未満であると、液晶相が発現されにくくなるおそれがある。一方、高分子の濃度が30質量%を超えると、高分子溶液の粘度が高くなりすぎるおそれがある。すなわち、高分子の濃度を2〜30質量%に設定することにより、高分子鎖の配向に適した粘度を有するとともに、液晶相が十分に発現され易くなるため、高分子鎖の配向度を一層高めることができる。
【0028】
高分子溶液には、ガラス繊維等の補強材、各種充填剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤等を、本発明の効果が得られる範囲内で配合してもよい。
【0029】
高分子溶液を成形して高分子基体を得る方法は、特に限定されず、型内に高分子溶液を注入する方法、ダイ、例えばスリットダイから成形基材上に高分子溶液を流延させる方法、キャスト法などによって高分子溶液を成形基材上に塗布する方法等が挙げられる。このような高分子溶液の成形に使用される成形基材は特に限定されるものではないが、高分子基体を長尺の膜状に成形する場合には、閉ループ状のエンドレスベルト、エンドレスドラム又はエンドレスフィルムが好適に使用される。また、成形基材としてはガラス板、樹脂フィルム等の板状物を使用することも可能である。さらに、成形基材は金属から形成されていてもよく、その金属としてはステンレス鋼、ハステロイ系合金、タンタル、アルミニウム等が好適である。また、高分子溶液をスリットダイから下側の成形基材上に流延させ、流延された高分子溶液上に別の成形基材を重ねて、高分子溶液を一対の成形基材の間に挟持することによって、一定の厚さを有する膜状の高分子基体を容易に成形することができる。
【0030】
本実施形態では、図1に示すように成形基材として上下一対の成形用樹脂フィルム21を使用している。これらの成形用樹脂フィルム21は、その表面にフッ素コート処理が施されることで、成形用樹脂フィルム21に対する高分子基体12の離型性が向上されている。そして、高分子基体12は、一対の成形用樹脂フィルム21によって高分子溶液を挟持することにより、一定の厚さを有する膜状に形成されている。
【0031】
高分子基体(高分子溶液)の液晶相(光学異方性)の発現は、高分子基体中の高分子の濃度、及び高分子基体の温度に依存する。従って、高分子基体に液晶相を発現させるには、高分子基体の温度が所定の温度範囲になるように、高分子基体の温度を調節すればよい。高分子基体を加熱して液晶相を発現させる場合には、液晶相が発現されない温度まで、高分子基体を昇温することで等方性液体とした後に、液晶相が発現される温度まで高分子基体を徐々に降温することが好ましい。これにより、液晶相の成長が促進されるため、配向工程における高分子鎖の配向が効率よく行われるようになる。また、このような昇温と降温とを逐次的に併用してもよい。
【0032】
液晶相を発現させる高分子基体の温度は、リオトロピック液晶高分子の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば20〜250℃の範囲に設定される。また例えばリオトロピック液晶高分子として、ポリベンズアゾールを採用した場合には、好ましくは20〜200℃、より好ましくは40〜150℃である。加熱手段としては、例えば加湿空気を加熱媒体とする方法、紫外線ランプから紫外線を照射する方法、誘電加熱による方法等が挙げられる。
【0033】
<配向工程>
このようにして液晶相(光学異方性)を発現している高分子基体は、配向工程に供される。配向工程では、高分子基体に対して、磁場又は電場を印加することにより、この高分子基体中において高分子鎖が一定方向に配向される。すなわち、高分子鎖は磁力線や電場の向きに沿って配向され、その高分子鎖の配向に沿った方向における熱伝導性等の特性が高められる。この配向工程における高分子基体は液晶相を発現しているため、高分子基体12中における高分子鎖は秩序性を有している。このように秩序性を有している高分子鎖は、磁場又は電場の印加によって効率的に配向されることになる。
【0034】
磁場は、永久磁石、電磁石、超電導磁石等の磁場発生手段によって印加することができる。電場は、電極、スライドトランス等を備えた電場発生手段によって印加することができる。この配向工程では、高分子基体に対して、高分子鎖を所望の方向に配向させるべく、その所望の方向に磁力線が平行になるように、磁場を印加することが好ましい。このような磁場の印加による配向によれば、高分子基体の表面形状に沿った方向に限らず、高分子基体の表面に対して交わる方向等、任意の方向に高分子鎖を配向させることが容易である。磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラ(T)、より好ましくは2〜25T、さらに好ましくは3〜20Tである。磁束密度が1T未満の場合、高分子鎖の配向が効率的に行われなくなるおそれがある。一方、30Tを超える磁束密度を得るためには、磁場発生手段のコストが増大することになる。
【0035】
本実施形態では、図2に示すように上下一対の磁石22を用いて、高分子基体12の厚さ方向に磁力線23が沿うようにして高分子基体12に磁場を印加することによって、高分子基体12の厚さ方向に高分子鎖を配向している。このように、磁場が印加された高分子基体12では、高分子鎖が厚さ方向(図5に示される高分子フィルム11のZ軸方向)に配向されることになるため、高分子フィルム11の厚さ方向における熱伝導性が向上される。なお、図3に示すように左右一対の磁石22を用いて、高分子基体12の表裏面に沿った方向に磁力線23を一致させれば、高分子基体12の表裏面に沿う方向に高分子鎖を配向させることができる。
【0036】
<凝固工程>
配向工程によって高分子が配向された高分子基体は、凝固工程に供される。この凝固工程は、高分子基体(高分子溶液)の高分子を凝固することによって高分子凝固体を得る工程であって、この凝固工程には、溶媒を蒸発させる方法、凝固液によって高分子を析出させる方法等を適用することができる。この凝固工程としては、溶媒を蒸発させるための加熱装置や、蒸発した溶媒を回収する装置などを省略することができるため、凝固液によって高分子を析出させる方法が好ましい。凝固液としては、高分子の溶媒と相溶性を有するとともに、高分子の貧溶媒又は高分子が不溶な液体を用いることができる。高分子基体12に凝固液を接触させることにより、この高分子基体では高分子の溶媒に対する溶解度が低くなる。このような高分子の溶解度の低下によって、高分子が析出することで高分子基体が凝固する。高分子の溶媒としてポリリン酸のような強酸を用いる場合には、凝固液を用いることによって、そのような強酸が希釈されるため、溶媒の取り扱いについての安全性が高まるとともに、溶媒の後処理が容易となる。
【0037】
本実施形態の凝固工程は、図1に示される成形用樹脂フィルム21の少なくとも一方を取り外した後、凝固液に浸漬することにより、配向工程が完了した高分子基体12に凝固液を接触させている。
【0038】
凝固液は、高分子の種類に応じて適宜選択すればよい。凝固液としては、例えば水、リン酸水溶液、硫酸水溶液等の酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、エチレングリコール等の水溶性有機溶剤等が挙げられる。凝固液は単独の成分から構成してもよいし、二種以上の成分からなる混合液として構成してもよい。また、この凝固工程では、高分子鎖の配向を維持すべく、磁場又は電場を印加しつつ高分子を凝固させることが好ましい。高分子の溶媒に対する凝固液の拡散が穏やかで、得られる高分子凝固体の表裏面の平滑性が確保され易いという観点から、凝固液として、10〜70質量%のリン酸水溶液、又は低級アルコールを用いることが好ましい。
【0039】
凝固液の温度は、好ましくは−60〜+60℃、より好ましくは−30〜+30℃、さらに好ましくは−20〜+20℃である。凝固液の温度が60℃を超えると、高分子凝固体の表裏面の平滑性を確保することが困難となるとともに、高分子凝固体の表裏面に密度差が生じることで、得られる高分子フィルム11の物性が不安定になるおそれがある。一方、凝固液の温度が−60℃未満の場合、得られる高分子フィルム11の物性に悪影響を与えるおそれがあるとともに、高分子の凝固速度が遅くなるため、生産性が低下するおそれがある。
【0040】
高分子凝固体は、後工程である硬化工程に供する前に、洗浄処理されることが好ましい。この洗浄処理は、例えば成形基材上に配置された高分子凝固体を洗浄液に通過させたり、高分子凝固体に洗浄液を吹き付けたりすることによって行うことができる。洗浄液としては、通常水が使用されるが、必要に応じて温水を使用してもよい。また、例えば高分子の溶媒として酸を使用した場合、高分子凝固体に酸が残留する。この場合、高分子凝固体を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリの水溶液で中和洗浄した後に、洗浄処理を行うことにより、高分子凝固体に含まれる酸を速やかに除去することができる。このような洗浄処理では、高分子凝固体に含まれる不純物が除去される。高分子凝固体における不純物は、高分子の構成単位を形成する酸や塩基、及び中和洗浄によって生じる無機塩であり、このような不純物は凝固工程の後工程において、高分子凝固体を劣化(分解)する要因となる。従って、高分子凝固体中における不純物の含有量が高まると、得られる高分子フィルム11の特性が損なわれるおそれがある。このため、洗浄処理後の高分子凝固体に含まれる不純物は、質量基準で500ppm以下であることが好ましい。
【0041】
<硬化工程>
凝固工程で得られた高分子凝固体は、硬化工程に供される。この硬化工程は、高分子凝固体が加圧体によって加圧された状態で行われる。高分子凝固体は、密着して配置される加圧体によって加圧されるため、その形状が保持された状態で乾燥される。さらに、この加圧体は通気性を有しているため、高分子凝固体から発生する蒸気が加圧体を通じることによって、高分子凝固体の乾燥が行われる。すなわち、高分子凝固体が乾燥されるに際し、その高分子凝固体が露出している部分に加えて、高分子凝固体が加圧体によって覆われている部分においても、高分子凝固体に含まれる溶媒等が揮発される。従って、高分子凝固体は、その全体にわたって乾燥されるため、高分子凝固体の乾燥速度が部分的にばらつくことを抑制することができる。この結果、高分子凝固体の収縮を抑制しつつ、高分子凝固体を乾燥することができる。
【0042】
この硬化工程で使用される加圧体としては、通気性を有していれば特に限定されない。加圧体の材質としては、例えば多孔質アルミナ、多孔質窒化ケイ素、多孔質炭化ケイ素等の多孔質セラミックス、多孔質金属、多孔質ガラス、多孔質樹脂等が挙げられる。加圧体の形状としては、例えば板状、ブロック状等が挙げられる。加圧体の厚さは特に限定されないが、1〜20mm程度のものが取り扱い性や耐久性の観点から好適に使用される。これらの加圧体の中でも、加圧体表面の平滑性及び加圧体の通気性を付与することが容易であるとともに、加圧の圧力に耐え得る強度も容易に得られることから、好ましくは多孔質板、より好ましくは多孔質セラミックス板又は多孔質金属板である。多孔質金属板を形成する金属としては、特に限定されないが、耐薬品性を考慮すると、アルミニウム、ステンレス鋼、ハステロイ系合金及びタンタルから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また、
多孔質セラミックス板としては、具体的には新東工業株式会社製の「ポーセラックス(登録商標)I」等を用いることができる。また、多孔質金属板の具体例としては、新東工業株式会社製の「ポーセラックス(登録商標)II」、萱野工業株式会社製のポーラスアルミ「POROUS」等を用いることができる。
【0043】
本実施形態では、図4に示すように加圧体として上下一対の多孔質板24を使用している。そして、高分子凝固体13を上下一対の多孔質板24によって挟持することにより、高分子凝固体13は、その上面及び下面の両面(表裏面)から多孔質板24を通じて乾燥される。
【0044】
上述した加圧体において、高分子凝固体の表面と接触する接触面の表面粗さは、得られる高分子フィルム11の表面を平滑に形成するという観点から、小さいほど好ましく、具体的にはJIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)において、0.05〜10μmであることが好ましい。この十点平均粗さ(Rz)が0.05μm未満であると、加圧体の製造が困難となるおそれがある。一方、十点平均粗さ(Rz)が10μmを超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。なお、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)は、位相補償広域フィルタ適用の輪郭曲線を用いて算出された十点平均粗さ(RzJIS94)である。
【0045】
加圧体の平均孔径(測定法:顕微鏡による目視観察)は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは1〜20μmである。この平均孔径が0.1μm未満であると、乾燥効率が十分に得られないおそれがある。一方、この平均孔径が100μmを超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。加圧体の気孔率(測定法:JIS R 2205の「見掛気孔率」、又はJIS Z 2501「開放気孔率」)は、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは15〜25%である。この気孔率が10%未満であると、乾燥効率が十分に得られないおそれがある。一方、この気孔率が60%を超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。
【0046】
加圧体によって高分子凝固体を加圧する際の圧力は、好ましくは0.49MPa(5kgf/cm2)〜9.8MPa(100kgf/cm2)、より好ましくは0.49MPa(5kgf/cm2)〜7.8MPa(80kgf/cm2)、さらに好ましくは0.98MPa(10kgf/cm2)〜7.8MPa(80kgf/cm2)である。この圧力が0.49MPa未満であると、高分子凝固体の収縮を十分に抑制することが困難となり、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性が十分に向上されないおそれがある。一方、この圧力が9.8MPaを超える場合、高分子凝固体が圧縮されることで、高分子鎖の配向が崩れてしまうおそれがある。すなわち、高分子凝固体を加圧する際の圧力を0.49MPa〜9.8MPaに設定することにより、高分子鎖の配向を好適に維持することができるとともに、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。
【0047】
加圧体による高分子凝固体の加圧には、クランプやプレス機等の周知の加圧手段を用いることができる。なお、加圧手段は、加圧体の通気性を損なわないように、加圧体の周縁部のみを加圧するように構成する等、加圧体を部分的に加圧するように構成すればよい。
【0048】
この硬化工程において、高分子凝固体の乾燥効率を向上させるために、高分子凝固体が加熱されることが好ましい。高分子凝固体の加熱温度は、好ましくは100〜500℃、より好ましくは100〜400℃、さらに好ましくは100〜200℃である。この加熱温度が100℃未満であると、乾燥効率を十分に向上することができないおそれがある。一方、この加熱温度が500℃を超える場合、その加熱によって高分子凝固体が劣化(分解)するおそれがあり、得られる高分子凝固体の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0049】
図4に示すように、本実施形態の膜状をなす高分子凝固体13を硬化する硬化工程においては、高分子凝固体13の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、硬化工程により得られる高分子フィルム11の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)は、以下の関係を満たす。
【0050】
収縮残存率R(%)=A2/A1×100≧50(%)
この収縮残存率R(%)は、乾燥工程において高分子凝固体13の収縮の度合いを示す値である。そして、硬化工程において、この収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように、硬化工程における加圧体の種類を選択したり、高分子凝固体13に加わる圧力、高分子凝固体13の温度等の条件を調節したりすることにより、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を高精度で制御することができる。さらに、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすことにより、高分子凝固体13の高分子が過剰に密になることを抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度をより高めることができる。
【0051】
この収縮残存率R(%)が50(%)未満であると、高分子フィルム11の表裏面における平滑性が十分に得られないおそれがある。この収縮残存率R(%)における面積A1は、加圧体によって加圧されていない状態における高分子凝固体13の表面積を示す。また、面積A2は硬化工程が完了した後に、温度25℃、相対湿度50%の環境下、24時間静置した高分子フィルム11の表面積を示す。なお、面積A1は加圧体と接触する面の表面積であるとともに、面積A2は加圧体と接触していた面における表面積である。なお、この収縮残存率R(%)の上限は、特に限定されないが、高分子凝固体13の性質を考慮すると、100(%)未満である。
【0052】
<高分子成形体>
高分子成形体としての高分子フィルム11は、その厚さ方向に高分子鎖が配向しているため、厚さ方向に優れた熱伝導性を有している。この高分子フィルム11における高分子鎖の配向は、2枚の偏光子や偏光顕微鏡を用いた光学的異方性(位相差、複屈折)の測定による方法、又は偏光赤外線吸収スペクトルによる解析法によって確認される。さらに、偏光ラマンスペクトル法、X線回折分析による方法、電子線回折分析による方法、電子顕微鏡により観察する方法等によっても確認される。
【0053】
高分子フィルム11の高分子鎖の配向度Aは、高分子フィルム11の広角X線回折測定(透過)を行うことによって求められる。この広角X線回折測定は、広角X線回折装置を用いて、高分子フィルム11にX線を照射することにより、高分子フィルム11中に存在する粒子(高分子鎖)が配向している場合には、同心弧状の回折パターン(デバイ環)が確認される。この回折パターン(デバイ環)から、図6に示すようなX線回折強度分布を示す回折パターンが得られる。このX線回折強度分布を示す回折パターンは、デバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示すものであって、横軸はX線の回折角2θを示し、横軸の特定の位置に確認される回折ピークは、高分子鎖間の距離を表すと見なされる。このような回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までのX線回折強度分布を測定することにより、図7に示すような方位角方向のX線回折強度分布が得られる。このような方位角方向のX線回折強度分布におけるピークが急峻であるほど、高分子鎖が一定方向に高度に配向されていることが示される。従って、こうした方位角方向のX線回折強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅ΔB)を求め、この半値幅ΔBを下記式(i)に代入することにより、高分子鎖の配向度を算出することができる。
【0054】
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・(i)
この配向度Aの値が高ければ高いほど、熱がより効率的に伝導される。高分子フィルム11における配向度Aは、好ましくは0.6以上1.0未満の範囲、より好ましくは0.65以上1.0未満の範囲、さらに好ましくは0.7以上1.0未満の範囲である。この配向度Aが0.6未満であると、高分子鎖の配向による熱伝導性が十分に発揮されないおそれがある。この配向度Aが例えば0.6以上であるように、配向度Aを高めた高分子フィルム11を得る場合には、その高分子フィルム11の製造工程において、高分子が配向している方向に対して直交する方向への収縮力が一層高まることになる。本実施形態のように、加圧体を用いた硬化工程を含む製造方法では、配向度Aを高める場合であっても、高分子凝固体13の収縮を好適に抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性を向上することができる。
【0055】
この高分子フィルム11において、表裏面の表面粗さは、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)において、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7.0μm以下、最も好ましくは6.5μm以下である。この十点平均粗さ(Rz)が15μmを超えると、発熱体や放熱体との密着性が十分に得られないおそれがある。この十点平均粗さ(Rz)の下限は、特に限定されないが、高分子フィルム11の性質を考慮すると、0.1μm以上である。なお、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)は、位相補償広域フィルタ適用の輪郭曲線を用いて算出された十点平均粗さ(RzJIS94)である。
【0056】
この高分子フィルム11は、必要に応じて所定の大きさに裁断して使用する。この高分子フィルム11は、熱伝導性が要求される用途に適用されることにより、高分子フィルム11の機能が十分に発揮される。図8に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、プリント基板31に実装されているボールグリッドアレイ型半導体パッケージ32と、放熱器33との間に介装されている。
【0057】
図9に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、半導体チップ41と、放熱部として機能するダイパッド42との間に介装されている。この電子部品では、ボンディングワイヤ43で半導体チップ41の電極部とリードフレーム44のリード部とが電気的に接続されている。そして、エポキシ系封止剤を用いてトランスファーモールド法にて成形することにより、半導体チップ41及びボンディングワイヤ43がエポキシ封止剤から形成される封止材料45によって封止されている。
【0058】
図10に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、チップサイズ半導体パッケージ51とプリント基板31との間に介装されている。図11に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、プリント基板31に実装されているピングリッドアレイ型半導体パッケージ34と放熱器としてのヒートシンク35との間に介装されている。
【0059】
この高分子フィルム11は、加圧を伴った硬化工程によって、厚さのばらつきが抑制されている。この高分子フィルム11の厚さは、特に限定されないが10〜300μm程度である。そして、この高分子フィルム11は、表裏面の平滑性が改善されているため、例えば半導体チップ、各半導体パッケージ等の発熱体とヒートシンク等の放熱体との間に介装させる際に、高分子フィルム11と、発熱体や放熱体との密着性が良好となり、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝えることができる。特に、IC等を備える電子部品における発熱は、半導体素子の動作に支障をきたしたり、パッケージにクラックを生じさせたりするおそれがあるため、このような電子部品の放熱対策は重要である。この高分子フィルム11をそうした電子部品と密着する部位において使用することにより、電子部品から発生する熱を効率よく放熱することができる。
【0060】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 高分子凝固体を硬化する硬化工程は、高分子凝固体に密着して配置される加圧体によって、その高分子凝固体が加圧された状態で行われる。そして、この加圧体は通気性を有している。このため、硬化工程における高分子凝固体では、加圧体によって形状が保持された状態、かつ加圧体を通じた乾燥が行われる。
【0061】
ところで、本実施形態の加圧体を用いずに、例えば通気性を有しない金属板を用いて加圧した場合には、金属板に表裏面が挟持される高分子凝固体は、その表裏面を通じた乾燥が行われずに、その周縁部を通じた乾燥が行われることになる。この場合、高分子凝固体の周縁部は、高分子凝固体の中央部分よりも先だって硬化することになる。すなわち、高分子凝固体の周縁部は、収縮を伴って硬化するため、その収縮力によって高分子凝固体の厚さのばらつきが生じる結果、得られる高分子フィルムでは表裏面の平滑性が低下する。このような高分子凝固体の周縁部における収縮力は、高分子凝固体の高分子鎖が磁場又は電場にて配向されている場合、顕著になる。
【0062】
本実施形態の硬化工程によれば、配向工程によって高分子鎖が高度に配向されており、乾燥によって極めて収縮し易い状態の高分子凝固体であっても、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。従って、このような硬化工程を適用することで、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を向上することができる。この結果、電子部品等の発熱体に対する高分子フィルム11の密着性が改善されることによって、高分子フィルム11が有する熱伝導性を十分に発揮させることができる。
【0063】
さらに、この硬化工程では、高分子凝固体の収縮が好適に抑制される結果、可撓性(柔軟性)や耐折強度が高められている。このため、電子部品等の適用物における屈曲部分においても、その形状に追従して高分子フィルム11を配置させることが容易であるため、高分子フィルム11の熱伝導性を容易に発揮させることができるとともに、高分子フィルム11の耐久性も十分に発揮させることができる。
【0064】
また、従来の配向工程を伴う製造方法では、表裏面が平滑であり、かつ厚さのばらつきの小さい高分子フィルムを得ることは極めて困難であった。すなわち、従来の高分子フィルムでは、平滑性と厚さの均一性が十分に得られていないため、半導体素子等の電子部品から生じる多大な発熱によって、電気化学的なマイグレーションが加速されたり、配線やパッド部の腐食が促進されたりするおそれがあった。また、そのような従来の高分子フィルムでは、電子部品に要求される放熱性が十分に発揮されないため、熱応力によって電子部品を構成する材料にクラックが生じたり、異なる材料の接合部の界面が剥離したりしてしまうことがあった。この結果、電子部品の寿命を延ばすことは困難であった。本実施形態の高分子フィルム11は、加圧を伴う硬化工程によって、表裏面の平滑性が向上されているとともに、厚さのばらつきが抑制されている。このため、従来のようなマイグレーション、配線やパッド部の腐食、電子部品を構成する材料の不具合等を抑制することができる結果、電子部品の寿命を延ばすことができる。
【0065】
さらに、この高分子フィルム11では上述の硬化工程によって、しわの発生も抑制されるため、この製造方法によれば、高分子フィルム11の歩留まりを改善することができる。
【0066】
(2) 硬化工程における加圧の圧力を0.49MPa〜9.8MPaに設定することにより、高分子鎖の配向を好適に維持することができるとともに、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。従って、得られる高分子フィルム11においては、表裏面の平滑性と熱伝導性とがバランスよく付与されるため、高分子フィルム11の熱伝導性をより一層発揮させることができる。さらに、高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度を一層高めることができる。加えて、硬化後の高分子フィルム11における割れの発生を抑制することができるため、高分子フィルム11の歩留まりを一層改善することができる。
【0067】
(3) 加圧体として多孔質板24を用いることが好ましい。多孔質板24は、表面の平滑性及び通気性を好適に形成することが容易であるため、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性をさらに向上させることができる。さらに、多孔質板24は、加圧の圧力に対する強度も容易に得られることから、繰り返しの使用においても、十分な耐久性を発揮させることができる。
【0068】
(4) 硬化工程において、高分子凝固体が加熱されることが好ましい。この加熱によって、高分子凝固体の乾燥が効率的に行われる結果、高分子フィルム11の生産効率を向上することができる。
【0069】
(5) 硬化工程は、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われることにより、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を高精度で制御することができる。さらに、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすことにより、硬化過程において高分子凝固体の高分子が過剰に密になったり、高分子凝固体の厚さが過剰に厚くなったりすることを抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度をより高めることができる。
【0070】
(6) 硬化工程では、高分子凝固体を加圧体で挟持しているため、高分子凝固体は、その表裏面から加圧体を通じて乾燥される。このため、高分子凝固体の収縮がさらに抑制されるため、高分子フィルム11の表裏面における平滑性をより向上することができる。さらに、表裏面における平滑性等の物性差を極めて小さくすることができるため、この高分子フィルム11は、表裏のいずれの面を発熱体に密着させたとしても、同じ程度の熱伝導性を発揮させることができる。
【0071】
(7) 高分子フィルム11の高分子は、リオトロピック液晶高分子が好ましく、リオトロピック液晶高分子の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。この場合、高強度及び高弾性率を有するとともに、耐熱性や難燃性に優れる高分子フィルム11を提供することができる。
【0072】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 硬化工程は、高分子凝固体を加熱せずに行ってもよい。例えば、高分子凝固体を加熱せずに、硬化工程を減圧下で行うことにより、高分子凝固体からの溶剤等の揮発が促進され、高分子凝固体の乾燥効率を高めることができる結果、高分子フィルム11の生産効率を向上することができる。なお、高分子凝固体を加熱しつつ、硬化工程を減圧下で行うことにより、高分子フィルム11の生産効率をさらに向上することができる。
【0073】
・ 高分子フィルム11は、単層構造の高分子フィルム11であるが、積層構造の高分子フィルムとして構成してもよい。積層構造の高分子フィルムを製造するには、例えば高分子溶液をダイの口金内にて積層する共押出による方法、予め形成した第1の層に第2の層を積層する方法等の周知の方法を適用することができる。なお、積層構造の高分子フィルムは、第1の層として熱可塑性樹脂等の高分子から形成した他の高分子フィルムを適用するとともに第2の層を本実施形態の高分子フィルムとして構成してもよいし、第1の層を本実施形態の高分子フィルムとして構成するとともに第2の層を熱可塑性樹脂等の高分子から形成した他の高分子フィルムを適用してもよい。また、三層以上の積層構造を有する高分子フィルムとする場合、本実施形態の高分子フィルムを最外層として構成すれば、本実施形態の高分子フィルムの表面における平滑性を利用して発熱体との密着性を高めることができる。
【0074】
・ 前記硬化工程では、図4に示すように高分子凝固体13を上下一対の多孔質板24にて挟持しているが、少なくとも一方の多孔質板24を、通気性を有していない加圧体に変更してもよい。この場合であっても、多孔質板24の通気性により、高分子凝固体13の収縮を抑制しつつ、高分子フィルム11を製造することができるため、高分子フィルム11の表裏面の平滑性を向上することができる。
【0075】
・ 前記配向工程では、膜状に形成した高分子基体12の高分子鎖を配向させているが、配向工程における高分子基体12の形状、すなわち配向工程における高分子溶液の形状は、特に限定されない。高分子溶液を例えば板状、ブロック状等に形成してもよい。同様に、高分子成形体は、高分子フィルム11に限定されず、高分子成形体の形状を例えば板状、ブロック状等に変更してもよい。
【実施例】
【0076】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
高分子として、式(1)においてAr1およびAr2が共にベンゼン環であり、Xが酸素原子であるポリベンゾオキサゾールを合成した。まず、攪拌装置、窒素導入管、乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(H3PO4当量:115%)300g、4,6−ジアミノレゾルシノール2塩酸塩5g(23.4mmol)、テレフタル酸ジクロライド4.76g(23.4mmol)を充填し、70℃で16時間撹拌した。さらに、その溶液を攪拌しながら、90℃で5時間、130℃で3時間、150℃で16時間、170℃で3時間、185℃で3時間、200℃で48時間の順に段階的に昇温して、各段階においてその温度を一定時間維持することによって、同溶液を反応させ、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液を得た。次に、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液をメタノール、アセトン、水で再沈殿して固有粘度約10dl/gのポリベンゾオキサゾールを得た。得られたポリベンゾオキサゾールに、ポリリン酸を加え、最終濃度が10質量%のポリベンゾオキサゾール溶液を調製した。このようにして得られた高分子溶液としてのポリベンゾオキサゾール溶液は、偏光顕微鏡を用いた観察によって、光学異方性(液晶性)を示すことが確認された。
【0077】
得られたポリベンゾオキサゾール溶液を、図1に示す一方の成形用樹脂フィルム21に塗布した後、他方の成形用樹脂フィルム21を用いて、そのポリベンゾオキサゾール溶液を挟持することにより、膜状の高分子基体12を成形した。なお、成形用樹脂フィルム21としては、表面にフッ素コート処理が施されたPETフィルムを用いた。次に、図2に示すように磁力線23が高分子基体12の厚み方向と平行になるように、高分子基体12の上下に一対の磁石22を配置した。これらの磁石22によって、高分子基体12に10Tの磁場を印加しながら、120℃で20分加熱した。さらに、その高分子基体12を静置した状態で、室温まで自然冷却させることにより、配向工程を完了した。
【0078】
次に、成形用樹脂フィルム21の一方を高分子基体12から取り外した後、凝固液としてのメタノールと水の混合溶液中に浸漬した。この混合溶液中にて、他方の成形用樹脂フィルム21を高分子基体12から取り外し、その高分子基体12を凝固させて、膜状の高分子凝固体を得た。その高分子凝固体を同混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中で1時間、さらにアセトンに10分間浸漬することにより、凝固工程を完了した。
【0079】
次いで、図4に示すように高分子凝固体13を一対の多孔質板24で挟持して、0.98MPaの圧力下、120℃で1時間、同圧力下、150℃で1時間乾燥することにより、硬化工程を完了し、高分子フィルム11を得た。なお、多孔質板24は、アルミニウム製であり、平均孔径が15〜18μm、気孔率が15〜20%のものである。
【0080】
(実施例2〜6)
表1に記載の圧力に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって各高分子フィルム11を得た。
【0081】
(実施例7)
ポリベンゾオキサゾール溶液から高分子基体12を成形した後、図3に示すように磁力線23が高分子基体12の表裏面と平行になるように、高分子基体12の左右に一対の磁石22を配置した以外は、実施例1と同様の方法によって高分子フィルム11を得た。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様にして、膜状の高分子基体12を成形した。次に、図2に示すように磁力線23が高分子基体12の厚み方向と平行になるように、高分子基体12の上下に一対の磁石22を配置した。このようにして高分子基体12に10Tの磁場を印加しながら、120℃で20分加熱した。さらに、その高分子基体12を静置した状態で、室温まで自然冷却させることにより、配向工程を完了した。
【0083】
次に、成形用樹脂フィルム21の一方を高分子基体12から取り外した後、凝固液としてのメタノールと水の混合溶液中に浸漬した。この混合溶液中にて、他方の成形用樹脂フィルム21を高分子基体12から取り外し、その高分子基体12を凝固させて、膜状の高分子凝固体を得た。その高分子凝固体を同混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中で1時間、さらにアセトンに10分間浸漬することにより、凝固工程を完了した。
【0084】
次いで、高分子凝固体を取り出した後、その高分子凝固体を、拘束や加圧をせずに120℃で1時間、150℃で1時間乾燥することにより、硬化工程を完了し、高分子フィルムを得た。
【0085】
(比較例2)
硬化工程において、高分子凝固体を一対のアルミニウム板で挟持し、0.12MPaの圧力下、120℃で1時間、同圧力下、150℃で1時間乾燥した以外は、比較例1と同様にして高分子フィルムを得た。
【0086】
(比較例3、4)
表2に記載の圧力に変更した以外は、比較例2と同様の方法によって各高分子フィルムを得た。
【0087】
(比較例5)
配向工程において、図3に示すように磁力線23が高分子基体12の表裏面と平行になるように、高分子基体12の左右に一対の磁石22を配置した以外は、比較例1と同じ方法で高分子基体12の高分子鎖を配向させた。次に、得られた高分子基体12について、比較例1と同じ方法で凝固工程を行った。次いで、得られた高分子凝固体について、比較例2と同じ方法で硬化工程を行った。
【0088】
(比較例6)
厚さ125μmのポリイミドフィルム(PI)(デュポン社製、商品名「カプトン」)を比較例7の高分子フィルムとした。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
表1及び表2に示される配向度A、収縮残存率R、熱拡散率α、及び熱伝導率λの算出方法、並びに十点平均粗さRzの測定方法について以下に記載する。
【0091】
<配向度A>
高分子フィルムの配向度A、X線回折装置(理学電機株式会社製「RINT−RAPID」)を使用して、得られた各高分子フィルムの方位角方向のX線回折強度分布におけるピークの半値幅ΔBから上述の式(i)によって算出した。一例として、実施例1の高分子フィルム11について、図6にX線回折測定による赤道方向の回折パターンを示し、図7に回折ピーク角度2θ=約26°における方位角方向のX線回折強度分布を示す。
【0092】
<収縮残存率R>
多孔質板24又はアルミニウム板によって加圧や拘束されていない状態における高分子凝固体の表面積を測定し、この表面積を収縮残存率R(%)における面積A1とした。さらに、硬化工程が完了した高分子フィルムについて、温度25℃、相対湿度50%の環境下、24時間静置した後に、その高分子フィルムの表面積を測定し、この表面積を収縮残存率R(%)における面積A2とした。これらの面積A1及びA2を下式に代入し、収縮残存率R(%)を算出した。
【0093】
収縮残存率R(%)=A2/A1×100
<熱拡散率α>
高分子フィルムの厚さ方向の熱拡散率αZは、熱拡散率測定装置(株式会社アイフェイズ製、商品名「アイフェイズα」)を用い、各高分子フィルムの表面にスパッタリングにより電極を直接形成し、銀ペーストによりリード線を取り付け、各高分子フィルムの下面にセンサー、上面にヒーターを当接させて、室温にて測定した。また、表裏面に沿った方向の熱拡散率αXは、赤外線カメラを利用した2次元熱分析装置(株式会社アイフェイズ製、商品名「アイフェイズIR」)を用い、各高分子フィルムの表面にスパッタリングによりL字型長さ4mm、幅1mmの電極を直接形成し、図5に示したX軸方向及びY軸方向への室温における熱流観測から測定した。
【0094】
<熱伝導率λ>
熱伝導率λは、高分子フィルムの熱拡散率αから下記式(ii)によって求めた。
熱伝導率λ=α・ρ・CP ・・・(ii)
(但し、αは熱拡散率、ρは密度、CPは比熱を示す。)
<十点平均粗さ(Rz)>
各高分子フィルムについて、JIS B 0601−1994に準拠する「表面粗さ形状測定機」(株式会社東京精密製、商品名「サーフコム550A」)を用いて測定した。
【0095】
(高分子フィルムの評価結果)
表1に示すように、実施例1〜7の高分子フィルム11では、熱拡散率及び熱伝導率の値が比較例7に示される従来の高分子フィルムよりも高い値を示しているため、各実施例の高分子フィルム11では、比較例7の高分子フィルムよりも優れた熱伝導性を発揮されることがわかる。
【0096】
さらに、各実施例の高分子フィルム11の十点平均粗さ(Rz)の測定結果は、比較例1〜5の測定結果よりも、小さい値を示している。この十点平均粗さ(Rz)の測定結果は、各実施例の高分子フィルム11では、表裏面の平滑性が向上されていることが示されており、発熱体や放熱体に接触させて使用するに際して、発熱体や放熱体に対する高分子フィルム11の密着性が改善されることによって、熱伝導性能を十分に発揮させることができることを示している。
【0097】
<しわの評価>
各高分子フィルムの表裏面の状態を観察し、しわの有無について評価した。その結果を表3に示す。
【0098】
<屈曲寿命の評価>
各高分子フィルムの屈曲寿命は、曲げ半径約10mm、屈曲速度100回/分、ストローク20mm、及び室温下の条件で、各高分子フィルムが破断するまでの屈曲回数にて示される。屈曲回数が5万回以上のものを○(達成)、5万回に満たなかったものを×(未達成)とし、その結果を表3に示す。
【0099】
<割れの評価>
各高分子フィルムの表面状態を観察し、割れの有無について評価した。その結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
表3に示されるように各実施例の高分子フィルム11には、しわの発生がないことから、各実施例の製造方法によれば、歩留まりよく高分子フィルム11を製造することができる。
【0101】
さらに実施例1〜5、及び実施例7では、硬化工程における加圧の圧力を0.49MPa〜9.8MPaの範囲に設定していたため、得られた高分子フィルム11では、優れた可撓性を有している。このため、実施例1〜5、及び実施例7では、表3に示すように屈曲寿命に優れている。このように、実施例1〜5、及び実施例7の高分子フィルム11は可撓性に優れることから、種々の電子機器の屈曲部に配置させることが容易であり、さらに十分な屈曲寿命を有することから、そうした屈曲部に配置した場合であっても、十分な耐久性を発揮させることができる。加えて実施例1〜5、及び実施例7の高分子フィルム11では、割れも発生しないことから、高分子フィルム11を製造するに際して、歩留まりを一層向上させることができる。
【0102】
(実施例8)
実施例1と同様にして、ポリベンゾオキサゾール溶液を原料として、配向工程、凝固工程を行うことにより、高分子凝固体を得た。得られた高分子凝固体について、硬化工程における条件を、120℃、2時間に変更した以外は、実施例1と同様に硬化工程を行うことにより、高分子フィルム11を得た。得られた高分子フィルム11の厚さは150μmであった。
【0103】
この高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、プリント基板31に実装したボールグリッドアレイ型半導体パッケージ32上に、この高分子フィルム11を配置するとともに、さらに高分子フィルム11上に放熱器33を配置することにより、電子部品を作製した。
【0104】
(実施例9)
実施例1で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、ダイパッド42と半導体チップ41との間に、高分子フィルム11を挟み込み、さらにボンディングワイヤ43で半導体チップ41の電極部とリードフレーム44のリード部を電気的に接続した後、エポキシ系封止剤を用いて、トランスファーモールド法にて電子部品を成形した。
【0105】
(実施例10)
実施例3で得られた高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0106】
(実施例11)
実施例3で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0107】
(実施例12)
実施例7で得られた高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0108】
(実施例13)
実施例7で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0109】
(比較例7)
比較例3で得られた高分子フィルムを、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0110】
(比較例8)
比較例3で得られた高分子フィルムを、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0111】
(比較例9)
比較例6の高分子フィルムを、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0112】
(比較例10)
比較例6の高分子フィルムを、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0113】
<熱抵抗値の測定>
実施例8〜13、及び比較例7〜10の電子部品に通電して10分間経過した後、電子部品の表面温度を測定した。図8に示される電子部品では、プリント基板31の表面温度θj1、及び放熱器33の表面温度θj0を測定した。図9に示される電子部品では、半導体チップ41側の表面温度θj1、及びダイパッド42側の表面温度θj0を測定した。表面温度θj1,θj0を下記式に代入して熱抵抗値(℃/W)を算出した。
【0114】
熱抵抗値(℃/W)=(θj1−θj0)/電子部品の発熱量(W)
熱抵抗値(℃/W)の測定結果を表4に示す。
【0115】
【表4】
表4の結果から明らかなように、実施例8〜13の熱抵抗値は、比較例7〜10の熱抵抗値よりも小さい値を示しており、各実施例の電子部品では放熱特性が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本実施形態における高分子基体の成形方法を示す概略図。
【図2】高分子基体の厚さ方向に高分子鎖を配向させる配向工程を示す概略図。
【図3】高分子基体の表裏面に沿った方向に高分子鎖を配向させる配向工程を示す概略図。
【図4】硬化工程を示す概略図。
【図5】高分子フィルムを示す斜視図。
【図6】高分子フィルムのデバイ環の中心から半径方向のX線回折パターンの例を示すグラフ。
【図7】高分子フィルムの方位角方向のX線回折強度分布の例を示すグラフ。
【図8】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図9】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図10】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図11】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0117】
11…高分子成形体としての高分子フィルム、13…高分子凝固体、24…加圧体としての多孔質板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子鎖が配向された高分子成形体の製造方法及び高分子成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子鎖が配向された高分子成形体は、光学異方性を有する高分子溶液に対して、磁場又は電場を印加することにより得られている(特許文献1参照)。すなわち、磁場又は電場が印加された高分子溶液では、溶液中の高分子の分子鎖が高度に配向される。高分子成形体は、この高分子溶液を凝固することにより高分子凝固体を得た後に、この高分子凝固体を硬化することにより得られる。こうした高分子成形体では、高分子鎖の配向に伴って、熱的性質や力学的性質に代表される特性に関して、異方性が発現する。
【特許文献1】特開2004−107621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような高分子凝固体における高分子鎖の凝集力は、高分子鎖が配向している方向よりも、その方向に直交する方向において強くなる。このため、高分子凝固体は、高分子が配向している方向に対して直交する方向への収縮を伴って、硬化される。この結果、得られる高分子成形体の外面における平滑性が低下する傾向にある。特に、磁場又は電場によって高分子鎖が高度に配向されている高分子凝固体では、この高分子凝固体を硬化して高分子成形体を得るに際し、収縮する度合いが高まることで、得られる高分子成形体の外面における平滑性が低下し易い。このような平滑性の低下は、例えば発熱体から放熱体への熱伝導を高めるために、高分子成形体を発熱体と放熱体との間に介装する場合、発熱体や放熱体に対する高分子成形体の密着性の低下を招く。そして、このような密着性の低下は、発熱体から放熱体への熱抵抗を高め、その結果、高分子成形体の本来有する熱伝導性を発揮させることが困難となる。
【0004】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子鎖を配向させつつ、外面の平滑性を向上することのできる高分子成形体の製造方法、及び高分子鎖の配向に基づく熱伝導性能を発揮させることの容易な高分子成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の発明は、光学異方性を発現している高分子溶液に対して磁場又は電場を印加することにより、前記高分子溶液における高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、該配向工程によって配向された高分子を凝固することにより高分子凝固体を得るための凝固工程と、該高分子凝固体を硬化することにより、高分子成形体を得るための硬化工程とを含み、前記高分子溶液から前記高分子成形体を製造する高分子成形体の製造方法であって、前記硬化工程では、通気性を有するとともに前記高分子凝固体を加圧する加圧体が、前記高分子凝固体に密着して配置された状態において、前記高分子凝固体の前記加圧体を通じた乾燥が行われることを要旨とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程における加圧の圧力が、0.49MPa〜9.8MPaであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の高分子成形体の製造方法において、前記加圧体が、多孔質板であることを要旨とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程において前記高分子凝固体が加熱されることを要旨とする。
【0008】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記高分子溶液は膜状に成形され、前記硬化工程が、該硬化工程に供される前記高分子凝固体の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、該硬化工程により得られる高分子成形体の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)=A2/A1×100が収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われることを要旨とする。
【0009】
請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法において、前記硬化工程では、前記高分子凝固体を前記加圧体で挟持することを要旨とする。
【0010】
請求項7に記載の発明の高分子成形体は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法によって得られる高分子成形体であって、前記高分子溶液の高分子が、リオトロピック液晶高分子であることを要旨とする。
【0011】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の高分子成形体において、前記リオトロピック液晶高分子が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高分子成形体の製造方法によれば、高分子鎖を配向させつつ、高分子成形体の外面の平滑性を向上することができる。本発明の高分子成形体によれば、高分子鎖の配向に基づく熱伝導性能を発揮させることが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を高分子フィルムの製造方法に適用した一実施形態を詳細に説明する。
図5に示される高分子成形体としての高分子フィルム11は、光学異方性を発現している高分子溶液から製造される。この高分子フィルム11の製造方法は、高分子溶液を膜状に形成することにより得られる高分子基体において、その高分子基体の高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、この配向工程によって配向された高分子を凝固させることにより、高分子凝固体を得るための凝固工程とを含む。さらにこの製造方法は、高分子凝固体を乾燥させることにより、その高分子凝固体を硬化する硬化工程を含む。この硬化工程は、高分子凝固体を加圧する加圧体がその高分子凝固体に密着して配置された状態で行われる。そして、この加圧体は通気性を有しているため、硬化工程では高分子凝固体の加圧体を通じた乾燥が行われる。
【0014】
<高分子溶液>
高分子溶液の高分子としては、高分子溶液中にて光学異方性を発現する高分子が用いられる。すなわち、この高分子としては、リオトロピック液晶高分子が好適に用いられる。高分子溶液は、光学異方性が発現される濃度になるように、リオトロピック液晶高分子を溶媒に溶解することにより調製することができる。この高分子溶液の光学異方性は、高分子が一定の規則性を有した状態で溶液中に存在することで発現される。このリオトロピック液晶高分子としては、特に限定されず、例えばポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種が好適である。
【0015】
この高分子溶液の高分子として好適であるポリベンズアゾールについて詳述する。ポリベンズアゾールの具体例としては、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリベンズイミダゾール(PBI)から選ばれる少なくとも一種を含む高分子が挙げられる。このようなポリベンズアゾールとしては、PBO、PBT、及びPBIのいずれか一種からなるホモポリマー、PBO、PBT、及びPBIから選ばれる少なくとも二種を含むブレンドポリマーやコポリマー(ブロックコポリマー又はランダムコポリマー)を含む。
【0016】
PBOとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのオキサゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)などが含まれる。PBTとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのチアゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンゾビスチアゾール)等が含まれる。PBIとは、芳香族基に結合した少なくとも1つのイミダゾール環を有する繰り返し単位からなる高分子を指し、例えばポリ(フェニレンベンズビスイミダゾール)等が含まれる。
【0017】
具体的には、ポリベンズアゾールは、下記一般式(1)〜(4)で示される繰り返し単位の少なくとも一種を有するポリベンズアゾールを含む。
【0018】
【化1】
(但し、上記式(1)〜(4)中のXはそれぞれ独立してイオウ原子、酸素原子又はイミノ基を表し、上記式(1)及び(2)中のAr1及びAr2は芳香族炭化水素基をそれぞれ表し、nは10〜500の整数である。)
Ar1の具体例としては、下記一般式(I)〜(IV)に示される芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0019】
【化2】
Ar2の具体例としては、下記一般式(V)〜(VIII)に示される芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0020】
【化3】
上記一般式(I)〜(VIII)中のZは、それぞれ酸素原子、イオウ原子、SO2、CO、CH2、C(CH3)2、CF2又はC(CF3)2のいずれかを表すか、または、隣り合うベンゼン環中の炭素同士の直接結合を表す。また、上記一般式(I)〜(VIII)中のベンゼン環において、各炭素原子と結合している水素原子は低級アルキル基、低級アルコキシル基、ハロゲン原子又はトリフルオロメチル等のハロゲン化アルキル基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基等に置換されていてもよい。この置換反応は、重縮合反応前に対応する上記部分を含む原材料において行われていてもよいし、または重縮合反応後のポリベンズアゾールの対応する部分について行われていてもよい。
【0021】
ポリベンズアゾールには、上記一般式(1)〜(4)で示す繰り返し単位の他に、ポリベンズアゾールの合成過程で未反応の開鎖部分を有する繰り返し単位を含んでいてもよい。こうした未反応の開鎖部分は、例えば下記式(IX)及び(X)に示される。
【0022】
【化4】
上述したようなポリベンズアゾールの中でも、上記一般式(1)及び(2)の少なくとも一方の繰り返し単位を有するポリベンズアゾールであって、前記式中においてXが酸素原子であるとともに、Ar1及びAr2は一般式(I)〜(VIII)のZが酸素原子又は直接結合を示すポリベンズアゾールを採用した場合には、高分子鎖がより直線的となる。このため、このような高分子鎖を配向工程によって配向させることにより、一層高い熱伝導性が発揮される高分子フィルム11を得ることができる。
【0023】
ポリベンズアゾールの極限粘度は、25℃において溶媒としてメタンスルホン酸を用いたオストワルド粘度計による測定(米国材料試験協会規格 ASTM D2857−95準拠)で、好ましくは0.5〜30dl/g、より好ましくは0.5〜20dl/g、さらに好ましくは0.5〜15dl/gである。ポリベンズアゾールの極限粘度が0.5dl/g未満である場合、ポリベンズアゾールの分子量が低くなる結果、得られる高分子フィルム11の機械的強度が十分に得られないおそれがある。一方、ポリベンズアゾールの極限粘度が30dl/gを超えると、そのポリベンズアゾールからポリベンズアゾール溶液を調製した場合に、溶液の粘度が高くなりすぎる結果、ポリベンズアゾールの分子鎖が配向されにくくなるおそれがある。
【0024】
高分子溶液を調製するための溶媒は、高分子の種類によって適宜選択すればよい。例えば、高分子としてポリパラフェニレンテレフタルアミドを採用する場合には、濃硫酸を使用することができる。また例えば、高分子としてポリベンズアゾールを採用する場合には、N、N−ジメチルアセトアミド、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホルトリアミド等の非プロトン性極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、クレゾール及び高濃度の硫酸等が挙げられ、ポリリン酸及びメタンスルホン酸の少なくとも一種を使用することが好ましく、少なくともポリリン酸を使用することがより好ましい。
【0025】
このような溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、溶媒には、高分子の溶解性を向上させるという観点から、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸を配合してもよい。
【0026】
溶媒に対する高分子の溶解操作には、周知の攪拌機を用いることができる。なお、溶解操作に供する高分子を、この溶解操作を行う前に、再沈殿や濾過操作のような従来の手法により精製してもよい。
【0027】
高分子溶液中の高分子の濃度は、液晶相の発現、高分子の溶解性、高分子溶液の粘度等に応じて適宜設定される。高分子溶液中の高分子の濃度は、好ましくは2〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%である。高分子の濃度が2質量%未満であると、液晶相が発現されにくくなるおそれがある。一方、高分子の濃度が30質量%を超えると、高分子溶液の粘度が高くなりすぎるおそれがある。すなわち、高分子の濃度を2〜30質量%に設定することにより、高分子鎖の配向に適した粘度を有するとともに、液晶相が十分に発現され易くなるため、高分子鎖の配向度を一層高めることができる。
【0028】
高分子溶液には、ガラス繊維等の補強材、各種充填剤、顔料、染料、蛍光増白剤、分散剤、安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤等を、本発明の効果が得られる範囲内で配合してもよい。
【0029】
高分子溶液を成形して高分子基体を得る方法は、特に限定されず、型内に高分子溶液を注入する方法、ダイ、例えばスリットダイから成形基材上に高分子溶液を流延させる方法、キャスト法などによって高分子溶液を成形基材上に塗布する方法等が挙げられる。このような高分子溶液の成形に使用される成形基材は特に限定されるものではないが、高分子基体を長尺の膜状に成形する場合には、閉ループ状のエンドレスベルト、エンドレスドラム又はエンドレスフィルムが好適に使用される。また、成形基材としてはガラス板、樹脂フィルム等の板状物を使用することも可能である。さらに、成形基材は金属から形成されていてもよく、その金属としてはステンレス鋼、ハステロイ系合金、タンタル、アルミニウム等が好適である。また、高分子溶液をスリットダイから下側の成形基材上に流延させ、流延された高分子溶液上に別の成形基材を重ねて、高分子溶液を一対の成形基材の間に挟持することによって、一定の厚さを有する膜状の高分子基体を容易に成形することができる。
【0030】
本実施形態では、図1に示すように成形基材として上下一対の成形用樹脂フィルム21を使用している。これらの成形用樹脂フィルム21は、その表面にフッ素コート処理が施されることで、成形用樹脂フィルム21に対する高分子基体12の離型性が向上されている。そして、高分子基体12は、一対の成形用樹脂フィルム21によって高分子溶液を挟持することにより、一定の厚さを有する膜状に形成されている。
【0031】
高分子基体(高分子溶液)の液晶相(光学異方性)の発現は、高分子基体中の高分子の濃度、及び高分子基体の温度に依存する。従って、高分子基体に液晶相を発現させるには、高分子基体の温度が所定の温度範囲になるように、高分子基体の温度を調節すればよい。高分子基体を加熱して液晶相を発現させる場合には、液晶相が発現されない温度まで、高分子基体を昇温することで等方性液体とした後に、液晶相が発現される温度まで高分子基体を徐々に降温することが好ましい。これにより、液晶相の成長が促進されるため、配向工程における高分子鎖の配向が効率よく行われるようになる。また、このような昇温と降温とを逐次的に併用してもよい。
【0032】
液晶相を発現させる高分子基体の温度は、リオトロピック液晶高分子の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば20〜250℃の範囲に設定される。また例えばリオトロピック液晶高分子として、ポリベンズアゾールを採用した場合には、好ましくは20〜200℃、より好ましくは40〜150℃である。加熱手段としては、例えば加湿空気を加熱媒体とする方法、紫外線ランプから紫外線を照射する方法、誘電加熱による方法等が挙げられる。
【0033】
<配向工程>
このようにして液晶相(光学異方性)を発現している高分子基体は、配向工程に供される。配向工程では、高分子基体に対して、磁場又は電場を印加することにより、この高分子基体中において高分子鎖が一定方向に配向される。すなわち、高分子鎖は磁力線や電場の向きに沿って配向され、その高分子鎖の配向に沿った方向における熱伝導性等の特性が高められる。この配向工程における高分子基体は液晶相を発現しているため、高分子基体12中における高分子鎖は秩序性を有している。このように秩序性を有している高分子鎖は、磁場又は電場の印加によって効率的に配向されることになる。
【0034】
磁場は、永久磁石、電磁石、超電導磁石等の磁場発生手段によって印加することができる。電場は、電極、スライドトランス等を備えた電場発生手段によって印加することができる。この配向工程では、高分子基体に対して、高分子鎖を所望の方向に配向させるべく、その所望の方向に磁力線が平行になるように、磁場を印加することが好ましい。このような磁場の印加による配向によれば、高分子基体の表面形状に沿った方向に限らず、高分子基体の表面に対して交わる方向等、任意の方向に高分子鎖を配向させることが容易である。磁場の磁束密度は、好ましくは1〜30テスラ(T)、より好ましくは2〜25T、さらに好ましくは3〜20Tである。磁束密度が1T未満の場合、高分子鎖の配向が効率的に行われなくなるおそれがある。一方、30Tを超える磁束密度を得るためには、磁場発生手段のコストが増大することになる。
【0035】
本実施形態では、図2に示すように上下一対の磁石22を用いて、高分子基体12の厚さ方向に磁力線23が沿うようにして高分子基体12に磁場を印加することによって、高分子基体12の厚さ方向に高分子鎖を配向している。このように、磁場が印加された高分子基体12では、高分子鎖が厚さ方向(図5に示される高分子フィルム11のZ軸方向)に配向されることになるため、高分子フィルム11の厚さ方向における熱伝導性が向上される。なお、図3に示すように左右一対の磁石22を用いて、高分子基体12の表裏面に沿った方向に磁力線23を一致させれば、高分子基体12の表裏面に沿う方向に高分子鎖を配向させることができる。
【0036】
<凝固工程>
配向工程によって高分子が配向された高分子基体は、凝固工程に供される。この凝固工程は、高分子基体(高分子溶液)の高分子を凝固することによって高分子凝固体を得る工程であって、この凝固工程には、溶媒を蒸発させる方法、凝固液によって高分子を析出させる方法等を適用することができる。この凝固工程としては、溶媒を蒸発させるための加熱装置や、蒸発した溶媒を回収する装置などを省略することができるため、凝固液によって高分子を析出させる方法が好ましい。凝固液としては、高分子の溶媒と相溶性を有するとともに、高分子の貧溶媒又は高分子が不溶な液体を用いることができる。高分子基体12に凝固液を接触させることにより、この高分子基体では高分子の溶媒に対する溶解度が低くなる。このような高分子の溶解度の低下によって、高分子が析出することで高分子基体が凝固する。高分子の溶媒としてポリリン酸のような強酸を用いる場合には、凝固液を用いることによって、そのような強酸が希釈されるため、溶媒の取り扱いについての安全性が高まるとともに、溶媒の後処理が容易となる。
【0037】
本実施形態の凝固工程は、図1に示される成形用樹脂フィルム21の少なくとも一方を取り外した後、凝固液に浸漬することにより、配向工程が完了した高分子基体12に凝固液を接触させている。
【0038】
凝固液は、高分子の種類に応じて適宜選択すればよい。凝固液としては、例えば水、リン酸水溶液、硫酸水溶液等の酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、エチレングリコール等の水溶性有機溶剤等が挙げられる。凝固液は単独の成分から構成してもよいし、二種以上の成分からなる混合液として構成してもよい。また、この凝固工程では、高分子鎖の配向を維持すべく、磁場又は電場を印加しつつ高分子を凝固させることが好ましい。高分子の溶媒に対する凝固液の拡散が穏やかで、得られる高分子凝固体の表裏面の平滑性が確保され易いという観点から、凝固液として、10〜70質量%のリン酸水溶液、又は低級アルコールを用いることが好ましい。
【0039】
凝固液の温度は、好ましくは−60〜+60℃、より好ましくは−30〜+30℃、さらに好ましくは−20〜+20℃である。凝固液の温度が60℃を超えると、高分子凝固体の表裏面の平滑性を確保することが困難となるとともに、高分子凝固体の表裏面に密度差が生じることで、得られる高分子フィルム11の物性が不安定になるおそれがある。一方、凝固液の温度が−60℃未満の場合、得られる高分子フィルム11の物性に悪影響を与えるおそれがあるとともに、高分子の凝固速度が遅くなるため、生産性が低下するおそれがある。
【0040】
高分子凝固体は、後工程である硬化工程に供する前に、洗浄処理されることが好ましい。この洗浄処理は、例えば成形基材上に配置された高分子凝固体を洗浄液に通過させたり、高分子凝固体に洗浄液を吹き付けたりすることによって行うことができる。洗浄液としては、通常水が使用されるが、必要に応じて温水を使用してもよい。また、例えば高分子の溶媒として酸を使用した場合、高分子凝固体に酸が残留する。この場合、高分子凝固体を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリの水溶液で中和洗浄した後に、洗浄処理を行うことにより、高分子凝固体に含まれる酸を速やかに除去することができる。このような洗浄処理では、高分子凝固体に含まれる不純物が除去される。高分子凝固体における不純物は、高分子の構成単位を形成する酸や塩基、及び中和洗浄によって生じる無機塩であり、このような不純物は凝固工程の後工程において、高分子凝固体を劣化(分解)する要因となる。従って、高分子凝固体中における不純物の含有量が高まると、得られる高分子フィルム11の特性が損なわれるおそれがある。このため、洗浄処理後の高分子凝固体に含まれる不純物は、質量基準で500ppm以下であることが好ましい。
【0041】
<硬化工程>
凝固工程で得られた高分子凝固体は、硬化工程に供される。この硬化工程は、高分子凝固体が加圧体によって加圧された状態で行われる。高分子凝固体は、密着して配置される加圧体によって加圧されるため、その形状が保持された状態で乾燥される。さらに、この加圧体は通気性を有しているため、高分子凝固体から発生する蒸気が加圧体を通じることによって、高分子凝固体の乾燥が行われる。すなわち、高分子凝固体が乾燥されるに際し、その高分子凝固体が露出している部分に加えて、高分子凝固体が加圧体によって覆われている部分においても、高分子凝固体に含まれる溶媒等が揮発される。従って、高分子凝固体は、その全体にわたって乾燥されるため、高分子凝固体の乾燥速度が部分的にばらつくことを抑制することができる。この結果、高分子凝固体の収縮を抑制しつつ、高分子凝固体を乾燥することができる。
【0042】
この硬化工程で使用される加圧体としては、通気性を有していれば特に限定されない。加圧体の材質としては、例えば多孔質アルミナ、多孔質窒化ケイ素、多孔質炭化ケイ素等の多孔質セラミックス、多孔質金属、多孔質ガラス、多孔質樹脂等が挙げられる。加圧体の形状としては、例えば板状、ブロック状等が挙げられる。加圧体の厚さは特に限定されないが、1〜20mm程度のものが取り扱い性や耐久性の観点から好適に使用される。これらの加圧体の中でも、加圧体表面の平滑性及び加圧体の通気性を付与することが容易であるとともに、加圧の圧力に耐え得る強度も容易に得られることから、好ましくは多孔質板、より好ましくは多孔質セラミックス板又は多孔質金属板である。多孔質金属板を形成する金属としては、特に限定されないが、耐薬品性を考慮すると、アルミニウム、ステンレス鋼、ハステロイ系合金及びタンタルから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また、
多孔質セラミックス板としては、具体的には新東工業株式会社製の「ポーセラックス(登録商標)I」等を用いることができる。また、多孔質金属板の具体例としては、新東工業株式会社製の「ポーセラックス(登録商標)II」、萱野工業株式会社製のポーラスアルミ「POROUS」等を用いることができる。
【0043】
本実施形態では、図4に示すように加圧体として上下一対の多孔質板24を使用している。そして、高分子凝固体13を上下一対の多孔質板24によって挟持することにより、高分子凝固体13は、その上面及び下面の両面(表裏面)から多孔質板24を通じて乾燥される。
【0044】
上述した加圧体において、高分子凝固体の表面と接触する接触面の表面粗さは、得られる高分子フィルム11の表面を平滑に形成するという観点から、小さいほど好ましく、具体的にはJIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)において、0.05〜10μmであることが好ましい。この十点平均粗さ(Rz)が0.05μm未満であると、加圧体の製造が困難となるおそれがある。一方、十点平均粗さ(Rz)が10μmを超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。なお、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)は、位相補償広域フィルタ適用の輪郭曲線を用いて算出された十点平均粗さ(RzJIS94)である。
【0045】
加圧体の平均孔径(測定法:顕微鏡による目視観察)は、好ましくは0.1〜100μm、より好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは1〜20μmである。この平均孔径が0.1μm未満であると、乾燥効率が十分に得られないおそれがある。一方、この平均孔径が100μmを超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。加圧体の気孔率(測定法:JIS R 2205の「見掛気孔率」、又はJIS Z 2501「開放気孔率」)は、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは15〜25%である。この気孔率が10%未満であると、乾燥効率が十分に得られないおそれがある。一方、この気孔率が60%を超えると、得られる高分子フィルム11において、加圧体と接触していた表面における平滑性が十分に得られないおそれがある。
【0046】
加圧体によって高分子凝固体を加圧する際の圧力は、好ましくは0.49MPa(5kgf/cm2)〜9.8MPa(100kgf/cm2)、より好ましくは0.49MPa(5kgf/cm2)〜7.8MPa(80kgf/cm2)、さらに好ましくは0.98MPa(10kgf/cm2)〜7.8MPa(80kgf/cm2)である。この圧力が0.49MPa未満であると、高分子凝固体の収縮を十分に抑制することが困難となり、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性が十分に向上されないおそれがある。一方、この圧力が9.8MPaを超える場合、高分子凝固体が圧縮されることで、高分子鎖の配向が崩れてしまうおそれがある。すなわち、高分子凝固体を加圧する際の圧力を0.49MPa〜9.8MPaに設定することにより、高分子鎖の配向を好適に維持することができるとともに、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。
【0047】
加圧体による高分子凝固体の加圧には、クランプやプレス機等の周知の加圧手段を用いることができる。なお、加圧手段は、加圧体の通気性を損なわないように、加圧体の周縁部のみを加圧するように構成する等、加圧体を部分的に加圧するように構成すればよい。
【0048】
この硬化工程において、高分子凝固体の乾燥効率を向上させるために、高分子凝固体が加熱されることが好ましい。高分子凝固体の加熱温度は、好ましくは100〜500℃、より好ましくは100〜400℃、さらに好ましくは100〜200℃である。この加熱温度が100℃未満であると、乾燥効率を十分に向上することができないおそれがある。一方、この加熱温度が500℃を超える場合、その加熱によって高分子凝固体が劣化(分解)するおそれがあり、得られる高分子凝固体の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0049】
図4に示すように、本実施形態の膜状をなす高分子凝固体13を硬化する硬化工程においては、高分子凝固体13の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、硬化工程により得られる高分子フィルム11の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)は、以下の関係を満たす。
【0050】
収縮残存率R(%)=A2/A1×100≧50(%)
この収縮残存率R(%)は、乾燥工程において高分子凝固体13の収縮の度合いを示す値である。そして、硬化工程において、この収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように、硬化工程における加圧体の種類を選択したり、高分子凝固体13に加わる圧力、高分子凝固体13の温度等の条件を調節したりすることにより、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を高精度で制御することができる。さらに、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすことにより、高分子凝固体13の高分子が過剰に密になることを抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度をより高めることができる。
【0051】
この収縮残存率R(%)が50(%)未満であると、高分子フィルム11の表裏面における平滑性が十分に得られないおそれがある。この収縮残存率R(%)における面積A1は、加圧体によって加圧されていない状態における高分子凝固体13の表面積を示す。また、面積A2は硬化工程が完了した後に、温度25℃、相対湿度50%の環境下、24時間静置した高分子フィルム11の表面積を示す。なお、面積A1は加圧体と接触する面の表面積であるとともに、面積A2は加圧体と接触していた面における表面積である。なお、この収縮残存率R(%)の上限は、特に限定されないが、高分子凝固体13の性質を考慮すると、100(%)未満である。
【0052】
<高分子成形体>
高分子成形体としての高分子フィルム11は、その厚さ方向に高分子鎖が配向しているため、厚さ方向に優れた熱伝導性を有している。この高分子フィルム11における高分子鎖の配向は、2枚の偏光子や偏光顕微鏡を用いた光学的異方性(位相差、複屈折)の測定による方法、又は偏光赤外線吸収スペクトルによる解析法によって確認される。さらに、偏光ラマンスペクトル法、X線回折分析による方法、電子線回折分析による方法、電子顕微鏡により観察する方法等によっても確認される。
【0053】
高分子フィルム11の高分子鎖の配向度Aは、高分子フィルム11の広角X線回折測定(透過)を行うことによって求められる。この広角X線回折測定は、広角X線回折装置を用いて、高分子フィルム11にX線を照射することにより、高分子フィルム11中に存在する粒子(高分子鎖)が配向している場合には、同心弧状の回折パターン(デバイ環)が確認される。この回折パターン(デバイ環)から、図6に示すようなX線回折強度分布を示す回折パターンが得られる。このX線回折強度分布を示す回折パターンは、デバイ環の中心から半径方向におけるX線回折強度分布を示すものであって、横軸はX線の回折角2θを示し、横軸の特定の位置に確認される回折ピークは、高分子鎖間の距離を表すと見なされる。このような回折ピークが得られた角度(ピーク散乱角)を固定して、方位角方向(デバイ環の周方向)に0°〜360°までのX線回折強度分布を測定することにより、図7に示すような方位角方向のX線回折強度分布が得られる。このような方位角方向のX線回折強度分布におけるピークが急峻であるほど、高分子鎖が一定方向に高度に配向されていることが示される。従って、こうした方位角方向のX線回折強度分布において、ピーク高さの半分の位置における幅(半値幅ΔB)を求め、この半値幅ΔBを下記式(i)に代入することにより、高分子鎖の配向度を算出することができる。
【0054】
配向度A=(180−ΔB)/180 ・・・(i)
この配向度Aの値が高ければ高いほど、熱がより効率的に伝導される。高分子フィルム11における配向度Aは、好ましくは0.6以上1.0未満の範囲、より好ましくは0.65以上1.0未満の範囲、さらに好ましくは0.7以上1.0未満の範囲である。この配向度Aが0.6未満であると、高分子鎖の配向による熱伝導性が十分に発揮されないおそれがある。この配向度Aが例えば0.6以上であるように、配向度Aを高めた高分子フィルム11を得る場合には、その高分子フィルム11の製造工程において、高分子が配向している方向に対して直交する方向への収縮力が一層高まることになる。本実施形態のように、加圧体を用いた硬化工程を含む製造方法では、配向度Aを高める場合であっても、高分子凝固体13の収縮を好適に抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性を向上することができる。
【0055】
この高分子フィルム11において、表裏面の表面粗さは、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)において、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは7.0μm以下、最も好ましくは6.5μm以下である。この十点平均粗さ(Rz)が15μmを超えると、発熱体や放熱体との密着性が十分に得られないおそれがある。この十点平均粗さ(Rz)の下限は、特に限定されないが、高分子フィルム11の性質を考慮すると、0.1μm以上である。なお、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さ(Rz)は、位相補償広域フィルタ適用の輪郭曲線を用いて算出された十点平均粗さ(RzJIS94)である。
【0056】
この高分子フィルム11は、必要に応じて所定の大きさに裁断して使用する。この高分子フィルム11は、熱伝導性が要求される用途に適用されることにより、高分子フィルム11の機能が十分に発揮される。図8に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、プリント基板31に実装されているボールグリッドアレイ型半導体パッケージ32と、放熱器33との間に介装されている。
【0057】
図9に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、半導体チップ41と、放熱部として機能するダイパッド42との間に介装されている。この電子部品では、ボンディングワイヤ43で半導体チップ41の電極部とリードフレーム44のリード部とが電気的に接続されている。そして、エポキシ系封止剤を用いてトランスファーモールド法にて成形することにより、半導体チップ41及びボンディングワイヤ43がエポキシ封止剤から形成される封止材料45によって封止されている。
【0058】
図10に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、チップサイズ半導体パッケージ51とプリント基板31との間に介装されている。図11に示される電子部品では、この高分子フィルム11は、プリント基板31に実装されているピングリッドアレイ型半導体パッケージ34と放熱器としてのヒートシンク35との間に介装されている。
【0059】
この高分子フィルム11は、加圧を伴った硬化工程によって、厚さのばらつきが抑制されている。この高分子フィルム11の厚さは、特に限定されないが10〜300μm程度である。そして、この高分子フィルム11は、表裏面の平滑性が改善されているため、例えば半導体チップ、各半導体パッケージ等の発熱体とヒートシンク等の放熱体との間に介装させる際に、高分子フィルム11と、発熱体や放熱体との密着性が良好となり、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝えることができる。特に、IC等を備える電子部品における発熱は、半導体素子の動作に支障をきたしたり、パッケージにクラックを生じさせたりするおそれがあるため、このような電子部品の放熱対策は重要である。この高分子フィルム11をそうした電子部品と密着する部位において使用することにより、電子部品から発生する熱を効率よく放熱することができる。
【0060】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1) 高分子凝固体を硬化する硬化工程は、高分子凝固体に密着して配置される加圧体によって、その高分子凝固体が加圧された状態で行われる。そして、この加圧体は通気性を有している。このため、硬化工程における高分子凝固体では、加圧体によって形状が保持された状態、かつ加圧体を通じた乾燥が行われる。
【0061】
ところで、本実施形態の加圧体を用いずに、例えば通気性を有しない金属板を用いて加圧した場合には、金属板に表裏面が挟持される高分子凝固体は、その表裏面を通じた乾燥が行われずに、その周縁部を通じた乾燥が行われることになる。この場合、高分子凝固体の周縁部は、高分子凝固体の中央部分よりも先だって硬化することになる。すなわち、高分子凝固体の周縁部は、収縮を伴って硬化するため、その収縮力によって高分子凝固体の厚さのばらつきが生じる結果、得られる高分子フィルムでは表裏面の平滑性が低下する。このような高分子凝固体の周縁部における収縮力は、高分子凝固体の高分子鎖が磁場又は電場にて配向されている場合、顕著になる。
【0062】
本実施形態の硬化工程によれば、配向工程によって高分子鎖が高度に配向されており、乾燥によって極めて収縮し易い状態の高分子凝固体であっても、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。従って、このような硬化工程を適用することで、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を向上することができる。この結果、電子部品等の発熱体に対する高分子フィルム11の密着性が改善されることによって、高分子フィルム11が有する熱伝導性を十分に発揮させることができる。
【0063】
さらに、この硬化工程では、高分子凝固体の収縮が好適に抑制される結果、可撓性(柔軟性)や耐折強度が高められている。このため、電子部品等の適用物における屈曲部分においても、その形状に追従して高分子フィルム11を配置させることが容易であるため、高分子フィルム11の熱伝導性を容易に発揮させることができるとともに、高分子フィルム11の耐久性も十分に発揮させることができる。
【0064】
また、従来の配向工程を伴う製造方法では、表裏面が平滑であり、かつ厚さのばらつきの小さい高分子フィルムを得ることは極めて困難であった。すなわち、従来の高分子フィルムでは、平滑性と厚さの均一性が十分に得られていないため、半導体素子等の電子部品から生じる多大な発熱によって、電気化学的なマイグレーションが加速されたり、配線やパッド部の腐食が促進されたりするおそれがあった。また、そのような従来の高分子フィルムでは、電子部品に要求される放熱性が十分に発揮されないため、熱応力によって電子部品を構成する材料にクラックが生じたり、異なる材料の接合部の界面が剥離したりしてしまうことがあった。この結果、電子部品の寿命を延ばすことは困難であった。本実施形態の高分子フィルム11は、加圧を伴う硬化工程によって、表裏面の平滑性が向上されているとともに、厚さのばらつきが抑制されている。このため、従来のようなマイグレーション、配線やパッド部の腐食、電子部品を構成する材料の不具合等を抑制することができる結果、電子部品の寿命を延ばすことができる。
【0065】
さらに、この高分子フィルム11では上述の硬化工程によって、しわの発生も抑制されるため、この製造方法によれば、高分子フィルム11の歩留まりを改善することができる。
【0066】
(2) 硬化工程における加圧の圧力を0.49MPa〜9.8MPaに設定することにより、高分子鎖の配向を好適に維持することができるとともに、硬化工程における高分子凝固体の収縮を好適に抑制することができる。従って、得られる高分子フィルム11においては、表裏面の平滑性と熱伝導性とがバランスよく付与されるため、高分子フィルム11の熱伝導性をより一層発揮させることができる。さらに、高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度を一層高めることができる。加えて、硬化後の高分子フィルム11における割れの発生を抑制することができるため、高分子フィルム11の歩留まりを一層改善することができる。
【0067】
(3) 加圧体として多孔質板24を用いることが好ましい。多孔質板24は、表面の平滑性及び通気性を好適に形成することが容易であるため、得られる高分子フィルム11の表裏面における平滑性をさらに向上させることができる。さらに、多孔質板24は、加圧の圧力に対する強度も容易に得られることから、繰り返しの使用においても、十分な耐久性を発揮させることができる。
【0068】
(4) 硬化工程において、高分子凝固体が加熱されることが好ましい。この加熱によって、高分子凝固体の乾燥が効率的に行われる結果、高分子フィルム11の生産効率を向上することができる。
【0069】
(5) 硬化工程は、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われることにより、高分子フィルム11の表裏面における平滑性を高精度で制御することができる。さらに、収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすことにより、硬化過程において高分子凝固体の高分子が過剰に密になったり、高分子凝固体の厚さが過剰に厚くなったりすることを抑制することができるため、得られる高分子フィルム11の可撓性(柔軟性)や耐折強度をより高めることができる。
【0070】
(6) 硬化工程では、高分子凝固体を加圧体で挟持しているため、高分子凝固体は、その表裏面から加圧体を通じて乾燥される。このため、高分子凝固体の収縮がさらに抑制されるため、高分子フィルム11の表裏面における平滑性をより向上することができる。さらに、表裏面における平滑性等の物性差を極めて小さくすることができるため、この高分子フィルム11は、表裏のいずれの面を発熱体に密着させたとしても、同じ程度の熱伝導性を発揮させることができる。
【0071】
(7) 高分子フィルム11の高分子は、リオトロピック液晶高分子が好ましく、リオトロピック液晶高分子の中でも、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種がより好ましい。この場合、高強度及び高弾性率を有するとともに、耐熱性や難燃性に優れる高分子フィルム11を提供することができる。
【0072】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・ 硬化工程は、高分子凝固体を加熱せずに行ってもよい。例えば、高分子凝固体を加熱せずに、硬化工程を減圧下で行うことにより、高分子凝固体からの溶剤等の揮発が促進され、高分子凝固体の乾燥効率を高めることができる結果、高分子フィルム11の生産効率を向上することができる。なお、高分子凝固体を加熱しつつ、硬化工程を減圧下で行うことにより、高分子フィルム11の生産効率をさらに向上することができる。
【0073】
・ 高分子フィルム11は、単層構造の高分子フィルム11であるが、積層構造の高分子フィルムとして構成してもよい。積層構造の高分子フィルムを製造するには、例えば高分子溶液をダイの口金内にて積層する共押出による方法、予め形成した第1の層に第2の層を積層する方法等の周知の方法を適用することができる。なお、積層構造の高分子フィルムは、第1の層として熱可塑性樹脂等の高分子から形成した他の高分子フィルムを適用するとともに第2の層を本実施形態の高分子フィルムとして構成してもよいし、第1の層を本実施形態の高分子フィルムとして構成するとともに第2の層を熱可塑性樹脂等の高分子から形成した他の高分子フィルムを適用してもよい。また、三層以上の積層構造を有する高分子フィルムとする場合、本実施形態の高分子フィルムを最外層として構成すれば、本実施形態の高分子フィルムの表面における平滑性を利用して発熱体との密着性を高めることができる。
【0074】
・ 前記硬化工程では、図4に示すように高分子凝固体13を上下一対の多孔質板24にて挟持しているが、少なくとも一方の多孔質板24を、通気性を有していない加圧体に変更してもよい。この場合であっても、多孔質板24の通気性により、高分子凝固体13の収縮を抑制しつつ、高分子フィルム11を製造することができるため、高分子フィルム11の表裏面の平滑性を向上することができる。
【0075】
・ 前記配向工程では、膜状に形成した高分子基体12の高分子鎖を配向させているが、配向工程における高分子基体12の形状、すなわち配向工程における高分子溶液の形状は、特に限定されない。高分子溶液を例えば板状、ブロック状等に形成してもよい。同様に、高分子成形体は、高分子フィルム11に限定されず、高分子成形体の形状を例えば板状、ブロック状等に変更してもよい。
【実施例】
【0076】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
高分子として、式(1)においてAr1およびAr2が共にベンゼン環であり、Xが酸素原子であるポリベンゾオキサゾールを合成した。まず、攪拌装置、窒素導入管、乾燥器を備えた反応容器に、ポリリン酸(H3PO4当量:115%)300g、4,6−ジアミノレゾルシノール2塩酸塩5g(23.4mmol)、テレフタル酸ジクロライド4.76g(23.4mmol)を充填し、70℃で16時間撹拌した。さらに、その溶液を攪拌しながら、90℃で5時間、130℃で3時間、150℃で16時間、170℃で3時間、185℃で3時間、200℃で48時間の順に段階的に昇温して、各段階においてその温度を一定時間維持することによって、同溶液を反応させ、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液を得た。次に、粗製ポリベンゾオキサゾール溶液をメタノール、アセトン、水で再沈殿して固有粘度約10dl/gのポリベンゾオキサゾールを得た。得られたポリベンゾオキサゾールに、ポリリン酸を加え、最終濃度が10質量%のポリベンゾオキサゾール溶液を調製した。このようにして得られた高分子溶液としてのポリベンゾオキサゾール溶液は、偏光顕微鏡を用いた観察によって、光学異方性(液晶性)を示すことが確認された。
【0077】
得られたポリベンゾオキサゾール溶液を、図1に示す一方の成形用樹脂フィルム21に塗布した後、他方の成形用樹脂フィルム21を用いて、そのポリベンゾオキサゾール溶液を挟持することにより、膜状の高分子基体12を成形した。なお、成形用樹脂フィルム21としては、表面にフッ素コート処理が施されたPETフィルムを用いた。次に、図2に示すように磁力線23が高分子基体12の厚み方向と平行になるように、高分子基体12の上下に一対の磁石22を配置した。これらの磁石22によって、高分子基体12に10Tの磁場を印加しながら、120℃で20分加熱した。さらに、その高分子基体12を静置した状態で、室温まで自然冷却させることにより、配向工程を完了した。
【0078】
次に、成形用樹脂フィルム21の一方を高分子基体12から取り外した後、凝固液としてのメタノールと水の混合溶液中に浸漬した。この混合溶液中にて、他方の成形用樹脂フィルム21を高分子基体12から取り外し、その高分子基体12を凝固させて、膜状の高分子凝固体を得た。その高分子凝固体を同混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中で1時間、さらにアセトンに10分間浸漬することにより、凝固工程を完了した。
【0079】
次いで、図4に示すように高分子凝固体13を一対の多孔質板24で挟持して、0.98MPaの圧力下、120℃で1時間、同圧力下、150℃で1時間乾燥することにより、硬化工程を完了し、高分子フィルム11を得た。なお、多孔質板24は、アルミニウム製であり、平均孔径が15〜18μm、気孔率が15〜20%のものである。
【0080】
(実施例2〜6)
表1に記載の圧力に変更した以外は、実施例1と同様の方法によって各高分子フィルム11を得た。
【0081】
(実施例7)
ポリベンゾオキサゾール溶液から高分子基体12を成形した後、図3に示すように磁力線23が高分子基体12の表裏面と平行になるように、高分子基体12の左右に一対の磁石22を配置した以外は、実施例1と同様の方法によって高分子フィルム11を得た。
【0082】
(比較例1)
実施例1と同様にして、膜状の高分子基体12を成形した。次に、図2に示すように磁力線23が高分子基体12の厚み方向と平行になるように、高分子基体12の上下に一対の磁石22を配置した。このようにして高分子基体12に10Tの磁場を印加しながら、120℃で20分加熱した。さらに、その高分子基体12を静置した状態で、室温まで自然冷却させることにより、配向工程を完了した。
【0083】
次に、成形用樹脂フィルム21の一方を高分子基体12から取り外した後、凝固液としてのメタノールと水の混合溶液中に浸漬した。この混合溶液中にて、他方の成形用樹脂フィルム21を高分子基体12から取り外し、その高分子基体12を凝固させて、膜状の高分子凝固体を得た。その高分子凝固体を同混合溶液中に1時間浸漬し、次いで水中で1時間、さらにアセトンに10分間浸漬することにより、凝固工程を完了した。
【0084】
次いで、高分子凝固体を取り出した後、その高分子凝固体を、拘束や加圧をせずに120℃で1時間、150℃で1時間乾燥することにより、硬化工程を完了し、高分子フィルムを得た。
【0085】
(比較例2)
硬化工程において、高分子凝固体を一対のアルミニウム板で挟持し、0.12MPaの圧力下、120℃で1時間、同圧力下、150℃で1時間乾燥した以外は、比較例1と同様にして高分子フィルムを得た。
【0086】
(比較例3、4)
表2に記載の圧力に変更した以外は、比較例2と同様の方法によって各高分子フィルムを得た。
【0087】
(比較例5)
配向工程において、図3に示すように磁力線23が高分子基体12の表裏面と平行になるように、高分子基体12の左右に一対の磁石22を配置した以外は、比較例1と同じ方法で高分子基体12の高分子鎖を配向させた。次に、得られた高分子基体12について、比較例1と同じ方法で凝固工程を行った。次いで、得られた高分子凝固体について、比較例2と同じ方法で硬化工程を行った。
【0088】
(比較例6)
厚さ125μmのポリイミドフィルム(PI)(デュポン社製、商品名「カプトン」)を比較例7の高分子フィルムとした。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
表1及び表2に示される配向度A、収縮残存率R、熱拡散率α、及び熱伝導率λの算出方法、並びに十点平均粗さRzの測定方法について以下に記載する。
【0091】
<配向度A>
高分子フィルムの配向度A、X線回折装置(理学電機株式会社製「RINT−RAPID」)を使用して、得られた各高分子フィルムの方位角方向のX線回折強度分布におけるピークの半値幅ΔBから上述の式(i)によって算出した。一例として、実施例1の高分子フィルム11について、図6にX線回折測定による赤道方向の回折パターンを示し、図7に回折ピーク角度2θ=約26°における方位角方向のX線回折強度分布を示す。
【0092】
<収縮残存率R>
多孔質板24又はアルミニウム板によって加圧や拘束されていない状態における高分子凝固体の表面積を測定し、この表面積を収縮残存率R(%)における面積A1とした。さらに、硬化工程が完了した高分子フィルムについて、温度25℃、相対湿度50%の環境下、24時間静置した後に、その高分子フィルムの表面積を測定し、この表面積を収縮残存率R(%)における面積A2とした。これらの面積A1及びA2を下式に代入し、収縮残存率R(%)を算出した。
【0093】
収縮残存率R(%)=A2/A1×100
<熱拡散率α>
高分子フィルムの厚さ方向の熱拡散率αZは、熱拡散率測定装置(株式会社アイフェイズ製、商品名「アイフェイズα」)を用い、各高分子フィルムの表面にスパッタリングにより電極を直接形成し、銀ペーストによりリード線を取り付け、各高分子フィルムの下面にセンサー、上面にヒーターを当接させて、室温にて測定した。また、表裏面に沿った方向の熱拡散率αXは、赤外線カメラを利用した2次元熱分析装置(株式会社アイフェイズ製、商品名「アイフェイズIR」)を用い、各高分子フィルムの表面にスパッタリングによりL字型長さ4mm、幅1mmの電極を直接形成し、図5に示したX軸方向及びY軸方向への室温における熱流観測から測定した。
【0094】
<熱伝導率λ>
熱伝導率λは、高分子フィルムの熱拡散率αから下記式(ii)によって求めた。
熱伝導率λ=α・ρ・CP ・・・(ii)
(但し、αは熱拡散率、ρは密度、CPは比熱を示す。)
<十点平均粗さ(Rz)>
各高分子フィルムについて、JIS B 0601−1994に準拠する「表面粗さ形状測定機」(株式会社東京精密製、商品名「サーフコム550A」)を用いて測定した。
【0095】
(高分子フィルムの評価結果)
表1に示すように、実施例1〜7の高分子フィルム11では、熱拡散率及び熱伝導率の値が比較例7に示される従来の高分子フィルムよりも高い値を示しているため、各実施例の高分子フィルム11では、比較例7の高分子フィルムよりも優れた熱伝導性を発揮されることがわかる。
【0096】
さらに、各実施例の高分子フィルム11の十点平均粗さ(Rz)の測定結果は、比較例1〜5の測定結果よりも、小さい値を示している。この十点平均粗さ(Rz)の測定結果は、各実施例の高分子フィルム11では、表裏面の平滑性が向上されていることが示されており、発熱体や放熱体に接触させて使用するに際して、発熱体や放熱体に対する高分子フィルム11の密着性が改善されることによって、熱伝導性能を十分に発揮させることができることを示している。
【0097】
<しわの評価>
各高分子フィルムの表裏面の状態を観察し、しわの有無について評価した。その結果を表3に示す。
【0098】
<屈曲寿命の評価>
各高分子フィルムの屈曲寿命は、曲げ半径約10mm、屈曲速度100回/分、ストローク20mm、及び室温下の条件で、各高分子フィルムが破断するまでの屈曲回数にて示される。屈曲回数が5万回以上のものを○(達成)、5万回に満たなかったものを×(未達成)とし、その結果を表3に示す。
【0099】
<割れの評価>
各高分子フィルムの表面状態を観察し、割れの有無について評価した。その結果を表3に示す。
【0100】
【表3】
表3に示されるように各実施例の高分子フィルム11には、しわの発生がないことから、各実施例の製造方法によれば、歩留まりよく高分子フィルム11を製造することができる。
【0101】
さらに実施例1〜5、及び実施例7では、硬化工程における加圧の圧力を0.49MPa〜9.8MPaの範囲に設定していたため、得られた高分子フィルム11では、優れた可撓性を有している。このため、実施例1〜5、及び実施例7では、表3に示すように屈曲寿命に優れている。このように、実施例1〜5、及び実施例7の高分子フィルム11は可撓性に優れることから、種々の電子機器の屈曲部に配置させることが容易であり、さらに十分な屈曲寿命を有することから、そうした屈曲部に配置した場合であっても、十分な耐久性を発揮させることができる。加えて実施例1〜5、及び実施例7の高分子フィルム11では、割れも発生しないことから、高分子フィルム11を製造するに際して、歩留まりを一層向上させることができる。
【0102】
(実施例8)
実施例1と同様にして、ポリベンゾオキサゾール溶液を原料として、配向工程、凝固工程を行うことにより、高分子凝固体を得た。得られた高分子凝固体について、硬化工程における条件を、120℃、2時間に変更した以外は、実施例1と同様に硬化工程を行うことにより、高分子フィルム11を得た。得られた高分子フィルム11の厚さは150μmであった。
【0103】
この高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、プリント基板31に実装したボールグリッドアレイ型半導体パッケージ32上に、この高分子フィルム11を配置するとともに、さらに高分子フィルム11上に放熱器33を配置することにより、電子部品を作製した。
【0104】
(実施例9)
実施例1で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、ダイパッド42と半導体チップ41との間に、高分子フィルム11を挟み込み、さらにボンディングワイヤ43で半導体チップ41の電極部とリードフレーム44のリード部を電気的に接続した後、エポキシ系封止剤を用いて、トランスファーモールド法にて電子部品を成形した。
【0105】
(実施例10)
実施例3で得られた高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0106】
(実施例11)
実施例3で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0107】
(実施例12)
実施例7で得られた高分子フィルム11を、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0108】
(実施例13)
実施例7で得られた高分子フィルム11を、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルム11を変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0109】
(比較例7)
比較例3で得られた高分子フィルムを、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0110】
(比較例8)
比較例3で得られた高分子フィルムを、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0111】
(比較例9)
比較例6の高分子フィルムを、図8に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例8と同様にして電子部品を作製した。
【0112】
(比較例10)
比較例6の高分子フィルムを、図9に示される電子部品に適用した。すなわち、高分子フィルムを変更した以外は実施例9と同様にして電子部品を作製した。
【0113】
<熱抵抗値の測定>
実施例8〜13、及び比較例7〜10の電子部品に通電して10分間経過した後、電子部品の表面温度を測定した。図8に示される電子部品では、プリント基板31の表面温度θj1、及び放熱器33の表面温度θj0を測定した。図9に示される電子部品では、半導体チップ41側の表面温度θj1、及びダイパッド42側の表面温度θj0を測定した。表面温度θj1,θj0を下記式に代入して熱抵抗値(℃/W)を算出した。
【0114】
熱抵抗値(℃/W)=(θj1−θj0)/電子部品の発熱量(W)
熱抵抗値(℃/W)の測定結果を表4に示す。
【0115】
【表4】
表4の結果から明らかなように、実施例8〜13の熱抵抗値は、比較例7〜10の熱抵抗値よりも小さい値を示しており、各実施例の電子部品では放熱特性が改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】本実施形態における高分子基体の成形方法を示す概略図。
【図2】高分子基体の厚さ方向に高分子鎖を配向させる配向工程を示す概略図。
【図3】高分子基体の表裏面に沿った方向に高分子鎖を配向させる配向工程を示す概略図。
【図4】硬化工程を示す概略図。
【図5】高分子フィルムを示す斜視図。
【図6】高分子フィルムのデバイ環の中心から半径方向のX線回折パターンの例を示すグラフ。
【図7】高分子フィルムの方位角方向のX線回折強度分布の例を示すグラフ。
【図8】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図9】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図10】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【図11】高分子フィルムを適用した電子部品の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0117】
11…高分子成形体としての高分子フィルム、13…高分子凝固体、24…加圧体としての多孔質板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学異方性を発現している高分子溶液に対して磁場又は電場を印加することにより、前記高分子溶液における高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、
該配向工程によって配向された高分子を凝固することにより高分子凝固体を得るための凝固工程と、
該高分子凝固体を硬化することにより、高分子成形体を得るための硬化工程とを含み、
前記高分子溶液から前記高分子成形体を製造する高分子成形体の製造方法であって、
前記硬化工程では、
通気性を有するとともに前記高分子凝固体を加圧する加圧体が、前記高分子凝固体に密着して配置された状態において、前記高分子凝固体の前記加圧体を通じた乾燥が行われることを特徴とする高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化工程における加圧の圧力が、0.49MPa〜9.8MPaである請求項1に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧体が、多孔質板である請求項1又は請求項2に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程において前記高分子凝固体が加熱される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項5】
前記高分子溶液は膜状に成形され、
前記硬化工程が、
該硬化工程に供される前記高分子凝固体の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、該硬化工程により得られる高分子成形体の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)=A2/A1×100が収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項6】
前記硬化工程では、前記高分子凝固体を前記加圧体で挟持する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法によって得られる高分子成形体であって、
前記高分子溶液の高分子が、リオトロピック液晶高分子であることを特徴とする高分子成形体。
【請求項8】
前記リオトロピック液晶高分子が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の高分子成形体。
【請求項1】
光学異方性を発現している高分子溶液に対して磁場又は電場を印加することにより、前記高分子溶液における高分子鎖を一定方向に配向する配向工程と、
該配向工程によって配向された高分子を凝固することにより高分子凝固体を得るための凝固工程と、
該高分子凝固体を硬化することにより、高分子成形体を得るための硬化工程とを含み、
前記高分子溶液から前記高分子成形体を製造する高分子成形体の製造方法であって、
前記硬化工程では、
通気性を有するとともに前記高分子凝固体を加圧する加圧体が、前記高分子凝固体に密着して配置された状態において、前記高分子凝固体の前記加圧体を通じた乾燥が行われることを特徴とする高分子成形体の製造方法。
【請求項2】
前記硬化工程における加圧の圧力が、0.49MPa〜9.8MPaである請求項1に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項3】
前記加圧体が、多孔質板である請求項1又は請求項2に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程において前記高分子凝固体が加熱される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項5】
前記高分子溶液は膜状に成形され、
前記硬化工程が、
該硬化工程に供される前記高分子凝固体の厚さ方向に直交する面の面積をA1とするとともに、該硬化工程により得られる高分子成形体の厚さ方向に直交する面の面積をA2として示される収縮残存率R(%)=A2/A1×100が収縮残存率R(%)≧50(%)の関係を満たすように行われる請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項6】
前記硬化工程では、前記高分子凝固体を前記加圧体で挟持する請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高分子成形体の製造方法によって得られる高分子成形体であって、
前記高分子溶液の高分子が、リオトロピック液晶高分子であることを特徴とする高分子成形体。
【請求項8】
前記リオトロピック液晶高分子が、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリベンズイミド、ポリパラフェニレン、及びポリベンズアゾールから選ばれる少なくとも一種である請求項7に記載の高分子成形体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−217587(P2007−217587A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40639(P2006−40639)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】
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