説明

高分子電解質、および該電解質を含む燃料電池用電解質

【課題】 特に固体高分子形燃料電池の電解質膜、電極形成材料として有用な高分子電解質を提供することである。つまり、安価で化学構造の多様性を持つ炭化水素系材料であって、高温低加湿でのプロトン伝導度に優れており、耐酸化性の優れる高分子電解質を提供することである。この高分子電解質を用いて構成した固体高分子形燃料電池は、高い特性を示す。
【解決手段】 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックからなる高分子電解質であって、スルホン酸基の水素イオンの一部が多価遷移金属イオンに交換されている高分子電解質を用いることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられる高分子電解質、電解質膜、電極形成材料、またそれらによって構成される膜−電極接合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。
【0003】
上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが電解質である。その電解質からなる燃料と酸化剤とを隔てる電解質膜としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。
【0004】
このような背景から、スルホン酸基などのプロトン伝導基の導入の範囲が広く調整できる炭化水素系電解質膜の開発が期待されるようになってきた。炭化水素系電解質膜は化学構造の多様性を持たせやすく、他の材料との複合化、架橋の導入などが比較的容易であるなどの特性を有している。このような材料としては、特許文献1に示されるような、ポリイミドの構造を持ったもの、また特許文献2のような、ポリエーテル系主鎖をブロック構造として持ったものなどが挙げられる。
【0005】
特許文献3には、セリウムやマンガンなど、ある標準電極電位を持つカチオンを持つ高分子電解質膜が耐久性に優れることが示されている。また特許文献4には、芳香環を持つ炭化水素系電解質膜にセリウムやマンガンを含む構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−13668
【特許文献2】特開2008−7759
【特許文献3】特開2006−99999
【特許文献4】特開2007−188706
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、固体高分子形燃料電池の高分子電解質膜、触媒層用のバインダーとして有用な高分子電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
1). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックからなり、スルホン酸基の水素イオンの一部が多価遷移金属イオンに交換されている高分子電解質。
【0010】
2). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックのイオン交換容量が、3.0meq./g以上であり、かつ高分子電解質のイオン交換容量が1.2〜2.5meq./gの範囲である、1)に記載の高分子電解質。
【0011】
3). 多価遷移金属イオンが、セリウムイオンおよび/またはマンガンイオンを含む、1)または2)に記載の高分子電解質。
【0012】
4). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックのスルホン酸基の水素イオンの、3〜30mol%が多価遷移金属イオンに交換されている1)〜3)のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【0013】
5). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックが、下記一般式(1)および/または一般式(2)で示される繰り返し単位にスルホン酸基が導入されている構造を含む、1)〜4)のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【0014】
【化1】

【0015】
(一般式(1)中、Xは連結基を示し、ブロック中複数有るXは同じでも異なっていても良い。Rはアルキル基あるいはフェニル基を示し、一つのベンゼン環に導入されているRの数は0〜4であり、ブロック中複数有るRは同じでも異なっていても良い。)
【0016】
【化2】

【0017】
(一般式(2)中、X1、X2は連結基を示し、ブロック中複数有るX1とX2は同じでも異なっていても良い。Ar1、Ar2はアリール基を示し、ブロック中複数有るAr1とAr2は同じでも異なっていても良い。)
6). 一般式(1)で示される繰り返し単位において、Xが酸素であり、かつ/または一般式(2)で示される繰り返し単位において、X1および/またはX2が酸素である、5)に記載の高分子電解質。
【0018】
7). 一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar1が下記化学式群(3)より選択される少なくとも一つである、5)または6)に記載の高分子電解質。
【0019】
【化3】

【0020】
8). 一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar2が下記化学式群(4)より選択される少なくとも一つである、5)〜7)のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【0021】
【化4】

【0022】
9). 一般式(2)で示される繰り返し単位が、下記式(5)である、5)に記載の高分子電解質。
【0023】
【化5】

【0024】
10). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックが、下記式群(4)で示される繰り返し単位からなる構造を含む、1)〜9)のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【0025】
【化6】

【0026】
11). 繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックが、下記式(6)で示される繰り返し単位からなる構造を含む、1)〜10)のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【0027】
【化7】

【0028】
12). 1)〜11)のいずれか1項に記載の高分子電解質を含む、燃料電池用電解質。
【0029】
13). 12)記載の燃料電池用電解質を含む、燃料電池用電解質膜。
【0030】
14). 12)記載の燃料電池用電解質を含む、燃料電池用電極形成材料。
【0031】
15). 14)記載の燃料電池用電極形成材料を含む燃料電池用電極。
【0032】
16). 燃料電池用電解質膜と燃料電池用電極との接合体であって、燃料電池用電解質膜が13)に記載の燃料電池用電解質膜および/または、燃料電池用電極が15)に記載の燃料電池用電極であることを特徴とする接合体。
【0033】
17). 16)に記載の接合体を含む燃料電池。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、プロトン伝導性、特に高温低加湿でのプロトン伝導性に優れ、酸化条件における耐久性の高い高分子電解質を提供することができる。
【0035】
また、この高分子電解質を高分子電解質膜、触媒層バインダーに用いることによって、高温においても燃料ガスの湿度によらず高い性能を持ち、酸化条件における耐久性の高いことから長時間の信頼性の高い燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】固体高分子形燃料電池の断面略図
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0038】
<1.高分子電解質>
本発明の高分子電解質は、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックからなる高分子電解質である。繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックは、分子量がそれぞれ数平均分子量で2000以上50000以下が好ましい。
【0039】
この範囲よりも小さいとブロックの形態をとる効果が薄れ、伝導性が低下する可能性があり、この範囲よりも大きいと高分子電解質の作製が困難となる可能性がある。それぞれのブロックは、化学的に結合する必要があり、それぞれのブロック交互に並ぶことにより主鎖を形成するいわゆるブロック型共重合体、またはたとえば親水部のブロックが主鎖に枝状に結合するいわゆるグラフト型共重合体などが挙げられる。
【0040】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックのそれぞれの割合については、繰り返し単位に有するスルホン酸基の数、高分子電解質のイオン交換容量、で適切な割合が異なってくる。プロトン伝導度、水に浸漬した際の膨潤性や強度などにより適宜設定すればよいが、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックの割合が全体の20〜80mol%、さらには20〜65mol%、特には20〜49mol%であれば本発明の効果のひとつである高温低加湿でのプロトン伝導度が優れ好ましい。
【0041】
ここで、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックとは、ブロックを構成する繰り返し単位に平均1個以上スルホン酸基を有するブロックを示す。さらには平均3個以上であることが好ましい。繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックとは、ブロックを構成する繰り返し単位にスルホン酸基が平均0.1個以下(つまり繰り返し単位10単位に1個以下)であるブロックを示す。好ましくは繰り返し単位にスルホン酸基がまったく存在しないのが好ましい。
【0042】
また、本発明の効果を得るためには繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックのイオン交換容量は3.0meq./g以上であり、かつ前記高分子電解質のイオン交換容量が1.2〜2.5meq./gであることが好ましい。この条件を満たせば、本発明の効果のひとつである高温低加湿でのプロトン伝導度が優れる。
【0043】
また、本発明の高分子電解質は、スルホン酸基の水素イオンの一部が多価遷移金属イオンに交換されている高分子電解質である。ここで、多価遷移金属イオンとは、セリウムイオン、マンガンイオン、マグネシウムイオン、銅イオン、イットリウムイオン、ランタンイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、ハフニウムイオンなどが例示される。なかでも、セリウムイオン、および/またはマンガンイオンを含む遷移金属イオンであることが本発明の効果を得られやすく望ましい。中でも遷移金属イオン中、セリウムイオン、および/またはマンガンイオンが50原子%以上、さらには全てがセリウムイオン、および/またはマンガンイオンであることが好ましい。
【0044】
多価遷移金属イオンに交換されている割合は、3〜30mol%が好ましく、さらに好ましくは3〜25mol%が好ましい。この範囲であれば、酸化条件における高い耐久性と高温低加湿における優れたプロトン伝導度が発現しうる。また、11〜25mol%の範囲にある場合耐久性が発現しやすく好ましい。また、3〜10mol%の範囲にある場合プロトン伝導度が良好となり好ましい。さらに、16〜25mol%の範囲にある場合耐久性と高温低加湿におけるプロトン伝導度のバランスが良好となり特に好ましい。
【0045】
スルホン酸基の水素イオンの一部を多価遷移金属イオンに交換する方法は、さまざまな方法が考えられるが、多価遷移金属の化合物の溶液に、高分子電解質を浸漬する方法が簡便でよい。また、化合物は塩であり、溶液は水溶液であることが置換割合を調整しやすく望ましい。
【0046】
塩としては、たとえばセリウムであれば3価の塩として硝酸セリウム、炭酸セリウム、酢酸セリウム、塩化セリウム、硫酸セリウム、またはこれらの水和物などが挙げられる。4価の塩としては、硫酸セリウム、硫酸アンモニウムセリウム、またはこれらの水和物などが挙げられる。
【0047】
また例えばマンガンであれば、2価の塩として硝酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、塩化マンガン、またはこれらの水和物などが挙げられる。3価の塩としては、酢酸マンガン、この水和物などが挙げられる。水溶液の濃度と温度、浸漬時間は所望の置換割合となるよう適宜調整すればよい。
【0048】
また、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックの好ましいブロックの構造については、下記一般式(1)、(2)で示される繰り返し単位にスルホン酸基が導入されている構造が挙げられる。
【0049】
【化8】

【0050】
(一般式(1)中、Xは連結基を示し、ブロック中複数有るXは同じでも異なっていても良い。Rはアルキル基、フェニル基を示し、一つのベンゼン環に導入されているRの数は0〜4であり、ブロック中複数有るRは同じでも異なっていても良い。)
【0051】
【化9】

【0052】
(一般式(2)中、X1、X2は連結基を示し、ブロック中複数有るX1とX2は同じでも異なっていても良い。Ar1、Ar2はアリール基あるいはアリール基が2個以上からなる基を示し、ブロック中複数有るAr1とAr2は同じでも異なっていても良い。)
【0053】
一般式(1)で示される繰り返し単位において、Xが酸素であり、かつ/または一般式(2)で示される繰り返し単位において、X1および/またはX2が酸素であることが、さらにはX、X1、X2のすべてが酸素であると目的の高分子電解質の作りやすさから望ましい。
【0054】
ここで、上記一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar1は下記化学式群(3)の構造が例示される。
【0055】
【化10】

【0056】
また、一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar2は下記化学式群(4)の構造が例示される。
【0057】
【化11】

【0058】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックの好ましいブロックの構造としては以上のとおりであるが、具体的な構造を例示すると下記化学式群(7)で示される繰り返し単位にスルホン酸基が導入されている構造となる。これらは比較的容易な合成法により入手でき、本発明の効果を得られやすいので好ましい。
【0059】
【化12】

【0060】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックの構造については、下記式群(4)で示される繰り返し単位からなる構造を含む構造が比較的容易な合成法により入手でき、本発明の効果を得られやすいので好ましい。
【0061】
【化13】

【0062】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックの好ましい構造としては以上のとおりであるが、これら構造が酸素を介して結合したブロックであることが好ましい。具体的な構造を例示すると下記化学式群(8)で示される繰り返し単位からなる構造があげられる。これらは比較的容易な合成法により入手でき、本発明の効果を得られやすいので好ましい。
【0063】
【化14】

【0064】
<2.本発明の高分子電解質の利用>
本願の高分子電解質は様々な用途に用いることができるが、具体的には、燃料電池用電解質膜、燃料電 池用電極形成材料、燃料電池用電極、膜/電極接合体、それらの電極等を用いた燃料電池をあげることが できる。
【0065】
<2−1.本発明にかかる燃料電池用電解質膜>
本発明にかかる高分子電解質膜は、上記高分子電解質を含んでなる高分子電解質膜である。
【0066】
膜の製法としては、溶融押出法、キャスト法等、通常のシート、フィルムの製法を用いることができる。中でも上記高分子電解質を溶媒に溶解/分散させ、適当な基材に流延した後、溶媒を留去するキャスト法が望ましい。キャスト法とは、ガラス板などの平板上に、バーコーター、ブレードコーターなどを用いて電解質溶液を流延し、溶媒を気化、留去させて膜を得る方法である。工業的には溶液を連続的にコートダイからベルト上に流延し、溶媒を気化させて長尺物を得る方法も一般的である。
【0067】
この時の溶液の濃度、粘度や、溶媒の気化条件などは、適宜調整される。また、上記高分子電解質の溶液は十分に溶解されていることが望ましい。その方法としてはスターラーによる混合、超音波による混合、遊星式攪拌機による混合などが挙げられ他にも公知の方法が適応可能である。
【0068】
また、本発明の電解質膜の分子配向などを制御するために、得られた高分子電解質膜に対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子電解質膜の機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子電解質膜とをプレスにより複合化させたりすること、樹脂の不織布や多孔質樹脂中などの多孔質体に含浸させた形態も、本発明の範疇である。
【0069】
電解質膜の変性として、架橋の導入も適応できる。これは後述の放射線の照射のほか、架橋剤による架橋も挙げられる。具体的には、電解質膜中の成分と反応しうる活性基を2つ以上持った架橋剤を膜中に存在させ、適切な条件で架橋剤と電解質膜中の高分子とを反応させることにより行うことができる。
【0070】
このような架橋剤としては、例えば、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−ベンゼン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)−ベンゼン、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−フェノール、2,6−ビス(ヒドロキシメチル)−パラ−クレゾール、5,5´−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス[2−ヒドロキシ−1,3−ベンゼンジメタノール]、オキシビス(3,4−ジヒドロキシメチル)ベンゼン、4,4´−メチレンビス[2,6−ジ(ヒドロキシメチル)]フェノール、2,4,6−トリス[ビス(メトキシメチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン、ジビニルベンゼンがあげられる。
【0071】
また、次の市販されているものも用いることができる。サイメル(登録商標:日本サイテック製)、DML-PC、TML-BPA-MF、TML−BPAF−MF、DML−OC、Dimethoxymethyl p−CR、DML−MBPC、DML−BPC、TML−BP、DML−PEP、DML−34X、DML−PSBP、DML−PCHP、DML−POP、DML−PFP、DML−MBOC(以上本州化学工業株式会社製)、26DMPC、46DMOC、DM−BIPC−F、DM−BIOC−F、TM−BIP−A(以上旭有機材工業株式会社製)、ニカラック(株式会社三和ケミカル)などがある。
【0072】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のガス、メタノール遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子電解質膜の厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。
【0073】
さらに取り扱いが容易であり、破損が生じ難いなどハンドリング性の面や、プロトン伝導性の面から、高分子電解質膜の厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。また、さらに好ましくは、上記高分子電解質膜の厚みは、5μm以上100μm以下であることが、実用上のバランスを考慮した際に好ましい。
【0074】
なお、本発明の高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらなる性能向上も可能である。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層との接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0075】
<2−2.本発明にかかる燃料電池用電極形成材料、燃料電池用電極>
本発明にかかる燃料電池用電極形成材料は、本発明の高分子電解質を燃料電池の触媒層を作製する際に用いるバインダーとしての用途に用いたものである。
【0076】
ここでのバインダーとは、燃料電池用触媒(たとえば、白金などの貴金属触媒を担持したカーボン粉体)を薄膜状に形成するための結着剤であり、イオノマーと表現されることも多い。このバインダーに対しても、膜同様の高いプロトン伝導性、耐久性が求められるので、本願発明に係る高分子電解質を用いることができる。また、バインダーには高分子電解質膜に求められるプロトン伝導性、耐久性に加えて触媒を分散させるための溶媒溶解性、結着保持力などが求められるが、本願発明に係る高分子電解質はこれらの特性も有するので、燃料電池用電極形成材料のバインダーとしても用いることができる。
【0077】
触媒層バインダーとしては、任意の溶媒で溶解あるいは分散させた高分子電解質溶液あるいは高分子電解質分散液で用いることは、取り扱いが容易であるので好ましい。その高分子電解質の濃度は、1wt%以上、90wt%以下であること、さらに1wt%以上、75wt%以下、とくに、1wt%以上、50wt%以下であることは取り扱いが容易であることから好ましい。
【0078】
濃度が薄いと触媒層形成材料の粘度が小さいので、触媒層の形成が困難であり、濃度が濃いと触媒層形成材料の粘度が大きいので、触媒層の形成が困難である傾向がある。前記高分子電解質を溶解させる溶液としては、特に限定されないが、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、NMP、あるいはジメチルスルホキシド等の溶媒で溶解あるいは分散させることが好ましい。
【0079】
本発明の触媒層バインダーを用いた触媒層形成方法は、従来公知の方法が適応できるが、この方法の例は後述の膜−電極接合体の説明において詳細に説明する。
【0080】
<2−3.本発明にかかる膜/電極接合体、燃料電池>
本発明にかかる高分子電解質は、例えば、膜/電極接合体(以下、「MEA」と表記することがある)にも用いることができる。かかるMEAを用いた燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池等にも用いることができる。
【0081】
本願発明の高分子電解質、高分子電解質からなるMEAは高温低加湿での優れたプロトン伝導性、酸化条件における優れた耐久性を有するので燃料電池に用いることにより高い発電特性を発現することが可能である。
【0082】
次に、本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態では、固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明するが、直接メタノール形燃料電池についても、固体高分子形燃料電池と同様に実施可能である。
【0083】
図1は、本実施の形態にかかる高分子電解質を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10は、高分子電解質膜1、触媒層2・2、拡散層3・3、セパレーター4・4を備えている。
【0084】
高分子電解質膜1は、固体高分子形燃料電池10のセルの略中心部に位置している。触媒層2は、高分子電解質膜1に接触するように設けられている。拡散層3は、触媒層2に隣接して設けられており、さらにその外側にセパレーター4が配置されている。セパレーター4には、燃料ガスまたは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための流路5が形成されている。これらの部材は、固体高分子形燃料電池10のセルとして構成されていると換言できる。
【0085】
一般的に、高分子電解質膜1に触媒層2を接合したものや、高分子電解質膜1に触媒層2と拡散層3を接合したものは、膜/電極接合体(本明細中では「MEA」とも表記)といわれ、固体高分子形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の基本部材として使用される。
【0086】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0087】
MEAの具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0088】
触媒層2の形成は、触媒層バインダーとして用いられる高分子電解質の溶液あるいは分散液に、触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をPTFEなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を高分子電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、高分子電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2が形成されたMEAが作製できる。
【0089】
また、上記分散溶液を、コーターなどを用いて拡散層3上に流延して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、高分子電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成されたMEAが製造できる。なお、上記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を用いることもできる。
【0090】
上記高分子電解質の溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)やスルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などが使用できる。
【0091】
上記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。
【0092】
金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。
【0093】
上記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで流延したりしやすい粘度に調整するため、水や有機溶媒で適宜希釈しても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与する目的で、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。
【0094】
上記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、高分子電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。
【0095】
高分子電解質膜1と触媒層2を加熱・加圧条件下でホットプレスする条件は、使用する高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の種類に応じて適宜設定する必要がある。上記条件としては、一般的に高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の熱劣化や熱分解温度以下であって、さらには高分子電解質膜1および触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度条件下であることが好ましい。
【0096】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下の範囲であることが、高分子電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。特にMEAが高分子電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0097】
上記のような方法で得られたMEAを、燃料ガスまたは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10が得られる。
【0098】
上記セパレーター4としては導電性材料を用いれば良く、具体的にはカーボングラファイトやステンレス鋼をあげることができる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0099】
上記の固体高分子形燃料電池10に対して、燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ個別の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として、例えば、含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール形燃料電池となる。つまり、固体高分子形燃料電池10について例示した上記実施形態は、そのまま直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池についても適用可能といえる。
【0100】
なお、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成し使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0101】
なお、上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質は、固体高分子形燃料電池や直接メタノール形燃料電池の電解質として、使用可能である。これらの公知の特許文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質を用いて容易に固体高分子形燃料電池や直接メタノール形燃料電池を構成することができる。
【0102】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な形態が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0104】
<合成例1>
(テトラフェニルビスフェノールAを用いた、テレケリック型ポリパラ−2,6ジフェニルフェニレンオキシド(以下PPPO)の合成)
ナスフラスコに1,2−ジクロロベンゼン(110ml)と臭化銅(6.8g)とN,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン(5.5g)を混合し、室温で15分撹拌した。続いて酸素気流下でテトラフェニルビスフェノールA(11.5g)を加えて80℃に加熱し、30分撹拌した。そこへ2,6−ジフェニルフェノール(53.2g)の1,2−ジクロロベンゼン(100ml)溶液を滴下し80℃で5時間反応させた。
【0105】
反応終了後、室温まで冷却し、反応液を濃塩酸(40ml)と次亜リン酸(40ml)を加えて撹拌し、その後水を加えて水相を除き、有機相を水洗、有機相に炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて撹拌後、水相を除き、有機相を2度水洗し、有機相をメタノール(1500ml)中に滴下した。沈殿したポリマーを濾別し80℃で24時間減圧乾燥後、淡黄色ポリマーを54g(Mn=5900)得た(以下PPPO1と略す)。
【0106】
(両末端ヒドロキシ基を有するポリエーテルスルホン(以下PES)の合成)
窒素を満たしたナスフラスコにビスフェノールS(7.1g)とジフルオロジフェニルスルホン(7.1g)と炭酸カリウム(5.9g)とDMI(30ml)を混合し、撹拌しながら200℃に加熱した。8時間後、室温まで冷却し、水に析出させミキサーで粉砕後、水洗を行い、ジクロロメタンに溶解させ、再度メタノールに析出させた。固体を濾過し60℃24時間乾燥を行い、白色固体12.2g(Mn=10800)を得た(以下PES1と略す)。
【0107】
(テレケリックPPPOポリマー末端のデカフルオロビフェニル修飾)
合成例1で得られたテレケリックPPPOポリマーPPPO1(13.5g)とデカフルオロビフェニル(10.6g)と炭酸カリウム(1.0g)とDMI140mlを混合し、窒素下180℃で6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し水へ析出させた。ミキサーで固体を粉砕し濾過後、乾燥を行い淡黄色固体12.8gを得た。生成物は1H−NMRにて末端修飾反応の完了を確認し、19F−NMRにて原料のデカフルオロビフェニルの除去を確認した。得られたポリマーを以下FPPPO1と略す。
【0108】
(ブロック型高分子電解質膜の合成)
PES1(4.0g)と炭酸カリウム(0.1g)をDMI(15ml)と混合し、窒素下で140℃で2時間加熱撹拌し、FPPPO1(1.9g)を追加し、140℃で2時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却し水へ加えて固体を析出させた。ミキサーで粉砕し、濾過を行い乾燥後、淡黄色固体(5.4g)を得た。得られたポリマーの分子量はMn=35000、Mw=110000、Mw/Mn=3.14であった。
【0109】
続いて得られたポリマー(5.0g)をジクロロメタン50mlに溶解し、フラスコを水冷しながらクロロスルホン酸(24.0g)を溶かしたジクロロメタン30mlの溶液に滴下した。30分後に上澄みを除き、析出固体をジクロロメタンで2度洗浄した。その後水を加えて白色固体を得た。白色固体をミキサーで粉砕し、濾過をした。このとき濾液のpHがほぼ中性になるまで水洗した。残渣を乾燥し淡黄色固体4.4gを得た。得られた固体1gをDMSOに溶解した後、溶液をガラス板上に流延塗布し、60℃にて15時間真空乾燥した後、更に120℃にて18時間真空乾燥した。以上により、合成例1のブロック型高分子電解質膜を得た。
【0110】
NMRより、合成例1のブロック型高分子電解質膜は、PPPO部分が選択的にスルホン化された構造であることが分かった。また、PESとFPPPOに仕込み比、後述の膜のイオン交換容量とから、繰り返し単位あたりのスルホン酸基が約1.7個であり、スルホン酸基を持つブロックのイオン交換容量が約4.5meq./gであることが分かった。また、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックは全体の31mol%であった。
【0111】
<実施例1>
合成例1で得た、ブロック型高分子電解質膜を、硝酸セリウム水溶液(2重量%)に室温にて2時間浸漬した。取り出し後、表面を軽く純粋で洗浄した後60℃にて15時間真空乾燥し、実施例1の高分子電解質膜を得た。下記方法で、イオン交換容量、プロトン伝導度(85℃60%RH)、耐酸化性を評価した。またイオン交換をしていない合成例1の高分子電解質膜のイオン交換容量との比較より、水素イオンの交換割合を計算した。これらの結果を表1に示す。
【0112】
<実施例2>
硝酸セリウム水溶液への浸漬時間を24時間とした以外は(実施例1)と同様の方法で実施例2の高分子電解質膜を得た。実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0113】
<実施例3>
硝酸セリウム水溶液を硝酸マンガン水溶液とした以外は(実施例1)と同様の方法で実施例3の高分子電解質膜を得た。実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0114】
<実施例4>
硝酸マンガン水溶液への浸漬時間を24時間とした以外は(実施例3)と同様の方法で実施例4の高分子電解質膜を得た。実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0115】
<比較例1>
合成例1で得たブロック型高分子電解質膜をそのまま用いた。実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0116】
[イオン交換容量の測定方法]
対象となるサンプル(十分に乾燥のち秤量、約50mg)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。25℃まで冷却し、次いで膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定した。
【0117】
イオン交換容量は下記式
サンプルのイオン交換容量[meq./g]=0.01×滴定量[ml]÷サンプル重さ[mg]×1000
により算出した。
【0118】
[プロトン伝導度の測定方法]
イオン交換水中に保管した高分子電解質膜(約10mm×40mm)を取り出し、高分子電解質膜表面の水をろ紙で拭き取った。2極非密閉系のポリテトラフルオロエチレン製のセルに高分子電解質膜を設置し、さらに白金電極を電極間距離30mmとなるように、膜表面(同一側)に設置した。セルを恒温恒湿オーブン内に設置し、85℃60%RHの条件で約2.5時間保持した。この状態での膜抵抗を、交流インピーダンス法(周波数:42Hz〜5MHz、印可電圧:0.2V、日置電機製LCRメーター 3531Z HITESTER)により測定し、プロトン伝導度を算出した。
【0119】
[耐酸化性の評価方法]
対象となるサンプル(十分に乾燥のち秤量、約50mg)を、あらかじめ重量を測定しておいた後、過酸化水素水溶液(2重量%)約200ccに60℃で24時間浸漬した。回収物を軽く水で洗浄した後、十分に乾燥し重量を測定した。試験前後の重量より、残存率を計算した。
【0120】
評価結果を表1に示す。表1から、本発明の電解質膜は85℃60%RHでの高温低加湿条件において、比較例とほぼ同等の優れたプロトン伝導度を持ち、なおかつ耐酸化性の試験において、比較例が回収不可となるほどの劣化を示しているのに対し、残存率が30%以上と優れた特性を示した。以上より、本発明の高分子電解質は固体高分子形燃料電池の材料として有用であることが示された。
【0121】
【表1】

【符号の説明】
【0122】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
10 固体高分子形燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックと、繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックからなり、スルホン酸基の水素イオンの一部が多価遷移金属イオンに交換されている高分子電解質。
【請求項2】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックのイオン交換容量が、3.0meq./g以上であり、かつ高分子電解質のイオン交換容量が1.2〜2.5meq./gの範囲である、請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
多価遷移金属イオンが、セリウムイオンおよび/またはマンガンイオンを含む、請求項1または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックのスルホン酸基の水素イオンの、3〜30mol%が多価遷移金属イオンに交換されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【請求項5】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックが、下記一般式(1)および/または一般式(2)で示される繰り返し単位にスルホン酸基が導入されている構造を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【化1】

(一般式(1)中、Xは連結基を示し、ブロック中複数有るXは同じでも異なっていても良い。Rはアルキル基あるいはフェニル基を示し、一つのベンゼン環に導入されているRの数は0〜4であり、ブロック中複数有るRは同じでも異なっていても良い。)
【化2】

(一般式(2)中、X1、X2は連結基を示し、ブロック中複数有るX1とX2は同じでも異なっていても良い。Ar1、Ar2はアリール基を示し、ブロック中複数有るAr1とAr2は同じでも異なっていても良い。)
【請求項6】
一般式(1)で示される繰り返し単位において、Xが酸素であり、かつ/または一般式(2)で示される繰り返し単位において、X1および/またはX2が酸素である、請求項5に記載の高分子電解質。
【請求項7】
一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar1が下記化学式群(3)より選択される少なくとも一つである、請求項5または6に記載の高分子電解質。
【化3】

【請求項8】
一般式(2)で示される繰り返し単位において、Ar2が下記化学式群(4)より選択される少なくとも一つである、請求項5〜7のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【化4】

【請求項9】
一般式(2)で示される繰り返し単位が、下記式(5)である、請求項5に記載の高分子電解質。
【化5】

【請求項10】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均1個以上であるブロックが、下記式群(4)で示される繰り返し単位からなる構造を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【化6】

【請求項11】
繰り返し単位に有するスルホン酸基が平均0.1個以下であるブロックが、下記式(6)で示される繰り返し単位からなる構造を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の高分子電解質。
【化7】

【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の高分子電解質を含む、燃料電池用電解質。
【請求項13】
請求項12記載の燃料電池用電解質を含む、燃料電池用電解質膜。
【請求項14】
請求項12記載の燃料電池用電解質を含む、燃料電池用電極形成材料。
【請求項15】
請求項14記載の燃料電池用電極形成材料を含む燃料電池用電極。
【請求項16】
燃料電池用電解質膜と燃料電池用電極との接合体であって、燃料電池用電解質膜が請求項13に記載の燃料電池用電解質膜および/または、燃料電池用電極が請求項15に記載の燃料電池用電極であることを特徴とする接合体。
【請求項17】
請求項17に記載の接合体を含む燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−28990(P2011−28990A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173335(P2009−173335)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】